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第6章 平成14年度経済財政運営の基本的考え方

1.景気の現状と経済の先行き

(1) 景気の現状

 日本経済の最近の動向をみると、景気は悪化しつつある。家計部門では、個人消費はおおむね横ばいの状態が続いているものの、足元で弱い動きがみられる。失業率は高水準で推移している。また、企業部門では、企業収益の伸びは鈍化し、設備投資は頭打ちとなっている。他方、輸出、生産は引き続き減少している。先行きについても、在庫の増加や設備投資の弱含みの兆しなど、懸念すべき点がみられる。

(2) 平成13年度、14年度の経済の姿

 景気には、需要面に対する下押し圧力が強まり、短期的には構造改革のデフレ圧力がプラス効果を上回って顕在化してくる可能性が高いと考えられることから、的確に見通すことは困難であるが、平成13年度、14年度は低い経済成長になると見込まれる。

 景気の現状を踏まえると、今後、年末にかけて調整圧力が強まるものと考えられる。このため、平成13年度のGDP成長は、当初の政府経済見通しをかなり下回るとみられる。

 しかし、平成13年末以降、アメリカ経済の回復傾向が明らかになっていけば、輸出、生産が次第に回復に転じ、やがて設備投資も改善していくと見込まれる。また、適切な経済運営のもとで構造改革の進展の成果もあり、平成14年度の景気は徐々に回復への動きをたどることとなる。

2.平成14年度予算

(1) 基本的考え方

 21世紀の我が国経済の発展に明確に寄与すると見込まれる分野には重点的に資源配分する。同時に、経済の活力・国民の厚生などに寄与していない予算、経済社会情勢の変化に伴い重要性の低下した予算などについては、思い切って縮減する。こうした措置により、本「基本方針」に則ったメリハリのある平成14年度予算を実現する。なお、「7つの改革プログラム」に沿って、税制を含め諸制度のあり方の検討を進める。こうした措置により、財政の「質の改善」を通じて、非効率な資源配分を是正し、個人や企業など民間の潜在力を高めると同時に、潜在的な民間需要を顕在化する。

 また、マクロ的観点から、経済財政全体との整合性・バランスをとった財政健全化を図る必要があり、例えばGDPとの対比でみた各分野の歳出規模の妥当性等を検討する。

 財政健全化は中期にわたり、継続的な努力を必要とする課題であり、平成14年度予算は、中期的な財政構造改革の第一歩として位置付けられる。

(2) 国債発行30兆円以下

 平成14年度予算では、財政健全化の第一歩として国債発行額を30兆円以下に抑えることを目標とする。このため、抜本的な制度改革を含め、一般会計、特別会計を通じ歳出全般にわたり、スリム化、効率化を図る観点から聖域なく見直しを行う。また、特殊法人等の事務事業を抜本的に見直し、国の財政支出の整理・縮減を図る。

(3) 重点的に推進すべき分野

 上記の各章及び「7つの改革プログラム」を踏まえ、以下に掲げる分野で、政策効果が顕著なものについて、重点的に推進する。

(1) 循環型経済社会の構築など環境問題への対応

(2) 少子・高齢化への対応

(3) 地方の個性ある活性化、まちづくり

(4) 都市の再生−都市の魅力と国際競争力

(5) 科学技術の振興(ライフサイエンス等の4分野への重点化等)

(6) 人材育成、教育

(7) 世界最先端のIT国家の実現

〔注〕 戦略的に重要性があり、かつ各省庁にまたがる分野については、有識者の識見等を活用しつつ、内閣(総合科学技術会議、IT戦略本部、都市再生本部等の活用を含む)が中心になって、それぞれの基本方針に則り、施策の強力な調整を行い、総合的な政策を決定する。

(4) 社会資本整備

 公共投資が経済に占める比率は、第2章で述べたように欧米諸国などに比べ高い水準にあること等を考慮し、国の歳出全体を聖域なく見直す中で公共投資関係の予算を縮減する。

 道路等の特定財源のあり方を見直すとともに、「公共事業」、「非公共事業」の区分にとらわれない配分などを行う。また、公共事業関係の計画の見直しを進める。さらに、政策目的に照らし、公共事業以外のより適切な政策対応がないか、十分に審査し、公共事業から公共事業以外の政策手段へのシフトを図る。また、事業評価を反映し、厳格な事業の選択を行う。さらに、PFIの活用、執行段階における競争の促進やコスト縮減、電子入札の拡大等による効率性、透明性の向上を図る。

(5) 社会保障制度

 社会保障制度については、セーフティーネットとしての機能を果たしながら、経済財政と均衡のとれた持続可能なものとなるよう、制度改革を進めていくことが必要である。

 医療制度については、第3章を踏まえ、サービスの質を維持しつつ、高齢者医療制度をはじめとして効率的で持続可能な医療制度を構築する。医療費、特に老人医療費について、経済の動向と大きく乖離しないよう、その伸びを抑制するための新たな枠組みを構築する。年金制度については、第3章で述べた「今後の検討課題」についての検討を進める。また、社会保障制度全般にわたる規制改革、制度の効率化を進めつつ、特に、介護サービスの供給体制の整備、保育所の待機児童ゼロ作戦の推進、放課後児童の受入体制の整備を図る。

(6) 地方財政

 平成14年度においては、経済財政全体とのバランスも考慮して、「国債発行を30兆円以下とすることを目標とし、歳出を徹底的に見直す」としている国の財政健全化への取組みと同様に、地方財政計画の歳出を徹底的に見直したうえで、所要の財源を確保して、地方財政の健全化を図る。

 その際、国の関与の縮減や国及び自治体が最低限保障すべき行政サービスの水準の見直しなどに応じて、国庫補助負担金や地方交付税により手当てする地方歳出を見直す。さらに、地方の自律性を高めるため、地方交付税の配分に当たっては、地方の負担意識を薄めることや、効率化への意欲を阻害することのないようその仕組みの見直しを図る。

(7) 雇用対策等

 不良債権の処理等が雇用に及ぼす影響に鑑み、サービス分野をはじめとして雇用機会の創出や労働移動の増加に対応する制度改革によって就業機会を拡大する。同時に、離職者、転職者に対する支援の強化などセーフティーネットの拡充等を図る。また、新たな市場と雇用を創出する効果の高い構造改革と雇用対策を一体的に推進する。

 本「基本方針」においては、社会資本整備、社会保障制度、国と地方など財政構造改革の中核となる分野を中心に取り上げたが、こうした分野を含め、歳出全般について聖域無く、厳しく見直すべきことは言うまでも無い。経済財政諮問会議においてもこれらの分野を含め引き続き広範な検討を行う。また、経済財政諮問会議において、プライマリーバランスの黒字に向けた取組みをどのように進め、いつ頃までに達成するかなどを明確にするため、引き続き検討を行い、年内を目途に具体的な姿を示す。


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