北海道地方非常通信協議会 会報第34号
有珠山噴火時における通信確保等の対応状況について

NTT東日本北海道支店設備部
災害対策室長 井上 芳治

  1. はじめに
     平成12年3月31日、有珠山は23年ぶりに突如として噴火しました、幸いにして電気通信サービスの大規模な中断をともなう大きな設備被害は有りませんでしたが、再編成後のNTT東日本会社として始めての火山噴火災害の経験でありました。
     弊社は災害等発生時の重要通信確保の目的で、各種の災害対策機器等を保有し、日ごろから準備しており、このたびも、噴火前から避難住民の皆様ならびに各関係機関の通信を確保するための活動を実施しましたので、その一端をご紹介します。

  2. 災害対策本部の設置
     3月28日午後、「火山噴火予知連絡会」から近々有珠山噴火の可能性を示唆する発表があったとの情報があり、直ちに情報収集を開始すると共にNTT北海道支店内に情報連絡室を設置し、NTT東日本内グループ各社との連携を図りつつ、災害対策機器及び施設記録の点検確認作業等を開始しました。
     翌29日午前、新聞テレビ報道で有珠の緊迫した状況を確認し「災害対策本部」へ移行することとし、同日午後になり、一部地域に避難勧告が出されたのを機に「災害用伝言ダイヤル」を運用開始しました。
     その後、3月31日と4月1日の2回の噴火により緊迫した状況の中、4月3日にはNTT室蘭営業支店ビルへ現地災害対策本部を設置するとともに、NTT伊達ビルとNTT豊浦ビルに現地対策室を設置し、国や現地の対策本部からの情報収集及び電気通信設備の被災に備え、NTTグループ一丸となった即応体制を整えました。

  3. 電気通信設備の被災状況及びサービスへの影響(図1参照)
     (1) 光ケーブルの切断
     3月31日午後、西山山麓が噴火し、国道230号線沿いに敷設してある洞爺温泉〜虻田間の中継用光ファイバーケーブルが断となりましたが、瞬時かつ自動的に迂回ルートへ切替えられたため、サービスへの直接的影響はありませんでした。
     しかしながら、エリア内の交換機を接続する伝送路が片系運用となっており、この迂回ルートが切断された場合は周辺の市町村は通信途絶となることが想定されたため、後述する暫定無線ルートの設置工事が急がれました。
     (2) NTT洞爺温泉交換ビルの機能停止
     4月1日深夜、NTT洞爺温泉交換ビルの商用電源の供給停止が長期化し、蓄電池の完全放電により、交換機が全面停止しました。
     通常であれば、弊社保有の移動電源車の派遣により対応できますが、洞爺湖温泉エリアには立ち入ることが出来なかったため、約2000回線の加入電話や専用サービスの中断を余儀なくされました。その時点ではエリア内全ての住民の皆様が避難されており、大きな混乱はありませんでしたが、4月中旬にいち早く避難指示が解除された、月浦地区及び壮瞥温泉地区の一部エリアで、我々が予期しない事態が発生し、対応に苦慮することになりました。
     (3) 加入ケーブルの切断
     地殻変動等の影響で、泉地区(西胆振消防署付近)や洞爺温泉地区(桜ヶ岡団地付近、珍小島付近)を中心に、NTT電話交換ビルとお客様宅を接続するケーブルの断線が多数発生しました。特に泉地区は洞爺湖側も虻田町側も道路が寸断され、ケーブルを敷設するルートが確保出来ないため、北海道電力株式会社様の送電線ルートにケーブルを共架させてもらい、回復させました。
    図1 電気通信設備等の主な被害状況

  4. 災害時の緊急通信の確保
     (1) 無料公衆電話の設置
     避難指示の発令に伴ない、3月28日から8月27日の全避難所閉鎖までに、延べ69ヵ所の避難所へ設置した無料公衆電話は、553台に及びました。(写真1参照)
     当初は、避難所がどんどん拡大され、それを追いかけるように電話の設置が連日続きケーブルの増設等が間に合わない場所もあり、全国から集めたポータブル衛星やディジタル衛星車等も一時的に利用しました。(写真2参照)
     また、パソコンを使用したインターネットサービスも、32個所の避難所へ特設公衆電話と同様の扱いで無料設置し、避難された皆様の情報収集手段のひとつとして活用いただけたものと考えております。
    写真1 避難所に設置した特殊公衆電話
    写真1 避難所に設置した特殊公衆電話
    写真2 緊急出動したディジタル衛星車
    写真2 緊急出動したディジタル衛星車
     (2) 行政・報道機関等への臨時電話、専用線の設置
     国や各市町の災害対策本部及び報道機関等の皆様から緊急回線として1000回線を超える、臨時電話、専用線の開通依頼が殺到しました。当然のことながら、開通工事の短縮が至上命題であり、物品の緊急調達や開通工事稼動の調整に奔走しました。
     また、交換機が輻輳し電話がかかりにくくなった場合でも重要機関相互の緊急通信を確保するため、衛星回線を使用し、伊達現地合同災対本部の各組織と虻田町及び壮瞥町の災害対策本部等を接続した「非常時ネットワーク」を緊急通信手段として無料提供させていただきました。
     (3) 災害用伝言ダイヤルの運用状況
     3月29日、伊達市、虻田町、壮瞥町の一部エリアへ避難指示が出されたことを契機として、避難住民の安否を確認する通信手段として利用していただくため、災害用伝言ダイヤルの運用を開始し、8月9日の運用終了までの間、録音が5,800件、再生が11,000件のご利用が有りました。

  5. 電気通信設備の応急復旧状況
     (1) 通信の孤立防止
     前述したように、交換機間を接続する中継用光ファイバーケーブルは、通常ループ構成となっていますが、今回の災害により、光ファイバーケーブルの片側が切断され単一ルート構成となり、更なる被災を想定した対策が一刻も早く必要な状況でありました。
     そこで、NTT東日本エリアのみならずNTT西日本エリアからも災害対策用無線機器を手配し(写真3・写真4)、被災した光ファイバーケーブルの代替伝送路として、NTT伊達ビルからNTT豊浦無線中継所及び旧エイぺックスホテルを中継局とした11GHz帯と15GHz帯無線方式12対向の設営を突貫工事で実施、4月中旬に完成させたことにより、周辺地域の通信孤立を回避することが出来ました。(図2参照)
     4屋内に設置した可搬型非常無線装置本体
    図2 電気通信設備の応急復旧状況
    写真3 旧エイペックスホテルに設置した
    写真3 旧エイペックスホテルに設置した
    写真4 屋内に設置した可搬型非常無線装置本体
    写真4 屋内に設置した可搬型非常無線装置本体
     可搬型非常無線装置
     (2) NTT洞爺温泉交換ビル交換機の復旧
     NTT洞爺湖温泉交換ビルの交換機能停止に伴い隣接した月浦地区、壮瞥温A地区の一部も電話が使えなくなりましたが、4月中旬になり避難指示がいち早く解除され、帰宅されたお客様から電話サービスの回復を求められました。
     当時はNTT洞爺温泉交換ビルが避難指示エリア内にあるため被害状況すら確認出来ない状況でありました。
     苦肉の策として月浦地区については、湖の対岸にあるNTT洞爺交換ビルからケーブルを敷設、壮瞥温泉地区の一部については、昭和新山付近に小型の交換装置を新設し急場をしのぎました。
     その後、6月下旬になり洞爺温泉エリアの避難指示が解除されたたため、NTT洞爺温泉交換ビルの完全放電し損傷した蓄電池等を交換し、交換機本体の動作確認後、周辺の避難指示の解除(カテゴリ区分の緩和)にあわせ逐次復旧させて行き、電話ケーブルの損傷が激しかった泉地区(西胆振消防署付近)の7月17日を最後に全面復旧しました。

  6. おわりに
     NTT東日本では、このような災害に備え、可搬型の衛星通信装置や無線装置を多数保有し、いざと言う時は全国から必要な機材を集める仕組みとしております。この規模の火山災害は20年、30年に一度とも言われておりますが、最近の三宅島や駒ヶ岳の例を見てもいつ起きても不思議でない状況にあるのかも知れません。
     いずれにしましても、貴重な経験をさせていただきましたので、そのノウハウ等をきちんと総括し、どこで何が起こっても即対応出来るよう体制強化を図って行く考えであります。
     このノウハウを活用するような規模の災害が起こらないことを念じつつ、ペンを置かせていただきます。