第1章 情報通信ニュービジネス育成の必要性〜何故情報通信ニュービジネス
が求められるか〜
1 我が国を取り巻く経済社会環境
(1) 背景
最近の我が国経済は、円レートが一時期より円安に戻ったことや、公定歩合の引
き下げや公共投資といった金融面・財政面からの経済対策による景気浮揚効果が期
待されていることから、景気の先行きに対する不安感はやや薄らいでいる。
しかしながら、バブルの崩壊、急激な円高の進行、さらには既存産業の成熟化な
どが複雑に絡み合い長期的に低迷している景気は、まだ本格的な回復には至ってい
ないのが実状である。
この長期にわたる景気低迷においては、経済・産業界において閉塞感が高まり、
先行きの不透明さや資金調達の困難さから新規開業率は低下傾向にある。また、既
存の企業は、バブルの崩壊などにより経営環境が悪化し、財務体質を改善するべく
各種経費の削減に取り組み、中でも経費の大部分を占める人件費を削減するために
雇用調整に取り組んでいる。特に製造業においては、人件費などの生産コストの軽
減を図るべく、急激な円高を背景に、生産設備を海外に移転する動きが活発化して
いる。このような企業のコスト削減の動きから雇用環境は悪化しており、失業率も
上昇傾向にある。さらに製造業による生産設備の海外移転は、生産現場における技
術開発を不可能とすることにより技術革新の停滞をもたらし、ひいては、我が国の
製造業部門の縮小、産業の空洞化による経済全体の弱体化につながることが懸念さ
れている(図表1−1参照)。
(2) 経済社会のダイナミズム創出
上記のように産業の空洞化による経済の弱体化が懸念されており、既存産業が成
熟化している現在、我が国の経済・社会が新しい発展段階へ円滑に移行するために
は、ニュービジネスの創造により、経済・社会のダイナミズムを創出し、経済フロ
ンティアを拡大していくことが必要である。
我が国は、これまで、モノ・エネルギーの大量消費という工業化の手法により、
物質的な豊かさを得てきたが、国民が望む豊かさの価値観が変化し、ニーズの多様
化が進んだ現在においては、ニーズ志向型のニュービジネスが期待される。
また戦後の目覚ましい発展という成功ゆえに安定を良しとする風土が定着し、や
やもすれば何事にも失敗を恐れず取り組む意識、創造的な試みや挑戦への気概の希
薄化が社会全体に見られる。同時に既得権に拘泥する様々な動きが新たな発展を妨
げているといった面もあることから、個人がこれまで以上に創造性を発揮できるよ
うな雇用を創出できるニュービジネスが求められる。
さらに社会経済的活動がグローバル化、ボーダレス化しており、これらの潮流に
対応した国際競争力のあるニュービジネスが期待される。
一方で、情報通信技術の進展を背景として、家庭、産業、社会、地域の各方面に
おける大きなトレンドの一つとして「情報化の進展」が挙げられるが、これはすな
わちマルチメディアの利用促進のための条件が揃ってきていることを意味し、期待
されるニュービジネスもこの方向性に則したものとなろう(図表1−1参照)。
(3) 情報通信産業への期待
経済・社会のダイナミズムを創出し、経済フロンティアを拡大していくニュービ
ジネスに期待される条件を勘案すると、経団連をはじめとする各種提言にみられる
ように、情報通信ニュービジネスへの期待が高い。これは、
A. 既存産業の成熟化が叫ばれる中、情報通信産業は研究開発型のサービス産業で
あり、飛躍的な技術革新を続けている成長産業であること
B. 従来の製造業中心のリーディング産業の場合、輸出超過に伴う貿易黒字によっ
て経済摩擦を引き起こし、その結果円高による調整が行われるという繰り返しで
あったが、情報通信産業は内需主導型のサービス産業であること
C. 情報通信ニュービジネスは従来行っている事業や商品開発にとらわれないとこ
ろに多くの事業機会があり、独創的なアイディアや技術開発が必要となることか
ら、創造性の発揮できる雇用の確保が必要となること、さらにその結果、これま
での、安定を良しとする風土に風穴を開ける可能性を秘めていること
D. 情報通信産業はネットワーク関連、アプリケーション関連、プラットフォーム
関連、コンテント関連と非常に裾野が広く、同産業分野において大きな経済波及
効果が見込めること、さらには、生産誘発係数の大きさから、他産業への経済波
及効果が大きいこと
E. 経済社会活動のグローバル化に伴い、ボーダレス化した通信に対するニーズが
強まっていること、さらにその一方では、情報通信というボーダレス産業である
がゆえに国際競争力を向上させなくてはならないこと
等の理由によると考えられる(図表1−1参照)。
2 期待される具体的な情報通信ニュービジネスの分野
(1) 情報通信ニュービジネスのコンセプト
A. 情報通信ニュービジネスとは
ニュービジネスは、従来の業種・業態などの枠組みに入りきらない企業群であ
り、従来の枠組の外にあることこそがニュービジネスの存在意義であるというこ
とができる。
既存の主な文献や調査によれば、ニュービジネスの概念として、新規性、市場
ニーズ、高い成長性といったキーワードがあげられる(図表1−2参照)。
このニュービジネスの共通概念に加えて、情報通信分野のニュービジネス創造
の核となるのは、情報通信技術の技術革新である。
したがって、情報通信ニュービジネスの概念を「情報通信市場のニーズを巧み
に反映し、技術革新の成果等を利用した事業の新規性によって、高い成長性・将
来性を有する(又は有すると期待される)事業」と捉えることとする。
B. 情報通信ニュービジネスのイメージ
情報通信ニュービジネスのイメージとしては図表1−3のように、大きくコン
テント制作事業、アプリケーション関連事業、ネットワーク関連事業の3つの事
業に分類することができる。
これら3つの事業分野においてニュービジネスが行われていく形態を見てみる
と、PHSやインターネットプロバイダーなどのネットワーク関連事業において
は、既存の企業が新しい分野に進出してニュービジネスを担っていくケースが多
く見られる。一方、各種CD−ROM制作やゲームソフト制作などのコンテント
制作事業、またバーチャルショッピングを始めとした各種オンラインサービスな
どが含まれるアプリケーション関連事業においては、新興の情報通信ベンチャー
企業がニュービジネスを担っていくケースが多く見られる(図表1−4参照)。
(2) 情報通信ニュービジネスの萌芽
情報通信ニュービジネスの具体例としては、図表1−6のようなものが見られる。
(3) 情報通信ベンチャー企業の実態(アンケート調査)
「ベンチャー企業に対するアンケート」調査結果から情報通信ニュービジネスの
実態について整理してみる。
A. 業種
コンピュータソフト、マルチメディアコンテント、情報処理といったソフト
ウェア分野が多くなっている。2つ以上の業務を兼業している企業も多く、情報
処理とコンピュータソフトウェア、マルチメディアコンテントとコンピュータソ
フトウェアを兼業しているところが多い。
B. 資本金
特に資本金1000万円以上5000万円未満の範囲に集中しており、全体の約
41%の企業はこの範囲に含まれる。資本金1000万円以上5億円未満の範囲では、
全体の約83%の企業が占めている。このように資本金5億円未満といった比較
的規模の小さい企業が多くなっている。
C. 従業員
従業員数50人以下の企業が半数以上を占め、また10人以下のごく小規模な
企業だけで約1/4を占めている。このように従業員数が50人以下といった
小規模な企業が多くなっている。
D. 設立年月日
設立年月日は1980年〜1989年の10年間に最も多く分布しており、全体の約
41%がこの時期に設立されている。さらに、1980年以降の設立企業は全体の約
2/3を占めており、設立後15年未満といった若い企業が多くなっている。
E. 経営状況
売上高は、1億円から20億円程度の企業が中心になっている。
増収率については、横這いの企業が多いが、減収になっている企業は2割程度
にとどまり、全般的には増収になっている企業が多い。
