長期増分費用についての意見書 欧州ビジネス協会(EBC)情報通信委員会は、日本の相互接続料について、長期増分費用方式に基づくモデル開発に対する郵政省のご尽力に深謝致します。9月21日に公表された長期増分費用モデル研究会による算定モデルについて、その全体的な方向性は正当であると私どもは評価しております。 日本の相互接続料金を更に下げることは、競争を促進し、あらゆる産業の競争力を高めることになり、結果として消費者にも経済界にも恩恵をもたらすことになります。 欧州の電気通信事業者は、郵政省の長期増分費用モデルには改善すべき余地が若干残っていると考えております。 ・ NTTが加入者基本料金を値上げする必要はない 主要な現状の事実と国際標準を考慮に入れた上で、モデルおよび入力されるデータが更に改善されたとしても、NTTが毎月の加入者基本料金を値上げする必要性はありません。これらは、交換機コストに含まれており、加入者回線コストには帰属しておりません。さらにNTTの減価償却の設定期間は他の先進国の標準と比べ、はるかに短期間となっております。 NTTの現在の市内回線網には、き線点RTの数は、今回の長期増分費用方式モデルが根拠しているほど多くき線点RTの数はありません。従って、長期増分費用方式モデルは結果として利用者の料金値上げの原因となるものではありません。また、今回の長期増分費用方式モデルは、国際標準と比べて非常に高価な(少なくとも英国の二倍の)7万2,000円の施設設置負担金を計算に入れるようになっていません。実際には、この費用はユーザーが加入者線コストの一部として負担しているのが現実です。したがって長期増分費用モデルの加入者線コストから、施設設置負担金相当額を控除する必要があります。そうでなければNTT市内回線設置費用を二重に回収することになります。 ・ トラヒック量に左右されない費用項目を入れることは国際標準に合致しない 郵政省作成モデルの単位原価を国際比較すると、市内交換ユニットの単位原価は非常に高くなっています。これは次の理由によるものです。 ・ トラヒック量によって増減することのないコストを含んでいること。これはコストの因果関係(Cost Causality)の原則に反していると同時に、世界各国の国際的慣例にも反している。 ・ 伝送設備の一部が、高価で不適当な技術に基づいて計算されている。 トラヒック量によって増減することとのないコストを市内交換のコストに入れるべきではない、とEBCは考えます。どの市場においても、トラヒック量に左右されない市内交換コストの要素は多数存在します。これらは相互接続サービスのコスト・ベース、あるいは相互接続サービスの増分費用に含めるべきではありません。市内回線費用を、トラヒック量で増減する費用と増減しない費用とに分類する原則を採用しなければ、日本は「特殊な国」になりかねません。算定モデルが増分費用を正しく反映するよう、遠隔収容装置のコストは、相互接続に関連するトラヒック量によって増減する費用として除外されるべきです。 したがってEBCでは、トラヒック量によって増減の生じるコストを勘案しない貴省のモデル−すなわちケースBを推奨いたします。 ・ 長期増分費用方式は市場に正しい方向性を示すべきだ 長期増分費用には効率性の高い事業者の費用が反映されるべきであり、長期増分費用方式に基づいて相互接続料金を設定する目的は、市場に正しい方向性を示し、コストの分配でも生産性についても効率向上を促すことにあります。相互接続料金の原則はコストとの因果性(Cost Casuation)です。電気通信に精通した経済専門家は、長期増分費用方式に基づく料金は正しい方向性を示すべきだと言う点で一致しています。今回のモデルによる計算結果が低かったと言うことは、NTTがそれだけ非効率であることを意味します。NTTの費用が効率性の高い事業者よりもはるかに高い場合、長期増分費用方式に基づいて相互接続料を設定すれば、NTTの効率向上を促すことになります。これは日本経済全体の利益になると同時にNTT自身にも利益になることです。NTTが非効率なために発生する負担を新規参入事業者にも押し付けることがあってはなりません。高い相互接続料金は、競争を抑圧し、市場の成長を妨げ、市場競争による利益を消費者から奪うことになります。 ・ プロセスの透明化がキー・ポイント 長期増分費用モデルの構築にあたっては、郵政省はオープンかつ透明なプロセスを採用し、提出された様々な意見をもとにモデルの改善にあたるべきです。モデルに使用したデータを1997年のものから1998年のものに更新した後で、郵政省はデータならびにモデルについて再び意見を募集する機会があると理解しています。最近始まった価格設定の審議も、同様に透明かつ一般の意見に対しオープンであるべきです。 健全な長期増分費用モデルは、競争を促進し、市場を成長させる上で、不可欠のものです。欧州ビジネス協会は従って、自らの意見が郵政省の審議の際に参考にされることを希望しています。今後モデル作成の進展につれ、郵政省の審議に欧州ビジネス協会が更に協力できることを望んでいます。 以上、ご検討頂けますようどうぞよろしくお願い申し上げます。 欧州ビジネス協会(EBC)情報通信委員会