第2章 我が国の情報通信市場の現状と課題

 

1 第1次情報通信改革の成果

  
   昭和60年の第1次情報通信改革によって、独占体制から競争体制への転
  換が図られ、この10年余の間大きな成果が得られている。これらの成果の
  うち重要なものとして以下の事項を挙げることができる。
  
  (1) 多数の事業者の参入
    昭和60年4月以前の電気通信事業者は、電電公社と国際電信電話株式
   会社(KDD)の2社であったが、競争が導入された結果、NCCの数
   は急速に増加し、平成8年1月末現在、第一種電気通信事業者 123社、
   第二種電気通信事業者 2,805社に達している。
   
  (2) 競争分野の料金の低廉化
    昭和60年以降、競争が進展している分野で料金の低廉化が実現してい
   る。
    例えば、自動車・携帯電話の基本料は、昭和60年の3万円から平成7
   年には7,400円と75%程度低廉化している。
    また、長距離電話では、NTTの東京−大阪間の電話料金(平日昼間
   3分間)は、昭和60年の 400円から平成5年には 180円(NCC 170円)
   と55%程度低廉化している。(注)
    さらに、国際電話でも、KDDの日米間国際自動ダイヤル通話料金
   (昼間3分間)は、昭和60年の 1,530円から平成7年には 480円(NCC
    470円)に7割程度低廉化している。
   (注)現在、NTTは、最遠距離(160km超)の料金の値下げを申請し
     ており、申請によれば、東京−大阪間の電話料金(平日昼間3分間)
     は、 140円である。
      また、長距離系NCCは、平成8年3月19日に最遠距離(170km超)
     の料金の値下げを実施する予定であり、これにより東京−大阪間の
     電話料金(平日昼間3分間)は 130円となる。
   
 (3) サービスの多様化、料金体系の多様化
    市外通話等の月決め割引、特定時間帯月決め定額制などの各種割引サー
  ビスやVPN(仮想専用網)、通話料金着信払、3者通話、迷惑電話お断
  りサービスなどの新しいサービスが開始されている。
   
 (4) 設備投資等我が国の経済発展への寄与
   情報通信産業(注1)は、昭和60年以降、我が国の経済社会の中で次第
  にそのウェイトを高め、市場規模、設備投資、雇用などの面で、我が国の
  発展に大きく寄与してきた。今後の我が国経済においても、一層重要な役
  割が期待されている。
  (ア)  市場規模
     昭和60年度14.5兆円だった我が国の情報通信産業の市場規模は、平成
   6年度には25.4兆円に拡大しており、名目GDP比率も 4.5%から 5.4
   %に増加している(注2)。
     この間、電気通信事業の市場規模は、 5.3兆円から 9.6兆円に大きく
   拡大しており、 1.1兆円から 4.5兆円に拡大したソフト・コンテント分
   野とともに、我が国の経済発展に大きく寄与している。
情報通信産業の市場規模と名目GDP比率

  
 (注1)「情報通信産業」とは、ここでは、電気通信事業(第一種、第二種)
    、放送事業、通信放送機器、通信線、情報機器、AV・ゲーム機器、
    計算機ソフト、コンテントを意味している。
 (注2)昭和60年度、平成6年度の名目GDPは、324.2兆円、468.3兆円。

  (イ) 設備投資
     情報通信産業の市場規模の拡大につれて、設備投資も拡大している。
   昭和60年度の 2.2兆円から平成6年度の 3.8兆円へと拡大し、全産業の
   設備投資に占める比率も、8.7%から 9.2%へと増加している。
     このうち、第一種電気通信事業の設備投資額は、平成7年度計画で
   3.5兆円に達し、全産業の設備投資額の 8.2%を占めるに至っている。
   中でも、移動通信分野の伸びが著しく、平成2年度の0.2 兆円から平成
   7年度計画の 1.1兆円へと近年急速に拡大している。
情報通信産業の設備投資額と全産業の設備投資額に占める比率

(注1)全産業の設備投資額は、経済企画庁「法人企業動向調査報告」の数値
   を使用。
(注2)昭和60年度、平成6年度の全産業の設備投資額は、25.3兆円、40.8兆
   円。
第一種電気通信事業の設備投資(平成7年度計画)

 (注1) ( )内は、対前年度伸び率(%)
 (注2) 出典:経済企画庁「法人企業動向調査報告」 (平成7年10月)

  (ウ) 雇用
     情報通信産業の拡大は、雇用面にもその影響が表れている。情報通信
   産業に携わる雇用者(次図の注3参照)の数は、昭和60年度の72万人か
   ら平成6年度の 103万人へと拡大し、全雇用者数に占める比率も、1.2 
   %から1.6 %へと増加している。
     ソフト分野における雇用の拡大のほか、競争事業者の新規参入や移動
   体通信分野における販売代理事業の登場が主な要因となっている。
情報通信産業に携わる雇用者数と雇用者総数に占める比率

 (注1)雇用者総数は、総務庁統計局「労働力調査年報」の数値を使用。
 (注2)昭和60年度、平成6年度の雇用者総数は、5807万人、6453万人。
 (注3)「情報通信産業に携わる雇用者」は、情報通信産業に直接従事する
    雇用者に次の雇用者を加えて算出している。
      ・移動体電話等の販売代理事業に携わる雇用者
     ・PBX(構内交換設備)の設置などの事業に携わる雇用者
       ・NTTの在籍出向者
 
 
 (5) 移動体通信分野の飛躍的な発展
   昭和59年度末には4万であった移動電話の加入数は、平成5年度末 213
  万、6年度末 433万、7年度末見込み 1,000万以上(PHSを含む。)と
  、近年、飛躍的に増加している。
   この急成長の背景としては、競争政策の推進((ア) 自動車・携帯電話、
  PHSを含めて1地域7社体制、(イ) NTTの移動体通信業務の分離・分
  割による公正有効競争条件の整備、(ウ) 端末売り切り制度)及び技術革新
  などが挙げられる。

2 今後の課題

  
   このように昭和60年の第1次情報通信改革以降、得られた成果の一方で
  、次のような課題が指摘されている。
   
  (1) 独占的分野での料金低廉化(引上げから低廉化へ)
    我が国においてNTTの事実上の独占的分野となっている加入電話の
   基本料、公衆電話の市内通話料、近距離の専用線等については、料金の
   引上げが行われてきている。
    例えば、NTTの加入電話の基本料(住宅用3級局)は、昭和60年の
    1,550円から平成7年には 1,750円と13%引き上げられており、公衆電
   話(市内通話料、昼間3分間)についても、昭和60年の10円から平成6
   年には30円と3倍に引き上げられた。
    これらの通信料金は、電気通信事業法に定められた手続に従って、認
   可されたものであり、その限りにおいて正当性を欠くものではない。
    しかしながら、今後は、独占的分野における費用の低減化が可能とな
   るような抜本的方策を講じることによって、通信料金全般の一層の低廉
   化を実現していくことが課題となる。
  (2) 内外価格差の解消
    国際比較の視点に立てば、一部の料金を除いて、我が国の通信料金に
   割高感があることは否めない。
    例えば、電話の加入時一時払金については、我が国の72,800円は、米
   英仏独各国の4〜13倍高い水準にあり、また、国内長距離電話料金(最
   遠距離、平日昼間3分間)についても、我が国の 180円は、米英仏独各
   国の 1.3〜4倍高い水準にある。
    さらに、近距離専用線の料金( 1.5Mbps相当・15Km)については、ニ
   ューヨークやロンドンに比べ3〜6倍の高い水準にある。
    今後は、内外価格差の解消に向けて、通信料金全般の一層の低廉化が
   求められる。
  (注1)米国の料金は、ナイネックス・ニューヨーク社及びAT&T。
  (注2)為替レートは1996年1月4日のレート(1ドル=105.26円、1ポ
      ンド=163.37円、1フラン= 21.33円、1マルク= 72.82円。)。
      以下同じ。

  (3) サービスの多様化等
    米国では、我が国に比べ、サービスメニューがかなり多いとされてお
   り(例えば、長距離通話の割引サービスの種類では米国AT&Tの17種
   類に対してNTTは5種類であり、また、高機能サービスのパッケージ
   割引の種類では米国ナイネックス・ニューヨーク社の5種類に対してN
   TTは1種類である。)、今後、我が国においても、利用者のニーズに
   応えた多様なサービスが導入されていくことが課題となる。
    また、NTTの電話の新設・移転工事が利用者の希望する土・日・祝
   日に行われていない場合があることなどから、今後、利用者の利便に資
   する窓口サービスの向上が課題である。
  
  (4) 地域通信分野の競争促進
    我が国の地域通信分野は、NTTが県内通話回数の99%を占めるとい
   う独占的状況になっている。
    このようなNTTの独占的状況の下で、長距離系NCC3社は、電話
   収入 6,284億円(平成6年度、相互接続通話料を含む。)のうち 3,103
   億円(対収入比 49.4%)をNTT地域網への接続費用としてNTTに
   支払っている。独占的状況下において、このようなNTTの地域通信網
   の効率化インセンティブが十分働かないとすれば、NTTの地域通信網
   を足回りとして利用する国内、国際を通じたあらゆる事業者の料金の低
   廉化の支障になるおそれがある。
    したがって、今後、独占的な地域通信分野の競争促進が課題となる。
  
NTTへの接続費用の支払状況(電話:平成6年度)

電話収入
(注1)
NTTへの支払費
(注2)
長距離系NCC3社
第二電電(株)
日本テレコム(株)
日本高速通信(株)
6,284億円 3,103億円
長距離系NCC3社の電話収入に占めるNTT支払い費の比率
49.4%
      (注1)相互接続通話料を含む。
   (注2)相互接続通話料、IGS(相互接続用関門交換機)使用料、L
      S(加入者交換機)・TS(中継交換機)改造費、ID(利用者
      識別信号)工事費の合計

  (5) 公正有効競争の促進
    地域通信網の独占的状況を背景として、次のような公正有効競争上の
   問題が生じている。
   (ア) 接続をめぐる問題
     NCCとNTT地域通信網の間で接続交渉が円滑に行われない事例
    が生じ、新しいサービスの我が国への導入が遅れている。
     例えば、長距離系NCC3社は、平成元年よりVPNサービスのた
    めの接続をNTTに要求していたが、NTTが平成6年2月にVPN
    サービスを開始する一方で、NTTとの接続交渉が難航したため、平
    成6年11月、NCC3社は郵政大臣に接続命令の申立てを行った。同
    年12月、郵政大臣がNTTに対し、接続協定を締結すべきことを命令
    し、平成7年5月、NCC3社がサービスを開始した。
     また、フレームリレーサービスについても類似の事例があった。

我が国の通信市場

   
   
   (イ) 個人情報の利用
     平成5年から6年にかけて、NTTが、地域通信部門の業務を通じ
    てNTTのみが入手可能な電話帳掲載省略者の電話番号を長距離通信
    分野での競争に本来の目的外で利用し、公正有効競争上問題となった。
   (ウ) 取引条件をめぐる問題
     NTTにおける鉄塔設備使用料及びガス保守設備使用料に係る社内
    取引が長距離系NCCとの間における取引と同一の取引となっていな
    いことが指摘されているなどNTTの取引条件について公正有効競争
    上の問題が生じている。
     
    したがって、今後は、公正有効競争の一層の促進が課題となる。
    
  (6) 相互参入の促進
    情報通信分野においては、国内通信/国際通信、地域通信/長距離通
   信、固定通信/移動通信、通信/放送、通信インフラ/コンテント等の
   事業の運営が各領域ごとに行われている現状にある。
    今後、競争を一層促進する観点から、これら事業分野間の相互参入を
   促進することが課題となる。
  
  (7) 国際競争力の向上
   (ア) 海外市場への展開
     アジア、東欧、中南米などの国々において情報通信のインフラ整備
    に対する需要が増大している。また、欧米の市場も競争促進政策が強
    化される中で、相互に参入の動きが拡大しつつある。このような状況
    の中で、我が国では、NTT及びKDDが、アジア、ロシア及び米国
    の7か国に進出しているに過ぎず、海外投資額を見ても、NTT(1
    億ドル)は、欧米の主要通信事業者(BT 104億ドル、AT&T92億
    ドル等)に比べて極端に小さいなど海外分野への展開は遅れている。
   (注)( )内は1987年から1993年までの海外投資累計額(通信機械工
     業会資料より)
   (イ) 海外事業者との提携
     前述したとおり、企業活動のグローバル化に伴い、国境を越えた通
        信事業者間の提携が進んでいる。
     主なものとして、AT&Tを中心としたワールドパートナーズ、B
    TとMCIを中心としたコンサート、ドイツテレコム・フランステレ
    コム及びスプリントによるグローバル・ワンといった3つのグループ
    化の動きが挙げられる。
     このような動きは、国際通信市場の競争であり、国際通信市場は、
    我が国で言えば、国内・国際通信市場を合わせた市場の5%弱(平成
    6年度)の市場であることに留意する必要があるが、今後の成長性に
    かんがみ、積極的な対応をしていくことが期待される。我が国の通信
    事業者としては、ワールドパートナーズにKDDが参加、NTTが期
    限付きで試行参加しているが、中核的な役割を果たすには至っていな
    い。
   (ウ) グローバル通信サービスの提供
     前述したとおり、LEO衛星通信技術などの移動通信技術の開発に
        よって、グローバル通信サービスが期待される。
     したがって、今後、これら情報通信のグローバルな展開に積極的に
    対応していくことが課題である。
  
  (8) 情報化格差の解消
    我が国の情報化については、パソコン通信やインターネットに見られ
   るようなネットワーク化、パソコンなどの情報通信機器の普及、データ
   ベースやCD−ROMなどのコンテントのいずれをとっても、情報通信
   の最先進国と言われる米国と比べ大きな格差があるとされている。
    今後、このような情報化格差の解消が課題である。
   【日本と米国との情報化格差の例】

米 国日 本1人当たり
米/日
(注)
備  考
電子メールボックス数(万) 4,000 313 6 テレコム高度利用推進センター
(1994年)
インターネット接続ホスト(千台) 6,053 269 11 Network Wizards 社
(1996年1月)
パソコン出荷台数(万台) 1,840 335 3 日:日本電子機械振興協会
米:IDC社
(日米とも1994年)
データベース売上高(億円) 14,315 2,108 3 日:情報通信年鑑95
米:US Industrial
Outlook 94
(日米とも1993年)
CD-ROM市場規模(億円) 6,300 830 4 日:マルチメディア白書
米:InfoTech社
(日米とも1993年)
CATV加入数(万) 6,102 221 13 日:郵政省(1995年)
米:NCTA (1995年)
移動電話の加入数(万) 2,815 535 3 日:郵政省
米:CTIA
(日米とも1995年6月)
  (注)1人当たり米/日の数値は、
   (米国の数値/日本の数値)×(日本の人口/米国の人口)として計算
  
  (9) 研究開発力の向上
     我が国の全産業で見た技術貿易は、ここ数年の間、輸出入がバランスし
   た状態で推移しているが、通信・電子・電気計測器分野の技術貿易は、大
   幅な輸入超過となっている。また、科学技術庁の調査によれば、通信・電
   子・電気計測器分野の民間企業の研究開発力について、1991年から1994年
   の3年間で我が国の米国に対する優位が劣位に転じたと評価されている。
   さらに、米国の主要企業及び大学から成る民間団体である「競争力に関す
   る評議会」の評価によれば、民間の情報通信分野についてはソフトウェア
   分野をはじめとして多くの分野において米国が優位であると評価されてい
   る。
    これらのことから、我が国としては、現状を低下させないとか、あるい
   は現状を維持するといった言わば防御的な視点でなく、現状を改革し向上
   させる必要があるとの視点に立って、より一層の研究開発力の向上を課題
   とすべきである。
〔参考〕  企業の研究開発力の日米比較

      出典:科学技術庁「民間企業の研究活動に関する調査報告
     (平成6年度)」 
   (注)企業の回答について、我が国優位の場合+1点、同等0点、米国
     優位−1点として算出した得点を、評価を回答した企業数で割って
     比較優位の指数を算出している。

  (10) コンテントの発展
    コンテントについて見れば、我が国のゲーム、アニメーション、カラ
   オケは国際的に認知されてはいるものの、例えば、CD−ROM等につ
   いては、十分な発展が見られていない。
    今後、教育・芸術・生活などの幅広い分野でのコンテントの発展が課
   題である。
   
  (11) 要約
    以上、情報通信市場の現在の課題を個別に述べてきたが、これらを集
   約すると、今後、大きくは以下の観点から情報通信市場の改革を検討し
   ていく必要があると考えられる。
   (ア) 国民利用者に対する低廉な料金、ニーズに合致した多様なサービス
    の実現
   (イ) 電気通信事業者相互間をはじめとする競争の促進
   (ウ) 積極的なグローバル対応、研究開発力の向上など情報通信産業の国
    際競争力の向上

3「日本電信電話株式会社法附則第2条に基づき講ずる措置」の結果の評価

   (1) 「日本電信電話株式会社法附則第2条に基づき講ずる措置」(いわゆ
   る「政府措置」)の推進
   (ア) いわゆる「政府措置」は、平成2年3月の電気通信審議会答申にお
    いて、
    (a) 長距離通信業務の分離、
    (b) 地域通信会社は当面1社とし、引き続き検討課題
    として提示された構造的措置が実施に至らず、平成7年度に検討され
    ることになったことに伴い、代替的な非構造的措置として推進が決定
    されたものである。
     その内容は、「公正有効競争の促進」及び「NTTの経営の向上等
    」の措置18項目から成っている。(詳細は、資料5を参照)
   (イ) それ以降これまでの間、郵政省及びNTTは、これらの措置の推進
    、実現に努力してきたが、構造的措置を伴わないものであったことか
    ら、以下で見るように成果を挙げたものもあるが、総合的に見れば実
    現が不十分な点が多い。

  (2) 公正有効競争の促進
   (ア) 事業部制の徹底等
     平成4年4月、NTTにおいて、長距離通信事業部、地域別事業部
    制を導入し、同年度から長距離、地域別の収支が開示されたことは成
    果として評価できる。
     しかし、事業部制の導入・徹底の趣旨は、公正有効競争条件の整備
    等を図ることにあるにもかかわらず、後述するように、事業部制導入
    後も、事業者間接続交渉の難航・長期化、情報流用に関する事例の発
    生など公正有効競争上の問題が発生している。
     また、NTTにおいて、地域・長距離一体型の営業が行われており
    、公正有効競争上の問題が改善されていないとの指摘もなされている。
    
   (イ) 接続の円滑化
     NTTと地域通信網との接続の円滑化を図るため、
    (a) POI(相互接続点)設置の円滑化
    (b) IDの自動送出化
    (c) 長距離系NCCに係る料金へのエンドエンド料金制度の導入
    (d) 事業者間接続料金制度の導入
    等の措置が講じられた点は(注)、成果として評価できる。
     しかし、NTTが独占的地域部門と競争的長距離部門を一体的に経
    営していることからくる利益相反的な構造の中で、フレームリレーサ
    ービス及びVPNサービスにおいて接続交渉が長期間難航し、接続命
    令の申立てが行われるなどの事例が発生している。
     また、次のように、NTTにおいて接続料金の低廉化や技術的条件
    のオープン化へのインセンティブが働きにくい状況は改善されていな
    い。
    (a) 接続申込みから接続の実現までに長期間を要している。
    (b) 接続費用の算定方法、根拠となる会計資料の提示が十分でない。
    (c) 長距離系NCC3社は、電話収入の約5割を接続費用としてNT
     Tに支払っている。
    (d) 接続費用がネットワークの設備や機能ごとに細分化されていない。
    (e) 加入者交換機への接続について、接続条件が明らかとなっていな
     い。
    (f) 信号網接続が実現していない。
   (注)「新規参入電気通信事業者(NCC)との接続の円滑化について」
     (平成3年3月29日NTT)

   (ウ) ネットワークのオープン性の確保
    (a) NTTと第二種電気通信事業者間の接続
      平成3年7月、第二種電気通信事業者の要望をNTTのネットワ
     ーク構築に反映させ、第二種電気通信事業者へのNTTの網機能の
     円滑な提供を実現することを目的としてオープンネットワーク協議
     会が設立され、協議が行われてきた。しかし、第二種電気通信事業
     者は、NTTから利用者として扱われているため、網機能の利用面
     でNTTと第二種電気通信事業者間の協議が円滑に進んできたとは
     言えない状況にある。
    
    (b) NTTの加入者交換機等への接続
     i NTTは、平成7年3月にすべての段階での接続を可能とする
      方針を発表し(注1)、また、同年9月には加入者交換機等への
      接続を可能とする方針を改めて発表した(注2)。郵政省では、
      平成7年2月に競争促進のため、あらゆる交換局での接続を行う
      ようNTTに対して求めており(注3)、このような観点からは
      、NTTの方針発表は、前進と言える。
       一方で、次のような点から、NTTの方針は必ずしも詳細が明
      らかでなく、評価が困難な点が存在する。
      (i) 標準的なインタフェースが用意されない場合、NCCからの
       申込みの都度、技術的検討、設計、開発等が行われることにな
       り、結果的に接続までの期間が長期化する可能性があること
      (ii) コストの範囲及び算出方法に透明性がなければ、NTTが使
       用するコストとNCCに負担を求めるコストが同水準かどうか
       検証できないこと
      (iii) 接続に必要なコストについては、NCC側のコスト負担を前
       提に対応することとしているが、コストいかんによっては、N
       CCが負担できず結果的に接続できない可能性があること
     (注1)「接続協議の手順等の明確化に関する具体的な措置の報告
        について」(平成7年3月31日NTT)
     (注2)「ネットワークのオープン化について」(平成7年9月28
        日NTT)
     (注3)「NTT地域通信網との接続協議の手順等の明確化につい
        て」(平成7年2月23日郵政省)
     ii また、加入者交換機等接続を実現したとしても、加入者交換機
      及び加入者線の独占的状態は継続することとなり、事業体にとっ
      てはコストを削減するインセンティブが働きにくい。
     iii このように、NTTの加入者交換機等への接続については、評
      価が困難な点が存在するとともに、加入者交換機及び加入者線部
      分の地域通信網については、独占的状態が依然継続すると考えら
      れる。加入者線部分(現在、NTTの営業費用全体の約25%を占
      める)をはじめとするこうした部門をどのように効率化させてい
      くことができるかということが重要な課題として残る。
   
   (エ) 内部相互補助の防止
     平成4年2月、事業部収支分計の基準等を郵政省が決定し(注)、
    各事業部間の社内取引の基準が明確化されるとともに、長距離系NC
    CがNTTとの間において行っている取引については、これと同一の
    条件により長距離通信事業部と地域通信事業部の間において社内取引
    を行うものとされた。
     なお、前述したとおり、社内取引が長距離系NCCとの間における
        取引と同一の取引となっていないことが指摘されているなど公正有効
        競争上問題が生じている。

   (注)「長距離通信事業部、地域別事業部制の導入・徹底、収支状況の
     開示に係る資産・負債等の区分及び収支分計の基準等について」
     (平成4年2月21日郵政省)
    
   (オ) 情報流用の防止
     NTTにおいて、情報流用の防止のための社内体制の整備、情報利
    用の適正化に関する社内規程の整備等の措置が講じられたが、前述し
        たとおり、地域通信部門の業務を通じて、個人情報を目的外に利用す
        る事例が相次いで発生し、また、加入者情報の管理が徹底していない
        との指摘も行われている。
    
   (カ) 情報の積極的開示
     公正有効競争上不可欠なNTTの情報については、電気通信事業報
    告規則の改正(注1)や接続手順の明確化の行政指導(注2)を通じ、
    (a) 単位料金区域(MA)間の通信回数・通話量等のネットワーク情
     報の開示
    (b) ネットワーク情報、技術情報等の開示に関する問い合わせなどの
     窓口の設置及び開示可能な情報の一覧の作成(注3)
    (c) 相互接続条件に影響を及ぼす可能性のある網機能の追加・変更の
     官報公示
    等の措置が講じられた。
     ただし、前述したように、接続費用の算定方法、根拠となる会計資
        料の開示が十分でない等、NTT地域通信網に接続するために必要な
        情報の開示は不十分である。

    (注1)平成2年郵政省令第28号(平成2年5月30日公布・施行)
    (注2)「情報の積極的開示及び研究開発成果の普及について」(平
       成3年3月15日郵政省)
    (注3)「技術情報の積極的開示及び研究開発成果の普及に関する取
       り組みについて」(平成3年3月29日NTT)
     
   (キ) 研究開発成果の普及
     外販基準を含むNTTの開示基準において、NTTの研究開発成果
    は原則としていつでも開示することとされたが(注)、例外的な技術
    については開示する時期をNTTが個別に判断することとしている。
    この例外的な技術の範囲が不明確であることから、研究開発成果の開
    示の透明性が十分に確保されていない。

    (注)「技術情報の積極的開示及び研究開発成果の普及に関する取り
      組みについて」(平成3年3月29日NTT)
       「『接続協議の手順等の明確化に関する具体的な措置』につい
      ての関係者からの意見に対する考え方等の報告について」(平成
      7年8月31日NTT)
    
   (ク) 移動体通信業務
     平成4年7月、NTTから移動体通信業務を分離し、新会社NTT
    移動通信網(株)が営業を開始するとともに、平成5年7月、9社に地域
    分割された。
     NTTからの分離により、内部相互補助、情報流用などの公正有効
    競争上の問題が改善された。また、地域分割により、地域ごとに参入
    している移動系NCCとNTT移動通信網各社が同等の立場で競争を
    行う基盤が整備された。
     このような公正有効競争条件の整備等により、地域分割された平成
    5年7月以降、保証金(10万円)廃止、新規加入料で約87%、基本料
    で約43%、通話料で約12%の大幅な料金値下げが行われ、移動体通信
    市場は急速に成長している。
     一方、NTTはNTT移動通信網(株)に対し、95%という極めて高い
    比率で出資しており、今後、公正有効競争条件の整備のため、NTT
    の出資比率を低下させることが課題である。

   (ケ) 端末機器販売業務
    (a) 平成2年7月、NTTは、端末機器販売部門と電気通信業務部門
     を分離する組織改正を実施した。
      しかし、端末機器販売部門の組織が地域通信事業本部の支店から
     分離されていない例や、端末機器販売部門が分離された地域通信事
     業本部の支店においても、従前どおり端末機器の販売が行われてい
     る例などがあり、組織・業務の分離が徹底されていないことが指摘
     されている。
    (b) また、NTTしか知り得ない加入者情報を利用して端末機器を販
     売するなど、市内回線網を有する第一種電気通信事業者としての優
     越的地位を利用した端末機器販売が実施されている例があることが
     指摘されている。

   (コ) 衛星通信業務
     平成2年度以降衛星通信業務の収支分計が行われていることは、成
    果として評価できる。
     今後とも、NTT地域通信網に対するNTTと衛星系NCCの同等
    性の確保を図り、公正有効競争条件を整備する必要がある。
     なお、NTTは、N−STAR衛星を保有しているが、現時点にお
    いては、同衛星を地上網の補完として利用することとしており、利用
    者に対するサービスは他事業者の衛星を利用することとしている。

   (サ) デジタル化の前倒し
     平成9年度末までにデジタル化を完了する計画が順調に推移してお
    り、成果として評価できる。

   (シ) 番号計画の在り方
     NTTとNCCのイコールフッティングや番号ポータビリティ(加
    入者が事業者を変更しても、同一の番号を利用できること)が実現し
    ていないなど、公正有効競争上の問題が見られる。

   (ス) 単位料金区域(MA)の設定の在り方
     郵政省において近距離通話の在り方に関する研究会報告書(平成4
    年6月)を取りまとめ、MAの設定の在り方の改善方策が示されたが
    、NTTにおけるMAの在り方についての検討は進んでおらず、経済
    圏及び生活圏の広域化に対応したMAの抜本的見直しが行われていな
    いことが指摘されている。

   (セ) 電気通信事業者用割引料金の導入
     長距離系NCCに対する事業者間接続料金、KDD及び国際系NC
    Cに対する業務委託費、アクセス回線としての専用線の利用に対する
    接続専用回線料及びパケット通信サービスを提供している特別第二種
    電気通信事業者に対する約款外役務料金について、設備使用形態の違
    いの反映、商品の販売活動等に関する費用の除外などにより、利用者
    料金より低い水準の料金等が設定されている。
     ただし、地域通信網が事実上NTTによる独占状態にあることから
    、NTTには電気通信事業者用割引料金導入のインセンティブが働き
    にくい状況は改善されていない。

   (3) NTTの経営の向上等
   ア 合理化の推進
    (ア) 今後、マルチメディアの発展や我が国経済全体の低コスト化、国
     際競争力の向上等を図るため、情報通信サービスの料金の全般的な
     低廉化が強く求められている。

    (イ)  なかでも、NTTは、国内通信市場の大宗のシェアを占める基幹
     的電気通信事業者であり、その料金水準が我が国経済が負担する通
     信コストの水準に大きな影響を及ぼす存在である。
      また、NTT地域通信網のコストは、NTT地域通信網に依存す
     るあらゆる事業者にとってのコストでもある。

    (ウ) したがって、NTTのネットワーク、特に地域通信網の低コスト
     化を図ることが求められており、この観点から、NTTの経営の向
     上、すなわち合理化の推進が極めて重要な課題である。

    (エ) NTTが、平成5年に新たな合理化計画を策定するなどにより、
     民営化当時の31万人を平成6年度末には20万人以下の体制にするな
     ど要員数の削減に努めてきたことは成果として評価できる。(詳細
     は、資料17を参照)
      しかし、他方で、
     (a) 在籍出向者が約3万人存在し、在籍出向者に対する給与の源泉
      は、NTT本体から子会社への作業委託費に計上されている。
     (b) それを反映してNTTの総費用に占める人件費と作業委託費の
      合計の比率は、民営化以降年々上昇し、平成5年度には47.9%
      (民営化時41.8%)に達している。
       したがって、NTTが近年行っている、業務の子会社への切り
      出しによる要員の削減については、それが真に経営の効率化につ
      ながるものであるかという観点から評価していく必要がある。

    (オ) また、平成7年6月の総務庁の行政監察に基づく勧告においても
     、NTTの番号案内業務、保守業務、 116番受付(注文等受付)業
     務及び 113番受付(故障受付)業務等について、業務量に対応した
     要員の配置の不徹底、拠点の統廃合の不徹底等が指摘され、業務量
     に応じた要員の合理化、拠点の一層の統廃合等が必要であるとの指
     摘がなされている。

    (カ) さらに、当該行政監察において、郵政省は、NTTに対し、新た
     な合理化計画を自主的に作成し、各業務分野について、更に業務運
     営及び要員の効率化・合理化を行うことなどにより、経営の効率化
     を図るよう指導する必要があるとの勧告がなされている。
      これを受け、平成7年9月に、NTTから郵政省に対して、改善
     措置状況の報告が行われた。しかし、この報告内容について具体的
     な措置内容及び実施時期が明らかになっていないことから、これら
     を明らかにするとともに、早急に報告を行うよう、同月に郵政省か
     ら指導を行っているが、NTTは、現在でも、これらを明らかにし
     ていない。

    (キ) また、平成7年11月に、NTTは2000年までに15万人体制を実現
     することを発表したが、合理化の具体的な措置内容及び実施時期が
     明らかにされておらず、現時点ではどの程度のコスト削減効果が生
     じるかが不明確である。
    
NTTの人件費の推移
      (注1) ( )内は総費用に占める比率(%) 
      (注2) 出展:総務庁行政監察局「電気通信事業に関する行政
              監察結果報告書」(平成7年6月)

   イ 保守部門
     NTTの交換設備有人保守拠点については、設備のデジタル化や遠
    隔監視制御装置の導入などにより、平成元年度末 470か所から平成6
    年度末 250か所に集約された。また、効率化を図るため、局外系設備
    の調査・点検等の保守業務の分社化が図られたが、NTT交換機及び
    伝送無線設備の分散保守業務を行う有人保守拠点を1県1拠点程度に
    集約するなどにより一層の要員合理化を計画的に行う必要があるなど
    の指摘がなされている。
   
   ウ 株主への利益還元
     平成7年4月のNTTデータ通信(株)の株式上場に伴い、NTT保有
    のNTTデータ通信(株)の株式売却益をもとに、同年9月、NTTは、
    株主に対し、NTT株1株に対し、NTT株0.02株を無償交付した。
    
  (4) 規制の在り方
   ア これまで実施してきた主な規制緩和は次のとおりである。
    (ア) 平成4年5月、NTT法及びKDD法を改正し、NTT及びKD
     Dへの外資参入を5分の1未満まで可能にするとともに、NTTに
     ついてエクイティ・ファイナンスの円滑化を行った。
    (イ) 「緊急経済対策」(平成5年9月)を受け、携帯・自動車電話等
     については平成6年4月から、無線呼出しについては平成7年3月
     から、それぞれ売り切り制を導入した。
    (ウ) 平成7年10月、電気通信事業法を改正し、国民生活、国民経済に
     密接に関連した料金以外は事前届出制とし、認可対象となる料金の
     数を半数以下に縮減した。
    (エ) 平成8年1月、業務委託の弾力化、料金規制の一層の緩和などを
     盛り込んだ「『第2次情報通信改革』に向けた規制緩和の推進につ
     いて」と題する規制緩和策が、郵政省において発表された。
   イ なお、この規制の在り方については、例えば、次のような指摘があ
    る。
    (ア) 現行の接続に関する制度は、事業者間の協議に委ねることを原則
     としているが、独占的な地域通信網を有するNTTとの接続につい
     ては、このことが結果的に、接続交渉の長期化の一因となった面も
     ある。
      したがって、接続の義務化や接続条件の約款化など基本的ルール
     の策定等について行政が早期に法的措置を含め検討すべきである。
    (イ) NTTは国内通信、KDDは国際通信という区分は、従来、専業
     体制の下で能率的な設備構築、サービス供給を行うには有効であっ
     たが、相互参入の促進を通じた情報通信分野の一層の活性化を図る
     ためには、見直しが必要となってきている。
      さらに言えば、NTTの国際通信への進出については構造的な措
     置が前提になるとしても、ボトルネック設備を有しないKDDにつ
     いては国内通信業務への参入を早期に認めるべきである。