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第5章 経済財政の中期見通しと政策プロセスの改革

1.中期的な経済財政の展望

 今後、聖域なき構造改革を進めることによって経済にはどのような影響がもたらされるのか。

 不良債権問題については、今後2〜3年にわたり、不良債権の最終処理が進められることから、関連分野における企業整理や離職者の問題が生じ、少なくとも短期的にはそのデフレ圧力が不良債権処理のプラス効果を上回る可能性が高いと考えられる。

 財政構造改革の影響はどうか。公共事業などの「量」の削減それ自体は当面の景気にマイナスの影響を持つ。しかし、歳出の中身を民間の消費や投資を顕在化させる効果を持つものに転換すること、すなわち「質の改善」を同時に行うことができれば、景気への影響は小さくできる。

 聖域なき構造改革を全体として推進することにより、今後は、多くの分野で新たな成長の種が蒔かれ、それが育ちやすい環境が整えられることとなる。また、不良債権の処理が進むこと、国債残高の抑制にも展望が開けること、社会保障制度の将来像が明確になることなどにより、国民や企業の将来に対する不安感は軽減され、将来不安のために抑えられていた消費や投資が顕在化することが期待される。これらの結果、不良債権処理が進展する今後2〜3年間については、成長率はある程度抑えられるとみられるが、中期的には我が国経済の有する潜在力が開花し、民需主導の経済成長が実現するものと予想される。

2.中期的な経済財政計画の策定と予算編成プロセスの刷新

(1)中期的な経済財政計画の策定

 財政は、各年の経済や財政状況に応じて適切に運営されねばならず、これまでも毎年度そのような努力がなされてきた。その時々の状況の下では必要なものであったが、振り返ってみると近年の経済財政運営はかなり振幅の大きなものとなっている。今後経済財政運営に当たっては経済財政の中長期的なビジョンを示し、それと整合的な形で、毎年の経済運営や予算のあり方を決定していくことが望ましい。このため、中期的な経済財政計画を策定し、毎年の経済財政動向を踏まえて毎年度改定していくこととする。

 なお、中長期的な経済財政のビジョンの策定に当たっては、経済と財政の整合的な姿を描くとの観点から、多様な手段の一つとして財政も含むマクロ経済モデルを活用して検討を行う。

(2) 予算編成プロセスの刷新

 毎年の予算編成に際しては、まず経済財政諮問会議において経済財政政策全般についての横断的な検討を行い、重視すべき分野や政策変更の必要性など政策の基本的方向とともに、その時点での景気動向についての判断などを示す。平成14年度については、本「基本方針」が示され、この方針が各省庁の行う概算要求の準備作業等に反映されることとなる。

 また、新規に重要性を増し、かつ各省庁にまたがる分野(例えばIT、バイオ、ナノテクノロジー等の先端的分野、循環型社会、都市再生等)については、有識者の識見等を活用しつつ、内閣が中心になって、分野ごとの重点等について強力に調整を行い、諮問会議は必要に応じ、こうした作業に方向付けを行う。これを踏まえ、財務省は具体的な予算編成を行う。

 さらに、諮問会議は、経済見通し、中期経済財政計画の改定などと並行して、「予算編成の基本方針」を示し、これに基づいて政府予算の最終的なとりまとめが行われることとなる。こうしたプロセスを通じ、予算編成の透明性が高められるとともに、メリハリの効いた予算編成が行われるなど予算編成プロセスを刷新する。

 なお、年度末に事業が集中しているのではないかといった指摘もあり、各年度における予算執行の段階においては、事務事業の優先順位を厳しく選択し、年度を通じて計画的・効率的に行っていく必要がある。

3.改革を通じる中期目標(プライマリーバランス等)の達成

 財政構造改革を進めるに当たっては、国・地方を通じた取組みが重要である。中長期的な経済の見通しの下、国民負担率(財政赤字を含めた国民負担率等)の水準や目標とすべきプライマリーバランス、財政収支などのビジョンを示し、そうした大きな枠組みの中で効率的な資源配分を検討しながら、毎年の予算編成において、適切な歳出・歳入を検討していくべきである。

 とりわけ、本格的な財政再建に取り組む際の中期目標として、まずは「プライマリーバランスを黒字にすること(過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らないこと)」を目指すことが適切である。プライマリーバランスの意義として、第1に、これは、現在の行政サービスにかかる費用は、将来の世代に先送りすることなく現在の税収等で賄うということであり、世代間の公平を図る上で重要である。また、第2に、財政の中長期的な持続可能性を回復するためにも、プライマリーバランスを黒字にすることが、その前提となる。国・地方を合わせた政府の長期債務残高は、平成13年度末で対GDP比128.5%にまで達する見込みとなっているが、現状のように金利が成長率を上回っている場合、つまり、元本と利子の合計がGDP以上のスピードで増える状況では、債務残高が対GDP比で増大することを止めるためには、まずは、元利払い以上の借金を新たに行わないことが必要条件となる。

4.政策プロセスの改革

(1) 新しい政策プロセス

 経済財政諮問会議は、経済財政運営や経済財政政策に関わる重要な構造改革等について、基本方針を調査審議することを重要な任務としている。必要な場合、諮問会議の答申の内容は、閣議決定を経て、内閣の基本方針となる。各省庁はこれに基づき具体的な制度設計等を進め、諮問会議は各省庁の検討状況等のフォローアップを行う。こうしたプロセスを通じ、構造改革等が強力かつ一体的に推進されることとなる。

(2) 新しい行政手法

(i) ニューパブリックマネージメント

 国民は、納税者として公共サービスの費用を負担しており、公共サービスを提供する行政にとってのいわば顧客である。国民は、納税の対価として最も価値のある公共サービスを受ける権利を有し、行政は顧客である国民の満足度の最大化を追求する必要がある。

 そのための新たな行政手法として、ニューパブリックマネージメントが世界的に大きな流れとなっている。これは、公共部門においても企業経営的な手法を導入し、より効率的で質の高い行政サービスの提供を目指すという革新的な行政運営の考え方である。その理論は、(1)徹底した競争原理の導入、(2)業績/成果による評価、(3)政策の企画立案と実施執行の分離という概念に基づいている。

(ii) 改革方策

 海外では、この考え方は、(1)民営化・行政法人化を推進する、(2)業績や成果に関する目標、それに対応する予算、責任の所在等を契約などの形で明確化する、(3)発生主義を活用した公会計を導入する、などの形で具体化されてきている。例えば、イギリスでは、行政の各分野において「市場化テスト」を行い、民間でできることはできるだけ民間に委ねるとともに、民間にできないものについても実施執行部門をできる限り行政法人化するなどの改革を進めている。

 我が国の行財政改革を推進していく上でも、こうした新しい行政手法の考え方を十分に活かし、政策プロセスの改革を図っていくことが重要である。具体的には、

・公共サービスの提供について、市場メカニズムをできるだけ活用していくため、「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」という原則の下に、公共サービスの属性に応じて、民営化、民間委託、PFIの活用、独立行政法人化等の方策の活用に関する検討を進める。

・事業に関する費用対効果などの事前評価等によって、維持費用も含めてそれに要する費用を明確化し、事業の採否や選択などの政策決定に反映する。

・業績や成果に関して目標を設定し、責任を明確にしつつ、実際に行われた事業の結果を事後的にも評価し、これを通じて政策決定、予算、人事評価などに適切にフィードバックしていく。

・こうしたことによって、目標達成に向けた柔軟で効率的な行政運営を可能とし、行政のマネージメント能力を高める。その際には、適正な行政運営を確保するための監査などが重要となる。

・このような行政運営手法を実現し、国民に対する説明責任を高めるため、情報公開制度などの定着を図るとともに、公会計制度のあり方についても、発生主義など企業会計的な考え方の活用範囲や貸借対照表の対象範囲などについての検討を進め、行政コストや公的部門の財務状況を明らかにするよう引き続き努める。その際、諸外国における発生主義を活用した予算等の実態について検討を行う。

 以上のような基本的な方向性に沿って、具体的な改革を引き続き精力的に進めていく必要がある。

 こうした取組みにより、行財政改革を推進し、納税の対価として公共サービスの提供を受ける国民の満足度の最大化を図っていくことが重要である。


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