この「費用に関する項目」では、工業用水道事業に関する費用のうち大きな割合を占める職員給与費、資本費(支払利息及び減価償却費の合算額。通常、地方公営企業では企業債利息及び減価償却費の合算額を資本費と呼んでいるが、ここでは支払利息全額(企業債利息+一時借入金利息+その他利息)を対象とする。)を、給水収益(料金収入)に占める割合から分析する。また、費用構成比と併せてみることで、効率化を図るべき項目などについて知ることができる。
【費用構成比の全体の傾向】
工業用水道事業の費用構成をみると、料金収入に対する資本費の割合が48.7%を占めており、地方公営企業の中でも比較的資本費の高い事業となっている。
資本費は、施設建設に要した費用を耐用年数の到来まで各事業年度に分配していく減価償却費と、施設建設に要する資金を借入金で調達している場合に発生する利息の合算額であり、多額の建設投資を必要とするいわゆる「施設型」の事業では、費用合計に占める割合が大きくなる。また、商品(サービス)の提供量(工業用水では売水量)いかんにかかわらず所要額が費用として計上され、その意味で固定費用となるものであるが、資本費の高い事業は、その費用の回収のために販売量を比較的高い水準に維持していくことが必要である。
また、職員給与費の割合は12.3%となっており、費用に占める割合の高い項目の一つであるが、資本費と並び事実上の固定費となるものである。
1) 資本費(支払利息、減価償却費)
資本費 給水収益に対する資本費の割合(%)=─────×100 給水収益 (注) 資本費=支払利息+減価償却費 支払利息 給水収益に対する支払利息の割合(%) =─────×100 給水収益 減価償却費 〃 減価償却費の割合(%)=──────×100 給水収益 (参照項目) 資 本 費 費用構成比(資本費)(%)=────────────────────────────── 経常費用−(受託工事費+材料及び不用品売却原価+附帯事業費) 資 本 費 現在配水能力当たり資本費(円/m3)=───────────── 現在配水能力(m3/日)×365
区 分 | 対 給 水 収 益 | ||||||||
資本費の割合 | |||||||||
うち支払利息 | うち減価償却費 | ||||||||
19 | 20 | 21 | 19 | 20 | 21 | 19 | 20 | 21 | |
当 該 団 体 | |||||||||
類似団体平均 | |||||||||
全 国 平 均 | 52.0 | 50.1 | 48.7 | 16.3 | 14.3 | 12.7 | 35.7 | 35.8 | 36.1 |
A 施 設 | 95.3 | 85.7 | 78.6 | 31.0 | 21.2 | 12.4 | 64.3 | 64.5 | 66.1 |
B 市 | 34.8 | 56.0 | 59.3 | 1.4 | 11.3 | 4.6 | 33.4 | 44.7 | 54.6 |
区 分 | (参照項目)費用構成比 | (参照項目) 現在配水能力 当たり資本費 |
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資本費の割合 | ||||||||||||
うち支払利息 | うち減価償却費 | |||||||||||
19 | 20 | 21 | 19 | 20 | 21 | 19 | 20 | 21 | 19 | 20 | 21 | |
当 該 団 体 | ||||||||||||
類似団体平均 | ||||||||||||
全 国 平 均 | 52.9 | 52.6 | 52.3 | 16.6 | 15.0 | 13.6 | 36.3 | 37.6 | 38.7 | 9.1 | 8.7 | 8.3 |
A 施 設 | 70.5 | 67.3 | 62.5 | 22.9 | 16.6 | 9.9 | 47.6 | 50.6 | 52.6 | 49.1 | 44.1 | 39.7 |
B 市 | 36.3 | 56.1 | 63.5 | 1.5 | 11.3 | 5.0 | 34.9 | 44.7 | 58.5 | 5.7 | 9.1 | 9.2 |
【指標の見方】
資本費の占める割合(対給水収益又は対費用構成比)の適否については、まず、現在配水能力からみた規模別の区分や水源別の区分など施設の状況に加え、契約率など施設の稼働状況、先行投資(休止中の施設(特にダム・堰等により水利権を得ている場合の現在配水能力と計画配水能力の割合))の状況とを併せて考えることが大切である。具体的には、
(1) 規模別、水源別及び年度別の区分により、類似団体を選定し比較する。
(2) 契約率、施設利用率、導送配水管使用効率等により施設効率をみる(「V.施設の効率性(稼働状況)」参照。次の(3)についても同様)。
(3) 特にダム・堰等の水源施設を有する場合において、契約水量対水利権、契約水量対計画配水能力等により先行投資の度合をみる。
といったことが考えられる。以上の検討から、すでに整備済みの施設で利用効率が低く、資本費と施設の稼働状況に均衡がとれていないと判断される場合については、将来の水需要を見極めたうえで不要とされる施設の処分を行うなど規模の縮小を図り、また、未整備の施設がある場合については、当該施設の整備に伴い発生する資本費の状況はもちろん、長期的な収支についてのシミュレーションを行い、そのうえで適切な進度調整を行うなど投資計画を再検討し、資本費の増加を抑制するよう努めるべきである。
特に、ダム・堰等の水源施設については、現在の契約率や施設利用率にかかわらず建設完了時に水源施設の全てが供用されることから、当該水源施設の管理費負担をも考慮し、余剰分の対応について早急なる検討が望まれる。
【施設別:A施設の分析】
給水収益に対する資本費の割合は、A施設では78.6%で全国平均の48.7%より大幅に高くなっているが、これは給水収益が少ない(料金回収率が79.5%で、全国平均の107.3%より低い)ことが主な原因である。
費用構成比において、資本費の割合は62.5%で、全国平均と比べ高くなっており、規模別・水源別の区分で、同種同規模である「中規模・ダムを有するもの」の資本費を費用構成比でみると、平均は50.4%でありA施設が高い比率となっていることがわかる。これは、平成20年度と比較すると、企業債等の繰上償還を行ったことにより支払利息が減少しているが、比較的新しい水源施設のため減価償却費の割合が依然として高いことが理由に考えられる。
【団体別:B市の分析】
給水収益に対する資本費の割合は、B市では59.3%で全国平均より上回り、費用構成比においても63.5%と全国平均をやや上回っている。平成20年度から比率が高くなっているが、これは平成20年度にあらたにダム使用権を計上したことにより減価償却費が高くなったためと考えられる。
【全体の傾向】
資本費の給水収益に対する割合について内訳をみると、支払利息については全国平均で12.7%となっており、減価償却費は全国平均で36.1%となっている。
また、資本費の費用構成比の内訳をみると、支払利息が全国平均で13.6%、減価償却費が全国平均で38.7%となっている。
給水収益に対する資本費の全体の傾向を施設別にみると、現在配水能力規模の小さい事業ほど高くなっている。また、水源別では「ダムを有するもの」が高くなっており、「ダムを有するもの」のうち、極小規模では給水収益で資本費すら賄えない状況もみられる。このような施設においては、給水収益を増やす(契約率を上げる、料金の改定を行う等)のはもちろん、資本費の圧縮を行うため、例えば余剰施設の売却や、根本的な対策としてダムの水利権等の転用を行い、ダム以外の代替水源の確保を検討することなども有効であろう。
また、資本費の費用構成比では、「ダムを有するもの」の資本費の割合が高くなっているのが目立つ。
団体別の傾向では、中規模、小規模、極小規模の資本費が施設別に比べ低くなっているが、施設別で資本費の高い中・小・極小規模のものが、団体別では大規模施設と合計されているためと考えられる。
職員給与費 給水収益に対する職員給与費の割合(%)=──────×100 給水収益 (参照項目) 職 員 給 与 費 費用構成比(職員給与費)(%)=────────────────────────────── 経常費用−(受託工事費+材料及び不用品売却原価+附帯事業費) 職員給与費 現在配水能力当たり職員給与費(円/m3)=───────────── 現在配水能力(m3/日)×365
区 分 | 給水収益に対する 職員給与費の割合 |
(参照項目) 費用構成比 |
(参考項目) 現在配水能力当たり 職員給与費 |
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19 | 20 | 21 | 19 | 20 | 21 | 19 | 20 | 21 | |
当該団体 | |||||||||
類似団体平均 | |||||||||
全国平均 | 13.7 | 12.6 | 12.3 | 14.0 | 13.2 | 13.2 | 2.4 | 2.2 | 2.1 |
A 施 設 | 7.4 | 7.4 | 7.9 | 5.5 | 5.8 | 6.3 | 3.8 | 3.8 | 4.0 |
B 市 | 24.4 | 2.7 | 2.8 | 25.5 | 2.7 | 3.0 | 4.0 | 0.4 | 0.4 |
【指標の見方】
給水収益に対する職員給与費の割合や費用構成比が平均より高い場合(ただし、あくまでも割合であるから資本費等他の費用の割合が比較的小さいことが原因である場合もあるので、現在配水能力当たりの数値も参照すると良い)は、未売水を有する施設にあっては給水収益を増やす努力が必要であることはもちろん、一部業務を外部委託する場合との費用対効果を測り、合理化を進めることも考慮する必要がある。
【施設別:A施設の分析】
給水収益に対する職員給与費の割合は、A施設では7.9%で全国平均の12.3%を相当下回っており、費用構成比でみても6.3%で、全国平均の13.2%よりも低くなっている。しかし、現在配水能力当たりの職員給与費は4.0円/m3で全国平均の2.1円/m3を上回っている。
【団体別:B市の分析】
B市では、給水収益に対する職員給与費の割合が2.8%で、全国平均と比較するとかなり低くなっている。また、費用構成比でみても3.0%と全国平均を大きく下回っており、これは平成20年度から、水道事業との統合により職員数を大きく減らしたためである。
【全体の傾向】
全体的にみると、対給水収益では現在配水能力規模の小さな事業が高くなる傾向にある。
また、水源別でみると、ダムを有するものが低くなっているが、これは相対的に資本費の割合が高いためと考えられる。