マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金に関する研究会 報告書
第一部 マルチメディア時代の料金について

第1章 ニーズの動向

 1 ニーズの動向

 2 「ニーズ」側からの料金への要請






第1章 ニーズの動向

1 ニーズの動向

  マルチメディアの利用は近年急速に進展しつつあるが、社会において実際にどの
 ように利用され、どのように定着するかについては、現時点では、必ずしも十分に
 具体的な見通しが確立されている訳ではない。
  しかし、家庭における電子メールやオンラインショッピングの普及等にみられる
 ように、マルチメディアによって個人のライフスタイルにも変化が生じてきており、
 また、マルチメディアを企業活動の高度化や新たなビジネスとして位置付ける企業
 の取組みも活発化している。


 (1) 最近の動き

   従来、家庭では、情報の連絡や会話の手段として電話が利用されていたが、パ
  ソコンや携帯電話が急速に家庭に普及し、また、パソコン通信やインターネット
  を用いた電子メールやオンラインショッピングが定着しつつあるなど、家庭にお
  ける通信の利用形態は質的、量的に変化してきており、新しいライフスタイルを
  形成しつつある。
   また、インターネットの急速な普及に対応し、企業においてもインターネット
  を事業展開や社内ネットワークの手段として活用する動きが活発化しており、多
  数の企業が会社案内や販売活動のためにホームページを設置するとともに、効率
  性、創造性の向上を図るためインターネットを社内メールやグループウェアに活
  用する、いわゆるイントラネットの構築が進展している。


(図2 日本におけるインターネットのホスト数の推移)








  こうした状況の中で、インターネット上に多様な業種の企業が参画してサイ
 バーシティを建設する動きが活発化しており、家庭における新たな生活空間と
 して、また、企業における新たな事業拠点として発展することが期待される。


(表1 主なサイバーシティ)
名称主宰企業開始時期参加企業
サイバーパブリッシ
ング・ジャパン
凸版印刷平成6年12月住友クレジット、資生堂、小学館
等30社
NRIサーバービジ
ネスパーク
野村総合
研究所
平成7年4月ソフマップ、JTB、本田技研工業
等約40社
スマートカラークラブ三菱総合
研究所
平成7年4月ラオックス、DCカード、シャープ
等32社
Net City文化科学
研究所
平成7年7月文化科学研究所、クレイフィッシュ
等約500社
O-kini City阪急電鉄平成7年8月阪急電鉄、新阪急ホテル、祭原
等21社
キュリオシティ三井物産平成7年9月三越、越中屋、東芝、オリバー
等約30社
エレクトロニック・
コマース・ネットワーク
NTT,情報通信
総合研究所
平成7年12月松下電器産業、電通、クラリオン、
山崎製パン等141社
スマート・アイランド・
コンソーシアム
日本総合
研究所
平成8年2月セガ・エンタープライズ、NEC、サンリオ
等62社

(郵政省調べ)

 (注) サイバーシティ(仮想都市)
   ネットワークセンタにアクセスすることにより、同センタ
  において、仕事、買物、娯楽等の経済活動を営むことができる環境。




  また、携帯電話、PHSの急速な普及は、通信ニーズの動向を示す顕著な事例
 となっており、移動体通信が既に企業によるビジネス利用だけでなく広く家庭に
 まで普及しつつある。移動体通信の普及により、従来、一家に一台であった通信
 手段が、一人一台の時代に入りつつあると言えよう。


(2) 展望

 ? 新たなライフスタイルとビジネスライフ
   家庭において、グラフィカルな画面や音声によるインタフェイスを活用し、
  電子新聞・出版、ホームショッピング、娯楽、教育等の各種サービスを、ネッ
  トワークを通じて利活用しようというニーズが高まる。また、ビジネス活動に
  おいても、マルチメディアによる円滑なコラボレーション(注)等を通じて効率
  面だけでなく創造面においても生産性が向上し、その結果、テレワークセンタ
  ーや在宅勤務等、勤務地や勤務形態の柔軟な選択が可能になるものと考えられ
  る。
   当研究会がパソコン通信、インターネットの利用者を対象として実施したア
  ンケート(参考1)においても、電子メールやオンラインショッピング等、既
  にネットワークの利用が定着しつつある分野を中心に、家庭生活の各方面にお
  いてマルチメディアへの高いニーズが確認されている。

  (注) コラボレーション
     ネットワークを活用した共同作業・研究の総称。例えば、パソ
    コン等による在席型マルチメディア会議システムやパソコン画面
    上の作業ボードを共有した文書編集システムにより提供される仮
    想的な作業空間において行う共同作業。


 ? 自己創造社会への貢献
   インターネットの利用における最近の特徴は、個人によるホームページの設
  置が普及しつつあることに見られるように、自己主張、自己実現の手段として
  ネットワークが活用されつつあることである。今後、時間や場所にとらわれず、
  世界中の人々と情報交換を行い、個人が情報の送り手となって様々な情報を発
  信するというニーズが定着し、サイバーシティ等のネットワーク上において伝
  統的コミュニティには見られなかった様々な情報コミュニティの形成が進展す
  ると考えられる。


 ? 新たなビジネスの創出
   家庭や企業における情報通信ニーズの高まりに応じて、映像ソフト等のサー
  ビスを各家庭や企業に提供する様々なコンテントプロバイダや、これら映像ソ
  フト等の制作やネットワークアプリケーション等を開発する関連事業等、情報
  通信ネットワークを活用する新たなビジネスが生まれる。









2 「ニーズ」側からの料金への要請

  上記のような状況を踏まえ、家庭や企業におけるマルチメディアの普及とニュー
 ビジネスの発展を促す観点から、新しいネットワークの料金について、次のような
 配慮が求められる。


 ? 従量制よりも定額制を基本とする料金体系
   マルチメディアの利用には、映像や音声等、各種のデータ情報を高速で伝送す
  ることが不可欠であり、また、家庭生活やビジネス活動の必要不可欠な部分とし
  て、情報通信ネットワークの活用が拡大・定着する結果、長時間の通信が一般化
  するものと見込まれる(注)。
   このため、通信時間等に比例する現行の料金体系の下では、料金が高額となり
  家計や企業に大きな負担となるおそれがあるほか、予め通信コストの負担額を把
  握できないため、通信の利用を抑制するインセンティブにもなりかねない。
   したがって、定額制料金のように通信時間や情報量に比例する要素が少ない料
  金体系であることが望ましい。
   なお、定額制料金は、利用者に上記のようなメリットをもたらすだけでなく、
  コンテントサービスを提供する企業にとっても、各利用者(家庭、企業)が一度、
  ネットワークサービスを契約すると、各種コンテントサービスをどれだけ利用し
  ても通信料金の追加負担がないため、例えば家庭市場への参入が容易となるなど、
  コンテント分野での競争が促進される面がある。

  (注) 例えば、高精細度映像の伝送に必要な伝送速度(140Mbps)
    は、電話のために要する伝送速度(64Kbps)の約2,200倍。
  (注) 現在の電話利用は1日平均10分36秒


 ? 多様な料金メニュー
   マルチメディア社会では、企業のみならず家庭においても情報通信サービスに
  対するニーズが多様化する。音声伝送の場合、伝送帯域は一定であり、ふくそう
  や通話中の回線断等の品質も一定であるが、マルチメディアの利用に当たっては、
  各種情報の伝送速度は利用者個々の事情により大きく異なる。また、電子メール
  やWWWサーバ(注)へのアクセス等、必ずしも厳格な即時性を求めない通信もあ
  る。
   また、コンテント分野においては、例えば、低速で必ずしも伝送速度が保証さ
  れないサービスであっても料金水準が低廉であれば、こうした伝送品質を前提と
  した各種アプリケーションの提供が自然に活発化するとの考え方もあるところで
  ある。
   したがって、多様なニーズ(サービスグレード)に応じた料金メニューが用意
  されることが必要である。

  (注) WWW(World Wide Web)サーバ
     文字、音声、画像等を用いて作成されたマルチメディアの情報を
    蓄積するデータベース


 ? 低廉な料金
   高速の情報通信ネットワークを活用した新しいサービスは、その導入時期にお
   いて、既存の非ネットワーク系のメディアと競合する面がある(ex.ビデオ・オ
   ン・デマンドとレンタルビデオ、電子新聞と新聞)。
    したがって、電話のような既に定着したサービスに比べ、より価格センシテ
   ィブになる可能性があり、既存のパッケージ系メディアとの比較優位を実現す
   る低廉な料金であることが必要である。