ケーブルテレビの高度化の方策及びこれに伴う
今後のケーブルテレビのあるべき姿
−平成22年のケーブルテレビ−
(平成11年5月31日答申)
答申概要
序 章
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ケーブルテレビは、ハード面では双方向、高速・大容量伝送、常時接続・低廉な料金という長所を有するに至っており、従来からの生活に根差した地域密着型番組の提供というソフト面での長所と合わせ、飛躍の時を迎えようとしている。日常生活に深く溶け込んだ情報通信インフラであるケーブルテレビを活用して豊かな国民生活を実現するために、ケーブルテレビのネットワークを高度化させることが必要な時期にある。
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本答申は、このような認識を背景とし、21世紀初期におけるケーブルテレビのあるべき姿と、そこへ至るためのケーブルテレビの高度化のための方策を取りまとめたものである。
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第1章 ケーブルテレビを取り巻く環境の変化
○ ケーブルテレビは、制度や技術の変遷等、時代や社会環境の変化とともにその機能・役割を変化させながら、社会のニーズに対応し、様々なサービスを提供してきた。これを規模・機能別に分類すると以下の7つの類型に区別できる。
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・ MSO型(Multiple System Operator:多施設所有事業者)
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都市部を中心に1事業者が複数の施設を保有・運営する株式会社形態のもの。広帯域の施設が多く、チャンネル数も多い。多チャンネル放送の他に双方向通信サービスの提供が可能。比較的大規模な施設が多い。
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・市街地通信可能型
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都市部を中心に地元民間資本により設立。1事業者1施設が一般的。第三セクター方式が多い。広帯域の施設も多く、双方向通信サービスの提供が可能。比較的大規模な施設が多く、コミュニティチャンネルが充実。
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・市街地通信不可能型
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都市部を中心に地元民間資本により設立。1事業者1施設が一般的。難視聴対策施設を高度化させたものが多く、世帯普及率は極めて高い。広帯域化はそれほど進んでおらず、双方向通信サービスを提供することは困難な施設が多い。中規模の施設が多い。
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・農村型
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農村部で辺地難視聴対策施設を高度化したものが多い。非営利が多い。伝送路は450MHzどまりであり、チャンネル数も多くない。中規模施設が多く、光ファイバ化や通信サービスの提供は一部で行われている。
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・都市難視聴対策型
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都市部において受信障害対策のために設置。専ら地上波テレビ放送の再送信業務を行っており、双方向通信サービスはほぼ不可能。小規模施設が大半だが、中規模以上の施設も一部存在。
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・辺地難視聴対策型
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辺地等において難視聴解消のために設置。非営利のものが大半。専ら地上波テレビ放送の再送信業務を行っており、双方向通信サービスを提供することは不可能。小規模施設が大半。
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・集合住宅型
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マンション等の集合住宅の居住者の共同受信設備。基本構造は他のケーブルテレビ施設と同様。小規模なものが多い。
○ ケーブルテレビは「地域メディア」としてのソフトの面と「高度情報通信インフラ」としてのハードの面とのバランスをとりながら自らを高度化させることが重要。
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7つの類型ごとに今後の高度化等の方策を検討し、特に可能なものについては類型別にビジネスモデルやビジネススキームを策定することが望ましい。
第2章 デジタル放送時代におけるケーブルテレビの在り方
○ 伝送路の効率的利用、デジタル放送の再送信、パソコンとの親和性といった「伝送デジタル化」とともに、番組制作効率の向上や視聴者による素材提供に基づく多様な番組制作という観点から「制作のデジタル化」が必要であり、ケーブルテレビはどちらのデジタル化にも積極的に取り組む必要がある。
○ MSO型や市街地通信可能型については、単独でのデジタル化が可能なところもあるが、デジタル化のための設備投資は相当大きな負担。地域の情報通信基盤整備の観点からも、デジタル化の意欲・能力のある事業者に対して投資負担を軽減するための支援策を検討する必要がある。
○ 市街地通信不可能型や農村型が高機能化を図るためには、施設のデジタル化に加え、広帯域化を併せて実施する必要があり、単独でデジタル化に対応することは、経済的に困難で、事業者間の合従連衡による規模拡大等を志向することが必要。事業者間の合従連衡が進みやすい環境を整備することが必要で、特に地理的に隔絶している農村型にあっては合従連衡に対する都道府県の参画・支援が重要。
○ 都市難視聴対策型については、地上テレビでのサイマル放送期間中は従来どおりの役割を担うが、サイマル放送終了に伴いその役割は終了するものが多いと見込まれ、その区域におけるサービスは、MSO型や市街地通信可能型等が提供していく可能性が高い。サイマル放送終了時期までに、このような事情についての周知活動や、代替を促進するための支援策が必要。辺地難視聴についてはサイマル放送期間中は従来どおりの役割を担うが、地上デジタル放送の普及状況を踏まえ、必要に応じ支援策や代替措置等について検討する必要がある。
○ 集合住宅型がデジタル放送を受信するには大規模施設に接続するかパススルー方式(手を加えないでそのまま再送信すること)による対応が必要。集合住宅において放送の多メディア化に対応した棟内配線システムを導入する必要があり、集合住宅の建設時に情報通信用の配管を施工すること等を検討することが望ましい。
○ デジタル化にあたり投資負担を軽減するためには、局間を接続してネットワーク化し、デジタルヘッドエンド(番組送出装置)を共用することも選択肢の一つとして考えられる。行政としても合従連衡を促進する制度的な仕組みや複数のケーブルテレビで共用するデジタルヘッドエンド設置やセンター間を接続する光ファイバ網の整備を促進するための支援措置の創設を講ずるなど合従連衡がスムーズに進展しやすい環境を整備することが望ましい。
第3章 今後のケーブルテレビ高度化の在り方
○ 情報通信分野の技術革新によりネットワークの機能は著しく高まりつつあり、「トータルデジタルネットワーク」に向け進化している。ケーブルテレビのネットワークを高度化する場合にあっても、長期的にはこのようなネットワークに進化することを十分に念頭に置き、他の放送メディアや通信事業とのインタフェースも整備しつつ、タイムリーかつ重点的投資を行わなければならない。
○ 近年の情報通信分野における急速な技術革新により、従来のケーブルテレビ制度が全く想定していなかった社会実態が出現しつつある。これらは、いわば情報通信分野における技術革新の成果であり、現行制度の枠組みに無理やり押し込めるのではなく、むしろ現行制度をこれらの成果を許容できるような柔軟なものに改めるべく、規制の合理化・緩和を進めることを基本とすることが望ましい。
○ ケーブルテレビ事業者が無線を柔軟に補完利用してサービス提供できるよう制度化することを検討する必要がある。その検討に当たっては放送関係の法体系全体に配慮する必要がある。
○ 有線テレビジョン放送事業者(以下「事業者」)と有線テレビジョン放送施設者(以下「施設者」)との関係についても柔軟な制度の導入を前提として見直しを検討する必要がある。例えば事業者と施設者を完全分離し、現行の単独事業者や事業者・施設者兼営に加えて、伝送路を事業者の番組伝送に利用させることを主な業務とする単独施設者(例:共用デジタルヘッドエンドの運営組織等)など、自らの意思で地域の実情に合った業務を自由に選択できるよう制度上措置することについて検討することが望ましい。
第4章 提言
○ 今後、ケーブルテレビが、地域メディアとして一層その機能を発揮するとともに、21世紀の高度情報通信インフラに成長するためには、以下の事項をはじめとして関係者が協力して早急に取り組むことが必要である。
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ア 一般的政策事項
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・ ケーブルテレビ未整備地域へのケーブルテレビ整備や、既存ケーブルテレビ施設の広帯域化や光ファイバ化に対する支援の拡充に加え、ケーブルテレビ局間をネットワーク化してヘッドエンドを共用化することに対する補助事業に係る予算枠の確保・拡大
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・ ケーブルテレビ事業者の合併を促進するための支援措置の創設等の環境整備
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・ 地域情報番組ソフトの制作・流通の活性化や、視聴者参加型番組の流通、及びテレビ受像機以外の情報家電と連携した高度なサービスの提供を促進するための政策的支援
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・ 今後ケーブルテレビ施設の広帯域化、光ファイバ化及びデジタル化を行う際の、施設の規模・機能に応じた具体的ビジネスモデルの提示(特に、新しい収入等具体的な投資メリット)
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・ ケーブルテレビの普及のための関係省庁の連携促進
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イ 制度的事項
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・ デジタル放送に伴う「放送の再送信」の定義の整理(変調方式の変更等はどこまでを再送信の枠内と認識するか。)
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・ 電気通信回線を利用したマルチキャスト方式による映像配信サービスの位置付けの整理
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ウ 技術的事項
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・ 地上デジタル放送の伝送方式であるOFDMをケーブルテレビでパススルーすることの可能性についての技術的検証
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・ BSデジタル放送をケーブルテレビで効率的に再送信するための、 64QAM方式における複数トランスポートストリーム伝送方式や、 256QAM方式等、より高度な伝送方式の開発・検討
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・ 売り切り制の導入を可能とするケーブルモデムや、情報家電との親和性を視野に入れた家庭用デジタル放送端末(セットトップボックス)の規格の標準化
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・ 全放送メディアの伝送データをケーブルテレビで共通化し、統合的に伝送するためのシステム開発
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・ 無線ケーブルシステムの開発
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・ オペレーターとメーカーの参画による、機器の標準化や認証を行う専門機関(日本版ケーブルラボ)の設置
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エ 事業者の取組に期待する事項
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・ 伝送容量を拡大し、デジタル放送の再送信チャンネルや双方向サービスにおける上り信号用のチャンネルを確保するための、既存の450MHz施設の770MHz程度への広帯域化の促進
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・ 伝送容量や通信品質を改善し、多チャンネルサービスや通信サービスを可能とするための、既存のケーブルテレビ施設の幹線の光ファイバ化の促進
○ さらに、以下の事項について今後別途検討の場を設け、更に検討を進める必要がある。
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・ 再送信制度の見直し
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・ ケーブルテレビ施設における無線の有効な補完的利用に向けた制度整備
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・ ケーブルテレビ事業に係るハード・ソフト規制の見直し(単独施設者の制度化)
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○ 今後のケーブルテレビのあるべき姿についての指針として、2005年及び2010年においては、以下の事項が達成されていることが望ましい。これらが達成されることを目標として、必要な制度の見直しや支援策の充実を講じることが特に行政に対して求められる。
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(1) 2005年のケーブルテレビ
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・ 自主放送ケーブルテレビ施設の幹線の光ファイバ率ほぼ100%
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・ ほぼ全ての自主放送ケーブルテレビ施設が伝送容量770MHz程度の施設に広帯域化
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・ ほぼ全ての自主放送ケーブルテレビが、IPベースの双方向サービス(ケーブルインターネット等)を提供
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・ 公正有効競争条件の確保の下、映像配信分野におけるケーブルテレビ事業と電気通信事業との競争本格化
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(2) 2010年のケーブルテレビ
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・ 難視聴対策施設の役割が終了し、自主放送ケーブルテレビ施設が映像配信サービスを代替(一部の難視聴対策施設のグレードアップを含む。)
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・ ほぼ全てのケーブルテレビがフルデジタル化
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・ ケーブルテレビ局間のネットワーク化が完成し、ほぼ全てのケーブルテレビが複数市区町村を単位としてグループ化
序章
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21世紀を目前にして、我が国社会の情報化が加速している。日々の暮らしに必要な様々な電化製品には小さなコンピュータが組み込まれ、よりよい暮らしを演出する「情報家電」へと変貌しつつある。
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今後、情報家電は更に進化し、単体で機能するものから家庭の中の情報ネットワークに接続して一元的な管理が可能な機械へと変化していくものと予想される。これにより、例えば、天気予報で日中の気温上昇が見込まれると、その情報に対応して冷蔵庫の温度が低めに自動調整されたりすることが可能となる。これら情報家電と家庭内情報ネットワークを接続して情報を自由にやりとりするためのキーワードが「デジタル」である。家電を含めた社会全体の情報化が進展しているが、これは社会の様々な活動がデジタル信号を用いることによって高度に機能するという「デジタル社会」がもはや現実のものになりつつあることを物語っているといえよう。
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放送が、これからの視聴者の期待に的確に対応し生成発展を遂げるには、このデジタル社会に自らを適合させることが必要である。放送のデジタル化により有限な資源である電波の効率的利用がなされ、視聴者は専門分野別にきめ細かく編成された多種多様な放送番組を楽しめるようになるし、高画質・高音質の番組を視聴したり、デジタルデータ放送による高機能なサービスも利用できるようになる。さらに、放送をデジタル化することで、放送とインターネットやパソコンとの親和性が格段に高まり、それによりテレビを家庭内ネットワークに接続して他の情報家電と連携した高度なサービスを提供することができ、生活の充実や多様な文化の創造に寄与できるようになろう。平成10年11月9日に決定された高度情報社会推進本部の基本方針において「放送のデジタル化はサービスの多様化、高度化、電波の利用効率の向上をもたらすとともに大きな経済波及効果が期待されることから、全放送メディアのデジタル化を積極的に推進する」とされているように、これから国を挙げて取り組むべき重要な課題なのである。
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「デジタル社会にいかに適合したメディアに自らを進化させるか。」これは現在のケーブルテレビにも問われている課題である。40年以上前、山間部における地上放送の難視聴対策用に産声を上げた我が国のケーブルテレビであるが、ハード面では双方向、高速・大容量伝送、常時接続・低廉な料金という長所を有するに至っており、従来からの生活に根差した地域密着型番組の提供というソフト面での長所と合わせ、飛躍の時を迎えようとしている。デジタル技術を活用すれば、ケーブルテレビは地域生活に不可欠な映像等の情報を個人や各家庭のニーズに応じてきめ細かく、かつ経済的に提供することが可能となるのである。平成11年1月29日に閣議決定された「産業再生計画」において「ケーブルテレビの普及・高度化を推進する」とされているように、日常生活に深く溶け込んだ情報通信インフラであるケーブルテレビを活用して豊かな国民生活を実現するために、ケーブルテレビのネットワークを高度化させることが必要な時期にあるのである。
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本答申はこのような認識を背景とし、デジタル社会が実現する21世紀初期におけるケーブルテレビのあるべき姿と、そこへ至るためのケーブルテレビの高度化のための方策を取りまとめたものである。
第1章 ケーブルテレビを取り巻く環境の変化
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1 ケーブルテレビ発展の歴史
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我が国でケーブルテレビが誕生したのは、テレビ放送が開始されてから2年後の昭和30年である。その後テレビ放送の普及とともに、ケーブルテレビは辺地における共同受信施設として設置が進み、また、昭和38年の建築基準法改正により建築物の高層化が進展してからは、建築物を原因として発生した難視聴の解消のために都市部においても設置されるようになった。我が国のケーブルテレビの端緒は都市・辺地を問わずテレビ放送の難視聴解消を目的とした再送信メディアであり、地上放送の補完的メディアとして発達してきたと言えるのである。「単純再送信時代」と呼ぶことができよう。
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昭和40年代には、地域における映像情報に対する要望に応えるため、再送信用ケーブルテレビ施設の空きチャンネルを利用して地域情報を自ら放送するコミュニティ・チャンネルが、主に地方都市において登場し、ケーブルテレビは地域情報を提供する独自のメディアとしての機能を備え始めた。このような中、昭和47年にはケーブルテレビを律する有線テレビジョン放送法が制定され、ケーブルテレビは制度的にも社会的地位を確立したのである。「自主放送開始時代」といえるのである。
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その後、「多メディア・多チャンネル化時代」が到来した。昭和50年代後半には、技術革新の成果としてケーブルテレビの多チャンネル化・双方向化が可能となり、大都市圏を中心に施設の大規模化・多チャンネル化が進展してきた。また、従来からの地上放送に加え、昭和59年に開始された放送衛星(BS)を用いたBS放送の再送信も行われるようになった。そして平成元年には、通信衛星(CS)を用いて映像番組をヘッドエンドに配信するスペース・ケーブルネットが開始され、その後CS放送の再送信が行われるようになった。地上波に加えBSやCSの衛星放送の番組を新たに再送信することにより、多様な視聴者ニーズに応えられるようになり、「地上放送と若干のコミュニティ番組だけがケーブルテレビ」という時代は終了し、多彩で多様なメディアとしての地位を確立するに至ったのである。
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平成5年度以降は、規制緩和政策により地元事業者要件(ケーブルテレビ施設の設置許可の際の条件として、地元に活動の基盤を有する者が経営母体となることを求めること)が廃止され、事業者が広域的に事業展開を行うことが可能となり、外資と提携して複数施設を保有・運営するMSO(複数施設保有者)が出現する一方、複数行政区をサービス区域とする事業者も増加し、ケーブルテレビ事業の広域化が進展した。「全国展開型開始時代」といえよう。
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さらに、情報通信技術の発展に基づく近年の伝送路特性を生かし、ケーブルテレビのネットワークを活用してインターネット接続などの通信サービスを展開する事業者も増加し、今や従来からの映像メディアとしての機能とともにケーブルテレビの重要な機能となりつつある。現在は、「フルサービス化時代」なのである。
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このように、技術や社会の変化に対応しながら、現在では専門情報などの良質で魅力ある多チャンネル放送番組の提供に加え、生活に密着した地域映像メディアとして、また、高速インターネット接続等の通信サービスを行う大きな可能性を持った地域の情報通信基盤として、深く地域社会・国民生活に定着し、加入世帯数はここ数年毎年30%程度の急速な伸びを示すように大きく成長してきている。
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そして、今デジタル化の大きな潮流の中、更にその姿を大きく変えようとしているのである。
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2 ケーブルテレビの機能分化
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前述のとおり、ケーブルテレビは、制度や技術の変遷等、時代や社会環境の変化とともにその機能・役割を変化させながら、社会のニーズに対応し、さまざまなサービスを提供してきた。
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その結果、ケーブルテレビはそれぞれの特性に応じて規模・機能が分化した。例えば難視聴地域において地上波テレビ放送の再送信業務のみを行うケーブルテレビ施設では、多チャンネル伝送が不要なため増幅器(伝送路によって減衰した信号を増幅し、伝送経路を長くする装置)はそれほど高機能ではない低価格のもので足り、また、番組送信側にスタジオ等の番組制作関係の設備を必要としない場合が多い。
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一方、地域情報や専門番組を自主放送番組として行う施設では、大容量の多チャンネル放送を伝送する必要から増幅器はより高価・高機能のものが使用され、送信側には本格的なスタジオ設備を設置し、さらに受信側の各家庭には映像信号をテレビ受信機で受信できるよう信号変換するための端末(ホームターミナル)が置かれるのが一般的である。
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また、近年の情報通信技術の発展により、双方向通信サービスを提供するケーブルテレビネットワークが普及してきているが、従来の施設は下り(局側から家庭方向)の信号のみを増幅する機能の増幅器が設置されていたのに対し、このタイプでは、双方向の信号を増幅する増幅器が設置されている。これに加え、送信側・受信側にそれぞれ通信用機材が設置されているし、また、近年設置された施設では伝送路の主要幹線部分も光ファイバ化しているものも多い。これらの装置を装備したケーブルテレビ施設とそうでない施設との間にはその機能において相当の差が出てきている。また、ケーブルテレビ施設が設置される地域により伝送路の全体の長さ等も千差万別である。
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このように多様なケーブルテレビの施設であるにもかかわらず、これまでは全てを包括して「ケーブルテレビ」と呼称されることが多く、自主放送を行うケーブルテレビとそれ以外のケーブルテレビに分類される程度であった。しかし、このような把握方法は、地域の映像ソフト・メディアとしての役割を求められているものか否か、放送と通信のサービスを統合的に提供できる情報通信インフラであるか否かという最近のケーブルテレビに求められる要件を十分に認識したものとはいいがたく、特に今後のデジタル化等高度化への対応の仕方についてはタイプ毎に相当の差があることから、必ずしも適切ではない。
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したがって、事業者が今後その施設を高度化する際に最も配慮すべき「施設の新旧」や「事業規模」といった要素や、視聴者が利用する際に考慮する「自主放送の有無」のように基準に従い、現在の「ケーブルテレビ」の概念を特徴毎にできるだけ詳細に分けて把握し議論を行うことが必要である。
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そこで、今後のケーブルテレビの高度化を議論するにあたり、以下のとおり特徴毎にケーブルテレビを大きく類型化することとする。
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○ MSO型
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都市部を中心に、商社、外国資本等の合弁により設立されたもので、1の事業者が複数の施設を保有・運営する営利目的の株式会社形態のものである。幹線部分を光ファイバ化した広帯域の施設が多く、チャンネル数40チャンネル以上のものも多い。米国のケーブルテレビの影響を強く受け、自主放送番組にそれほど力を入れておらず、スタジオも小規模なものが多い。また、ほとんどが多チャンネル放送の他に双方向通信サービスの提供が可能で、第一種電気通信事業の許可を受け通信サービスを提供しているものも多い。1施設あたりの端子数数万以上、対象世帯数は10万以上という大規模な施設も多い。
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○ 市街地通信可能型
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都市部を中心に、主に地元民間資本により地域毎に設立されたもので、1事業者が1施設を保有・運営するのが一般的である。営利目的の株式会社で、地方自治体から出資を受けた第3セクター方式の経営形態が多い。近年設置されたため、幹線を光ファイバ化した広帯域の施設も多くあり、また、多チャンネル放送の他に双方向通信サービスの提供が可能で、わずかな追加投資により、第一種電気通信事業の許可を受けインターネットのサービスを提供しているものも多い。端子数・対象世帯数は1施設あたり数万以上であり、また、新しい設備のため平均37チャンネルとチャンネル数は多いが、反面、営業年数が短いため現在のところは経営の苦しいところが多い。地域の映像流通基盤・通信インフラとして位置付けられており、特にコミュニティチャンネルが充実しているのが特徴である。
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○ 市街地通信不可能型
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都市部を中心に、主に地元民間資本により地域毎に設立されたもので、1事業者が1施設を保有・運営するのが一般的である営利目的の株式会社の形態のものが多い。難視聴対策を目的としたものから施設を高度化させたものが多く、その発生経緯から当然のことであるが、該当地域のほとんどの家庭が加入しており、世帯普及率は極めて高いのが一般である。多チャンネル放送を行っているが幹線部分の光ファイバ化・広帯域化はそれほど進んでおらず、双方向通信サービスを提供することは困難な施設が多い。端子数・対象世帯数は1施設あたり五千から数万以下の中規模の施設が多い。年数が経過していることもあり、経営状態は悪くなく、累積黒字のものが多く、中には株式配当しているものもある。反面、設備が老朽化したものも多く、今後のデジタル化などに対応する場合、一般的にはかなり大掛かりな設備更改が必要である。
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○ 農村型
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不採算地域が多い農村部に設立されたもので、農林水産省の構造改善事業による農村における情報化事業の一環として、従来からの辺地難視聴対策施設を高度化したものが多い。これまでの三類型については株式会社が市場原理に基づき運営しているものが多いが、本類型は営利目的のものが少なく、経営形態はほとんどが地方自治体、一部が第3セクターの経営である。伝送路は450MHzどまりであり、チャンネル数も平均16チャンネルと多くない。1施設の端子数・対象世帯数も2,000から1万程度の中規模施設が多く、光ファイバ化や通信サービスの提供は一部で行われている。
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○ 都市難視聴対策型
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都市部においてビル影等によるテレビ放送の受信障害対策のために設置されたタイプのものである。従来正常に受信されていた地上テレビ放送の映りが高層建築物の建設により悪化した場合に、原因者が現状復帰することを目的として設置したものであるため、専ら地上波テレビ放送の再送信業務だけを行っており、ネットワーク全てが同軸ケーブルで地上放送を10番組弱だけ再送信する狭帯域の施設がほとんどである。上記4類型が自主放送を行うのに対し、本類型では行わない。原因者が最初に施設を整備し、20年程度の維持管理費を前渡して補償を打ち切るのが一般的である。設置目的からして非営利のものが多く、経営形態は組合運営などが多数で、自治体や第3セクターの運営比率は非常に低い。古い施設が多く、許可施設の平均営業年数が約14年である。光ファイバ化はほとんどなされておらず、双方向通信サービスを提供することはほぼ不可能である。端子数・対象世帯数は500以下の小規模施設が大半であるが、中規模以上の施設も一部存在し、これら施設については高度化方策も検討されている。
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○ 辺地難視聴対策型
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山陰等自然の地形が原因となりテレビ放送電波の届かない辺地等において難視聴解消のために設置されたタイプのもので、非営利のものが大半である。自主放送は行っておらず、専ら地上波テレビ放送の再送信業務だけを行っており、全同軸のケーブルで地上放送を10番組弱再送信する狭帯域の施設がほとんどである。古い施設が多く、双方向通信サービスを提供することは不可能である。端子数・対象世帯数は100以下の小規模施設が大半である。
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○ 集合住宅型
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マンション等の集合住宅の居住者の共同受信設備として設置された形態。1のアンテナから複数の家庭に受信した放送を送信するため、信号を途中で増幅しているという基本構造は他のケーブルテレビ施設と同様であるため、ケーブルテレビの一類型として定義するものの、性質上、許可や届け出の対象外の小規模なものが多く、正確な実態は不明である。
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3 情報通信革命の進展
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(1) デジタル放送時代の到来
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今後のケーブルテレビの在るべき姿を考える場合に最も考慮すべき大きなファクターは、「デジタル放送時代がほどなく到来し、これにケーブルテレビも対応していかなければならない」ということである。
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現在既に、高度情報通信社会の到来を控え、放送メディアはデジタル放送システムへと移行しつつある。デジタル化をすると、
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1)地上放送でもゴーストのないハイビジョンが視聴可能
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2)列車や自動車の中でも画面がぶれないテレビが視聴可能
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3)字幕放送の充実等、高齢者や障害者に優しいサービスの充実
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4)専門番組等チャンネルの多様化の実現
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5)通信のネットワークとの組み合わせにより、家庭にいながら番組への参加が可能
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など多くのメリットが視聴者にもたらされる。
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このデジタル化については、既に平成8年6月にはCSデジタル放送が開始され、現在テレビジョン放送で300番組以上の主として専門的な内容の番組などが提供されており、加入契約件数も100万件を超えている。また、2000年12月からはBSデジタル放送が高精細度テレビジョン放送(HDTV)を中心として開始される予定であり、チャンネル数の増大が見込まれ、国民生活の充実や多様な文化の創造等に今以上の大きな役割を果たすことが期待されている。さらに、2003年までに地上デジタル放送も一部地域で開始されることが想定されており、放送メディアのデジタル化は今後一層進展するものと考えられる。
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ケーブルテレビを巡る環境のうちここ数年で最も大きく変化するのが、このように放送界全体がデジタル化することである。
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(2) フルサービスの進展
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電話線と同じように銅を材質としているにもかかわらず、従来、ケーブルテレビは「上り流合雑音」が多いため、上り信号を伝送して双方向サービスを行うことが困難であった。ところが、引込線等のシールド化、未利用端子へのカットフィルターの挿入、更に幹線部分を光ファイバ化し途中で同軸ケーブルに変換する「光同軸ハイブリッド方式」の導入などにより雑音は少なくなり、ケーブルテレビの伝送路を活用した通信サービスの提供が可能となった。従来からの多チャンネルの放送サービスに新しく通信サービスを加えた「フルサービス」は平成5年に試験導入されたが、第一種電気通信事業の許可を得ているケーブルテレビ事業者は76事業者(平成11年5月18日現在)に及び、うち56事業者が事業を開始しているように、このフルサービスを行うケーブルテレビは急速に増加している。
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特に、交換機などと異なりセンター側の設備投資がルーターなどの比較的小さいもので済み、また、電話サービスに比べケーブルテレビのネットワークの長所である高速性や経済性を最大限活用することが可能であるため、ケーブルインターネットを実施する事業者が近年は増加している。計画中のものを含めインターネット接続サービスを提供する事業者は64事業者で、うち48事業者が事業を開始済みである。また、インターネット接続サービスを自ら行うのではなく、これを行う第二種電気通信事業者に専用線サービスを提供するものは12事業者で、うち7事業者が事業を開始している。このように、現在のケーブルテレビはインターネットを利用するための高速インフラという側面を有し始めているのである。
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また、平成10年6月には、ネットワーク構築方法の多様化確保のため、自らネットワークを構築する方法に加え、電気通信事業者の加入者系光ファイバ網を活用したケーブルテレビ事業について、自らケーブルを敷設するケーブルテレビ事業者との公正有効競争が確保されることを前提として導入する際の制度整備が行われた。ケーブルテレビのツリー型ネットワークと通信事業者のPDS(パッシブダブルスター)型ネットワークの構築費用に相当の差があることなどの理由により、通信事業者のネットワーク利用は初期投資負担が軽くても長期的に見ると自前でネットワークを構築する方が有利なため、それほど利用は進んでいない。しかし、技術的に電気通信事業者の回線がケーブルテレビ事業に利用することが可能になったということは、放送ネットワークと通信ネットワークが近似化してきたことの証左といえよう。
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一方、IP(インターネット・プロトコル)によるマルチキャスト技術等の進展により、既存の通信ネットワークを利用して不特定多数に映像情報を提供することが技術的に容易となり、既に事業化が見込まれている。今後、パソコンの処理能力や回線の高速化が一層進展し、現在のテレビ画面と見た目が全く変わらないようなインターネット利用が出現すると見込まれるなど、放送と通信の区別がいよいよつきにくくなろうとしている。
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このように、技術進歩を背景として、放送の分野においても通信の分野においても「双方向映像伝送」が可能になり、今後この傾向は一層加速されるものと予想される。
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4 今後のケーブルテレビに期待される役割
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ケーブルテレビには今後これまで以上に大きな期待が寄せられると考えられるが、その期待はソフトとハードの二つの面に大きく分けられる。
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まず、ソフトの面に対する期待であるが、ケーブルテレビは魅力ある専門番組を多チャンネルで放送することにより、視聴者の多種多様なニーズにきめ細かく対応することが可能である。今後、視聴者の嗜好は更に多様化・細分化されていくと考えられるが、ケーブルテレビはこれまで以上に多彩で良質な専門番組を視聴者に提供する媒体としての役割を期待されるようになると見込まれる。また、デジタルコンテンツの充実といった側面も期待される。
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さらに、現在、生活に密着した地域番組が定着しているが、コミュニティチャンネルは「ネットワーク上でのタウン・ミーティング」を可能とさせるサイバー版の「民主主義の学校」ともいえるものであり、地域コミュニティの活性化に大きな役割を果たしている。今後「地方分権の時代」を迎える中でコミュニティチャンネルに対する視聴者欲求はより強まり、ケーブルテレビを選択する上での大きな魅力となることも予想され、「地域における映像ソフトのキーパーソン」という役割は今まで以上に強く期待されるようになると考えられる。
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そして、今後はさらに地域情報拠点として、
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1) ケーブルテレビを活用した情報リテラシー教育(パソコン等の情報機器操作やホームページ等の情報制作など情報の活用に慣れ親しむための教育等)
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2) 遠隔医療や介護支援、災害情報等を提供するライフライン機能
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3) ビデオジャーナリズム(民生用ビデオカメラ等の簡便な機器を用いて一人が取材・撮影・編集を行い、既存のテレビ番組とは違った映像情報を視聴者に提供する活動)に基づく内外への情報発信機能
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4) 町のビデオ・アーカイブ(いわば映像図書館)
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などの役割を果たすことも期待される。
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今後、ケーブルテレビは広く普及し、それに伴い、「社会の公器」としての性格がより強まるので、公共的な役割の発揮も今まで以上に重要となる。例えば、米国ではケーブルテレビ事業者による公益活動として、CIC(ケーブル・イン・ザ・クラスルーム)活動を行っている。これは、全米の学校にケーブルテレビを接続し、無料で番組を提供して授業への活用を推進したり、ケーブルテレビによる小中学校への無料の高速インターネット接続を実施するものであり、米国におけるケーブルテレビ事業の公益性に対する社会認識の向上に貢献している。我が国においてもケーブルテレビの公益性を地域住民から認識される手段の一つとして、このような公益活動への積極的な取り組みも期待される。
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以上のようなソフトの観点とは別に、ハードの面での期待も大きい。ケーブルテレビはデジタル放送の提供が可能なことに加えて、21世紀のデジタル社会における通信・放送サービスを統合的に提供する基幹的な情報通信インフラとしての役割を果たすことも期待されているのである。情報通信技術の進歩により、例えば夜中に受信端末に蓄積した映像情報を高齢者が次の日の早朝に視聴できるといったサービスも技術的には提供可能となりつつある。一方、ケーブルインターネットの提供はこれまで多チャンネル放送サービスに関心の低かった一部の青年やビジネスマン層、更に主婦層の一部を取り込んで加入者の拡大に貢献するだけでなく、インターネットに関心のない世帯も対象にしたIP電話、さらにはIPテレビ電話といったサービスも視野に入れ、ケーブルテレビのネットワークによるユニバーサルサービスの実現を期待させる。このように、ケーブルテレビのネットワークは大容量の情報を双方向で高速かつ安価に伝送することに最適なメディアであり、その特徴を活かし、高度情報通信社会にふさわしい高度なサービスを加入者に経済的な価格で提供することが求められていく。
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この「地域メディア」等としてのソフトの面と「高度情報通信インフラ」としてのハードの面は相容れないものではなく、相互に刺激し合いながら共に成長するものである。例えば、ケーブルテレビが高度情報通信インフラに成長するためには自らの設備をデジタル化することが必要であるが、一方、ケーブルテレビの伝送路設備のデジタル化は多チャンネル化を進め、地域の運動会などの地域催事の中継、台風などの身近な災害情報、日常生活用品の安売りなどの生活情報、地方自治体からのお知らせ、議会中継、選挙の開票状況等の多彩な地域情報番組用に複数番組分のチャンネルを確保することが可能となる。また、デジタルビデオカメラや映像編集機能付パソコンに見られる番組制作設備のデジタル化は、簡便な番組制作・編集を可能とし、地域住民への手軽な映像情報提供や市民の放送番組への参加を促進する役割を果たす。このように、「地域メディア」と「高度情報通信インフラ」とは互いに深く関わっており、それぞれのケーブルテレビ各自がバランスをとりながら自らを高度化させることが重要である。
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以上のような役割をデジタル放送時代にも果たし得るよう、今後のケーブルテレビの在り方を検討していく必要があるのである。また、放送のデジタル化や放送と通信の多様化の中で、ケーブルテレビがどう対応するかは、今後の我が国の高度情報化を考える場合、極めて重要な課題であるが、一方、前述のとおり、現在のケーブルテレビは規模・機能によって千差万別であるし、また、今後のデジタル化等には大きな投資を伴う反面、その投資回収につながる収益面での不透明性も否定でない。したがって、本章で分類した7つの類型毎に今後の高度化等の方策を検討し、それぞれの類型についてきめ細かな対応策を考えていくことが必要である。特に可能なものについては類型別にビジネスモデルやビジネススキームを具体的に策定することが望ましい。
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なお、具体的な対策を講じるにあたっては、それぞれの類型の詳細な実態を把握することがスムーズな問題解決に有効であり、今後更なる実態把握に努めることが望ましい。
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第2章 デジタル放送時代におけるケーブルテレビの在り方
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1 ケーブルテレビのデジタル化の必要性
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前述のとおり、放送全体を覆うデジタル化の流れは不可避であるが、放送のデジタル化は「伝送のデジタル化」と「制作のデジタル化」に大きく分かれる。ケーブルテレビにおいても以下の理由からどちらのデジタル化にも積極的に取り組む必要がある。
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第一が、「伝送路を効率的に利用するためのデジタル化」である。現行チャンネル数では高度化・多様化する視聴者の番組ニーズに十分対応できない事業者にとり、デジタル技術の導入は既存のアナログ1番組分の周波数帯域で4〜6倍、場合によりそれ以上のデジタル番組の伝送が可能となる。ケーブルテレビには視聴者の番組の嗜好にきめ細かに対応した魅力的な専門番組を提供することが期待されており、デジタル化により、良質な専門番組を多チャンネルで放送し、多チャンネルメディアとしてのケーブルテレビの魅力をさらに増すことができる。
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第二が、「再送信される放送番組がデジタル化することに伴うデジタル化」である。現在、地上放送の約4割、BS放送の約3割、CS放送の約7割の視聴者がケーブルテレビ経由で放送を視聴していると推定される現状に鑑みれば、デジタル放送を視聴したいという加入者の要望に応えて何らかの方策を講じる必要がある。特に、デジタル化に伴いHDTV等の高画質・高音質な番組や高機能なデータ放送番組が提供されるようになるので、この「デジタル放送ならでは」のメリットを視聴者に享受してもらえるようにすることはケーブルテレビの使命であるといえよう。
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第三が、「デジタルコンテンツをパソコンなどで利用するためのデジタル化」である。テレビ受像機のインターネット機能の内蔵化や動画再生機能を持つパソコンの普及が進展しつつある状況を考慮すれば、マルチメディアへの親和性に優れたデジタル技術の導入は不可避であり、ケーブルテレビ事業者が受信した放送番組をヘッドエンドに蓄積して加入者の都合に合わせて時間をずらして再送信したり、加入者が受信した放送番組を蓄積して映像を編集して個人的に楽しむといったことも技術的には可能となる。特に、デジタル技術を活用した双方向映像サービスを提供することについて、ケーブルテレビの伝送路は非常に適している。例えば、自主制作番組の放送中に視聴者からの情報を取り入れて詳細なデータを番組内に表示するといったきめ細かなサービスを視聴者に提供することがケーブルテレビでは比較的容易に実施可能である。このようなケーブルテレビの双方向映像メディアとしての特徴を最大限に活用するためにも、デジタルケーブルテレビシステムの導入が必要である。
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この「伝送のデジタル化」とともに、「制作のデジタル化」も、非常に重要である。技術が発達しコンパクトで高画質なデジタルビデオカメラや廉価なデジタル映像編集装置が普及してきた。他の放送メディアが広域の多数の視聴者を対象に放送されるのに比べて、もともとケーブルテレビの自主制作番組は地域における比較的少数の視聴者向けに放送されるものであるので、できるだけ予算や人手をかけずに簡単に制作しなければならないものである。したがって、ケーブルテレビにとっては、ビデオ・ジャーナリズムなどの制作のデジタル化に積極的に取り組むべき必然性は他のメディア以上に高いといえよう。また、このような制作効率の向上という観点だけでなく、視聴者による素材提供に基づく多様な映像制作という観点からも制作面でのデジタル化は効果的である。
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2 デジタル化に係る諸課題
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(1) デジタル化に向けての経済的課題
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ケーブルテレビのデジタル化は、自らの伝送路の効率的利用の観点からなされるだけでなく、視聴者の立場からすれば、他のデジタル放送の再送信が可能なシステムであることも重要なポイントである。特にBSデジタル放送の開始を目前にして、ケーブルテレビでBSデジタル放送をデジタル信号により送信することが大きな課題である。
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BSデジタル放送や地上デジタル放送の番組を再送信するには、受信したデジタル放送の信号に手を加えることなく、そのまま再送信するパススル−方式と、受信したデジタル放送をケーブルテレビでの伝送に適した形に変換して伝送する変調変換方式がある。前者の方が変換の手間や費用がかからないが、ケーブルテレビのネットワークの中をそのまま伝送できるかどうかが技術的に問題になる。
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ところが、BSデジタル放送のIF伝送周波数は現行ケーブルテレビの伝送可能帯域より高い周波数を使用しているため、全く手を加えないで再送信することは不可能である。そこで、BSデジタル放送をパススル−方式により再送信するためには、伝送方式は変更しないものの、ヘッドエンドで受信したBSデジタル放送の周波数を、ケーブルテレビの伝送路で伝送可能な周波数、例えば770MHz以下や450MHz以下に低くしてから伝送し、伝送路の末端の加入者側で元の周波数に変換する必要がある。しかしながら、現時点ではこのような方式について需要の見込みが立っておらず、今後どうなるかは不透明である。
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また、地上デジタル放送のパススルーの可否については技術的検証はこれからなされる段階にある。
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したがって、ケーブルテレビネットワークを活用した高度なサービスの提供が可能で、かつケーブルテレビでBSデジタル放送等を再送信できるデジタルケーブルテレビシステムを構築するためには、現時点ではデジタルケーブルテレビの変調方式である64QAM方式にヘッドエンドで変調して再送信することが有効である。
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この64QAM方式によるデジタル化を実施する場合、既存の伝送路部分の改修は原則として必要なく、送信側であるヘッドエンドと各家庭の端末をデジタル対応機器に更改する必要がある。
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その場合、64QAM方式に変調・伝送するための設備更改に必要な費用は、現時点では、1チャンネル(6MHz)あたり500万円(トランスモジュレーション方式の一例)〜800万円(再多重方式の一例)であり、ヘッドエンド全体をデジタル化するための設備更改費用は、450MHzの施設で2.9〜4.6億円、770MHzの施設で5.6〜8.9億円程度必要となる。また、各家庭のデジタル放送用端末(セットトップボックス)の整備に、1台あたり数万円要すると見込まれる。また、デジタル放送の再送信をしようとしても現行チャンネル数では足りないようなケースも想定されるが、この場合には伝送路の広帯域化が別途必要となり、これを含めるとデジタル化関連の投資額はより高額になると見込まれる。
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(2) デジタル化に向けての技術的課題
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今後のケーブルテレビのネットワークは、できるだけ他の放送メディアと有機的に連携し合ったものとして構築していく必要があるが、BS放送、CS放送等の各放送メディア間においては映像圧縮方式についてはMPEG−2で共通であるものの、番組伝送の変調方式やスクランブルの方式が異なっており、ケーブルテレビで番組情報提供や顧客管理を統合的に行うことが現状では困難である。
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また、一部の衛星放送メディアの1トランスポンダー(中継器)あたりの伝送容量や将来導入することが考えられる複数のトランスポートストリーム伝送方式が現行のデジタルケーブルテレビの技術基準では対応できておらず、非効率な伝送にならざるを得ないといった点も問題である。さらに、450MHz以下の施設は伝送容量(空きチャンネル)が少なく、サイマル放送を含む放送メディアの更なる多チャンネル化やフルサービスに対応するための容量が不足することが想定されるため、伝送容量を拡大する必要がある。UHF帯域で放送される地上デジタル放送をパススルーする可能性を念頭に、770MHz程度にまで広帯域化することが望ましいが、現行の広帯域対応の増幅器では増幅器ごとの間隔が狭帯域対応のものより狭くせざるを得ないため、広帯域化するには伝送路の全面張り替えに近い大幅な更改が必要になってしまうといった問題がある。
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(3) デジタル放送時代の再送信問題
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ケーブルテレビはこれまで他の放送メディアの再送信を主な業務として発展してきたが、デジタル放送時代におけるケーブルテレビについても再送信メディアとしての役割が引き続き期待されている。したがって、ケーブルテレビの今後を検討する上で放送の再送信に関する議論は避けて通れない問題である。
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今後デジタル放送をケーブルテレビで再送信することについては、以下の3つの論点がある。
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1点目は、放送の再送信について考え方を再整理する必要がある点である。デジタル放送をケーブルテレビで再送信する際には、データの変調・多重方式等を変更する必要が頻繁に起きると想定される。しかしながら、現行の放送の「再送信」の考え方は、映像や音声及び付加情報を一連のデータとして送信するデジタル放送の再送信を想定して整理されていないため、変調方式を変更した送信等が同一性保持の観点から再送信に含まれるか明確でないのである。
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そもそも再送信同意制度は、放送事業者の「放送の意図」を保護するために設けられた制度である。したがって、「放送事業者の放送の意図が阻害されない範囲での再伝送は放送の再送信である」と捉え、例えばTC8PSK(BSデジタル放送の変調方式の一方式)から64QAM(デジタルケーブルテレビの変調方式)への変更といった番組伝送の変調方式の変更や、画質の明らかな変化を伴わないような変更は放送の意図が阻害されていないと考えられる。
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しかしながら、デジタルからアナログに変換したり、HDTVからSDTVに変換してケーブルテレビで再伝送することとなると、高画質性や字幕等を行うためのデータ放送や限定受信の信号が伝送されないという問題が生じる。特に2000年12月頃からBSデジタル放送でHDTVが放送開始されることになっており、デジタルHDTV放送には「高画質・高機能の番組を提供する」という放送の意図が含まれていると考えられるため、これが問題となることが予想される。
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2点目は、今後ケーブルテレビは国民生活に広く普及するものと想定されるが、その中にあって、BSデジタル放送や地上デジタル放送は、国民生活に密着した情報を提供する基幹的放送メディアに発展するものと見込まれることなどから、米国のマスト・キャリー・ルールのように、他の放送の再送信メディアであるケーブルテレビに対し、基幹的デジタル放送メディアを再送信することを制度上義務づけるかという点が問題になる。
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3点目は、地上デジタル放送の導入を機に、放送区域外でのケーブルテレビによる再送信問題を中心として、区域外再送信も含めた再送信同意制度を継続するのか、継続する場合、大臣裁定制度の撤廃の是非など、現行再送信同意制度全体を見直すのか否かという点も問題になる。
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(4) デジタル放送時代の難視聴問題
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テレビジョン放送は国民の日常生活にとって必要最低限の情報収集をするために不可欠の手段であることから、これを利用しようとしても利用できない難視聴の場合には、これまでは電気通信格差是正事業等の公的支援策などを講じ、その解消を図ってきた。
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今後、デジタル放送の導入が進んでいくが、特に地上デジタル放送の伝送方式であるOFDMはゴーストに強いため、既存のアナログ放送の都市難視聴地域の相当部分が解消されると見込まれている。一方、VHFからUHFに使用周波数帯が変わることなどに伴って送信場所が移動するような場合も想定されるが、その場合には新たにデジタル放送の難視聴地域が発生することも考えられ、既に設置済みの高層建築物の設置者等に対して、新たに開始した地上デジタル放送の難視聴解消の負担を原因者として求めることは困難であり、辺地難視聴と同様に考える必要がある。
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いずれにしても、既存のアナログ難視聴対策施設のままで対応することは極めて困難であり、デジタル放送時代においては、都市難視聴・辺地難視聴とも新たな考え方に基づく新たな対策が必要となる。
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3 類型毎のデジタル化対策
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デジタル化に向けての対応の在り方は以下のように類型毎に異なるものであるが、特にこの対応策については、事業者や視聴者に対して時間的余裕を十分に持って情報提供していく必要がある。
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(1) MSO型、市街地通信可能型
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MSO型や市街地通信可能型については、既存のアナログ設備を64QAMを中心としたデジタルケーブルテレビのシステムに更改することが強く望まれる。これらの2類型については、既に施設の広帯域化がある程度達成されその面での設備投資が不要な施設が多いことに加え、加入世帯数の点で比較的規模が大きいこともあり、加入者1件当たりのデジタル投資額も他の類型に比べると相対的に小さく投資効率はそれほど低くないため、単独でのデジタル化が可能なところもあると想定される。一方、開業後日が浅く、アナログ設備の償却を終えていないところも未だ多く存在し、デジタル化のための設備投資は相当大きな負担になることも事実である。
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ただし、これらの施設については、サービス区域内における普及率が現在急ピッチで伸びており、今後、地域社会に根付いた情報通信インフラや地域映像情報メディアとして深く定着する可能性が高いと見込まれるので、高度情報通信社会における地域の情報通信基盤整備の観点からも、これら施設の円滑なデジタル化を図るため、デジタル化の意欲・能力のある事業者に対して投資負担を軽減するための支援策を検討する必要がある。
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(2) 市街地通信不可能型、農村型
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市街地通信不可能型や農村型が高機能化を図るためには、施設のデジタル化だけでなく、狭帯域のものが多いことから広帯域化を併せて実施する必要がある。また、これらの施設は規模も小さく、加入者1件あたりのデジタル投資額も多額になり投資効率が低いことから、単独でデジタル化に対応することは、普及率の極めて高い一部の営利目的施設を除き、経済的に困難であると想定される。
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しかしながら、これらの中にも今後映像双方向のコミュニケーションを交わすための地域情報通信インフラに成長する可能性があるものも存在する。そのような施設が今後デジタル化を図るためには、デジタル投資負担に耐え得る経営基盤の確立や投資効率を高めるためのスケールメリットの追求が不可欠であり、事業者間の合従連衡による規模拡大(加入者1件あたりのデジタル投資額の縮減)などを志向することが必要となろう。
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このようなケーブルテレビのデジタル化が円滑に進むよう、伝送路の広帯域化・デジタル化が可能であり意欲もあるものについては、地域情報通信基盤を整備する観点から、投資負担を軽減するための支援策を検討することが必要である。また、施設整備に対する支援措置だけでなく、事業者間の合従連衡が進みやすくするために効果的な環境を整備するため、制度を整備したり財政面での支援措置を講ずるなどの具体的な政策について展開していくことが必要である。
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特に、地理的に隔絶している農村型については、他のケーブルテレビとの合従連衡に制限があるものが多いので、合従連衡に対する都道府県等地方自治体の参画・支援が重要である。したがって、自治体が参画しやすくするための制度整備の検討が必要である。
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(3) 都市難視聴対策型、辺地難視聴対策型
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都市難視聴対策型や辺地難視聴対策型は、既存のアナログ地上放送数チャンネル分の難視聴対策解消を目的として非営利で設置されたものが多く、そもそもデジタル化をはじめとする高度化を念頭に作られたものではないため、デジタル放送を再送信するためには、古い施設については相当大規模な改修が必要となる。
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都市難視聴対策型については、高層建築物の建設に伴いテレビ放送を良好に受信できない事態を生じさせ現状復帰させた既存の難視聴の原因者に対して、デジタル化に必要になる新たな費用を求めることは不可能である。また、地上デジタル放送により既存の都市難視聴地域の相当部分が解消されると見込まれている。したがって、基本的には運営主体の自由な選択に委ねられるべきものであるが、多チャンネル・双方向型への高度化を図ることが可能な一部の大規模施設や近年設置された施設以外の都市難視聴対策型については、サイマル放送期間中は従来どおりの役割を担うが、サイマル放送終了に伴い、その役割は終了するものが多いものと想定される。その区域における高度な映像配信サービスについては、MSO型や市街地通信可能型等の大規模施設が提供していく可能性が高い。また、それ以外にも、デジタル放送の視聴は、都市景観の観点から引き続きケーブルテレビによる視聴が望ましいと考えられ、近年設置された施設については、廉価なデジタル対応機器の開発を前提としてデジタル化することも期待される。サイマル放送終了時期までに、このような事情にあることについて現在の施設の加入者が理解できるようにするための周知活動や、代替を促進するための支援策が必要である。
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辺地難視聴については、サイマル放送期間中は従来どおりの役割を担うことは都市難視聴対策型と同様であるが、地上デジタル放送の辺地難視聴の発生状況が未だ明確でないことから、今後の地上デジタル放送の普及状況を踏まえ、必要に応じ支援策や代替措置等について検討する必要がある。
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(4) 集合住宅型
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集合住宅型が単独で64QAM方式によるデジタル化を導入することは費用の点から現実的でなく、デジタル放送を受信するには64QAM方式を導入している大規模施設に接続するか、あるいはパススルー方式による対応が必要である。中でも、OFDMの有線におけるパススルー実験については早急に実施し、その結果に応じ、地上デジタル放送に対応可能な増幅器等の開発や設備更改等の準備を進めておく必要がある。
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なお、集合住宅については、衛星放送のIF伝送周波数が同じであるため、棟内配線が一系統の場合、BS及びCS(デジタル放送を行うものは現在3衛星)のうち、住民協議によりどれか一つ(ないし二つ)のサービスを選択する必要があるため、集合住宅において放送の多メディア化に対応した棟内配線システム導入が促進するようにしていかなければならない。
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具体的には、集合住宅の建設時に情報通信用の配管を施工したり、配管施工時に可能な限り配管内に十分な数の配線を設置することや、配管内への配線が難しい場合には、状況に応じて露出配線や無線システムの活用により対処することを検討することが望ましい。
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4 デジタル化促進のために必要な政策
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(1) 経済的課題解決のための政策
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ケーブルテレビのデジタル化は、多チャンネル放送サービスや双方向機能を活用した高度なサービス等を提供するための「ケーブルテレビの高度化」の一環として、ケーブルテレビ事業者自らが主体的に行うべきものである。しかしながら、前述のとおり、ケーブルテレビをデジタル化するには多額の費用が必要なことも事実である。一方、ケーブルテレビは地域における情報通信基盤として大きな役割を果たすことから、その整備・高度化に地域格差があることは好ましいことではない。したがって、我が国のケーブルテレビの高度化が普く促進され我が国全体が円滑にデジタル社会に移行できるよう、ケーブルテレビのデジタル化促進のために支援措置を拡充することが必要である。
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一方、デジタル化するための設備投資額は小さくないので、これを効率的に行うために、可能な限りスケールメリットを追求することが期待される。例えば、ケーブルテレビのサービスが現在提供されていない隣接地域にネットワークを拡張し、加入世帯を増やすことが考えられるが、このための支援措置を拡充することが必要である。また、一定規模の施設でないと投資額の観点から単独の事業者での対応は困難だと見込まれるので、単独で対応することが困難な事業者については、局間を接続してネットワーク化し、デジタルヘッドエンド(番組送出装置)を共用して投資負担を軽減することや、合併してスケールメリットを生かすことも選択肢の一つとして考えられる。特に難視聴対策施設などの小規模施設については、施設の機能や経営規模からみて、デジタル放送サービスを単独で提供することはほぼ不可能なところが多く、事業者間の吸収・合併等の合従連衡が進むと見込まれる。
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このような合従連衡は当事者間の発意と合意に基づくものであることは当然であるが、行政としても合従連衡を促進する制度的な仕組みを創設したり、複数のケーブルテレビ事業者で共用するデジタルヘッドエンド設置やセンター間を接続する光ファイバ網の整備を促進するための支援措置の創設を講ずるなど合従連衡がスムーズに進展しやすい環境を整備することが望ましい。
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支援措置以外についても、事業者間の情報交換や人材交流を促進することが合従連衡推進のためには必要であるので、そのための環境整備が必要である。
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また、ネットワーク化の一類型として、複数事業者間で共用されるデジタルヘッドエンドを管理・運営することだけを業とする施設者が存在することも設備の効率的な運営のためには望ましいことであるので、そのための制度整備についての検討も必要である。加えて、ヘッドエンド共用の形態として、ケーブルテレビでの再送信に適した方式にパッケージ化されたデジタル番組を衛星により、各地のケーブルテレビ局に配信する方式(日本版HITS(ヘッドエンド・イン・ザ・スカイ))の実用化の可能性について検討することも必要である。
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また、デジタルケーブルテレビの普及のためには、例えば、64QAM変調器をはじめとするデジタルケーブルテレビシステム機材の価格の低廉化を図り、投資総額を小さくすることが不可欠である。特に、家庭用デジタル端末(セットトップボックス)の価格の低廉化が必要であるが、そのためには端末の仕様を標準化し、ケーブルテレビ局間のシステムの互換性を確保するとともに、端末の売り切り制(オープンケーブル)を導入することが必要であり、早急にそのための条件整備を検討しなければならない。将来的には、デジタルケーブルテレビの普及状況に応じ、更に価格が低廉化するようであれば、デジタルテレビ受像機にセットトップボックスを内蔵することについても検討し、関係方面へ働きかけることが望まれる。
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(2) 技術的課題解決のための政策
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CS、BS、地上波のデジタル放送は、映像の圧縮方式は同一であるが制御信号等が異なるため互換性が低く、全てを視聴しようとすると、我が国特有の狭い家屋に何種類ものアンテナやケーブルやセットトップボックスを揃えなければならない。このようなことは、美観上好ましくないだけでなく、操作上の観点からも極めて不都合なことである。もし、CS、BS、地上波等全てのデジタル放送に安く簡単に対応できるケーブルテレビシステムが開発され普及すると、全てのデジタル放送メディアをヘッドエンドで一本化してから家庭に送信されるようになり、家庭内には1本のケーブルと1台のセットトップボックスしかないこととなり極めて便利である。したがって、地上波、BS、CS全ての映像ネットワークを統合する「マザーネットワーク」としての役割をこの統合型のデジタル・ケーブルテレビが担うようになる必要があるが、それが実現するためには各放送メディアの伝送データをケーブルテレビで共通化し、統合的に伝送するためのシステム開発が必要である。
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また、現行の1チャンネル(6MHz)の帯域で複数のトランスポートストリームによる伝送を可能とすることや、現行の64QAMより更なる大容量伝送を可能とする方策として、256QAM方式等のより高度な伝送方式の開発等を、海外の技術開発の動向を踏まえつつ進める必要があり、技術基準化の検討を行うことが望ましい。
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さらに、現時点においては、広帯域の伝送路については狭帯域に比べ増幅器の間隔を狭くしなければならないが、今後のケーブルテレビのネットワークの在り方を考えると、現在の狭帯域設備並みに増幅器間隔の長い広帯域対応増幅器の開発を進めることが重要である。関係方面への働きかけが望まれる。
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(3) 再送信問題解決のための政策
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高画質・高機能というデジタル放送のメリットを早期に享受できるようにすることを考えるならば、ケーブルテレビにおいても、BS放送等他メディアのデジタル放送についてはデジタル信号で伝送することを基本とすることが望ましい。
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ただし、BSデジタル放送については、開始の時点ではケーブルテレビの大半がデジタル化対応未完了と想定されることや、新しい番組を視聴したい視聴者や多くの視聴者にCMを見てもらいたいスポンサーのことを考慮すると、アナログ変換による再送信の可能性も否定できない。いずれにしても、アナログ変換して再送信するか否かは最終的には放送事業者とケーブルテレビ事業者の間での合意で決せられるものであることは当然であるが、デジタル端末が普及していない立ち上り期においてのみの例外的な暫定措置とするか否か、現在CSデジタル放送がすべてアナログ変換されて再送信されていることも参考にしながら、アナログに変換して再送信することの是非について検討する必要がある。ただし、仮にアナログ変換されて再送信される場合、伝送路のデジタル化が実施されないと更なる多チャンネル化は実現しないことから、アナログ変換による再送信の増加により既存の専門番組が排除され、チャンネルの多様性が損なわれないよう十分配慮する必要がある。以上のことは、BSデジタル放送に次いで登場する地上波デジタル放送についても同じようにあてはまる。
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また、今後デジタル放送時代になると映像・音声・データというアナログ時代の区分が次第に不鮮明になることを念頭に、放送信号を内容(例えば静止画、動画、音声といった人の知覚認識)毎に区分し、それぞれについて個別に再送信の同意を与えることや、ヘッドエンドで受信・蓄積したデジタル放送番組を時間をずらして送信する場合の再送信同意や著作権管理の在り方等についても検討することが必要である。
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これとは別に、ケーブルテレビは今後普及が進展すると予測されるが、その加入者が自らアンテナを設置して生活に不可欠な基幹的な放送番組を視聴することは視聴者に著しい負担を課すことになる。したがって、一定以上の公益性を有する基幹的放送メディアについて、米国のマスト・キャリー・ルールのように、放送区域内での再送信を義務づける制度の導入について検討する必要がある。しかしながら、
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1)BSデジタル放送や地上デジタル放送が基幹的放送メディアと認知されるまで普及するにはある程度の時間的余裕があること
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2)他の放送メディアの再送信をデジタルで行うことができるデジタルケーブルテレビ施設が社会全体に普及するには、多額の投資負担を必要とするためかなりの年数を要すること
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3)他の良質な放送ソフトを排除するおそれがあること
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などから慎重な議論が必要である。例えば、仮に制度を導入するにしてもその時期をいつにするか、現行制度と同様難視聴地域を個別に指定してそこでのみ再送信義務を課すこととするか、義務再送信に使用する伝送容量を一定の割合に限定するか、義務再送信の場合の有線放送権を制限するか等について幅広く検討することが必要である。
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なお、再送信制度見直しについては賛否両論あり結論を出すには至らなかったので、今後議論を深めていく必要がある。元々ケーブルテレビは地上波のテレビ放送の難視聴対策として、区域内再送信のため設置されたという経緯があるが、多メディア多チャンネル化の中、再送信はサービスの高度化の一環としてとらえられるようになっており、制度と実態に差が生じているので、ケーブルテレビによる放送の再送信の位置付け等について再度検討する必要があるのである。また、その結論が出る以前においても、現行制度における再送信同意を拒否する正当な理由の根拠となる「放送の意図」とは何かについて公正かつ明確な基準を早急に策定することが望まれる。また、ケーブルテレビ経由でテレビ番組を視聴する世帯が増加している中にあっては、放送ソフトの流通に際し円滑な権利処理を可能とするために、放送事業者とケーブルテレビ事業者との間の長期的・安定的なルール作りについて検討することも必要である。
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(4) 難視聴問題解決のための政策
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デジタル放送時代の難視聴問題については、国民がデジタル用の新たな受像機や個別アンテナを購入して設置したり、多チャンネルのケーブルテレビに加入したり(都市難視聴の場合)するなど、自らの費用で視聴すべきかどうかといった課題が提起されている。この点については大きな意識改革を要するものであり、幅広い国民的議論が求められている。
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また、その議論とは別に、市区町村が地域の情報アメニティの向上のために視聴環境を整備する場合等も想定されるので、地上デジタル放送の導入を踏まえ、これに対する新たな支援策又は既存の支援策の拡充を検討することも必要である。
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さらに、難視聴解消が進まない場合には、視聴者を保護するための新たな関係法令の整備について検討する必要がある。
第3章 今後のケーブルテレビ高度化の在り方
1 ケーブルテレビ・ネットワークの高度利用
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(1) トータルデジタルネットワークへの移行
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情報通信分野の技術革新によりネットワークの機能は著しく高まりつつあり、「トータルデジタルネットワーク」に向け進化している。
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現在、テレビは映像を主に片方向で流しているが、一方、電話は音声を双方向で流している。これらが次第に高度化し、2010年頃には映像を双方向で自由に利用することができるようになると考えられている。ネットワークは、新しい技術の成果を取り入れ、より良いサービスを全ての家庭へと提供する「サービスの高機能化・ユニバーサル化」を進め、新しいアプリケーションの実用化・充実とあいまって、ループ型(安全性・信頼性を高めたツリー型の発展型)又はスター型のネットワークで放送と通信の全てのサービスを提供する情報通信インフラとしてのデジタルネットワークへと進化するのである。そして、多様なデジタルコンテンツは、シームレスに接続されたネットワークインフラ上を、個々のネットワーク特性を意識することなく自由自在に行き来する。そういう時代のネットワークが「トータルデジタルネットワーク」なのである。
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このトータルデジタルネットワークに至る道には通信からのアプローチと放送からのアプローチがあり、それぞれが現在の姿から一歩ずつ進化していく。当面はそれぞれの努力が重ねられていくものと想定されるが、放送からの有力なアプローチの一つがケーブルテレビの発展型である。
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従来、ケーブルテレビはツリー型の全同軸ケーブルのネットワークを用いて片方向の多チャンネル放送を行ってきたが、現在では幹線を光ファイバ化し双方向のフルサービスを行うようになってきている。今後、光ファイバ部分が相対的に次第に伸長し、加入者宅近くまで敷設されるようになり、最後は加入者宅まで光ファイバのケーブルテレビ・ネットワークが敷設されるようになることであろう。どの時点でどのように加入者宅に近づくかは、光電変換装置の価格の低廉化動向にかかっている。これとは別に、安全・信頼性向上のため、ツリーから幹線をループ化するものも増加することであろう。一方、広帯域無線を使った高速ネットワークも地域の実情に応じて構築されると考えられる。
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長期的には以上のような大きな流れでケーブルテレビのネットワークは進化していくが、中期的にケーブルテレビのネットワークを高度化する場合においても、長期的なネットワークの進化する方向性を十分に念頭に置き、他の放送メディアや通信事業とのインターフェースも整備しつつ、タイムリーな重点的投資を行うことが極めて重要である。
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(2) 新技術の導入の在り方
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ア 光ファイバ
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前述のとおり、他の情報通信ネットワークとの接続性を確保しつつ効率的なネットワークの高度化を進めるためには、技術革新による新技術の導入についても時宜を得た重点的な取り組みを行う必要がある。
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現時点においてもっとも積極的に取り組むことが望ましいのは高速大容量伝送と無中継伝送距離の伸張を実現してくれる幹線の光ファイバ化である。その理由は、光ファイバに関する技術は成熟段階にあり、技術革新による陳腐化のおそれは低いので投資リスクも小さく、加えて、信頼性の高い大容量の双方向伝送を可能とし、デジタル信号を伝送する際の通信品質の確保や双方向通信サービスの提供に適しているということである。短期的にはもっとも精力的に取り組むことが望ましいのが、この光ファイバ化であるといえよう。
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なお、光ファイバ網全国整備については、平成9年11月の経済対策閣僚会議で決定された「21世紀を切り開く緊急経済対策」において、「光ファイバ網全国整備の2005年への前倒しに向けて、民間事業者の活力をいかし、できるだけ早期に実現するよう努力する」旨が明記され、その全国整備のより一層の促進が必要となっている。
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イ 無線システムの補完的活用
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ケーブルテレビのネットワークが今後の我が国における主要な情報通信インフラとなるためには、事業区域内においてサービスを希望する全ての家庭にサービス提供が可能であること(ユニバーサルアクセス)を確保することは極めて重要なポイントになると想定される。そのためには、コスト等の理由のためケーブルを敷設しにくいような、事業区域内に存在する遠隔地や集合住宅へのアクセスをどのように図るかが大きな課題となる。
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このユニバーサルアクセス確保問題の解決手段の一つとして、無線システムの補完的活用が考えられる。無線システムについては、今後、
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1)再送信のために番組を山頂で受け、それをヘッドエンドまで運ぶ際に利用する
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2)伝送経路が河川を跨ぐ場合に利用する
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3)農山村地域のように隣の家が遠い場合には一定のところから先は無線でナローキャストする(ケーブルを1本1本敷設するより安く、またこういった地域は周波数事情も比較的余裕がある)
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4)集合住宅の配線協議が不調の場合に利用する
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5)市街地再開発エリア等無電柱地区でケーブル敷設が困難な場合に利用する
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というような様々な利用方法が考えられる。
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しかしながら、河川や鉄道の横断などのために利用されるような、有線補完型の現行の無線システムは、機器が高価で普及が進んでいないうえ、片方向であるためケーブルテレビの双方向機能を活用したサービスを提供できないという問題点を有している。したがって、より低廉な無線機を普及させるための技術開発を行うとともに、安価な無線機の実用化を可能とする周波数帯域での利用を検討する必要がある。また、電気通信事業に用いられる加入者無線方式でも映像伝送が可能な方式も実用化されつつあり、こうしたシステムの併用の可能性についても技術的・制度的検討が必要である。特に、トータルデジタルネットワークに対応可能な、40GHz帯等におけるデジタル・双方向型の無線システムの開発を行う必要がある。
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ウ xDSL等の利用
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特に棟内配線構造上の問題のため、集合住宅については、ケーブルテレビのサービス提供ができないものが相当数ある。その問題を解決し、ケーブルテレビの双方向機能を強化するため、xDSLや高域周波数追加方式といった新技術をケーブルテレビ施設に導入することが望ましいとの議論もある。
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しかしながら、xDSLについては、伝送容量や伝送距離に限界があることから、ケーブルテレビネットワークへの利用については、当面極めて補完的な利用に限られると見込まれる。今後は、特に集合住宅での双方向サービス展開の一手段として、技術開発と機器価格の低廉化の動向を見守りつつ、実用可能性を探ることが有益である。
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また、今後広帯域の双方向サービスを提供するためには、現行の10〜55MHzの上り回線用周波数帯域では不十分なことから、高い周波数帯域を上り回線に使用することが有効である。したがって、集合住宅での双方向機能の確保に加え、ネットワーク全体の双方向機能を強化する観点から、高域周波数追加方式を始めとする高い周波数をケーブルテレビの上り回線に使用するシステムについて、実用化に向けての機器の開発・普及を進める必要がある。
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エ 日本版ケーブルラボの設立
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デジタル放送への対応や双方向通信サービスの強化のためにはケーブルテレビをネットワーク化することが不可欠であるが、現実にはこの分野での技術革新に標準化作業が追いつかず、結果としてケーブルテレビ局間の互換性を妨げており、現状のままではネットワーク化は困難な状況にある。
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したがって、ケーブルテレビ局間の互換性を確保し、ネットワークとして一体的に機能できるよう、必要最低限の規格を標準化して、それ以外のものは市場原理に委ねることが必要である。そのためには標準案の策定から機器の認証までといった一連の作業を中心になって推進する中立・公正な民間機関が必要である。米国においてはこれらの標準化・認証作業を「ケーブルラボ」というケーブルテレビ事業者が中心となって設立された民間機関で実施しており、我が国においても、メーカーだけでなくケーブルテレビ事業者からの積極的な参画を得て、米国のケーブルラボのような専門の機関の設置を促進すること等により、技術革新に見合った迅速な標準化作業や機器の認証がなされることが望ましい。
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特に、ケーブルモデム(ケーブルテレビのネットワークでインターネット接続等の高速双方向データ通信を行うための端末装置)については、ケーブルインターネットを中心とした双方向通信サービスへの期待に応えるため、既に策定されている現行の標準規格の普及促進を図るとともに、相互接続をベースとした売り切り制の導入を実現すること等が早急の課題である。また、デジタル・セット・トップ・ボックスについても、標準化の早期策定と売り切り制の導入が早急の課題である。
2 新しい「ケーブルテレビ」制度の導入
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(1) 柔軟な制度導入の必要性
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ケーブルテレビ巡る法制度については、昭和47年の有線テレビジョン放送法の成立以来、抜本的な見直しは行われていない。ケーブルテレビを取り巻く事業環境の変化に対応し、平成5年以降、地元事業者要件の撤廃等各種の規制の見直しは行われてきたが、近年の情報通信分野における急速な技術革新に現行制度が十分対応できていない点が増加しつつある。特に近年、トータルデジタルネットワークの構築を見据えるかのように、放送と通信や有線と無線のそれぞれの分野において類似した利用形態が著しく増加しており、従来のケーブルテレビ制度が全く想定していなかった社会実態が出現しつつある。
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これらの形態は、いわば情報通信分野における技術革新の成果であり、現行制度の枠組みに無理やり押し込めるのではなく、むしろ現行制度をこれらの成果を許容できるような柔軟なものに改めるべく、規制の合理化・緩和を進めることを基本とすることが望ましい。
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(2) 有線を補完する無線の活用
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トータルデジタルネットワークにおいては、有線系と無線系の情報インフラがシームレスに接続されその中を様々なデジタル信号が流れるようになると見込まれているが、このような長期的視点からだけでなく、ケーブルテレビネットワークのユニバーサル化を進めるという短期的な目標のためにも、無線システムの補完的活用は有効である。
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しかしながら、そもそも現行法制度はケーブルテレビによる無線利用を想定して制定されていない。平成10年9月には規制が緩和され、ケーブル補完型のものについては無線利用も可能になったが、これは別々の有線ネットワークを無線システムで接続する通信として位置づけられているものである。今後、ケーブルテレビのネットワーク構築に際しても大きな流れとしては、有線だけではなく、低廉良質なものであれば無線も使うという方向に進むと予想され、ケーブルテレビ事業者が有線と無線を柔軟に活用してサービス提供できるようになっていることが望ましい。
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したがって、ケーブルテレビは、その名前が示すように「ケーブルを使うテレビ」ということであり、「無線のケーブルテレビ」ということは形容詞的にはおかしいものではあるが、ケーブルテレビ事業者が無線を柔軟に活用してサービス提供できるよう制度化することを検討する必要がある。ただ、全て無線を使うということになると現在の地上放送と区別がつかなくなるので、その検討にあたっては放送関係の法体系全体に配慮する必要がある。
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また、その検討に際しては、現在のケーブルテレビの施設を設置・運営する事業を、伝送路を他人の放送番組の送信のために供する事業と位置付け、有線・無線の電気通信設備を自由に活用できる新しい事業形態として位置付けることの是非について、他の無線による放送との整合性の観点も踏まえて検討する必要がある。
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いずれにせよ、広帯域の無線利用を可能にする技術革新により、将来的には有線テレビジョン放送という制度自体が影響を受けてくることも予想される。
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(3) 放送と通信の制度的関係の整理
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マルチキャストとは、同じ情報を複数の相手に届けることを目的として特定のグループあての情報を一度に送信することであり、ユニキャストやブロードキャストに対応する語である。特にIPマルチキャストは、加入者のPC端末にグループアドレスを割り当て、IPマルチキャストに対応したルータが必要なあて先だけに自動的にデータをコピーして送信する機能を有している。ルータがIPマルチキャストに対応したものになっていれば、この技術を活用することにより、既存の通信用回線を効率的に利用して、不特定多数に映像情報を提供することが可能であり、放送、特にケーブルテレビ等の有線放送に類似したサービスと言える。このマルチキャスト技術の進展により、既存の通信ネットワークを利用して不特定多数に映像情報を提供することが技術的に可能となりつつあり、このようなサービスを放送と通信のいずれに位置付けるかという議論の中で、ケーブルテレビの規制の在り方も再検討が求められている。
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そもそも、放送は有限稀少な電波を利用して社会的影響力の大きいサービスを提供するという特徴などから、現行制度上「電気通信のうち、公衆が直接受信することを目的として送信される行為」として広義の電気通信からは区分され、その言論報道機関としての特性等に応じた規律が定められている。このような規律は放送の社会的影響力の大きさから今後も必要なものではあるが、マルチキャストのように、放送と通信のどちらの位置付けるのが適切か不明確な事例が今後増加し、いわゆる「放送と通信の融合問題」が議論されることが多くなると考えられるが、その際にも、そもそもの原点を見失うことがないようにする必要がある。広義の電気通信のうち同報配信形態のものについて、受信者や送信者を保護すべきものが今日的にどのようなものであるかを考え、共通のルールを作ること等を検討していくことが重要である。
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特に、今後、現在のIPマルチキャストの発展型として、テレビ番組等をインターネットのプロトコルに変換して送信し、現在のテレビと全く見た目変わらないような高速インターネット利用もネットワークの高速化に伴い、遠からず出現するものと見込まれる。
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したがって、マルチキャストのような技術を利用した送信を「放送」ととらえ、有線放送に準じた規制を行うことの是非について検討する必要があるし、同時に、ケーブルテレビを含む放送(又は放送類似サービス)に対する番組準則の適用等の制度の運用について、実態に見合った適切な見直しを行う必要がある。
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現在、実際に通信から放送を切り分ける基準としては、公衆(不特定多数)に直接受信させることを送信者が意図していることが、送信者の主観だけでなく客観的にも認められているか否かを以下の5要素から総合的に判断している。
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しかしながら、この基準に対しては、誰でも正確に判断できる明確な基準でなければ、ビジネス開発や技術開発が自由に創造的に行われるのを阻害するおそれがあるとの指摘がある。
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この点で、放送と通信の区分に関する判断基準の一層の明確化が望まれているが、その一方で、放送と通信の中間領域的サービスについて個別サービスの出現動向を踏まえつつ、そのサービス特性に応じた規律の在り方について検討していく必要がある。
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(4) 有線テレビジョン放送事業者と有線テレビジョン放送施設者との関係
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有線テレビジョン放送法に規定されている有線テレビジョン放送事業者(以下「事業者」という。)と有線テレビジョン放送施設者(以下「施設者」という)との関係についても、柔軟な制度の導入を前提として見直しを検討する必要がある。
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例えば、現行制度は、ケーブルテレビ施設の設置者は同時に放送番組の供給業務を行うことを前提としており、施設だけを整備する「事業者でない施設者」については現行制度上は想定しておらず、施設者と事業者については不完全に分離しているということができる。
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これまでは現行制度で特段の問題はなかったが、例えば、これから合従連衡の一環としていくつかのケーブルテレビ会社が共同でデジタルヘッドエンドを作る場合、現行制度上は施設だけを設置する会社は規定されていないため、共同出資のデジタルヘッドエンド会社が施設設置することはできず、ケーブルテレビ事業者数社の共有施設にせざるを得ないというような問題が今後生じると考えられる。
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また、地方行政等に関する放送番組を放送するに際し、公権力たる地方自治体が、自らに都合の悪い内容とならならないよう影響力を及ぼし、言論放送機関としての中立性が損なわれるおそれがあるとの指摘もある。一方、民間活力ではケーブルテレビ施設を設置できない不採算地域においては、地方自治体主導で設置・運営することがケーブルテレビの普及を促進させる有効な手段である。不採算地域における情報通信基盤整備に地方自治体の果たす役割は大きいことに加え、地方ほど娯楽としてのテレビの果たす役割が大きく、遠隔医療や遠隔教育等の情報化の恩恵を享受することができることも間違いない。したがって、ユニバーサルサービスの観点からの地方自治体主導によるケーブルテレビ施設の整備が進むよう、そのような懸念を払拭する必要がある。
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また、施設者については施設業務単独で事業展開した方が経営合理性の追求が容易になる場合があるうえ、ソフト市場の活性化をもたらすとの指摘もある。そのため、例えば事業者と施設者を完全分離し、現行の単独事業者や事業者・施設者兼営に加えて、伝送路を事業者の番組伝送に利用させることを主な業務とする単独施設者(例:共用デジタルヘッドエンドの運営組織等)など、自らの意思で地域の実情に合った業務を自由に選択できるよう制度上措置することについて検討することが望ましい。
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また、現行制度上はケーブルテレビ施設でどの番組を放送するかを決定する権利は施設者にあると考えられるが、施設者がケーブルテレビ施設の伝送容量に限りがあること等を理由として恣意的に事業者を選択したり、逆に事業者が意図的に特定の施設者への番組提供を拒否することにより、ケーブルテレビの公益性が阻害されることのないよう、独占禁止法による規制以外に、放送法制として番組事業と施設事業との関係を規制する事項があるかどうかを検討することが必要である。例えば、施設者に対し事業者に対する不当な差別的取扱の禁止を義務付けるとともに、市民番組や公共的放送等の、特定の要件を満たす公益性を有する放送について正当な理由なく伝送を拒否することを禁止する制度や、逆に事業者に対し施設者に対する不当な差別的取扱の禁止を義務付ける制度の是非等について検討を進める必要がある。
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なお、事業者と施設者を制度的に分離する場合、施設者についてはマスメディア(言論報道機関)としての性格を有しないものなので、言論機関としての特性に係る規律を廃し、インフラの特性に係る規律を検討することも必要であろう。
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加えて、今後、映像伝送サービスという点で第一種電気通信事業者とケーブルテレビ事業者の業務内容が近似していくと想定されるので、電気通信事業者間において現在とられている公正有効競争の考え方を拡張し、電気通信事業とケーブルテレビ事業間における公正有効競争条件の整備についても検討していく必要がある。
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3 高度化のための環境整備
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今後ケーブルテレビがその高度化を進めていくにあたって、制度整備以外にもいろいろな環境を整備していくことも重要である。
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例えば、ケーブルテレビ施設の設置には通常、道路や電柱、橋梁等を占用することが必要であり、これらを占用する際には道路管理者の許可や電柱所有者の承諾等を得ることが必要となる。今後、高度化を図るため、幹線部分の広帯域化や光ファイバ化の工事を行うことが増加すると想定されるが、その際に道路管理者等との調整を考慮すると、適切な設備の高度化に向けては一定の時間的猶予を要することも認識しておく必要がある。
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電気通信事業については、他人の通信等を媒介するという公益性に鑑み、例えば電線・電柱等の設備を敷設・保守するために自ら所有していない土地、水底等を使用できる権利(公益事業特権)が認められている。しかしながら、ケーブルテレビ事業については、電気通信設備を用いて自己と他人の間の情報を媒介したり、他人同士の情報を媒介するという点では電気通信事業に類似した性格を有しているにもかかわらず、電気通信事業並みの公益事業特権は制度上は認められていないのが現状である。今後、ケーブルテレビは高度化され、地域の情報通信インフラとしての重要性を高める。したがって、ケーブルテレビ事業についてもその公益性に鑑み同様の権利を設けることについて、関係省庁が一層議論を深めていくことが重要である。
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同様に、今後の難視聴対策の推進や集合住宅等における情報通信の屋内配線の在り方の検討等についても、関係省庁の間で今後一層連携を強め、ケーブルテレビの高度化のための環境を整備していくことが必要である。
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以上に述べたようなデジタル化を含めた今後のケーブルテレビの高度化については、技術の動向、ケーブルテレビの普及状況等の事情を十分に踏まえ、時宜にかなった取組みを行うことが何よりも重要である。
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なお、ケーブルテレビの高度化を進めていくためには、市街地における集合住宅比率の高い我が国においてケーブルテレビの普及・高度化を妨げるおそれのある集合住宅への接続問題など、残された課題についても議論を継続していくことが望ましい。
第4章 提言
1 ケーブルテレビの高度化のために取り組むべき具体的事項
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(1) 早急に取り組むべき事項
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以上のように、今後、ケーブルテレビは、地域メディアとして一層その機能を発揮するとともに21世紀の高度情報通信インフラに成長する大きな可能性を秘めているが、一方そのためには解決すべき課題も多い。今後のケーブルテレビ発展のため、以下の事項をはじめとして関係者が協力して早急に取り組むことが必要である。
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ア 一般的政策事項
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○ ケーブルテレビのデジタル化等高度化促進のための以下の支援策の実施
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・ ケーブルテレビ未整備地域へのケーブルテレビ整備や、既存ケーブルテレビ施設の広帯域化や光ファイバ化に対する支援の拡充に加え、ケーブルテレビ局間をネットワーク化してヘッドエンドを共用化することに対する補助事業に係る予算枠の確保・拡大
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・ ケーブルテレビ事業者の合併を促進するための支援措置の創設等の環境整備
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○ 地域情報番組ソフトの制作・流通の活性化や、視聴者参加型番組の流通、及びテレビ受像機以外の情報家電と連携した高度なサービスの提供を促進するための政策的支援
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○ 今後ケーブルテレビ施設の広帯域化、光ファイバ化及びデジタル化を行う際の、施設の規模・機能に応じた具体的ビジネスモデルの提示(特に、新しい収入等具体的な投資メリット)
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○ ケーブルテレビの普及のための関係省庁の連携促進
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イ 制度的事項
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○ デジタル放送に伴う「放送の再送信」の定義の整理(変調方式の変更等はどこまでを再送信の枠内と認識するか。)
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○ 電気通信回線を利用したマルチキャスト方式による映像配信サービスの位置付けの整理
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ウ 技術的事項
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○ 地上デジタル放送の伝送方式であるOFDMをケーブルテレビでパススルー(手を加えないでそのまま再送信すること)することの可能性についての技術的検証
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○ BSデジタル放送をケーブルテレビで効率的に再送信するための、64QAM方式における複数トランスポートストリーム伝送方式や、256QAM方式等、より高度な伝送方式の開発・検討
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○ 売り切り制の導入を可能とするケーブルモデムや、情報家電との親和性を視野に入れた家庭用デジタル放送端末(セットトップボックス)の規格の標準化
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○ 全放送メディアの伝送データをケーブルテレビで共通化し、統合的に伝送するためのシステム開発
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○ 無線ケーブルシステムの開発
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○ オペレーターとメーカーの参画による、機器の標準化や認証を行う専門機関(日本版ケーブルラボ)の設置
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エ 事業者の取り組みに期待する事項
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○ 伝送容量を拡大し、デジタル放送の再送信チャンネルや双方向サービスにおける上り信号用のチャンネルを確保するための、既存の450MHz施設の770MHz程度への広帯域化の促進
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○ 伝送容量や通信品質を改善し、多チャンネルサービスや通信サービスを可能とするための、既存のケーブルテレビ施設の幹線の光ファイバ化の促進
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(2) 今後検討を進める必要がある事項
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さらに、以下の事項について今後別途検討の場を設け、更に検討を進める必要がある。
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< 制度的事項 >
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○ 再送信制度の見直し
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○ ケーブルテレビ施設における無線の有効な補完的利用に向けた制度整備
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○ ケーブルテレビ事業に係るハード・ソフト規制の見直し(単独施設者の制度化)
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2 今後のケーブルテレビの高度化目標
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以上を踏まえ、今後のケーブルテレビのあるべき姿についての指針として、2005年及び2010年においては、以下のような姿に進化していることが望ましい。このようなケーブルテレビが実現されることを目標として、必要な制度の見直しや支援策の充実を講じることが特に行政に対して求められる。
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(1) 2005年のケーブルテレビ
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○ 自主放送ケーブルテレビ施設の幹線の光ファイバ化率ほぼ100%
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○ ほぼ全ての自主放送ケーブルテレビ施設が伝送容量770MHz程度の施設に広帯域化
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○ ほぼ全ての自主放送ケーブルテレビが、IPベースの双方向サービス(ケーブルインターネット等)を提供
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○ 公正有効競争条件の確保の下、映像配信分野におけるケーブルテレビと電気通信事業との競争本格化
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(2) 2010年のケーブルテレビ
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○ 難視聴対策施設の役割が終了し、自主放送ケーブルテレビ施設が映像配信サービスを代替(一部の難視聴対策施設のグレードアップを含む。)
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○ ほぼ全てのケーブルテレビがフルデジタル化
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○ ケーブルテレビ局間のネットワーク化が完成し、ほぼ全てのケーブルテレビが複数市区町村を単位としてグループ化