マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金に関する研究会 報告書
第二部 マルチメディア時代のユニバーサルサービスについて

第2章 ユニバーサルサービスの範囲と拡大

 1 ユニバーサルサービスの対象となるサービスの範囲

 2 ユニバーサルサービスの範囲の拡大






第2章 ユニバーサルサービスの範囲の拡大


1 ユニバーサルサービスの対象となるサービスの範囲

(1) マルチメディア・アクセス

  高速・広帯域のネットワークサービスは、知的資源として高度に活用される情
 報にアクセスするための基本的要素である。アイオワ州においては45Mbps
 という高速・広帯域のサービスが提供されている。高速・広帯域のネットワーク
 サービスを提供するための物理的な伝送路としては、光ファイバ網等が想定され
 る。光ファイバと高速・広帯域のネットワークサービスは、アイオワ州等におい
 て先進的に提供されている遠隔教育や遠隔医療等のマルチメディア・サービスへ
 のアクセスに不可欠な要素となっている。この観点からこの報告書では、光ファ
 イバと高速・広帯域のネットワークサービスを併せて、「マルチメディア・アク
 セス」と呼ぶことにする。
  マルチメディア・アクセスに関しては、競争のダイナミズムの発揮と事業者間
 の相互接続の確保を図るとともに、多元的な事業者が提供することにより利用者
 にとってのオプションを保証すべきである。
  また、政府は、ユニバーサルサービスの負担の調整等積極的な役割を果たすこ
 とが必要である。



(2) マルチメディア・サービス

  第1章において、高速・広帯域のネットワークの上に実現するマルチメディア
 ・サービスが、国民生活に不可欠なものとなり、様々な可能性を開いていくこと
 を指摘した。仮にマルチメディア・アクセスが提供されていたとしても、マルチ
 メディア・サービスが提供されなければ、高度な情報へのアクセスが保証されて
 いるとはいい難い。例えば、アイオワ州においては、ICNの利用について、小
 中学校等の教育関係機関に対し1時間あたりの使用料金40ドルのうち35ドル
 が補助されており、この補助によって遠隔教育が可能となっているといえる。
  遠隔医療、遠隔教育、マルチメディアを利用した公共サービス等の生活に密着
 したマルチメディア・サービスについては、この研究会において実施したアンケ
 ート調査結果においても、かなり高いニーズが確認されている。こうしたことか
 ら、マルチメディア・アクセスの提供にあわせてマルチメディア・サービスの提
 供が行われることが望ましい。



  (表8 マルチメディア・サービスの必要性についてのアンケート結果)
マルチメディア・サービスの種類 必要不可欠となる或いはかなり利用されると答えた人の割合
遠 隔 医 療 64.8%
遠 隔 教 育 85.4%
マルチメディアによる公共サービス 84.4%
出典:「マルチメディア時代のユニバーサルサービスに関するアンケート」(郵政省:平成7年1月)


  マルチメディア・サービスは、生活に密着したサービスから普及をはじめ、マ
 ルチメディア・アクセスが実現してくるにしたがって、次第に多様なサービスが
 普及していくものと予想される。
  マルチメディア・サービスを提供する主体は、高速・広帯域のネットワークサ
 ービスを活用してサービスを提供する多様な主体に広がる。特に、遠隔医療、遠
 隔教育等生活に密着したサービスについては、パイロットプロジェクトの推進に
 おいて公的機関が提供主体となることも想定される。
  ここで、ユニバーサルサービスの対象として検討されるべきサービスの範囲を
 図示すると以下のようになる。マルチメディア・サービスの提供のためには、マ
 ルチメディア・アクセスが保証されていることが必要である。反対に、マルチメ
 ディア・サービスが提供されている場合であっても、地域事情によっては、電気
 通信回線に十分なアクセス容量がなく、結果としてマルチメディア・サービスの
 提供を受けることに制約が出ることも考えられる。






(図17 ユニバーサルサービスの対象として検討されるべきサービスの範囲)


















2 ユニバーサルサービスの範囲の拡大

 (1) ユニバーサルサービスの範囲の拡大の基本的考え方
   マルチメディア・アクセス及びこれを活用したマルチメディア・サービスが産
  業経済・国民生活に浸透した社会においては、情報を持つ者と持たざる者との間
  に生ずる格差は、単に情報の格差にとどまらず、教育格差や医療格差、雇用機会
  等様々な社会的不均衡を招くおそれがある。
   こうした高度なサービスは、地域的・身体的に不利な条件を持つ人々に様々な
  可能性を提供するという意味で、むしろ中山間地域等の居住者や障害者にニーズ
  が高い。したがって、今後、こうした高度なサービスについては国民生活に不可
  欠なサービスとして、誰もが利用可能な料金等適切な条件で、あまねく日本全国
  における安定的な提供の確保を図っていくことにより、様々な社会的不均衡を招
  くことを回避するべきである。


 (2) ユニバーサルサービスの範囲の拡大の四原則
   以下の四原則により、ユニバーサルサービスの範囲を拡大することが必要であ
  る。

  ? 競争のダイナミズムによるマルチメディア・アクセスの確保
    すべての人に、高速・広帯域ネットワークを利用してマルチメディア・サー
   ビスにアクセスする機会を提供し、情報を持つ者と持たざる者との格差が生じ
   ないようにすべきである。
    競争のダイナミズムは、料金の低廉化やネットワークの拡大等を通じて、ユ
   ニバーサルサービスの実現に重要な役割を果たすものであり、マルチメディア
   ・アクセスの確保も競争のダイナミズムの活用により行われるべきである。

  ? 段階的な拡大
    マルチメディア・アクセスについては、技術革新の進展やサービスの普及度合
   いを踏まえ、段階的にその範囲の拡大を図るべきである。
    また、マルチメディア・サービスについては、従来ユニバーサルサービスの対
   象とされていなかったことも踏まえ、国民的コンセンサスを得つつ段階的にユニ
   バーサルサービスの対象に加える方向で検討すべきである。

  ? 透明かつ安定的な支援制度
    競争のダイナミズムを活用したマルチメディア・アクセスの確保を図る場合、
   料金水準の引き下げに資するとともに、事業者間の負担の公平性を図る見地から
   、ユニバーサルサービスとして提供するために必要な費用が地域又は費用項目毎
   に具体的に開示されることが必要である。
    このため、競争の進展に対応し、競争中立的、透明かつ安定的な支援制度につ
   いて検討することが必要である。

  ? マルチメディア・サービスの導入促進
    マルチメディア・サービスについては、様々な地域格差の是正に資する観点か
   ら、遠隔医療、遠隔教育、マルチメディアによる公共的サービス等生活に密着し
   たサービスについては、先進的なアプリケーション開発やパイロットプロジェク
   トの推進に、政府とともに地方自治体が主体的かつ積極的に取り組むことにより、
   その導入を促進すべきである。



 (3) 範囲拡大にあたっての留意点
   ユニバーサルサービスの範囲を拡大するに当たっては、以下の点に留意する必
  要がある。

  ? 技術の進展とサービスの普及状況
    ユニバーサルサービスを国民生活に不可欠なサービスと規定すれば、技術の
   進展とサービスの普及状況に応じて、その対象を見直すべきである。何をユニ
   バーサルサービスの対象として位置づけるかは、各時点における技術の進展と
   サービスの普及状況に応じて決定されるべきである。

  ? 費用負担についての国民の合意
    同様に、ユニバーサルサービスの範囲を拡大するための費用負担については、
   負担額、負担方法の決定について、国民のコンセンサスを得ることが必要であ
   る。

  ? 見直しのある柔軟なスキーム
    ユニバーサルサービスの範囲について段階的に見直すことはもちろん、費用負
   担、提供主体、確保のための支援制度等について、不断に見直しを行うことが必
   要である。