はじめに

 近年、高度情報化、少子・高齢化、グローバル化等の急速な進展、及び規制緩和
等社会経済構造改革の推進により、国民生活を取り巻く環境はますます複雑・多様
化している。一方、郵便局を通じて提供する郵便・貯金・保険・公的窓口サービス
並びに行政として所管する情報通信は、国民生活に極めて密着したものであり、経
済・社会等を支える基盤ともなっている。21世紀の社会を展望したとき、国民が
豊かで安心して暮らせる生活を実現する上で、郵政行政が果たすべき公共的・社会
的役割は一層重要なものとなっている。

 郵政省においては、昨年6月に郵政審議会、電気通信審議会から答申された「郵
便局ビジョン2010」、「情報通信21世紀ビジョン」の提言を踏まえつつ、郵
政事業の改革・改善と情報通信行政の適切な推進に取り組んでいる。しかしなが
ら、21世紀に向けて社会経済環境の変化が今後ますます加速し、国民の消費生活
に利便性とともに様々なひずみをもたらす懸念があることから、郵政行政の展開に
当たっては、従来にも増して消費者・生活者重視の視点に立った消費者政策への取
組みが求められる。

 こうしたことから、郵政省の今後の消費者政策の充実・強化を図ることを目的と
して、「消費者政策懇談会」を開催し、問題点の把握、改善策の検討を行い、懇談
会としての提言を取りまとめた。



I 社会経済環境の変化と郵政省の消費者政策の基本的視点


1 社会経済環境の変化


 (1) 社会経済構造改革の推進
 我が国は21世紀を目前に控えた現在、高度情報化、少子・高齢化、グローバル
化という大きな潮流の中で、既存の社会経済構造を改革する必要性に迫られてい
る。また、我が国経済は不良債権問題の存在、日本的な経済システムの制度疲労等
を背景に、かつてない厳しい状況に直面している。活力ある21世紀の社会を実現
するためには、資金、人材、技術等我が国の優れた経済資源を最適に活用しつつ、
柔軟で創造的な社会経済構造を構築することが必要である。そのため行政として
は、規制緩和等を通じて民間部門がその活力を発揮出来るよう競争を促進する一
方、弱者の保護に配意しつつ、適切な自己責任社会を実現するための基盤を整備し
ていくことが必要である。

 (2) 高度情報通信社会の進展と課題
 21世紀は、高度情報化が、人間を時間的、空間的制約から開放し、人間の知的
活動領域を飛躍的に向上させることが期待されている。そして、インターネットに
代表されるネットワーク融合の促進は、世界各地と瞬時に情報交換を可能とするな
ど、企業活動、国民生活、国際社会等に大きな変化をもたらしている。
 一方、情報通信の高度化は、大都市圏と地方圏でその進捗に格差が拡大しつ
つあるほか、情報化に対応できずそのメリットを享受出来ない、いわゆる「情報弱
者」の存在が顕在化してきている。このような格差を是正し、どこでも、誰でも容
易に情報にアクセスし、安心して受発信できるよう環境整備を図っていくことが必
要である。

 (3) 少子・高齢化の進展と課題
 我が国は、2025年には4人に1人が65歳以上の高齢者となるなど、世界で
も類を見ない超少子・高齢社会となることが予想される。このため、社会構成員の
適正・公平な負担のもとに高齢者が豊かで安心できる老後生活をおくれるような社
会的仕組みを構築していくことが必要である。

 (4) グローバル化の進展と課題
 情報通信や交通・輸送手段の急激な発達・高度化や自由貿易体制の整備・拡大等
により、ヒト・モノ・カネ・情報が地球規模で移動又は流通するようになり、企業
活動や企業間の競争も国を超えて行われることとなる。消費者にとっては、サービ
スの選択の範囲が拡大する一方で、自己の判断に起因するリスクは自らが負う覚悟
が必要となる。
 また、競争の進展に伴い、情報や所得等の面で持てる者と持たざる者との間の格
差の拡大が懸念される。こうした懸念を解消し、持たざる者も安心して生活できる
社会を構築していくことが必要である。

 (5) 環境問題の深刻化と課題
 大量生産・大量消費型の経済は、温暖化等地球環境問題を深刻化させている。特
に自動車の排気ガス・産業廃棄物等による環境汚染や動植物の生態系への影響、石
油・木材資源の枯渇等への懸念が増大しており、将来世代への安心のためにも、企
業、行政、消費者を巻き込んだ環境問題への取組が必要である。

 (6) 過疎・過密の進展と課題
 我が国は、地方から大都市圏に人口の流入が続き、狭い国土に極端な過疎と過密
が存在するようになっている。
 特に、地方においては、若年層を中心に人口の流出が続き、過疎化と急速な高齢
化によって地域住民の生活に大きな影響が出ている。さらに、行政機関・交通機関
の廃止・縮小や生産・流通・金融等の民間活動の後退は地域住民に大きな利便低下
をもたらしている。こうした地域格差の是正を図っていくことが必要である。


2 消費者政策充実への要請

 (1) 消費者ニーズの多様化と消費者意識の高まり
 情報化や経済社会のサービス化・ソフト化の進展は、モノからサービスへの移行
を促すとともに、各種の規制緩和の推進と合わせ、消費者の選択肢の大幅な拡大を
もたらしている。
 一方、生活水準の向上、ライフスタイルや価値観の多様化に伴い、消費者のモ
ノ・サービスに対するニーズが多様化・高度化しており、自己の個性や価値尺度に
合った消費行動を採るようになってきている。
 また、消費者の意識として、食品の安全性や健康への影響、自然環境・地球環
境の保全、製品の安全性等に対する関心が一層高まっているほか、プライバシーの
保護や企業・行政の保有する情報の開示についての関心も高まっている。
 更に、サービス取引の多様化、マルチメディアを活用した新しい取引の実
現、諸外国の多種多様な製品の増加等により消費者取引が多様化・複雑化してお
り、消費者自身もこれに対応できる能力を身につけていくことが求められている。

 (2) 規制緩和の推進と消費者の自己責任の確立
 従来、消費者保護を目的として事業者に対する規制が行われてきたが、今日、事
業者間の競争を促し、消費者ニーズに応じた多様な商品・サービスをより安価に消
費者に提供することで、消費者利益の増進を図ることを目的として、公的な規制を
緩和する動きが進んでいる。
 このような規制緩和の推進や商品・サービスの多様化・複雑化に伴い、消費者と
事業者との間の情報や交渉力の格差が顕在化するようになり、近年消費者トラブル
も急増してきている。
 そこで情報や交渉力の格差を是正し、消費者の選択の自由を確保して、多様な
商品・サービスの中から、適切な選択を行うことができるよう、消費者と事業者と
の間の市場ルールの整備とその実効性確保のための環境整備を図ることが必要とな
っている。
 製造物責任法の制定(95年)や消費者契約に関する包括的な民事ルールの
立法化の検討がこうした観点から推進されてきている。
 このような環境整備や情報の公開・提供等の推進を通じ、消費者は自立し
た選択能力の向上を図り、自らの主体的・積極的な選択に基づいて行動すること、
いわゆる自己責任の確立が一層強く求められるようになっている。

 (3) 自己責任社会において弱い立場にある消費者への支援の必要性
 21世紀の社会経済環境の変化を展望した場合、高齢者や外国人消費者の増大、
消費者の間における情報力格差の拡大、過疎化の進展等に伴い、国民の消費生活に
ひずみが拡大し、商品・サービスの選択等において通常の消費者よりも弱い立場に
おかれる消費者が増大することが予想される。
 一方、消費者は、規制緩和が進展した自己責任社会の中で、自らリスクを負い、
主体的・積極的な選択の下で消費生活を営むことが求められているため、通常の消
費者よりも弱い立場にある者に対しては、一層適切な支援を行い、国民誰もが円滑
な消費生活をおくれるようにしていくことが必要となっている。
 特に、高齢者や外国人は、消費者として商品・サービス選択の前提となる情報や
交渉力が不足し、トラブルに巻き込まれるリスクが高まっているため、こうした格
差を埋めるための支援が必要となっている。
 また、障害をもつ消費者に対しても、健常者と同様に、商品・サービスにアクセ
スできるようにするため、ノーマライゼーションの理念に沿った施策の充実が求め
られている。


3 郵政省で取り組むべき消費者政策の基本的視点

 郵政事業においては、社会経済環境の変化や消費者ニーズの多様化を踏まえつ
つ、消費者の利益に適った郵政事業サービスの改善を、より効率的な事業運営の下
で進め、情報通信行政においては、通信・放送の分野で、公正・有効な競争を確保
するための条件整備や規制緩和等を進め、消費者に低廉で多様な情報通信サービス
を提供できるようにすることにより、消費者利便の向上を図っていくことが求めら
れる。
 また、事業・行政ともに、消費者自らが自立し、自己の判断とリスクの下で適切
な消費行動が行えるよう情報提供の推進や消費者啓発の充実等を図り、これにより
適切な自己責任社会実現に向けた支援を行っていく必要がある。
 加えて、21世紀の社会の中で、国民の消費生活にひずみが拡大し、通常の消
費者よりも弱い立場にある消費者の増大が懸念されるので、消費者の不安を除去
し、誰もが等しく円滑、適切な消費生活を営むことができるよう、事業・行政とも
に積極的に安心・安全な社会づくりへの貢献を行っていく必要がある。
 こうした取組を適切に推進するためには、消費者の意見、要望、苦情等を迅
速かつ的確に吸収・把握し、速やかな措置を講ずることができるよう、消費者ニー
ズを把握するための施策を一層充実させる必要がある。

 懇談会では、今後、郵政省が取り組むべき具体的な消費者施策について、以上の
ような課題を踏まえ、(1)消費者利便の向上、(2)適切な自己責任社会実現に向けた
支援、(3)安心・安全な社会づくりへの貢献、(4)消費者ニーズの把握、の4つの基
本的な視点に分類の上、今後の在り方を議論し、以下のとおり具体的提言として取
りまとめを行った。



戻る