北海道地方非常通信協議会 会報第34号
有珠山噴火災害現場における消防無線通信体制等について

札幌市消防局警防部指令課

  1. はじめに
     有珠山噴火に伴い札幌市有珠山噴火対策本部を設置し、札幌市消防局は情報収集、救急救助活動支援のため災害派遣されました。私達指令課の職員は無線中継車を運用して無線不感地帯の調査、電波伝搬路を掌握し、交信エリア拡大のため仮設アンテナを整備するなど、無線通信全般の任務にあたりました。
     火山の噴火は、火山灰や泥流等が発生するため被害が広範囲におよび、消防機関の活動範囲も必然的に拡大します。有珠山噴火では1市2町1村の区域に被害がおよびました。また避難住民を受け入れる近隣の町を含めた場合、応援消防機関の活動範囲は更に広大となりました。
     平常時は有線通信が有効に活用されますが、大規模・噴火災害時は有線回線が寸断または混雑してパンク状態に陥り、連絡手段が途絶する恐れがあります。消防活動上、正確な情報を迅速に収集、伝達することは極めて重要なことであり、無線通信体制を早期に確保する必要がありました。

  2. 無線中継隊(無線中継車)
    写真1
    写真1
     指令課及び防災課の職員4名で編成された無線中継隊が、通信機器等の資機材を無線中継車(写真1)に積込み、現地入りしたのは3月30日の早朝でした。職員は噴煙を上げて、いつ噴火するか分からない不気味な有珠山と、度重なる激しい火山性地震に緊張しながら任務を遂行しました。

    【※無線中継車は本来、札幌市内で中高層ビルや地下街等に進入した消防隊員の携帯型無線機からの微弱電波(150MHz)を移動多重回線(400MHz帯SS−SS)で藻岩山基地局に自動中継し、札幌市消防局指令情報センターと消防隊員間の直接交信を実現するために導入されたものです。】

  3. 無線中継隊の活動
     私達はまず、虻田町に所在する西胆振消防署本町分遣所に消防現地指揮本部を構え、自治省消防庁の要請により、可搬型地球局装置を利用しての有珠山西側の映像及びヘリコプターで撮影した映像を、リアルタイムに自治省消防庁、札幌市役所、札幌市消防局へ画像伝送しました。また可搬型地球局装置は画像を伝送するだけではなく、衛星回線を活用した電話及びファックスの送受信などの個別通信を可能にします。
    可搬型地球局装置を操作し有珠山映像を画像伝送する職員
    可搬型地球局装置を操作し有珠山映像を画像伝送する職員

  4. 有珠山噴火時の状況
    有珠山噴火直後の写真
    有珠山噴火直後の写真
     平成12年3月31日(金曜日)
     午後1時10分頃有珠山噴火!
     無線中継隊は地元消防機関との情報交換や消防現地指揮本部の設置準備に追われていましたが、即座に無線と携帯電話で、各派遣消防隊に噴火の一報を入れました。無線通信体制を確保する前の噴火であり、その後消防隊が一斉に無線を使用したため、無線が輻輳しほとんど使用不可能な状態に陥りました。
     無線中継隊の待機場所付近(虻田町消防現地指揮本部)は避難指示がでている地域ではなく、住民が風呂敷包みを両手に持ち慌ただしく避難を始めました。もちろん住民を置いて消防隊が逃げるわけにはいきません。急いで待機していた消防車両等に住民を乗せて豊浦方面に避難有させました。わずか数分で待機場所付近は黒煙がたちこめ、まるで夜になったようでした。「もし待機場所にあのままいたら、どうなっていただろう・・。」恐怖感が後から襲ってきました。職員の中には家族に「後のことは頼む」という電話をしている者もいたほどでした。
     私達がいた待機場所は噴火口からあまりにも近く、危険が伴うことから、4月1日に虻田町から伊達市に消防現地指揮本部の移転を余儀なくされました。
     私達はこのような経験を基に、まず最優先して有珠山周辺の電波伝搬調査を実施しました。無線不感地帯の調査を行い、応援消防部隊間の円滑な無線通信を確保するとともに、併せて噴火災害時の無線通信要領を検討し、各消防機関に周知徹底する必要がありました。

  5. 無線中継隊の活動2
     現地での無線中継隊の主な業務内容を紹介します。
    噴火しなければ美しい景色なのだが
    噴火しなければ美しい景色なのだが
    無線通信体制のイメージ図
    無線通信体制のイメージ図

  6. おわりに
    地盤が隆起して倒壊した家屋
    地盤が隆起して倒壊した家屋
     有珠山は気象庁により24時間体制で常時観測している活火山です。
     火山の噴火活動は、極めて甚大な被害をもたらします。地盤が隆起して自宅が倒壊するなど噴火口付近の危険地域に住んでいた人達は、いまだ避難生活を強いられています。
     消防機関として何を求められどのように対応しなければならないのかを深く考えさせられました。
     有珠山噴火に伴う災害派遣は、無線通信の重要性を改めて認識するとともに、地元消防本部との連携、事前の調査及び情報収集(活火山情報)はもとより、有事に備えての仮設アンテナや高出力の可搬型無線機、自動中継装置等の無線通信設備を常備する必要性を痛感しました。
     私達は今回の貴重な経験を生かし、いつ発生するか分からない自然災害に対して装備と体制と心の準備をしていきたいと思います。
     有珠山噴火により活動されている各関係機関の皆様、たいへんお疲れさまです。

有珠山付近の地割れ