第2回接続の円滑化に関する特別部会公表資料(東京通信ネットワーク株式会社)







電気通信審議会
接続の円滑化に関する特別部会
御説明資料

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              接続の基本的ルール
              についての意見
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             平成8年5月15日
           東京通信ネットワーク株式会社
           代表取締役社長  藤森 和雄

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               目   次

        1.「接続問題」に対するTTNetの基本的立場
        2.TTNetにおける接続の状況
        3.費用負担の考え方
        4.現行制度における問題点
          (1) 負担すべき費用の範囲および配分基準
          (2) コストの妥当性
          (3) コストのアンバンドル化
          (4) アクセスチャージの改定
          (5) 網改造費用
          (6) 接続に要する期間等
        5.多数事業者による接続に関する諸制度の整備
        6.接続の技術的条件

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1.「接続問題」に対するTTNetの基本的立場

 私どもTTNetは昨年電気通信審議会に対し、市内網開放の究極的な姿と
してNTT加入者線網の分離・独立を提唱しました。これは、NTTと接続す
るに当たってNTT自身のサ−ビスに比べて不利でない、公平な接続条件を求
めたものであります。審議会の答申ではこの案は分離後の加入者線会社の活性
化が期待しにくいなどの理由で採用には至りませんでしたが、このたびの特別
部会で、公正競争上望ましい新しい接続ルールが確立されることは、私どもの
要望の主旨に沿うものにほかなりません。したがって、本部会の成果に大きく
期待するものです。

 審議会の答申では、一定の市場シェアを有し不可欠な設備を有する事業者
(「特定事業者」)に対し、1.接続の義務化、2.接続条件の料金表、約款
化等を求めております。接続を円滑に進めるために極めて適切な措置と考えま
す。
 現行電気通信事業法第38条を一歩進めたこのような措置は、接続は事業者
間協議という「市場のルール」に委ねる原則は堅持しつつ、例外的に、特定事
業者の「市場支配力」に一定の歯止めをかけ、接続の多様化と公正競争の活性
化を最大限に図ろうとするものと受け止めております。
 すなわち、接続は原則自由、市場原理に委ねるが、強大な市場支配力を放置
した場合にむしろ競争阻害が懸念されるような事業者には制約を設けるという
措置であって、それ故に、今回の検討の対象となる「特定事業者」は事実上N
TTに限定されるものと理解しております。また、これから策定されるルール
およびその運用も競争促進の立場に徹したものとすべきであると考えます。

 私どもは、昨年9月28日のNTTの市内網開放宣言を受けて以来、半年余
りにわたってNTTと市内局レベルにおける接続の交渉を行って参りました。
予備交渉を経て、本年1月31日に当社からNTTに対し接続申込を行い、こ
れに対するNTTの回答を去る5月9日に受け取ったところであります。現在
この回答をもとに最終的な事業化検討を行っており、6月初めにはNTTに対
し正式に接続の意思表示を行い市内局接続にふみ切りたいと考えております。
いまの見通しでは市内交換機のソフト改修、接続のための線路の引き入れなど
に約1年半程度の期間が必要なので、来年度中には、市内を含む電話市場全域
に、安く良質なサービスを提供し、本格的競争を始めたいと考えております。

2.TTNetにおける接続の状況

 現状ならびにこれからの当社とNTTのネットワークの接続の概要は、以下
の通りです。 (図省略)

3.費用負担の考え方

 現行のアクセスチャージは、既存の網に要した全てのコスト、いわゆる「フ
ルコスト」をベースに算出されています。これに対し、米国では「増分コス
ト」ベースが採用されて
いると聞きます。英国でもOFTELが、97年8月からBTの接続料金を
「フルコスト」ベースから「増分コスト」ベースに変更するべくガイドライン
を既に発表していると聞いています。
 先般、米国の著名な通信経済学者でありますコロンビア大学のエリ・ノーム
教授に増分コスト主義の理由を訊ねたところ、教授は「それが経済原則だか
ら」と明快に答えてくれました。競争下にある財やサービスの値段は、その需
要を確保することで損をしなければよい、何がしかの利益が上がればよい、と
いう判断基準で取引されているケースが圧倒的に多いという現実を指摘し、増
分コストの方がむしろ実態に合っていると語ってくれたわけです。我が国にお
いてもこのような考え方の導入を、ご検討頂きたいと思います。
 そこで、その検討に際してぜひご配意頂きたい事柄を申し述べます。

 NTTとNCCの接続に係わる費用としては次の3点があります。
  ・1つは、NTT網とNCC網の接続用伝送路の費用です。
  ・2つめは、網改造費用です。これには、接続のための交換機ソフト改造
   等が含まれています。
  ・3つめが、網使用料、いわゆるアクセスチャージです。
 接続用伝送路や交換機改造といった、接続のためにNTTが新たに作る設備
の創設費やそれに係わる保守等の経費は、いわゆるアクセスチャージとは別に、
年経費の形でNTTから請求されます。つまり接続に直接必要な費用、言い換
えれば、接続しなければ発生しなかった費用は、接続を求める事業者が負担し
ているわけで、3分あたり10円46銭などという費用負担が接続費用のすべ
てではないということです。
 したがって、「増分コスト」の考え方を検討するにあたっては、アクセスチ
ャージだけにとらわれず、接続用伝送路や交換機改造をも視野に入れる必要が
あると考えます。
 こうした前提にたって、私どもは、「増分コスト」とは、
   「接続に必要な設備関連費用」+「長期的ネットワーク増強費用」
であると考えます。
 この場合の「長期的ネットワーク増強費用」とは、ネットワーク使用料の算
定にあたって、現有設備をベースとするのではなく、接続によって今後発生す
るトラフィック増加に対応する設備をベースとすると考えます。こうした考え
方に立てば、高度技術産業である電気通信事業という分野において、技術進歩
によるコストダウンを織り込んだ「未来志向」的なコストになるであろうこと
は容易に想像できます。
 この特別部会では、ぜひ、この点に踏み込んだ議論をして頂きたいと思いま
す。

4.現行制度における問題点

(1) 負担すべき費用の範囲および配分基準
  NTTが提示するアクセスチャージの算定根拠に使われている数値には、
 公表されている有価証券報告書や付属の決算資料からは確認できないものが
 多数あります。説明を求めて若干のやりとりは行うものの、時間的制約もあ
 り結局は相手を信用して受け取るというのが実情です。したがって、会計制
 度ならびに配分基準について再度点検し、ルールの明確化・公開をきちんと
 行うことが必要です。現行ルールの中にはコストを収入額に比例して配分す
 るなど理屈に合わない基準も含まれています。
  合理的・説得的なルール作りのためには、一枚一枚の伝票のレベルまで立
 ち入って時間と労力をかけて業務実態を調査・分析することも必要になろう
 かと思います。

(2) コストの妥当性
  実績会計値のコストが、果して合理的かつ有効なコストであるかどうかの
 チェックが必要です。過大な設備、ムダな費用が混入していないかどうか。
 こうしたものがアクセスチャージに含まれると通信事業全体のコストに転稼
 され、ユーザーの負担を増すことにもなりますから、この点からも原価の公
 開による透明化が不可欠です。
  これに関連して、コストの標準化も検討課題であると思います。急速に技
 術進歩する電気通信事業という分野において、標準コストを算定することは
 非常に難しいテーマかと思いますが、ご検討頂ければと思います。
  なお、原価に加算する報酬については、現状では、NTTの裁量によって、
 高めの報 酬率を課されていますが、NTTの市場支配力が低下するまでは、
 市場金利相当分程度 に止めるよう、ルールの中で定めて頂きたいと思いま
 す。

(3) コストのアンバンドル化
  設備面からみると、接続するポイントの多様化にあわせて、伝送路、交換
 機、機械装置別にコストを区分し、公開することが必要だと思います。これ
 により、接続を希望する事業者がどのポイントで接続するのが最も効率的か
 を判断することが可能となります。
  この設備面のアンバンドル化については、NTTの「ネットワークのオー
 プン化」宣言以降、相応の進展をみたと評価していますが、当部会において
 さらにご検討願います。
  一方、機能面でのアンバンドリングについては、機能別のコスト分計が困
 難との理由で、接続を希望する事業者によって不要な機能であっても、その
 コストがアクセスチャージに含まれてしまう例が存在します。不要な機能に
 関わる設備関連費用が混入すると、現行のルールでは、管理費など非設備関
 連費用も膨らむ構造になっていますので、その影響は無視できません。機能
 面のアンバンドリングについてのルール化も必要と考えます。

(4) アクセスチャージの改定
  現行のアクセスチャージは、NTTの決算実績を見て、毎年更改されるル
 ールになっております。安定的なものではありませんが、合理化・技術進歩
 等によるコストダウンが大きい事業なので、この形でよいと考えます。
  ただし、NTTへのアクセスチャージは、接続を求める事業者にとって事
 業計画の主要な要素であり、これが値上がりすることは事業の存続を危うく
 する素となります。
  したがって、急激な経済変動などで万一アクセスチャージの値上げが必要
 となる場合には、聴聞会など公的かつ公開の審議の場を設け、事業者からも
 ヒヤリングを行う等、安易な値上げを認めないルール作りを検討して頂きた
 いと思います。

(5) 網改造費用
  NTTによる相互接続ガイドブックでは、申込から4ヵ月以内に改造費用
 を提示することになっています。ところが、そこで提示される改造費用はN
 TT自身や他事業者が負担する額も含めた総額であり、申込み当事者が果し
 ていくら負担すべきなのかが不明です。これでは接続に要するコストを判断
 する材料として不十分であり、事業性の検討も推定額に基づいて最終的意思
 決定を行わざるを得ないのが実態です。事業性を見究める大きな要素だけに、
 一定の前提条件を付けてでも、申込み当事者が容易に判断できるだけの金額
 水準が示される措置が必要であると考えます。
 
(6) 接続に要する期間等
  接続に要する期間については、現行のNTTのル−ルでは事前相談を経て
 申込から回答まで標準で4ヵ月以内、これに加えて網改造の仕様打合せ等が
 完了したのち、実際の接続までにはさらに標準で12ヵ月以内、となってい
 ます。米国ではもっと短期間で行われていると聞いており、変化の激しい電
 気通信の事業環境を考えれば、さらなる短縮に向けての努力が望まれます。
  なお、事前交渉段階で、案件が輻輳して交渉が滞るケ−スが多々あり、N
 TTの関係部門の人員強化が必要と感じております。また、NTTへの接続
 申込みの時期が、NTTの予算措置との関係で、事実上半年に一回と限定さ
 れていますが、随時受付、随時処理としてほしい、地方の事業者のためにN
 TT各支社においても接続協議ができるようにしてほしい等、運用上の改善
 点として要望いたします。

5.多数事業者による接続に関する諸制度の整備

 多数の事業者が、多様な接続を通じて、多彩な選択肢をユーザーに提供する、
これからの通信市場においては、これまで想定されていた2社間にとどまらず、
多数のネットワークを乗り継いでゆく通信の流れが必然的に発生します。こう
した3社以上の接続にあたっては、NTT網が介在するケースがほとんどです。
 事業者間精算やユーザーがダイヤルする事業者識別番号等がネックとなって、
多数事業者間の多様な接続が阻害されることがないような、ルール作り・諸制
度の整備についてもぜひご検討をお願いしたいと思います。
 例えば、NTTをはじめ地域系NCCや長距離系NCC、移動体系などを乗
り継いでゆく場合等において、経由する個々の事業者を、ユーザーがいちいち
識別番号をダイヤルして指定しなければならないような、利便性の悪いルール
ではなく、エンドエンドの料金設定事業者さえ選択すれば、経由するネットワ
ークはその事業者にまかせるというような、ユーザー利便性を重視した制度の
検討をお願いしたいと思います。

6.接続の技術的条件

 NTT網との接続インタフェースは、できる限り標準化されたものが望まし
いのですが、現実にはTTC標準を決めても事業者の裁量にまかされる部分が
かなりあることから、その調整に手間を要しています。またNTTは、サービ
スを早期に提供したいとき、社内の独自インタフェースで実施しています。こ
のようなケースにおいては、接続に要する期間の短縮化のために、標準化を待
つのではなく既存のNTT網内インタフェースの公開が、是非とも必要である
と考えます。
 さらに、より競争条件を整備するという観点から、網機能の公開もアンバン
ドル化し、個々の機能内容、インタフェース条件、接続プロトコル別に事前公
開することも必要と考えます。これにより、接続する事業者は独自サービスに
ついての戦略的な検討が可能になり、サービスの一層の多様化が促進されるこ
とになります。
 一方、接続を行う上での分界点(POI)は、現在NTT局舎内での電気的
接続が基本となっております。しかしながら、設備上・保守上の分界点が明確
であり、安全・信頼性の確保ができるのであれば、従来の構成にこだわること
なく経済性も十分考慮に入れた方法(例えば局舎外のマンホール等でのケーブ
ル接続点等)も導入できるよう、この点についてもルール化が必要と考えます。

                                以 上