6.今後の取組

6−1 課題と検討の方向性


(1)職員研修プログラム等の充実
 地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ配慮の大きな課題のひとつが、人事異動によって担当職員が定期的に入れ替わり、知識や技術の継承が難しいことである。この点を補うには、新任の担当者が必要な知識を短期間に修得できる研修プログラムや教材の充実が求められる。
 現在、地方公共団体職員向けのウェブアクセシビリティに関する研修については、地方公共団体の情報化等に関する研修等を実施している財団法人地方自治情報センター(LASDEC)において、既存の研修に取り込むなどの動きが始まっているところである。具体的には、本年度セミナーにおいてウェブアクセシビリティに関する内容が盛り込まれ、また、月刊誌では「Webアクセシビリティ&ユーザビリティ講座」の連載が行われているところであり、今後も積極的なウェブアクセシビリティに関する研修の実施に期待したい。
 将来的には、eラーニングプログラムとしてオンラインで提供するなど、地方公共団体の職員が必要に応じていつでも利用できる環境があればより効果的であろう。
 加えて、ウェブアクセシビリティを担当する職員が最新の技術情報の入手や知識や経験の共有・蓄積が可能となるよう、情報共有の仕組みを用意することも有効であろう。

(2)関係者のウェブアクセシビリティスキル評価手法の整備
 ホームページのリニューアル等では多くの場合、制作を外部業者に発注するが、制作業者のアクセシビリティに関する知識や技術レベルが事前に発注側で把握しにくいという課題がある。この課題に対しては、「みんなの公共サイト運用モデル」における各種ワークシート(基本検討シート、対応方針回答シート、詳細検討シート、実施内容確認シート)を活用することはもちろんだが、それに加えて、制作業者の技術者向けにウェブアクセシビリティに関する認定試験が行われ、ウェブアクセシビリティに関する知識・技術レベルの認定等が実施されることにより、さらに客観的に制作業者のアクセシビリティに関する知識や技術レベルを把握することが可能となるであろう。

(3)共通基盤・リソースの整備
 ウェブアクセシビリティの確保のためには、共通の基盤やリソースが整備されていたほうが、コスト面で、より効率的に対処できることから、将来的にはこのような共通の基盤やリソースが整備されることが望まれる。
 例えば、ホームページ作成の際のひな型(テンプレート)がウェブアクセシビリティの観点から十分に検討し設計されている場合、そのテンプレートを使って作られる実際のウェブページについても、容易にウェブアクセシビリティを維持することが可能となる。大規模で財政的に余力のある地方公共団体では、その地方公共団体独自のテンプレートをホームページ・リニューアルの受注業者に作成させることができるだろうが、中小規模の地方公共団体等も考えると、既成の安価なテンプレートが用意されていたほうが、よりウェブアクセシビリティ対応の敷居が低くなるだろう。

(4)障害者・高齢者を含めたウェブアクセシビリティ評価環境の整備
 ウェブアクセシビリティ対応において、障害者・高齢者の参加を得ることは特に重要だが、適切な障害者・高齢者モニターを見つけることが難しい場合も多い。
 現在、障害者のICT利活用を支援するための施設として、厚生労働省の支援を受けて、全国的に視聴覚障害者情報提供施設や障害者ITサポートセンターの整備が進められている。これらの施設で実施している事業は様々であるものの、多くの施設で障害者モニターの紹介が可能であり、また、現在可能でない施設についても、今後可能となることが期待されている。
 また、今後は、様々な条件や経験を持つ障害者・高齢者モニターを登録し、障害者・高齢者が地域内の地方公共団体のウェブアクセシビリティの評価に活躍できるような環境が整うことも期待される。

(5)ウェブアクセシビリティや業務プロセスの定期評価手法の検討
 「みんなの公共サイト運用モデル」のPDCAサイクルのうちCHECKプロセスでは、アクセシビリティ定期評価や、ウェブアクセシビリティ維持・向上のための業務プロセスの定期評価を行う必要がある。これに対して、本研究会ではその大枠を検討し本報告書に示した。
 今後、中長期的には、ウェブアクセシビリティに関する適切な指標を設定し自動チェックツール等を用いた効率的な評価手法や、ウェブアクセシビリティ水準を適切に定量化(ベンチマーク)する手法、業務プロセスの評価項目や業務見直し内容の導き方等適切な業務プロセス評価手法等についても検討を進めていくべきであろう。

6−2 「みんなの公共サイト運用モデル」の普及

 本研究会で実施したアンケート調査でも明らかになったとおり、地方公共団体でのウェブアクセシビリティ維持・向上の取組は、昨年6月のJIS X 8341-3の制定以降、一定の広がりを見せているものの、まだまだ大きな動きにはなっていない。
 本研究会で検討した「みんなの公共サイト運用モデル」は、地方公共団体におけるウェブアクセシビリティ対応の現状と課題を踏まえて、中小の地方公共団体で実践可能なウェブアクセシビリティ維持・向上の取組モデルを示したものであり、「みんなの公共サイト運用モデル」を広く普及させることは、様々な規模の地方公共団体でのウェブアクセシビリティ維持・向上の取組を促進する上で、非常に有益である。
 今後、この「みんなの公共サイト運用モデル」の普及のため、本研究会の成果物を全地方公共団体に送付し、インターネット上でも公開することにより、地方公共団体の担当者が容易に参照できるものとすべきである。加えて、全国各地で地方公共団体の担当者向けセミナー等を開催し、「みんなの公共サイト運用モデル」の利用方法等を紹介するなどして、「みんなの公共サイト運用モデル」の積極的な活用を促すための取組を継続的に実施していくことによって、全国的にウェブアクセシビリティ維持・向上の気運を高めていくことが重要である。
 なお、今回の実証評価において、地方公共団体の担当者は、高齢者や障害者が一体どのようにしてホームページ等を利用しているのか、実際に見たことがなかったが、ユーザー評価によって高齢者や障害者の利用シーンを実際に見ることで、ウェブアクセシビリティ維持・向上の取組の必要性を強く実感することができた。こうしたことを踏まえると、今後の「みんなの公共サイト運用モデル」の普及に向けた取組の過程において、高齢者や障害者の方々が実際にホームページ等を利用しているシーンを映像等で紹介することは、地方公共団体の担当者の意識を大いに高める効果があることが期待できるだろう。