ニュースリリース

地方行政運営研究会第１５次公務能率研究部会報告書

地方公務員の評価システムのあり方に関する調査研究
－勤務評定の現状と課題－＜概要＞

平成１２年２月

第１章　地方公務員の評価システムの位置付けについて
１　勤務評定の意義と現況
・　地方公共団体において勤務評定を実施し、その結果に基づいて人事管理を行うことは、職員のモラールを高め、公務能率を向上させるための極めて重要な要件
・　地方公務員法では、成績主義の原則と勤務評定制度について規定しているものの、勤務評定の実施状況は、必ずしも十分とはいえない状況

２　地方公共団体における評価システムの改善に関する意見
・　「地方自治・新時代の地方公務員制度－地方公務員制度改革の方向－」（平成１１年４月に地方公務員制度調査研究会が報告）では、能力・実績をより重視した人事管理を行っていくためには、勤務評定を実施し、その結果に基づいて昇任・昇格・給与等に適　切に反映していくことが必要と報告

３　国における評価システムの改善に関する意見
・　「公務員制度改革の基本方向に関する答申」（平成１１年３月に公務員制度調査会が答申）では、能力・実績を適切に把握しうる人事評価システムの整備が必要と報告・答申

４　本報告書の活用が期待される地方公共団体
・　勤務評定制度が整備されていない地方公共団体には導入についての契機を提供するとともに、勤務評定制度が導入されているもののさらに改善を行う必要のある地方公共団体には先進事例の紹介を行うなど、地方公共団体の取組を支援

第２章　地方公務員の評価システムのあり方に関するアンケートの調査結果
１　勤務評定の実施状況について
・　都道府県及び政令指定都市のうち、勤務評定を実施している団体は約８１％

２　勤務評定の目的と活用分野について
・　勤務評定の目的については、「配置転換、昇任・昇格、昇給、勤勉手当の支給などの人事管理の情報を得ること」とした団体が最も多く約９８％
・　勤務評定の結果の活用分野については、「昇任・昇格」とした団体が最も多く約９０％、次いで「配置転換」とした団体が約８８％

３　勤務評定の内容について
・　勤務評定の対象となる被評定者の職務上の地位としては、「係長級職員」とした団体が最も多く約８１％、「すべての職員」とした団体は約１３％
・　評定者数については、２人としている団体がいずれの職位でも最多
・　「折衝・対応能力」を最も考慮するとした職位は「課長級職員」であり、「企画力」を最も考慮するとした職位は「係長級職員」、「積極性」を最も考慮するとした職位は　「一般職員」

４　勤務評定の被評定者への開示について
・　勤務評定の被評定者（本人）への開示については、開示しないとした団体が約９４％

５　評定者研修について
・　評定者研修を実施しているとした団体は約３３％

６　勤務評定と自己申告制度・目標による管理の手法との連携について
・　自己申告制度を導入している団体は約８５％であるが、このうち勤務評定を実施する際に自己申告を参考にしている団体は約５９％
・　目標による管理の手法を導入している団体は約１７％であるが、このうち勤務評定を実施する際に目標による管理の手法を参考にしている団体は約６３％

７　その他
・　勤務評定を実施するのに当たっての団体の課題としては、「客観的な勤務評定基準の設定」とした団体が最も多く約８５％、次いで「評定者研修」とした団体が約７３％
・　勤務評定を行うに際しての被評定者に対する面接の実施については、「毎年定期的に実施」と「必要に応じ実施」とを合わせても約１７％

第３章　地方公共団体等における評価システムの取組事例
１　地方公共団体における評価システムの取組事例
・　東京都の「業績評価制度」は、自己申告制度、目標による管理の手法などと連携して行われており、第１次評定者及び第２次評定者は絶対評価、最終評定者は総合評定のみを相対評価で実施し、評定者研修は毎年実施
・　神奈川県の「職務記録制度」は、文章で意見を記載する方法を採っており、その結果については、主任級以下の職員については面接時に被評定者に指導記録を提示し、主査級以上の職員については被評定者の求めがある場合又は必要に応じて指導記録を提示
・　札幌市の「人事評価制度」は、第１次評定者は業績、能力及び意欲の３項目の評定に基づき絶対評価で、第２次評定者は全体総合評価のみを絶対評価で、調整者は相対評価で実施し、その結果は、配置転換、昇任・昇格、昇給、能力開発等に活用
・　北九州市の「勤務評定制度」では、職員が自らの意思と工夫により現状を乗り越えるために目標を設定し、どれだけ挑戦し、努力し、成果をあげたかにより、評定結果を１ランクアップさせる「挑戦加点制度」を導入
・　四街道市の「人事考課制度」では、その結果を昇格、異動、勤勉手当の成績率等の人事的処遇と、職場研修、成長促進等の指導育成について活用するとともに、毎年数回、定期的に制度の説明と事例演習を１日間実施
・　岡崎市の「人事考課制度」では、挑戦するに足る目標を立案・設定の上、その実現に努力した者の総合評価を１ランクアップさせる「挑戦目標制度」を導入しているとともに、勤務評定の公正・公平を確保する手段として自己申告制度、フォロー面接等を実施
・　平田市の「勤務評定制度」では、その結果を勤勉手当の成績率などに活用するとともに、評定結果が適当であるか審査し、必要があれば是正させ、又は調整を行う４役、部長級及び総務課長で構成する評定審査会を創設

２　国における評価システムの取組
・　平成１１年９月、人事院において、職員の能力、実績の評価を適切に行う仕組みを整備することが重要なことから「能力、実績等の評価・活用に関する研究会」を設置
・　平成１１年１０月、総務庁において、国家公務員の人事評価システムについて専門的かつ技術的な調査研究を行うことを目的として「人事評価研究会」を設置

３　民間企業における評価システムの取組事例等
・　労働省が発表した「平成１１年雇用管理調査」によれば、人事考課制度は約５１％の企業で実施され、人事考課の結果などを本人に開示する制度がある企業の割合は人事考課制度を実施している企業の約２５％
・　武田薬品工業（株）では、「透明度の高い人事制度」を人事制度の基本方針の１つとし、「職務評価制度」の評価項目・評価基準を公開し、評定結果を本人にフィードバックするとともに、コンピテンシーを取り入れた独自のポイントシステムを使用
・　日本アイ・ビー・エム（株）では、目標による管理の手法に立脚し、絶対評価と相対評価とを併用した業績評価制度である「ＰＢＣ」のみですべての人事管理を行っており、これを補足する意味で「３６０°アセスメント」という多面評価制度も導入

第４章　地方公務員の評価システムのあり方に関する提言
１　勤務評定の実施について
・　地方分権の進展により、地方公共団体の自己決定・自己責任の範囲が拡大していくという新たな段階を迎える中で、能力・実績主義を適切に機能させるためには、地方公務員の評価システムの仕組みを整備することが不可欠
・　小規模な地方公共団体においても、職員の昇任・昇格・給与等では何らかの評価が行われているはずであり、恣意を排除し、公平性を確保するためにも、勤務評定の実施が必要

２　勤務評定の目的と活用分野について
・　勤務評定には、職務についての達成度や能力を公正に評価し、その結果を配置転換、昇任・昇格、給与等の人事管理に結び付けるという目的（成績判定型の評定）と、個々の職員の能力開発に資するために職務に対する意欲を高め、結果的に組織目標を達成するという目的（能力開発型の評定）という２つの目的が存在
・　成績判定型の評定を主としつつも、職員の資質を高め、地方公共団体の活動の活性化をもたらす観点から、今後、能力開発型の評定の重要性が増大
・　勤務評定の結果を、配置転換、昇任・昇格、勤勉手当、能力開発などに適切に反映させていくことが必要であるが、とりわけ、配置転換、昇任・昇格の分野での活用が容易であると考えられ、評価システムが未整備の団体では、段階的にまずこの分野で活用という選択肢も存在

３　勤務評定の内容について
・　求められる職員像を構成する能力・実績等の指標を評定要素・評定項目を設定する際に考慮し、具体的で分かりやすい基準を設定する必要
・　潜在化された能力から顕在化された能力の評価へのシフトや、勤務評定全体に占める実績に関する評定比重の高まりは時代の流れ
・　管理監督職員に対する勤務評定については、実績評定に比重が置かれるとともに、折衝・対応力、指導力、理解・判断力などが求められているが、一般職員に対する勤務評定については、勤務態度・意欲評定に対する比重が高くなり、積極性、責任感、理解・判断力などが求められており、これらの傾向を参考にすることが有効
・　複数の評定者を置くことにより、客観性・納得性を担保することが可能
・　第１次評定者は、職員の能力・実績等について最もよく知る立場にあり、第２次評定者以降は、第１次評定者に比べ指揮監督する職員の数が多く、被評定者と接触する回数も少ないことから、大所高所に立った勤務評定が必要
・　勤務評定については、①自己申告制度の効果的な実施、②絶対評価と相対評価の併用、③評定者と被評定者との面接、④加点主義による評価手法の工夫、⑤目標による管理の手法の導入、⑥その他（合議制機関の設置、多面評価の実施など）などを検討すべきとの意見
・　要は、地方公共団体の規模と実情に応じた勤務評定制度を実施すべきであり、簡素化・経済性をも考えた取組と運用が行われることが重要

４　勤務評定の被評定者への開示について
・　勤務評定の納得性・透明性を確保し、職員の勤務評定に対する理解を得るためにも、実施要項などの制度の開示は必要
・　職員に目標や行動指針を明確にし、能力開発に資するためにも、勤務評定の結果の開示について積極的に取り組むべきとの意見がある一方、勤務評定の結果の開示が単なる結果の開示のみにとどまり、職員の能力開発の視点が欠けている場合には、人間関係の対立やモラールの低下等、逆効果を招くおそれもあるとの指摘
・　勤務評定の結果の開示については、各地方公共団体の実情を考慮し、メリット・デメリットを勘案しつつ、検討していくべき課題
・　勤務評定の結果の開示については、当該職員の能力開発などに資するため、希望する職員に対して絶対評価を開示するなどにより、地方公共団体の実情に応じて可能なものから実施していくことも選択肢の１つ

５　評定者研修について
・　勤務評定の精度を高め、勤務評定制度そのものの公正性・公平性を確保し、納得性を高めるためには、すべての評定者が、ハロー効果や寛大化傾向など基本的な留意事項を修得するほか、勤務評定制度の目的、被評定者の観察方法、評定項目・評定要素の意味するところなどを十分に理解することが必要・　各地方公共団体の人事担当課は、各評定者に対する研修や、マニュアルの作成などを積極的に実施すべき

６　勤務評定と自己申告制度・目標による管理の手法との連携について
・　勤務評定と自己申告制度との連携を図る中で、勤務評定の目的の１つである能力開発の効果を高めることを期待
・　勤務評定と目標による管理の手法との連携により、評定結果のフィードバックや話し合いが行われる可能性が高いため、勤務評定制度に対する公正性・公平性を確保し、納得性を高めやすい要素を含んでいるのが一般的
・　能力・実績を重視した人事管理を推進するためには、勤務評定と目標による管理の手法とを連携させることを検討することも必要

７　おわりに
・　管理監督者である評定者が、被評定者に対し公正・公平な勤務評定を実施するとともに、被評定者の能力開発を行うことは、日常の業務管理と同様に、管理監督者の最も基本的かつ重要な職務
・　評定者は、勤務評定の結果を通して自分自身を上司から、また、被評定者から評定されていることを認識しつつ、人材育成という視点を踏まえて勤務評定に取り組むべき
・　勤務評定制度の目指すところは、「努力をし、実績をあげた者が報われる」と誰もが感じられる制度
・　各地方公共団体においては、優秀な人材を確保し、定着させ、育成していくために、能力・実績を重視した人事管理を行う前提となる勤務評定制度の導入・定着・積極的な活用について最大限の力を注ぐ必要
・　各地方公共団体における一層の努力に期待