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資料5−5 IT支援事業の具体化に向けて


.総合的な支援を行うために必要な機能
 今後、継続的かつ効率的に総合的なIT支援を行うためには、厳密に区分するものではないが、以下のような機能・設置レベルを有する機関を検討する必要がある。

 必要となる機能
  全国レベル: IT支援を実践する「コーディネーター」「支援責任者」「支援者」の活動をサポートする後方支援機能(支援に必要な各種データを集約・発信:臨床情報、リソース情報、評価エビデンス等)
「コーディネーター」の育成
  県域レベル: 「コーディネーター」による相談、支援計画書作成、市区町村をまたがる調整
市区町村で対応が困難なケースのフォロー
支援に対するクレーム処理
「支援責任者」の育成
  市区町村レベル: 窓口機能(相談、問い合わせ等)
「支援責任者」による相談、支援計画にもとづく市区町村内の調整、実践の指導
「支援者」によるエンドユーザーへの直接支援機能
「支援者」の養成(市区町村の地域性を考慮した支援者の育成を行う)

 まず、県域レベル、市区町村レベルでの機能分担の有効性は、実証実験等で裏付けられた。
 加えて、今回の実証実験では検証していないが、各地のITサポートセンターの現状等についてヒアリングを進めていく過程で、IT支援に必要な各種データ(臨床情報、リソース情報、評価エビデンス等)を入手することが困難であることがIT支援を進める上での大きな障害になっていることが判明した。これらのデータを提供する機能は、データが一箇所に集まれば集まるほど高まることから、各県レベルで用意するよりも、全国レベルの機能としたほうが効率的である。加えて、IT支援コーディネーターのような上級人材についても全国レベルでの研修で育成する方が効率的であると思われる。

.支援事業の普及促進
 将来的には、前述のような今回の研究会で整理したIT支援のあるべき姿を実現することが望ましいが、現状から直ちにあるべき姿に至ることは困難であることから、IT支 援に関連する既存のリソース(機能、組織、人材等)をうまく活用し発展させていくことで、現状からあるべき姿へステップアップしていく道筋を整理する。

  (1) IT支援専門機関の拡充
今回の実証実験の結果から、障害者のIT支援は地域の関係機関との連携等が必要であり、何らかの形で行政が関与していく必要があることが明らかとなった。
現在、障害者のIT支援を目的として行政が関与している例としては「ITサポートセンター」がある。地域ごとに取組の内容に差異はあるものの、地域にIT支援の周知を図っていくと同時に、IT支援を望む人たちのポータル(橋渡し役)としての機能を果たしてきている。
今後は、パソコンボランティアや、リハビリテーション、介護、教育、就労支援等の多岐にわたる分野とも連携しながらIT支援を進めていくため、こうしたIT支援に関わる分野をコーディネートできる環境が各県に整備されていく必要がある。さらに、県域に1箇所では訪問サポート等のコーディネートなどがきめ細かく行えない可能性があることから、市区域レベルでの拠点整備も検討する必要がある。
将来的には、こうした行政が関与するIT支援専門機関が、パソコンボランティアとも協働するIT支援の地域中核拠点となり、他の専門機関と対等に連携できるような体制整備をし、IT支援に特化したノウハウを蓄積するとともに、IT支援については、他の分野の機関をサポートできるような環境を整備していくことで、今回取りまとめたあるべき姿の実現を目指すべきである。

  (2) 関係分野との連携
1) リハビリテーション分野
リハビリテーション分野の専門職のうち、IT支援を本来業務として進めやすいのが作業療法士(OT)である。すでに、作業療法士が、地域におけるIT支援の核になっているケースも多い。
また、作業療法士が所属しているリハビリテーション関連組織(リハビリテーションセンター、各種病院、各種福祉施設等)そのものが、IT支援を業務の一環としてとらえることで、リハビリテーションの観点から、IT支援を進めることが可能である。この場合、業務の一環として位置づけることができるIT支援については、既存の医療保険、介護保険で対応可能であると考えられる。
こうした取組を進めていくため、自治体が進める地域リハビリテーション支援体制整備促進事業のリハビリテーション連携指針中にIT支援への取組を明確に位置づけ、保健・医療・福祉関係諸機関へ普及・啓発を行い、ITの活用に関する専門家(作業療法士等)への相談の仕組みなどを確立していくことが考えられる。
また、作業療法士におけるIT支援対応を明確にするため、日本作業療法士協会で作成している福祉用具ガイドラインの中にIT活用のマニュアルを盛り込み、研修会等を通じて、IT支援の最新情報を習得できる環境を整備していくことが必要である。
ただし、作業療法士が、当事者の生活に密着してIT支援の実践そのものを担うことは、人員不足により困難であることから、IT支援を行う機関に対する専門的なアドバイス、IT機器の処方等について、連携体制を整えていくことが重要になる。
2) 福祉分野
福祉サービスの一環としてIT支援を考える場合、「相談窓口におけるニーズ把握」と「介護現場における支援の実践」の2つの側面がある。
「相談窓口におけるニーズ把握」としては、地域における福祉サービスの窓口拠点(福祉事務所、在宅介護支援センター、社会福祉協議会等)において、IT支援に関する項目を個別調査の段階で盛込むことができれば、IT支援のニーズを的確に拾い上げることができ、潜在的なIT支援のニーズも顕在化できるようになる。将来的には、地域包括支援センターで、高齢者・障害者等の区別なく、介護や日常生活支援を総合的にコーディネートする際、効果的にIT支援のニーズが集約できることが望ましい。そのためには、IT支援のニーズ把握が何らかの制度上で福祉専門職の業務にきちんと位置づけられるかどうかも含めて検討することも必要である。
「介護現場における支援の実践」としては、施設介護と在宅介護があるが、現状では、制度に裏打ちされていないサービスであるIT支援を、あらたな業務として追加することは、人材的にも、財政的にも難しい。したがって、当面は、窓口でニーズを把握したあと、IT支援の実践に関しては、IT支援の実践機関にきちんと橋渡しし、実践できる環境を整備するとともに、現場の福祉専門職と連携してサービスを実践できる環境を整備することが必要である。
なお、IT支援が当事者の生活に密接に関わるものであるために、同じく当事者の生活を支える福祉専門職にも、IT支援に関心をもってもらうため、その方法や効果を理解しやすいように、リソース(製品・サービス・実施機関・人材等)情報や、活用事例を効果的にわかりやすく伝えていく仕組みをつくることも検討すべきである。
3) 教育分野
すでに、盲・聾・養護学校においては、教育の観点から、IT支援も含めた地域のセンター的機能有している。さらに、特別支援教育推進に伴い、特別支援学校(仮称)への移行とともに、より統合的な地域センター機能が実現することになる。センター的機能の例としては、「特別支援教育等に関する相談・情報提供機能」や「道具を使う上での環境整備」等が「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(中間報告)」(中央教育審議会)に示されており、その中で、IT支援に関する専門的な相談等への対応が可能である。また、盲・聾・養護学校にはすでに、学習指導要領に基づいて、相談窓口が設けられている場合も多い。今後は、地域のIT支援拠点からのニーズに応じて専門的な観点からのアドバイスを行いやすいよう、HP等で広くPRするなど環境を整備していくことが重要である。
一方で、教員向けには、IT支援に関するスキルアップを含むリーダー研修等の仕組みも整っており、専門的な知識をもった教員の計画的な育成が進んでいる。こうした教員が、都道府県や市町村の人材育成研修等に講師として派遣されている例も少なくない。今後は、地域におけるIT支援人材育成等においても、盲・聾・養護学校が指導的な役割を果たしやすい環境を整備することで、さらなる地域の支援者養成における指導的な役割を果たすことが求められる。
しかしながら、教員であるという制約から児童・生徒への対応は可能であるものの、地域の障害者全般からの相談を受け、教員自らがIT支援の実践そのものを担うことは難しいため、他の専門職と同様に、IT支援を行う機関からの問い合わせに対する専門的なアドバイス、IT機器の教育的な観点からの活用方法等について相談に応じられるような、連携体制を整えていくことも重要である。
4) 雇用・就業支援分野
日常生活におけるIT活用だけでなく、雇用・就業に結びつくIT支援を行う場合は、その専門機関である職業能力開発校等のIT技能習得のコースですでに実施されている。また、民間機関を委託先とした障害者委託訓練においては、企業やNPO法人、民間教育訓練機関等を受け皿として、就業目標としたIT支援が機動的に実現できる。今後は、こうした場で福祉情報技術コーディネーター等、すでに資格を持ったIT支援人材を有効に活用していくことが望まれる。

  (3) 行政における対応
まず、IT支援を、今後の重要な情報化政策、医療政策、福祉政策、教育政策、労働政策に関わる重要な機能として、行政自身が担うべき機能の中に位置づける必要がある。今後、地方公共団体においては、ITサポートセンター等IT支援専門機関によるIT支援機能が、必要な行政サービスであると認識し、IT支援を効果的に実践できるよう、既存のリハビリテーション、介護、教育、就労支援機関と密接に連携できる体制を整えることが重要である。
そのためには、地方公共団体に配置されている作業療法士や、福祉専門職等が核になって、リハビリテーション、介護、教育、就労支援とIT支援を横断的に実践できる環境を整備していくとともに、IT支援専門機関が他の専門機関と対等に連携できるよう、人材面での拡充を図ることが求められる。

  (4) 人材育成の環境整備
障害をもつ人に対するIT支援を実施する人材としては、リハビリテーション専門職、福祉専門職、教員、企業のカスタマサポート等がいるが、職能として確立されたものではないため、対外的に、どこに、どれだけの人材がいるかは明確ではない。
唯一、民間資格として「福祉情報技術コーディネーター」が平成15年度から運用されている。16年度までで、約1000人が受検し、500名ほどが資格を取得している。
ただし、福祉情報技術コーディネーターの資格は、知識の習得が中心になっているため、今回の研究会であるべき支援人材として明らかにした「コーディネーター」「責任者」と言った、IT支援のマネジメントと実践スキルが必要になる人材については、より実践的な人材育成プログラムを開発し、人材育成を早急にはじめる必要がある。
今後の人材育成の実施主体としては、NPOや福祉専門職等の社団法人、福祉系大学が考えられる。また、これらの実施主体に対しては、行政からの助成にとどまらず、営利企業がCSRの一環として支援していくことも期待される。





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