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資料5−4 実証実験としての評価


.実証実験の目的と支援のモデル
 実証実験は、障害者のIT利活用を促進するために、地域の中で、人的支援体制を構築し、その効果を実証することを目的として実施した。
 地域エリアとしては、市区域レベルと県域レベルを想定し、それぞれのエリアで実現すべき人的支援を、その後継続して実施できる体制を考慮しながら実験的に展開する。市区域レベルと県域レベルの想定は、次のような観点から行った。
1) 市区域レベル
現在、町村レベルでは、人材不足のために単独での支援サービス確立が難しいこともあり、単独エリアで直接支援サービスを実施できるものとして市区域レベルを想定した。また、継続的な実施が可能となるよう、比較的都市型のモデル地域を選定した。
2) 県域レベル
市区域レベルでの直接支援を効果的に実践するための指導者育成、ならびに福祉・教育分野既存専門職のスキルアップ、よりレベルの高い利活用支援や就労等に関する市区域レベル単独では実現しにくい人的支援体制をとるものとして県域レベルを想定した。
想定した市区域レベルと県域レベルのイメージ
(1)
県域: 障害者の支援申込を受け、県社協から県域レベル中核機関(仮称:IT支援ネットワーク)に依頼。中核機関ではリハビリセンター等と適宜連携しつつ支援計画作成。特に市区域よりもレベルが高めのIT利活用のための講習を在宅において実施、また障害者の希望によっては就労支援機関と連携し、就労を視野に入れたIT活用講習を当該機関で実施。
さらに、福祉サービスとの連携を図るべく、ヘルパー等を対象にした福祉情報技術研修(初級)の実施、県域及び市区域におけるIT支援中核機関において指導者、中核的なコーディネーターになりうる人材の育成(福祉情報技術コーディネーター研修上級等)、地域教育機関等との連携を図る。
(2)
市区域: 障害者の支援申し込みを受け、練馬区から市区域レベル中核機関(練馬ぱそぼらん内の有資格者組織)に依頼。中核機関でリハビリセンター等と適宜連携しつつ支援計画作成。導入からメール、ホームページ閲覧程度の基本的なレベルについて在宅サポート、障害別の講習会を実施。
(3) ITメーカー、リハビリテーション研究機関は、さまざまな情報提供や照会への回答等により、県域及び市区域中核機関をサポート。

.支援人材の分類
 支援人材としては、次の3分類を想定している。
コーディネータ: 地域リソースの活用も含め、利用者に対する総合的なサービス・人のコーディネートを行い、総合支援計画書を作成する。
サポート責任者: 総合支援計画書に基いて、利用者に応じた個々のサポートに関する個別支援計画書を作成し、実践する。
サポート実践者: 障害の理解、ITスキルについての知識があり、基本的なIT操作支援ができる。

.実証実験の評価方法
<市区域モデル>
(1) アンケート
1) 対象者
利用者側: 訪問サポート利用者(12人)、パソコン講座受講者(8人)、支援者養成講座受講者(入門15人、初級8人)
支援者側: 訪問サポート提供者(コーディネータ(2人)、支援責任者(6人)、補助者(2人))
2) 実施方法
2月上旬〜中旬に練馬ぱそぼらんが配布、回収
アンケート票は、事務局案を元に練馬ぱそぼらんと練馬区が調整したものを使用
(2) ヒアリング
1) 対象者
コーディネータ(1人)
2) 実施方法
2月9日、MRIで実施

<県域モデル>
(1) アンケート
1) 対象者
利用者側:訪問サポート利用者(14人)
支援者側:訪問サポート提供者(25人)
2) 実施方法
2月下旬〜3月上旬に神奈川県社会福祉協議会が配布、回収
アンケート票は、事務局案を元に神奈川県社会福祉協議会が調整したものを使用
(2) ヒアリング
1) 対象者
コーディネータ(1人)、支援責任者(1人)
2) 実施方法
2月16日、MRIで実施

.実証実験の評価結果
 県域と市区域レベルの支援内容の設定が妥当か
 日常的な支援は、身近で、派遣がしやすく、費用的にも、時間的にも効率がよい市区域レベルとするのが妥当である。
 高度なスキルを伴う業務(計画作成、関連機関との連携の調整等)を担える人材は数多くはいないため、市区域レベルで対応できる地域は少なく、県域レベルで対応した方が効率的、効果的である。
.検証事項
(1) 設定した支援エリアは妥当か
(2) 日常的な支援業務と高度なスキルを伴う支援業務の切り分けは妥当か
(3) 人材育成の役割分担は妥当か
.評価結果の概要
(1) 設定した支援エリアは妥当か
1) 実証実験として設定したエリアは妥当である。
コーディネータ(市区域)へのヒアリングによると、市区域レベルでは、居住者の近くで活動することで身近なサポートができるとしている。
コーディネータ(県域)へのヒアリングによると、県域レベルでは、広域的なネットワークを背景に各地区に実践団体を持つことにより、特定の市区域レベルの支援団体だけではできないサポートができるとしている。
利用者へのアンケートによると、目標は概ね達成したとしている。
(2) 日常的な支援業務と高度なスキルを伴う支援業務の切り分けは妥当か
1) 支援側(コーディネータ、サポート責任者、サポート実践者)の業務と役割分担を明確にし、それぞれの業務に専念することでサポートの質を高めるとともに、そうした支援側の役割分担と業務内容を利用者にも理解してもらうことが、満足度を向上させることが必要である。
コーディネータ(市区域、県域)へのヒアリングによると、コーディネータとサポート責任者の境界はやや曖昧であるが、サポート実践者とは、役割分担できた。
具体的には、コーディネータがサポート団体並びにサポート責任者の選定、関係機関との調整を行い、サポート責任者がサポート実践者の選定、そのサポート業務の管理を行った。サポート実践者は、実際にサポート業務を実施した。
サポート側、並びに利用者へのアンケートによると、目標は概ね達成したとしている。
(3) 人材育成の役割分担は妥当か
1) 高度なスキルを伴う業務(計画作成、関連機関との連携の調整等)を担える人材は、市区域レベルでは育成しにくい。
コーディネータ(市区域)へのヒアリングによると、高度なスキルを持つ人材はごく少なく、市区域レベルでは、そうした人材を養成する余力がない。
コーディネータ(市区域、県域)へのヒアリングによると、高度なスキルを持つ人材には幅広い知識や経験が必要であり、それらは市区域レベルでの業務の中だけでは習得しにくい部分である。
2) 地域の特性を踏まえて活動する支援者は、市区域に数多く育成することが重要であり、高度な人材(コーディネータ、サポート責任者)の育成は、県域レベルでの育成が効率的である。
コーディネータ(市区域、県域)へのヒアリングによると、地域のことを知って活動できるサポータは、市区域に数多く必要である。
一方、計画立案、重度障害者対応、その他特殊な対応等を担える高度な人材(コーディネータ、サポート責任者)は数少なく、情報源や関係機関のネットワークを備えた広域的な取り組みの中での養成が効率的である。ただし、具体的な育成方法について明確なことは言えない。
3) 支援の質を確保し、継続的な活動をより効果的にサポートするためには、支援に関わる人材の継続的なスキルアップに向けた研修のほかにも、情報提供や連携機能が必要である。
受講者、サポート実践者へのアンケートによると、IT機器や支援機器環境の整った講習会場も必要である。
コーディネータ(市区域)へのヒアリングによると、現場での新規ケースや困難ケースに対応するための既存事例やノウハウ、機器や支援技術の最新情報等の提供が求められている。

 地域全体での連携、役割分担が妥当か
 支援内容は、各実施主体で用意できる人材、スキル等の面を考慮すると、IT支援に絞った方が効果的である。IT支援以外の生活支援、介護支援等については、障害者支援などの専門機関、専門職との連携を前提に考えた方が良い。連携機関となり得るものとしては、地域の行政機関(都道府県、市区町村)、介護支援・リハビリテーション機関、教育機関、就労支援機関が挙げられ、サポートの実践に対する合意形成、リスク対策が重要である。
.検証事項
1) 他の機関との連携が行われたか
2) 連携機関の選定と役割分担は円滑に決められたか
3) 連携関係は支援の実践において機能したか
.評価結果の概要
(1) 他の機関との連携が行われたか
1) 他機関との連携は実践された。
市区域レベルでは、行政機関(練馬区の総合福祉事務所、障害者課、障害者施設課)との連携が行われた。
県域レベルでは、かながわ障害者IT支援ネットワークに所属する専門職(リハビリ関係者、作業療法士等)との連携が行われた。
(2) 連携機関の選定と役割分担は円滑に決められたか
1) サポート業務の実施に先立ち、連携が想定される関係機関とは協定等を結ぶことにより、連携対象範囲、役割分担、実施手順等を固めることができた。
コーディネータ(市区域)へのヒアリングによると、市区域レベルにおいては、実証実験の開始にあたって練馬区と協定を結び、その作成過程で、実施内容と役割分担が明確になった。
コーディネータ(市区域)へのヒアリングによると、連携機関とはサポート実施にあたっての協定、確認事項等を検討する過程で、実施の範囲、役割分担等が明らかになった。
コーディネータ(県域)へのヒアリングによると、県域レベルにおいては、かながわ障害者IT支援ネットワークとの協働を前提とすることで、そこの所属する専門職との連携が可能になった。
2) 外部との連携にあたっては、個人情報保護、事故対応策、苦情対応などリスク対策には特に留意する必要があり、一定のルール作りが必要である。
コーディネータ(市区域)へのヒアリングによると、安全にサポートを実施することが最優先課題であり、そのための実施体制、外部機関との連携方法、さらにそこで共有する情報等のあり方が重要である。
(3) 連携関係は支援の実践において機能したか
1) 連携関係は支援の実践に機能した。
コーディネータ(市区域)へのヒアリングによると、市区域レベルにおける訪問サポートは、練馬区福祉事務所との役割分担が明確で、福祉事務所が依頼内容に応じて割り振り支援者側がITサポート業務に専念することができた。
コーディネータ(県域)へのヒアリングによると、県域レベルにおいては、支援計画書の策定、実際のサポート方法について、リハビリ関係者、作業療法士の助言も受けることができ、質を維持することができた。

 支援内容と対象者、支援者の資質の組み合わせが妥当か
 実証実験ではコーディネータの役割、サポート責任者の責任範囲が明確に分かれていないが、支援業務の質を上げるためには、支援側の業務と役割分担を明確にし、それぞれの業務に専念できるようにするとともに、その実践を支援する仕組みが必要である。
 依頼から支援内容、サポート実践者、必要に応じて外部機関との連携を判断し、より良い支援をしていくためには、計画立案のスキル、支援実践の経験、あるいは最新のIT技術に関する知識を持った高度なスキルを持った人材(コーディネータ、サポート責任者)が不可欠であり、その育成が重要である。
.検証事項
(1) 支援内容は依頼内容に対応するものだったか
(2) 支援内容に対して経験やスキルある支援者を割り当てられたか
(3) 講座に対して準備したテキスト等は有効だったか
(4) 利用者は支援内容、支援者に満足しているか
.評価結果の概要
(1) 支援内容は依頼内容に対応するものだったか
1) 依頼内容に概ね対応した支援を実施した。
コーディネータ(市区域、県域)へのヒアリング、サポート実践者、利用者へのアンケートによると、いずれも目標は概ね達成したと考えられている。
2) 講座については、定期的な開催によるフォローが求められている。
受講者へのアンケートによると、定期的な講座の開催が求められている。
利用者へのアンケートによると、パソコン初心者の場合には、パソコン操作等で困った時への手助けも求められている。
(2) 支援内容に対して経験やスキルある支援者を割り当てられたか
1) 経験やスキルを考慮した支援者を割り当てることができ、概ね支援内容に対応できた。
コーディネータ(市区域、県域)へのヒアリングによると、サポート実践者の選定は、必ずしも保有資格、スキルだけではなく、実際の支援経験も加味して行われている。しかし、必ずしも十分な人材がいるわけではなく、一部の支援者に偏らないような配慮ができないことも多い。
訪問サポート実践者へのアンケートによっても、サポート経験のある人がサポートにあたっている。
利用者のアンケートによると、講師や訪問サポート実践者に対する評価は概ね高い。
(3) 講座に対して準備したテキスト等は有効だったか
1) 講座のテキストについては、概ね問題なしとされた。
受講者へのアンケートによると、講座のテキスト等教材については、特に問題なしという回答が大勢だった。
2) IT機器を操作する速さ、ネットワーク環境については、一部に不満も見られた。
受講者へのアンケート、コーディネータへのヒアリングによると、ネットワーク環境については、会場の制約により、不十分な環境で実施せざるを得なかった例がある。
(4) 利用者は支援内容、支援者に満足しているか
1) 講座受講者も訪問サポート利用者も、多くは満足している。
コーディネータ(市区域、県域)へのヒアリング、サポート実践者、利用者、いずれに対するアンケートでも、概ね目標を達成したとの評価を得た。
コーディネータ(市区域、県域)へのヒアリング、利用者に対するアンケートによると、支援者養成講座、就労支援講座については、受講したことがどのように仕事に繋がるのか、実践の中でどう活かせるのかが見えず、受講の効果がわかりにくいという意見があった。
2) 継続的な事業とするには、サポート実践者の増員、スキルアップが不可欠であるが、実施主体だけでは対応できないため、支援方策を考える必要がある。
コーディネータへのヒアリングによると、支援者側にはスキルアップへの意欲の高い人が必要であり、それを支援する方策が求められている。

 費用が妥当か
 サポート業務の報酬としては、利用者数が多ければ職として成り立つ可能性はあるが、今回は、市場規模までは推測できていない。このため、受益者負担により、サポート提供側が満足できる報酬が受け取れるかどうかの評価はできていない。しかし、受益者負担に対する抵抗が大きい現状では、サポート実践者の報酬を受益者負担のみで考えるのは困難である。
.検証事項
(1) 支援実施主体にとって運営費の負担は可能か
(2) 支援者にとって報酬は妥当か
(3) 利用者にとって負担水準は妥当か
.評価結果の概要
(1) 支援実施主体にとって運営費の負担は可能か
1) 何らかの公的な補助がないと継続は難しい。
実証実験の実施主体ならびにITサポートセンターの運営主体へのヒアリングによると、実証実験としての費用補填や、厚生労働省等からの補助がなくなったら、同じ内容で支援を継続することが難しいと考えられている。
その理由としては、コーディネート業務はボランティアでできるようなものではなく、相応の報酬を支払う人件費に組み入れることが必須であるが、利用者側の費用負担に多くを期待できないこと、十分な報酬を支払えないために高度な人材が集められず、質が向上しないこと等が挙げられている。
2) 支援実施に要する経費から考えると、実証実験で設定した価格は低く、運営費を賄えるものではない。
実証実験の実施主体へのヒアリングによると、当事者への支援部分をすべて受益者負担とすることには疑問が大きい。
講座受講者へのアンケートにおいては、1,000円以内の講座は妥当な料金との評価がある一方で、5,000円となると高すぎるという評価が半数を超える。
訪問サポート利用者へのアンケートにおいては、有料でも利用したいという意向が多数を占めるが、支払ってもいいとする金額は1回2,000円程度である。
3) 行政との連携でサポートを行う場合には、自由な価格設定が難しくなることもある。
実証実験の実施主体へのヒアリングによると、行政サービスの一部として見られて無償のサービスとなるケースもある。その場合は、自立できる価格設定が困難で、補助金等が活用できない場合は、運営費が賄えないとされる。
(2) 支援者にとって報酬は妥当か
1) サポート実践者にとっては十分でも、サポート責任者、コーディネータとしてはまったく不十分である。
サポート実践者に対するアンケートによると、サポート実践に対しては今回の報酬で十分と考える人が大勢を占めるが、コーディネータへのヒアリングによると、コーディネータ業務に対しては、今回の報酬ではまったく不十分としている。
コーディネータへのヒアリングにおいても、コーディネート業務はボランティアでできるようなものではなく、スキルに対しても、拘束時間に対しても、相応の報酬を支払う必要があるとされている。
(3) 利用者にとって負担水準は妥当か
1) 利用者としては無料に近い方がよいとされる。
利用者へのアンケートによると、1サービス1回あたり負担してもいい額は5,000円くらいまでであり、平均的には2,000円程度と考えられている。
訪問サポートについては、個別対応のサポートとして満足度が高く、有料でも利用したいという意向が強いが、支払ってもいいとする金額は1回2,000円程度である。
2) 支援者養成講座に関しては、受講後の活動イメージが持てないことが利用料の高額感を招いている。
受講者へのアンケートによると、他の講座や訪問サポートよりも満足度がやや下がり、高すぎるとの評価が増える。
コーディネータへのヒアリングでは、仕事や活動にどう繋がるかがわからないという声が多かったとされる。
コーディネータ(市区域、県域)へのヒアリングによると、利用料を引き上げるためには、利用者側が強いインセンティブを持てる内容、具体的な仕事への結びつき等を提示することが必要である。





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