1 海外の情報通信 (1)米国 電気通信事業者の業界の垣根を越えた買収や合併が相次ぐ  米国は世界最大の電気通信市場である。2000年1月にFCC(Federal Communications Commission:米国連邦通信委員会)が発表したアジェンダにおいても(1)Access(接続)、(2)Broad band(広帯域)、(3)Competition(競争)、の3項目を挙げ、今後も情報通信分野の競争促進や国際通信網の拡大など世界をリードする姿勢をみせている。こうした中、米国の電気通信事業者は激しい競争を展開しており、これに対応するためにアメリカ・オンライン(AOL)とタイムワーナーのように業態の垣根を越えた大型買収や合併が相次いでいる(図表1))。  また、米国政府は情報通信政策についても以下のとおり積極的に展開している。 1)IT2(Information Technology for the 21st Century)計画  米国政府は1999年1月、2000年度予算要求に併せ、情報通信分野の研究開発計画「IT2(Information Technology for the 21st Century)」を発表した。この中で、「ITは、米国の成長のみならず、雇用創出、生産性、国際競争力強化にとって重大なインパクトがある」と位置付け、長期的なIT研究、先進的コンピューティング、IT革命の社会経済との関わり合いの研究等の実施を盛り込んでいる。 2)デジタル・ディバイドに関する商務省レポート  米国商務省は、99年7月、デジタル・ディバイド(情報格差)に関するレポート「Falling Through the Net:Defining the Digital Divide」を発表した。本レポートでは、米国国民のコンピュータやインターネットの利用が急激な伸びを示している中で、情報を持てる者と持たざる者との格差が広がりつつある状況を米国の4万8,000世帯を対象に人種、所得、学歴、居住地域別に電話、コンピュータの保有、インターネットアクセスについて分析・指摘している(図表2))。  こうした中、クリントン大統領は、2000年1月に行なった一般教書演説で、社会経済のデジタル化に伴う「デジタル・ディバイド」の解消を行なうことを強調し、対応措置として、新しく採用する教師には、コンピュータやインターネットアクセスに関する技術などを身につけていることを前提条件とすることや、成人に情報技術を教育するため、全米1000か所に地域技術センターを設立することなどを提案している。 3)2000年問題訴訟制限法   2000年問題訴訟制限法が1999年7月クリントン米大統領署名の下、制定された。主な内容は、(i)2000年問題に関連した訴訟をおこす場合は最長90日の通告期間を義務付け、企業に問題解決の時間を与える、(ii)被告が、個人や従業員数50人未満の中小企業の場合は、賠償金の上限を実際の損害額の3倍または25万ドル(約3000万円)の少ない方とする、(iii)和解による解決を奨励し、集団訴訟は制限する、(iv)2003年1月1日までの時限立法、となっている。 4)電子署名法  1999年11月には、「電子署名に通常の署名と同等の法的効力を与える電子署名法案」が、米国上院及び下院の両院で可決された。なお、上院の法案が契約に関する署名のみにおいて、デジタル署名に手書き署名と同等の効力を与えるものであるのに対し、下院の法案は、上院の法案の趣旨に加え、デジタル署名により例えば消費者が委任状なしでも税金明細書の請求をすることを可能とするなど、広い範囲でデジタル署名の効力を認めることとしているものであり、両院の案の調整を図ることが課題となっている。 5)暗号技術管理の規制緩和  商務省は、2000年1月、暗号技術製品の輸出に関する規制緩和を発表した。  内容としては、これまで56ビット以上の暗号技術製品を輸出する場合には、政府の許可が必要とされてきたが、今後は原則として、あらゆる強度の暗号技術製品を一般企業、個人などの非政府系ユーザーに対して政府の許可なしに輸出することができることとなった。ただし、7か国(イラン、イラク、リビア、シリア、スーダン、北朝鮮、キューバ)については、ビット長にかかわらず暗号技術製品の輸出規制を継続することとしている。 6)21世紀に向けたサイバーセキュリティ  クリントン大統領は、2000年1月「情報システム防衛計画」の実施と、社会インフラやコンピュータシステム、ネットワークへの脅威に対する防衛強化のための新たな予算案を発表した。米国経済にとって最も重要な分野である電力、電気通信、銀行及び金融、交通、エマージェンシーサービスについては、ハッカーやテロリスト等から破壊的な攻撃を受ける恐れがあることから、これらの社会インフラ防衛のため、2001年度の予算に過去3年に比べて16%増の20.3億ドルを割り当てることを提案している。また、この「情報システム防衛計画」は、バージョン・ワンとも呼ばれ、政府を情報セキュリティのモデルとすること及び米国のインフラを防御するために官民の連携関係を築くことを目指している(図表3))。