郵便局ビジョン 2010

第4章 郵便局ビジョンII:安心の拠点

  1 経済生活の安定

  2 共生と社会的公正の実現

  3 安全な生活環境の整備






 21世紀は、少子・高齢化等の進展に伴い、「安心」が鍵となる社会と予想され、老後生活を見据えた生活設計の重要性や、地域の福祉・防災体制確立の重要性が高まる。したがって、郵便局は、自助支援サービスの改革や郵便局の情報・人的ネットワークの開放・活用により、地域社会の「安心の拠点」としての役割を果たしていくことが期待される。

1 経済生活の安定

(1) 公助・共助・自助の調和

 ア 少子・高齢化の進展
 我が国は、 2010年(平成22年)には、一人暮らしの高齢者(65歳以上)及び夫婦とも高齢者の世帯数が約 1,000万世帯、2025年(平成37年)には75歳以上の後期高齢者が約 1,890万人に達すると推計されており、今後、過疎地・都市部を問わず、一人暮らし高齢者等の占める割合が急速に高まるものと考えられる(資料41、42)。
 また、現状のまま、少子化傾向が続いた場合、我が国の総人口は2007年(平成19年)をピークに減少に転じ、高齢者人口(65歳以上)一人当たりの生産年齢人口(15〜64歳)も、1995年(平成7年)の 4.8人が2050年(平成62年)には 1.7人になると推計されている。
 このような中で、国民が安心して子供を生み育て、安心して勤労生活、老後生活を送ることのできる環境をいかに整備するかが重要な課題となっており、その鍵は、公助・共助・自助の適切な調和にあると考えられる。

 イ 公助の限界
 公助(社会保障)の現状についてみると、国の一般歳出予算に占める社会保障関係費の割合は、既に33.1%(平成8年度)に達しており、租税と社会保障負担の合計の国民所得比である国民負担率は37.2%(平成8年度)となっている(資料45、46)。さらに、経済審議会報告(平成8年12月)によれば、現行の財政及び社会保障制度を前提とすると、2025年(平成37年)には国民負担率が51.5%、潜在的国民負担率は73.4%に達するとともに、社会保障基金は2025年(平成37年)以前に底をつくと推計されている(資料47)。このような、国民負担の過度の増大と社会保障基金の破綻を回避するためには、社会保障、すなわち公助には一定の限界があると言わざるを得ない。実際、社会保障関係審議会会長会議(平成8年11月)においては、社会保障制度のみで高齢化のピーク時においても国民負担率を50%以下とするためには、医療・年金等を中心に中長期的に2割以上の給付効率化、適正化が必要となる可能性が指摘されている。

 ウ 自助・共助の必要性
 国民負担の過度の増大を回避しつつ、安心できる社会を構築するためには、共助つまり、ボランティア活動等の社会的な助け合いのほか、国民の自助努力のウェイトが必然的に高まらざるを得ない。
 21世紀の大競争時代においても、国民の自助努力の支援により、国民の将来への不安を取り除き、安定した社会を構築する必要がある。
 したがって、国民の多様なニーズに応じて自助努力を支援する手段、すなわち貯蓄や生活保障手段の充実が重要課題となる。

 エ 国民の自助努力手段に対するニーズ
(ア) 国民の自助努力のための手段としては、預貯金、信託、保険、証券
等があり、国民がそれぞれのニーズに応じて選択することになるが、我が国の場合は、従来、預貯金の占めるウェイトが極めて高く、個人金融資産全体の約6割を占めており、米国における預貯金のシェア約2割とは対照的である(図11)。

【個人金融資産構成比の日米比較】(図11)

日 本


アメリカ


(出所)日本銀行「国際比較統計」

(イ) 一方、我が国では、金融のグローバル化の潮流の中で、東京市場をニューヨーク市場、ロンドン市場と並ぶ国際金融市場に構造改革し、我が国の1,200兆円もの個人金融資産を有効活用するため、金融システム改革、いわゆる日本版ビッグバンと呼ばれる改革が行われようとしている。


 [金融資本市場の改革3原則]
    Free(市場原理が働く自由な市場に)
     〜参入・商品・価格等の自由化 

    Fair(透明で信頼できる市場に)
     〜ルールの明確化・透明化・投資家保護

    Global(国際的で時代を先取りする市場に)
     〜グローバル化に対応した法、会計制度、監督体制の整備 

(ウ)  日本版ビッグバンが実施された場合、サービス面では、銀行、証券等の業態を越えた商品の提供が行われるほか、資本市場の発展により有価証券関連商品のウェイトも高まり、国民の選択肢が拡がるとともに、競争のメリットが国民に還元されていくものと期待される。この結果、ハイリスク・ハイリターン商品からローリスク・ローリターン商品まで、多様な商品が提供され、個人資産に占めるハイリスク・ハイリターン商品のシェアは今後、拡大するものと予想される(資料48)。
 他方、元本保証の商品である預貯金や従来型の保険については、そのシェアの減少が予想されるが、国民の主な貯蓄・保険の目的が、「病気や災害への備え」、「老後の生活資金」や「子供の教育資金」であることを考慮すると、依然として、そのニーズも根強く残るものと思われる。とりわけ、「老後の生活資金」を貯蓄目的としてあげる国民が、昭和61年の42.5%から平成8年の53.9%へと大幅に伸びていることが注目される(図12、資料49)。

【貯蓄の目的】(図12)


注:3項目以内での複数回答
資料:「貯蓄と消費に関する世論調査(平成8年)」作成貯蓄広報中央委員会により郵政省作成

(2) 郵便局の自助支援サービスの改革

 ア 安全・確実・便利な生活基礎サービスの提供
 日本版ビッグバンにより、多様な金融商品が業態を越えて提供される中、郵便局サービスが将来にわたって競争力をもつためには、ハイリスク商品を含め、多様な商品を開発すべきとの意見もあるが、郵便局サービスが生活基礎サービスである以上、引き続き、安全、確実で便利な商品・サービスを基本とする必要があると考える。
 「安全」とは、元本保証等、商品性の面での安全のことであり、したがって、郵便局自体の商品としては、証券関連商品など、元本割れのリスクのあるものに拡大することは適切でない。
 利用者によっては、資産のポートフォリオ(投資配分)の一部としてハイリスク・ハイリターン商品を組み込むニーズがあるが、これに対しては、民間商品・サービスの受託・提供により対応していくべきであろう。

 イ 生活設計型の自助支援の重視
(ア) 生活設計コンサルティングの充実
 21世紀に向けて、自助の重要性が高まる一方、ライフスタイルも一層多様化することから、国民一人ひとりが自らの生活をライフサイクルに応じて、計画的に設計していくニーズが大きくなる。
 郵便局として最も重要なことは、一人ひとりのライフサイクルに応じた生活設計コンサルティングを充実することである。この場合、郵便局サービスに限定せず、民間サービスを含め、利用者の立場に立った、総合的、客観的な生活設計コンサルティングを充実する必要がある。金融商品設計が複雑化する中、民間商品のリスクとリターンの関係についても十分アドバイスできることが求められよう。

(イ) 高齢者の自立支援
 少子・高齢化に伴い、都心部あるいは過疎地において一人暮らしの高齢者が増加していることから、身近に利用でき、フェイス・トゥ・フェイスで相談できる自助支援サービスの利用機会の確保が重要となる(資料50)。特に、適切な財産管理の後見者を確保することが困難になっており、財産管理能力が不十分な高齢者に対する財産管理・保全は社会的に喫緊の課題であるが、事務負担の大きさ等のため、民間サービスとしては採算に乗りにくく、一部の自治体で、財産管理・保全サービスを実施している状況にある。郵便局においても、「公共性」の観点から、自治体と連携しつつ、高齢者の財産管理・保全サービスを提供すれば、高齢者の自立支援に寄与することができる。

(ウ) 公的年金を補完する年金型サービスの重視
 超少子・高齢社会では、老後の経済生活の安定が極めて重要な課題であるが、公的年金だけでは十分ではない状況にある。夫婦とも国民年金受給者の場合、その実支給額は最低生活保障水準にも達していない。国民の意識調査でも、87%の者が老後の生活設計として公的年金と自助努力との組み合わせが必要であるとしている(資料51)。
 そこで、郵便局は、超少子・高齢社会の下支えとして、国民の老後生活の安定に向けた自助努力を支援するため、公的年金を補完する年金型の貯金や年金保険の開発に努めるべきである。

 ウ 日常生活における送金決済サービスの充実
 郵便局は、民間金融機関の存在しない過疎地域においても個人・小口の金融サービスを提供しており、個人の日常生活にとって必要最小限の金融活動を支援する役割を担っている。特に、公共料金の自動振替等、少額決済や小口送金・貸付サービスは、日常生活に欠かせないものであり、こうしたサービスの一層の充実を進めるべきである。
 この場合、生活様式の多様化に対応して、ATMの送金決済機能の拡充、ATMの24時間稼働、ホリデーサービスの拡大等が不可欠である。また、家庭に居ながらにして送金決済サービスが利用できる、ホームサービスの拡充も必要となろう。

 エ 民間では提供困難な政策的サービス
 郵便局は従来から、住宅積立貯金の創設や夫婦年金等、国民生活の安定を図る上で必要ではあるが、市場メカニズムに乗りにくいため、一般的に提供されてこなかったサービスを、民間を先導する形で開発・提供してきた。
 今後とも、国民生活の安定に必要で、かつ、民間企業では提供困難なサービスを提供する必要がある。したがって、市場原理の下で取り残されることが懸念される経済的弱者のニーズに対応したサービス、例えば、軽度疾病者保険の提供を検討するとともに、国民生活の安定には必要であるが、市場メカニズムに乗るまでの期間が長く、一般には広く提供されていないサービス、例えば、リバースモーゲージの開発に努めるべきである(資料52)。

 オ 市場メカニズムとの調和
(ア) 郵便貯金金利等と市場メカニズムとの関係
 郵便局の貯金金利は、市場原理に基づかない高金利である、との指摘がある。しかし、金融自由化の進展に伴い、既に市場メカニズムとの調和が図られており、民間金利に準拠している。特に主力商品である定額貯金の金利については、その流動性を勘案して民間定期預金金利より低く設定している(資料53)。また、信用面における格差を指摘する意見もあるが、民間金融機関の小口預金者(2001年までは大口を含め)も預金保険制度によって保証されているところである。簡易保険の保険料についても同様に市場に準拠している。
 その結果、郵便貯金の個人金融資産に占めるシェアは約2割弱、簡易保険の個人生命保険市場の保険金総額に占めるシェアは約1割だが、これらのシェアはこの10年間、ほぼ一定である(図13)。このように郵便局サービスは、利用者の利益を第一としつつ、既に市場メカニズムとの調和が図られている、と考える。

【個人金融資産の種類別シェア】(図13)


注1:「証券」は国債、金融債、投資信託等
 2:四捨五入のため、一部計数の不一致がある。
資料:日本銀行「経済統計月報(資金循環勘定)」により郵政省作成

(イ) 日本版ビッグバンと郵便局の自助支援サービス
 日本版ビッグバンは、グローバル化の中で2001年を目標に東京市場の再生等を目的とした改革であるが、外為法改正による内外資本取引の自由化を皮切りにスタートしようとしている。
 この日本版ビッグバンが、郵便局の貯金・保険に与える影響については、民間金融機関から郵便貯金への資金シフトを招くとの懸念が一部にあるが、むしろ、21世紀では、郵便貯金を含む預貯金から、内外の金融機関により新たに提供される多様な証券関連金融商品の方が選好される可能性の方が高いとみるべきであろう。ただし、民間金融機関の不良債権問題が依然として尾を引いており、日本版ビッグバンの過渡期においては、問題のある金融機関から郵便貯金に資金シフトが起こるとする見方があるのも事実である。このような金融機関からの資金流出は、本来、郵便貯金がなくとも起こり得るものであるが、金融システムの安定に配意するため、個人金融分野において過度の資金シフトが生じることのないよう十分配意していく必要がある。

 また、金融分野での競争原理の徹底は、金融のグローバル化の中で、我が国の社会経済や国民にとって必要な改革であるが、その結果、民間金融機関が過疎地等の不採算地域から撤退したり、大口利用者に比べ小口利用者が著しく不利に扱われる可能性がある。
 例えば、英国の場合、ロンドン金融市場の地位を国際的に高めた1986年の金融ビッグバン以降、銀行の支店閉鎖が相次いだほか、手数料等の面で大口と小口の利用者間のサービス格差が拡がっている。
 また、金融自由化が進んでいる米国においても、個人の口座が一定の残高に達していなければ預金利息よりも高い口座管理手数料が徴収されている例が見られる。郵政研究所のアンケート調査結果においても、米国では、低年収の者は高年収の者と比べ、金融自由化に対する評価が低い(資料54)。
 したがって、個人・小口の預金者の立場に立ち、安全・確実・便利な郵便局の自助支援サービスを全国あまねく公平に提供することの重要性は、一層高まるものと考えられる。また、郵便局のオープンネットワーク化により、多様な民間金融情報・商品が、過疎地を含む身近な郵便局窓口を通じて提供されることは、過疎地の利用者も都市部と同じ水準で情報・サービスにアクセスできる観点からも必要になる。

 

(ウ) 個人金融分野における市場との調和
 日本版ビッグバンの過渡期において、個人金融分野において、郵便局と国内の民間金融機関との間の過度の資金シフトを回避していくため、次のような取組がなされることが適当である。

  郵便貯金の金利や簡易保険の保険料の設定に当たっては、利用者の利益を第一としつつ、市場メカニズムとの調和を一層徹底し、個人金融分野において民間との間の過度の資金シフトが生じないよう配意する。

  また、日本版ビッグバンの過渡期にあっては、金融市場全体の安定に細心の注意を払う観点から、貯金の預入限度額又は、保険金の加入限度額については、社会経済の動向、国民のニーズに配意しつつ、当分の間、凍結することが必要である。
 なお、年金の加入限度額については、公的年金の動向、国民のニーズ等を踏まえ、慎重に検討する必要があろう。

  さらに、現在の奨励手当、外務職員等の営業体制は、郵便局サービスの能率的な提供等を目的としているが、結果的に資金吸収へのインセンティブとして働いているとの指摘がある(資料55、56)。
 21世紀を展望した郵便局の自助支援サービスは、生活基礎サービスの確保や生活設計コンサルティングの充実、政策的なサービスの提供等、サービスの質的充実という側面が強く求められている。
 このため、能率給の仕組みについては、郵便局で働く職員のモラールの向上の観点も踏まえた見直しが必要であり、評価のものさしを、貯金・保険獲得能力を重視するものから、新たな郵便局の役割に貢献するためのトータルな能力を重視するものとするなど、抜本的に見直すべきである。
 また、外務職員については、郵便局と地域の家庭等を結ぶ人的ネットワークとして、引き続きその役割を果たしていくべきであるが、先に述べた自助支援サービスの改革を踏まえ、その役割、機能の見直しにより規模のスリム化を図る必要がある。

  なお、オープンネットワーク化により、郵便局窓口を通じて民間金融商品を提供することは、国民の商品の選択の幅が広がることになり、郵便局への資金シフトの回避にもつながるものと考えられる。





2 共生と社会的公正の実現

(1) 地域の福祉施策の充実
 ア  少子・高齢化の進展により、地域社会においても、地方自治体が中心となって、住民が子育てしやすい環境を整備するとともに、高齢者の生活を支援するための各種取組を行うことが、ますます重要になる。
 育児の面では、特に共働き世帯に対応した夜間保育等の保育施設の充実、核家族化に対応した育児相談所の開設等が求められており、こうした子育てのための環境整備を進めていくことが重要である。
 また、高齢者への支援についても、要介護高齢者の急増に備えて、高齢者福祉施設等の整備だけでなく、高齢者ができる限り住み慣れた家庭や地域で暮らしていけるよう、高齢者在宅介護サービスの充実を図るとともに、福祉関係の人材の養成や高齢者介護のための相談所の開設等を行い、総合的な支援ができるよう努める必要がある。

 イ  また、高齢者が可能な限り健康で、自立した生活を送ることができ、自己の経験と能力を活かしながら暮らせる環境づくりも重要である。
 特に高齢化が深刻な過疎地や、過疎化が進んでいる都市の中心部に居住している一人暮らしの高齢者については、人と人の触れ合いやきめ細かな福祉サービスの提供が求められる。
 このように、急速な超少子・高齢化の進展の中で、人々が共に助け合い、高齢者等の社会的弱者を支援していくこと、つまり、共生と社会的公正の実現が地域社会にとって極めて重要な課題となっている。

(2) 郵便局による福祉関連施策への協力

 ア 自治体等と連携した福祉支援
(ア) 一人暮らしの高齢者に対する地方自治体の福祉サービスは、今後とも大きな役割が期待されているが、一人暮らしの高齢者数が急増する中、地方自治体のみで全ての高齢者の様子を常に把握しておくことは難しくなっている。
 現状では、郵便局の外務職員が郵便物を配達する際に、一人暮らしなどの高齢者に対して励ましの声かけを実施しているが、今後は、郵便局の人的ネットワークを開放することにより、地方自治体等と提携した上で、郵便局の外務職員が配達や集金時に得た高齢者、障害者等の安否情報や要望などを当人の了解のもとに地方自治体に提供し、自治体の在宅福祉サービスを支援する必要がある(資料57)。外務職員の携帯用端末機と自治体端末との間で無線で交信すれば、効率的・即時的な情報提供が可能である。

(イ) また、一人暮らしの高齢者等の中には、生活用品の買い物等に不自由している人もいる。郵便局では、地方自治体、社会福祉協議会等と連携し、ホームヘルパーや民生委員等の役割を補完するため、外務職員が一人暮らしの高齢者、障害者等から生活用品等の注文を受け付けて配達するサービスを全国に展開していくことも考えられる(資料58)。

(ウ) 高齢化の進展に伴い、要介護高齢者は、2010年(平成22年)に 390万人、2025年(平成37年)には 520万人にも達するものと予想されている。したがって、21世紀においては、各種高齢者介護サービスを充実する必要があるとともに、在宅介護の充実の観点から、地域住民が介護知識を習得するための介護講習会の実施や介護機器の普及が必要となる。
 郵便局は、簡易保険の加入者福祉事業の一環として、関係省庁、地方自治体及び社会福祉協議会との連携や要請に従い、介護講習会の実施や介護機器の普及を支援していくことが適切である。誰もが介護者や要介護者になる可能性があり、このような支援は加入者全体で介護負担等のリスクを分担する、という簡易保険の趣旨にも沿うものと考えられる。

(エ) 高齢者等が地方自治体等の在宅医療・福祉サービスを利用しない理由は、それらサービスの提供機関や利用方法を知らないことが最大の理由となっている(資料59)。
 このため、地域住民にとって身近な郵便局が、地方自治体等と連携して、地域の福祉関連情報の提供窓口や相談窓口としての機能を果たすことが望まれる。

 イ 高齢者・育児施設等と郵便局の合築
 豊かで安心できる地域社会づくりのためには、高齢者施設等の社会福祉施設や育児施設を地域住民が身近に利用できる環境を整備することが重要である。しかし、都市部においては、地方自治体等が適切な用地を取得することが困難なため、それらの施設を整備できない場合もある。
 こうした場合、地域の要請に応じて、郵便局と社会福祉施設等を合築することにより、社会福祉施設等の円滑な整備・普及への支援を行うとともに、土地の有効利用等を図ることができる。




3 安全な生活環境の整備

(1) 安全な地域社会づくり

 ア 地域の防災対策の強化
 我が国は、その国土条件から地震災害、風水害等の自然災害を受けやすい。安全な地域社会づくりのためには、未然に災害の発生を防ぎ、また、災害時には、その被害を最小限度に食い止めるための各種防災対策の充実が必要である。
 特に災害発生時においては、火災等の拡大を防ぐとともに、地域住民が緊急に避難できるための防災公園等のオープンスペースを確保する必要がある。また、被災地住民に対して速やかに、通信、医療等のライフラインサービスが提供できるよう、ライフライン施設の高い耐災性を確保するとともに、ライフライン施設のバックアップ体制を整備しておくことが必要である。
 さらに、災害による被害を最小限に抑えるためには、災害に関する情報を迅速、確実に提供するシステムとともに、各地域の防災拠点となる施設を整備し、それらをネットワーク化することによって広域的な防災生活圏を形成する必要がある。

 イ 地域の生活環境の改善
 我が国の飛躍的な経済発展は、国民生活を豊かにした一面、他方では様々な環境問題を発生させている。特に都市部においては、廃棄物の大量発生や自動車の排気ガス等による都市型・生活型の公害が大きな問題となっており、環境負荷の低いシステムの利用を促進していく必要がある。
 また、我が国の大量生産、大量廃棄型の経済は、自然・歴史環境、さらに地球環境に対して多大な影響があり、自然環境・地球環境の保全に努めていく必要がある。

(2) 郵便局による安全な地域社会づくりへの支援

 ア 地域の災害対策への協力
(ア) 郵便局は、災害時において必要不可欠な情報通信・金銭・物資を提供するライフラインサービスを担っていることから、局舎の耐震性の強化等により、阪神・淡路大震災の際と同様、災害時においても可能な限り平常と同等の機能を維持すべきである(資料60)。

(イ) 災害発生時に、郵便局は、災害時のライフライン施設一つとして、地方自治体と防災協定を締結し、学校、公民館等の他の公共施設と効果的な連携を図りつつ、災害時における被災者の一時的避難所等として、郵便局の用地や局舎の一部を提供できるよう配慮すべきである。
 また、地方自治体とネットワークを結んで、郵便局に設置された情報端末により、災害時における避難所の情報等を提供し、被災者の生活の拠り所としての役割を果たすべきである。
 特に、被災者にとって必要なことは、災害時でも足で歩いて行ける範囲内で必要な情報(避難所情報等)が得られることであり、この役割は身近な郵便局にこそ期待される。

(ウ) 遠隔地で災害が起きた時、郵便局に行けば被災地にいる親戚・知人の安否情報を確認でき、被災地のニーズに合った救援物資の送付ができれば、郵便局は国民の大きな安心の拠り所の役割を果たし得る。
 このため、地方自治体と連携し、地方自治体と郵便局の全国ネットワークを接続し、被災者の安否情報や避難所の情報、被災地が必要としている救援物資の情報等を全国の郵便局で提供できるようにすべきである。これらの施策が、救援物資等の郵便物の料金免除及び被災地での確実な救援物資配達と合わせて実施されることにより、被災地住民への有効な支援策となることが期待できる。

 イ 環境保全への協力
(ア) 自然環境保護への協力
 無秩序な開発から自然や歴史環境を守るための市民活動が、我が国において拡がりつつある。
 郵便局では、現在、国際ボランティア貯金の寄付金の一部をNGO(非政府機関)の植林等の環境保全活動に配分しているが、これは、人々の善意(寄付)と環境保全を結びつけるために郵便局ネットワークが役に立っている例と言える。今後も郵便局ネットワーク等を活用して、拡がりつつある環境保全のための市民活動を支援する方策を検討する必要がある。

(イ) 再生紙使用による森林資源の保護、低公害車の導入
 郵便局の運営を行う上でも環境保全について配慮すべきである。森林資源の保護のため、郵便局においても業務用の用紙類や郵便葉書についても再生紙の使用を積極的に推進すべきである。特に、国民の多くが利用している年賀葉書についてできるだけ早期に再生紙への全面的移行を行うことが望ましい。
 今後とも、非木材紙の使用等、地球環境に有効な施策に率先して取り組むことが望ましい。
 また、自動車の排気ガスによる大気汚染は大きな問題であり、我が国においても電気自動車等の低公害車の開発・研究が進められ、一部は実用化されている。
 現在、郵便局では全国で 100台程度の電気自動車・電気スクーター等が導入されており、今後とも、低公害車の一層の導入を図るべきである。