郵便局ビジョン 2010

第1章 社会経済の変化と21世紀の社会像

  1 社会経済の変化

  2 21世紀の社会像

  3 我が国が取り組むべき課題






 戦後50余年、高度経済成長により欧米へのキャッチアップを成し遂げた我が国は、21世紀を目前に控えた現在、高度情報化、少子・高齢化、グローバル化という大きな潮流の中で、既存の社会経済構造を改革する必要に迫られている。
 こうした大きな潮流を踏まえれば、21世紀初頭の社会では、「情報」・「安心」・「地域」が鍵となると想定されよう。豊かな21世紀社会を実現するためには、効率的な行政を実現しつつ、いかに、情報化効果を拡大、普及させるか、いかに、自助・共助・公助の調和等により、安心できる生活や不安なき社会を実現するか、いかに、地域社会を多様で個性的な形で活性化・発展させるか、といった課題に取り組む必要がある。

1 社会経済の変化

 21世紀を展望した郵便局やそのサービスの在り方を検討するためには、まず、社会経済の変化を踏まえる必要がある。

 (1) 高度情報化
 近年の目覚ましい技術革新は光化、デジタル化等、情報通信システムの高度化を実現し、多様な情報通信サービスが提供されるようになってきている。このため情報通信サービスの利用者数は急拡大し、我が国の経済に占める情報通信の比重が大きくなってきている。
 例えば、平成2年度(1990年度)から同7年度(1995年度)までの過去5年間の携帯・自動車電話契約数、ISDN(Integrated Services Digital Network:サービス総合デジタル網)回線数、都市型CATV(ケーブルテレビ)契約数は、それぞれ12倍、19倍、4倍と極めて高い伸び率を示している(図1)。情報通信産業の名目国内総生産に占める割合も昭和60年(1985年)から平成7年(1995年)までの10年間で4.5%から 5.9%に拡大している(資料1)。
 一方、半導体技術等の発展により、コンピュータの処理速度が飛躍的に高速化するとともに、高機能化やダウンサイジング化(小型化)を実現し、パソコンが急激に普及しはじめている。特に、企業においては構内ネットワークであるLAN(Local Area Network)を構築し、情報通信システムの活用により業務の効率化を図っているが、最近では発注や納品伝票等の商取引情報を電子化して取引先とデータ交換を行うEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)も広く使われるようになってきている。
 現在では企業の66.6%がLANを、39.8%がEDIを利用しており、企業等でのネットワークの構築と各ネットワーク間の融合が進展している(資料2〜4)。
 こうした高度情報化は、新たな産業経済発展の原動力であるとともに、ネットワーク化を通じて国民生活の質を飛躍的に向上させるツールとなる。

国内情報通信の動向(図1)


郵政省資料により作成
(注) ISDN回線数は昭和63年度末、NHK衛生放送契約数は元年度末を100とした。
ISDN回線は基本インターフェースの回線数である。
ケーブルテレビは、自主放送を行うものを対象とする。

(出所)平成9年度通信白書

(2) 少子・高齢化
 我が国の出生率(合計特殊出生率)は、昭和30年代から40年代にかけて人口維持に必要な値である2.1をほぼ維持してきたが、昭和50年(1975年)に1.91を記録して以降低下傾向にあり、平成7年(1995年)には1.43となっている(資料5)。
 一方、国民の平均寿命は伸長を続け、平成7年(1995年)には男 76.36歳、女 82.84 歳となり、世界の最長寿国となっている。平均寿命の伸長につれて65歳以上の高齢者人口が急増しており、1,828 万人(平成7年〔1995年〕)に達している。
 こうした傾向が続いた場合、我が国の総人口は2007年(平成19年)に1億 2,778万人でピークを迎えた後減少に転じ、2051年(平成63年)には1億人の大台を割ることが予想される。一方、高齢者人口は2025年(平成37年)には 3,312万人まで急増、75歳以上の後期高齢者に限っても約 1,890万人に達する等、世界でも類を見ない超少子・高齢社会となることが予想される(図2)。
 この結果、65歳以上の高齢者1人を支える生産年齢人口(15〜64歳)は、1995年(平成7年)の 4.8人が2050年(平成62年)には 1.7人となり、21世紀には勤労世帯の社会保障負担の増大や、社会経済の活力低下等の深刻な影響が生じる恐れがあるとともに、人的資源の有効活用が求められる。

年齢3区分別人口の推移(図2)


(出所)国立社会保障・人口問題研究所


(3) グローバル化
 情報通信や交通・輸送手段の急激な発達・高度化、及び世界貿易機関(WTO)の設立等の自由貿易体制の整備・拡大により、ヒト・モノ・カネ・情報が地球規模で移動又は流通するようになってきている。さらにアジア諸国等の経済的躍進やロシア・東欧諸国の市場経済化がこの傾向に一層の拍車をかけている。
 この結果、我が国においても、国民生活・経済活動のボーダーレス化が急速に進展している。例えば、過去9年間の出入国者数2.4倍、貿易数量 1.3倍(輸出)・2倍(輸入)、国際電話の取扱数5.1倍、対外資産残高3.5倍にまで増加している(図3、資料6〜8)。
 特に経済のボーダーレス化は、企業活動や企業間の競争が国の枠を超えて行われることを意味しており、企業は地球規模の大競争の中に置かれることとなる。
 また、我が国は、その経済規模の拡大に伴い、国際社会における責任も増大してきており、環境問題等、地球規模での対応が必要とされる課題について我が国が積極的に対応していくことが求められている(資料9)。

我が国の出入国者数(図3)


(注)入国者総数には、一時上陸客、通過観光客を含み、永住の目的で入国した者を除く
資料:「運輸白書」運輸省により作成





2 21世紀の社会像

 我が国は高度情報化等、新しい時代の潮流の中で大きな転換期に立たされており、これらの変化の潮流を踏まえながら、21世紀初頭の社会像を展望しなければならない。

(1)「情報」が鍵となる社会

 ア モノ・エネルギーから情報へ
 20世紀はモノ・エネルギーの大量消費により、物質的な豊かさを獲得することを目的とした工業化の時代であった。しかしながら、グローバル化が進展する中で、先進国の大量生産、大量消費、大量廃棄や発展途上国のエネルギー消費の増大は、地球環境に深刻な影響を与えつつあり、工業化の限界とも呼ぶべき現象が生じている。
 これに対して、技術革新により高度化された情報通信機能を利用して、情報・知識の活用により課題を解決するアプローチが、今後21世紀に向けて一層重要になってくる。高度情報化は、人間を時間的、空間的制約から解放することによって人間の知的活動領域を飛躍的に向上させることが期待されている。
 すなわち、21世紀はモノ・エネルギーから情報・知識への変革の時代であり、情報革命の成果を活かす時代であると考えられる。

 イ 経済・生活の高付加価値化
 高度情報化に伴い、「情報」は経済・生活の高付加価値化をもたらす、極めて重要な資源となる。
 産業経済では、従来型の基幹産業に代わり、情報通信分野がコンテント部門の拡大等により、新たなリーディング産業となろう。
 市場規模では、1995年(平成7年)の約29兆円から2010年(平成22年)には約125兆円に拡大し、雇用も約244万人程度増加するものと予想されている(資料10)。産業の生産性についても、CALS(Commerce at Light Speed:光速商取引),EDIの普及による企業間での情報共有化等により、生産、流通面の効率化が進展することになろう。
 国民生活の面においては、テレワークの普及により、自宅やサテライトオフィスでの勤務が可能となる。また、電子マネーでの資金決済や遠隔教育・医療が普及しよう。これにより、通勤負担等の軽減とともに、居住地の選択や自己の時間活用の幅が拡大し、各々のライフスタイルにあった生活を実現することができる。

(2)「安心」が鍵となる社会

 ア 超少子・高齢社会での豊かな生活
 これまで、我が国は経済的な繁栄により、安全で安心な社会を構築してきたと考えられていたが、近年の低成長経済の下、国民の将来に対する安心感に陰りが見られはじめている。
 特に、21世紀の我が国が他国に類を見ない超少子・高齢社会に向かい、また、要介護高齢者が1993年(平成5年)の200万人から2025年(平成37年)には520万人に増加すると予想される中、国民の老後生活に対する不安感が増大している(資料11)。
 仮に、少子・高齢化が進展し、高齢者人口が急増する中で、従来のように公的年金等の社会保障制度のみで高齢者の生活を支えようとすれば、勤労者の負担は極めて高いものになり、社会の経済活力を奪う可能性がある。
 したがって、国民が超少子・高齢社会の中で安心して子育てをし、安心して生活できるためには、勤労者の負担をできる限り抑制しながら、高齢者が豊かな老後生活を送れるとともに、安心して子供を育てられるような社会的仕組みを新たに構築する必要がある。

 イ 自己責任原則の重視と公正・公平の確保
 グローバル化に伴い、企業が地球規模で競争する時代となり、消費者にとっては、サービスの選択の範囲が拡大する一方で、自己の判断に起因するリスクは自らが負う必要が生じてくる。この場合、消費者が自分で判断するために必要な情報が公開されるべきことは当然として、ハイテク化、グローバル化によりますます複雑で多様となる情報を分析し、アドバイスを行う機能は、消費者が安心してサービスの選択をするためにも、今後一層重要になるものと考えられる。
 また、競争社会が進展すると、情報、サービス、雇用、所得の面で、持てる者と持たざる者の間の格差の拡大が懸念される。国民の将来への不安を除去するため、社会的公平を確保し、持たざる者も安心して生活できる社会を構築することの重要性は、一層増大するものと考えられる。

 ウ 大規模災害等、多様な危機への備え
 我が国では、長い間、「水と安全はタダ」と考えられ、安全に対する信頼感があった。しかし、近年、阪神・淡路大震災等の大規模災害や、オウム事件等の犯罪・テロの発生が相次いだように、危機の多様化がみられたが、これに対して危機管理体制が必ずしも十分でなかった(資料12)。これを契機に、国民の安全への信頼が揺らぐとともに、災害等に対する安全の確保、危機管理体制の確立の重要性が、国民に改めて認識されることとなった。
 また、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済は、温暖化等の地球環境問題を深刻にさせており、将来世代の安心のためにも環境保全の重要性が増大している。

(3)「地域」が鍵となる社会

 ア 生活の場としての地域社会
 我が国は、戦後の復興と欧米へのキャッチアップを図るため、中央集権的システムの下、太平洋臨海部に資金を集中投資し、工業化を推し進めてきた。この政策は我が国に高度経済成長をもたらし、先進国の仲間入りを実現させたが、一方では、地方から大都市圏への人口移動による過疎と過密の問題を巻き起こしたり、地域文化の衰退と我が国社会文化の画一化を助長させた。
 こうした中、価値観の多様化や労働時間短縮による余暇の拡大により、国民の中に生活重視の傾向が出てきており、その結果、生活の場としての地域社会の重要性が再認識されている。
 具体的には地域の文化・サークル活動、スポーツ活動、さらにはボランティア活動等へ参加する人々が増加してきており、そうした動きの中で、自らが生活する地域の歴史や伝統に対する見直しが行われ、地域おこしの運動につながってきている。

 イ 人と人とのつながりの重要性
 高度情報化が進展する中にあっても、人と人との対面(フェイス・トゥ・フェイス)の出会いを電気通信メディアで全て代替することはできない。人と人との交流、男女の平等な立場での交流や社会参画が、精神的に満足できる生活を送る上で欠かせない。すなわち、人と人との多様なつながりは、人々の創造性を高め、文化を生むとともに、経済的なチャンスをも生み出し、ひいては、人々のよろこび・生きがいを生み出す。人と人との交流は、地域内から地域間に、さらには地域と海外間へと拡がっているが、地域社会は、こうした人と人との交流の基点であり、その重要性は一層高まるものと考えられる。

 ウ 均一社会から多様な社会へ
 従来の国民の意識は、個人個人よりも集団・組織を重視し、集団・組織のなかでの横並び、均一化を求める志向が強かった。しかし、時代と共にこうした意識にも変化がみられ、物の豊かさよりも心の豊かさ、仕事重視から家庭重視、組織重視から個人・個性重視、利便性より自然との触れ合いの重視等、価値観の多様化が進展し、個人の個性や創造性が尊重される方向にある(資料13)。
 また、国民の意識の変化とともに、画一性から多様性、個性をもった社会が求められるようになっている。21世紀に向けて、産業、雇用、行政への参画、共生のための社会的仕組み等において、多様で個性的な地域社会の重要度が一層増大し、我が国は従来の均一社会から多様性を持った社会へと移行していくことになろう。




3 我が国が取り組むべき課題

(1)情報化効果の拡大と普及
 情報が鍵となる社会では、情報化が国民生活や経済にもたらす効果、メリットをいかに拡大し、普及させるか、その一方で生じるデメリットをいかに最小化するかが課題となる。

 ア ネットワーク融合の進展
 ネットワークは、加入者の数が多ければ多いほど、より多くの情報を得る機会が増え、また他の多くの者に対して情報を伝達できるため、ネットワークとしての効用が高くなる。このため、既存のネットワークが相互に融合され、より大きなネットワークに発展していく傾向が見られる。今日、その最も代表的な事例はインターネットである。インターネットにつながるホストコンピュータの数は平成4年(1992年)1月から平成9年(1997年)1月までの5年間で22倍に増加しており、1996年(平成8年)6月現在、インターネットと接続が可能な国・地域は、全世界で134か国となっている(図4)。
 このインターネットを利用すれば、家庭や職場にいながら世界中の情報を検索・入手することができ、また世界各地の人々と瞬時に電子メールにより情報交換が可能である。小規模組織でもグローバルなビジネス展開が可能となり、規模の格差を超える活力をもたらしている。
 インターネットは、ネットワークの融合が企業活動、国民生活、国際社会等に及ぼす効果の大きさを端的に示すものであり、今後、ネットワークの融合をいかに促進していくかが課題である。

【世界のインターネット接続ホスト数】(図4)


(出所)Internet Domain Survey, January 1997, http://www.nw.com


 イ 情報格差の是正
 情報通信の高度化は我が国全体で進展しつつあるが、経済活動が活発な大都市圏と地方圏ではその進捗状況に大きな差があり、しかも新しい情報通信サービスは大都市圏からサービスが開始されるため、むしろ両者の格差が拡大する傾向にある。特に、情報発信機能は東京圏に全体の約7割が集中している(資料14)。
 また、情報の個人間格差についても、情報化に対応できないため、そのメリットを享受できない、いわゆる「情報弱者」が顕在化し、情報化が高度になればなるほど、「情報弱者」の範囲が拡大しよう(資料15)。
 こうした、情報の地域間・個人間格差を見直し、どこでも、誰でも簡易に情報にアクセスし、受発信できる環境整備が喫緊の課題である。

(2)共生の実現

 ア 自助・共助・公助の調和
 超少子・高齢社会において、経済社会の活力を維持しつつ、子育てに適した社会環境を整備するとともに、高齢者等の豊かな生活を確保し、社会的経済的安定を実現することが重要である。このため、自助努力の支援手段を適切に提供するとともに、国や地方自治体の行う公的支援(公助)、及びボランティア活動等の相互扶助(共助)とを適切に連携させることが必要である。
 今後は、国民負担の過度の増大を抑制する上で、財政上の制約が強まり、公助には限界が生じることから、自助を基本に自助・共助の重要性が相対的に高まり、これを支援する体制整備が強く求められる。

 イ 福祉・防災体制の確立
 国民生活の充実を図るためには、生活の場としての地域社会が安心して暮らせる場である必要がある。そのためには、地方自治体が公共福祉施設、福祉情報ネットワークの整備、在宅介護サービスの充実等、基礎的なインフラ整備やサービスを公助で行い、高齢者等へのきめ細かいケア等、自治体の手が行き届きにくい部分をボランティア活動等の地域社会での相互扶助(共助)でまかなうことにより、適切な福祉体制を確立しなければならない。
 また、阪神・淡路大震災等の経験から、地域社会における防災対策の強化も重要な課題となっている。このため、自治体が防災公園及び防災拠点施設の整備を推進する必要がある。また、消防団や住民による自主的な防災組織が都市部の地縁性低下等により弱体化しており、その機能を強化する必要がある。安心できる地域社会の構築のため、こうした自主的な防災組織等の主体的な参画により防災体制を充実させることが重要な課題となっている。
 このように、人と人が助け合い、支え合う社会づくりが必要である。

(3) 地域の活性化

 ア 地域格差の是正
 我が国は、高度経済成長期に人口が地方から東京圏、大阪圏及び名古屋圏の三大都市圏に大きくシフトした。特に東京圏については、石油危機以降も人口の流入が続き、現在では、全人口の25.7%が集中している。このため交通渋滞、通勤の混雑と遠距離化、住宅問題、環境問題、災害への脆弱性等、深刻な問題を抱えている。
 一方、地方においては、過去35年間で人口が減少している都道府県が14道県もある等、高度経済成長期以降、石油危機による一時的中断を除いて、一貫して若年層を中心に人口の流出が続き、過疎化と急速な高齢化が進展している(資料16)。
 この結果、米国のカリフォルニア州と同程度の面積しかない国土に1億2千万人もの人口がひしめいているにもかかわらず、極端な過疎と過密が存在し、国土の有効利用が図られていないという問題が生じている。
 したがって、地域格差の是正により、国土の有効利用を図るとともに、東京圏への機能の過度の集中がもたらす脆弱性を克服することが極めて重要な課題である。

 イ 交流の活性化
 地域の活性化策の一つとして、現在でも大都市圏からのUターン、又はIターンの推進があるが、少子・高齢化が進展する中、21世紀初頭には人口が減少局面に入るとされており、他地域から人の移住を求めることは次第に困難になってくると考えられる。
 一方、地域の活性化の観点からは人口の確保だけが全てではなく、例えば観光地のにぎわいからもわかるように、定住人口は少なくてもその地域を訪れる交流人口が増加することにより、地域の活性化を図る手法もある。
 まず、域内での活発な交流によって当該地域のポテンシャル(成立・発展の可能性)を高めるとともに、全国の各地域が相互に交流し、さらには、グローバル化の進展の中で、地域と海外との間で活発に交流していくことにより、文化面、経済面で互いに刺激しあい活性化していくことが必要である。
 なお、地域の国際交流に当たっては、そこで暮らす外国の人々に優しい地域社会である必要があろう。
 さらに、必ずしもヒト、モノの往来だけが交流ではなく、今後の高度情報化を考えれば、情報交流の拡大を促進することが地域の活性化のために必要である。

 ウ 地域の生活・交流基盤の整備
 地域の活性化には域内外の交流の活発化が有効であり、また、当該地域の住民の生活の質的向上を図るためにも、地域の生活・交流基盤の整備を推進していく必要がある。
 現状では、我が国の下水道の普及率は米国の73%、英国の96%に比べて51%にすぎず、一人当たりの公園面積もニューヨークの23.0m2、ロンドンの25.6m2に比べて、我が国は全国の都市計画区域内の平均で6.9m2しかない等、生活・交流基盤の整備については、特に欧米諸国に比べて立ち遅れている(資料17)。また、少子・高齢化の進展に伴い、バリアフリー(高齢者等の生活や活動に不便な障害がない)のまちづくりが求められており、財政構造改革を踏まえ、生活・交流基盤を整備していく必要がある。

(4) 行財政改革の推進

 ア 財政構造改革
 バブル経済の崩壊後、我が国は景気刺激策として平成4年度以降、毎年度補正予算を組み、その財源を大量の国債発行でまかなってきた。このため国債残高が平成3年度末の172兆円から平成8年度末の241兆円と5年間で70兆円も増える等、我が国の財政状況は急速に悪化している(資料18)。
 既に平成9年度予算においては国債利払い費が約11.7兆円に達しており、政策経費を圧迫して財政構造の硬直化を招いている。また、歳入の国債依存度も平成9年度予算では21.6%と極めて高くなっており、財政事情は極めて深刻な状況となっている。
 今後、我が国が21世紀に向けて社会経済の変化に適切に対応していくためには、財政の体質を改善し、財政運営の弾力性を回復することが必要不可欠である。このため、歳出の大幅な見直し等、財政構造の改革を行い、国債依存度を引き下げて国債残高が累増しない財政体質を作りあげることが緊急の課題となっている。

 イ 行政の効率化と規制緩和
 我が国の社会経済が活性化していくためには、個人や企業を取り巻く法や制度を抜本的に見直し、競争阻害的な環境を是正する必要がある。これまでの我が国の社会経済システムは、総体的に競争抑制的で、このことが結果として我が国の産業構造を硬直化させている。
 このため、規制緩和を推進し、市場原理を導入することによって、個人や企業の自由な経済活動を促進するとともに、効率的な行政の実現により行政コストの大幅な削減を図る必要がある。これにより、我が国の高コスト構造の是正に資することが期待される。

 ウ 地方分権の推進
 現在の行政システムの抱える問題点の一つとして、地方自治の機能が十分に発揮されにくくなっている点が挙げられる。我が国において、生活の場としての地域社会を再構築し、個性的で生き生きとしたまちづくりを進めるためには、地方自治を強化することが重要である。
 したがって、早急に地方行政の効率化を推進し、地方財政の健全化を図るとともに、現在の中央集権的システムを変革して、個々の地方自治体が当面する行政需要に適切に対応できるよう、権限・財源を含めて、中央と地方の関係が真のパートナーシップとなるよう改善していく必要がある。