3.資産の状態


 償却資産の減価償却をもとにして資産の状態をみるもので、企業債償還元金対減価償却費比率、有形固定資産減価償却率により分析する。

(1) 企業債償還元金対減価償却費率
                    建設改良のための企業債償還元金
 企業債償還元金対減価償却費率(%)=───────────────── ×100
                    当年度減価償却費―長期前受金戻入

区    分 企業債償還元金
対減価償却費率
25 26 27
当 該 団 体      
類似団体平均      
施設別平均 86.6 92.6 89.4
A  施  設 67.5 166.4 193.5
団体別平均 90.1 95.3 93.4
B    県 110.4 111.1 100.4

※施設別平均は、建設中の15施設を除く243施設についての平均であり、団体別平均は、建設中の施設しかない4団体(4施設)を除く150団体(254施設)についての平均であるため、数値に差がある。


 【指標の見方】
 工業用水道事業は、大規模な施設建設(設備投資)とその維持管理が主な業務であり、その施設建設に要する資金として企業債の依存度が高く、結果として毎年度の支出に占める企業債償還金の割合も必然的に高いものとなる。
 減価償却費は現金支出を伴わない費用であり、通常、企業内部に留保され投下資本の回収がなされるものであるが、公営企業の場合、前述のように資産取得のための資金の大部分を企業債により調達していることもあり、この企業債の元金償還に要する資金を確保しなければならない。ここで、企業債元金償還のための原資は損益勘定留保資金によることとなるが、損益勘定留保資金は、主に減価償却費により得られるものであることから、この比率は、減価償却費に対して返済すべき企業債元金償還金の割合を求め、併せて残余の実質的な内部留保となった額の割合を考察することができる。
 したがって、この比率が低いほど資金的に余裕が生じ、経営の健全性を示すことになるが、投資型(施設型)事業ではもともとこの比率は高いため実質的な内部留保は少ないと考えられ、同種同規模、場合によってはこれに地理的条件等を加えた上で他団体の事業と比較する必要がある。また、建設改良費のための企業債償還元金には繰上償還した元金も含まれている。
 さらに、損益勘定留保資金は減価償却費のほか、純利益によっても得られるが、純損失が生じた場合には減価償却費で得た留保資金を割り込み、実質的な内部留保資金を減少させることとなるため、併せて総収支比率にも留意する必要がある。
 そのほか、償却資産及び無形固定資産(減価償却を行わないものを除く。)の帳簿価格別内訳でみると、耐用年数が長期である資産の構成割合が大きい場合には比較的高率となることを念頭に置き、分析する必要がある。
 なお、当比率が平均より低い場合であっても、投資規模や料金水準は適切か、必要な更新を先送りにしているために企業債残高が少額となっていないかといった観点にも留意する必要がある。

【事業全体の傾向】
 企業債償還元金対減価償却費比率については、平成26年度までは、配水能力規模が小さくなるほど比率が高くなっており、規模が小さいほど供用開始から期間を経ていないものが多いことが要因であったが、平成27年度においては、極小規模の一部施設において企業債の償還が進んだことにより、小規模施設が一番高くなっている。水源区分別にみると、「ダムを有するもの」で高い傾向となっており、当該施設の全固定資産額に占めるダム使用権の構成比が大きく、しかも耐用(償却)年数が55年と長期にわたることが要因である。
(※工業用水道事業債の償還年限は、借入時点では30年が多く、ダムはもとより全工業用水道事業の全資産平均の耐用年数約40年より短い。)

【施設別:A施設の分析】
 A施設については、ダムを水源としており、水源開発費の企業債への依存が高く、供用開始から期間を経ていないことから、平成27年度において施設別平均を大きく上回っているものと考えられる。なお、平成26年度の会計基準見直しにより、当年度減価償却費から長期前受金戻入を差し引くこととしており、その影響で平成26年度以降から急激に上昇している。

【団体別:B県の分析】
 B県については、団体別平均を上回っているが、これはB県の全ての施設において建設投資額が比較的高いダムを水源としているため、企業債への依存が高くなる傾向にあり、償還元金の割合が高くなっているものと考えられる。

企業債償還元金対減価償却費比率(施設別)

規模別・水源別企業債償還元金対減価償却費比率(施設別)

規模別・年度別企業債償還元金対減価償却費比率(施設別)

水源別・年度別企業債償還元金対減価償却費比率(施設別)

企業債償還元金対減価償却費比率(団体別)


(2) 有形固定資産減価償却費率

 (注) 有形固定資産は、団体別でのみ計上されているため、施設別区分の分析は行わない。
                     有形固定資産減価償却累計額
 有形固定資産減価償却費率(%)=───────────────────── ×100
                  有形固定資産のうち償却対象資産の帳簿原価

区    分 有形固定資産
減価償却費率
25 26 27
当 該 団 体      
類似団体平均      
団体別平均 42.7 55.4 56.4
B    県 39.3 53.4 54.3


【指標の見方】
 有形固定資産減価償却率は、償却資産の減価償却済みの割合を示す比率である。この比率により減価償却の進み具合や資産の経過年数を知ることができる。当比率の向上は、相対的に資本費(減価償却費)の減少を意味するが、同時に施設の老朽化の度合を示していることから、修繕費の発生や生産能力の低下を知らせるものでもある。すなわち、償却資産の減価償却の進み具合を分析することによって、施設更新の必要性や今後の修繕費の発生見込みを予測し、今後の設備投資計画を立てる際の参考とすることができる。
 また、更に償却資産を電気設備、機械設備等勘定科目の目ごとに分析することにより、緻密な投資計画を立てることができ、費用についてもそれぞれ修繕費と比較することにより、施設管理の一層効果的な運用を図ることができる。
 なお、この比率は、一般的には減価償却の効果として資金の内部留保がどれだけ図られているかの指標となり、資金計画を策定する上で重要な判断材料の一つとなる。

【事業全体の傾向】
 有形固定資産減価償却率については、現在配水能力規模の大きい事業が概ね高くなっているが、これは一般に現在配水能力の大きい事業の方が年数を経過した資産が多く比較的減価償却が進んでいること、逆に小さい事業は新規の事業が多く比較的減価償却が進んでいないためと考えられる。
 
【団体別:B県の分析】
 B県については、団体別平均を下回っている。これは、平成5年度以降に老朽化施設の更新が実施されており、更新後の有形固定資産について比較的減価償却が進んでいないためであると考えられる。

有形固定資産減価償却率(団体別)


(3) 固定資産に対する建設仮勘定の割合

 (注) 固定資産は、団体別でのみ計上されているため、施設別区分の分析は行わない。
                         建 設 仮 勘 定
    固定資産に対する建設仮勘定の割合(%)=────────── ×100
                         固 定 資 産

区    分 固定資産に対する
建設仮勘定の割合
25 26 27
当 該 団 体      
類似団体平均      
団体別平均 12.4 9.6 10.4
B    県 4.0 4.4 6.3

【指標の見方】
 固定資産に対する建設仮勘定の割合は、団体が保有している資産に対する建設中の資産の割合を示す比率である。工業用水道事業においては、他の公営企業と比べると、この比率が非常に高いものとなっているが、これは、ダム等水源開発施設の建設期間が長期化し、完成まで長い年月を要すること、産業構造等社会経済情勢の変化による企業誘致の停滞等により、水需要が当初見込んでいたものより伸び悩んでいるため、将来の需要の増加に対応するために確保した水源開発施設を建設仮勘定に経理していることなどが大きな要因として考えられる。
 この比率は、今後の潜在的な赤字要因であり、契約率が伸び悩んでいる一方で、この割合が高い団体においては、施設が完成した際に経営状況が大幅に悪化する可能性がある。このため、現下の水需要の動向等を勘案し、将来の水需要を的確に見極め、将来にわたって使用する見込みのない水利権等については積極的に他の利水等へ転換する必要がある。
 また、建設仮勘定にある資産については、費用として料金回収することはできないため、当該資産に係る企業債元利償還金等の財源は、自己資金や他会計からの繰入金等により賄うほかないが、安易に他会計からの繰入れに頼ることのないよう注意する必要がある。

【全体の傾向】
 固定資産に対する建設仮勘定の割合については、施設の規模が大きなものほど、建設事業の期間が長期化するため、高くなる傾向にある。

【団体別:B県の分析】
 B県については、団体別平均を大きく下回っている。これは、現在建設中施設の規模が小さく、また完成した施設については、順次供用開始をしていることが要因であると考えられる。


固定資産に対する建設仮勘定の割合(団体別)


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平成27年度工業用水道事業経営指標