マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金に関する研究会 報告書
第二部 マルチメディア時代のユニバーサルサービスについて

第1章 ユニバーサルサービスの概念とその見直し

 1 ユニバーサルサービスの概念と範囲の見直し

 2 欧米の動向






第1章 ユニバーサルサービスの概念とその見直し


1 ユニバーサルサービスの概念と範囲の見直し


 (1) ユニバーサルサービスの概念

   ユニバーサルサービスとは、国民生活に不可欠なサービスであり、誰でもが利
  用可能な料金など適切な条件で、過疎地を含むあまねく日本全国における安定的
  な供給の確保を図るべきサービスである。
   我が国の電気通信分野では、日本電信電話株式会社法第2条により、電話サー
  ビスがユニバーサルサービスに該当する。電話サービスに関しては、現在、加入
  を希望する世帯への提供は確保されており、我が国においては、電話サービスを
  対象とするユニバーサルサービスは、概ね確保されていると考えられる。


 (2) マルチメディア時代におけるユニバーサルサービスの意義
   今後、マルチメディア時代に向けて、超高速の伝送能力を持つ光ファイバが
  「新たな社会革命」とも呼ぶべき社会経済システムの革新をもたらすものと予想
  されている。1994年5月の電気通信審議会答申では、2010年までに全国の光ファ
  イバ網を整備することが提言されている。光ファイバが敷設されると、高速・広
  帯域のネットワークサービスを利用することができるようになる。更に、この
  ネットワークを通じて、様々なマルチメディアサービスにアクセスすることが期
  待される。これは前述の電気通信審議会答申における情報通信基盤の構造に照ら
  して見てみると、第1層から第3層までをカバーするもので、その関係は以下の
  ようになる。

(図16 情報通信基盤の構造とマルチメディア時代のサービス)
第4層(制度・慣習)
第3層(アプリケーション) ……… マルチメディアサービス
第2層(情報受発信機器)
第1層(ネットワークインフラ) …… 高速・広帯域のネットワークサービス、光ファイバー



 同電気通信審議会答申においては、情報通信基盤の整備によって社会経済システ
ムの革新がもたらされ、医療や福祉、教育、環境等の幅広い分野において、光ファ
イバによる高速・広帯域ネットワーク更にこれを活用したマルチメディア・サービ
スが、国民生活を大きく変えていくであろうことが指摘されている。また、「高度
情報通信社会実現に向けた基本指針」(1995年2月高度情報通信社会推進本部決定
)においても、光ファイバによる高速・広帯域のネットワークサービスを基礎とし
た新しい社会システムが、従来のシステムに取って代わることが指摘されている。

 このような過程を経て成立する社会においては、当然のことながら光ファイバに
よる高速・広帯域のネットワークサービスが社会経済の存立の基礎となる。
 同様に、ネットワークの上に実現するマルチメディア・サービスが、国民生活に
不可欠なものとなり、様々な可能性を開いていく。自然の豊かな農村に住みながら、
都会の職場にテレコミューティングしたり、高度な教育や医療を受けることもでき
るようになる。その結果、産業立地や所得水準等多くの面で生じている地域格差も
是正の方向に向かうものと期待される。

 しかし、この社会はまた、情報を知的資源として高度に活用する社会であり、情
報へのアクセスが極めて重要な社会である。例えば過疎地において、光ファイバに
よる高速・広帯域のネットワークサービスが利用できなければ、地域的な格差は是
正されるどころか、ますます拡大していくことは容易に想像できる。情報を集積し、
その資源的価値を最大限に利用できる者と、ほとんどの人が入手できる情報さえ手
に入らない者との格差は、結果として拡大し、社会的な不公平もまた拡大せざるを
えない。

 マルチメディア時代においてユニバーサルサービスを確保することの意義は、情
報を知的資源として高度に活用する社会において、情報を「持つ者」と「持たざる
者」の発生を防ぎ、結果として生じる社会的不公平を最小限にとどめることにある。
 現在は電話に限定されているユニバーサルサービスであるが、その範囲は需要動
向、技術動向、技術進歩がもたらす費用動向により変化すると考えるべきである。
マルチメデイア時代の到来を迎えるに当ってユニバーサルサービスの範囲拡大に向
けた見直しを行うことは、国として必要な政策判断といわなければならない。
















2 欧米の動向

  最近の諸外国におけるユニバーサルサービスの見直しの動きとして、米国におけ
 る1996年電気通信法の成立や英国OFTEL(Office of Telecommunications:
 電気通信庁) の諮問文書の発出、更に米国アイオワ州等における高度なネットワーク
 へのアクセスを保証するプロジェクト等が挙げられる。

 (1) 米国における1996年電気通信法の成立

   これまでの米国の1934年通信法では、ユニバーサルサービスに関する明確な規
  定はなかったが、今回の改正で、高度サービス、即ち高度な電気通信及び情報サー
  ビス(Advanced Services : Advanced Telecommunications and Information
   Services ) を含むユニバーサルサービスの確保が法律に明記された
  (1996年電気通信法第 254条)。

   その内容を見ると、

     第一に、ユニバーサルサービスとは、一定のレベルの電気通信のサービスのこ
    とをいい、そのレベルは、電気通信技術、サービスの進歩を受けて高度化する。
    その具体的な内容はFCC( Federal Communications Commission:連邦
    通信委員会 )が定め、技術の進歩を受けて定期的に見直すこととしている。

     第二に、ユニバーサルサービスの維持・発展のための原則として、以下のもの
    が定められている。
     ? 通常の通信サービスについては、公正、合理的かつ負担可能な料金により
       良質なサービスが提供されること。
     ? 高度サービスについては、すべての地域からアクセスが可能であること。
     ? 過疎地域・高コスト地域の利用者にも、都市部と合理的に同水準のサービ
       ス内容及び料金による情報通信サービスが利用できること。
     ? すべての電気通信事業者は、ユニバーサルサービスの維持・発展のため、
       公正かつ非差別的な貢献を行うこと。
     ? ユニバーサルサービスの維持・発展のため、明確で、予測可能かつ十分な
       支援制度を確立すること。
     ? 小中学校、医療機関、図書館に対し、高度な電気通信サービスが提供され
       ること。

     第三に、ユニバーサルサービス基金の負担者は、州際通信サービスを提供する
    全ての事業者であり、その支援を受ける者は、州の委員会により、適格電気通信
    事業者の指定を受けた事業者とされている。
     なお、詳細な規定については、FCCが1997年5月までに決定することが義
    務づけられている。



 (2) OFTEL諮問文書

   OFTELはユニバーサルサービス基金の1997年からの導入に向けて、1995年
  12月にユニバーサルサービスに関する諮問文書を発出した。

   第一に、OFTELは、居住地にかかわりなく利用可能な料金レベルで提供される
  基本通信サービス(Basic Telecommunication Service ) をユニバーサルサービ
  スとしている。

   第二に、デジタル通信が将来ますます基本的な多数の公共サービスを提供する手段
  となるとし、デジタル網へのアクセスを基本通信サービスに含めている。また、広範
  なコンセンサスがあり、コストが大きすぎなければ、学校等の教育機関のほか、その
  他の公共サービスの顧客向けのレベルの高いサービスを電気通信のユニバーサルサー
  ビスの枠組みに含めることが適切であるという見解を出している。

   第三に、不採算地域への基本通信サービス提供、小中学校への高度サービス、障害
  者へのサービスを確保するためのユニバーサルサービス基金の創設を提唱している。




 (3) 米国州内における高度なネットワークへのアクセスを保証するプロジェクトの
   動き

   米国のアイオワ、ネブラスカ、ノースカロライナ等の州では、州政府の主導で高度な
  電気通信ネットワークへのアクセスを保証するプロジェクトが実行されている。
   これらの州では、州政府や連邦政府の補助金を活用して高速のネットワークを構築し
  ており、その料金は都市部と農村地帯で差がない体系を採用している。


(表6 アイオワ州等における広帯域サービスプロジェクト)
アイオワ ネブラスカ ノースカロライナ
形 状 SONET T-1、Frame-relay ATM/SONET
使用形態 動画 圧縮動画、データ 動画、高速データ
料 金 5〜40?/時間 20?/時間 基本料: 2,992?/月
付加料金:23?/時間
(注) SONET = synchronous optical network
(出典:GAO Initiatives Taken by Three States to Promote
    Increased Access and Investment)





   これらの州では、州民のほとんどに利用可能なアクセスを保証するために、地
  域の公的機関から高速ネットワークにアクセスする形をとっており、ネットワー
  ク及び機器の利用料の一部を州政府及び連邦政府が支援している。
   ネットワークの広がりを見ると、アイオワでは1995年10月の時点で 157ヶ所
  の機関が接続されており、2000年までには更に 474ヶ所が追加される。ネブラ
  スカでは1996年 2月には 400以上の小中学校が接続されている。ノースカロラ
  イナも1996年 2月には 100ヶ所以上の機関が接続されている。


(表7 高度なネットワークにアクセスされている機関)                                                            
機 関 アイオワ(95/10) ネブラスカ(96/2) ノースカロライナ(96/2)
小中学校5742053
コミュニティカレッジ5024
大 学1611
医療機関 1319
図書館
その他2010
合 計157443118
(資料:GAO Initiatives Taken by Three States to Promote
    Increased Access and Investment)



   この結果、例えば人口280万人の56%が農村(ルーラル)地帯に居住し、
  10万の農場を抱える農業州であるアイオワにおいても、学生は高速・広帯域の
  ネットワークサービス(ICN:IOWA Communications Network ) を通じて
  全土で双方向のテレビ会議システムによりロシア語を学習することができる。
   また、病院の医者は、100マイル(約160?)離れたアイオワ大学に病理
  データの解析を依頼することができる。