第3回接続の円滑化に関する特別部会公表資料(社団法人テレコムサービス協会)
接続の基本的ルールに関する意見
電気通信審議会
「接続の円滑化に関する特別部会」
平成8年5月24日
社団法人テレコムサービス協会
会長 一力 健
1. 二種事業者の紹介
昭和60年に、競争原理を電気通信市場に導入する目的で事業法が施行されて
約10年経過した現在、約3000社の二種事業者が市場に新たに参入し、多
様なサービスを提供している。
二種事業者は、一種事業者の伝送路を借りて自己ネットワークを構築し、以下
に示すような様々なサービスを提供している。
第二種事業者のサービス例
◆専用線サービス ◆パケット交換サービス
◆フレームリレーサービス ◆VPNサービス
◆電子メールサービス ◆FAXメールサービ
◆ボイスメールサービス ◆EDIサービス
◆LAN間接続サービス ◆企業グループオンラインサービス
◆音声・FAXによる情報提供サービス◆テレマーケティング
◆パソコン通信サービス ◆インターネットサービス
二種事業者の提供するサービスの特徴として、市場ニーズに対するきめ細かい
対応、利用者を満足させるサービス開拓および高い付加価値の提供があげられ
る。
しかしながら、一種事業者から伝送路を一般ユーザーと同一料金で「借用」し
ている一方、上記の専用線サービス、パケット交換サービス、フレームリレー
サービス、VPNサービス等、NTTと直接競合するサービスも多くなってお
り、公正有効競争条件の整備は急務を要する。
2. 接続の基本的ルールを定めるに当たって
競争が導入されたものの、日本の電気通信市場においては自ら計画行動し、そ
の結果に責任をとるという市場本来の環境が整っていない。事業者がその競争
市場に参入し、その結果に責任をとる環境とは、事業者が自ら市場参入する前
に事業計画が立てられるかどうかに尽きる。この観点からみるとNTTネット
ワークとの接続が可能かどうか、また、その接続コストが解らないままでは、
事計業画を立て自己責任に基づいて市場に参入する環境が整っていないと言え
る。
電気通信市場に競争原理を導入し、多数の事業者が多様なサービスを提供する
競争環境下においては、地域網をほぼ独占するNTTネットワークに新規参入
事業者が相互接続できるか否かは、公正有効競争上の最優先課題である。
諸外国においても、電気通信市場に競争原理を導入する際、支配的事業者に対
する接続の法的義務を先ず第一に課していることからも明らかである。
むしろ、競争原理を電気通信市場に導入しながらも、支配的事業者に接続の義
務を課さず、利害の相反する事業者間協議に委ねる方法をとっている国は少な
い。
今回、支配的事業者に対する接続の義務付けおよび接続の基本ルールの策定が
閣議で決定されたことは、健全な競争市場の確立に向けた大きな第一歩として
歓迎するものである。同時に、この特別部会の答申が日本の電気通信市場に公
正有効競争条件を設定する上で、非常に重要な役割を担っているとの認識に立
っている。
基本的ルールを定める際、特に強調したい点は接続のための接続ルールを定め
るのではなく、いかに公正有効競争市場を創出するかという観点からあくまで
競争ルールの一環として接続ルールを定めるべきと考えている。単に、接続イ
ンタフェースの技術的仕様ならびに接続費用を定めるのではなく、接続された
状態において、支配的事業者と新規参入事業者間で公正有効競争が市場原理に
基づいて機能するかどうかを念頭においてルールが策定されなければならない。
また、支配的事業者に対する接続の義務付けおよび接続の基本的ルールを策定
するに当たっては、NTTと他の一種事業者間に限定した課題としてとらえる
べきではない。二種事業者もNTTネットワークとの接続が不可欠であること
については、他の一種事業者と何ら差異はない。NTTと一種事業者のみなら
ず、NTTと二種事業者間も含め、NTTと全ての事業者間に存在する共通問
題として取り組むべき課題である。
一種および二種を含む全ての事業者間において、公正有効競争を実現するため
に必要不可欠なNTTネットワークとの接続条件とは何であるか、我々はこの
基本的命題について、次のように考えている。
『他の事業者が自ら提供するサービスにおいて利用するNTTの通信施設と、
NTT自ら提供するサービスにおいて利用する自己の通信施設の利用条件
を同等にする。』
3. 接続ルール策定に関する提案
3.1 ルール策定機関について
接続ルール策定については、利害の相反する一方の当事者の意見に偏ることな
くあくまで公共の利益に照らして最善の措置をとるには、中立性を担う行政の
役割は特に重要である。その際、今までのようにNTTに案を作らせ、それを
もとに他の事業者に意見を求めるというような受動的かつ消極的姿勢から転換
しなければならない。ルール策定機関自ら公正有効競争環境を確保するために
必要となる接続ルールに基本原則を新たに導入し、その原則に沿って具体的提
案をNTTを含む全ての事業者あるいはユーザーにも求める方が良い。
諸外国のルール策定機関(米国のFCC、英国のOFTEL等)でも接続ルー
ルの基本原則を先ず明らかにした上で、接続ルールの細目を定めている。
また、基本ルールの細目を定めるに当たっても、広く意見を世に問い、決定過
程にも透明性を確保することを強く望む。
接続ルールの策定は支配的事業者には義務となり、他の事業者にとっては、支
配的事業者のネットワークとの接続が不可欠なことからも市場参入への保証と
なる性格を持っている。ルール策定機関は、接続ルールが支配的事業者から一
方的に破棄あるいは無視されないよう法的権限が付与され、その実行が担保さ
れていなければならないと考える。これは、過去数年にわたってNTTと二種
事業者の代表からなる「オープンネットワーク協議会」で公正有効競争の枠組
みならびに接続コスト負担について議論してきたが、充分な成果を得ることが
できなかった経験からも、接続ルールの実行を法的権限によって担保すること
の重要性を強調する次第である。
ルール策定機関は、支配的事業者が自ら積極的に接続ルールに沿う行動を促さ
なくてはならない。そのためには、一方的にルールを押しつけるのではなく、
公正有効競争環境を確保するための接続ルールを満たすことを条件に、企業活
動の自由度を与えることも留意しなければならない。
技術革新が日進月歩で進行する情報通信分野においては、一旦定めた接続ルー
ルについても不断の見直しが必要であり、硬直化を避ける意味からも事業者か
らの見直し要求に対し、迅速かつ柔軟な取り組みがとれるような体制にすべき
ことも付け加えておく。
3.2 接続コストについて
NTTネットワークとの接続において、そのコスト負担については他の事業者
が納得できるような情報公開が必須である。特に、接続条件の料金表、約款化
が明示されているが、接続料金の算定の際に用いられることになる接続用会計
の開示は不可欠である。何故なら、認可された接続料金については、他の事業
者はNTTとの交渉はしなくて済む一方、その接続料金の支払いについて妥当
かどうか検証すべき手段がないからである。
更に、接続料金そのものについては、相互接続に係わるコストを基準に設定す
べきと考える。何故コストベースに帰着するか、その基本的考え方を再度以下
に示す。
(1)接続された状態において、NTTと新規参入事業者間で公正有効競争が
機能しなければならない。
(2)公正有効競争環境を確保するには、他の事業者が自ら提供するサービス
において利用するNTTの通信施設とNTTが自ら提供するサービスに
おいて自己の通信施設を利用する条件を同等にする。
また、接続料金は事業者間にのみ適用されるもので、事業者間料金あるいは卸
売料金として一種事業者、二種事業者を問わず無差別、平等に設定されなけれ
ばならず、本来異なるコスト範囲を回収するものであるユーザー向け料金を一
律に適用すべきではない。
3.3 NTTが今後新たに構築するネットワークについて
公社時代他の事業者の存在を前提としなかった独占時代と異なり、現在の競争
市場においては他の事業者との接続を前提としてネットワーク設計が成される
べきと考える。これは、NTTが地域網を単に所有しているだけで市場での競
争優位性を保持するのではなく、二種事業者を含め全ての事業者が同一コスト
で使用できることを前提に、エンドユーザーに対するサービス提供を通して公
正有効競争が機能する市場構造への転換を意味する。
NTTが今後新たに構築するネットワークにおいては、一方的にNTTが接続
仕様を決定するのではなく、他の事業者の意見を踏まえ両者合意のもとに接続
上必要となるネットワークの基本構成要素を定義し、接続を希望する事業者が
必要に応じて自由に組み合わせて使用できるようアンバンドルすべきと考える。
即ち、接続できるのかできないのか判らないままにNTTに対し相互接続を個
別に申し込む事業者間協議形態を廃し、NTTがサービスを開始する際に他の
事業者に対する接続が保証されているような仕組の確立である。
3.4 NTTの既存網について
既存網については他の事業者との接続が前提にネットワーク設計されていない
ことは事実であるが、この点についてはNTTからの一方通行ではなくNTT
と他の事業者間で双方向の真撃な対話を介して新たにネットワーク機能の基本
構成要素を定義し、アンバンドルする必要がある。この場合、いたずらに接続
議論が長期化しないよう、上述のルール策定機関の積極的なリーダーシップが
求められることは言うまでもない。更に、新たにアンバンドルしたネットワー
ク機能に基づく接続については、NTTおよび他の事業者それぞれがその接続
インタフェースについて自己の負担で用意するものとする。
言い換えると、NTTが用意すべき接続インタフェースを網改造費と称して、
他の事業者にそのコスト負担を求めるべきではない。
具体例を1つあげれば、二種事業者が要求しているファクシミリ無鳴動着信機
能(ファクシミリに着信した場合、特別な呼び出し音によってベルを鳴らさず
に着信させる機能)については、高額な網改造費の全額負担を要求され、かつ
そのコスト負担根拠も明らかにされないままになっている。
独占時代から競争時代への移行に伴って、公正有効競争上必要不可欠な相互接
続機能を他の事業者に提供することが、競争市場への参入条件としてNTTに
新たに課せられるべきとの考え方に立ち、事業者がそれぞれの接続インタフェ
ースについて自己負担することを求める。