郵便局ビジョン 2010

第5章 郵便局ビジョンIII:交流の拠点

  1 地域社会の自立と活性化

  2 地域社会相互間の交流

  3 地域の生活・交流基盤の整備






 個性的かつ自立した地域社会づくりのためには、地域社会の内外で情報、ヒト、モノの交流を活性化するとともに、地域の生活・交流基盤を整備することが重要である。郵便局は、情報、モノ、カネのネットワークを有する生活インフラであると同時に、社会資本整備に適した資金が国民から預けられている。
 21世紀の郵便局は、これらの資源を活用して地域の情報・人等の「交流の拠点」となることが期待される。

1 地域社会の自立と活性化

(1) 地域内交流の活性化

 ア 地域のコミュニティ活動
 地域内の交流としては、各種の文化活動、サークル活動、スポーツ活動等の地域のコミュニティ活動が挙げられる。
 地域のコミュニティ活動は、多くの地域住民が参加し、活発な活動を行うことにより、地域の人的交流を拡大するとともに、地域における個性的な文化の形成や地域おこしにつながるものと考えられる。ひいては、地域のアイデンティティの形成と、住民が地域に誇りと愛着を持つ契機にもなり、地域住民の生活全体に好影響を与えていくものと期待される。
 また、情報通信の高度化により、人と人とが対面せずにコミュニケーションをする機会が増大するが、それだけに、地域社会において、人と人とが対面し、顔の見える関係を維持することが、人々の精神的に満足できる生活、ひいては社会の安定に欠かせない。地域社会において、こうした顔の見える関係を維持するための拠点・場が重要となる。

 イ 地域のボランティア活動
 地域のボランティア活動は、自由時間の増大や社会福祉に対する住民の貢献意識が高まる中で、高齢者福祉、自然環境保全といった様々な分野で活発な活動が展開されており、一人暮らしの高齢者等、社会的に弱い立場にある人々の大きな支えとなっている(図14、資料61)。
 こうしたボランティア活動は、ボランティア参加者の貢献意識や生きがいを基盤とするものである(資料62)。ボランティア参加に意欲がある者にとっては、ボランティア関連の情報を身近に把握できる環境が必要となっている。

【ボランティアの人数・グループ数の推移】(図14)


資料:(社会福祉法人)全国社会福祉協議会「ボランティア活動年報」により作成。

(2) 郵便局による地域活動の支援

 ア 郵便局サービスの文化的・教育的活用
 郵便局サービスは、これまでも地域の生活や文化的交流の一環として活用されてきた。年賀や季節のあいさつとして、年賀状、暑中見舞い等の交換は、国民的習慣となるまで定着している。自ら書いた文章であれば、相手にも情が伝わりやすい。その他にも、旅先からその土地の絵はがきを送ったり、郷里からふるさと切手が貼られた手紙やふるさと小包が送られたり、更には海外の友達と文通することや、郵便局のてがみ教室を通じて地域の人々に交流の場が提供されていること等が、生活・文化交流への活用の例として挙げられる(資料63、64)。

【郵便局サービスの生活・文化交流への活用の例】

 ● 各種手紙教室(手紙教室、絵手紙教室、年賀状版画教室等)の開催 
 ● 各種コンクール(手紙作文コンクール、はがき作文コンクール等)の開催
 ● 地方自治体が実施する手紙関連コンクールの開催
 ● 国際文通教室の開催
 ● 青少年の文通団体である「郵便友の会」の結成
 ● 高齢者を対象とした文通団体である「シニア郵便友の会」の結成

 教育面での活用については、小学校などでこども郵便局を設けたり、郵便局見学を通じて、手紙、はがきの差出・配達の仕組みや貯金・保険の仕組みを勉強する機会が提供されている。
 郵便局サービスが、地域の生活・文化交流や教育に一層活用されるよう、ふるさと切手、ふるさと絵はがき等、地域に密着した郵便サービスを充実するとともに、地方自治体の手紙コンクールの支援、文通を仲介する情報システムや、こども郵便局の普及・発展を今後とも積極的に行っていくべきである。

 イ ボランティア活動の情報拠点
 郵便局においては、国際ボランティア貯金の提供、NGO活動の紹介等を通じて、ボランティア活動に対する支援を行ってきた。
 地域住民の中には、身近な地域でのボランティア活動に参加したいという希望はあるが、活動内容や参加方法等の情報が不足しているため、実際には参加できないといった人々も多い(資料65)。
 そこで、郵便局の情報ネットワークを活用し、ボランティア活動、団体、参加方法等の各種ボランティア情報を提供するとともに、郵便局の情報端末によりボランティア活動への参加申込みを可能とする等、各種ボランティア活動と地域住民との仲介機能を果たすことが考えられる。

 ウ コミュニティセンターとしての開放
 地域内の交流を活性化するためには、文化活動等、多様な地域活動を活発化する必要があるが、そのためには、それらの活動を行うための拠点を確保・整備する必要がある。
 郵便局は、地域住民の身近にあるという拠点性を活用する観点から、郵便局舎におけるコミュニティスペースの確保を今後一層推進し、それを地域の各種文化・サークル活動、ボランティア活動、育児活動や高齢者の集いの場として地域に開放していくことが望ましい。既に一部で開始されている郵便局での高齢者へのパソコン教室の開催など、郵便局のマルチメディア化との相乗効果も期待されるところである。
 このように、郵便局は、地域社会において人と人とが対面し、顔の見える関係を維持していく場として活用される必要がある。
 そのためにも、郵便局施設は、高齢者、障害者等にもやさしいバリアフリーな局舎づくり等を着実に進める必要があろう。




2 地域社会相互間の交流

(1) 地域間交流の活性化

 ア 地域情報の交流
 近年の情報化の急速な進展に伴い、「情報」による地域交流の重要性が高まっているが、全国の情報発信量を見ると、東京都が全体の20%を占めているのに対し、34県が2%未満である等、中央と地方で情報格差が非常に大きい(資料66)。
 このように、中央から地方へ流れる情報量が圧倒的に多く、地方独自の情報が流通しにくい状況になっていることが、我が国文化が画一的と見なされやすい一因であり、地方において地域情報を発信できる情報通信基盤を整備することが課題となっている。

 イ 地域産業の支援
 地域の特産品は、各地域の顔ともいえる物品である。特産品等を全国へ運ぶ情報・物流・金融ネットワークが整備されれば、新たな市場が開拓され、地域産業を振興する等、地域の社会経済を活性化していくものと期待される。

 ウ 地域の国際交流
 グローバル化の流れの中で、国際交流は国家間にとどまらず、地域と海外、個人と海外と、交流の範囲を拡大しつつある。
 こうした中で、近年の国際交流は、住民、民間団体、自治体等が担い手となった地域レベルのものも盛んになっている。内容としては、美術・音楽等の文化交流、見本市・物産展等の経済交流、留学生受入れ等の技術・教育交流等、それぞれの地域のニーズと創意に基づいた様々な事業が行われるようになってきている。これらの事業を通じて地域レベルでの国際的な相互理解が更に深まることが期待される。

(2) 郵便局による地域間交流の支援

 ア 郵便局の情報ネットワークの活用
 「情報」による地域間交流を促進するためには、情報通信基盤の整備により地域の情報発信能力を向上することが必要不可欠である。
 郵便局の情報通信ネットワークを地域に開放することにより、地域の情報通信基盤の役割を果たすことが可能である。このため、郵便局にインターネットが利用できる情報端末を配備し、自治体と連携して行政、交通、健康、福祉等の各種地域情報を提供できるようにし、地域の情報化を支援していくことが考えられる。
 さらに、地域の特色ある文化や生活情報を、郵便局ネットワークを通じて他の地域及び海外に向けて発信することにより、地域の情報発信能力を高め、個性ある地域文化の振興や地域のアイデンティティの確立に資することが期待できる。

 イ 地域の特産品等の全国流通
 郵便局は情報・物流・金融の総合的ネットワークを通じて、全国に対し地域の特産品等に関する情報を提供し、またその産品を配達し、さらに資金決済の手段を一体として提供することにより、各地の地域産業を支援し、地域経済の活性化を支援していくことが求められる。
 現在も、地域の特産品8,600品目をふるさと小包により提供しているが、対象品目の充実とともに、特産品に関する情報提供や資金決済方法の一体化・高度化を更に検討していくべきである。

 ウ 国際交流への参画
 郵便局は地域社会に根ざした存在であり、地域社会で行われる国際交流事業に対しても、積極的に参加することが望まれる。
 例えば、現在我が国において世界各地の都市と国際姉妹・友好都市を締結している都市が 1,211都市あり、今後、さらに拡大することが予想される。こうした姉妹・友好都市にある郵便局同士が「姉妹郵便局」となることにより、国際文通の斡旋や普及活動、相互の特産物の通信販売等、地域の国際交流の促進を支援することが考えられる(資料67)。
 この他、郵便局舎のコミュニティスペースを国際交流関係のパーティ、バザー、教室及びセミナー等に開放することも可能である。
 また、地域の国際交流の活性化のためには、外国人が暮らしやすい地域である必要があり、郵便局においても外国人にやさしいサービス・設備・施設の充実に一層努めるべきである(資料68)。




3 地域の生活・交流基盤の整備

(1) 地域の生活・交流基盤

 ア 整備の必要
 21世紀に向けて豊かで活力ある地域社会を構築していくためには、地域の生活及び交流の基盤となる社会資本の整備が必要であるが、欧米諸国と比べてその整備は今なお立ち遅れており、人々が我が国の経済力に見合った豊かさを実感できない要因の一つとなっている。例えば、我が国の下水道普及率は51%で、米国の7割、英国の半分に過ぎない。
 また、少子・高齢化が進展する地域社会では、高齢者や子育てにやさしい生活空間とする必要があり、公共施設・歩道・公共交通機関のバリアフリー化、介護・福祉・保育施設の充実、高齢者の自立・介護に配慮した住宅建設など、安心して生活できるまちづくりに資する社会資本整備の充実が必要である。

 イ 社会資本整備財源
 社会資本整備の財源として、各々の社会資本の性格に応じ、税金、民間資金や、財政投融資資金等の公的資金がある。
(ア) 税金
 このうち税金については、我が国の厳しい財政事情や、少子・高齢化の進展を考えれば、国民負担の過度の増加を抑制する必要があることから、税金を財源とする社会資本整備の拡大には一定の限界があると言わざるを得ない。

(イ) 民間資金
 社会資本の中には一定の収益性を伴うものもあり、このような分野は有償資金の活用により整備可能であることから、民間資金の活用を促すことも有効である。
 しかしながら、民間資金は中短期性の資金が多いため、プロジェクトが大規模かつ長期で、事業リスクが大きいもの、またはいわゆる外部性が強いものについては、単に市場メカニズムに委ねたのでは十分な資金が供給されない可能性が高い。
 このような社会資本の整備には、長期、固定かつ低コストの有償資金が財源として求められており、民間資金の活用には限界がある。

(ウ) 公的資金の役割
 このため、今後の社会資本整備において、一定の収益性は伴うが、リスクや政策性が高く民間資金になじみにくい分野については、長期、固定かつ低コストの有償資金である公的資金を財源として活用していくことが考えられる(図15)。
 社会資本整備への公的資金の活用は、租税負担率の上昇を抑制する一方、コスト意識を働かせながら必要な整備を効果的・効率的に行うことにも資する。

【残存期間別貸付残高の比較(平成7年度末)】(図15)


注1:都銀、長信銀、信託銀行(銀行勘定)の残存期間1年以下の貸付金については、
変動金利、固定金利の区別をしていない。
注2:都銀、長信銀、信託の残存期間1年以下の貸付金には、「期間の定めのないもの」
を含む(それぞれの全貸付金に占める割合は都銀17.6%、長信銀3.2%、信託12.0%)。
注3:資金運用部の7年超の貸付けのうち、7年超10年以下は443,578億円(16.0%)、
10年超15年以下が452,462億円(16.4%)、
15年超については1,009,951億円(36.5%)である。
資料:「財投リポート’96」、「有価証券報告書」により作成

(2) 地域基盤づくりの支援−郵便局資金の活用

 ア 郵便局資金の性格
(ア)社会資本整備の財源としての適性
 a 郵便局資金は、国民から信託された公共性の高い資金であり、公共目的に使用するインセンティブがある。また、郵便局資金のうち、貯金資金は残高の87%を長期型商品である定額貯金が占めており、保険資金も契約者が長期間にわたって支払う保険料により構成されている。このため、郵便局資金は、長期・固定金利の資金を安定的に供給するための財源として、民間資金と比較して適性がある。

 b 平成6年度における貯金の経費率は0.49%、政府系金融機関の経費率0.26%、これらを合計した公的金融全体の経費率も0.75%と、全国銀行平均の経費率1.39%に比べ低くなっている(図16)。保険においても、その事業費率は 4.3%と、民間生命保険平均の事業費率13.8%に比べかなり低い。
 このように、郵便局資金は、民間資金と比べて、経費率が低く、低コスト資金であることから、長期・固定の資金を必要とする社会資本整備財源として、比較優位をもった資金であると言うことができる。

【公的金融と銀行の経費率(平成6年度)】(図16)


注1:公的金融の経費率には、上記の他に資金運用部の経費率(0.0014%)がプラスされる。
注2:都市銀行、地方銀行、第二地方銀行の経費率算出の際の分母(資金量)には、預金、譲渡性預金、債券の他、コールマネーが含まれている。
資料:「財投リポート’96」(大蔵省理財局)

(イ) 地域基盤の整備財源としての適性
 郵便局の資金は、全国津々浦々の郵便局で個人から預けられ、払い込まれた貯金及び保険料から成っており、その資金が地域の生活に密着した社会資本の整備等に活用されれば、地域の預金者又は加入者の利益に資することにもなる。
 したがって、郵便局資金は、地域基盤の整備の主体となる地方公共団体に直接融資すること等により、地域の生活・交流基盤の整備に活用されることが適切と考える。このことは、郵便局の地域密着性、公共性を担保する観点からも望ましい。

 イ 財政投融資の見直しとの関係
 財政投融資については、現在、資金運用審議会懇談会において、本格的な検討・研究が行われている。財政投融資については、政策的必要性が認められ、有償資金の配分にふさわしい分野に限定して活用されるべきであり、今後、資金需要が見込まれない、あるいは、民間資金でも対応が可能な分野については、思い切ったスリム化を図った上で、対象範囲を常に見直していくことが重要であると考えるが、本審議会においては、財政投融資と郵便局資金との関わりについて指摘したい。
 郵便局の貯金・保険の本来の目的は、全国あまねく公平に自助支援サービスを提供することにあり、財政投融資の資金調達を目的とするものではないが、郵便局資金は、長期・固定・低コストの資金であり、社会資本整備への資金供給源としてふさわしい性格を備えている。
 財政投融資は郵便局資金と社会資本整備等をつなぐプロセスであり、現在、検討が行われている財政投融資の見直しに柔軟に対応して、郵便局資金の一部は、真に必要な社会資本整備等に資金供給していくことが適切である(資料69)。

 ウ 郵便局資金の運用の在り方
 郵便局資金の運用にあたっては、利用者利益・健全経営の確保や真に必要な社会資本整備の資金需要に対応し、公共運用と市場運用のバランスをとった資金運用を行うことが必要である。このため、一層のALM(Asset and liability Management:資産負債管理)の充実を図るなど資金運用体制・能力を一層強化していく必要がある。

(ア) 公共運用
 郵便局資金は長期、低コスト等といった特長を有していることから、長期資金を必要とする社会資本整備等にふさわしいと考えられる。特に、地方公共団体が行う地域の基盤整備については、郵便局資金が全国津々浦々から集められた資金であり、預金者・加入者の身近な社会資本整備に資金を活用するという観点から、地方公共団体への直接融資や地方債の直接引受けを行い、資金を還元していくことが適当と考えられる。

(イ) 市場運用
 市場運用にあたっては、預金者・加入者から預けられた貯金・保険金等を確実に支払い、また、事業経営の健全性を確保することに十分、配意して、できるだけ確実・有利に行う必要がある。
 また、日本版ビッグバンの進展により期待される市場の成長に対応して、運用規模・運用対象や運用手法の一層の充実を図っていくことが必要であり、このことが東京の資本市場の一層の発展に寄与することも期待される。 

 また、現在の郵便貯金資金の自主運用の仕組みについては、自主運用の目的により合致したものとなるよう、見直しを検討していく必要があろう。

 エ 財政投融資システムにおける一層の情報開示の必要性
 財政投融資計画は、原資ごとに予算の一部として国会で審議・議決されている。資金運用部において平成7年度よりディスクロージャー冊子を作成・公表するなど、関係の機関では情報開示に努めているが、財投制度が性格の異なる多数の財投機関で構成されるなど、その複雑さ等のため、従来から財政投融資制度は不透明でわかりにくいとの指摘がある。財政投融資システムの中で、国民利用者のお金である郵便局資金が運用されており、国民利用者に対しても、財政投融資制度の透明性、運営の妥当性を確保しておく必要がある。
 したがって、財政投融資制度の全般にわたり、情報公開を徹底する必要がある(資料71、72)。
 また、郵便局資金運用の情報公開については、事業の現況を国民に理解していただく上で重要であり、運用状況を国民により分かりやすい形で提供するよう、ディスクロージャーを徹底すべきである。