地方公共団体の総合的な財政分析に関する調査研究会
報告書
−「行政コスト計算書」と「各地方公共団体全体のバランスシート」−

第1 はじめに

 本研究会は、小規模な地方公共団体でも比較的容易に取り組むことが可能になるバランスシートの作成手法について調査研究を行い、昨年3月に報告書を取りまとめた。
 地方公共団体においては、この作成手法を取り入れ、既にバランスシートを作成した団体も多く、このほか作成に向けて検討を行っている団体も見受けられる。さらに、人的サービスや給付サービスなど、資産形成につながらない当該年度の行政サービスのコストを説明するため、いわゆる行政コスト計算書の作成に取り組む地方公共団体も出てきている。
 このような状況の中で地方公共団体からは「行政コスト計算書」の作成に当たっての統一的な考え方や基準についてどのように考えるかについての照会も寄せられるようになってきた。
 そこで、本研究会では、地方公共団体の全活動をトータルにわかりやすく説明する観点や、行財政改革を推進する中で、行政の効率性や合理化等の状況をよりわかりやすく住民に説明していこうとする観点からも、資産形成につながらない当該年度の行政サービスの提供の状況を説明する手法として「行政コスト計算書」を作成することは有意義であると考え、「作成マニュアル」を取りまとめることとした。
 「行政コスト計算書」を行政の効率性を検討する見地から有効に活用していくためには、行政活動の成果に対する適正な評価を行うことが必要であり、行政評価手法の開発を行っていくことが求められると考える。
 一方、バランスシートについては、普通会計だけでなく、公営事業会計や公社、第三セクターなど出資団体等も含めたバランスシートの作成に取り組む地方公共団体も出てきている。
 このような状況において、本研究会としては、各地方公共団体全体の行政活動を、資産、負債等の状況としてトータルに、また一覧性のある形で住民に説明していくことは有意義であると考え、バランスシートの対象とする会計範囲を普通会計以外にも広げた「各地方公共団体全体のバランスシート」を検討し、「作成マニュアル」を取りまとめることとした。
 検討に当たっては、地方公共団体の財政状況を住民に公表していく上で、情報を知りたい住民に見せるという受け身の姿勢ではなく、全ての住民に情報をわかりやすく提供していくという積極的な立場をとることが重要であると考えた。
 「行政コスト計算書」と「各地方公共団体全体のバランスシート」は地方公共団体が、説明責任(アカウンタビリティ)をより積極的に果たしていく上で有効なツールになるものと考える。
 さらに前回の報告書について、地方公共団体からの意見等を含め、再度検討を行い、バランスシートの作成手法等について、必要な改善を図ることとした。

第2 行政コスト計算書

1 意義

 前回報告書で検討を行ったバランスシートは、地方公共団体の資産、負債等の状況を明らかにするものである。
 一方、地方公共団体の行政活動は、将来の世代も利用できる資産の形成だけでなく、人的サービスや給付サービスなど、資産形成につながらない当該年度の行政サービスが大きな比重を占めるため、この行政サービスの提供のために地方公共団体がどのような活動をしたのかについて、把握することが重要である。
 この地方公共団体の活動は必然的にコストすなわち資源の消費を伴う。したがって、コスト(資源の消費)は地方公共団体による活動が実施されたことを示す指標といえ、行政コスト計算書は、このコストという側面から1年間に実施された地方公共団体の活動実績に関する情報を把握するものといえる。
 このように地方公共団体の年間の活動の実態像をかかったコストに着目して把握しようとする場合、コストは、現金の支出だけでは捉えきれず、減価償却費や退職給与引当金などその年度の地方公共団体の活動に対応させるべき非現金支出を含めることにより、それぞれの年度のコスト情報が把握できることとなる。
 一方、こうして把握したコストでどのような行政活動が展開され、この結果どのような効果を上げられたかを評価することができれば、コストと対比させることにより、行政活動の効率性を検討することができるようになると考えられる。
 現金支出にのみ着目した予算、決算時の論議は、ともすれば資産形成に要する費用の多寡に向けられがちであるが、行政コストを明確に把握することにより効率性を検討できるようになれば、将来の有効活用を含めた長期的なコスト意識を醸成することにつながるのではないかと考えられる。
 また、このような費用、効率性の検討は、個別の行政分野や施策に着目して行うことも可能である。

2 検討の概要

(1)作成上の基本的前提の検討
(1) 名称・対象会計範囲
 名称については、企業会計に使われている「損益計算書」という呼称は、期間損益計算を前提にするものであり、営利活動を目的としない地方公共団体の財務活動にはなじまず、行政コストを説明する計算書としての意義が重要であることから、既に作成を試みている団体において使用され定着しつつある「行政コスト計算書」の名称を用いることとした。

 対象とする会計範囲は、小規模な地方公共団体でも決算統計のデータ等を利用し比較的容易に作成に取り組むことができることを目指し、普通会計とすることとした。

(2) 行政コストの内容
 利益を目的として活動している企業においては、損益計算書で売上に対応する売上原価を費用として算出し、それを損益計算の基礎とするが、営利活動を目的としない地方公共団体においては、そうした損益計算でなく、あるサービスにどれだけのコストがかかっているかなど行政コストの内容自体の分析を行うことを目的とすることとし、その観点から行政コストの検討を行った。

 計上を行うコストの範囲は、当該年度の住民に提供した行政サービスに要する費用のうち、資産形成につながる支出を除いた現金支出に減価償却費、不納欠損額、退職給与引当金といった非現金支出を加えたものとすることとした。

 コスト項目の分類は、企業のように売上原価、販売費・一般管理費等に分類するのでなく、コスト分析を容易にするため、行政の分野別ごとにその性質別の内訳を示すこととし、目的別経費と性質別経費を合わせたマトリックスとすることとした。
 目的別経費は、教育費、民生費、農林水産業費、土木費など行政分野ごとに分類した。

 性質別経費は、次のように「人にかかるコスト」「物にかかるコスト」「移転支出的なコスト」「その他のコスト」に大きく四分類した。

「人にかかるコスト」 人件費、退職給与引当金繰入等
「物にかかるコスト」 物件費、維持補修費、減価償却費
「移転支出的なコスト」 扶助費、補助費等、繰出金、普通建設事業費(他団体等への補助金等)
「その他のコスト」 災害復旧費、失業対策費、公債費(利子分のみ)、債務負担行為繰入、不納欠損額

 作成に使用するデータは、バランスシートと同様、データの妥当性、各地方公共団体間の統一性、データ収集の簡易性等の観点から基本的に決算統計のデータを利用することとするが、地方公共団体の普通会計は、「現金主義」で経理が行われているため、発生主義の見地からその発生した年度に正しく割り当てられるよう、(2)のとおり調整を行った。

 なお、当該年度のコストや収入に属するものであっても現金の支出や収入を伴わなかったもの(例えば、地方債の利払日以降の利子分や後払いの賃借料の支払日以降分、貸付金の償還日以降の利子分)の未払費用や未収収益の見越計上や、当該年度の現金の支出や収入のうち次年度のコストとすべきものや収入とすべきもの(例えば、前払いの賃借料の次年度分、次年度の保険料前払分)の前払費用や前受収益の繰延計上、地方債の発行差金の繰延資産の計上、次年度の賞与算定対象となる当該年度期間分についての賞与引当金の計上など経過勘定項目の計上については、データ収集の簡易性、地方公共団体間の統一性を勘案し、マニュアル化を行わなかったが、さらに徹底をした手法でバランスシートや行政コスト計算書の作成に取り組もうとする地方公共団体にあっては、それぞれの手法で計上することは妨げないと考える。

(2)行政コスト項目の検討
 人件費については、決算統計の人件費の額からバランスシート及び退職給与引当金繰入等において経理することとした退職手当の額を除いた額を計上することとした。

 退職給与引当金繰入等については、当該年度に引当金として新たに繰り入れられた分に相当する額についてコスト計上することとした。
 また、当該年度の退職手当支払額のうち退職給与引当を行っている額を超える額(その年度勤務したことにより増加した額)については、算定の困難性などから退職給与引当金繰入等に当該差額の退職手当も含めて計上することとした。(この結果、計上すべき退職給与引当金繰入等は、その年度勤務したことにより増加した分も含めた退職手当全額を退職給与引当金から控除したとして計算した退職給与引当金繰入等の額と等しくなるため、その年度勤務したことにより増加した分を計算することなく行政コスト計算書を簡易に作成することができる。)
 このことを具体的事例の仕訳により説明すると次のとおりである。

<事例1>
 平成11年度末のBS上、退職手当引当金は500億円計上。平成12年度中にA人が退職、支払った退職手当が10億円。そのうち、今年度の勤務に起因する部分が1億円。年度末に全職員が退職(全職員ーA)したとした場合の退職手当を520億円と仮定し仕訳を行った。

(単位:億円)
(借方) (貸方)
退職給与引当金 9  現金 9
退職給与引当金繰入等 30
 現金 1
 (退職給与相当分 1)
 (退職給与引当金繰入相当分 29)  退職給与引当金 29

退職給与引当金繰入等
は、行政コスト計算書に計上

 なお、退職手当組合加入団体の組合に対する負担金については、前回報告書に従えば、コストとして計上することとなるが、一方で退職給与引当金を要支給額の100%計上することとしたため、組合に加入していない団体と比べてコストが大きくなり、資産が小さくなってしまうことから、前回報告書の考え方を修正し、組合の資産のうち当該地方公共団体の相当部分を算出し、バランスシートの資産の部の投資等に「退職手当組合積立金」の項目を設け、計上することとした。組合負担金支出時に現金・預金から負担金相当額を当該項目に振り替えるとともに、退職手当支払時に相当額を「退職手当組合積立金」から減額し、組合の資産の当該地方公共団体の相当部分の増減額と負担金支出額の差額について行政コスト計算書の退職給与引当金繰入等を増減させることとした。
 このことを具体的事例の仕訳により説明すると次のとおりである。

<事例2>
 <事例1>で、11年度末の退手組合の資産の当該地方公共団体の相当部分が200億円と計算され、12年度には退手組合に負担金を12億円支払い、12年度末の退手組合の資産の当該地方公共団体の相当部分が220億円となったと仮定し仕訳を行った。

(単位:億円)
(借方)
(貸方)
投資等(退手組合積立金) 12
 現金 12
退職給与引当金 9
 投資等(退手組合積立金) 10
退職給与引当金繰入等 1


退職給与引当金繰入等 29

 退職給与引当金 29
投資等(退手組合積立金) 18
 退職給与引当金繰入等 18

 次に、有形固定資産の減価償却、除却等について検討を行った。
 減価償却については、バランスシートに計上された有形固定資産の減価償却相当額を計上することとした。
 除売却については、決算統計データでは個別資産ごとの未償却資産残高が不明であるため、残存価値を0としたことからも原則として除却損や売却損益は計上しないこととした。しかしながら、個別の財産管理をしている地方公共団体については「物にかかる経費」に「その他」項目を設け、未償却資産残高との差額を計上することは妨げないこととした。ただし、その際、方式の違いは欄外等に記載することにより、住民に説明する工夫を講じていく必要がある。
 また、バランスシート上の投資等について評価損や売却損益を計上する場合、行政コスト計算書の「物にかかる経費」に「その他」項目を設け、計上することとした。

 補助費等については、決算統計の補助費等の額から前年度のバランスシートに計上されている債務負担行為のうち債務保証又は損失補償に係るものの当年度履行額及び退職手当組合の負担金を除いた額を計上することとした。
 なお、一部事務組合負担金で性質別内訳がわかるものについては、それぞれ該当する性質別項目に計上を行うことは妨げないものと考えた。

 繰出金については、決算統計の繰出金の額からバランスシート上で経理することとされた定額運用基金への繰出金を除いた額を計上することとした。
 また、法非適用の公営企業で借入金、繰入資本金で整理されている繰出金、公営企業で貸付金元金償還金として整理されている繰出金についてはバランスシート上で経理することとし、当該繰出金相当額を除いた額を計上することとした。

 普通建設事業については、前回報告書により当該地方公共団体に資産が形成される場合はバランスシート上で経理することと整理したところであり、他団体(国、都道府県、一部事務組合、民間等)に支出した補助金、負担金等により当該地方公共団体の外に資産が形成される場合には、行政コスト計算書においてその補助金、負担金等を計上することとした。

 公債費については、元金償還分についてバランスシート上で経理するため、行政コスト計算書には利子分のみを計上することとした。

 債務負担行為繰入については、第3セクター等の損失補償等に係る債務負担行為の設定額のうち債務が確定したものは確定時にコストとして計上し、当該債務負担行為に基づく債務履行についてはバランスシート上で経理することとした。

 PFI等に係る債務負担行為の設定額のうち既に引き渡しを受けたものは、前回報告書において資産計上と同時に翌年度以降の支払額を負債計上することとされているので、当該債務負担行為に基づく債務履行については、バランスシート上で経理することとし、行政コスト計算書には計上しないこととした。

 不納欠損額については、バランスシート上貸倒引当金は計上しないことで整理しているので、未収金で不納欠損処理を行った場合、行政コスト計算書に計上することとした。

 積立金、投資及び出資金、貸付金については、バランスシート上で経理し、行政コスト計算書には計上しないこととした。

(3)収入項目の検討

 使用料・手数料等については、バランスシート上で経理されない「分担金及び負担金」、「使用料」、「手数料」、「財産収入」、「寄付金」、「繰入金」、「諸収入」について、現年調定額を計上することとした。

 物品の寄付については、評価額を計上することとした。

 繰入金については、決算統計の繰入金の額からバランスシート上で経理することした基金の取崩しによる繰入金、公営企業で貸付金で整理されている繰入金及び法非適用の公営企業からの貸付金元金償還金を除いた額を計上することとした。

 諸収入については、決算統計の諸収入の額からバランスシート上で経理される貸付金元金収入を除いたものを計上することとした。
 国庫(都道府県)支出金については、前回報告書では有形固定資産形成に資する支出金を計上することとしたが、すべての資産の形成の財源となった支出金についても、バランスシートの正味資産に計上することとし(22頁参照)、行政コスト計算書では資産形成に資する支出金以外の支出金を計上することとした。

 一般財源については、「地方税」、「地方譲与税」、「利子割交付金」、「地方消費税交付金」、「ゴルフ場利用税交付金」、「特別地方消費税交付金」、「軽油・自動車取得税交付金」、「地方特例交付金」、「地方交付税」、「交通安全対策特別交付金」、「国有提供施設等所在市町村助成交付金」の現年調定額を計上することとした。

 地方税については、現年課税分は、未収分も含め調定済額を計上することとした。滞納繰越分の収入はバランスシート上で経理することとし、行政コスト計算書には、計上しないこととした。

 地方交付税については、決算統計の地方交付税の額を計上することとした。なお、普通交付税の交付決定の際に見込んだ税収(法人関係税など特定の税目に限る。)と実際の税収との間にかい離が生じた場合に、後年度精算することとされており、また事業費に充てた地方債の償還額について事業費補正等により後年度基準財政需要額に計上することとされているが、このことは後年度の地方交付税の算定の際に基準財政収入額や基準財政需要額を増減するということであり、現実の交付額は後年度の交付決定の際に確定するものであることから、当該年度にあらかじめ未収金として計上するなどの取扱いはしないこととした。

 繰越金については前年度までの収益として整理されているため、計上しないこととした。

(4)正味資産国庫(都道府県)支出金償却額の計上

 資産の減価償却に伴いバランスシートの正味資産に計上した当該資産の形成の財源となった国庫(都道府県)支出金は償却を行うこととしたところであり、行政コスト計算書で「正味資産国庫(都道府県)支出金償却額」の項目を設け、その償却額を計上することとした。
 この結果、「期首一般財源等」と「差引」との合算額たる「期末一般財源等」の額は、バランスシート上の一般財源等の額に等しくなることとなる。

3 具体的な作成手法
 上記の検討を踏まえ、改めて行政コスト計算書の具体的な作成手法等を整理すれば、次のとおりである。

1 作成上の基本的前提

(1)対象会計範囲
 普通会計を対象とする。

(2)計上コストの範囲
 現金の出納に止まらず、当該年度の住民に提供した行政サービスに要した全てのコスト(現金支出に、減価償却費、不納欠損額、退職給与引当金といった非現金支出を加えたもの)を計上する。

(3)行政コストの分類
 人件費、物件費、扶助費、普通建設事業費などの性質別経費と教育費、民生費、農林水産業費、土木費などの目的別経費を合わせたマトリックスにより分類する。

(4)現金主義と発生主義との調整
 「現金主義」で経理が行われている普通会計について、その発生した年度に正しく割り当てられるよう検討の概要(5頁以降参照)で整理した調整を行う。

(5)経過勘定項目の計上
 未払費用や未収収益の見越計上、前払費用や前受収益の繰延計上、地方債や債権の発行差金の繰延資産の計上、次年度の賞与算定対象となる当該年度期間分についての賞与引当金の計上などについては、データ収集の簡易性、地方公共団体間の統一性を勘案し、マニュアル化は行わなかった。
 しかし、さらに徹底した手法でバランスシートや行政コスト計算書の作成に取り組みたいとする地方公共団体については、計上を行うことは妨げないものとする。

2 行政コスト

(1)人件費
 決算統計の人件費の額から退職手当支払額を除いた額を計上する。

(2)退職給与引当金繰入等
 当該年度に引当金として新たに繰り入れられた分に相当する額について計上し、当該年度の退職金支払額のうち退職給与引当を行っている額を超える額も含めて計上する。(結果的に当該年度の退職金支払額全額を退職給与引当金から減じる場合と数値は同じになる。)
 また、退職手当組合加入団体については、前回報告書の考え方を修正し、組合の年度末積立金残高のうち当該地方公共団体相当部分をバランスシートの資産の部の投資等に「退職手当組合積立金」の項目を設け、計上することとした。組合負担金支出時に現金・預金から相当額を当該項目に振り替えるとともに、組合の年度末積立金残高の増減額と負担金支出による退職手当組合積立金計上額の差額について行政コスト計算書の退職給与引当金繰入等を増減させることとした。

(3)資産の減価償却、除却等
 有形固定資産の除売却については、原則除却損や売却損益は計上しない。また、バランスシート上の投資等の評価損や除売却を計上する場合には、行政コスト計算書の「物にかかる経費」に「その他」項目を設け計上する。

(4)補助費等
 決算統計の補助費等の額から前年度のバランスシートに計上されている債務負担行為のうち債務保証又は損失補償に係るものの当年度履行額及び退職手当組合の負担金を除いた額を計上する。
 なお、一部事務組合負担金で性質別内訳がわかるものについては、それぞれ該当する性質別項目に計上を行うことは妨げないものと考えた。

(5)繰出金
 決算統計の繰出金の額からバランスシート上で経理することとされた定額運用基金への繰出金、法非適用の公営企業で借入金、繰入資本金で整理されている繰出金、公営企業で貸付金元金償還金として整理されている繰出金についてはバランスシート上で経理することとし、当該繰出金相当額を除いた額を計上する。

(6)普通建設事業
 他団体(国、都道府県、一部事務組合、民間等)に支出した補助金、負担金等により当該地方公共団体の外に資産が形成される場合に、その補助金、負担金等を計上する。

(7)公債費
 利子償還費を計上する。

(8) 債務負担行為繰入
 第三セクター等の損失補償等に係る債務負担行為の設定額のうち債務 が確定したものをコスト計上し、当該債務負担行為に基づく債務履行相 当額については計算書には計上しない。
 PFI等に係る債務負担行為の設定額のうち既に引き渡しを受けたも のは、資産計上と同時に翌年度以降の支払額を負債計上し、当該債務負 担行為に基づく債務履行相当額については計算書には計上しない。

(9)不納欠損額
 未収金について不納欠損処理を行った場合に計上する。

3 収入項目

 使用料・手数料等、国庫(都道府県)支出金、一般財源に区分し、それぞれの行政コストに対する割合を示すこととした。

(1)使用料・手数料等
 「分担金及び負担金」、「使用料」、「手数料」、「財産収入」、「寄付金」、基金の取崩しによるもの、公営企業で貸付金で整理されているもの及び法非適用の公営企業からの貸付金元金償還金以外の「繰入金」、貸付金元金収入以外の「諸収入」について、現年調定額を計上する。

(2)国庫(都道府県)支出金
 資産形成に資する国庫(都道府県)支出金以外の支出金を計上する。

(3)一般財源
 都道府県にあっては、「地方税」、「地方譲与税」、「地方特例交付金」、「地方交付税」、「交通安全対策特別交付金」、「国有提供施設等所在市町村助成交付金」の現年調定額を計上し、市町村にあっては、「地方税」、「地方譲与税」、「利子割交付金」、「地方消費税交付金」、「ゴルフ場利用税交付金」、「特別地方消費税交付金」、「軽油・自動車取得税交付金」、「地方特例交付金」、「地方交付税」、「交通安全対策特別交付金」、「国有提供施設等所在市町村助成交付金」の現年調定額を計上する。

(1) 地方税
 現年課税分について未収分も含め調定済額を計上する。
 滞納繰越分の収入は計上しない。

(2) 地方交付税、地方譲与税及び上述の各種交付金
決算額を計上する。

4 正味資産国庫(都道府県)支出金償却額

 資産の減価償却に伴い償却するバランスシートの正味資産に計上した国庫(都道府県)支出金の償却額を計上する。

4 行政コスト計算書の活用方法

 以上のような手法を用いて行政コスト計算書を作成することより、行政分野別のコスト配分やコストの状況、またそれぞれのコストに充てられた使用料・手数料等の財源の把握が可能になり、具体的には次のような活用方法が考えられる。活用に当たっては、数値そのものの大小や経年比較、類似団体との比較によって一面的な評価をするのでなく、その数値となった背後にある事情を様々な角度から読み取り、予算や決算からは判断できない要因を探り当てる等の努力を行っていくことが求められると考える。
 なお、今後多くの作成事例を積み重ねることによって、次に掲げた活用方法以外の分析手法も可能になるものと期待される。

(1)経年比較
 性質別の行政コストの「人にかかるコスト」や「物にかかるコスト」などの項目及び目的別の各項目を経年比較することにより、サービスの提供状況の推移を把握できる。例えば、経年的に「人にかかるコスト」が増加している場合は人に頼る部分が多くなっていること、「補助費等」が増加している場合は他の会計を含めた分析が重要になっていることなどが把握できる。

(2)住民一人当たり行政コスト計算書
 性質別の行政コストの「人にかかるコスト」や「物にかかるコスト」などの項目及び目的別の各項目の住民一人当たりの額を算出することにより、類似団体とのコスト比較をすることができる。さらに、住民一人当たり以外にも各費目について教育費であれば生徒一人当たりというように様々な指標単位当たりの経費を算出することも考えられる。

(3)行政コスト対有形固定資産(資産総額)比率
 目的別の各項目のうち主に資産と一体となったサービスを提供する行政分野における性質別の行政コストの「人にかかるコスト」や「物にかかるコスト」などの項目の有形固定資産(資産総額)に対する比率は、資産を活用するためにどれだけのコストがかけられているか、またその主な内容を知る上で参考となる指標である。各行政分野におけるハード、ソフト両面にわたるバランスのとれた財源配分を検討する上でも参考になるものと考えられる。

(4)収入項目対行政コスト比率
 目的別の項目ごとの比率をみることにより、その分野の行政コストがその分野の受益者からの使用料、手数料等や資産から生み出される収益でどれほど賄われているか、外部からの補助負担金等でどれだけ賄われているか、また税等の一般財源がどれだけその分野に投入されているか把握することができる。

 行政コスト計算書は、コストと行政活動の効果を比較することによっ て行政活動の効率性を判断する材料になると考えられる。そのためには、 各分野ごとにおける行政活動の成果を定量的、定性的に評価することが 前提となるものであり、行政評価手法の開発が求められることとなる。 このような方法による効率性の判断はもとより絶対的に正しい答えが存 在するものではなく、様々な角度から検討、検証され、論議が積み重ね られ、効率性の向上が図られていくことが期待される。

第3 各地方公共団体全体のバランスシート

1 意義

 前回報告書では、普通会計を対象にバランスシートの作成手法を検討したが、地方公共団体は、普通会計の他に上下水道事業、介護保険事業、病院事業等地域住民に密着した様々な事業を行っている。こうした事業については、それぞれ別々に決算を行っており、またそれぞれの会計処理の方法に相違がある(官庁会計と公営企業会計)ため、資産形成の面においても地方公共団体全体の財政状況を一覧性のある形で把握することが難しい状況にある。
 しかし、住民からしてみればどの事業も同じ地方公共団体が行っている事業に変わりないことから、説明責任の観点からは、地方公共団体によって行われている全ての活動について住民にできるだけわかりやすく伝え、説明を尽くしていくことは重要である。
 一方、民間においては、企業のグループ化が進み、企業グループの姿を全体的に把握する必要性が強まり、個別企業の個別情報からグループ全体の連結情報を中心とした情報を開示するよう企業会計制度が転換されたところである。
 こうした状況の中、本研究会では、対象とする会計の範囲を普通会計以外にも広げ、地方公共団体の資産、負債等のストック状況の全体像を一覧性のある形で示し、地方公共団体全体の資金の源泉とその使途を示すための地方公共団体全体のバランスシートの作成は有意義と考え、以下の検討を行った。

2 検討の概要

(1)作成上の基本的前提の検討

 名称は、このバランスシートが当該地方公共団体内の会計を一覧性を持って表示することを目的としていることから、「○○県(都・道・府・市・町・村)全体のバランスシート」の名称を用いることとした。

 対象とする会計範囲については、公社や第三セクター等地方公共団体の関係団体を対象にするかについて検討を行ったが、地方三公社については、特別法に基づき地方公共団体の全額出資により設立される法人であり、それぞれバランスシートと損益計算書を作成し、議会に報告を行っており、第三セクターについては、地方公共団体が出資・出捐を行っている商法法人及び民法法人は、地方自治法により、地方公共団体の出資比率に応じて、監査委員による監査(出資比率25%以上)や議会に対する経営状況の提出義務(同50%以上)等が課せられている状況にある。また、前回報告書では、第三セクター等に対する貸付金や出資金については資産計上することとし、また第三セクター等の損失補償等に係る債務負担行為については既に履行額が確定したものについて負債計上することとし、それ以外のものについても欄外注記することとしている。
 一方、これらの団体は、地方公共団体から独立した法人格を有し、設立根拠や法人の形態や財政基盤、地方公共団体との関係も様々であることから、地方公共団体と一体としてバランスシートを作成する対象とすることについてはなお慎重な検討を要する課題であると考えた。
 むしろ、公社、第三セクターの財務状況については、個々に情報開示の手法を充実し、その上で経営の健全化について地方公共団体も含め検討していくことが大切ではないか、といった意見が出された。
 そこで、当研究会では、地方公共団体内部の会計すなわち普通会計と公営事業会計(公営企業法適用の公営企業会計、地方財政法施行令に掲げる事業に係る公営企業の会計、収益事業会計、交通共済事業会計、公立大学附属病院事業会計、市町村にあっては更に国民健康保険事業会計、老人保健医療事業会計、介護保険事業会計、農業共済事業会計、公益質屋事業会計を含む)を対象に、地方公共団体の現時点の姿を示すこととした。

 総合化の手法については、まず、規模の大きい普通会計とその他の会計を合算すると、経営状況の悪い会計が埋没してしまうおそれがあること、会計によってはバランスシートを作成していないものがあるなかで同一の会計基準で全会計を合算していくことは作業上困難であること、作成の便宜を考慮する視点が必要であることなどから、企業会計方式の連結を行うことは困難と考えた。
 地方公共団体内にある複数の会計を総合化するための手法としては、全ての会計データを単純に合算する結合方式、全ての会計のデータを合算した上、当該会計間の取引(内部取引)を相殺消去する純計方式、全ての会計を並べて並記する並記方式がある。
 本研究会では、経営状況の悪い会計が埋没してしまわないようにするため、会計を一覧できるよう並記方式を基本とし、単純な合計及び純計を参考に示すこととした。
 なお、欄外にバランスシート上に計上した債務負担行為以外の債務負担行為の当該地方公共団体における設定総額の計上を行うこととした。

(2)普通会計と公営企業会計(法適用)の調整についての検討

 公営企業会計(法適用)については、従前から個別の会計ごとにバランスシートが作成されていることから、既存のデータを活用することとした。

 普通会計のバランスシートに計上されていない項目である「無形固定資産」、「貯蔵品」、「前払費用及び前払金」、「短期有価証券」、「一時借入金」、「未払金及び未払費用」などについては、「その他」項目を設けて一括計上し、「修繕引当金」、「渇水準備引当金」については「その他の引当金」項目を設けて計上することとした。また、「他会計借入金」については、明示することが住民への情報開示のうえで好ましいとの考えに立ち、「他会計借入金」の項目だてを行うこととした。

 会計処理手法の異なる項目について検討を行った。
 公営企業会計には「繰延勘定」項目があるため、資産の部に項目を設け計上することとした。
 普通会計で設定した「債務負担行為」項目については、公営企業会計において普通会計のバランスシートと同様の整理をすることとした。公営企業会計の「借入資本金」については、負債として計上することとした。
 公営企業会計の「資本」は「資本金」と「剰余金」に区分計上され、普通会計の「正味資産」は「国庫支出金」、「都道府県支出金」と「一般財源等」に区分されているが、「正味資産」で一括計上することとした。
 「退職給与引当金」については、公営企業会計では、地方公共団体によってそれぞれの考え方でバランスシートに計上しているので、現在計上しているそれぞれの基準で計上することとした。
 公営企業会計には出納整理期間がないので、仮に3月末、普通会計に対する未収金、未払金が計上され、普通会計で出納整理期間内に入出金された場合は、公営企業会計のバランスシートの必要な項目を調整する必要がある。

 その他、公営企業会計では有形固定資産を形態別に分類しており、目的別に分類している普通会計と一致しないので、目的・形態別分類は行わず、総額表示にとどめることとした。また、備品の計上基準に相違があるが、それぞれの基準により計上することとした。

(3)公営企業会計(法適用)を除く公営事業会計のバランスシート作成についての検討
 公営企業会計(法適用)を除く公営事業会計については、現金主義・単式簿記による会計手法がとられており、現在、バランスシートが作成されていない状況である。そのため、まずは普通会計と同様に、決算統計及び決算関連書類のデータを活用してバランスシートを作成する必要がある。
 その際、有形固定資産のうち土地分を決算統計等では把握できない問題があるが、老人保健医療事業特別会計のようにほとんど土地資産の保有を想定できない会計もある一方、工業用地造成事業のようにほとんどが土地資産である会計もある。このため、有形固定資産のうち土地分を一律の基準で推定することが困難であることから、普通会計に準じて各団体で工夫のうえ配分の合理的な基準を作った上で、土地分を推計して減価償却を行うこととした。

(4)地方公共団体全体の純計を算出するための個別会計間の調整
 地方公共団体内部の単なる資金の移動にすぎない会計間の貸付金・借入金、投資及び出資金・繰入資本金は相殺し純計する必要がある。
 また、普通会計の決算統計では、繰入金で整理されている法適用の公営企業からの借入金、繰出金・繰入金で整理されている法非適用の公営企業との間の貸付金、借入金、出資金についての取扱いは公営企業側の会計の区分により区分し直していくこととした。

3 具体的な作成手法

 上記の検討を踏まえ、改めて地方公共団体全体のバランスシートの具体的な作成手法等を整理すれば、次のとおりである。

1 作成上の基本的前提
(1)対象会計範囲
 対象とする会計は普通会計、公営事業会計とする。

(2)総合化する手法
 会計を一覧できるよう並記方式を基本とし、単純な合計及び純計を参考に示すこととする。

2 普通会計と公営企業会計(法適用)の調整
 個別会計ごとのバランスシートを活用した上、相違点を調整する。

(1)普通会計のバランスシートに計上されていない項目の扱い

(2)会計処理手法の異なる項目の整理

  •  「繰延勘定」については、資産の部に項目を設け計上する。
  •  「債務負担行為」については、公営企業会計においても普通会計のバランスシートと同様に整理した。
  •  公営企業の「借入資本金」については、負債として計上する。
  •  公営企業の「資本金」と「剰余金」を「正味資産」に一括計上する。
  •  「退職給与引当金」の計上基準はそれぞれの基準で計上する。
  •  出納整理期間内に公営企業会計と普通会計間で入出金がある場合は、公営企業のバランスシートの必要項目を調整する必要がある。

(3)その他

  •  公営企業の有形固定資産については、総額を計上する。
  •  備品の計上基準に相違があるが、それぞれの基準で計上する。

3 公営事業会計(公営企業会計(法適用)を除く)のバランスシート

  •  決算統計及び決算関連書類のデータを活用して、バランスシートを作成する必要がある。
  •  有形固定資産のうち土地分の把握ができないので、土地分を推計し、減価償却を行う。

4 地方公共団体全体の純計を算出するための個別会計間の調整

  •  純計を算出するため、会計間の貸付金・借入金、投資及び出資金・繰入資本金を相殺する。
第4 前回報告書(平成12年3月発表)の改善点

1 意義

 前回報告書を公表した後、当報告書についての地方公共団体からの意見等や研究会の検討を進めていく中での議論等を踏まえ改善が必要と考えられるものについて改善を行った。
 また、対外的に十分説明できる根拠を持つデータを用い、さらに徹底をした手法でバランスシートの作成に取り組みたいという地方公共団体からの意見等について検討を行った。

2 検討の概要

(1)減価償却の考え方
 月割りによる減価償却を導入についての問い合わせがあった。
 当報告書では、決算統計の普通建設事業費は単年度の建設事業費の積み上げであり、供用開始時期までは把握できないこと、また、実務的に当該年度から減価償却した方が計算上の誤りも少ないと思われるので、年度途中に取得した資産でも当該年度から償却することで整理されたものである。
 しかしながら、行政コスト計算書との対応を考えると、「月割りの減価償却」が明確な根拠に基づき可能な団体については、その方法は妨げないこととした。
 その際、方式の違いは欄外等に記載することにより、住民に説明する工夫を講じていく必要がある。

(2)耐用年数
 前回報告書の方式によると庁舎等の取扱いが費目により差が出てしまうので、同様とすべきではないかとの意見があった。
 前回報告書では「設定した耐用年数と異なる耐用年数によることが明らかに妥当であるときは、別の耐用年数によることを妨げない」と整理されており、庁舎以外の耐用年数を合理的に推計できる場合は、庁舎等の耐用年数を独自に設定することは妨げないこととした。
 その際、設定の方式は欄外等に記載することにより、住民に説明する工夫を講じていく必要がある。

(3)貸付金
 前回報告書では、「貸付金」には、履行期限が到来し未収金に計上するものも含めて計上することとしていたが、この場合「未収金」と二重計上になることから、当該額を除いた額を計上することとした。

(4)退職給与引当金
 前回報告書においては、退職給与引当金について、退職手当組合加入団体についても区別せず、要支給額の100%を負債科目に計上することとしているが、報告書に従えば、退職手当組合の加入団体と加入していない団体との間で行政コストや資産の額が異なることとなるため、今回、「行政コスト計算書」を作成することも考慮しバランスシートの計上方法を修正することとした。
 具体的には、退職手当組合が保有する年度末の資産について、加入している団体ごとの持分相当額を計算しうる場合には、その額を、計算できない場合は加入団体の職員の給料総額に占める当該団体の職員の給料総額の割合により資産を按分した額を普通会計のバランスシートの資産の部・投資等の中に「退職手当組合積立金」の項目を設けて計上することとした。また、組合負担金支出時に現金・預金から負担金相当額を当該項目に振り替えるとともに、退職手当支払時に相当額を「退職手当組合積立金」から減額し、組合の資産の当該地方公共団体の相当部分の増減額と負担金支出額の差額について行政コスト計算書の退職給与引当金繰入等を増減させることとした。
 また、推計の方法として、「職員数×平均給与月額×平均勤続年数による普通退職の支給率」を例示しているが、個別積み上げ方式と相当のかい離が生じるとの指摘があった。個別積み上げ方式による計上が望ましいが、作業量、作業時間が膨大になることから統一することは難しいとの判断に立ち、実態とのかい離が大きいことに注意が必要であることを欄外に明記するなどの工夫を加えることとした。
 また、他の推計方法として、「勤続年数別職員数×各平均給与月額×各勤続年数による普通退職の支給率」を使用し、実体とのかい離を埋める工夫をすることも考えられる。
 なお、表現に誤解を生じるおそれがあった、「N年度末に全職員が退職した場合の退職手当総額」を「年度末の全職員−年度末退職者」に改めることとした。

(5)正味資産科目
 有形固定資産形成の財源となった国庫(都道府県)支出金を正味資産に表示することとしていたが、資金の調達と使途を表すというバランスシートの考え方から、すべての資産の形成の財源となった国庫(都道府県)支出金を計上することとした。

(6)経過勘定項目の計上
 一定の契約に従ってサービスの提供を受ける場合、又はサービスの提供を行う場合、当該年度に負担すべきコストであっても年度末までに支払われていないこともあれば、当該年度の収入すべきものであっても年度末までに受け取っていないこともある。当該年度のコストや収入に属するものであっても現金の支出や収入を伴わなかったもの(例えば、地方債の利払日以降の利子分や後払いの賃借料の支払日以降分、貸付金の償還日以降の利子分)の未払費用や未収収益の見越計上や、当該年度の現金の支出や収入のうち次年度のコストとすべきものや収入とすべきもの(例えば、前払いの賃借料の次年度分、次年度の保険料前払分)の前払費用や前受収益の繰延計上、地方債や債権の発行差金の繰延資産の計上、次年度の賞与算定対象となる当該年度期間分についての賞与引当金の計上などについては、前回報告書では、データ収集の簡易性、地方公共団体間の統一性などから、マニュアル化は行わなかった。
 しかし、さらに徹底をした手法でバランスシートや行政コスト計算書の作成に取り組みたいとする地方公共団体については、計上を行うことは妨げないものと考えた。この場合、バランスシート上流動資産に「その他」項目を設け、前払費用等を計上し、流動負債に「その他」項目を設け、未払費用、賞与引当金等を計上し、行政コスト計算書上は賞与引当金繰入については「人件費」に計上するなどとすることとした。

(7)公営企業との間の繰出金、繰入金
 普通会計の決算統計では繰入金で整理されている公営企業からの借入金・貸付金元金償還金、繰出金で整理されている法非適用の公営企業への貸付金・出資金・借入金元金償還金については、公営企業側の会計の区分により区分し直していくこととし、バランスシート上に計上することとした。この際借入金については「固定負債」又は「流動負債」に「その他」項目を設けて計上することとした。

【地方公共団体の会計等の概要】

1 地方公共団体の会計
 決算統計上では、地方公共団体の会計は大別して普通会計と公営事業会計に区分される。

(1)普通会計
 一般会計と特別会計(公営事業会計を除く)を合わせた会計であり、 教育、社会福祉、土木、消防等地方公共団体の行政運営の基本的な経費 などが計上されている。

(2)公営事業会計
 地方公共団体の経営する公営企業等の会計の総称であり、主なものと しては、以下のような会計がある。
(1) 公営企業会計
 使用料等の収入で経費を賄うことを目的として、水の供給や公共交通の確保、医療の提供、下水の処理等のサービスを提供するための特  別会計で、法適用企業、法非適用企業に分類される。

ア 法適用企業

イ 法非適用企業
     地方公営企業法の規定を適用しない事業(地方財政法施行令第12条に掲げる事業、観光地有料道路以外の有料道路事業、観光地駐車場以外の駐車場整備事業)
    ・交通(船舶運航)事業、電気事業、簡易水道事業、港湾整備事業、市場事業、と畜場事業、観光施設事業、宅地造成事業、下水道事業、有料道路事業、駐車場整備事業など

(2) 収益事業会計
 地方公共団体が、その事業に要する経費の一部を賄うために収益を目的とする事業を営むために設置する会計。
 ・競馬、競輪、競艇、オートレース、宝くじ

(3) 国民健康保険事業会計
 直診勘定に係る病床数20床以上の病院で公営企業会計で取り扱われるものを除く国民健康保険事業会計

(4) 老人保健医療事業会計
 老人保健法により地方公共団体が行う老人保健医療事業に係る会計

(5) 介護保健事業会計
 介護保険法により地方公共団体が行う介護保険事業に係る介護保険事業会計

(6) 公益質屋事業会計
 旧公益質屋法により地方公共団体が行う公益質屋事業に係る会計

(7) 農業共済事業会計
 農業災害補償法により地方公共団体が行う農業共済事業に係る会計

(8) 交通災害共済事業会計
 地方公共団体が条例等により直接行う交通災害共済事業に係る会計

(9) 公立大学付属病院事業会計
 地方公共団体が設置する大学の付属病院事業に係る公立大学付属病院事業会計

2 一部事務組合
 市町村等がその事務の一部を共同処理するために設ける地方公共団体 の組合。主に消防、ゴミ処理、火葬場の運営など市町村の区域を超えた 広域的な事業を行っている。

3 地方三公社
 特別法に基づいて地方公共団体の全額出資により設立される法人。
(1)土地開発公社
 「公有地の拡大の推進に関する法律」に基づき、公有地とすべき土地 を地方公共団体に代わって先行取得するために設立される法人。

(2)住宅供給公社
 「地方住宅供給公社法」に基づき、居住環境の良好な集団住宅及び宅 地を供給するために設立される法人。

(3)地方道路公社
 「地方道路公社法」に基づき、有料道路の建設及び管理のほか、一般 道路や自動車駐車場の建設及び管理を行うために設立される法人。

4 第三セクター
 民間の資金や経営ノウハウを導入して、住民等に求められる多様なサービスを提供するために、地方公共団体が出資・出捐をして設立する商法法人及び民法法人。
 地方公共団体は、民法または商法の規定に基づき、出資者・出捐者の立場から、必要な関与を行うことが出来ることとなっており、さらに、地方自治法により、地方公共団体の出資比率に応じて、監査委員による監査(出資比率25%以上)や議会に対する経営状況の提出義務(同50%以上)等が課せられる。