社会資本整備については、「基本方針」に基づき、事業の重点化、硬直性の打破、効率性・透明性の向上などに向けた改革を進めてきた。また、こうした取組みを反映した14年度予算を策定した。さらに「改革と展望」では、中長期の持続的経済成長、持続可能な財政と整合的な公共投資のあり方を示した。
しかしながら、「国から地方へ、官から民へ」という考え方の下での社会資本整備の改革、公共事業の実効ある重点化や効率化など、さらに取り組むべき課題は多い。また、今年度で終了する多数の公共事業関係計画のあり方を抜本的に見直す必要がある。14年度は、この1年の成果の上に立って、改革をさらに本格化する極めて重要な年である。
個性と活力のある「地方」の構築、真に必要性の高い事業の厳選などの観点から、国の関与する事業は限定し、地方の主体性を生かした社会資本整備に転換する必要がある。このため、国庫補助負担事業の廃止・縮減について、内閣総理大臣の主導の下、各大臣が責任を持って検討し、年内を目途に結論を出す。また、地方交付税の事業費補正については14年度から見直しが実施されるが、これを引き続き行っていく必要がある。
簡素で効率的な政府の実現、地域の活性化の観点から、公共投資に関する設計、建設、維持、管理、運営など各段階において民間委託を進めることやPFIを推進することが極めて重要であり、強力かつ計画的に推進する。
(実効ある重点化の実現)
第5部の「予算編成プロセスと手法」で述べているように、公共投資についても真に必要性の高い事業への重点化を進めるために、トップダウンの意思決定(分野間の優先順位、分野毎のメリハリなど)とボトムアップの選択(事業評価に基づく個別事業の選択、個所付け)の双方について改革に取り組む。
重点的に配分すべき分野については、経済活性化効果等の観点から、具体化、絞込みの必要がある。また、「平成14年度予算編成の基本方針」で示した厳しい見直しを行うべき分野について、より明確に予算に反映する。
公共事業から公共事業以外の政策手段への転換(ハードからソフトへの転換)の努力をさらに進める。
また、地域間の予算配分が合理的なものとなるよう、整備状況を踏まえて弾力的な配分を行う。
(実効ある効率化の実現)
公共事業の効率化のため、さらに厳格な事業評価を行い、その結果を予算編成に十分反映する必要がある。このため、事前評価に同種事業の事後評価の結果を確実に反映する仕組みを構築する。また、第3者による評価内容のチェック機能の強化、関連情報を含めた情報公開の徹底、国民に対する説明責任の明確化を実現する。
公共投資のコストは民間事業に比べ相当割高になっているという批判もある。コストの縮減、PFIの一層の活用、既存ストックの有効活用、一般競争入札の拡大等競争性の向上、過度の入札制限の見直し、事業の時間管理などについて具体的な取組みを進める。
時代の変化に伴い必要性の低下した事業を中止するなど、既存プロジェクトの見直しを進める必要がある。このため、実質的な着工に至っていない大規模事業、長期間中断されている事業、採択時に想定した利用率やコストに大きな見込み違いが生じた事業などについて、費用対効果や実施可能性を厳しく検証し、実施の当否などを判断する。また、代替手段のあるものについては、費用対効果の観点から最も適切なものを選択する。
各計画の必要性そのものについて厳しく見直しを行う。仮に計画を策定することが必要と判断される場合でも、以下のような抜本的な見直しが不可欠である。
○ 関連の強い計画間の関係を十分に見直すべきである。
○ 整備の進捗状況、経済社会状況の変化等を踏まえ、分野によって新規事業全体を終了する時期を明確にする必要がある。
○ 国から地方へ、官から民へ(民間委託等)の改革を踏まえたものとする必要がある。
○ 地方単独事業は、計画の目標とは位置付けるべきではない。
○ 計画策定の重点を、その分野の特性を踏まえつつ、従来の「事業量」から計画によって達成することを目指す成果にすべきである。
○ 計画と個別事業の関係はより緩やかなものとすべきである。すなわち、計画の策定過程において想定された事業であっても、それを全て実施するのではなく、さらに厳選すべきである。
「基本方針」の閣議決定以降、医療制度改革を推進してきた。今後も医療制度改革を継続するとともに、物価動向等を反映した社会保障給付の見直しや年金制度の改革をはじめとする次の社会保障制度の改革に取り組むこととする。
社会保障給付費は高齢化の進展に伴って増大し、現行制度がそのまま維持された場合には、社会保障に係る負担の国民所得比が大きく上昇するとともに、国民負担率は相当に高くなる。
このため、社会保障制度の改革に積極的に取り組み、世代間・世代内の公平を図るとともに、適切な給付と負担の水準を確保し、そのバランスを図りつつ、社会保障制度が経済と調和し将来にわたり持続可能で安心できるものとなるように再構築し、国民負担率の上昇を極力抑制していく必要がある。
(i) 次世代育成支援対策(少子化対策)の強化
世界的にみても際立って、急速かつ著しい少子高齢化の進行が予測される我が国の状況にかんがみ、少子化の流れを変えるため、これまでの保育所待機児童ゼロ作戦などの推進に加え、子育て世代、子育て家庭を職場や地域など社会全体で支援するとともに、子どもが自立することを支援することにより子どもを持つことへの不安を解消するという視点に立って、幅広く次世代支援に関する取組みを強化していくこととする。
(ii) 年金制度の改革
年金制度については、予測を超えた少子高齢化の進行によって、累次の改正を余儀なくされたことにより、国民の将来不安が生じ、国民の年金不信が強まっている。
年金制度は、現役時代の所得喪失に対する備え・補填を基本的目的としており、何十年もの期間にわたる保障を確実に提供することが求められるが故に国自ら運営しているものである。国が運営する制度として、国民から信頼される、持続可能なものにしていかなければならない。
したがって、年金制度の改革に当たっては、次のような視点に立って行うべきである。
(1) 長期にわたって持続可能で安定した制度とするため、楽観を排した将来予測を前提としていくことが必要であり、国民が将来に向けて年金制度への不安を持つことがないよう、頻繁に制度改正を繰り返す必要のない恒久的な改革を目指し、国民的議論を十分に行うことが重要である。
(2) 少子高齢化の進行に伴って、年金保険料の引上げは避けられないが、その上昇をできるだけ抑え、国民負担率の上昇を極力抑制していくとともに、現在から将来にわたる負担を明示し国民的合意を得ることが重要である。
(3) 年金制度は社会のあり方と密接に関わるものであり、21世紀の我が国社会が目指している「生涯現役社会」や「男女共同参画社会」の理念とも合致した年金制度を構築していくものでなければならない。
(4) 国民に広がる年金不信を払拭するため、個人個人の年金に関する情報提供がきちんと行われる仕組みを作り、わかりやすい年金制度とするとともに、年金をはじめとする社会保険実務の効率化を進める。
このような視点に立って、平成16年に予定される年金制度の改革に向けて、世代間・世代内の公平、給付と負担の水準とそのバランス、平成12年改正法附則(安定した財源を確保し、基礎年金の国庫負担の1/2への引上げ)への対応など、年金制度改革の基本的な方向について、早急に議論を始め、その改革に積極的に取り組んでいく。
また、制度の厳正な運用に取り組む観点から、保険料徴収の推進など国民年金の未加入・未納者に対する徹底的な対策に取り組む。
(iii) 医療制度の改革
医療制度については、持続可能な制度へと再構築するため、保健医療システム、診療報酬体系、医療保険制度のすべてにわたって改革を継続する。さらに、今後の一層の高齢化の進行に備え、医療制度の安定的な運営を確保するため、今年度中に、保険者の統合・再編を含む医療保険制度の体系のあり方、新しい高齢者医療制度の創設、診療報酬体系の見直しについて、基本方針を策定する。また、公的医療機関のあり方等医療提供体制についても見直しを行う。
(iv) 介護保険制度の推進
介護保険制度の施行から2年余を経て介護サービスの利用が大幅に伸びているが、さらに一層の定着を図っていくことが必要である。また、平成15年度は市町村の介護保険事業計画・保険料率の見直しが行われる年であり、これとあわせ、介護保険サービスの利用状況や介護事業者の経営状況、サービス間のバランスなどを踏まえ、介護保険制度がより効率的に運営されるよう適切に介護報酬の見直しを行う。
我が国社会は、人類史上初めての長寿社会を実現しているが、これは単に寿命が長いということにとどまらず、社会の支え手として元気に働き、生活を享受する期間が長いという、健康寿命の増進が図られるものでなければならない。したがって、医療、介護、年金などの社会保障制度は、健康で長生きできるよう生活を支えるものでなければならないとともに、健康で働ける者が働き、社会保障と組み合わせて豊かな生活ができるようにする必要がある。今後ともこのような視点に立って、持続可能で安心できるものとしていかなければならない。
(1) 地方行財政改革については、これを強力かつ一体的に推進する必要がある。先ず、国の関与を縮小し、地方の権限と責任を大幅に拡大する。地方分権改革推進会議の調査審議も踏まえつつ、福祉、教育、社会資本などを含めた国庫補助負担事業の廃止・縮減について、内閣総理大臣の主導の下、各大臣が責任を持って検討し、年内を目途に結論を出す。
(2) これを踏まえ、国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討し、それらの望ましい姿とそこに至る具体的な改革工程を含む改革案を、今後一年以内を目途にとりまとめる。
この改革案においては、国庫補助負担金について、「改革と展望」の期間中に、数兆円規模の削減を目指す。同時に地方交付税の改革を行う。9割以上の自治体が交付団体となっている現状を大胆に是正していく必要がある。このため、この改革の中で、交付税の財源保障機能全般について見直し、「改革と展望」の期間中に縮小していく。他方、地方公共団体間の財政力格差を是正することはなお必要であり、それをどの程度、また、どのように行うかについて議論を進め、上記の改革案に盛り込む。これらの改革とともに、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、移譲の所要額を精査の上、地方の自主財源として移譲する。
現在、地方においては約14兆円の財源不足が生じている。歳出削減や地方税の充実など様々な努力により、できるだけ早期にこれを解消し、その後は、交付税による財源保障への依存体質から脱却し、真の地方財政の自立を目指す。
(3) 改革の受け皿となる自治体の行財政基盤の強化が不可欠であり、市町村合併へのさらに積極的な取組みを促進する。
また、今後の地方行政体制のあり方について、地方分権や市町村合併の進展に応じた都道府県や市町村のあり方、団体規模等に応じた事務や責任の配分(例えば、人口30万以上の自治体には一層の仕事と責任を付与、小規模町村の場合は仕事と責任を小さくし都道府県などが肩代わり等)など、地方制度調査会における調査審議を踏まえ、幅広く検討する。
また、今後は国の関与に代わり、住民自ら地方行財政を監視できるよう、バランスシート等の作成や情報公開、電子自治体の実現など、地方行財政の透明性向上と説明責任の徹底が必要である。
ア.食料産業の改革
我が国の将来の食料供給に対しては、国民の相当程度が不安を有している。さらにBSE問題等を契機に「食」の安心・安全性への国民の不信が高まっている。
こうした中で、我が国農業は零細な生産構造を抱え、食料自給率の低下にも歯止めがかからず、担い手の高齢化、農地の遊休化、流通面での高コスト構造の存在等、農業・農村をめぐる厳しい環境が長期的に継続している。
他方、食品産業は地域経済において重要性が高く、ライフスタイルの変化の中で外食・中食産業の急成長が見られる。また安全な「食」に対する国民のニーズが強まっている。このような状況の下で、農業の構造改革と食品産業等の持続的な発展を如何に実現するかが喫緊の課題となっている。
農業、食品産業等のいわゆる「食料産業」は国民経済上も重要な産業であり、今後は食料産業全体を視野に入れた政策運営を通じて、国民の期待に応えうる食料産業の活性化と農業の構造改革を推進する必要がある。このため、以下の基本戦略の下で改革を着実に推進することが重要である。
イ.食料産業の改革の基本戦略
(1) 真に消費者を基点とした行政への転換
「食」に対する国民の不信を払拭し、「健全な食料産業の発展」と「安心した食生活」を実現するため、真に「消費者」を基点とした行政に転換を図り、我が国の特徴を生かした高付加価値で多様な農産物・食品が全国で提供されるよう、食料産業の新たな将来展望を切り拓く。
(2) 多様な農業経営の展開による産業としての農業の再構築
グローバル化の進展に対応して、農業が産業としての競争力を発揮するために、構造改革特区などの手法の活用を含め、農業経営の株式会社化等効率的な企業的農業経営が展開するための制度改革等の条件整備を行う。
(3) 農業経営者の意欲と個性が発揮できる政策の枠組みへの転換
農業者全体を対象とした一律的な政策の見直しを行い、意欲と能力のある経営体に施策を集中化する枠組みへの転換を進める。また、米政策については、需要に応じた生産の推進、生産構造の変革等の観点に立って抜本的に見直す。
(4) 「食」の安全・安心体制の確立と流通改革の推進
「食」の安全・安心に対する国民の不信を払拭するため、政府全体として信頼回復に向けた万全の体制を可及的速やかに確立するとともに、生産・流通・消費の各段階を通じ一貫して「安全で安心」な食品の供給を担保するシステムを導入する。
また、高コスト構造の是正を図るため、卸売市場等の流通段階で競争条件を導入するとともに、併せて抜本的な農協改革を促進する。
(5) 農林水産資源の活用に向けたバイオマス戦略等の推進
農林水産資源を活用したバイオマス産業等を国際競争力のある新たな戦略産業として育成する。このため、規制改革、融資・補助制度、バイオマス生産・エネルギー活用等の技術開発等の政策手段を活用し、農林水産業を環境保全やバイオマス生産の場として再活性化させる施策を関係府省一体となって推進する。
ウ.構造改革を推進する上で特に重視すべき事項
(1) 政策の選択と集中化
これまでの政策を厳しく見直し、食品産業、消費者対策等も含めた食料産業全体を視野に入れた政策への大胆な転換を進め、生産・流通・消費の各段階を通じる一貫した政策運営を通じて、食料産業の活性化に資する効率的かつ効果的な政策の選択を行う。
特に、効率的で安定的な経営体が生産の大部分を担う構造を確立するため、農業者全体を対象とした一律的な政策の見直しを行い、意欲と能力のある経営体に施策を集中化する。
さらに、農地・森林の有する環境保全等の機能に留意しつつ政策を推進する。
(2) 構造改革に向けた時間軸の明確化
「食料産業」に対する国民意識は「食の安全・安心」への不信を通じて極めて高いものとなっていることから、構造改革を進めるに当たっては、改革の具体的内容、推進する上での課題、その実現に向けたスケジュール等を広く国民に示し、国民的な議論の下で進める。
道路等の「特定財源」については、長期計画や今次税制改革と一体的に、そのあり方を見直し、可能なものは平成15年度から具体化する。なお、特定財源制度は受益と負担の関係に基づくものであるが、これら諸税の税率については、これらの税が有する種々の環境改善効果などにも十分配慮し、決定する。
納税者の視点に立ち、公的部門の無駄を排除する。この観点から、以下の新しい行政手法に公的部門全体で取り組む。
(1) 民間委託(アウトソーシング)やPFI等の活用
従来公的部門が直接行ってきた事務事業で民間委託やPFI等を積極的に活用する。各府省は一定範囲の事務事業について、民間委託やPFI等の活用の適否を検討し結果を公表する。こうした方式を、当面試験的に導入する。
(2) 調達の改善
国や地方の調達について、手続の透明化、競争性の確保の観点から、関係府省は公正・厳正・経済的な調達を進める。公共事業においては、入札関連情報の公開、一般競争入札の拡大等競争性の向上、入札条件の適正化等を推進する。情報システムにおいては、調達方式の改善を一層着実に実行するとともに、ソフトウェア開発の効率化、高度な外部専門家の活用等による調達側の能力向上等を図るため、民間有識者の意見も参考にしつつ府省横断的に検討を進める。
(3) 電子政府等の推進
国民の利便向上の観点から電子政府・電子自治体等公的部門の電子化を推進する際には、同時に事務を合理化する。また、複数の地方自治体が事務を標準化し、共同で民間委託することにより、大幅なコスト削減を実現する。
(4) 新しい手法
効率的な事例を基準に効率化・生産性向上に努める手法(ベンチマーキング)や、業務に要するコストを明確にする手法の一つである活動基準原価計算(ABC)などの手法の導入について研究を開始する。地方についても、これらの手法の導入について研究を開始するよう要請する。