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3 最近の地方財政の動向と課題

(1) 三位一体の改革

 現在の地方財政の構造は、地方公共団体が行政サービスの提供主体として大きな役割を果たしている反面、地方税収入の構成比は3割強にとどまっており、平成15年度決算においては国庫支出金や地方債への依存度が高まっている。今後、地方分権の更なる推進を図るためには、地方公共団体の安定的な財政運営に必要な一般財源を中心とした歳入体系を構築するとともに、地方歳出に対する法令基準や国庫補助負担制度を通じた国の関与の廃止・縮減を進め、歳入・歳出の両面において、地方の自由度を高め、地方の自立に向けた構造改革の実現に取り組む必要がある。

 このうち歳入面については、地方における歳出規模と地方税収入との乖離をできるだけ縮小するという観点に立って、自主財源である地方税を基本としつつ、国からの財源への依存度合いをできるだけ縮小し、より自立的な財政運営を行えるようにすることが望ましい。このことは、地域における行政サービスによる受益と負担の対応関係のより一層の明確化と国・地方を通じる行政改革や財政構造改革の推進にもつながるものと考えられる。

 このような地方の自立に向けた構造改革を推進するためには、国庫補助負担金、税源移譲を含む税源配分のあり方、地方交付税を相互に関連付けつつ検討し、これらを一体的に見直すことが必要である。この「三位一体の改革」は、地方分権の理念を踏まえ、地方の自主財源を充実し、地方の創意工夫と責任に基づく政策決定を進め、地域の真の自立を目指すものである。

(ア) 改革の経緯

 三位一体の改革の趣旨については、「基本方針2002」において、「国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討し、それらの望ましい姿とそこに至る具体的な改革工程を含む改革案を、今後一年以内を目途にとりまとめる。」とされたことを受け、「基本方針2003」において、改革によって達成されるべき「望ましい姿」と具体的な改革工程という形で、おおむね次のとおり示された。

(a) 達成されるべき「望ましい姿」

(i) 地方の一般財源の割合の引上げ

 地方税の充実確保を図るとともに、社会保障関係費の抑制に努めるなど、地方財政における国庫補助負担金への依存を抑制することにより、地方の一般財源の割合を着実に引き上げる。

(ii) 地方税の充実、交付税への依存の引下げ

 税源移譲等による地方税の充実確保、地方歳出の徹底した見直しによる交付税総額の抑制等により、地方交付税への依存を低下させる。この結果、不交付団体(市町村)の人口の割合を大幅に高めることを目指す。また、課税自主権の拡大を図ることにより、地方公共団体や住民の自立意識の更なる向上を目指していく。

(iii) 効率的で小さな政府の実現

 「改革と展望」の方針に沿って歳出構造改革を行うことに加え、改革により真に地方にとって効果・効率の高い選択を行うことを可能にすることを通じて、「効率的で小さな政府」を実現する。また、国・地方を通じた歳出の徹底した見直しを行うなど財政健全化を図ることにより、プライマリーバランスを黒字化し、更に地方財源不足を解消することを目指す。

(b) 具体的な改革工程

(i) 国庫補助負担金の改革

 地方の権限と責任を大幅に拡大するとともに、国・地方を通じた行政のスリム化を図る観点から、「自助と自律」にふさわしい国と地方の役割分担に応じた事務事業及び国庫補助負担金のあり方の抜本的な見直しを行う。このため、「改革と展望」の期間において、概ね4兆円程度を目途に廃止、縮減等の改革を行う。

(ii) 税源移譲を含む税源配分の見直し

 「改革と展望」の期間中に、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、税源移譲する。その際、税源移譲は基幹税の充実を基本に行う。税源移譲に当たっては、個別事業の見直し・精査を行い、補助金の性格等を勘案しつつ8割程度を目安として移譲し、義務的な事業については徹底的な効率化を図った上でその所要の全額を移譲する。

(iii) 地方交付税の改革

 国の歳出の徹底的な見直しと歩調を合わせつつ、「改革と展望」の期間中に、国庫補助負担金の廃止・縮減による補助事業の抑制、地方財政計画計上人員を4万人以上純減、投資的経費(単独事業費)を平成2〜3年度の水準を目安に抑制、一般行政経費等(単独事業費)を現在の水準以下に抑制等の措置により、地方財政計画の歳出を徹底的に見直す。これにより、地方交付税総額を抑制し、財源保障機能を縮小していく。この場合、歳入・歳出の両面における地方公共団体の自助努力を促していくことを進める。また、国の関与の廃止・縮小に対応した算定方法の簡素化及び段階補正の見直しを更に進めていく。

(イ) 平成16年度における改革の姿

 平成16年度においては、約1兆300億円の地方公共団体向けの国庫補助負担金の改革を実施するとともに、地方の歳出の徹底的な抑制を図り、地方財政計画の歳出を前年度と比べて1兆5,438億円抑制することにより地方交付税総額を減額することとした。また、平成18年度までに所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施することとし、当面の措置として所得譲与税を創設し、4,249億円の税源を移譲することとした。なお、義務教育費国庫負担金及び公立養護学校教育費国庫負担金のうち退職手当及び児童手当に係る部分(2,309億円)については、暫定的に一般財源化を行うこととし、税源移譲予定特例交付金を設け、地方の財政運営に支障が生じないよう財源措置を講じることとした。

(ウ) その後の改革の経過

 平成16年6月4日に閣議決定された「基本方針2004」においては、「基本方針2003」に掲げられた基本的な方向に沿って、三位一体の改革に関する政府・与党協議会の合意(平成15年12月)を踏まえつつ、着実に改革を推進していくこととされている。同方針においては、以下の具体的指針が示されている。

・地方が自らの支出を自らの権限、責任、財源で賄う割合を増やすとともに、国と地方を通じた簡素で効率的な行財政システムの構築につながるよう、平成18年度までの三位一体の改革の全体像を平成16年秋に明らかにし、年内に決定する。その際、地方の意見に十分耳を傾けるとともに、国民への分かり易い説明に配意する。

・全体像には、平成17年度及び平成18年度に行う3兆円程度の国庫補助負担金改革の工程表、税源移譲の内容及び交付税改革の方向を一体的に盛り込む。

 そのため、税源移譲は概ね3兆円規模を目指す。その前提として地方公共団体に対して、国庫補助負担金改革の具体案を取りまとめるよう要請し、これを踏まえ検討する。

・国庫補助負担金の改革については、税源移譲に結び付く改革、地方の裁量度を高め自主性を大幅に拡大する改革を実施する。併せて、国・地方を通じた行政のスリム化の改革を推進する。その際、国の関与・規制の見直しを一体的に行うことが重要である。

・税源移譲については、三位一体改革の一環として、平成18年度までに、所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実施する。その際、応益性や偏在度の縮小といった観点を踏まえ、個人住民税所得割の税率をフラット化する方向で検討を行う。あわせて、国・地方を通じた個人所得課税の抜本的見直しを行う。

・地方交付税については、地方公共団体の改革意欲を削がないよう、国の歳出の見直しと歩調を合わせて、地方の歳出を見直し、抑制する。一方、地域において必要な行政課題に対しては、適切に財源措置を行う。これらにより、地方公共団体の安定的な財政運営に必要な一般財源の総額を確保する。また、地方公共団体の効率的な行財政運営を促進するよう、地方交付税の算定の見直しを検討する。

・財政力の弱い団体においては、税源移譲額が国庫補助負担金の廃止、縮減に伴い財源措置すべき額に満たない場合があることから、実態を踏まえつつ、地方交付税の算定等を通じて適切に対応する。

・地方の財政状況について、国民への迅速で分かり易い説明に一層配意する。

 これらの指針に基づき、平成16年6月9日、政府は「平成17年度及び平成18年度に行う3兆円程度の国庫補助負担金改革の工程表」の作成に当たり、地方六団体(全国知事会、全国都道府県議会議長会、全国市長会、全国市議会議長会、全国町村会及び全国町村議会議長会)に具体案の取りまとめを要請した。これを受け、地方六団体は、平成16年8月24日、「国庫補助負担金等に関する改革案」を取りまとめ、政府に提出した。

 具体的には、平成17年度及び平成18年度における国庫補助負担金等の改革については、移譲対象補助金を3.2兆円、税源移譲額を3兆円程度(ただし、平成16年度削減に見合う税源移譲は別途措置)とすることを提案した。併せて、税源移譲の方法として、個人住民税の10%比例税率化により所得税から個人住民税へ3兆円程度移譲するとともに、税源移譲が行われても移譲額が国庫補助負担金の廃止に伴い財源措置すべき額に満たない地方公共団体については、地方交付税の算定等を通じて確実に財源措置を行う必要がある旨を提唱した。

 これらの提案を受けた政府は、地方からの要請を真摯に受け止め、関係大臣及び地方六団体が議論を行う「国と地方の協議の場」を設け、平成16年9月14日から12月24日の間に、8回にわたり協議を開催した。

 このような経緯を経て、平成16年11月26日、政府及び与党は、地方六団体の提案を真摯に受け止めることを基本としつつ、平成18年度までの三位一体の改革の全体像について合意(「三位一体の改革について」平成16年11月26日政府・与党。以下「全体像に関する政府・与党合意」という。)に達し、当該合意に基づき以下のとおり平成17年度及び平成18年度における具体的な改革の姿が明らかになった。

(エ) 平成18年度までの改革の全体像

(i) 国庫補助負担金の改革

 「基本方針2004」及び全体像に関する政府・与党合意においては、平成17年度及び平成18年度に地方公共団体に対する国庫補助負担金について3兆円程度の廃止・縮減等の改革を実施することとされている。

 このうち、義務教育費国庫負担金については、「8,500億円程度の減額(暫定)」とされている。併せて、義務教育制度については、「その根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する。その方針の下、費用負担についての地方案を活かす方策を検討し、また教育水準の維持向上を含む義務教育の在り方について幅広く検討する。こうした問題については、平成17年秋までに中央教育審議会において結論を得る」こととされている。

 一方、国民健康保険については、地方への権限移譲を前提に、都道府県負担を導入することとされている。国の関与の必要のない小規模事業等については廃止・縮減等を行い、公共投資関係の補助金の交付金化については、省庁の枠を越えて一本化するなど、地方の自主性・裁量性を格段に向上させることとされている。

 さらに、国庫補助負担金の廃止・縮減によって地方に移譲された事務事業については、地方公共団体の裁量を活かしながら、確実に執行されることを担保する仕組みを検討することが定められている。

 なお、平成17年中に、「(1)生活保護・児童扶養手当に関する負担金の改革 (2)公立文教施設等、建設国債対象経費である施設費の取扱い (3)その他」について検討を行い、結論を得ることとされている。

(ii) 税源移譲を含む税源配分の見直し

 税源移譲については、平成16年度に所得譲与税及び税源移譲予定特例交付金として措置した額を含め、概ね3兆円規模を目指すこととされている。この税源移譲は、平成18年度税制改正において、所得税から個人住民税への本格的な税源移譲を実現することとしている(この措置は平成18年度税制改正により、平成19年分所得税及び平成19年度分個人住民税から適用することとし、平成18年度の税源移譲は所得譲与税で対応する)。これは、個人住民税所得割の税率をフラット化することを基本として実施し、併せて、国・地方を通じる個人所得課税のあり方の見直しを行うこととされている。

(iii) 地方交付税の改革

 地方交付税については、平成17年度及び平成18年度は、地域において必要な行政課題に対しては適切に財源措置を行うなど「基本方針2004」を遵守することとし、地方公共団体の安定的な財政運営に必要な地方交付税、地方税などの一般財源の総額を確保することとされている。あわせて、2010年代初頭における基礎的財政収支の黒字化を目指して、国・地方の双方が納得できる形で歳出削減に引き続き努め、平成17年度以降も地方財政計画の合理化、透明化を進めることとされている。加えて、税源移譲に伴う財政力格差が拡大しないようにしつつ、円滑な財政運営、制度の移行を確保するため、税源移譲に伴う増収分を当面基準財政収入額に100%算入することとされている。また、決算を早期に国民に分かりやすく開示するとともに、平成17年度以降、地方財政計画の計画と決算の乖離を是正し、適正計上を行い、そのうえで中期地方財政ビジョンを策定することとされている。さらに、不交付団体(人口)の割合の拡大に向けた改革を検討するとともに、引き続き交付税の算定方法の簡素化、透明化に取り組み、また算定プロセスに地方関係団体の参画を図ることとされている。

(オ) 平成17年度における改革の姿

 以上の全体像等に基づき、平成17年度に実施することとされた改革の内容は以下のとおりである。

(i) 国庫補助負担金の改革

 国民健康保険国庫負担、養護老人ホーム等保護費負担金、公営住宅家賃対策等補助のうち公営住宅家賃収入補助分など、税源移譲に結びつく改革に係るもののうち、暫定措置とされた義務教育費国庫負担金の減額分(4,250億円)を除いた国庫補助負担金(合計6,989億円)について、平成17年度から一般財源化することとし、所要の事業費について、その全額を地方財政計画に計上するとともに、地方交付税の基準財政需要額に算入することとしている。また、この国庫補助負担金の一般財源化に伴い、税源移譲すべきものとして精査した額6,910億円を所得譲与税として税源移譲することとされている。また、義務教育費国庫負担金については、平成17年度において4,250億円を暫定的に減額することとし、当該減額相当分については、税源移譲予定特例交付金により措置するものとされている。

 他方、平成17年度においては、税源移譲に結びつく改革に加え、3,011億円のスリム化の改革及び3,430億円の交付金化の改革を行うこととされている。このうち交付金化の改革については、地方の裁量度を高め自主性を拡大することを目指し、個別事業ごとの事前審査を要しないなど国の事前関与を縮小するものとして平成16年度に創設されたまちづくり交付金及びむらづくり交付金を拡充するとともに、地方の自主性・裁量性を向上させる形で地域再生を推進するために、関係省庁の枠を越えて一本化した新たな交付金として、汚水処理施設整備交付金、道整備交付金及び港整備交付金を創設するほか、次世代育成支援対策施設整備交付金、地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金、漁村再生交付金、地域住宅交付金、循環型社会形成推進交付金、自然環境整備交付金を創設することとされている。また、公共投資関係の国庫補助負担金については、国の関与の必要のない小規模事業等については廃止・縮減等を行うこととされている。

(ii) 税源移譲を含む税源配分の見直し

 税源移譲に結びつく改革のうち、暫定措置とされた義務教育費国庫負担金の減額相当分を除いた国庫補助負担金について、税源移譲額として精査した額(6,910億円)は、所得譲与税として税源移譲することとされている。この結果、平成17年度の所得譲与税は、平成15年度及び平成16年度の国庫補助負担金改革に伴うもの(4,249億円)を含め、1兆1,159億円とすることとされている。この譲与税は、国庫補助負担金の改革内容等を踏まえ、都道府県へ総額の5分の3、市町村(一部事務組合等を除く。)へ総額の5分の2を譲与することとし、各都道府県及び市町村(一部事務組合等を除く。)への譲与基準は、平成16年度と同様、人口によることとされている。

 また、義務教育費国庫負担金の減額相当分(4,250億円)については、平成16年度から措置された退職手当及び児童手当の暫定的一般財源化分(平成17年度所要額2,042億円)に加えて、税源移譲予定特例交付金により措置することとされている。この減額相当分に係る交付金は、教職員給与費を基本として交付することとしている。

(iii) 地方交付税の改革

 「地方団体の安定的な財政運営に必要な地方交付税、地方税などの一般財源の総額を確保する」との全体像に関する政府・与党合意に基づき、平成17年度の地方交付税については、総額16兆8,979億円と平成16年度以上の額を確保することとしている。

 また、税源移譲等に伴う財政力格差拡大に適切に対応するため、税源移譲等に伴う増収分は、当面基準財政収入額に100%算入することとされている。

 これらに加え、平成17年度においては、ハードからソフトへと政策転換を進める地方の実情に応じ、地方財政計画歳出の投資的経費(単独事業費)を7,000億円減額(一般財源ベースで3,500億円)する一方、一般行政経費(単独事業費)を3,500億円(全額一般財源)増額することにより、地方財政計画と決算の一体的な乖離是正を行っている。

 なお、地方交付税の算定方法については、引き続き簡素化・透明化に取り組むとともに、地方公共団体の自主的、自立的、効率的な財政運営を促す方向で必要な措置を講じることとしている。平成17年度においては、都道府県分について、企画振興費(投資)、その他の土木費(投資)を廃止しその他の諸費(投資)に統合するなどの経費の種類の統合を行うとともに、高等学校費(教職員数)の種別補正、林野行政費(公有林野の面積)の段階補正等の補正係数を廃止することとしている。また、都道府県分の公共事業等に係る事業費補正については、臨時高等学校整備事業債について、平成17年度許可債から事業費補正の適用を廃止することとしている。さらに、行政改革による経費の削減状況や徴収率の向上などを踏まえ、行政改革や徴税に要する経費について地方公共団体の経営努力に応える算定を実施するとともに、単位費用の算定に当たり、ごみ収集等アウトソーシングによる効率化が可能なものについては、そのアウトソーシング後の経費を算定の基礎とする見直しを引き続き進めることとしている。


 今後とも「地方にできることは地方に委ねる」という地方分権の理念に沿った内容となるよう、着実に改革を推進していくことが重要である。

(2) 財政基盤の充実

 地方分権の更なる進展を目指し、地域の真の自立を確立するためには、以下のような観点に基づき、地方財政基盤の充実を図る必要がある。

(ア) 地方税

 地方税は、地域における行政サービスの経費を地域住民がその能力と受益に応じて負担し合うことが基本である。このことから、応益性を有し、薄く広く負担を分かち合うものであること、さらに、地域的な偏在性が少なく、税収が安定したものであることが望ましい。また、自主的な課税を行いやすい税体系であることも重要であり、平成16年度には、固定資産税の制限税率の廃止や法定外税に係る国の関与の縮小など、課税自主権の拡大を図ったところである。

 一方、地方財政の現状を見ると、地方の歳出規模と地方税収入が乖離している状況となっている。そのような中、我が国の構造改革の重要な柱として、地方分権を推進し、自立した国・地方関係を確立し、活力と個性のある地域社会を実現していくことが求められており、三位一体の改革を推進することにより、受益と負担の対応関係を意識しつつ自らの責任と判断で地域のニーズに応じた行政サービスを実施できるよう、自主財源を中心とした地方の歳入基盤を確立することが必要である。

 このためには、地方税の充実確保を図り、地方税中心の歳入構造を構築することが重要であり、その際には、前述した地方税の性格を踏まえ、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系の構築を進める必要がある。

(イ) 地方交付税

 地方交付税については、地方公共団体がより自主的・自立的な財政運営を確立していくうえで、地域間に経済力・財政力の大きな格差があること、我が国では、内政の大部分について国が法律などにより地方に一定の行政水準の確保を要請していることを踏まえると、その果たす役割は極めて重要である。他方、歳出削減や地方税の充実など様々な努力により、できるだけ早期に多額に上る財源不足の解消を目指す必要がある。それらを踏まえ、引き続き必要な地方交付税総額の確保を図ることが重要である。

(ウ) 地方債

 地方債については、許可制度がとられているところであるが、地方公共団体の自主性をより高める観点からこれを廃止し、地方債の円滑な発行の確保、地方財源の保障、地方財政の健全性の確保等を図る視点に立って、平成18年度から協議制度に移行することとしている。このため、同意基準の策定等その円滑な運用のための準備を進める必要がある。また、地方債資金については、国の長期計画に基づく公共事業や法律により義務付けられた事務の実施に不可欠な施設の整備等を円滑に推進するため、必要な公的資金(政府資金及び公営企業金融公庫資金)を確保するとともに、地方分権の推進や財政投融資改革の趣旨を踏まえ、各地方公共団体の資金調達能力に配慮しつつ、都道府県及び大都市については、民間等資金による調達を一層推進する必要がある。この場合、その円滑な調達が一層重要な課題となってくることから、次の点に留意する必要がある。

(1) 市場公募債を発行していない県においては、市場公募化を推進する必要がある。

(2) 発行単位の大型化により、安定的かつ有利な資金調達を図るため、従来から市場公募債を発行する27団体が地方財政法第5条の7に基づく共同発行を実施している(平成17年度発行規模1兆3,000億円程度)が、今後とも、市場における地位の確立を図る必要がある。これに加え、近隣地方団体間や都道府県・市町村間など様々な形の共同発行を推進する必要がある。

(3) 地域住民の行政参加意識の高揚とともに、地方債の個人消化及び資金調達手法の多様化を図るため、住民参加型ミニ市場公募債の発行についても、引き続き推進する必要がある。

 また、中長期的な視点に立った計画的な財政運営に資するため、将来にわたる地方債の発行計画及び償還計画を策定するなど、総合的な地方債管理を行っていくことが必要である。

(エ) 国庫支出金

 国庫補助負担金については、「基本方針2003」において、「改革と展望」の期間に、「国庫補助負担金等整理合理化方針」に掲げる措置及びスケジュールに基づき、事務事業の徹底的な見直しを行いつつ、広範な検討を更に進め、概ね4兆円程度を目途に廃止、縮減等の改革を行うこととされており、まずその実現が求められる。「国庫補助負担金等整理合理化方針」においては、「改革と展望」の期間中における基本方針として、国庫補助金については原則として廃止・縮減を図っていくこととされている。また、国庫負担金の廃止・縮減については、国が一定水準を確保することに責任を持つべき行政分野に関して負担する経常的国庫負担金について、国と地方公共団体の役割分担の見直しに伴い、国の関与の整理合理化等と併せて見直し、社会経済情勢等の変化をも踏まえ、その対象を真に国が義務的に負担を行うべきと考えられる分野に限定していくこと等が示されている。更に、国庫補助負担金を通じた廃止・縮減等については、地方公共団体の事務として同化、定着、定型化しているものに係る補助金等、すなわち、法施行事務費、公共施設の運営費・設備整備費をはじめとする地方公共団体の経常的な事務事業に係る国庫補助負担金について、原則として、一般財源化を図ること等の方針により、国庫補助負担金の廃止・縮減を推進するとともに、地方の自主性を高める観点から、国の義務付けの縮減、交付金化、統合メニュー化、統合補助金化、運用の弾力化等の改革を進めることが基本方針として示されている。

 これらを踏まえ、今後とも、国庫補助負担金の廃止、縮減等の改革を着実に推進していく必要がある。

(3) 市町村合併の推進

 地方分権が実行の段階を迎え、住民に身近で総合的な行政サービスを提供する市町村の役割がますます重要なものとなるなかで、生活圏の拡大や著しい少子高齢化の進展、高度化する行政課題に的確に対応しながら、国・地方を通じる厳しい財政状況下において市町村の行政サービスを維持し、向上させるとともに、行政としての規模の拡大や効率化を図ることが必要である。このような視点から、「市町村の合併の特例に関する法律」(昭和40年法律第6号。以下「現行合併特例法」という。)の下で十分な成果があげられるよう、政府は市町村合併を積極的に推進してきたところであるが、平成16年5月の同法の一部改正により、平成17年3月31日までに合併の申請を行い、平成18年3月31日までに合併した市町村(以下「経過措置団体」という。)については、引き続き同法を適用する経過措置が講じられたところである。

 このため、地方財政措置の拡充、公共事業の優先選択・重点投資、合併に際しての各種障害除去対策等、合併に関する関係省庁の連携支援策を盛り込んだ政府の「市町村合併支援プラン」については、原則として、経過措置団体に対しても適用することとされたところであり、この支援プランに基づく各種支援等の活用を図っていくことが重要である。

 このような状況の中で、平成11年3月31日に3,232あった市町村(一部事務組合等を除く。)数が、平成17年2月14日時点で2,749となっている。さらに、総務大臣への事前協議が終了したものを含めると、平成18年3月31日までに2,286以下となることが確定しており、市町村合併は急速に進展しているところである。

 また、現行合併特例法の期限後も引き続き自主的な市町村合併を推進するため、平成16年5月に「市町村の合併の特例等に関する法律」(平成16年法律第59号。以下「合併新法」という。)が制定されたところである。合併新法においては、第27次地方制度調査会の答申等を踏まえ、合併特例債は廃止されているが、合併に関する障害を除去するための特例措置については、引き続き講じられている。

 さらに、合併新法下においても、市町村合併の実現に向けた地域住民の合意の形成等を図るための広報・啓発事業を引き続き行うこととしているほか、市町村合併の推進に関する構想の策定等に関し、都道府県が新たな役割を担うこととされている。具体的には、総務大臣が定める基本指針に基づき、都道府県が市町村合併の推進に関する構想を策定し、当該構想に基づいて、合併協議会の設置の勧告、あっせん・調停、合併協議推進勧告等の措置を講じることができるものとされている。

 他方、市町村合併に伴い地方公共団体の規模が拡大することを踏まえ、住民が主体的に参加し、積極的役割を担うことのできる地域づくりを行うことが求められている。このため、住民による話し合いの場づくりやその結果を受けた住民と行政との協働による取組を推進することが必要である。このような観点から、「地方自治法の一部を改正する法律」(平成16年法律第57号)により、住民自治の強化等を目的として市町村の判断により設置できる「地域自治区」が創設されている。また、現行合併特例法の一部改正及び合併新法においては、合併後の一定期間、特別地方公共団体であり法人格を有する「合併特例区」を創設できることとした。

 これらの制度も適切に活用しつつ、引き続き市町村合併を積極的に推進することが必要である。

(4) 行政改革の推進

 国・地方を通じる行財政の簡素・効率化を図り、地方分権の時代にふさわしい簡素で効率的な行政システムを確立し、住民ニーズの高度化・多様化等に適切に対処するために、地方公共団体が徹底した行政改革に取り組むことが強く期待されている。

 このため、地方公共団体においては、「今後の行政改革の方針」(平成16年12月24日閣議決定)の趣旨等も踏まえ、引き続き行政改革の計画的な取組を推進するとともに、独自の工夫を加えつつ、事務事業の見直し、組織・機構の簡素効率化、外郭団体の統廃合等、定員管理・給与の適正化、民間委託等の推進など行財政全般にわたる改革を引き続き積極的に進めることが必要である。特に民間委託等の推進については、「地方公共団体における事務の外部委託の実施状況の調査結果等を踏まえた民間委託等の推進の観点からの事務事業の総合的点検について」(平成16年3月25日総務省自治行政局長通知)などを踏まえ、更に積極的かつ計画的に取り組む必要がある。

(ア) 定員管理、給与の適正化等

 具体的な取組としては、まず、定員管理については、数値目標を掲げた定員適正化計画の着実な実行、見直しを図り、新たな行政需要に対しても、スクラップ・アンド・ビルドを基本として、定員管理の適正化を一層推進し、定員の縮減に努めることが必要である。特に、市町村合併の進展を踏まえ、計画的に組織の合理化や公共施設の効率的な配置を進めることが重要である。なお、行政改革大綱において定員管理の数値目標を設定・公表している団体は、平成15年度末時点で、47都道府県、13大都市、1,634市町村(大都市及び一部事務組合等を除く。)となっている。また、平成16年4月1日現在における職員数は308万3,597人(対前年同期比33,407人減少)であり、平成7年以来10年連続で減少し、その純減数は19万8,895人となっている。

 給与についても、全地方公共団体平均の地方公務員の給与水準(ラスパイレス指数)は、全体としてみれば適正化が図られてきており、平成16年4月1日現在において97.9、指数100未満の団体は全地方公共団体の約9割の2,941団体となっている。また、平成16年4月現在において財政的な事情を理由とした給与の特別減額・抑制措置を実施している団体は、都道府県・大都市53団体、市町村(一部事務組合等を除く。)1,355団体の計1,408団体であり、抑制額は1,406億円となっている。しかし、なお一部に見られる不適正な給与制度・運用等については、その適正化に取り組む必要がある。

 特に、高齢層職員について、昇級停止年齢を国と同様に55歳に引き下げる等の措置をまだ実施していない団体においては早急に措置を講じるとともに、特殊勤務手当についても、制度の趣旨に合致しないものについては早急にその見直しを図る必要がある。地方公務員の退職手当については、これまで国家公務員に準じた措置が講じられているが、国家公務員の退職手当については、平成16年10月より最高支給率が引き下げられ、また、退職時の特別昇給についても、平成16年5月1日付けをもって廃止されたところであるので、地方公共団体における退職手当についても、国に準じた措置を早急に講じる必要がある。

 また、近年の厳しい地域経済事情を背景に、地方公務員の給与が地域民間賃金等の状況から乖離しているのではないかとの指摘を踏まえ、地域の民間給与の状況をより的確に反映するための人事委員会機能の強化等について、「地方公務員の給与のあり方に関する研究会」において有識者により幅広い観点から検討しており、その報告等を踏まえた対応を行う必要がある。

(イ) 人材育成、組織・機構の簡素・効率化等

 地方分権の進展等に対応した質の高い行政サービスを効率的・安定的に提供するために、職員の意識改革を進めるとともに、時代の変化に対応し新たな課題に適切に対処できる人材の育成・確保が必要である。職員の人材育成については、分権型社会に向けた公務の能率的運営の推進の観点から、能力・実績を重視した新しい人事評価システムの導入が求められており、「今後の行政改革の方針」の趣旨も踏まえ、公正かつ客観的な人事評価システムを構築することが期待される。併せて、研修内容の充実、人事管理制度の適切な運用等に取り組む必要がある。

 組織・機構については、時代の変化に即応した全般的な見直しを行い、事務事業を円滑に遂行できる簡素で効率的なものとすることが必要であり、公社等の外郭団体についても経営状況の点検・評価、運営改善を積極的に推進するとともに、一部事務組合においても同一地域内の複数の一部事務組合の整理・統合を促進する等行政改革を一層推進する必要がある。

 なお、公の施設の管理については、「地方自治法の一部を改正する法律」(平成15年法律第81号)により、地方公共団体の指定を受けた「指定管理者」に管理を行わせることが可能となり、この指定管理者制度の活用により、公の施設の更なる効果的・効率的な運営が期待される。

(ウ) 行政評価の推進等

 住民の複雑多様化する行政需要や新たな行政課題を的確に把握し、実施すべき施策の選択や重点化を図るという観点等から、行政評価を導入する地方公共団体が増加している。行政評価は、コスト削減、職員の意識改革、成果重視の行政サービスの確立等行政サービスの質の向上、行政改革の推進に有効な手段の一つである。平成16年7月末現在、46の都道府県、すべての大都市及び732の市町村(大都市及び一部事務組合等を除く。)において、行政評価が導入又は試行されているが、引き続き、その導入推進やより効率的な活用を図る必要がある。

 地方公共団体は、簡素かつ公正を旨とした行政運営と法規に則った適正な予算執行に一層努めるよう要請されているところであり、各地方公共団体においては、経費支出の点検や必要な改善措置を実施し、適正かつ厳正なる予算執行に努めなくてはならない。また、適正な予算執行の確保を図る観点等から、監査委員制度の適正な運用と監査の徹底に努めるとともに、外部監査制度の積極的な活用を図ることが必要である。

 公共工事については、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(平成12年法律第127号)により公表や通知が義務づけられている事項(指名競争入札基準の公表、談合と疑うに足りる事実の公正取引委員会への通知等)について早期に完全実施するとともに、同法に基づく指針に従い必要な措置を講じることが必要である。また、「公共工事の入札及び契約の適正化の推進について」(平成16年12月28日付け国土交通省総合政策局長・総務省自治行政局長通知)の趣旨を十分に踏まえ、一般競争入札の適切な実施や多様な入札・契約方法の推進、電子入札の導入等を含めて引き続き公共工事の入札及び契約の適正化を図る必要がある。

(5) 透明性の向上

 地方分権の進展に伴い地方公共団体の行政の自己決定権・自己責任が拡大されることに対応し、行政手続の公正を確保するとともに透明性の向上を図り説明責任を果たしていくことが求められている。

 とりわけ、地方財政の状況が厳しさを増すなかで、適正な財政運営に資するためにも、財政状況に関する住民の理解と協力を得ることの重要性が高まっている。このような観点から、政府は毎年度行っている地方の財政状況に関する調査の結果を迅速にかつ分かりやすく公表する取組を行っている。平成15年度決算(平成16年度実施の地方財政状況調査)については、平成16年8月以降順次速報値を公表するなど、公表時期を前倒ししたところであるが、平成16年度決算(平成17年度実施の地方財政状況調査)についても迅速な公表に努める必要がある。また、平成16年10月からは、平成13年度及び平成14年度決算分について、全都道府県及び市町村(一部事務組合等を除く。)の決算収支の状況や主な財政指標等を取りまとめた「決算カード」を公表し、個別の地方公共団体ごとの財政状況が一目でわかるよう配意したところである。平成17年度以降においても、このような取組を通じて、決算の分かりやすい開示を促進することが必要である。

 一方、地方公共団体においても、事業実施後における事業効果等の分析・評価等に努めるとともに、住民にわかりやすいような工夫、情報化に対応した手段の活用等、周知・公表方法の一層の改善を図り、説明責任を十分に果たすことが必要である。財政状況の公表、分析の一手法として資産と負債の状況を総合的に把握するバランスシートや減価償却費などの非現金支出を含めた行政活動にかかるコストを把握するための行政コスト計算書の作成に取り組む団体も近年、増加しており、平成16年3月31日現在、平成14年度版のバランスシートを作成済みの団体は、都道府県47団体、市区町村1,769団体、平成14年度版の行政コスト計算書を作成済みの団体は、都道府県45団体、市区町村955団体となっている。

 また、行政改革大綱における数値目標の設定や実施計画の策定等を含めた取組内容の具体化・充実化を図りつつ、行政改革の目標や推進状況、行政評価の結果等を積極的に住民に公表するなどして透明性を高め、住民の一層の理解と協力の下で行政改革を推進していくことが重要である。

 さらに、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(平成11年法律第42号)の趣旨を踏まえ、行政運営に関する情報や公文書の公開を目的とする情報公開条例等の制定及びその充実を図り、行政情報の一層の公開、住民との情報の共有化を進めることが必要である。なお、情報公開条例は、すべての都道府県及び大都市において制定済みであり、市町村(大都市及び一部事務組合等を除く。)では、平成16年4月1日現在で2,890団体、92.9%の団体で条例又は要綱等を制定済みである。

 また、住民の意見を立案段階において反映させる機会を確保するため、総合的な計画や住民の生活に広く影響を与える方針等の案、その趣旨、内容等を住民に公表し、その提出された意見を考慮して意思決定を行うとともに、意見に対する地方公共団体の考え方を明らかにするパブリックコメント制度の導入を図る地方公共団体も増えている。パブリックコメント制度は、政策形成過程における透明性を高めるとともに、施策への住民参画を促進するうえでも有効であると考えられる。平成16年4月末現在で、パブリックコメント制度を制定している都道府県は40団体(85.1%)、大都市は8団体(61.5%)、中核市は19団体(54.3%)、特例市は12団体(30.0%)となっている。

(6) 地域の政策課題への対応

 地域の総合的な行政主体である地方公共団体は、地域の活性化、電子自治体の推進、循環型社会の構築等環境問題への対応、総合的な地域福祉施策の充実、姉妹都市交流を通じた国際観光の一層の推進、小学校専属ALT(外国語指導助手)の重点的な増員等の外国青年招致事業(JETプログラム)の拡充等、地域の政策課題に積極的に対応し、住民福祉の向上を図る必要がある。特に、地域経済の活性化と地域雇用の創造を、地域の視点から積極的かつ総合的に推進するため、アウトソーシング等の促進、地域資源(既存施設等)の再生・有効活用、コミュニティ・サービス事業等の活性化及びICTを活用した地域通貨の導入・普及、ひとづくり、安心・安全な地域づくり等の地域再生関連対策を進めていく必要がある。

 同時に、高齢者や障害者はもとより、女性や子供、外国人等すべての人にやさしい共生のまちづくりには、住民、NPO、民間企業等様々な主体のパートナーシップと適切な役割分担が不可欠であることから、地域住民の参加による合意形成活動やNPO等による地域活動等を支援する必要がある。

(7) 地方公営企業の経営基盤の強化等

(ア) 地方公営企業

 地方公営企業の平成15年度の決算の状況をみると、地方公営企業の経営状況は、前年度とほぼ同数の黒字事業が存在する一方で、未だ1割以上の事業で赤字が生じているなど、全体として引き続き厳しい状況となっている。

 地方公営企業は住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する役割を果たしてきたが、将来にわたってその本来の目的である公共の福祉を増進していくためには、次の諸点に留意しつつ、事業の一層の自立性の強化と経営の活性化を図るための本格的な経営改革に取り組む必要がある。

(1) 経営基盤の強化、計画的・効率的な経営の推進、財務の適正化等の観点から、経営の総点検を行う必要がある。

(2) サービス供給自体の継続の適否について、事業やサービスの内容が住民ニーズや社会経済情勢に対応したものとなっているか、当初の事業目的が既に達成されていないか等の観点から再検討を行う必要がある。そのうえで、サービス供給を継続する必要性が認められる場合にあっても、現在の地方公営企業形態によるサービス供給を維持することの適否について再検討を行う必要がある。

(3) 地方公営企業形態でサービス供給を継続する場合にあっても、事業の公共性及び一定のサービス水準の確保を前提としつつ、公の施設の指定管理者制度、PFI事業、民間委託等の民間的経営手法の導入を促進すべきである。なお、望ましいサービス供給手法は、事業ごとに一律に定まるものではなく、受け皿となる民間企業の存否や民間事業者とのコスト比較等、あくまでも地域や各事業者の実情を考慮し、地方公共団体が主体的に決定する必要がある。

(4) 企業経営の現状や展望等について住民の理解と協力の下に経営を進めるため、中期経営計画の策定、業績評価の実施、情報開示による説明責任の確保にこれまで以上に配慮し、より一層計画性・透明性の高い企業経営を推進する必要がある。

(5) 地方公営企業は独立採算制を経営の原則としており、地方公営企業の経費のうち、その性質上企業経営に伴う収入をもって充てることが適当でないもの、能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入をもって充てることが客観的に困難であると認められるもの等を除き、経営に伴う収入をもって充てなければならないものとされている。公営企業会計においては、このような経費負担区分の適正な運用を図り、厳しい地方財政の状況を踏まえ、一層の自助努力により独立採算制の原則に立脚した経営に努める必要がある。

(6) 地方公営企業の組織・機構については、総合的・機能的な企業経営が可能となるよう、簡素で効率的な組織・機構とする必要がある。また、職員の企業意識の徹底を図りつつ、事務事業の見直し、職員配置の適正化等により適正な定員管理を計画的に推進するほか、職員の給与についても、給与水準の適正化を図るとともに、一律の企業手当等不適切な給与制度及びその運用を是正する必要がある。

(7) 地方公営企業の料金は、公正妥当、かつ能率的な経営の下における適正な原価を基礎とし、地方公営企業の健全な経営を確保できるものでなければならない。そのため、経理内容の明確化、透明性の向上等の観点から、特に下水道事業及び簡易水道事業において、地方公営企業法の財務規定等の適用を積極的に推進していく必要があるほか、経営改善・合理化による原価の抑制、適切な事業報酬の設定、受益者負担金の適切な徴収、料金改定時の積極的広報等に努める必要がある。

(イ) 国民健康保険事業

 我が国の医療保険の中核として国民健康保険を支える国民健康保険制度については、被保険者の高齢化に伴う医療費の増嵩、保険税(料)負担能力の低い無職者・低所得者の増加、医療費の地域格差から生じる保険者間の不均衡、小規模保険者の増加など、構造的問題を数多く内包している。

 国民健康保険財政の健全化に向けては、これまでにも低所得者を多く抱える保険者を財政的に支援する保険者支援制度の創設や高額医療費共同事業の拡充及び法制度化等の新たな財政的支援を講じてきているところであるが、安定的な保険運営を可能とする上で、国民健康保険制度の抱える構造的な問題の解決が避けて通れないところである。このため、国民健康保険、被用者保険等「医療保険制度を通じた給付の平等、負担の公平を図り、医療保険制度の一元化を目指す」との基本的考え方に立った「医療保険制度体系等に関する基本方針」が平成15年3月28日に閣議決定された。

 なお、前述のとおり、平成17年度から、給付費に係る国庫負担と保険料負担を均等にするとの基本的考え方を維持しつつ、当該都道府県内の市町村の国民健康保険に関する財政調整権限の一部を国から都道府県に移譲し、都道府県財政調整交付金制度を創設することとしている。

(ウ) 地方公社等

 地方公社等については、その経営の適否が地方公共団体の財政に重大な影響を及ぼす可能性があることから、普通会計のほか公営企業会計及び地方公社等の財政状況を全体として的確に把握し、総合的な行財政運営に努めるとともに、「今後の行政改革の方針」(平成16年12月24日閣議決定)の趣旨等を踏まえ、経済環境の変化への対応、経営主体の経営の効率化、地方公共団体の財政運営のより一層の健全化等の観点から、その経営改善等について積極的に取り組む必要がある。

 このうち、土地開発公社については、新たな土地の取得にあたり、土地利用計画等を慎重に検討するとともに、現に保有している土地については事業計画の見直し等を含めて処分の促進に努め、土地取得手続の適正化や金利の低減を図るとともに、積極的な情報公開等に努める必要がある。土地開発公社の近年の土地保有総額の推移は、第108図のとおりであり、平成15年度末における土地保有総額は、6兆3,556億円で、前年度と比べると5.2%減となっており、7年連続して減少している。このうち、5年以上保有している土地は微減であるが、10年以上保有している土地は増加していることから、特に、保有期間が長期にわたる土地については、処分を積極的に行う必要がある。

 また、「土地開発公社経営健全化対策について」(平成16年12月27日付け総務事務次官通知)により、公社経営健全化計画の策定対象団体を大幅に拡充するとともに、当該計画に基づく取組に対して、従来よりも幅広く地方財政措置を講じることとしており、計画的に保有土地を縮減すること等を通じて経営の抜本的な健全化に取り組む必要がある。

第108図 土地保有総額の推移

第108図 土地保有総額の推移

 第三セクターに関しては、改定された「第三セクターに関する指針」(平成15年12月12日付け総務省自治財政局長通知)の趣旨を踏まえ、外部の専門家による監査を活用する等監査体制の強化を図り、政策評価の視点も踏まえ、点検評価の充実、強化を図るとともに、積極的かつ分かりやすい情報公開に努めることが求められる。また、完全民営化を含めた既存団体の見直しを一層積極的に進めることが必要である。さらに、経営状況が深刻であると判断される場合には、問題を先送りすることなく、経営悪化の原因を検証し、債権者等関係者とも十分協議しつつ、経営改善策の検討を行い、そのうえで、経営の改善が極めて困難と判断されるものについては、法的整理の実施等について検討することが必要である。


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