労働者災害補償保険事業に関する 行政監察結果に基づく勧告

平成11年12月

総務庁


 

前   書   き

 

 労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、事業主が負担する労災保険料を財源として、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、被災した労働者の社会復帰の促進、援護等のための労働福祉事業を実施することにより、労働者の福祉の増進に寄与することを目的としている。
 政府は、昭和22年の制度発足以後、適用事業の範囲の拡大、給付水準の向上、年金制度の導入、通勤災害保護制度の導入等労災保険の内容の充実を図るとともに、労働福祉事業団による労災病院、健康診断セン ター、産業保健推進センター等の施設の設置・運営を中心とする労働福祉事業の充実を図ってきている。
 このようなことから、労災保険に加入している適用事業数は、平成9年度末現在で約 270万事業(適用労働者数約 4,844万人)となっており、また、労災保険料等の収入額は9年度で約1兆 5,486億円、これを財源として行われた保険給付の額は約 8,464億円、労災病院の設置・運営等の労働福祉事業に要した額は約 2,574億円となっている。
 しかし、労災保険の適用については、同保険への加入が強制されているにもかかわらず加入手続を行っていないいわゆる未手続事業が90万事業程度存在しており、健全な労災保険制度の運営のために、その解消を図ることが重要となっている。
 また、近年、官民の労働災害防止努力の成果や労働環境の変化等を反映して、労災保険の新規受給者数が昭和43年度の約 172万人をピークに平成9年度の約65万人へと大幅に減少しているほか、労災病院における労災患者の利用割合も、入院、外来とも著しく減少している。
 このため、労災病院については、同病院を取り巻く環境の変化に対応した在り方の見直しを的確かつ早急に行うことが重要な課題となっている。また、その他の労働福祉事業についても、効果的かつ効率的な実施を図る観点から、事業内容の見直しや事業の在り方の再検討が必要となっている。
 政府は、労働福祉事業団について、「特殊法人等の整理合理化について」(平成9年12月26日閣議決定)において、「1)勤労者医療の中核的機能を高めるため、労災指定医療機関や産業医等との連携システムを含め、その機能の再構築を図る。2)労災病院の実態(労災患者入院比率8パーセント)にも照らし、その運営の在り方につき、統合及び民営化を含め検討する。3)毎年度損失が生じている経営状況を改善し、労災保険からの出資金の縮減を図る。」ことを決定している。
 この監察は、以上のような状況を踏まえ、労災保険の適用、徴収等保険業務の実施状況、労働福祉事業の実施状況等を調査し、関係行政の改善に資することを目的として実施したものである。

 


  

目   次

1 適用、徴収等保険業務の運営改善
  (1) 未手続事業の解消
  (2) 保険給付の支給制限等に係る運用の統一化
  (3) 労災保険担当職員の配置の見直し
2 労働福祉事業の効果的かつ効率的な実施の推進
  (1) 労災病院の在り方の見直し等
    ア 労災病院の在り方の見直し
    イ 労災病院の経営の改善
  (2) その他の労働福祉事業の見直し
    ア 休養所の廃止
    イ リハビリテーション学院の廃止
    ウ 労災保険会館の民営化の検討
    エ 特殊健康診断業務に対する交付金の廃止の検討
3 労働福祉事業の評価及び労災保険財政に係る情報開示の推進
 
用語解説