第2章 我が国の情報通信市場の現状と課題

1 第1次情報通信改革の成果
 (1) 多数の事業者の参入
   第一種 123社、第二種 2,805社(平成8年1月末)
 
 (2) 競争分野の料金の低廉化
  (例)(ア) 自動車・携帯電話の基本料
       3万円(昭和60年)-> 7,400円〔平成7年〕
     (イ) 長距離電話(東京−大阪、平日昼間3分間、NTT)
        400円(昭和60年)->NTT 180円(NCC 170円)(平成5
      年)(NTT 140円で申請中・NCC 130円で3月19日から実施)
     (ウ) 国際電話(日米間国際自動ダイヤル通話、昼間3分間)
        1,530円(昭和60年)->KDD 480円(NCC 470円)(平成
      7年)
 
 (3) サービスの多様化、料金体系の多様化
   市外通話等の月決め割引、特定時間帯月決め定額制等
 
 (4) 情報通信産業の設備投資等我が国の経済発展への寄与
 (5) 移動体通信分野の飛躍的な発展
   移動電話の加入者数:4万(昭和60年4月) -> 938万(平成8年1月)
  
2 今後の課題
 (1) 独占的分野での料金低廉化(引上げから低廉化へ)
   NTTの事実上の独占的分野となっている加入電話の基本料、公衆電話
  の市内通話料等については、料金の引上げが行われている。
  (例)                昭和60年      現在
      NTTの加入電話(基本料)   1,550円   ->  1,750円
      公衆電話(市内通話、昼間3分)  10円   ->   30円
 (2) 内外価格差の解消
   国際比較の視点に立てば、一部の料金を除いて、我が国の通信料金に割
  高感がある。
  (例) 電話の加入時一時払金:米英独仏の4〜13倍
      国内長距離電話料金 :米英独仏の1.3〜4倍
      近距離専用線の料金 :ニューヨーク、ロンドンの3〜6倍
  
 (3) サービスの多様化等
   米国では、我が国に比べ、サービスメニューが多い。
  (例) 長距離通話の割引サービスの種類
      米国AT&T:17種類  NTT:5種類
    
 (4) 地域通信分野の競争促進
   地域通信分野では、NTTが県内通話回数の99%を占める独占的状況
  -> この地域通信網の効率化が、これを足回りとして利用する国内、国際
   を通じたあらゆる事業者の料金の低廉化を左右
  
 (5) 公正有効競争の促進
  ア 接続をめぐる問題
    例:VPN(仮想専用網)サービスにおける郵政大臣の接続命令(平
      成6年12月)
       NTTのサービス開始  平成6年2月
       NCCのサービス開始  平成7年5月
  イ 個人情報の利用(本来の目的外利用)
  ウ 取引条件をめぐる問題
   (例) NTTにおける設備使用料(鉄塔・ガス保守設備)に係る社内
      取引が長距離系NCCとの間における取引と同一の取引となって
      いない。
  
 (6) 相互参入の促進
   国内通信/国際通信、地域通信/長距離通信、固定通信/移動通信、通
  信/放送、通信インフラ/コンテント等の事業分野間の相互参入を促進す
  ることが課題
  
 (7) 国際競争力の向上
  ア 海外市場への展開
    BT 104億ドル、AT&T92億ドル、NTT1億ドル
   (1987年から1993年の海外投資累計額。通信機械工業会資料)
  イ 海外事業者との提携
    国際通信市場の競争(3つのグループ化の動き)
   (ア) ワールドパートナーズ…AT&T
   (イ) コンサート     …BT、MCI
   (ウ) グローバル・ワン  …ドイツテレコム、フランステレコム、スプ
                リント
  ウ グローバル通信サービスの提供
    低軌道周回衛星通信技術等の移動通信技術の開発により、容量には一
   定の制約があるが、利用者が国境や位置を意識せず、距離に無関係な料
   金体系のサービスが可能となる。
   
 (8) 情報化格差の解消(日米間に大きな格差)

米 国日 本1人当
たり米/日
備 考
電子メールボックス数(万)4,00031361994年  
インターネット接続ホスト数(千台) 6,053269111996年1月
パソコン出荷台数 (万台)1,84033531994年
データベース売上高(億円)14,3152,10831993年
CD-ROM市場規模  (億円) 6,30083041993年
CATV加入数   (万)6,102221131995年
移動電話加入数   (万)2,81553531995年6月
 (9) 研究開発力の向上
   対米劣位に転化
          (出典)科学技術庁「民間企業の研究活動に関する調査報告
        (平成6年度)」
  
   我が国としては、現状を低下させないとか、あるいは現状を維持すると
  いった言わば防御的な視点でなく、現状を改革し向上させる必要があると
  の視点に立って、より一層の研究開発力の向上を課題とすべきである。
  
 (10) コンテントの発展
   CD−ROMなどについて、十分な発展が見られていない。
  
3 「日本電信電話株式会社法附則第2条に基づき講ずる措置」の結果の評価
                           
 (1) 政府措置の推進
   郵政省及びNTTは、これらの措置の推進、実現に努力してきたが、構
  造的措置を伴わないものであったことから、成果を挙げたものもあるが、
  総合的に見れば実現が不十分な点が多い。
 
 (2) 公正有効競争の促進
 (例)(ア) 事業部制の徹底等
      事業部制導入後も接続交渉の難航・長期化、情報流用に関する事
     例の発生など公正有効競争上の問題が発生している。
      また、NTTにおいて、地域・長距離一体型の営業が行われてお
     り、公正有効競争上の問題が改善されていないとの指摘もなされて
     いる
    (イ) 接続の円滑化
      NTTにおいて接続料金の低廉化や技術的条件のオープン化への
     インセンティブが働きにくい状況は改善されていない。
    (ウ) ネットワークのオープン性の確保
     (a)  オープンネットワーク協議会での協議は円滑に進んできたとは
      言えない状況にある。
     (b)  NTTの加入者交換機等への接続についてのNTTの方針発表
      は、前進と言える。一方で、標準的なインタフェースが用意され
      ない場合、接続までの期間が長期化する可能性があること、コス
      トの範囲及び算出方法に透明性がなければ、NTTの使用コスト
      とNCCに負担を求めるコストが同水準か検証できないこと、コ
      ストいかんによってはNCCが負担できず結果的に接続できない
      可能性があることから、評価が困難な点が存在する。また、実現
      したとしても、加入者交換機及び加入者線の独占的状態は継続。
    (エ) 内部相互補助の防止
    (オ) 情報流用の防止
    (カ) 情報の積極的開示
    (キ) 研究開発成果の普及
    (ク) 移動体通信業務
      NTTからの移動体通信業務の分離により、内部相互補助、情報
     流用などの公正有効競争上の問題が改善され、また、地域分割によ
     り、地域ごとに参入している移動系NCCとNTT移動通信網各社
     が同等の立場で競争を行う基盤が整備された。
    (ケ) 端末機器販売業務
    (コ) 衛星通信業務
    (サ) デジタル化の前倒し
      平成9年度末までにデジタル化を完了する計画が順調に推移して
     おり、成果として評価できる。
    (シ) 番号計画の在り方
    (ス) 単位料金区域(MA)の設定の在り方
    (セ) 電気通信事業者用割引料金の導入
  
 (3) NTTの経営の向上等
 (例)(ア) 合理化の推進
     (a) 民営化当時の31万人を平成6年度末に20万人以下の体制にする
      など要員数の削減に努めてきたことは成果として評価。他方、N
      TT総費用に占める人件費と作業委託費の合計の比率は、
       民営化時41.8% -> 平成5年度47.9%
     (b) 総務庁の行政監察に基づく勧告において、番号案内業務等にお
      いて、業務量に応じた要員の合理化等が必要との指摘。
     (d) 上記勧告において、郵政省は、NTTに対し、新たな合理化計
      画を自主的に作成し、経営の効率化を図るよう指導する必要があ
      るとの指摘。
       これを受け、平成7年9月に、NTTから郵政省に対して、改
      善状況の報告が行われた。しかし、この報告内容について具体的
      な措置内容及び実施時期が明らかになっていないことから、これ
      らを明らかにするよう、同月に郵政省から指導を行っているが、
      NTTは、現在でも、これらを明らかにしていない。
     (e)  NTTは2000年までに15万人体制を実現することを発表したが
      、合理化の具体的な措置内容及び実施時期が明らかにされておら
      ず、現時点ではどの程度のコスト削減効果が生じるかが不明確。
    (イ) 保守部門
    (ウ) 株主への利益還元(NTTデータ通信(株)株式売却益をもとにした
     NTT株主へのNTT株式の無償交付(1株につき0.02株))
    (エ) 規制の在り方
     (a) これまで実施してきた主な規制緩和は次のとおり。
      i)平成4年5月、NTT、KDDの外資規制を緩和するととも
       に、NTTについてエクイティ・ファイナンスの円滑化を実施
      ii)売り切り制を導入(平成6年4月携帯・自動車電話、平成7
       年3月無線呼出し)
      iii)平成7年10月、電気通信事業法改正により、国民生活、国民
       経済に密接に関連した料金以外は事前届出制とし、認可対象と
       なる料金の数を半分以下に縮減
      iv)平成8年1月、業務委託の弾力化、料金規制の一層の緩和な
       どを盛り込んだ「『第2次情報通信改革』に向けた規制緩和の
       推進について」と題する規制緩和策を郵政省において発表
     (b) 規制の在り方に関しては、例えば、次のような指摘がある。
      i)現行の接続に関する制度は、事業者間の協議に委ねることを
       原則としているが、独占的な地域通信網を有するNTTとの接
       続については、このことが結果的に、接続交渉の長期化の一因
       となった面もある。
        したがって、接続の義務化や接続条件の約款化などルールの
       策定等について行政が早期に法的措置を含め検討すべきである。
      ii)NTTは国内通信、KDDは国際通信という区分は、従来、
       専業体制の下で能率的な設備構築、サービス供給を行うには有
       効であったが、相互参入の促進を通じた情報通信分野の一層の
       活性化を図るためには、見直しが必要となってきている。
        さらに言えば、NTTの国際通信への進出については構造的
       な措置が前提になるにしても、ボトルネック設備を有しないK
       DDについては国内通信業務への参入を早期に認めるべきであ
       る。