郵便局ビジョン 2010

第2章 国民共有の生活インフラ --- 郵便局の基本理念

  1 郵便局ネットワークの形成等

  2 郵便局の理念とその特性

  3 21世紀へ向けた郵便局ビジョン






 郵便局とは、国民共有の生活インフラ、つまり国民生活を下支えする基盤であり、国民全体の利益を考える「公共性」と、国民の税金に依存しない「独立採算」がその特性である。
 「情報」・「安心」・「地域」が鍵となる21世紀社会に向けて、国民、地域社会、社会全体の効率性の視点に立って、郵便局の持っている資源 − 信頼できる身近な窓口、情報や人のネットワーク、基礎的な通信や自助支援サービス − を社会的に開放し、幅広く活用していくことが必要ではないか。

生活インフラとは、国民生活を下支えする基盤。通常、インフラとは、道路・港湾などハードの施設を指すことが多いが、ここでは、ハードだけでなく、人的資源を含めたソフトなインフラとしていることが特徴。


1 郵便局ネットワークの形成等

 明治3年(1870年)、郵便の創設者である前島密は、東京・京都間の公文書運送費、つまり当時の飛脚屋に支払っていた金額の大きさに目をとめ、イギリスに範をとって「新式郵便」創設を立案した。これが郵便局ネットワーク形成の出発点であった。
 イギリスでは、近代郵便以前は、「地域別料金、受取人払い、郵便局持込み」といった制度をとっていた結果、料金は高く、利用者も富裕層に限られていたが、1840年代にローランド・ヒルが、「全国均一料金、切手前納、ポスト投函」制度を導入し、国民一般が利用できる簡易で安価な近代郵便制度が確立された(資料19)。
(1) 郵便局の形成

 ア 郵便局の設置
(ア) 郵便局は、明治4年(1871年)、近代国家に必要不可欠な基礎的通信手段である郵便制度を創設するため設置された。当時の国の厳しい財政事情の下、低コストかつ迅速に郵便ネットワークを形成するため、地方の名望家に自発的な局舎の提供を求め、積極的に民間の力を活用した。すなわち郵便局は、国が民間の力を活用した組織として形成されたのである。

(イ) こうして設置された郵便局は、現在では、全国24,600局、過疎地域を含め3,232のすべての市町村に設置されている。また、郵便局の配置は、全国あまねく公平なサービスを提供するため、都市部6割、町村部4割となっている。また、都市部を含む地域内の配置も、利用人口と郵便局間距離により設置しているため、バランスのとれたものとなっている(資料20〜23)。
 こうした配置の結果、郵便局までの距離は、平均1.1kmと小学校と並び、国民に最も身近な公的機関となっており、1日平均675万人(推計)が郵便局を訪れ、利用している状況にある(図5)。

【各公的機関等までの平均距離】(図5)


注1:平成8年3月末現在
注2:各機関までの平均的距離は、各機関の圏内(日本の国土面積÷当該機関の設置数)を円と仮定し、その半径の1/2とした。
注3:警察署には、交番、派出所を含む。
注4:市町村役場には区役所、支所、出張所を含む。
資料:小学校、公民館の数・・・・「我が国の文教施策(平成8年度)」、(文部省)消防署の数・・・・「消防白書(平成8年度)」(消防庁)等
(出所)郵政省資料


 イ 郵便局ネットワークの形成
(ア) 郵便局の輸送ネットワークもまた、郵便創業当初、江戸時代から存在した飛脚問屋を前島密が説得して陸運会社に組織し、民間を活用して形成された。輸送システムも、当初の人力・馬車から、明治22年(1889年)以降は、鉄道中心に、また、昭和59年(1984年)には自動車・航空機中心に転換してきている。
 また、個人の資産形成のネットワークとして活用されてきた郵便貯金・簡易保険のネットワークも、情報通信技術の発達に伴いオンライン化が進められ、昭和59年(1984年)に郵貯、平成4年(1992年)に簡保の全国オンラインネットワークが完成した。これらは、郵便の情報システムを含め、郵便局のデータ通信ネットワーク(PNET)として結合されている。このうち、郵便については全世界60万の郵便局と、また、送金についても世界の多くの郵便局とネットワークを構成している。

(イ) 郵便局ネットワークの現状を数量的に示すと、郵便は、全国16万6千のポスト等から差し出された、7,000万通が毎日ネットワークに乗っている。これらを運ぶ郵便局間の輸送距離は146万kmに及び、このうち96%が民間の自動車・航空機に委託されている。金銭の預払・送金件数でみると、1日1,100万件がネットワークに乗っている。
 また、郵便局の職員は、日々、家庭や事業所を直接訪問しており、毎日多くの利用者が訪れる郵便局の窓口に加え、もう一つの利用者との人的ネットワークとなっている。これを郵便の配達でみると、全国で毎日平均2,800万箇所(全国の家庭・事業所の半分強)を訪問し、その配達距離は203万km(地球51周分)に及んでいる。日刊紙も過疎地域を含め、郵便により年間約5,000万部が配達されており、新聞の戸別配達の最後の拠り所の役割をも果たしている。

(2) 郵便局サービスの展開
 全国的に構築された郵便局ネットワークを活用して、その後、全国津々浦々の国民の日常生活に必要不可欠なサービスが提供されることになる。

 ア 郵便サービスの発展
 前島密は近代化に果たす出版物、特に新聞の重要性を認識し、当初から新聞郵送を政策的に低料金としていた。こうした思想はその後も引き継がれ、文化の普及に資する定期刊行物、福祉の向上に資する点字郵便物等に対しては、政策的な低料金が設定されている。
 郵便サービスはまた、国民生活における手紙文化の振興にも貢献してきた。特に、年賀状については、明治32年(1899年)年賀郵便の取扱い開始以降、その交換が普及・定着し、新年の慣習として国民生活にすっかり溶け込んだものとなっている。
 近年では、情報化の進展に伴い、電気通信を利用したサービスも実施されている。昭和59年(1984年)には電子郵便(レタックス)の全国実施が、同60年(1985年)にはコンピュータ郵便の取扱いが始まっている。
 小包郵便については、各地の小型物資の全国的な往来を可能とするため、明治25年(1892年)に取扱いが開始されている

 イ 送金サービスの発展
 明治維新を契機とした商品の流通・人口の流動化に伴い、従来の現金自体の郵送のほかに、低廉かつ安全な送金手段として、明治8年(1875年)に郵便局で郵便為替サービスが開始され、同39年(1906年)には、一層増大する送金・決済需要に対して、郵便振替制度が創設されている。
 こうした送金・決済サービスは、郵貯ネットワークの全国オンライン化により、全国津々浦々で迅速な処理が可能となっている。

 ウ 貯金サービスの発展
 郵便創業当時、貯蓄意識は希薄で貯蓄機関も未発達であったが、国民の貯蓄思想を普及するため、明治8年(1875年)に郵便貯金サービスが開始された。
 創業以来設定されていた郵便貯金の預入限度額は、同14年(1881年)、貯蓄奨励によるインフレ収拾を目的にいったんは廃止されたが、同24年(1891年)、預入限度額を復活させ、それ以降、個人・小口のいわゆる貯蓄金融機関としての機能に特化してきた。
 また、郵便貯金は、金融界の中で率先して個人・小口の利用者のニーズに応える商品開発を行ってきた。例えば、昭和52年(1977年)に進学資金のニーズの高まりに対応し、進学積立貯金を、また、平成2年(1990年)には、国際貢献とボランティア活動の重要性に対応して、国際ボランティア貯金を創設した。郵便貯金の取組みを契機に、その後、民間金融機関もこれらと類似のサービスを開始している。

 エ 保険・年金サービスの発展
 大正5年(1916年)には、深刻な不況や社会不安の高まりを背景に、社会政策的観点から、「小口、無診査、月掛」という簡易な生命保険サービスの提供が開始された。
 保険サービスは、創業以来、養老保険と終身保険が中心であったが、戦後、生活保障ニーズの多様化に対応し、例えば、家族保険(昭和34年)、特別養老保険(同39年)等が創設されている。また、加入者の健康の維持・増進に資する加入者福祉事業に積極的に取り組み、成人病予防事業等を実施している。
 さらに、大正15年(1926年)には、老後の生活資金等の確保のため、自助による保障手段を提供することを目的に、郵便年金制度が創設されている。

 オ 公的窓口サービスの発展
 国、自治体の行政サービスを全国津々浦々の国民に提供するため、明治42年(1909年)から市公金の取扱いに、同43年(1910年)から年金、恩給等の支払いに、大正4年(1915年)からは国庫金の受払いに、全国の郵便局窓口が利用された。以降順次、各種福祉手当等の支払いに利用され、近年では、住民票や登記簿謄本等の交付請求も、郵便局の窓口利用の対象となっている。
 なお、諸外国でも、政府と国民の接点(ゲートウェイ)として郵便局の窓口が様々に活用されている(資料24)。

【現在の郵便局サービス】

 1 郵便
 2 郵便貯金
 3 郵便為替
 4 郵便振替
 5 簡易生命保険
 6 恩給の支払
 7 年金の支払
 8 国債の販売
 9 児童扶養手当及び特別児童扶養手当の支払
 10 記名国庫債券の元利金の支払及び買上げ
 11 国庫金の受払
 12 印紙の売りさばき
 13 国民金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、NHK、NTTから委託された事務  
 14 外貨両替及び旅行小切手の売買
 15 郵送又はファクシミリによる住民票・登記簿謄抄本等の交付請求の取扱い

(3) 郵便局の会計制度
 ア  郵便局の事業は、一般会計等の下で運営されていたが、昭和9年(1934年)に通信事業特別会計が創設され、その下で運営されることになった。
 昭和22年(1947年)に、同会計に発生主義や減価償却制度が採用され、昭和24年(1949年)には郵政事業特別会計が創設され、今日に至っている。
 こうした特別会計の採用は、各事業の損益計算や財務分析を可能とするとともに、事業の運営責任の明確化を図っている。

 イ  独立採算制により、郵便局事業の運営に際しては、健全経営に資する様々な取組が不可欠となる。モータリゼーションに対応し、郵便輸送を鉄道から自動車に切り替えるとともに、鉄道郵便局の廃止等に踏みきったこと、郵便番号制の導入により、郵便区分作業を機械化したこと、郵便貯金・簡易保険の事務等を機械化・オンライン化したこと等がそのような取組の一例である。そのほか、例えば昭和55年(1980年)に、民間のQC(品質管理)活動にならってチーム活動を導入し、チーム全員が施策の立案に参画することにより、郵便局組織の活性化を図った。独立採算は、労働集約型の事業として、良好な労使関係を維持し、組織・職員の能力開発に力を入れるインセンティブ(誘因)としても機能している。





2 郵便局の理念とその特性

(1) 国民共有の生活インフラ
 以上の歴史や沿革を踏まえれば、郵便局は、明治以降長い年月にわたり、全国津々浦々の国民生活にとって情報、物流、金融、行政の窓口として、まさに生活基盤的な機能を発揮してきた。これらを通じて郵便局は、国民や地域社会に溶け込んだ「空気のような存在」、「生活の一部のような存在」となっており、国民から「信頼できる」、「親しみやすい」との評価を受けている(資料25、26)。
 郵便局を利用する国民にとって、郵便局は、窓口や家庭で接する郵便局員の対応を含めた人的な機能組織として受けとめられ、評価されている結果であろう。また、在日外国人からも「印象が良い」との高い評価を受けている(資料26)。
 郵便局は、「全国どこでも、国民誰もが利用できる、国民共有の生活インフラ」と捉えることができる。

生活インフラとしての特性


ア 身近な存在
  (ア) 郵便局は、生活に欠かせないサービスや情報を利用でき、
    地域の様々な人に出会える場。
       最も身近な窓口  : 平均距離1.1km(小学校と同じ)
       窓口の利用者   :          675万人/日        
  (イ) 郵便局員が地域の家庭等を訪れるフットワーク。
       毎日の配達    :  2,800万の家庭等 
       日刊紙の配達      :  5,000万部/年 
イ 全国ネットワーク性
    情報、モノ、カネを流通させる全国24,600のネットワーク。
     情報 −  郵便   : 7,000万通/日
     モノ −  小包   :   110万個/日
     カネ − 預払・送金 : 1,100万件/日

(2) 公共性
 郵便局は、公的存在として常に公共性を追求してきた。具体的には、全国の国民が公平に利用できる基礎的サービスを提供すること及び、郵便局ネットワークを活用した社会的政策の実現である。

 ア ユニバーサルサービスの提供義務
 全国あまねく、いつでも、公平に提供される生活基礎サービス、すなわち、ユニバーサルサービスを郵便局は提供していく義務がある。


ユニバーサルサービスの特徴


    全国あまねく
     全国24,600の郵便局、過疎地域を含む3,232の全市町村にある郵便局
    においてサービスを提供。その中には、不採算地域も含まれる。
    いつでも
     非常時も含めたライフラインサービス(生命線維持サービス)
    公平
     郵便局サービスは、誰もがどこでも同一サービスを同一条件で受ける
    ことが可能。
    生活基礎サービス 
     国民生活に必要な情報・モノ・カネの交流を支える基礎的なサービス   
      郵便       − 基礎的通信、基礎的物品送達
      郵貯・簡保    − 基礎的自助支援手段
      公的窓口サービス − 年金・恩給の支払等

 ここで、生活基礎サービスとは、国民生活に必要不可欠なサービスであり、そのサービスを受ける機会がなければ、日常生活に著しく支障を及ぼすサービスである。
 生活に必要不可欠なサービスか否かは、一般的な国民の生活水準等を基準にして判断すべきものである。郵便局サービスのうち、郵便は特別の端末・契約なしに誰でも簡易に利用できる通信サービス、貯金・保険は個人・小口を対象とした簡易な自助支援サービスであり、いずれも、日常生活に必要な情報、モノ、カネの交流を支える基礎的サービスである。公的窓口サービスも含め、これらがなければ、日常生活に著しい支障が生じるという意味において、今日の国民利用者にとって、生活基礎サービスである、と言うことができる。
 なお、郵便局サービスを構成する個々の商品については、全国の国民の生活にとって基礎的なサービスであるか否かの観点から、見直しを検討することも必要である。

 イ 社会的政策の企画・実現
 高齢者・障害者福祉等、国の政策課題の実現に必要と判断されるサービスは、収益性になじまないサービスであっても、郵便局では、積極的に実施している。こうした政策課題への対応は、一般行政においても行われているが、郵便局では、日々の利用者との接触を通じて国民が何を求めているのか、また、全国ネットワーク等の資源をいかに活用して、それらの政策課題に応えていくかを判断し、具体的な施策を独立採算制の下でのサービスとして企画・実施している点が、一般の行政とは異なる。
 障害者への配慮や文化出版物の交流を促進するための郵便料金の免除・軽減、高齢者介護という我が国の重要課題に対応した介護貯金、年金配達サービス、ボランティア活動の重要性に対応した国際ボランティア貯金や介護ボランティア支援等は、いずれも郵便局の公共性を裏付けする社会的政策の実現である。

【郵便局で実施している主な福祉推進サービス】

分  類 施         策
 料金の免除・軽減 盲人・聴覚障害者・心身障害者用郵便物の料金免除・軽減
社会福祉事業に対する寄付金に係る郵便物の料金の免除及び郵便振替払込料金等の免除
身体障害等による保険料の払込免除
 社会福祉団体・
  ボランティア活動の支援
お年玉郵便葉書等寄附金の配分
国際ボランティア貯金
災害ボランティア口座
ボランティアポスト
介護ボランティア支援(かんぽ健康増進支援事業)
 高齢者等を
   対象としたサービス
青い鳥郵便葉書の発行及び身体障害者への無料配布
寝たきり独居老人等への年金配達サービス
介護貯金
寝たきり独居老人等への簡易保険の年金の居宅払
 社会福祉施設整備への貢献 郵便局と社会福祉施設との合築
(例 両国郵便局と中央区社会福祉施設)
 点字の表示 郵便ポスト及び郵便切手はがき販売機への点字表示
点字不在配達通知カードの使用
ATM・CD全機種への点字表示
点字キャッシュカードの発行
郵貯の取扱内容及び簡保の契約内容の点字による通知
    (出所)郵政省資料

 さらに、地域の自立と活性化は、我が国の重要な政策課題であり、郵便局は地域に密着した存在として、地域社会のニーズに応じた施策を展開していることも社会的政策の企画と実現である(資料27)。

(3) 独立採算

 ア サービスの質的向上、効率化へのインセンティブ
 郵便局の事業は、本省の企画・管理部門を含め、郵便・貯金・保険等の各事業ごとに、国民の税負担に依存しない「独立採算」とされているため、毎年度の損益、ひいては経営責任の明確化が可能になる。したがって、事業経営の採算性、コスト管理を徹底する必要がある。また、郵便局サービスは、税金を財源とする他の行政サービスと異なり、常に国民利用者のニーズを把握して提供する必要がある有償サービスであり、収支相償を確保する必要がある。このように、独立採算は、サービスの質的向上、効率化へのインセンティブ機能が働く仕組みとなっている。

 ここ15年間で、郵便、貯金、保険の業務量が1.7倍から3.5倍に増加しているのに対し、定員がほぼ横這いに抑制されているのも、インセンティブ効果と評価できる(資料28)。

 イ 収支相償・非営利
 郵便局は公的存在として公共性を第一義的な目的としていることから、営利性を排除し、利潤最大化が行動原理とはなっていない。このように、「公共性」を経営面から捉えると、「非営利・収支相償」ということができよう。
 つまり、民間企業の場合、株主への利益還元、事業拡大のための投資の観点から、利潤最大化のインセンティブが働くが、郵便局の場合は、税金に依存しないための赤字回避、将来の健全経営確保のための担保は必要であっても、利潤最大化を目的としていない。このことが、利潤追求型でない公共サービス提供へのインセンティブになっている。

 ウ 経営の透明性 −情報公開と外部評価
 行政情報の公開は、行政サービスの内容等に関する妥当性を国民が判断するためにも、行政改革の一環として強く求められている。郵便局事業についても、同様に経営の妥当性を国民が判断できるよう、ディスクロージャーを徹底するべきである。
 郵便局事業の経営状況については、行政監察、会計検査院検査とともに、国会の審議を受けることとなっているが、独立採算の特徴である「サービスの質的向上、効率性へのインセンティブ」が機能するか否かは、ディスクロージャーにより国民に分かりやすい経営をするか否かにかかっているといえる。
 郵政省では、国民に対してディスクロージャー冊子、新聞、インターネット等による情報公開に努めているが、今後とも、郵便局の経営状況のディスクロージャーを徹底する必要がある。また、例えば、郵便局の事業は、各事業ごとの経費を区分(郵便局の総務課の経費等、三事業の共通経費については、経費の性格により、要員比、使用面積比等に基づき各事業に配分)し、その結果がディスクロージャー冊子やインターネットホームページに掲載されている等、ディスクロージャーされていること自体についての国民の周知度を高めるようさらに努めていくべきである(資料29)。
 さらに、ディスクロージャーを一層充実し、国民が郵便局経営の当否を判断できるようにするため、他機関の検査等との役割分担に配意しつつ、経営に関する外部評価を実施することにより、客観的に経営情報を分析し、開示していくことが望ましい。

(4) 郵便局サービスの一体的提供
 国民生活にとって、情報・モノ・カネ・ヒトの交流は必要不可欠である。郵便局において、ネットワークを利用して情報・モノ・カネの交流を支える基礎的サービスが総合的、一体的に提供されており、国民にとって極めて便利である。
 また、効率性においても、郵便、貯金、保険、公的窓口サービスなど、郵便局ネットワークを活用したサービスを総合的に取り扱うことで、範囲の経済が強く働いている。
 業務範囲が制約されている民間金融機関も、日本版ビッグバン(後述)の推進により、国民の利便性や「範囲の経済性」を追求できるようにしていくべきであろう。
 また、郵便局サービスの総合的かつ効率的な提供をさらに充実するため、一人ひとりの職員が三事業を一体的に取り扱う、総合担務による業務システムを一層推進するべきである。

(5) 職員のモラール(志気)
 ユニバーサルサービスと社会的政策の実現という「公共性」の使命は、国民の税金に依存しない「独立採算」による効率性追求とあいまって、郵便局職員のモラールを高めている。これが質の高いサービス水準を支えており、国民の郵便局に対する高い信頼につながっている。今後とも、職員の高いモラールを維持し、向上することが極めて重要である。

【国民共有の生活インフラ】−郵便局の基本理念






3 21世紀に向けた郵便局ビジョン

 今後の郵便局の在り方は、21世紀社会を展望しつつ、我が国が直面している様々な課題を行財政改革との関わりを踏まえて解決していく、との観点から検討するべきであると考える。
 郵便局は、生活インフラとして「国民に最も身近な存在」であり、「情報・モノ・カネを扱う全国ネットワーク」という資源を有する。
 こうした郵便局の資源を「公共性」に基づき「独立採算」の範囲内で、社会的に開放するとともに、他の行政機関等の選択により活用される場合には、国民の利益増進や行政・社会経済全体の効率性向上と改革の推進に資するものと考える。

(1) 情報の拠点
 ア  21世紀社会は、情報化のもたらす生活、経済の高付加価値化に伴い、「情報」が鍵となる社会となる。したがって、情報化効果の拡大・普及のためネットワーク化の促進を図る必要があるとともに、情報化が進展すればする程、情報の地域間・個人間格差を是正する必要性が高まる。
 郵便局には、そのネットワークの開放・活用や基礎的通信サービスの提供を通じて21世紀に必要な情報の拠点としての役割が期待される。

 イ  郵便局ネットワークを行政、民間、海外のネットワークと接続すれば、国民の利便性は飛躍的に向上する。
 特に、行政ネットワークとの接続は、現在複数の窓口での手続を要する各種の行政サービスを、国民に最も身近な郵便局で利用することを可能にする。いわば縦割り行政の弊害を「窓口」で解消するとともに、国民の利便性向上や行政コストの削減に資することとなる。

 ウ  郵便局が、今後、「情報の拠点」としての役割を果たすためには、情報化に対応した多様なニーズに応えられるよう郵便局ネットワークの高度情報化を推進する必要があり、映像、文字等の大容量通信が可能となるよう、できる限り早い段階で郵便局間ネットワークを高速大容量化する必要がある。

(2) 安心の拠点
 ア  少子・高齢化の進展等に伴い、人々は自らの生活と我が国の将来に対して不安を抱き始めており、21世紀は、「安心」が鍵となる社会となる。
 郵便局には貯金・保険という身近で簡便な自助支援サービスがあり、老後の備えなどの役割を果たしているとともに、郵便局の情報ネットワークと人的ネットワークを開放し、地方自治体の福祉・防災ネットワークと連携することにより、地域の身近な福祉・防災拠点となることが可能である。
 このように、郵便局は、21世紀に向けて地域に必要な「安心の拠点」としての役割を果たすことが期待される。

 イ  少子・高齢化に伴い、国民負担増の抑制、市場経済の徹底による競争対応の観点から、今後、自助の重要性が高まるが、郵便局の自助支援サービスは、従来と同様、個人の基礎的なニーズに対応していくことが重要である。日本版ビッグバンに伴い、ハイリスク・ハイリターン商品を含めた多様な金融商品の提供が予想されるが、郵便局は引き続き、安全、確実、便利という基礎ニーズに対応したサービスを基本とし、国民生活にとって「安心の拠点」としての役割を果たすことが適切である。

 ウ  「安心」が鍵となる社会では、地域社会における福祉体制や防災体制等の確立が重要であるが、郵便局の情報通信ネットワークや外務職員と各家庭間の人的ネットワークを地域社会に開放し、福祉・防災施策を支援することが望ましい。
 この場合、地域における福祉や防災の実施主体である自治体等と連携の上、その補助的・潤滑油的な役割を果たすべきである。
 なお、外務職員等の郵便局職員について、介護等福祉関連知識の向上とともに、端末機の携帯等、情報装備化や情報リテラシーの向上を図る必要がある。

(3) 交流の拠点
 ア  21世紀に向かって、生活重視の観点から、生活の場としての地域社会が見直されることになる。地域社会を生き生きとした社会とするためには、人と情報の交流を、地域内、地域間相互、地域と海外間で活性化させていく必要がある。

 イ  郵便局は、地域社会に密着した生活インフラであり、人と人とのつながりを創出する拠点や、交流に必要な情報通信ネットワークを有していることから、地域の人・情報の交流を支援することが可能である。また、地域から集められた郵便局資金を、地域の生活や交流を支える基盤づくりに活用することも重要である。このように、郵便局は21世紀に向けて必要な地域の「交流の拠点」としての役割を果たすことが期待される。

【21世紀に向けた郵便局ビジョン】


 (4) 郵便局ネットワーク(人的資源を含む)の開放・活用に当たっての留意点

 ア 役割分担・コスト負担の明確化
(ア) 郵便局ネットワークを他の行政が所掌する福祉等の分野に開放・活用するに当たっては、郵便局と他の行政機関との役割分担を明確にしておく必要がある。
 地域の福祉・防災分野については、地方自治体が中心となり、地域団体、ボランティア団体と連携して取り組む分野であり、郵便局は、住民に身近な公的拠点として、地方自治体と緊密な連携のもとで、補助的役割を果たしていくことが適当である。

(イ) 次にコスト負担の明確化については、郵便局サービスの独立採算の観点から、郵便局の経営資源の中で無償で提供できるサービスか、コストに応じて対価を徴収する受託サービスとして行うか、を明確にすることが必要である。
○例えば、業務に支障のない範囲で郵便局スペースを開放する等、追加的コスト負担がない場合や、一人暮らしの高齢者への生活用品の配達等、収入のあるサービスと結びつく場合は、対価を徴収することは適当でないと考える。

○しかし、ワンストップ行政サービス等のように、コスト負担がある場合には、基本的に行政機関等から対価を徴収する受託サービスとすべきである。この場合の対価は、既存の郵便局資源を活用したサービスであり、追加的な費用は少ないことから、コストに見合う合理的な水準とすることが望ましい。

 イ 郵便局経営やサービスへの地域住民の意見の反映
 今後、多様で個性的な地域社会と郵便局との関わりが一層深化していく中、郵便局経営やサービスの在り方も、全国の国民にとって真に必要な生活基礎サービスを土台に据えた上で、多様な地域のニーズに応じた郵便局経営やサービスがあってよいと考える。その地域に必要な郵便局経営の在り方やサービスの範囲について地域住民の意見を反映する必要があり、地域ブロックごとに経営委員会(仮称)を設置すべきである。
 また、地域社会のニーズに応じて、地方郵政局、郵便局等が主体的に活動できるための仕組みを郵便局事業内部で確立するよう、地方への権限委譲を行うべきである。

 ウ 利用者のプライバシー保護への配慮
 郵便局は、これまでも国民の通信や顧客等のプライバシー情報を取り扱ってきた。利用者のプライバシーを守るためには、郵便法における通信の秘密や国家公務員法の守秘義務といった制度的担保のほか、職員のモラル(職業倫理)が極めて重要である。今後、郵便局が取り扱う情報の範囲が拡大する場合には、訓練等により職員のモラルを一層高め、利用者のプライバシー保護を徹底させる必要がある。