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郵便局ビジョン 2010
第3章 郵便局ビジョンI:情報の拠点
「情報」が鍵となる社会においては、行政の効率化、国民の利便性の向上を図るため、内外のネットワークの融合を促進するとともに、情報の地域間・個人間格差を是正することが課題である。郵便局は、そのネットワークの開放や、どこでも誰でも簡易に利用できる基礎的通信サービスの提供を通じて、「情報の拠点」としての役割を果たしていくことが期待される。
ネットワークの融合は、既存のネットワークを活用して外部情報へのアクセスが容易になるなど、ネットワークの規模を実質的に拡大する効果がある。こうした効果は、ネットワークの融合が進むほど、経済産業や国民生活に対して大きな効果をもたらす。インターネットの例で言えば、利用者は誰でも、地理的な制約なしに、世界中からの情報、サービスへのアクセスが可能となっている。
ネットワークを融合する場合、ネットワークへのアクセスポイントが国民に身近であるほど、国民の利便性は向上する。郵便局は、国民にとって最も身近な存在であるとともに、情報、カネ、モノのネットワークを統合している。
こうした点を考慮すれば、郵便局ネットワークを開放し、他のネットワークとの融合を可能とすることは、情報、サービス、商品へのアクセスを容易にし、国民の利便性を向上させるものと考えられる。
特に、高齢者等、情報端末の操作に習熟していない「情報弱者」やネットワークの進展が遅くなる過疎地住民等にとって、身近な窓口であり、職員による操作支援が可能な「郵便局」の役割は大きい。
(1) 行政ネットワークへの開放
米国のWINGS構想 米国においては、インターネットを活用して行政サービスのネットワーク(「WINGS」〔The Web Interactive Network of Government Services〕)を構築し、転居や職業紹介等の日常生活に必要な手続を1か所で処理できるようにする取組みが進行している(資料30)。 このWINGSの構築は、クリントン政権による行政改革の一環として1995年に提唱された「全米キオスク・ネットワーク構想」の中で進められている。同構想では、単なる行政コストの削減のみならずサービスの向上が最大の目的であること、ユニバーサルな、かつ利用しやすい情報スーパーハイウェーを速やかに構築するためには、双方向キオスクが必要であること等の原則の下に、「省庁間キオスク委員会」が企画・立案し、米国郵便サービス(USPS)が取りまとめを行っている。 WINGSには、誰でもどこでもユニバーサルにアクセスできるよう、家庭のパソコンのほか、全米4万局の郵便局ロビー等に公共キオスクを設置することとしている。USPSでは、現在試行実験を実施している。 | |
マレーシアのPSN マレーシアにおいては、現在、政府の各省庁と全国に設置された郵便局(620局)をオンラインネットワーク(「PSN」(Public Services Network))で結び、様々な行政手続サービス(例:運転免許証の更新手続、事業所登録証の更新手続、道路税の更新手続等)が郵便局窓口で提供されている(資料31)。 PSNのメリットは、関連省庁にとって、多数の出先機関を新たに設置することが不要であること、住民にとって、行政手続のアクセス場所が増大すること、とされている。 |
最も身近な郵便局窓口においてワンストップ行政サービスが実施されれば、国民の利便性は著しく向上するものと考えられる。また、郵便局は従来から、住民票、戸籍謄本等各種申請の取次ぎや国庫金の受払いをはじめとした、公的窓口としての機能を果たしており、利用する国民の立場からも支持されるであろう。郵政研究所の調査では、様々な手続のための一括窓口があれば便利な場所として、7割近い人が郵便局を挙げている(図7)。
現在、我が国は、高い水準の財政赤字の下で、行政の効率化により、国や自治体の行政コストを削減するとともに、急速な高齢化等の進展に伴い、新たな行政需要に柔軟に対応していくことが求められている。 また、行政の効率化を目的として、過疎地域における国等の出先機関が統廃合されつつあり、こうした地域における行政サービス水準をいかに維持するかが課題となっている。 そうした取組の実践例として、平成8年4月から、国の出先機関である登記所の統廃合に際し、地域住民に対する行政サービスを確保するため、郵便局が登記簿謄抄本の申請の窓口を代行するケースが全国的に生じてきている。 | |
こうした効率的な行政への要請と、国民の負担軽減・利便向上のため、行政庁に対する申請等の負担軽減が極めて重要であるとの閣議決定が先般なされた(「申請負担軽減対策」(平成9年2月10日閣議決定)参照)。その中で、申請、届出の電子化・ペーパーレス化のための重要な施策として、ワンストップ行政サービスの早期実現が挙げられている。(資料33) 行政全体から見た場合、新たな行政需要に対して、各々の行政機関が窓口を設けるより、郵便局等、身近な一つの窓口で取り扱う方が、行政全体のコスト削減、効率化に資することとなる。今後、国・自治体において、ワンストップ行政サービスの実現に向けた積極的な取組みが期待される。 |
住民側の時間 | 現 状 | 14,400万時間 |
ワンストップ後 | 2,100〜6,100万時間 | |
削減効果 (金額換算) | ▲ 58%〜▲ 85% (1,200〜1,800億円) | |
行政窓口側の時間 | 現 状 | 4,500万時間 |
ワンストップ後 | 500〜3,300万時間 | |
削減効果 (金額換算) | ▲ 27%〜▲ 89% (200〜600億円) | |
合 計 | 削減効果 | 1,400億円 〜2,400億円 |
(郵政研究所による試算結果) | |
(注) | 表中の最大値は、行政手続のワンストップ化による時間削減効果に併せて、窓口業務の電子化に伴う効率化効果を見込んだ場合の数値。 |
第1段階 ・郵便局→自治体等:郵送又はFAXにより各種の申請を取次ぎ。 ・自治体等→申請者:各種証明書等を申請者に郵送。 第2段階[郵便局−自治体等にネットワークを構築] ・郵便局→自治体等:オンラインで各種の申請を取次ぎ。 ・自治体等→申請者:第1段階と同様。 第3段階[ネットワークに本人確認機能や公的認証機能等を付加] ・自治体等→(郵便局窓口)←申請者 :オンラインで即時に各種行政手続が完了。 |
(2) 民間ネットワークへの開放
モノの取引について、郵便局の情報・モノ・カネの統合ネットワークを活用すれば、購入申込み、代金支払等のアクセス負担やコストを軽減することができる。(例:「ふるさと小包」) 送金・決済ネットワークの結合という点からも、郵便局ネットワークのオープン化の効果は大きい。我が国の金融機関の送金・決済ネットワークが一本化することにより、現金を送受する拠点が全国各地に拡大するとともに、郵便局と民間金融機関の口座間の決済が可能になり、決済機能や利便性が一層高まる。 | |
今後、金融自由化の進展に伴い、ハイリスク・ハイリターン商品を含めた多様な金融商品が提供されることが予想される。 こうした状況の下で、郵便局ネットワークを民間に開放し、民間金融商品や情報を全国の郵便局窓口を通じて提供することは、国民の選択の幅を拡大し、多様化する国民のライフスタイルに応じた生活設計に資することになる。 このことは、民間金融機関が身近に存在しない過疎地域等の住民にとって、都市部と同水準の多様な金融サービスや情報が享受できるという点で、特に効果が大きい。 |
(1) 高度情報通信社会における情報ニーズ
情報通信メディアの多様化や融合が進展する中で、情報流通量は急増している。平成6年度までの10年間の推移を見ると、情報流通量(原発信量)は約3.3倍にも達している。近年の新メディアの急激な増加傾向を踏まえると、平成13年度(2001年度)の情報流通量は、現在のさらに約1.5倍以上に増加するものと推計されている(資料35)。
国民が、必要な情報を最も適切な方法により選択する、すなわちその時々のニーズに応じてメディアとネットワークを選択する時代になるものと想定される。
(%) |
丁寧な 感じ | 形式的な 感じ | 気持ちが こもって いる | 先進的な 感じ | 伝統的な 感じ | 返事が必 要な感じ | |
郵便 | 48.4 | 22.8 | 41.1 | 0.6 | 14.9 | 22.5 |
電話 | 20.1 | 24.1 | 29.9 | 11.6 | 2.0 | 20.0 |
ポケットベル | 0.5 | 13.3 | 1.6 | 33.5 | 0.4 | 26.0 |
FAX | 3.4 | 17.1 | 3.1 | 46.2 | 0.3 | 9.0 |
電子メール | 3.2 | 18.2 | 3.0 | 44.1 | 0.5 | 6.7 |
出所: | 「マルチメディア時代における郵便サービスに関する調査研究会」におけるアンケート調査 (複数回答)(平成7年12月)(郵政省) |
高度情報化に伴う情報格差の是正 高度情報化の進展に伴い、都市部と地方の情報格差や個人間の情報格差が更に拡大するのではないかとの懸念がある。これに対して、郵便は、基礎的な通信サービスとしてユニバーサルに提供され、かつ情報弱者にも簡便に利用できることから、情報の地域間・個人間格差の是正に資することが期待される。 | |
郵便需要予測 これまで、電気通信メディアの発展につれて、郵便に対するニーズも拡大してきた。これは国民が選択できる情報量の飛躍的増大の中で、現物性、儀礼性といった特徴により、郵便がメディアの一つとして選択されてきた結果と考えられる。 昭和60年の電気通信の自由化以降、郵便物数の伸びが国内総生産の伸びを上回っていることは、電気通信メディアの発展が必ずしも郵便需要を奪うものではないことを示している(資料37、38)。長期的に見ても、家計・企業の支出に占める郵便費の割合は極めて安定的である。 | |
企業通信の動向 企業間通信においては、今後、EDIやCALS等の伸展により業務用通信の形態に大きな影響が及び、郵便需要の減少が予想される。 他方、企業から個人あての郵便需要については、電気通信メディアへの代替も予想される一方で、広告・販売においては、個々の消費者に直接アプローチするダイレクトマーケティングの重要性が高まっており、その手段としてDM(ダイレクトメール)の需要が拡大しているほか、インターネットなどを利用したオンラインショッピング等の急激な拡大により、その決済に伴う請求書等の送付需要の増大が予想される。 | |
個人間通信の動向 近年、若年層を中心に、文章を書くことを面倒と考える傾向や、冠婚葬祭などの行事を簡素化する傾向がある等の指摘がある。このようなメンタリティ(気持ちの在り方)の変化は、コミュニケーションメディアについてもより手軽さを求める傾向となって現れ、個人間の郵便による通信にマイナスの影響を与え得ると考えられる。 新たなコミュニケーション環境に対応する新しい文字文化・手紙文化の創造は、国民文化の側面からも重要であり、個人間郵便需要の開拓への努力が必要である。 | |
諸外国との比較 我が国の郵便物数を諸外国と比較すると、総物数は米国に次いで第2位であるにもかかわらず、1人当たりの差出物数は、199通(1995年度)と、第16位となっている。これに対して、米国の1人当たりの差出物数は我が国の3.4倍、フランスは2.1倍、英国は1.6倍、ドイツは1.2倍となっている(図9)。 このような差が生じている理由としては、欧米においては、気軽に郵便を差し出す習慣があるなど、郵便利用に対する国民性の違いや、小切手取引やクレジットカード決済が国民生活へ浸透しており、その処理に伴う郵便物数が多いなどの差があるからと言われている。 郵便サービスには規模の経済が働くことから、なるべく安い郵便料金を達成するためには、個人間通信の振興を図るとともに、一層のサービス改善を推進し、多様な国民ニーズに対応して、郵便需要を開拓していく必要がある。 |
注: | UPU郵便業務統計表(1995年度)等による。 ただし、カナダは1993年、スイス並びにチェコ及びスロヴァキアは1992年、オランダは1989年の資料である。 |
(出所)郵政省資料 |
以上のような企業通信、個人通信の動向を総合すると、郵便サービスが高度情報化や国民のニーズに柔軟に対応し、新規需要を開拓し、拡大できれば、郵便物数は今後2010年頃まで安定的に拡大することが可能である。以下で述べる郵便局サービスの改革を前提に、具体的に21世紀初頭の郵便需要を予測すると、2010年の総物数はおおむね385億通(年平均3%程度の伸び)となり、これを基に推計すると、収入伸び率は年平均2%程度となる(図10)。 |
(出所)郵政研究所による試算 |
(2) 情報流通促進のための郵便局サービスの改革
郵便局は、高度情報通信社会における「情報の拠点」として、情報流通を促進し、誰もが多様な情報に公平にアクセスできる社会の実現に貢献すべきである。このためには、基礎的な通信手段である郵便サービスの改革に積極的に取り組むとともに、郵便局のマルチメディア化を推進することが必要である。
(具体的な施策例)
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新スピードサービス 多様なニーズに対応して、郵便サービスに対しても、送達速度の多様化が求められている。こうしたニーズに対応し、新たなスピードサービス等の提供を行うべきである。 例えば、国民が求める配達速度により、緊急な用件に対応し、2〜3時間程度で配達するサービス、引き受けたその日に配達するサービス、引き受けた日の翌日午前10時までに配達するサービス等に整理し、提供することが考えられる。 | |
マルチメディアとの融合サービス 高度情報通信社会における国民の通信ニーズとして、即時性、画像通信、大量データ処理など、情報通信メディアの持つ高度な特性に対応したものが想定される。 郵便サービスも、こうしたニーズに柔軟に対応し、電気通信技術の導入により、既存のサービスの高度化や電気通信と融合した新サービスの提供を行うべきである。 具体的には、以下のようなサービスの導入を検討すべきである。 |
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(1) グローバル化に伴うニーズ
第1章で述べたように、情報通信や輸送手段の高度化に伴い、ヒト・モノ・カネ・情報が地球規模で移動するようになっている。今後、社会経済や国民生活のグローバル化とともに、高度情報化が進展する中で、国内にいながら海外の公的機関や民間企業等の情報・サービスにアクセスし、あるいは海外にいながら我が国の情報・サービスを利用するニーズが増大していくことが予想される。例えば、インターネットを通じた個人輸入や、海外で自国のキャッシュカードを用いて現地のCD(現金自動支払機)・ATMから直接現地通貨を引き出すといったサービスが挙げられる。 | |
グローバル化の進展や世界経済に占める日本経済の比重の高まり等を背景に、国際社会における我が国の責任と役割はますます増大している。今後、我が国は、地球社会の一員として、その発展に積極的に取り組むことが求められている。 こうした中にあって、郵便局もまた、国際的な連携を図り、国際社会の一層の発展に貢献することが必要である。 |
(2) 郵便局のグローバルネットワーク化
我が国は、明治10年(1877年)、万国郵便連合(UPU)に加盟している。UPUは、世界のどこにでも、国内と同様に、郵便を自由にかつ手軽に差し出し、また受け取ることができることを目的として、1874年に創設された国際機関である。我が国にとっては、UPU加盟が初の国際機関への加入であり、郵便を先駆けとして国際社会への参画を果たした。 UPU加盟から始まった郵便局のグローバル化は、今や国際郵便ネットワークや国際送金ネットワークを通じ、国内の地域拠点と海外とを結ぶグローバルな、モノ・カネ・情報のネットワークを構築している。国際郵便については、全世界に向けて郵便を送ることが可能であり、また、国際送金は、全国約20,000の郵便局から80の国・地域に送金することが可能である。 こうした郵便局ネットワークがグローバル化や高度情報化を背景とした国民のニーズに応えていくために、より広範に全世界60万に及ぶ郵便局ネットワークとの連携を推進する必要がある。この場合、UPU、世界貯蓄銀行協会(WSBI)等の国際機関を通じて、海外の郵政庁や貯蓄銀行との連携を強化していくことが肝要である(資料40)。 特に、日本版ビッグバンの皮切りとなる外為法の改正により、国内外の資金移動が自由となるが、郵便局では、個人・小口の利用者のニーズにグローバルネットワークを活用して対応していくことが重要である。 また、郵便局のグローバルネットワークをより有効に活用するため、国内と同様に、海外の行政・民間ネットワークに対してもオープン化を図り、海外の公的機関のサービスの代行等も検討すべきである。 こうした郵便局ネットワークのグローバル化に際しては、国際間で提供するサービスの仕様や技術について国際標準化を図ることが重要な鍵となる。ICカード等今後導入が予定されるものの規格については、グローバルな利用を想定して検討していく必要がある。 | |
これまで郵便局では、開発途上国からの研修生の受入れや研修機材の供与等により、郵便局サービス・業務のノウハウを提供し、また、現地への職員の派遣により、郵便システム整備や機械化のマスタープラン(基本計画)策定に貢献する等、相手国における郵便局ネットワークの整備に協力している。さらに、ベトナム、タイにおける郵便貯金制度創設支援やタンザニアにおける簡易保険制度創設支援など、開発途上国の貯金・保険制度の整備への支援により、国内資本形成を通じた開発途上国の経済発展に貢献している。 こうした協力は、開発途上国から期待されているものであり、また、郵便局のグローバルネットワークの形成にも寄与するものであることから、今後も途上国からの要望に応じて積極的に協力していくことは、国際貢献の観点からも重要である。 |