政策評価フォーラムの概要

(大阪会場)


日時  平成16年11月10日(水)13時30分〜16時00分
会場  大阪国際交流センター
主催  総務省

政策フォーラム写真


13時30分 開会  (司会:渡会 修 総務省行政評価局政策評価官)

13時30分〜13時35分 主催者挨拶  
大寺 廣幸  総務省近畿管区行政評価局長

13時35分〜13時55分 基調講演  
「政策評価制度のこれまでの成果と課題」
丹羽 宇一郎  伊藤忠商事株式会社代表取締役会長
   政策評価・独立行政法人評価委員会 政策評価分科会長


【ポイント】
 政策評価制度は97年の橋本内閣の下での行政改革会議の最終報告を端緒としており、中央省庁等改革の目玉の1つとして、中央省庁再編と同時にスタートした。
 2002年の4月に、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」が施行され、法律に基づく制度として、バージョンアップした。
 中央省庁改革の基本理念は、50年以上が経過して制度疲労がはなはだしい戦後型の行政システムを21世紀型の行政システムへの転換することであり、硬直性や非効率性、縦割り行政による全体の調整機能の機能不全、フィードバック機能の不在などの問題点を解決するために、政策評価制度が導入された。
 政策評価制度の主要な目的は、1)国民に対する説明責任の徹底、2)国民本位の効率的で質の高い行政の実現、3)国民的視点に立った成果重視の行政への転換。
 中央省庁等改革におけるハード面の改革が省庁再編であるとすれば、ソフト面の改革を担っているのが政策評価制度。
 政策の効果について事前・事後に客観的に評価を行い、政策立案部門の企画立案作成、あるいはその作業に反映される仕組を構築することが不可欠。
 過去3年間の取組の成果を4つほど紹介したい。
1)  政府全体として約1万1千件の評価が実施され、その過程において政策の改善見直しを行って予算に反映させる仕組というものは一定の効果を上げてきている。
2)  政策評価の公表時期について、15、16年度は、概算要求締切りまでに評価結果が公表され、早期化について前進。
3)  政策目標の数値化という問題は、14年度は32.4%だったが、15年度には49.8%に上がった。徐々にではあるが、政策評価制度が各府省のマネジメントサイクルに定着してきたと言える。
4)  9月に総務省が公表した、「政策評価結果の平成17年度予算概算要求への反映状況」によると、事後評価の結果のうち38.1%が政策の改善・見直しにつながっており、目覚しい成果の1つである。
 今後の課題は、4月30日の「政策評価分科会の当面の活動の重点」でも示したが、1)政策評価の質の向上、2)外部検証可能性の確保、3)国民的議論の活性化である。
 また、政府としての関心も高まっており、10月5日の経済財政諮問会議では、4人の民間議員の連名で、「政策評価の充実に向けて」というペーパーが出された。いくつか問題提起がなされ、総務省にも対応が求められているが、政策評価制度の在り方そのものについて経済財政諮問会議で議論されたのは初めてではないか。
 海外の事例と比べて日本の評価制度の特徴と言えるのは2点。1つは法律という拘束力を持った枠組で包括的に行っている点。2つ目は、試行期間がなく制度が導入された点。
 法施行から3年が経過した時点で制度を見直すことになっているが、施行から3年というのが言わば試行期間であり、今後、1)制度の全般的な見直しに向けて、政策評価の質の向上、外部検証可能性の確保、国民的議論の活性化という課題を解決するための具体的な方策を明らかにし、2)秋以降のヒアリングで制度の問題点、課題をより深めていく。政策評価は海外でも完成されている制度はない。試行錯誤を重ねながら1つずつ課題を解決していくことが必要。
 政策評価制度を発展させるためには、国民に関心を持ってもらうことが重要であり、こうした機会を通じて幅広く意見を交換して、制度見直しに反映させていきたい。

13時55分〜14時10分 講演  
「政策評価制度の現状」
稲継 裕昭  大阪市立大学大学院法学研究科教授
   政策評価・独立行政法人評価委員会 独立行政法人評価分科会臨時委員

 資料参照(PDF)

14時10分〜14時25分 講演  
  「自治体における評価の実例―包括外部監査を通じて―」
  児玉 憲夫  弁護士(元大阪弁護士会長)
 大阪府包括外部監査人

 資料参照(PDF)

14時25分〜16時00分 パネルディスカッション
〈コーディネーター〉
永井 多恵子  世田谷文化生活情報センター館長
   政策評価・独立行政法人評価委員会 政策評価分科会委員
〈パネリスト〉  
井上 義國  関西経済連合会地方分権委員長
 ダイキン工業株式会社顧問
丹羽 宇一郎  稲継 裕昭  児玉 憲夫

(永井) 現在の日本社会には、少子高齢化社会を控えて社会保障の問題であるとか、教育が今どうなっているかとか、雇用の問題、経済の振興とかいったさまざまな問題がある。国の政策というものは我々の生活に大きな影響を及ぼすので、政策が実行性のあるものになるかどうかは、国民への説明責任あるいは国民からの働きかけがなければ、21世紀の我が国は立ち行かなくなるのではないかと思う。
  このような視点から政策評価制度が導入された。振り返ると、何を、どのように、どういう基準で、どのように評価するのかといったことをだいぶ議論し、初めの一年間はそれに費やしたような気がする。
  現在一年間に約1万1千件を超える評価結果がなされている。総務省のホームページに評価結果が出ており、国民が積極的にアプローチすれば分かるという形が作られたと考えている。
  井上氏は、政策評価の現状をどのように感じておられるか.
(井上) 政策評価についてはアマチュアの立場から意見を述べたい。国が現在、政策評価を1万1千件も行っているということを聞いて驚いた。これは進歩であろうと考えている。1万1千件の政策評価は、残念ながら国民の間には知らない人が多いのではないか。それが国民生活とどう結びついているのか、国民生活の何が変わったのかというPRが不十分ではないかと思う。
  政策評価制度が3年経った現段階では、この制度自体を評価する必要かもしれない。重要なことは国民に密着した効果の現われる政策評価システムである。国民とどう密着していくのか、国民にどう知らしめるのか。マスメディアがPRすることも大事だが、政策評価のやり方として、評価を始める前に国民とどう密着するのかを考えることが重要である。
  政策評価制度が着々と実行されていることには敬意を表するが、国民との間にはまだまだ距離があるというのが実感である。
(永井) 今の政策評価制度そのものを政策評価してはとの意見についてどう思うか.
(丹羽) 政策評価は1次評価を各府省庁が自ら行い、2次評価を総務省が行って評価委員会に提出される。総務省の仕事を見て感じたことは、役人同志だからといって決して手心を加えず、志が高いということ。しかし、同じ官僚内で評価を行う現行システムは、国民の誤解を招きやすい。第三者機関やエ−ジェンシ−を作って評価させるかということになるが、そうなると人手がかかって組織が肥大化する。効率性を考えると、経済的合理性があるかどうか疑問ではある。日本の政策評価は試行期間なくして実施したわけだから、もう少しの間、様子をみてほしいと思う。
  今は試行錯誤を重ねて、来年度から本格的にやるという段階である。今までやってきたことを国民によく説明することが必要と考える。官僚用語は難しいし、学者言葉も同じだ。分かりやすい言葉で、国民に対し、こういうやり方でこういう結果が出ているのでご意見をどうぞといったことを行ってもらいたい。国民と行政の関わり合いを考える良い契機であり、この評価制度がなければ、官僚も自己評価することはなかったと思う。
  行政のあり方について国民も良く考え、将来の行政や官僚文化のあり方を考えるスタ−ト台として、このフォーラムを活用してもらいたい.
(永井) 大阪府の外部監査の話があったが、地方公共団体では行政評価を取り入れているところがあり、予算にも反映され効果が出ているところもあるようだ。行政評価と政策評価の相違点、共通点について整理するとどうなるか。
(稲継) 国と地方の違いを考えると、地方は大統領制で首長がトップであり、その下に各部各局が存在する。そこで政策を形成し、執行し、評価するので、行いやすい。トップがその気になれば予算への反映は行いやすいといえる。進んでいる自治体ではダイレクトに予算につなげているところもある。
  例えば、京都市では、枠配分予算といったやり方を行っている。政策重点枠と各局配分枠に分け、各局配分枠は更に義務的経費と各局裁量経費に分け、各局裁量経費については事務事業評価を各局に任せている。これは首長の強いリ−ダ−シップがあるからできるのであって、国では分担管理原則があるので難しい。この違いが1点。
  また、2点目に、国民に身近でないという話があったが、地方自治体では、小さければ小さいほど住民に身近である。例えば、北海道にニセコという町があるが、ここでは「ニセコの町づくり、もっと知りたい今年のニセコの予算書」を住民1戸ごとに配布している。この予算書では、例えば今年の道路予算の舗装費では、○○さん宅前から△△さん宅前まで舗装する、地図まで載せているといった具合。非常に分かりやすいが、規模の小さいニセコ町だから出来ることで、国レベルになると到底できない。規模が大きくなると遠くなってしまうものをどうやって近づけるかが課題である。
  もう1つの論点として行政評価と政策評価がある。総務省設置法の中では、従来行っていた行政監察を行政評価・監視、政策評価法に基づいてやっているものを政策評価といい、合わせて行政評価等としている。
  地方自治体は首長大統領制であるので、全ての政策を含めて評価することを政策評価とし、その中で政策評価、事務事業評価など3段階に分けて使っているところが多い。国の制度を学びながら、導入している自治体もある。
(永井) 分担管理の原則が総合的に政策を実行するときの隘路になって、効果を発揮できなくするのは弊害である。制度を今まで以上に機能させるには、どこに問題があって、どこを改善すればよいか、また評価の基準とは何なのか。身近にならねばという話もあったが、この点どうすればよいと思われるか。
(井上) 政策評価の対象が何かということに自分はまだ理解していないところがある。例えばNHKの特集番組が報じた特区申請では、今の小学校の壁の高さが3メートルのものを、老朽化したため建て直すことになり2.7メートルにしたいと特区を申請をしたら門前払いになっている。法律は3メートル以上と書いてあるが、3メートルの根拠はどこにあるかと言うと、明治時代に教室の高さは1丈以上とされたことによるものだが、ただなぜ一丈なのかの理由がわからないため文部科学省には説明できないというもの。学習塾は、一般の建築同様、建築基準法で2.5メートルとされ、塾の生徒には2.5メートルで圧迫感があると答える生徒はいない。それを根拠に文部科学省と交渉して、現行3メートルを2.5メートルにすることで経費が節約でき、教室が早々に改修できると言っても了承が得られず、結局文部科学省は委員会を開いて一年後に結論を出すことになっている。特区申請で門前払いを受けたものと、政策評価とはどういう関係になるか。
(丹羽) 今の点について評価委員会との関係で言えば、政府が行っている政策の全てを評価委員会で評価できるものではない。初期の目的は行政が効率化されているか、国民本位の行政になっているかどうかであり、これが評価委員会と政策評価の大きな目的である。問題は、評価委員会の権限は各府省の自己評価を覆せるほど強力でないこと。政策を実行しなさいなどというのは難しい。各府省が提出してくる政策評価を、整合性、総合性があるかどうかを我々が評価することになる。政策評価委員会あるいは政策評価法というのは、行政の在り方をどうするか、官僚組織の在り方、官僚文化の改革というのをどうするか、というような国の行政との関わりを考える契機にするという観点から捉えていただくことが重要と考える。
  国家公務員は法律に基づいて仕事を行わなければならず、その法律を変えるのは三権分立にいう政治家が行う。行政の方針でできることについては、評価制度の中で我々も指摘できる。評価委員会に上がってきたものには、辛口な意見を出している。特区問題は規制緩和という範疇の問題であり、法律を変えなければならない。評価委員会あるいは総務省の行政評価局はオールマイティ−な組織でなく、一定の法則に基づいて仕事をする中で、できる限り達成させようとしているものである。
(永井) 限界がある中で、何らかの形で、見直しを経て予算に反映されているものが9割程度あるのは1つの実績と言えよう。外部監査にも限界があるようだが、政策評価をもっと実効あるものにするためには何が必要か。
(児玉) 外部監査を行った経験から言うと、今の評価制度には限界がある。
  1つは自己評価が原則であるという点である。試行期間なしに急に実施されたので止むを得ない側面もあるが、自己評価だけでなくもっと広がっていくシステムとして構築される必要がある。
  自己評価をしただけでは改善や次のステップに行けない。行政の方々は法に基づいてやっているのでどこが足りないのか知っているが、内部で自分だけが唱えても取り上げられないと考えている。細かいことでも外部監査が取り上げると動き出す。
  自己評価をまとめ、その中で特に大事なものは公表し、それを起点にまた次の評価に進むというシステムを作ることが必要である。
  2点目は政策を評価するのは大事だが、国民からみると、国が実施した政策を評価するだけではいけない。国民は、実施していない政策をなぜ実施しないかも気にしている。実施している政策のみならず、実施していない政策はどうなのかも含めて出していただきたい。現行法に基づく評価委員会では対応できないので法律改正が必要だと思うが、そこまで発展させてほしい。
(永井) 実施していない政策をなぜ実施しないのか評価する案については同感。
(丹羽) 我々は、評価のプロセスを、ホームページやフォーラム等の様々な機会を通じ発表し、それに対して国民から様々な意見をいただいて、精度の高い評価制度にしていく必要がある。着実に実行し、成果をあげていく、それを国民の皆さんに見て頂き、ご意見を頂く。この仕組みを、総務省を中心に我々は作ろうとしている。
  欧米では10年経っているが、日本はまだ3年であり、5、6年たてば国民に関心を持ってもらえるだろうし、我々も努力し、それなりの評価をしていただけると思う。
(永井) 総務省のホームページに皆様も積極的にアクセスして頂きたい。色々な質問を頂いて広げていきたい。
  次に外部委託による第三者評価の活用については、自己評価といいながら外部評価委員が評価している場合もあるとは思うが、そういう評価システムの構築について今後どう考えるべきか。
(稲継) 自己評価が原則になっており、基本的にはどこの国でもそれが原則である。ただ外部委託による第三者評価を自己評価にいかに引っかけていくかということは様々である。今の枠組みでは、規制については、総合性評価、統一性評価ないし規制影響分析で引っかけることができると考える。いい加減な実績評価をしていると、客観性担保評価ということで、総務省の評価委員会にかけることも可能である。ただ外部委託によって第三者が評価する場合に、既に省庁によっては事業評価をシンクタンクに投げているところもある。
  しかし、実績評価等そのもの全部を外部委託することは難しい。なぜなら、評価情報自体の算出に莫大な費用がかかるし、また、外部の人が評価情報を手に入れると、官僚の抵抗を招くことにもなりかねないので難しいだろう。そこで考えられる解決策は、評価結果だけでなくプロセスも全て公開し、それを別の機関が何らかの形で評価し、そしてそれがビジネスとしても成り立つ仕組みを作っていくという形が考えられる。例えばアメリカでは、ブルッキングス、ジョージ・メイソン大学のマーカタスセンターなどが、政府が行った自己評価を再評価した報告書を出している。そこの研究者は議会に呼ばれ証言もしており、そういうことが評価の質を高めていくことになる。現在の日本ではこういったものはまだ無い。これからは政策関係の学部も増えていくだろうし、そこで人材が育つと、研究所などで評価書をチェックする仕組みが出来上がるのではないか。
(永井) 政策評価が自省庁の政策を正当化するのに使われるのではないかという指摘についてはどうか。将来的に政策評価は使用できるものなのか。また、民間企業の事業評価とはどのようなものなのか。民間の事業評価と政府の政策評価との違いはどうか。
(丹羽) 民間の場合は、収益が出るので評価も極めて定量化しやすく、客観性がある。他方、政府の場合、改革に繋がるのはパニッシュだけではなく、褒めるというインセンティブも必要だろうし、そういう意味からいうと公務員法そのものを変え、きちんと評価したり、仕事をうまくやった場合はインセンティブを与えるとったことも必要になろう。また、客観性という面からできるだけ定量化することが必要である。難しい部分はあってもできるだけ数値化し、定量化し、多少不備があってもそれで評価することが大事である。
  ただ、現実には行政には定量化できないものが結構ある。例えばODAの評価は現地まで赴き、各国でのODAを評価するとなると、これは膨大な費用がかかる。また、安全保障政策についてはどうやって定量化し評価するのか。爆弾を幾つ使ったかで評価するわけにはいかない。要するに定量化しにくい部分が行政の中にはあるので、結果として出てこないものをどう評価するのか。これはある程度その仕事を知っていないと評価できない。したがって、常識と良識に照らしてこれはおかしいと思う第三者の感覚が国民的な感覚であり、重要である。我々は絶えず客観的にチェックしなければならない。このように行政は全てを定量化出来ないが民間はほとんど定量化出来るという点が行政と民間の決定的な違いである。
(永井) 質をどう評価するかも難しい。
(丹羽) 何事もその業務にたずさわっている方でないと本当のことはわからない。正直に自己評価することが必要だが、民間でも自己評価は甘くなる。自己評価と第三者評価には常に誤差があり、評価に不満を持たれる。他方、民間でも定性的な部分では同じである。どうしても自己評価は甘く、第三者評価は厳しくなる。この第三者評価が政策評価委員会の役割だと思う。
  同じ官僚仲間だから手心を加えるというのは自分の経験上これまでみられない。第三者がいるということは緊張感があり、政策評価委員会は公平性を保つ上で大切である。
(永井) 次の質問であるが、地方公共団体の施策の中には国の補助金を基にしているものが多くあるが、地方で行われた行政評価、外部監査は国の政策評価で参考にされているのか。これは、総務省が行っていると思うが、児玉先生はこの点についてどう思われるか。
(児玉) 地方の政策には国の補助金が付いているものも多いが、ただ国が全てにわたって補助してやるということはない。4分の1なり半分なりを自治体が持つ仕組みになっている。実際に執行してみて不都合があったものは必ず国に報告されている。例えば無職者の貸付制度について保証人が2人いるのはおかしいと大阪府が言い、他府県からも同じ意見が出て一人に改正されたというような例を聞いているが、こういった場合、国は地方と連絡を取り合い改善する努力をしているが、それで十分かどうかは評価制度を働かせなければ分からない。
(永井) 会場からいくつかの質問が寄せられているが、外部監査の対象の1つである生活福祉資金については、リストラ等による失業者の救済を前提にした1つの経済政策であって、福祉策として捉えるには無理があるのではないかという質問についてはどうか。
(児玉) そのとおりだと思う。経済政策を担当する部署が取り扱うものであって、そこからあぶれる人達を生活保護的な面で救済する制度だと思う。そうであれば底辺を保護するわけであるから、誰もが使いやすいようにしなくてはいけない。
(永井) 政策評価結果が政治的決定に与える影響の程度は今後どうなるかという質問についてはどうか。
(井上) 自分は、逆に政治が政策評価をどう変えるのかを聞きたい。小泉内閣は「国から地方へ」という基本的な方針を出しており、三位一体改革を進めるなどしているが、国から地方へという政策が出た時に、どの省庁はどれだけ地方に権限委譲をしたのか、予算面でも予算がこれだけ節約できたなど、政治決定された政策について、各省庁はどんな努力をしたのかという評価は誰が行うのか。自己評価は出来るが、そういったことを競い合わせる評価は出来ないか。
(丹羽) FTAEPAという自由貿易制度の2国間の交渉は進んでいるが、この中で各省庁の省益が国益に優先され、省の話ばかりしていると外国の政府機関が不満を持っていると聞く。このような場合、内閣府に評価委員会として申し上げたのが、内閣府は各省庁の調整あるいは総合力を司る部署だから、今の日本の政策からして国益を優先するように仕向けるのは内閣府の仕事であるということである。今の日本には、立派な政策が表面的には行われているようにみえるが、実質は何も変わっていない、ということが多すぎる。
  立派な仕組みを作り制度を作っても、動いている人達が今まで以上に省益、庁益を維持しようとする限り何も変わらない。評価委員会は、ヒアリングをしながらこの仕事は機能していないということが言えるし、それなりの役割を果たそうとしている。ただ、法律を変えることまでは出来ない。国民の意見が重要な資料となり、政府が動かざるを得ない状況に持っていかないと、政治家の理解を得るのは難しい。民主主義国家では国民の声が大事であり、我々も少しずつ学んでいくことが重要である。
(永井) 政策評価を内閣府に持っていってはどうかという質問についてはいかがか。
(稲継) もともと行革会議で議論された中にはそういう意見もあった。本来2次評価は一段高い所で評価するということなので、内閣府あるいは内閣官房そのものに総理直属で各省を見渡すような組織にすることも制度設計としては可能ではある。アメリカは予算と評価を大統領府の中のOMBという組織で行っている。もしそういう形に制度設計を変えられるのであれば、予算についても評価についても、そういった組織がある程度、各省へワーク配分をし、省は省の中で分捕りをさせ、そうすることによって、現場に近い情報をお互い突き合わせながら精度の高い議論をし、無駄なものを廃していくことができるようになろう。
(永井) 政策評価は透明性についてはある程度寄与していると思うが、具体的な形で行政の浄化に資しているかどうか。国民の目からみると、国や地方の行政機関が行う政策評価、行政評価は自己評価であるので実効性に疑問を感じている、という感情があるが、こういったものをどのように克服していったらいいか。
(丹羽) 行政の浄化は、評価委員会や評価できたことにより簡単に進むものでない。皆さんの意識を変革することが浄化には大事なことである。
  制度ができてもこれを動かしているのは人間であり、人間の意識を変えるのは簡単ではない。行政の浄化は、大きなテーマであり、長い時間がかかると思うが、着実にその方向に向かっている。国民の目が厳しくなり、倫理観が強くなっているので、少しずつ行政は進歩するだろう。
  もう1点は自己評価であることに対する疑問であるが、これはホームページ等を通じて国民の声を聞かせてほしい。第三者として、我々が辛口の意見を述べてチェックするし、その内容はホームページに出すようにする。こういったことが官の自己評価をチェックする有力な手段となろう。
(永井) 最後に、政策評価をよりよいものにするには何が必要か一言ずつお願いする。
(稲継) 関係者それぞれが役割を果たすことが重要。まずは政治家の役割である。現行評価制度の中で例えば100億円余っていてミサイル配備に使うか、国際標準を目指す研究開発に使うか、あるいは初等教育の充実に使うかとかどれがいいかを評価することは不可能。これは政治が決定し、国民が選挙で選択するものであり、マニフェストという形で動き始めてはいるが、イギリスなどに比べるとまだまだ機能していない。
  次に国民の役割だが、自分達が支払っている税金がどのように使われているのかをウォッチし続けることが必要。
  3点目は、学者、NPO関係、シンクタンクなどの役割だが、評価の上の評価、メタ評価を行う存在として研鑽していく必要がある。
  4点目はマスメディアである。事件事故は大きく報道されるが、実際に税金がどのように使われていて、それが有効なものかどうかについては報じてくれない。自己評価には批判もあるが、各省のホームページには、いろんな事業が実施されている状況が分かるようになっている。これは一大進歩で、3年前には考えられなかったこと。例えば農水省で廃止を考えている農村の方の海外への研修事業は、年間12人が参加するのに1千万円を使っているというものがあったが、これを廃止することにしたことが掲載されている。昔は全く分からなかったことであり、マスメディアもこういったことを取り上げてほしい。
(児玉) まずは、わかりやすい言葉で国民に政策評価を理解させるということ。ホームページ等では、難しい言葉を使わずに、分かりやすい言葉で政策評価とは何かを知らせるべき。政策評価法については一般の方はほとんど知らないと感じるので一層のPRが必要。
  2点目は、政府の評価に対していろいろ意見を言えるようなNPOを作ること。評価を採点するような政策評価を評価するNPOを育成することが必要である。
  ちなみに自治体における包括外部監査は全国で行われているが、この制度が活発化した要因のひとつは、市民オンブズマンが寄与していることによる。
(井上) 政策評価法は、使い方によっては日本を改造する大変なツールになり得ると感じている。今、三位一体改革の中で、義務教育を国が続けるのか、地方に任せるのか議論されている。一律に中央集権により義務教育を行ってきた結果、だめになるのではないかということで義務教育を地方に任せてはどうかという意見が出ている。地方に任せると、どんなことが起こるか分からないが、良い県を見習って日本全体のレベルが上がればこれに越したことはない。悪いところも住民の力で良い方向に収斂されていくだろう。政策評価という制度があれば、このような思い切った決断ができる。政策評価をこういった方向でも使っていただき、日本の進むべき方向の改革に役立ててほしい。
(丹羽) 政策評価制度は、今後の行政の行動様式のみならずこれからの行政はどうあるべきかという国民と行政を考える上で大きな力を持っていることをご理解いただきたい。国民のため、国民の視点で、国民本位の行政をどう立ち上げていくかということが、21世紀のこれからの行政だと思う。21世紀型の行政改革、行政組織をどうするかというのが、我々の一番の眼目である。
  国家公務員法の改革、また評価法の改正も将来ありうるかも知れないが、政策評価の実績を上げていく必要がある。国民の皆様の支援、ご意見をできる限りいただいてそれを後押しにし、より良い日本の行政組織、行政改革ができるように努力したい。今まで以上にご支援、ご意見を賜りたい。
(永井) 政策評価は、官としてどのような政策を行っていくのか、どのように実行が上がっているのか、そして、その結果から民に任せる仕事、地方に任せる仕事、その間の市場には任せられないが公益的な仕事をする公という仕事があり、それぞれがそのサービスを間違わないように誘導していくためにこの政策評価がある。皆様にこの制度を知っていただき、知り合いに話していただくとありがたい。
(以上)

16時15分 閉会  



(注)  この概要は、事務局(総務省行政評価局政策評価官室)の責任において取りまとめたものであり、事後修正の可能性があります。




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