第2章 情報通信政策の動向





第1節 高度情報通信社会の実現に向けた政府の取組

1 高度情報通信社会推進本部制度見直し作業部会における取組
 7年2月、高度情報通信社会推進本部は、「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」を決定した。これを受けて、7年8月、高度情報通信社会推進本部の下に制度見直し作業部会が設置され検討が行われ、8年6月、書類の電子データによる保存、申告・申請手続の電子化・ペーパーレス化に関する報告が取りまとめられた。

2 行政情報化の推進
 省庁間における高度な情報流通を可能とする共通基盤である霞が関WANが、郵政省をはじめとする1府9省庁の参加により、9年1月から、電子メールの運用を開始しており、今後、参加省庁は、順次増加(9年3月末現在、1府19省庁)することとなっている。





第2節 高度情報通信社会の構築に向けた情報通信政策の推進

1 21世紀の高度情報通信社会の構築に向けた情報通信社会基盤の整備

(情報通信高度化中期計画の策定)
 郵政省では、8年1月、電気通信審議会に対し、高度情報通信社会の構築に向けた2000年までの情報通信高度化の推進目標と、その実現のために講ずべき推進方策について諮問を行い、8年5月、「高度情報通信社会構築に向けた情報通信高度化目標及び推進方策−西暦2000年までの情報通信高度化中期計画−」と題する答申を受けた。

(情報通信21世紀ビジョンの検討)
 郵政省では、21世紀初頭(2010年)に向けて推進すべき情報通信高度化のための総合的な政策と、これにより実現可能な未来像を提示することにより、長期的展望に立脚した情報通信政策を確立するため、9年2月、電気通信審議会に対し諮問を行った。同審議会では9年夏ごろを目途に検討が行われている。

(通信・放送の融合に関する検討)
 8年7月に報告が取りまとめられた「21世紀に向けた通信・放送の融合に関する懇談会」において整理された論点及び今後の通信・放送の展開を視野に入れた課題について検討するため、8年10月から「通信・放送の融合と展開を考える懇談会」を新たに開催し、2年間程度の予定で、通信・放送事業の国際化の進展、通信・放送の融合と情報活動の在り方、情報(コンテント)の創造・流通環境整備、情報通信産業に関わる競争環境整備等について検討を行っている。

(マルチメディア・パイロットタウン構想(成果展開型研究開発)の推進)
 郵政省では、9年度から、通信・放送機構による成果展開型研究開発として、地方公共団体や大学等と協力し、関係省庁との連携の下、マルチメディア・パイロットタウンとして、全国に先駆ける意欲のある地域において、通信・放送分野の研究開発成果を活用したシステム開発を推進し、その全国的な普及を図ることとしている。

(先進的情報通信システムモデル都市構築事業の推進)
 郵政省では、21世紀型のマルチメディア未来都市の先行実現を図り、高度情報通信社会の構築を加速・推進するため、通商産業省と連携して、9年度から「先進的情報通信システムモデル都市構築事業」を行うこととしている。

(加入者系光ファイバ網の整備の推進)
 21世紀の高度情報通信社会の基盤的な社会資本である光ファイバ網の円滑な整備を促進するため7年度に創設された加入者系光ファイバ網整備特別融資制度は、NTT−C′融資枠が8年度において420億円に拡大されたほか、当該特別融資のための通信・放送機構の基金の原資として、25億円が措置された。9年度においては、NTT−C′融資枠が511億円に、通信・放送機構の基金の原資は30.5億円に拡充することとなっている。

2 地域情報化施策の推進

(地域情報化プログラムの推進)
 郵政省では、電気通信審議会により策定された「情報通信高度化中期計画(8年5月)」に基づき、新たな地域情報化推進方策を検討するため、8年10月、「高度情報通信社会構築に向けた地域情報化推進方策についての調査研究会−地域情報化プログラム−」を開催し、都道府県域におけるアプリケーションの展開の促進、地域おける情報通信関連産業(ベンチャーを含む。)育成のための環境整備、新しい国土形成実現のための地域における情報通信基盤の在り方について検討を行っている。

3 情報通信関連産業の創造・育成の推進

(情報通信ニュービジネスの振興)
 郵政省では、先進的・独創的な技術の開発を行う中小・中堅企業を対象に、研究開発費の一部を通信・放送機構を通じて助成するテレコムインキュベーション(先進技術型研究開発助成制度)を実施している。また、9年度からの新規施策として、創業・スタートアップ段階の通信・放送新規事業に対する資金供給の促進を目的としたテレコム投資事業組合(仮称)の創設、通信・放送分野の新規事業の実施に必要な人材確保のためのストックオプション制度の創設を行うこととしている。





第3節 第2次情報通信改革に向けた電気通信行政の推進

1 公正有効競争体制の整備

(NTTの在り方の検討)
 郵政省は、8年3月の閣議決定(「規制緩和推進計画の改定について」)に基づき、NTTの在り方について検討を進めてきたところであるが、8年12月、NTTを再編成する方針を定めた。本方針によって、日本電信電話株式会社法(NTT法)の一部を改正する法律案を作成した。

(接続政策の推進)
 郵政省では、接続条件の透明性を確保し、NTT地域通信網との多様な形態での相互接続を推進する観点から、電気通信審議会に「接続の円滑化に関する特別部会」を設置し検討を進めてきたが、8年12月、「接続の基本的ルールの在り方について」と題する答申を受けた。これを受けて、相当な規模の加入者回線を有する電気通信設備を指定し、当該指定電気通信設備を有する電気通信事業者との接続が透明、公平かつ迅速に行われることを確保するため、電気通信事業法の一部を改正する法律案を作成した。

(規制緩和の推進)
 国内の専用線と公衆網の接続については、専用線の利用を完全自由化するため、8年9月、専用線の両端に公衆網を接続する、いわゆる「公−専−公」接続が認可された。
 また、第一種電気通信事業者の提供する移動体通信の料金を、事前届出制の対象とするため、「電気通信事業法施行規則」の改正を行い、8年12月から施行した。

2 サイバービジネスの振興
 郵政省では、電子商取引の安全性・信頼性を高めるため、7年7月に設立された民間企業約100社からなるコンソーシアムである「サイバービジネス協議会」を通じて、電子商取引における暗号・認証技術の実証実験を推進している。

3 マルチメディア社会に対応した通信の高度化・多様化の推進

(次世代移動通信システム(IMT-2000/FPLMTS)に関する取組)
 世界中どこでも、共通端末で利用可能な次世代移動通信システムの2000年ごろの実用化を目指し、郵政省では、8年10月から「次世代移動通信システムに関する調査研究会」を開催し、システムイメージの明確化、標準化の在り方、標準化・実用化スケジュール、技術的課題の検討を行っている。

(マルチメディア移動アクセス(MMAC)に関する検討)
 WWW情報へのアクセスが可能で、移動先でも利用可能なポータビリティを併せ持つメディアであるMMACについて、郵政省では、7年7月から「マルチメディア移動アクセスに関する調査研究会」を開催してきたが、8年5月に報告が取りまとめられた。本報告を受けて、民間において、8年12月、マルチメディア移動アクセス推進協議会が設立され、MMACの実用化に向けたシステムの検討・試験、標準化作業が進められている。

(高度道路交通システム(ITS)への取組)
 ITSは、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを一体のシステムとして構築することにより、ナビゲーションシステムの高度化、有料道路等の自動料金収受システムの確立、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化等を図るシステムである。
 8年7月、「高度道路交通システム(ITS)推進に関する全体構想」が、関係5省庁(郵政省、警察庁、通商産業省、運輸省及び建設省)によって取りまとめられ、ITSが目標とする機能、開発・展開に係る基本的な考え方等が今後20年間の長期ビジョンとして示された。

4 情報通信の利用環境の整備

(電気通信の利用者保護対策)
 8年7月、NTTの発信電話番号通知サービスが認可され、9年1月から試験サービスが開始された。これに対して、個人情報を保護することを目的として、8年11月、「発信者情報通知サービスの利用における発信者個人情報の保護に関するガイドライン」が制定された。

(不法無線局対策)
 郵政省は、不法無線局の未然防止対策として、周知啓発活動の強化、勧告・公表制度及び免許情報告知制度の導入による不法・違法無線設備の製造販売の防止、電波監視施設の整備と活用による不法無線局探査・措置の向上に取り組んでいる。これらの対策を更に強化するとともに、電波環境モニター制度や電波監視システム(DEURAS)の能力向上等の新たな対策を推進している。





第4節 新しい郵便サービスと郵便局ネットワーク活用の推進

1 郵便局ネットワークの活用による国民生活への貢献

(郵政事業21世紀ビジョンの策定)
 郵政省では、国民本位の視点に立ち、全国の国民が豊かで安心できる生活を享受できる社会づくりに貢献するため、9年2月、21世紀を展望した郵便局ネットワークとそのサービスの在り方について郵政審議会に諮問した。本審議会では、新たに「21世紀を展望した郵便局サービスの在り方に関する特別部会」を設置し、9年6月を目途として答申を行うこととしている。

(マルチメディア時代に対応したサービスの開発)
 8年度から、これまでの郵政省ホームページに、地域ごとの情報を加えた電子郵便局及びそれぞれの事業の詳細な情報を提供する郵政三事業のホームページをスタートさせた。
 また、郵便局の情報端末を利用して、自治体や公共的機関に接続することにより、郵便局で各種公的サービスへのアクセスが可能となることを目指した調査研究及び技術実験を9年度に行う計画である。

(福祉サービスの充実)
 郵政省では、9年度から、高齢者の在宅福祉サービスを、過疎地域に所在する一部郵便局で実施することとしている。本計画では、原則として70歳以上の一人暮らしの高齢者及び高齢者夫婦世帯を対象に、外務職員による励ましの声かけ、小学生等からの定期的な励ましのメッセージのお届け、生活用品等の注文受付等のサービスを実施する予定である。

(地域社会への貢献施策の実施)
 郵政省は、地域住民に対する行政サービスの確保と利便性の向上を図るため、これまでのファクシミリによる住民票の交付請求の取扱いに加えて、登記所が統合される地域において、利用者が、郵便局の窓口から統合先の登記所に対してファクシミリにより登記簿謄抄本の交付請求を行えるサービスを8年4月から実施している。

2 ニーズに対応した郵便サービスの提供
 郵政省は、8年8月から、利用者のニーズに応え、利便の向上を図るため、引受から配達まで一貫して郵便物の保冷を行うサービス(チルドゆうパック)を18都道府県で開始し、11月からは、全国に展開した。

3 効率的な郵便事業経営の推進
 郵政省は、郵便物の区分作業の機械化を大幅に拡大し、郵便事業の効率化を図ることにより、将来にわたって低廉で良質な郵便サービスを安定的に提供することを目的に、町名等住所の漢字部分を7けたで表す新郵便番号制を、10年2月2日から導入することとし、準備を進めている。

4 郵政行政の情報化の展開
 郵政省では、7年3月に郵政行政情報化5か年計画を策定し、電気通信行政に係る申請書類等の電子化による手続の迅速化、情報提供の一層の推進とともに、郵政事業に係る事務処理の高度化、郵便局の情報化等を目指し、その検討・具体化を進めている。
 8年度には、インターネットを利用した情報提供の拡充を行った。





第5節 情報通信のグローバル化に対応した国際政策の推進

1 WTO基本電気通信交渉と電気通信分野の世界的自由化
 基本電気通信分野における自由化に向けた交渉である「基本電気通信交渉」は、ウルグァイ・ラウンド交渉終了後も、8年4月末を期限に自由化に向けた交渉を継続し結論を得ることとされたが、米国から、衛星通信市場においては、各国市場への参入の確保の見地から、各国の現状の自由化約束は不十分であり見直しを必要とする、といった主張がなされた結果、交渉期限がさらに9年2月まで延長された。
 9年2月、スイスのジュネーヴにおいて基本電気通信交渉ハイレベル最終交渉が開催され、最終的にWTO加盟130か国中69か国が自由化約束を提出し、合意が成立した。

2 国際的潮流への対応

(情報社会と開発に関する会合)
 8年5月、南アフリカ共和国のミッドランドにおいて、「情報社会と開発に関する会合」が開催された。先進国と開発途上国双方の閣僚の参加を得て情報社会について討議が行われた初めての会合として、情報通信基盤の整備を通じた全世界的な情報社会の構築の重要性についての共通認識が醸成されるとともに、国際的な協調の必要性について確認された。

(第2回APEC電気通信・情報産業大臣会合)
 8年9月、オーストラリアのゴールドコーストにおいて第2回電気通信・情報産業大臣会合が開催された。本会合では、社会経済の発展のための情報通信の重要性について認識が一致し、アジア・太平洋情報通信基盤(APII)は、構想の段階から行動の段階へ移行したとして、その構築のためのより具体的な協力推進及び自由化推進について合意した。

3 国際機関等における積極的な取組及び貢献

(APTの動向)
 8年9月、タイのチェンマイにおいて第2回AII政策会合が開催された。本会合においては、我が国が議長となり作成した作業グループの報告書を基に、AIIについての共通認識が確立された。また、今後の政策会合は我が国を中心として進められていくこととなった。また、9年2月、東京において域内における標準化協力の一層の強化を図ることを目的として、「第2回標準化に関する協力会合」が開催された。

(ITUの動向)
 第1回世界電気通信政策フォーラムは、8年10月、スイスのジュネーヴにおいて「衛星によるグローバルな移動パーソナル通信」を議題とし、世界129か国の主管庁、13の国際機関のほか、衛星携帯電話(GMPCS)に係る電気通信事業者、電気通信機器製造業者等の多数の参加者を得て開催され、GMPCSの早期かつ円滑な実現に向けて各国の電気通信政策及び規制の調整を行う必要性について参加者の認識が一致した。





第6節 21世紀に向けた技術開発・標準化の推進

1 情報通信の高度化・多様化を支える技術開発の推進

(情報通信技術に関する研究開発基本計画)
 郵政省では、8年1月、電気通信技術審議会に対し、「技術創造立国に向けた情報通信技術に関する研究開発基本計画について」の諮問を行い、8年5月、情報通信技術の研究開発強化の必要性、重点開発プロジェクトの推進等を内容とした「情報通信新世紀の構築に向けて−情報通信技術に関する研究開発基本計画−」と題する答申を受けた。

(マルチメディア・バーチャル・ラボ(仮想研究所)の構築)
 マルチメディア・バーチャル・ラボは、全国各地に分散する産学官の研究開発機関を高速ネットワークで結ぶことにより、あたかも一つの研究所で研究開発を行っているような高度な研究環境を実現するものである。郵政省では、9年度から5か年計画で、構築に必要な研究開発を実施し、11年度を目標に試行的構築と実証実験を行うこととしている。

(情報通信の高度化のための脳機能の研究)
 脳のメカニズムを交換機や情報通信端末等に応用することにより、画期的な情報通信システムを開発することが可能である。郵政省では、通商産業省と共同で、郵政省通信総合研究所及び工業技術院電子技術総合研究所のそれぞれの研究ノウハウを活用した共同研究を、9年度から実施することとしている。

2 標準化活動の一層の推進

(標準化に対する取組)
 電気通信に関する標準化は、国際的には主にITUが行っており、これを受けて国内の標準化が行われている。

(アジア・太平洋地域における標準化の推進)
 郵政省では、9年2月、APTと協力して、アジア・太平洋地域における電気通信分野の標準化に関する協力会合を東京において開催し、アジア・太平洋電気通信標準化機構(ATSI)の設立可能性等について検討を行うアドホックグループの設置等を決めた。





第7節 宇宙通信政策の推進

1 宇宙通信政策の推進
 郵政省では、7年1月、電気通信技術審議会に対し、衛星通信システムの将来像と今後の研究開発の推進方策に関する検討を諮問し、8年5月、「衛星新世紀の展望と我が国の挑戦」と題する答申を受けた。本答申では、統合デジタル放送(ISDB)等の新サービスの創出等を生み出す先端的な衛星通信技術の研究開発について、具体的な研究開発課題及びその推進方策を取りまとめている。

2 先端的な宇宙通信技術の研究開発の推進

(超高速(ギガビット級)通信技術衛星)
 超高速(ギガビット級)通信技術衛星は、伝送容量が最大1.2Gbps程度の超高速衛星通信技術を開発することを目的とした衛星で、14年ごろの打上げを目標としている。
 郵政省では、光通信システムによるグローバルな衛星通信網を構築する技術を実証するために、欧州の衛星との衛星間通信実験を行うことを検討している。

(グローバルマルチメディア移動体衛星通信システム(gmmss))
 郵政省では、携帯端末による画像伝送を可能とする移動体衛星通信システム(gmmss)の実現に必要な技術を確立するための研究開発を、9年度から着手することとしている。





第8節 安心できる社会づくりに貢献する防災対策の推進

1 情報通信を利用した防災対策の推進

(防災無線システムの高度化に関する検討)
 郵政省では、7年11月から「防災無線システムの高度化に関する研究会」を開催し、地震、台風等広域的な災害に備え、今後の防災システムの一層の高度化を図るための課題と具体的方策について検討が行われ、8年6月、報告が取りまとめられた。

(高度無線ライフライン情報監視システムに関する研究開発)
 8年度には、通信・放送機構において、耐災性を考慮して、無線により都市部の各家庭のガス、電気等のメーター、各種センサー等ライフライン機器からの情報を高速に処理し、迅速に機器の制御ができる監視システムの実現に必要な技術の開発を行った。

2 郵便局を活用した防災対策の推進

(郵便局を活用した災害情報提供等の実験)
 郵政省では、地方公共団体が構築するコンピュータネットワークと接続し、非常時には地方公共団体からの安否情報、施設・ライフラインの被災状況、物資、救援依頼情報等を郵便局に設置する端末機により住民に提供する実験を行っている。

(災害時における郵便局と地方公共団体との連携)
 郵政省は、8年度に、横浜市(神奈川県)、栃尾市(新潟県)、上田市、松本市、佐久市、丸子町、真田町(長野県)と郵政省、地方公共団体のそれぞれが所有・管理する施設及び用地の相互提供、被災者の避難先及び被災状況等の相互提供、防災訓練への相互参加、相互の防災計画等に関する平時からの情報交換、安否情報等の連絡体制の検討等を内容とする覚書・協定を締結した。