第4章 NTTの在り方

  
  
1 NTTに期待される役割
 
 1-1 低廉な料金、多様なサービスの実現
  (1) 低廉な料金
   
  (2) 多様なサービス
  
 1-2 公正有効競争条件の整備
  
 1-3 接続の円滑化
  
 1-4 情報通信産業の国際競争力の向上
  (1) 海外市場への展開
  
  (2) 海外事業者との提携
   
 1-5 コンテント事業の発展とのかかわり
   
 1-6 研究開発力の向上
  
 1-7 情報通信基盤整備への寄与
  
  
2 NTTの再編成の意義
 
 2-1 再編成を必要とする理由
  (1) ボトルネック独占解消による競争の促進
   
  (2) 国民利用者に対する低廉かつ多様なサービスの実現
   
  (3) 強力な競争単位創出による国際競争力の向上
   (ア) NCC、CATV、コンテント事業などとの多様な提携、競争関係
    を生み出す。
   (イ) 海外市場への展開についても、新NTT各社が、メーカや商社と連
    携した活動を強める。
   (ウ) 長距離通信会社(長距離NTT)は、国際通信との兼業が可能とな
    ることによって、世界的な事業者連携に迅速かつ多元的な対応が可能
    となる。
    
  (4) 再編成を行わない際の問題
    仮に、NTTの再編成を行わない場合は、(1)〜(3)に述べる効果が期待
   できないほか、次のような問題がある。
   (ア) ボトルネック独占の存続により、NTTの経営効率化のインセンテ
    ィブが高まらない、公正有効競争上の問題が継続する。
   (イ) 非構造的措置のみによる競争促進策については、その実効性に限界
    があるとともに、規制の時間とコストが大きくなりかねない。
   (ウ) 競争のダイナミズムが将来とも生じにくい。
   (エ) 現行1社体制のまま、国際通信事業その他の新たな競争分野に進出
    していくことは、制限されざるを得なくなる。
   (オ) NTTが現在のような巨大な経営組織であり続けることは、「スピ
    ードの経済性」の追求を行うことを困難にする。
  
 2-2 再編成に際して考慮すべき事項
  (1) ユニバーサルサービスの確保
    国民生活や社会経済活動に不可欠な電話を中心とする情報通信サービ
   スは、福祉サービスなども含めて、今後とも、現行の水準より低下する
   ことのない状態で提供が確保される必要がある。
    NTTを再編成する場合にも、これらを確保することができるよう再
   編各社の財務的な基盤について十分な検討を行うべきである。
  
  (2) 災害時その他非常時の通信の確保
    NTTを再編成する場合にも、多数事業者間の連携による非常時の通
   信の確保が的確に行われるよう、同様な配慮が必要である。
   
  (3) 利用者の利便の確保
    NTTの再編成により、現在NTTが提供しているサービスを複数の
   会社が提供することとなっても、ネットワークの円滑な接続や受付窓口
   の一元化が実現されるよう再編各社間で体制の整備が図られる必要があ
   る。
  
  (4) 再編成に伴う統合の利益の確保
    国際通信網が各国の事業者間の相互接続によって成り立っていること
   に示されるように、統合の利益は異なる事業者間でも確保が可能である。
  
3 再編成の具体像
  
 3-1 NTTの経営形態の在り方
(ア) 現行NTT ->長距離通信会社と2社の地域通信会社に再編成

(イ) 長距離通信会社
 (a) 完全民営化
 (b) 国際通信、CATV、コンテントなどの新規事業への参入を可能
  とするとともに、地域通信分野への参入も可能
 (c) 現在のNTTデータ通信(株)、NTT移動通信網(株)、NTTパーソ
  ナル通信網各社の株式を継承

(ウ) 地域通信会社
 (a) 電話のあまねくサービスを確保するため、特殊会社とするが、地
  域通信市場における競争の進展状況に応じて、最終的には完全民営
  化
 (b) 各社間の相互参入を認め、既存営業エリア外での電話、CATV
  、コンテントその他の業務への参入が可能
 (c) 既存営業エリア内においては、独占力が行使されるおそれがある
  ため、当面、長距離通信(エリア内、エリア発信)、国際通信、C
  ATV、コンテント等への参入は制限

(エ) 以上の措置は、株主、債権者の権利確保に十分配意しつつ実施

(オ) 再編成の時期は、平成10年度中を目途
 3-2 新しい市場におけるNTTの姿   (1) 基本的視点     次のような基本的視点に基づき、再編成を行うこととする。    (ア) NTTの潜在的な力を全面的に開花させ得る、自由化を目指した体     制とする。    (イ) 多元的な主体による公正有効競争を促進する体制とする。    (ウ) 再編成会社間のヤードスティック競争とともに、相互参入による直     接競争の創出を目指す。    (エ) 公正有効競争の確保を前提として、再編成後の会社の業務範囲を可     能な限り弾力化する。    (オ) 再編成後の各社の積極的な海外事業展開、グローバルな国際通信ニ     ーズへのより多元的な対応など我が国の国際競争力の向上につながる     体制とする。    (カ) 現在のNTTの研究開発力の維持はもちろんのこと、多元的な研究     開発体制の創出を通じて、我が国の研究開発力が向上する体制とする。    (キ) 以上を通じて、我が国の情報通信産業のダイナミズム創出を実現す     ることにより、料金の低廉化、サービスの多様化等国民利用者の利益     の増進を図る体制とする。      (2) 長距離通信会社(略称「長距離NTT」)    ア 新会社の区分      長距離NTTは、現行の長距離通信事業部(おおむね県間通信)を     基本としてNTTから分離。    イ 料金低廉化、サービスの高度化・多様化      長距離NTTが、NTTの独占的地域通信網と完全に分離されるこ     とによって、長距離通信市場における公正有効競争が飛躍的に促進。     その結果、長距離NTTの経営の効率化が図られ、料金の低廉化、サ     ービスの高度化・多様化等の成果が期待できる。    ウ 新規事業への参入      長距離NTTは、例えば、国際通信、地域通信、移動体通信、CA     TV、コンテント事業等の業務を行い得る。    エ 主要子会社株式の承継      長距離NTTは、現在のNTTデータ通信(株)、NTT移動通信網(株)、     NTTパーソナル通信網各社の株式を承継する。      また、これによって、これら子会社が独占的な地域通信網と分離さ     れる結果、データ通信分野及び移動通信分野における公正有効競争条     件の整備の徹底が実現される。    オ 完全民営化      長距離NTTは、長距離系NCCと同様に完全民営化。    カ 海外市場への展開、世界的連携への参加、機動的経営      長距離NTTは、経営管理規模から見ても機動的な経営を展開して     いくとともに、海外市場への展開や世界的な事業者連携への参加を積     極的に行うことによって、国際競争力の向上が図られると考えられる。    キ 政府保有株式の早期売却      長距離NTTについては、政府保有義務を廃止。再編成後、計画的     かつ早急に政府保有株式を売却。    ク 料金規制の緩和     i)長距離NTTの提供する長距離通信料金については、現行認可制      をインセンティブ規制に緩和することを検討     ii)長距離NTTの提供する移動体通信、国際通信の料金については      、事前届出制に緩和することを検討    ケ 接続規制      接続協定に関する現行認可制について、接続条件を約款化した場合     には、事前届出制に緩和することを検討        (3) 地域通信会社(略称「地域NTT」)    ア 新会社の区分      地域NTTは、現行の地域通信事業部を基本として形成し、東NT     Tは北海道・東北・関東・東京・信越より、西NTTは東海・北陸・     関西・中国・四国・九州より成る。    イ あまねく電話の確保      再編成時の既存営業エリア内の「地域電話」業務については、あま     ねく提供する義務を引き続き課す。    ウ ヤードスティック競争及び直接競争      地域NTT各社間のヤードスティック競争の効果を生み出すととも     に、長距離NTT、NCC等の地域通信分野への参入、地域NTTの     相互参入により、直接競争が長期的に進展していくことが期待される     。    エ 直接参入の形態      地域通信会社が相互参入する直接競争の形態としては、バイパス事     業、CATV事業、コンテント事業等様々な形態が考えられる。    オ 地域通信分野の料金低廉化、サービス多様化      このような競争の進展の中で、地域通信分野においても、経営の効     率化が図られ、料金の低廉化、サービスの多様化が進展。      また、地域2社体制においては、料金の低廉化、サービスの多様化     などの進展度合いに相違が生じることはあり得ても、現行水準より悪     化することは想定し難い。さらに、電話サービスの維持にとどまらず     、光ファイバなど新たなネットワークインフラの整備も円滑に遂行さ     れることが期待できる。    カ 海外市場への展開      地域NTT各社は、長距離NTTと同様、各々独自にメーカ、商社     等と連携しつつ、競って海外市場へ展開することが期待できる。      また、地域が2社に再編成されることによって、現在に比べ経営管     理規模から見た改善がなされ、機動的な経営が展開されることが期待     されるとともに、企業としての国際競争力の向上にもつながるものと     考えられる。    キ 東京一極集中の是正      西NTTの誕生によって、東京一極集中是正に資することが期待さ     れる。    ク 既存営業エリア内の事業拡大      独占力行使のおそれがあるため、当面、長距離通信、国際通信、C     ATV、コンテント等への参入は制限される。ただし、地域における     競争の進展による独占力行使の可能性の低下に応じて、可能としてい     くことが望ましい。      なお、そのため地域通信分野における競争の進展状況については、     毎年見直しを行う。    ケ 将来の完全民営化      地域NTTについても、地域通信市場における競争の進展状況に応     じて、段階的に規制を緩和し、最終的には完全民営化を目指す。    コ 現行NTT法上の諸規制の緩和      NTT再編成を含む今回の改革によって、地域通信市場における競     争の進展が期待されるので、これに応じて、外資規制の緩和など現行     NTT法上の規制緩和を検討。    サ 政府保有株式の売却      地域NTTについては、当面、政府保有義務を存置。売却可能な株     式(現在 510万株)の計画的かつ早急な売却に努める。    シ 料金規制      当分の間、地域NTTの独占的状態が存続すると考えられることか     ら、現行の認可制を維持するのが妥当である。      その場合、地域NTT各社間に間接競争を導入する観点からヤード     スティック競争などのインセンティブ規制の導入を検討する。    ス 接続の確保      地域NTTに対しては、相互接続の円滑化を推進するため、     (ア) 他事業者との接続を法律上義務づける     (イ) 接続の料金その他の条件については、全事業者に適用されるもの      とすべく約款化を義務づける     (ウ) 接続会計と営業会計を国が定める会計ルールに基づき分計する     (エ) 番号ポータビリティ制度や優先接続制度を導入する     などの諸措置を講ずる。       (4) 長距離NTTと地域NTTとの関係    (ア) NTTを再編成する際、再編各社間の相互参入を目指す政策をとる     ことから、再編成が各会社の事業範囲を固定化することにはならない。    (イ) むしろ、再編各社間の相互参入を推進し、既存市場への新たな競争     単位を創出することによって、市場全体の効率化、活性化をもたらす     ことが期待される。    (ウ) また、再編各社間の相互参入をもたらすためには、各社が独立した     経営意思によって活動し得る経営主体であることが不可欠であること     から、各社間は資本的に独立させることが必要である。    (エ) したがって、再編各社間の再合併は認めない。    (オ) 再編各社が、相互参入し競争を行う中でNTTという同一の名称を     再編成後も使用し続けることについては、競争上の観点及び利用者の     利便等の観点から、今後、再編成の実施までの間に、十分に検討する     必要がある。       (5) NTT研究所の姿    ア 地域NTT     (ア) 現在のNTTが保有している研究開発力の大宗を承継することが      望ましい。     (イ) 事業者間での協調が容易な共通的・基盤的な部門は、一体的に、      例えば東NTTが承継し、共同で費用負担、また、サービス競争と      のつながりの強い部門は各社がそれぞれ承継することが考えられる。     (ウ) 現行NTT法上の研究開発に関する責務を引き続き課す。    イ 長距離NTT      長距離通信事業に関連する研究開発部門を、現在のNTTの研究所     から承継することが考えられる。         (6) 再編成の実施時期     平成10年度中(1998年度中)の実施を目途。     【理由】平成9年度(1997年度末)のデジタル化が完了の後、速やか         に実施することが望ましい。         (7) NTTの株主、債権者の権利確保の方策    ア 株主の権利確保のための方策      〔再編成に伴う株式交付の例〕      現行NTT株式1株に対し、3株交付     (ア) 手元のNTT株式1株 -> 東NTTの株式1株     (イ) 西NTTの株式1株(5万円額面株式)     (ウ) 長距離NTTの株式1株(無額面株式)     〔注〕額面株式 :再編会社の資本金がNTTと同じ7956億円の場合        無額面株式:再編会社の資本金がNTTの7956億円より小さい              場合    イ 債権者の権利確保のための方策     (ア) 新会社は、NTTから資産を引き継ぐ際、適当な規模の債務を併      せて引き継ぐことで、各社の財務内容をバランスさせることが可能      となる。     (イ) 債務のうち、借入金は、銀行などの個々の債権者の同意を得て、      新会社が引き継ぐことになるが、社債については、転々と流通して      いるので、個々の債権者の同意を得ることは、事実上、極めて困難      である。     (ウ) このため、社債は、国鉄分割民営化の際の措置を参考に、次のよ      うな立法措置を講じた上で新会社に引き継ぐこととし、社債権者の      権利を確保することが適当である。      i)各々の社債について、各社が互いに連帯して弁済の責めを負う。      ii)NTTの社債は一般担保付社債なので、各社が他社の承継する       社債に対して自社の総資産を一般担保とする。     (エ) なお、社債のデフォルト(債務不履行)条項に関しては、上述の      措置が講じられて社債権者の権利が確保される限り、問題が生じる      ことは想定されない。    ウ 株式の交付と上場      一般に、会社の上場は各証券取引所が審査を行うが、NTT再編成     が公共的な政策目的の実現のため実施されるものであり、また、NT     T株式は既上場であることから、各証券取引所の上場審査においては     、必要に応じ、特例措置が講じられる必要がある。    エ 再編成に伴う税負担     (ア) NTTを再編成する際、現行税制上、新会社に対する資産移転に      伴う譲渡益課税や新会社株式を交付されるNTT株主へのみなし配      当課税等のため、NTTや株主が新たな税負担を負う可能性が指摘      されている。     (イ) NTTの再編成は、公共的な政策目的を実現するため、立法措置      を講じて行われるものであるので、国は、その法律に定めるところ      に従って再編成が実施される場合に、その円滑な実施を積極的に支      援すべきである。       したがって、再編成に伴う税負担に関しても、非課税措置などを      講ずる必要がある。