マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金に関する研究会 報告書
第二部 マルチメディア時代のユニバーサルサービスについて

第3章 ユニバーサルサービス確保のための措置

 1 マルチメディア・アクセスを確保するための措置の要件

 2 マルチメディア・アクセスを確保するための具体的措置






第3章 ユニバーサルサービス確保のための措置


 1 マルチメディア・アクセスを確保するための措置の要件

    競争によるダイナミズムの導入は、サービスの多様化と料金の低廉化を促進し、
   ユニバーサルサービスの確保に大きく寄与するものである。
    しかしながら、短期的な採算性が極めて悪く、民間事業者のネットワーク構築に
   インセンティブが薄い一部の地域においては、マルチメディア・アクセスが確保さ
   れないおそれもある。また、身体面でハンディキャップを有する者に健常者と同様
   の利便を享受するためのサービスが必要な場合にも、十分なアクセスが確保できな
   いおそれがある。

    第2章の基本的考え方でも触れたように、今後のマルチメディア社会を展望した
   場合、情報通信高度化のメリットは、過疎地等人口が少ない、あるいは地理的に隔
   絶しているなど不利な条件を負っている地域の人々や身体面でハンディキャップを
   有する人々によってむしろ享受されるべきである。こうした地域や人々がマルチメ
   ディアの流れから取り残されることによって、社会的な不公平が拡大しないように
   するため、政府が果たすべき役割は極めて大きいと言わざるを得ない。

    我が国のユニバーサルサービスは、従来NTTが地域通信市場を独占する状況の
   下で、低費用地域から高費用地域への内部補助により確保されてきた。しかしなが
   ら、競争を一層促進し、競争の進展に伴い必要な場合には外部補助方式によりユニ
   バーサルサービスの確保を図る方が、国民経済的にみて望ましい結果を得ることが
   できると考えられる。
    第一に、競争のダイナミズムを活用する中でサービスの多様化と料金の低廉化を
   進展させることが、ユニバーサルサービスの確保に寄与する。第二に、透明な手続
   きによりユニバーサルサービスの確保を図ることができれば、ユニバーサルサービ
   スの確保に参加する多数の事業者間の負担の公平性を図ることができる。以上によ
   り、事業者自体も事業の効率性を高めることができる。


    以上の考え方に基づいた場合、ユニバーサルサービスを確保するための措置を検
   討するに当たっては、以下の点に留意する必要がある。

   ? 競争中立性
     全国あまねくアクセスを確保することが、結果的に特定の事業者を競争上、有
    利又は不利とすることのないよう配慮する必要がある。

   ? 透明性の確保
     補助制度の管理、運用の透明性が確保されていることが必要である。補助対象
    及び具体的な補助金額を確定するにあたっては、事業者から正確な費用情報が提
    出されることが重要である。

   ? 事業の効率性
     補助金を受けることにより電気通信事業者の非効率性を助長させることのない
    よう、事業者の効率的な経営の下における必要な補助金額を確定することが不可
    欠である。また、補助金支出のシステムに事業者の効率化を促すインセンティブ
    を組み込むことが望ましい。

   ? 実施費用が小さく、わかりやすいこと
     補助金原資の徴収及び配分に係る費用が、可能な限り小さいことが望ましい。
    ただし、補助制度の管理・運用上の透明性の確保とは相反する側面もある。また
    、国民のコンセンサスを前提として導入する措置であるため、国民にわかりやす
    い制度である必要がある。


















 2 マルチメディア・アクセスを確保するための具体的措置

    競争下においてマルチメディア・アクセスを確保するための具体的措置として、
   ここでは、以下の4つの方式を検討することとした。

    なお、米国では、ライフライン・サービスやリンクアップアメリカという低所得
   者補助のための個人補助制度があるが、我が国の所得格差の状況や個人補助制度の
   実施に要する費用の大きさを勘案して、今回の検討の範囲には入れていない。

    ? 内部補助方式
    ? ユニバーサルサービス基金方式
    ? アクセスチャージ方式
    ? バウチャー方式



  (1) 確保方策の概要

   ? 内部補助方式
     独占的事業者が、需要密度の高い地域の収益を高費用地域のサービス提供の
    ための原資として用いることにより、同一料金でサービスを提供する方式であ
    る。この方式の下においては、低費用地域の利用者は実際の費用に比べ、高い
    料金を負担していることになる。
     競争下においては、一般的に新規参入事業者は需要密度の高い地域から参入
    することから、独占的事業者は高費用地域のサービスに対する補填の原資を失
    うことになり、高費用地域にサービスを提供するインセンティブを失うことに
    なる。
     内部補助方式のメリットとしては、独占的事業者の内部補助で行われるため、
    管理費用が小さいことが指摘されるが、反面、独占的事業者による非効率的な
    運営を招くおそれがあること、ユニバーサルサービスを維持するため他のサー
    ビスの料金を高く設定するおそれがあること、あるいは外部からユニバーサル
    サービスの維持にかかる費用の適正さを検証することができないことなどの問
    題がある。
     総じて、内部補助方式は独占を前提として成り立つものであり、競争のダイ
    ナミズムを活用してユニバーサルサービスを確保する場合は問題が多い。

   ? ユニバーサルサービス基金方式
     内部補助方式が電気通信事業が独占体制で運営されてきた際に各国で採用さ
    れてきた方式であるのに対し、ユニバーサルサービス基金方式は競争下でユニ
    バーサルサービスを確保するために考えられてきた方式である。
     この方式はユニバーサルサービスの提供義務を広範な電気通信事業者が負う
    ことを前提とし、自らが提供するか、自らが提供しない場合は経済的負担を負
    うことを事業者に選択させるものである。
     具体的には補助なしでは電気通信事業者がサービスを提供するインセンテイ
    ブが働かない地域又は世帯にサービスを提供するために要する費用(いわゆる
    ユニバーサルサービス・コスト)を計算し、ユニバーサルサービスの提供義務
    を負う全ての事業者が予め設定された基金に拠出を行うスキームである。高費
    用地域においてユニバーサルサービスを提供する事業者は、その基金から補助
    を受けることになる。
     この方式により、不採算地域における効率的なサービスの提供等競争のダイ
    ナミズムのメリットを最大限享受しながらマルチメディア・アクセスの実現を
    図ることができ、また、ユニバーサルサービスの確保に参加する多数の事業者
    間の負担の公平性を図ることができる。したがって、競争中立的な方式であり、
    また適正に実施されれば、透明性の確保や事業の効率性の確保にも寄与すると
    考えられる。反面、費用算定、補助額の決定あるいは費用徴収のための管理費
    用が必要である。
     米国ではAT&T分割に関連して導入されており、英国のOFTEL及びE
    Uでもこの方式が競争下のユニバーサルサービス確保の方策として議論されて
    いる。

   ? アクセスチャージ方式
     競争下で高費用地域でのサービス提供を確保する方式として、検討されてい
    る方式の一つであり、高費用地域にサービスを提供する事業者(通常は、従来
    の独占的事業者)が、高費用地域にサービスを提供する際の費用(ユニバーサ
    ルサービス・コスト)を新規参入事業者にアクセスチャージとして負担を求め
    る方式である。
     この場合、独占的事業者が相互接続する事業者にアクセスチャージを求める
    際に併せてユニバーサルサービス・コストのチャージを付加することで、徴収
    のコストを軽減することができる。ただし、費用算定や補助額に関する管理費
    用は必要である。
     しかし、この方式では、高費用地域にサービスを提供する事業者が他の事業
    者に一方的にユニバーサルサービス・コストを課すことから、費用の適正さや
    透明性の確保に問題があるなど、独占的事業者が存在する場合にはうまく働か
    ない可能性が指摘されている。

   ? バウチャー方式
     現時点では現実に採用されているシステムではない。高費用地域の世帯にサ
    ービスを提供するための費用を計算し、補助額を確定する。補助対象者に一定
    のクーポンを支給し、クーポン受給者は自らが選択した電気通信事業者からサ
    ービスを受ける。当該事業者はそのクーポンに相当する金額を別途補助される
    。補助金の原資として、電気通信事業者の拠出が想定されるが、公的資金を導
    入することも考えられる。
     ユニバーサルサービス基金方式及びアクセスチャージ方式は、事業者に対す
    る補助であるため、結果的に高費用地域に居住する高所得世帯も補助される場
    合がある。バウチャー方式は真に補助を必要とする個人に対して補助を行うも
    のであるため、高所得者に対する補助の問題が回避できるとともに、その個人
    は効率的な電気通信事業者を選択することができるというメリットがある。
     しかしながら、この方式が現実に適用されるのは、選択可能な事業者が現に
    存在していることが前提である。すなわち、学校や商店のように既存の施設が
    存在し、サービスの提供が行われている場合には適用可能であるが、マルチメ
    ディア・アクセスのように、現在、設備そのものが存在せず、しかも整備に多
    額の費用がかかる場合には直ちに適用が難しい。
     また、個人補助方式であって、実施にあたっての費用が大きいこともデメリ
    ットとして指摘されている。




  (2) 検討
    総じてみると、まず内部補助方式については、電気通信事業が独占的に提供さ
   れていた時代のものであり、競争中立性や透明性の確保、事業の効率性確保の点
   から問題が多い。アクセスチャージ方式については、現在の相互接続料金の決定
   と同じく、料金決定が当事者同士の交渉に委ねられる部分が大きく、透明性に欠
   けるなど地域通信網を独占する独占的事業者が存在する現在の我が国の状況には
   適していないと考えられる。バウチャー方式は、透明性の確保、事業の効率性確
   保の点から優れた制度であるが、個人補助制度のため、実施に係る費用が大きく、
   また、独占的事業者が存在する現在の我が国の状況においては、利用者が選択可
   能な複数の事業者が存在しない点に問題がある。また、バウチャー(仮想のクー
   ポン)という概念自体が国民にわかりにくく、この制度が検討された米国では、
   食料切符( Food Stamps )等の類似制度が社会的に定着しているという違いがあ
   る点も考慮しなければならない。
    上記の方式に比べ、ユニバーサルサービス基金方式は、米国で運用の実績があり、
   英国においても導入を前提に検討されている方法であって、競争のダイナミズムを
   活用する中でサービスの多様化と料金の低廉化を進展させつつ、事業の効率性を高
   め、透明な手続きによりユニバーサルサービスの確保を図るための適切な方式であ
   るといえる。
    マルチメディア・アクセスを確保するための措置の要件に照らして各方式を比較
   検討してみると、次のようになる。



(表9 各補助方式の比較)
内部補助方式 ユニバーサルサービス基金方式 アクセスチャージ方式 バウチャー方式





ユニバーサルサービ
スを維持するため、
他のサービスの料金
を高く設定する必要
があり、競争下では
適当でない。
一定の要件を満たす
事業者であれば、ユ
ニバーサルサービス
提供に必要な費用に
ついて補助を受ける
ことができるため、
競争中立的である。
独占的事業者が料金
設定を行う場合、コ
スト計算が恣意的に
なるおそれがある。
利用者が事業者を自
由に選択できるため
、競争中立的である。

選択可能な複数事業
者がない場合、うま
く機能しない。







事業者の内部で収支
相償するため、外部
からユニバーサルサ
ービスにかかる費用
の適正さを検証する
ことができない。
ユニバーサルサービ
スに関する費用情報
が提供され、額の決
定がオープンならば
、透明性は確保でき
る。
  同 左

独占的事業者が存在
する場合にはうまく
働かない可能性があ
る。

額と補助対象事業者
の決定がオープンな
らば、透明性は確保
できる。





内部補助方式 ユニバーサルサービス基金方式 アクセスチャージ方式 バウチャー方式
事業の
効率化
の確保
独占的事業者による
非効率的な運営を招
くおそれがある。
詳細な費用算定を行
い、効率的経営の下
での補助額を算定す
ることにより、効率
性は確保可能。
効率性のメルクマー
ルの客観的な決定が
課題。
効率性を確保するた
めには、詳細な費用
算定を行い、効率的
経営の下での補助額
を算定することが必
要。独占的事業者が
料金設定を行う場合
、困難が伴う。
非効率的な事業者は
、少ない利益しか得
られないため、効率
性は確保できる。
実施費用
が小さく
わかりや
すいこと
独占的事業者の内部
処理で行われるため
、管理費用は小さ
い。
費用算定、補助額の
決定、費用徴収に関
する管理費用が必
要。
費用算定、補助額に
関する管理費用が必
要。

ただし、費用徴収や
管理機関に関する費
用は不要。

個人補助の制度とな
るため、実施のため
の費用が大きい。

額及び補助対象の決
定、資金の交付等に
関する機関が必要。

我が国は、バウ
チャー制度の例がな
く、わかりにくい。