第1章 デジタルネットワーク社会の幕開け
   〜変わりゆくライフスタイル〜


第2節 生活と通信

  1. 地方行政サービス
  2. (3) メディアの先進的な活用事例

    ア 情報提供サービス
    (ア) 自治体のホームページ
     千葉市(千葉県)では、インターネットのホームページを開設しているが、市民のインターネット普及率がまだ低いことから、ホームページで提供している情報を、ファクシミリを通じて利用することができるインターネットファクシミリサービスを9年12月から開始している。インターネットファクシミリサービスでは、ホームページの情報が自動的にファクシミリ情報に変換されるため、新たにコンテントを作成する必要はない。
     また、鎌倉市(神奈川県)では、ホームページにおける提供情報のうち、特に生活情報を充実させている。行政手続の案内だけでなく、病院や市立施設の場所と業務内容の案内、ごみの分別方法、主要駅の始発終電情報など、生活に密着した情報を提供している。
    (イ) コミュニティ放送
     市町村内の一部の地域において放送を行うコミュニティ放送は、生活情報、行政情報、災害情報などの地域に密着した情報を日常的に提供するメディアとして地域住民に親しまれている。
     武蔵野市(東京都)の出資する第三セクター「むさしのFM」では、市政関連情報、生活便利関連情報等を中心に、生放送の特長を生かした放送を行っている。
     市政関連情報については、武蔵野市及び隣接する三鷹市(東京都)の行政情報を提供している。武蔵野市の行政番組は、30分番組が1日3回、毎日、市からファクシミリで送られてくる情報が提供されるほか、市の行政担当者が毎日10分程度出演しており、市の事業について市民に直接語りかけている。「むさしのFM」では、市民から寄せられた市政への意見等はすべて市に伝え、市と市民の窓口的役割を担っており、市の他の制度より市のレスポンスが速いと市民に好評である。
     また、生活関連情報については、各町単位に総勢161名の市民ボランティアの協力等を得ながら、交通情報や地域のイベント情報等をきめ細かく提供している。

    イ 公聴活動
     インターネットの双方向性を活用し、行政と住民・事業者とのコミュニケーションを高め、地方行政への住民の参画拡大を図る取組がなされている。
     中央区(東京都)では、電子メールやネットニュース、電子掲示板等を用いることにより、町づくりに関する住民の意見を広く収集した。都心に位置する中央区は、昼夜間人口の格差が非常に大きく、町づくりを検討するにあたって、区民のみならず在勤する人たちをも含めた意見を収集する必要があった。そこで、昼夜を問わずに意見収集が可能なアクセス手段としてインターネットを活用したのである。
     その結果、電子メールや電子掲示板等を介して寄せられた町づくりに対する意見の総数は359件に達している(ファクシミリ等でも募集したが、寄せられた意見は数件程度)。電子メールや電子掲示板等は、従来のコミュニケーション手段よりも意見を送ることに対する心理的な障壁が低いため、これまで地方行政に参画していなかった層にも、参画を促す効果があるものと思われる。
     なお、こうした電子媒体を利用した議論では、インターネットの利用者属性の偏りがあるため、議論の結果を自治体が活用する場合には注意が必要となる。ネットニュースを使った議論において、特定の発言者に発言が集中し、他の参加者の発言に対する議論が続かないといったことのないような体制の確立などが重要となる。

    ウ 公共施設予約サービス
     大阪府及び府内市町では、共同で大阪地域情報サービスネットワーク「オーパス」において、スポーツ施設予約サービスの提供を行っている(第1−2−80図参照)。9年度現在で9自治体のスポーツ施設(127施設、365面)の利用申込みなどが行え、10年度以降、更に4団体が参加予定である。
     利用登録者は、電話・ファクシミリ・パソコン通信・街頭端末などの複数のアクセス手段を使い、予約の申込みや施設利用の抽選結果の確認を24時間行うことができ、使用料については口座振替により自動的に徴収される。
     「オーパス」は、9年度末現在で約383万件の利用がなされるほど利用状況は高く、住民からは「抽選や申込みに行く手間が省けた」、「24時間利用可能」など好評である(第1−2−81表参照)。


    エ 行政手続サービス
    (ア) 郵便局におけるワンストップ行政サービス
     郵政省では、9年11月26日から10年1月末まで、郵便局の情報端末から自治体が提供する様々な公的サービスの申込み等を行うことができる「ワンストップ行政サービスの実験」を、台東区(東京都)、岡崎市(愛知県)、竹富町(沖縄県八重山郡)の3地域において実施した。この実験により、利用者が使いやすい情報端末の開発、サービスメニューに関する問題点・要望の調査分析、ネットワーク上のセキュリティ、郵便局と自治体との連携の在り方について検証した。
     実験地の一つである竹富町では、実験のモニターが、ICカードを利用して、情報端末から行政資料の送付請求のほか、施設の利用許可、ホームヘルパーの派遣申請、日常生活用具の給付・貸与申請等、各種許可申請の手続を行った(写真1参照)、(写真2参照)。
     また、実験には40名のモニターが参加したが、2か月余りの間で、各種許可申請の件数は約200件であった。


    (竹富郵便局)


    (情報端末)

    郵便局におけるワンストップ行政サービス

    (イ) 双方向サービス
     情報端末で取り扱える定型的な手続にとどまらず、職員との相談を要するような専門的な手続についても、通信手段を介して提供するための取組がなされている。
     浜松市(静岡県)では、自治体ネットワーク施設整備事業として電子市役所構想を推進しており、このシステムはテレビ電話を使い、市民の身近な場所である市民サービスセンター等に設置される電子市役所ブースと市役所を双方向で結び、相談や手続きを行うというものである。
     具体的には、職員の遠隔操作により、相談や手続に必要な資料や申請書類を、職員及び市民側、双方の画面上に表示し、ブース内のプリンタに印刷、申請書類の記入方法について職員側からその画面を指示しながら説明、ブースに設置されたスキャナーを職員が遠隔操作し、申請書を読み込むことにより、職員側で申請書の受信を行う。
     課題としては、テレビ電話を用いて円滑なコミュニケーションを行うためには、1.5Mbpsの通信容量を確保する必要があるため、通信回線の整備に費用がかかることや、また、本格的サービスの実施にあたっては、電子市役所ブースからの電子申請行為が正式なものと認められるかという制度的な問題がある(第1−2−82図参照)。


    (ウ) ネットワークサービス
     インターネットを利用した新しい行政サービスも実施されている。
     千葉市では、現在、宅地開発許可に関する申請書様式のダウンロードサービスをインターネット上で提供しており、今後は提供方式の充実を図ることとしている。
     このようなサービスは、申請書を市役所に取りに行く手間が省け、市民の利便性向上につながるサービスであり、ホームページの新しい利用方法といえる。

    (4) 効用と課題

    ア 効用
     情報システムを活用することにより、住民が情報提供や行政手続サービスを受ける上での時間的な制約や、利用場所に関する制約を解消し、住民の利便性向上につながる。特に、ワンストップ行政サービスは、身近な場所で各種の申請手続等を一括して行えるなど効果が高い。また、今後は、情報システムが行政参画の手段として有力になると考えられる。

    イ 課題
     住民サービスの向上に向けて、インターネット等のネットワークの活用を推進するためには、本人確認や個人情報保護などの技術開発のほか、ネットワーク利用に即した法制度の整備を行う必要がある。
     また、自治体においても、端末の所有状況・情報リテラシーにより住民の享受できるサービスに差が生じないよう、街頭端末の設置、インターフェースの改善等に配意することが重要である。さらに、自治体職員の情報リテラシーの向上を図るとともに、住民サービスを念頭においた行政内部の情報化を進めることも必要である。



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