第4章 NTTの在り方
NTTの在り方については、次のような三つの観点から検討する必要が
ある。
第一に、国民利用者の利益増進や我が国の情報通信産業の活性化のため
にNTTに期待される役割とは何か。
第二に、NTTに期待される役割との関係で、NTTの現行経営形態が
適切かどうか。もし、見直しが必要とすれば、その際に考慮すべき事項は
何か。
第三に、再編成を行う場合には、その具体的な姿はどのようなものか。
1 NTTに期待される役割
1-1 低廉な料金、多様なサービスの実現
(1) 低廉な料金
(ア) これまで述べてきたように、NTTは長距離料金の低廉化に努め
てきた。しかしながら、我が国の料金は、国際比較の視点に立てば
、なお割高な面があることは否定できず、今後、国民生活、社会経
済活動のあらゆる場面において、最大限に情報通信を活用していく
時代を迎えることから、通信料金全般の一層の低廉化が期待されて
いる。
(イ) また、NTTが事実上独占している地域通信網には、ほとんどあ
らゆる情報通信事業者が依存せざるを得ない。したがって、NTT
の地域通信網のコストの水準は我が国のあらゆる情報通信サービス
の料金水準を左右することからも、その低廉化が期待されていると
ころである。
(ウ) 以上のように、NTTに対しては、低コスト構造の情報通信産業
を実現する上で大きな役割が期待されている。
(2) 多様なサービス
(ア) NTTは、デジタル化の進展に伴いサービスの多様化に努めてき
ている。しかしながら、米国などに比べると、サービスの多様化が
不十分であるとの指摘がある。
(イ) 今後、マルチメディア時代においては、国民利用者が自己のニー
ズに合致したサービスを自由に選択できるようにすることが望まし
い。
(ウ) したがって、NTTにおいては、迅速、機動的な意思決定に基づ
き、新しいサービスの開発に積極的に努めていく役割が期待されて
いる。
(エ) こうした観点からすれば、現在のような我が国の民間企業として
は異例の巨大な経営組織が、多様なサービス実現にとって望ましい
体制かどうか見直しが必要と考えられる。
1-2 公正有効競争条件の整備
(ア) 1-1の料金の低廉化、サービスの多様化のインセンティブを与える
ためには、今後、競争を一層促進していく必要がある。
(イ) NTTは、これまでも事業部制の導入など公正有効競争条件の整備
に努めてきている。しかしながら、NTT社内の長距離通信事業部と
地域通信事業部との間で内部相互補助が行われる可能性が常にある、
地域通信事業部で得られた加入者情報が長距離通信部門の競争に流用
されているといった問題点が指摘されている。
また、長距離系NCCの利用者は、NTTに比べ番号を4けた多く
回す必要がある、信号網接続もNTT社内の事業部間と同等の取扱い
がなされないなどの問題点も指摘されている。
(ウ) 今後、NTTは、我が国の基幹的事業者として、公正有効競争条件
の整備に一層努めることが求められている。
(エ) その際、こうした公正有効競争上の問題は、NTTが長距離通信事
業部と地域通信事業部とを一体的に経営していることから、不可避的
に発生せざるを得ない点に十分留意する必要がある。
1-3 接続の円滑化
(ア) 従来、NTTにおいても、接続の円滑化に努めてきたところである。
しかしながら、NTTの地域通信網と他事業者との接続交渉は、難航
することが多い。
(イ) 接続の円滑化は、競争促進のため、また、新しいサービスの早期導
入のためには不可欠であることから、今後、NTTは他事業者に対し
て、あらゆる段階での交換局で、合理的な料金と、合理的な期間内に
接続を行うことが期待されている。
(ウ) このような接続の円滑化のためには、前述のように接続の基本的ル
ールの明確化等の措置を講じていくことが不可欠であることは言うま
でもないが、従来、接続交渉が難航した大きな原因として、長距離・
地域の一体経営からくる利益相反的な構造があることに十分留意する
必要がある。
1-4 情報通信産業の国際競争力の向上
(1) 海外市場への展開
(ア) NTTは、これまで、欧米の主要通信事業者に比べ海外市場への
展開事例が極めて少ない。今後、開発途上国などへの先進国事業者
の進出がますます活発化していくと考えられ、NTTをはじめとす
る我が国の通信事業者もメーカ、商社等と連携して積極的に海外へ
展開していくことが期待されている。
(イ) このような海外市場への展開を図る上では、一般に、国内市場に
おける多元的な競争環境、通信事業者・メーカ・商社等の緊密な連
携、政府の支援など多面的な環境整備が必要である。
(ウ) その中で、NTTの海外への展開については、機動的な経営に基
づいて、海外において求められる低廉かつ良質な通信システムが供
給可能かどうかが、重要な要素になると考えられる。
これにより、海外展開が進めば、我が国情報通信産業全体の国際
競争力も更に向上するものと考えられる。
(エ) また、前述したように、現在、NTTが海外市場への展開をほ
とんど行っておらず、他方、NTTよりも経営規模の小さい欧米の
通信事業者が積極的に海外進出を行っていることから判断すれば、
現在のような巨大な経営規模が海外市場への展開に不可欠な条件と
は言えない。
(オ) 海外市場展開の上では、規模よりも、むしろ価格の低廉さ、サー
ビス・性能面での優位、アイデアの独自性、迅速な経営判断、研究
開発力、信頼性等の諸要素の向上が不可欠と考えられる。このこと
から、NTT自身が国内の激しい競争環境の中に置かれることが、
より重要であると考えられる。その意味で、国内の競争政策の在り
方は、NTTの海外市場への展開を左右するものと言える。
(2) 海外事業者との提携
(ア) 現在、国際通信の分野では、多国籍企業を中心とするグローバル
な国際通信ニーズに対応するため、世界各国の通信事業者が国境を
越えて提携する動きが見られる。
(イ) 具体的には、前述したように、3つのグループが形成されており、
我が国の通信事業者としては、ワールドパートナーズにKDDが参加
しているほか、NTTが期限付きで試行参加している。
(ウ) このように、現状においては、NTTは世界的な事業者提携にお
いて中核的な役割を果たしていないが、今後はより積極的な対応を
図っていくことが期待されている。
(エ) ただし、6千万加入の地域通信網を保有するNTTが、特定の提
携グループに属すれば、NTTが属さないグループの国際通信事業
者と、NTTが属するグループの国際通信事業者との間での公正有
効競争上の問題が生じるおそれがある。したがって、NTTが世界
的な事業者提携に積極的に参画するためには、公正有効競争を担保
する方策を併せて検討することが必要となる。
1-5 コンテント事業の発展とのかかわり
(ア) 我が国でも、今後、コンテント事業が拡大、発展していくことが期
待される。
(イ) そのためにNTTが今後、二つの面で大きな役割を果していくこと
が期待されている。
(ウ) まず、コンテント事業の発展のためには、コンテントの制作・流通
に要する通信コストが低廉化することが不可欠であり、NTTの提供
するサービスの料金が飛躍的に低廉化していくことが求められる。
(エ) さらに、NTTがコンテント事業者と連携する形で、あるいは自ら
コンテント事業に積極的に取り組むことも、我が国のコンテント事業
の発展にもつながるものと期待される。
ただし、NTTがコンテント事業にかかわる際には、一般のコンテ
ント事業者と、通信事業を兼営するNTTとの間の公正有効競争条件
の確保が必要となる。
1-6 研究開発力の向上
(ア) 研究開発を取り巻く環境変化の一つは、マルチメディアへの移行で
ある。
マルチメディア時代の研究開発については、ニーズの多様化・高度
化、技術の高度化、学際領域的技術分野の拡大、複合化等の急速かつ
大きな変化に迅速に対応することがより重要となる。
(イ) もう一つの環境変化は、グローバル化である。グローバルなマーケ
ットを対象に、デファクト標準の地位を目指す様々な取組も世界的に
行われている。したがって、研究開発もこのようなグローバルな動き
に十分対応できることがより一層重要となる。
(ウ) このような大きな環境変化の中で、今後我が国の研究開発の一層の
活性化を図るためには、
(a) 人材の育成
(b) 産学官の連携の強化
(c) 基礎的・先端的技術開発に対する国の積極的な取組
などと合わせて、自立的に意思決定が可能な多数の組織が、多元的・
機動的な連携により、ダイナミックな競争を促進することが重要であ
る。
(エ) NTTの研究開発も、マルチメディア化、グローバル化といった環
境の大きな変化を踏まえ、国際市場の動向を踏まえたダイナミックな
研究開発競争の中で、我が国全体の研究開発力の向上に貢献していく
ことが期待されている。
1-7 情報通信基盤整備への寄与
(ア) 光ファイバをはじめとする情報通信基盤の整備は、今後の成長分野
であるマルチメディア産業の基盤であるとともに、国民生活・産業経
済全般の情報活動を支え、持続的な経済成長、雇用の創出など、現在
我が国が直面している様々な課題を解決していく上で不可欠である。
(イ) したがって、その整備に際しては、民間活力の活用を基本として、
NTTも、その他の通信事業者、CATV事業者と競争しつつ、国全
体として早期かつ全国的に均衡のとれた情報通信基盤の整備に大きな
役割を果たすことが望ましい。
2 NTTの再編成の意義
2-1 再編成を必要とする理由
(1) ボトルネック独占解消による競争の促進
(ア) 前述したように、ボトルネック独占の弊害を防止する観点から、
非構造的措置に加えて、構造的措置を併せて講ずることにより、競
争促進の効果を抜本的に高めることが必要である。
(イ) 具体的には、NTTの独占部門と競争部門を分離することによっ
て、競争部門の競争を一層促進するとともに、再編各社間のヤード
スティック競争、あるいは直接競争によってボトルネック独占力の
行使を防止するとともに、それ自体の解消を目指すことが必要とな
る。
これにより、NTTの経営効率化のインセンティブが向上するこ
とが期待される。
(2) 国民利用者に対する低廉かつ多様なサ−ビスの実現
NTTを再編成して強力な競争単位を創出すれば、新NTT各社間
の間接・直接競争、さらには他の事業者との間の競争も進展し、市場
全体が大きく活性化されることによって、通信料金の低廉化、通信サ
ービスの多様化に資すると考えられる。
(3) 強力な競争単位創出による国際競争力の向上
(ア) マルチメディア時代は、多様なアイデアをベースとした独創性が
重要な競争上の要素となる。NTTの再編成による強力な競争単位
の創出は、NCC、CATV、コンテント事業などとの多様な提携
、競争関係を生み出し、独自性に富む事業展開が行われることによ
ってデファクト標準への取組を含め国際競争力の向上につながるも
のと期待される。
(イ) また、海外市場への展開についても、強力な競争単位としての新
NTT各社が、互いに競争しながらメーカや商社と連携した活動を
強めることは、我が国の国際競争力の向上につながる。
(ウ) さらに、長距離通信業務を独占的な地域通信業務から分離すれば
、長距離通信会社(長距離NTT)は自由度が高まり、国際通信と
の兼業が可能となることによって、現在生じつつある国際通信サー
ビスをめぐる世界的な事業者連携に迅速かつ多元的な対応が可能と
なる。
(エ) 以上のように、NTTの再編成は、強力かつ機動的な経営単位の
創出によって、我が国情報通信産業の国際競争力を強化するために
不可欠である。
(4) 再編成を行わない際の問題
仮に、NTTの再編成を行わない場合には、(1)〜(3)に述べる効果が期
待できないほか、次のような問題がある。
(ア) ボトルネック独占の存続により、
(a) NTTの経営効率化のインセンティブが高まらない
(b) 公正有効競争上の問題が継続する
(c) その結果、利用者へのサービスの向上、料金の低廉化へのイン
センティブが高まらない
などの問題が残る。
(イ) また、行政による行為規制などの非構造的措置のみによる競争促
進策については、その実効性に限界があるとともに、規制の時間と
コストが大きくなりかねない。
(ウ) NTTは、例えば、長距離通信分野のうち東名阪などでは、かな
りの競争下にあるものの、我が国の通話市場全体に対しては、1社
で90%以上のシェアを有しており、競争のダイナミズムが将来とも
生じにくい。
(エ) 現行1社体制のまま、国際通信事業その他の新たな競争分野に進
出していくことは、現在の長距離通信分野における公正有効競争上
の問題が新分野に拡大されることから、制限されざるを得なくなる。
(オ) 今後、経営を取り巻く環境の変化もより一層速くなることが予想
されているが、NTTが現在のような巨大な経営組織であり続ける
ことは、NTTがその経営資源を最大限に活用し、機動的な経営、
「スピードの経済性」の追求を行うことを困難にする。
〔参考〕民間企業の職員数(平成6年度)
1 NTT 194,721人
2 JR東日本 79,709人
3 日立製作所 76,679人
4 東芝 73,463人
5 トヨタ自動車 69,748人
2-2 再編成に際して考慮すべき事項
(1) ユニバーサルサービスの確保
国民生活や社会経済活動に不可欠な電話を中心とする情報通信サ
ービスは、福祉サービスなども含めて、今後とも、現行の水準より
低下することのない状態で提供が確保される必要がある。
NTTを再編成する場合にも、これらを確保することができるよ
う再編各社の財務的な基盤について十分な検討を行うべきである。
なお、ユニバーサルサービスの確保については、地域における競
争の進展と密接な関連を有するため、地域の競争状況を踏まえた新
たな仕組み(例えばユニバーサルサービス基金の創設)について検
討を進める必要がある。
(2) 災害時その他非常時の通信の確保
今後、多数の事業者間の競争により、また、多数の事業者間の相
互接続によって、情報通信サービスが提供される傾向が一層強まる
ものと考えられる。したがって、災害時その他非常時の際に通信を
確保するためには、前述の中央安全・信頼センターの設置を含め、
NCCを含む多数事業者間の連携が的確に行われる仕組みが必要で
ある。
NTTを再編成する場合にも、このような多数事業者間の連携に
よる非常時の通信の確保が的確に行われるよう、同様な配慮が必要
である。
(3) 利用者の利便の確保
NTTの再編成により、現在NTTが提供しているサービスを複
数の会社が提供することとなっても、ネットワークの円滑な接続や
受付窓口の一元化が実現されるよう再編各社間で体制の整備が図ら
れる必要がある。
なお、こうした再編各社間の接続及び受付窓口一元化については
、他事業者との間でも同等の条件で行われるよう措置することが必
要である。
(4) 再編成に伴う統合の利益の確保
(ア) NTTの再編成によって、これまで一体的に管理運営されてい
たネットワークインフラは、複数会社によって管理されることに
なり、接続確保、費用算定、保守管理責任等に関連する統合の利
益が減少する可能性があるとの指摘がある。
(イ) しかしながら、国際通信網が各国の事業者間の相互接続によっ
て成り立っていることに示されるように、統合の利益は異なる事
業者間でも確保が可能である。
(ウ) また、今後の情報通信の発展には経営判断の役割が極めて重要
となることから、国民経済的に見て複数会社による判断の多様化
の利益を十分しんしゃくすべきものと思われる。
3 再編成の具体像
3-1 NTTの経営形態の在り方
NTTの経営形態については、次のような措置を講じることが必要で
ある。
〔NTTの再編成〕
(ア) 現行NTTを長距離通信会社と2社の地域通信会社に再編成する。
〔長距離通信会社〕
(イ) 長距離通信会社は、早期に完全民営化を図る。
(ウ) 長距離通信会社には、国際通信、CATV、コンテントなどの新規
事業への参入を可能とするとともに、地域通信分野への参入も認める。
さらに、長距離通信会社は、現在のNTTデータ通信(株)、NTT移
動通信網(株)、NTTパーソナル通信網各社の株式を継承する。
〔地域通信会社〕
(エ) 地域通信会社は、既存営業エリア内における電話のあまねくサービ
スを確保するため、特殊会社とするが、地域通信市場における競争の
進展状況に応じて、最終的には完全民営化を目指す。
(オ) 地域通信会社には地域間の相互参入を認め、既存営業エリア外での
電話、CATV、コンテントその他の業務への参入を可能とする。
(カ) 地域通信会社の既存営業エリア内の事業拡大については、独占力が
行使されるおそれがあるため、当面、長距離通信(エリア内、エリア
発信)、国際通信、CATV、コンテント等への参入は制限される。
〔株主、債権者の権利確保〕
(キ) 以上の措置は、株主、債権者の権利確保に十分配意しつつ行う。
〔再編成の実施時期〕
(ク) 再編成の時期は、平成10年度中を目途とする。
|
3-2 新しい市場におけるNTTの姿
再編成後のNTTの姿は次のようになる。
(1) 基本的視点
次のような基本的視点に基づき、再編成を行うこととする。
(ア) NTTの潜在的な力を全面的に開花させ得る、自由化を目指した
体制とする。
(イ) 多元的な主体による公正有効競争を促進する体制とする。
(ウ) 再編成会社間のヤードスティック競争とともに、相互参入による
直接競争の創出を目指す。
(エ) 公正有効競争の確保を前提として、再編成後の会社の業務範囲を
可能な限り弾力化する。これにより、我が国情報通信の発展のために、
現在NTTの持てるマンパワー等の経営資源が最も良く寄与できるよ
うにするとともに、職員の士気向上が図られるよう配意する。
(オ) 再編成後の各社の積極的な海外事業展開、グローバルな国際通信
ニーズへのより多元的な対応など我が国の国際競争力の向上につな
がる体制とする。
(カ) 現在のNTTの研究開発力の維持はもちろんのこと、多元的な研
究開発体制の創出を通じて、我が国の研究開発力が向上する体制と
する。
(キ) 以上を通じて、我が国の情報通信産業のダイナミズム創出を実現
することにより、料金の低廉化、サービスの多様化等国民利用者の
利益の増進を図る体制とする。
(2) 長距離通信会社(略称「長距離NTT」)
〔新会社の区分〕
(ア) 長距離NTTは、現行の長距離通信事業部(おおむね県間通信)
を基本としてNTTから分離されるものとする。
〔料金の低廉化、サービスの高度化・多様化〕
(イ) 長距離NTTが、NTTの独占的地域通信網と完全に分離される
ことによって、4けた問題の解消を含め長距離通信市場における公
正有効競争が飛躍的に促進される。その結果、長距離NTTの経営
効率化が図られ、料金の低廉化、サービスの高度化・多様化等の成
果が期待できる。
〔新規事業への参入〕
(ウ) 長距離NTTは、例えば、国際通信、移動体通信、CATV、コ
ンテント事業等の業務を行い得る。
〔主要子会社株式の継承〕
(エ) また、長距離NTTは、現在のNTTデータ通信(株)、NTT移動
通信網(株)、NTTパーソナル通信網各社の株式を継承する。
へも積極的に展開することが期待される。
これによって、これら子会社が独占的な地域通信網と分離される結果、
データ通信分野及び移動通信分野における公正有効競争条件の整備の徹
底が実現される。
〔地域通信分野への参入〕
(オ) 長距離NTTは、地域通信事業へも参入を行い、地域NTTと競
争を行う。
〔完全民営化〕
(カ) 長距離NTTは、完全民営化を実現し、通常の第一種電気
通信事業者と同等の会社となる。
〔海外市場への展開、世界的連携への参加、機動的経営〕
(キ) 長距離NTTは、経営管理規模から見ても機動的な経営を展開して
いくとともに、海外市場への展開や世界的な事業者連携への参加を積
極的に行うことによって、国際競争力の向上が図られると考えられる。
(3) 地域通信会社(略称「地域NTT」)
〔新会社の区分〕
(ア) 地域NTTは、現行の地域通信事業部を基本として形成する。東
NTTは、北海道、東北、関東、東京、信越より、西NTTは東海
、北陸、関西、中国、四国、九州より成る。
〔あまねく電話の確保〕
(イ) 再編成時の既存営業エリア内の「地域電話」業務については、あ
まねく提供する義務を引き続き課す。
〔相互参入の促進〕
(ウ) 地域NTT各社は相互に参入を可能とする。
〔ヤードスティック競争及び直接競争〕
(エ) 地域NTT各社間のヤードスティック競争の効果を生み出すととも
に、長距離NTT、NCC等の地域通信分野への参入、地域NTT
の相互参入により、直接競争が長期的に進展していくことが期待で
きる。
〔直接参入の形態〕
(オ) 地域NTTが相互参入する直接競争の形態としては、以下のよ
うな様々な形態が考えられる。
(a) バイパス事業
(b) CATV事業
(c) コンテント事業
(d) その他
〔料金の低廉化、サービスの多様化、新たなインフラの円滑な整備〕
(カ) このような競争の進展の中で、地域通信分野においても、経営の
効率化が図られ、料金の低廉化・多様化、サービスの多様化が進む
ことが期待される。
また、地域2社体制においては、料金の低廉化、サービスの多様
化などの進展度合いに相違が生じることはあり得ても、現行水準よ
り悪化することは想定し難い。さらに、電話サービスの維持にとど
まらず、光ファイバなど新たなネットワークインフラの整備も円滑
に遂行されることが期待できる。
〔海外市場への展開〕
(キ) 地域NTT各社は、長距離NTTと同様、各々独自にメーカ、商
社等と連携しつつ、競って海外市場へ展開することが期待できる。
〔経営管理規模、機動的な経営〕
(ク) 地域が2社に再編成されることによって、現在に比べ経営管理規
模から見た改善がなされ、機動的な経営が展開されることが期待さ
れるとともに、企業としての国際競争力の向上にもつながるものと
考えられる。
〔東京一極集中の是正〕
(ケ) 西NTTの誕生によって、東京一極集中の是正に資することが期
待される。
〔既存営業エリア内の事業拡大〕
(コ) 既存営業エリア内の事業拡大については、独占力が行使されるお
それがあるため、当面、長距離通信(エリア内、エリア発信)、国
際通信、CATV、コンテント等への参入は制限される。ただし、
これについても、地域通信分野における競争の進展に伴い、独占力
行使の可能性が低下するのに応じて、可能としていくことが望まし
い。
なお、そのため地域通信分野における競争の進展状況については
、毎年見直しを行う。
〔将来の完全民営化〕
(サ) 地域NTTについても、地域通信市場における競争の進展状況に
応じて、段階的に規制を緩和し、最終的には完全民営化を目指す。
(4) 長距離NTTと地域NTTとの関係
(ア) 以上のように、NTTを長距離NTT、地域NTT各社に再編成
することとするが、その際、再編各社間の相互参入を目指す政策を
とることから、再編成が各々の会社の事業範囲を固定化することに
はならない。
(イ) むしろ、再編各社間の相互参入を推進し、既存市場への新たな競
争単位を創出することによって、市場全体の効率化、活性化をもた
らすことが期待される。
(ウ) また、再編各社間の相互参入をもたらすためには、各社が独立し
た経営意思によって活動し得る経営主体であることが不可欠である
ことから、各社間は資本的に独立させることが必要である。
(エ) したがって、再編各社間の再合併は認めない。
(オ) 再編各社が、相互参入し競争を行う中でNTTという同一の名称
を再編成後も使用し続けることについては、競争上の観点及び利用
者の利便等の観点から、今後、再編成の実施までの間に、十分に検
討する必要がある。
3-3 再編成会社をめぐる規制緩和
(1) 長距離NTTをめぐる規制緩和
〔完全民営化、業務の自由化〕
(ア) 長距離NTTについては特殊会社法の規制を廃止し、長距
離系NCCと同様の形態の完全民営化を図る。
〔料金規制〕
(イ) 長距離NTTは、単に国内長距離のみならず、国際通信、継承し
た移動体通信などを営むことが想定される。
これら分野の料金規制については、次のとおり規制緩和を図る。
(a) 長距離NTTの提供する長距離通信の料金については、独占的
な地域通信網と分離されることによって、地域通信分野との内部
相互補助等の不公正な競争が防止されることにかんがみ、柔軟か
つ機動的な料金設定を促進する観点から、現行認可制をインセン
ティブ規制に緩和することを検討する。
(b) 長距離NTTの提供する移動体通信、国際通信の料金について
は、現行認可制を事前届出制に緩和することを検討する。
〔接続規制〕
(ウ) 長距離NTTは、独占的な地域通信網と分離されることにより、
現在のような地域通信網との一体的構造が解消され、地域の独占力
が行使されるおそれも解消されることから、接続協定に関する現行
認可制について、接続条件を約款化した場合には、事前届出制に緩
和することを検討する。
(2) 地域NTTをめぐる規制の在り方
〔現行NTT法上の諸規制の緩和〕
(ア) NTT再編成を含む今回の改革によって、地域通信市場における
競争の進展が期待されるので、これに応じて、外資規制の緩和など
現行NTT法上の規制緩和を検討する。
〔エリア外の事業範囲の自由化〕
(イ) 地域NTTは、既存エリア内のあまねく電話を確保する責務を引
き続き負う。他方で、既存エリア外においては、コンテント、CA
TV(通信を含む。)などの新業務への参入を可能とするよう現行
NTT法上の事業範囲の拡大を図る。
〔地域通信分野における競争促進のための料金規制の導入〕
(ウ) 地域通信分野においては、当分の間、地域NTTの独占的状態が
存続すると考えられることから、現行の認可制を維持するのが妥当
である。
その場合、地域NTT各社間に間接競争を導入する観点からヤー
ドスティック方式などのインセンティブ規制の導入を検討する。
〔接続の確保〕
(エ) 地域NTTに対しては、相互接続の円滑化を推進するため、
(a) 他事業者との接続を法律上義務づける
(b) 接続の料金その他の条件については、全事業者に適用されるも
のとすべく約款化を義務づける
(c) 接続会計と営業会計を国が定める会計ルールに基づき分計する
(d) 番号ポータビリティ制度や優先接続制度を導入する
などの諸措置を講ずる。
(3) 政府保有株式の売却
(ア) 長距離NTTについては、政府保有義務を廃止し、再編成後、計
画的かつ早急な政府保有株式の売却に努めることとする。
(イ) 地域NTTについては、当面、政府保有義務を存置し、売却可能
な株式(現在 510万株)の計画的かつ早急な売却に努める。
3-4 NTT研究所の姿
(1) 研究所の在り方
(ア) 現在のNTTの研究所は、3つの総合研究所にグループ化された
13研究所で構成されている。
(イ) NTTの研究所は、これまでも事業やサービスの変化、技術革新
の進展に伴い、これに対応するために再編成が行われてきているが
、今後も従来と同様、柔軟に見直しが行われる必要があるものと考
えられる。
(ウ) 研究開発力は、事業の発展の源泉であり、かつ事業化のインセン
ティブが研究開発の活性化の要因である。このため、長距離NTT
、地域NTTとも研究開発力を事業に活用できる方法をとることが
望ましい。
(2) 地域NTT
(ア) 地域NTTは、加入者系ネットワークを独占的に保有するため、
光加入者系ネットワークの高度化に向けた技術開発、長距離通信、
移動体通信等の他事業者のサービスに対応可能な、多様で高度なネ
ットワーク機能の技術開発等が必要であり、また、NTTの資産及
び売上高規模の大半を承継することから、長距離通信事業に関連す
る研究開発部門を除き、現在のNTTが保有している研究開発力の
大宗を承継することが望ましいと考えられる。
(イ) 研究所の地域NTT各社への承継については、事業者間での協調
が容易な共通的・基盤的な技術の部門は一体的に、例えば東NTT
に承継し、共同で負担することが考えられる。また、サービス競争
とのつながりの強い部門は各社がそれぞれ承継することが考えられ
る。
(ウ) 現行NTT法上の研究に関する責務を引き続き課す。
(3) 長距離NTT
(ア) 完全民営化された長距離NTTは、長距離系NCCとの激しい競
争環境におかれることから、事業に直結し効率的なサービス提供を
可能とする研究開発力を持つインセンティブが働くと考えられる。
(イ) このため、NTT移動通信網(株)が分離した際に移動体通信事業に
関連する部門を承継した事例と同様、長距離通信事業に関連する研
究開発部門を、現在のNTTの研究所から承継することが考えられ
る。
3-5 再編成の実施時期
NTTの再編成は、基幹的デジタルネットワークの完成、これに伴う
再編成コストの極小化の実現を踏まえると、平成9年度末のデジタル化
完了の後、速やかに実施することが望ましい。
したがって、再編成の時期は平成10年度中(1998年度中)を目処とす
べきである。
3-6 その他業務の在り方(衛星通信、保守、端末機器販売等)
(1) 衛星通信業務
NTTの衛星通信業務については、現在、長距離通信事業部に帰属
しており、NTTの再編成後は、長距離NTTに帰属することになる。
これにより、NTTの地域通信網と完全に分離されることから、独
占的部門と競争的部門の兼業の問題は改善されることとなる。
なお、公正有効競争条件の整備を図るため、引き続き地上系サービ
スとの収支分計の明確化等の措置を講ずることが必要である。
(2) 保守業務
NTTの保守業務については、技術革新により機器、システムが一
層高度化し、通信の安全・信頼性に対する利用者の期待も高まってい
る中、一層効率的かつ高水準のものであることが要求される。
したがって、NTTは、交換機及び伝送無線設備の分散保守業務を
行う有人保守拠点を、1県1拠点程度に集約するなどにより、一層の
要員合理化を計画的に行うなど、保守業務の一層の効率化・高水準化
を図るべきである。
なお、局内系の交換・伝送設備の保守業務については、ネットワー
クの中枢部分に係るものであり、利用者へのサービスの提供に直結す
ることから、これらの業務の分離については慎重な対応が必要である。
(3) 端末機器販売業務
NTTの端末機器販売業務については、現在、地域通信事業部に帰
属しており、NTTの再編成後は、地域NTTに帰属することとなる。
NTTは、平成2年7月に地域端末機器部門を一般電気通信業務部
門からNTT社内において組織的に峻別するための組織改正を実施し
たが、NTTの端末機器販売業務について、第一種電気通信事業者と
しての優越的地位を利用した営業活動の事例が依然として指摘されて
いる。
このような状況を踏まえ、NTTの端末機器販売については、公正
有効競争の徹底のための措置について検討すべきである。
(4) その他の業務
NTTのパケット通信、画像通信、電報の各業務は、長距離通信事
業部、地域通信事業部のいずれにも属さない独立の事業部となってお
り、これらの業務の帰属については、再編成計画案の策定の中で個々
に検討すべきである。
3-7 その他の再編成の形態
長距離分離・地域複数分割(現行NTTを長距離通信会社と複数の地
域通信会社に再編成する方法)以外に、次のような再編成の方法も検討
した。これらは、いずれも現行1社体制と比し改善される面が存在する
が、長距離分離・地域複数分割に比べると、問題点が多い。(詳細は、
資料18を参照)
(1) 長距離・地域分離
現行NTTを長距離通信会社と地域通信会社の2社に再編成する方
法である。
(ア) 長距離と地域の一体経営からくる利益相反的な構造は解消され、
接続の円滑化、内部相互補助・情報流用の防止などが実現される。
(イ) 長距離通信会社の国際通信進出により、国際通信市場における
事業者連携がより多元化される。
しかしながら、
(ウ) 地域を複数に分割した場合は、ヤードスティック競争や地域間の
相互参入による地域通信分野における競争促進の効果が期待される
が、この方法の場合、地域通信会社が1社であることから、こうし
た効果が期待されない。
(エ) 地域通信会社が1社であることから、合理化のインセンティブが
働きにくい。
(オ) 経営管理規模、機動的経営の実現の面で、地域通信会社はほとん
ど変化がない。
(カ) 地方分権、東京一極集中については、現状と同様である。
(2) 地域複数分割
現行NTTを地域ごとに複数の会社に再編成する方法である。
(ア) ヤードスティック競争や相互参入政策によって、地域通信分野の
競争が促進される。
(イ) 地域の競争の進展によって、合理化の進展や地域の料金の低廉化
に期待し得る。
しかしながら、
(ウ) この方法の場合、長距離と地域の一体経営からくる利益相反的な
構造は解消されず、地域の独占力が長距離通信分野の競争に行使さ
れるおそれが強いことから、接続問題、内部相互補助、情報流用、
番号の4けた問題を含め公正競争上の改善がなされない。
(エ) 仮に、再編各社に国際通信への進出を可能とすれば、長距離通信
分野の不公正な競争条件が国際通信にも拡大されるおそれがある。
したがって、国際通信への進出は制限されることになる。
(オ) 地域通信会社をまたがる長距離通信について、料金に方向別格差
が生じるおそれがある。
(3) 加入者線分離・加入者線部分の複数分割
現行NTTを地域ごとの加入者線会社と加入者以外の通信会社1
社に再編成する方法である。
(ア) 加入者線とそれ以外のネットワークの一体経営からくる利益相反
的な構造は解消される。
しかしながら、
(イ) 加入者線会社は、サービスを提供しない設備の建設・管理会社と
なることから、今後のマルチメディアサービスの発展にもかかわり
が持てず、全体としての活性化が期待しにくい。
(ウ) 加入者線会社は独占的な会社となり、合理化のインセンティブが
働きにくく、料金の引下げが期待しにくい。
3-8 地域通信会社の数
(1) 地域通信会社の数については、(ア)競争促進、(イ)地域のニーズに応じた
多様な供給主体の実現、(ウ)適正管理規模、(エ)多極的な国土形成の観点な
どからすれば、多数であることが望ましい。
(2) 一方、地域会社の数については、
(ア) 再編各社が情報通信市場を活性化する競争主体として安定した財務
基盤を有すること
(イ) 料金・サービスの地域格差、インフラの整備面での地域格差が発生
しないようにすること
などの条件に配慮した工夫が求められる。
(3) 財務面については、
(ア) 平成6年度事業部制収支結果によれば、地域通信事業部のうち黒字
の事業部は東京、関東、関西、東海の4事業部であることから、当面
の再編成に際しては、これら4つの黒字事業部を中核とする形態を考
えることが適当なこと
(イ) 上記(ア)を踏まえ、平成10年度中(1998年度中)の再編成を念頭にお
けば、(a) 開示が開始された平成4年度から平成6年度までの事業部
制収支の動向、及び (b)平成元年度以降のNTTの財務動向を基礎に
試算された再編各社の財務見通しからは、2ないし3の地域通信会社
数が一つの目安として考えられること
が挙げられる。(詳細は、資料16を参照)
(4) これらの観点と、再編成各社における資産・売上げ面での等規模性へ
の配慮を総合的に判断して、平成10年度を目途とする再編成に当たって
の地域通信会社の数は、2とするのが適当である。
〔参考〕 平成11年度(1999年度)における再編各社の財務見通し−試算−
長距離分離/地域2分割モデル
長距離NTT
東NTT :北海道、東北、関東、東京、信越
西NTT :東海、北陸、関西、中国、四国、九州
各社とも健全な財務が見込める。地域t通信会社2社は、この際、
資産・売上げ規模のほぼ等しい会社となる。
| 総資産 | 自己資本 | 従業員数 | 営業収益 | 経常利益 |
長距離 | 12,546 | 4,811 | 11,840 | 13,068 | 974 |
東 | 55,111 | 24,057 | 76,790 | 34,192 | 4,383 |
西 | 51,055 | 16,927 | 89,794 | 33,040 | 2,174 |
(注1) 単位は、億円、人。
(注2) 従業員数合計は、モデル上は、1994年度末19万4721人から
1999年度末17万8424人に減少するが、この減少分には在籍出
向者数は含まれていない。
3-9 再編成コスト
(1) NTTを再編成して複数の会社にすると、例えば、長距離通話利用者
が自社と契約しているかどうかを識別するためのシステム(加入者情報
識別機能)を、長距離系NCCと同様に長距離NTTにも新たに設ける
必要性が生じるなどの、いわゆる再編成コストが発生する。(詳細は、
資料14を参照)
(2) NTTは、長距離通信会社と地域通信会社を分離した上で地域通信会
社を東西2分割する再編成の形態を前提に、再編成コストを 4,500億円
(設備投資 2,600億円、経費 1,900億円)と試算している。
(3) しかしながら、NTTの試算した再編成コストについては、例えば、
次のような点が前提とされていることに留意する必要がある。
(ア) 設備投資は減価償却費として数年間にわたり費用化するのが通常で
あるが、初年度に全額費用として計上することを前提としている。
(イ) 当面、再編各社で共用可能な設備についても、会社間の共用は行わ
ないことを前提としている。
(ウ) 繰延計上可能な開業準備費(例えば、再編成についての広告宣伝費
等)についても、初年度支出を前提としている。
(4) これらに対して、例えば、以下のような別の前提条件を置けば、その
コストは変化する。
(ア) 設備投資については、初年度に全額費用として計上するのではなく、
減価償却費として配分計上する。
(イ) 移動体通信業務分離の際には、給与計算システムなどは当面本社と
共用されたが、このように、再編各社で共用可能な設備については、
当面共用を行う。
(ウ) 例えば、広告宣伝費など、開業準備に必要な経費については、商法
の規定に基づき、開業準備費として5年間にわたって繰延計上する。
(5) このように前提条件を別の形で置いて、再編成初年度に発生する再編
成コストを試算した結果、 840〜 860億円との数字を得た。
(6) これらの再編成コストは、再編成に伴って、市場の活性化、国際通信
・CATV事業・コンテント事業など新規事業への進出に伴う収入面で
の増加、さらには合理化の促進によるコストの削減等の効果が生じるこ
とから、これらのメリットにより吸収されていくことが期待できる。
(7) なお、再編成コストが基本的には一時的に発生するコストであるのに
対し、再編成によるメリットは継続的に発生が期待できるものであるこ
とも評価の上で十分しんしゃくすべきである。
3-10 NTTの株主、債権者の権利確保の方策
(1) 基本的な考え方
(ア) NTTには現在 160万人を超える株主や多数の債権者が存在してい
る。
(イ) したがって、NTTの再編成に際しては、そうした既存の株主や債
権者の権利が確保されるようにする必要がある。
(2) 再編成の法的枠組
(ア) NTTの再編成は、公共的な政策目的の実現のために国が実施を義
務づけるものなので、国の意思を基礎に適法に実施されることを立法
措置によって明らかにすることが望ましい。
(イ) また、NTTは株式会社であるので、基本的に商法の手続に従って
再編成を進めるとしても、円滑に再編成を実施する上での特別の措置
(例えば、後述する株式の現物交付など)を法律上講じる必要がある
。
(ウ) さらに、NTTは、特殊法人であるので、その経営形態の抜本的な
変更は、根拠法であるNTT法の改正によらなければならない。
(エ) 以上のことから、NTTの再編成は、立法措置によることが適当で
ある。
(オ) この立法措置においては、政府が定める基本方針に沿った再編成を
NTTに義務づけ、これを受けて、NTTが、商法の手続に従って手
続を進めるといった法的枠組が想定される。
(3) 株主の権利確保のための方策
(ア) 再編各社の資本関係を解消する方法としては、次の2つがある。
(a) 存続会社としてのNTTが保有する新会社の株式を売却し、その
代金を金銭によって株主に交付する(金銭交付)。
(b) 新会社の株式を売却せず、現物株式のまま株主に交付する(現物
交付)。
(イ) このうち、金銭交付の方法では、一時売却による株価の下落など、
株式市場が混乱する可能性を否定できないばかりか、株式の形での交
付を望む株主の要望に応えられない。
したがって、資本関係解消の方法としては、現物交付の方法が適当
と考えられる。
(ウ) この際、商法には、自社株以外の株式交付の規定が置かれていない
ので、新会社の株式を現物交付するため、根拠となる法律上の規定を
設けることが必要である。
(エ) この株式交付は、減資の対価として存続会社がその株主に対して行
うことになる。
(オ) なお、NTTは、平成7年9月に、1株に対し0.02株の無償交付を
行っているので、この端株の部分についても、金銭交付によるなどの
措置を講じることが望ましい。
〔参考〕
長距離分離/地域2分割を前提にすると、例えば、NTTの株主
は、次のように株式を取得することになる。
(a) NTT株式1株について、新たに2株の株式を取得する(つま
り、再編各社の株式を1株ずつ、計3株を保有する。)。
(b) 具体的には、現在NTT株式1株を保有する株主の場合、次の
ようになる(以下では、存続会社を東NTTと仮定する。)。
(A) 手元のNTTの株券は、そのまま東NTTの株券となる。
(B) 西NTTの株式が1株交付される(西NTTの資本金が現在
のNTTと同じ7956億円であれば、5万円額面株式となる。)。
(C) 長距離NTTの株式が1株交付される(長距離NTTの資本
金は現在のNTTの資本金よりも小さくなると想定されること
から、その株式は、無額面株式となる。)。
(4) 債権者の権利確保のための方策
(ア) 新会社は、NTTから資産を引き継ぐ際、適当な規模の債務を併せ
て引き継ぐことで、各社の財務内容をバランスさせることが可能とな
る。
(イ) 債務のうち、借入金は、銀行などの個々の債権者の同意を得て新会
社が引き継ぐことになるが、社債については、転々と流通しているの
で、個々の債権者の同意を得ることは、事実上、極めて困難である。
(ウ) このため、社債は、国鉄分割民営化の際の措置を参考に、次のよう
な立法措置を講じた上で新会社に引き継ぐこととし、社債権者の権利を
確保するのが適当である。
(a) 各々の社債について、各社が互いに連帯して弁済の責めを負う。
(b) NTTの社債は一般担保付社債なので、各社が他社の承継する社
債に対して自社の総資産を一般担保とする。
(エ) なお、社債のデフォルト(債務不履行)条項に関しては、上述の措
置が講じられて社債権者の権利が確保される限り、問題が生じること
は想定されない。
(5) 株式の交付と上場
(ア) 資本関係を早期に解消するためには、できるだけ速やかに新会社の
株式を株主に交付することが望ましい。
(イ) しかし、非上場の株式には換金性、流通性がないので、交付株式の
上場が不可欠である。
(ウ) 一般に、会社の上場は各証券取引所が審査を行うが、NTT再編成
が公共的な政策目的の実現のため実施されるものであり、また、NT
T株式は既上場であることから、各証券取引所の上場審査においては
、次のような措置が講じられる必要がある。
(a) 新会社の事業の開始と同時か接着した時期に、上場と株式交付が
行えるよう、設立後経過年数の特例を設ける。
(b) 議決権のない端株が発生しないよう再編各社の株式数を現在のN
TTと同数(1591万株)とすると、結果として株式数が多数になる
ので、1株当たり自己資本や1株当たり利益などの基準が満たされ
ない場合には、当該基準についての特例を設ける。
(6) 再編成に伴う税負担
(ア) NTTを再編成する際には、現行税制上、新会社に対する資産移転
に伴う譲渡益課税や、新会社株式を交付されるNTTの株主へのみな
し配当課税など、NTTや株主が新たな税負担を負う可能性が指摘さ
れている。(詳細は、資料15を参照)
〔参考〕
東NTTを存続会社とし、長距離NTTと西NTTを新会社とす
るケースに関して、NTTが主要な税負担額を試算している。それ
によれば、土地等の含み益のある資産譲渡への譲渡益課税(約1兆
3500億円)や土地の譲渡益への特別課税(約1600億円)として、約
1兆8000億円の税負担が発生するとしている。
(イ) しかし、NTTの再編成は、公共的な政策目的を実現するため、立
法措置を講じて行われるものであるので、国は、その法律の定めると
ころに従って再編成が実施される場合に、その円滑な実施を積極的に
支援すべきである。
したがって、再編成に伴う税負担に関しても、非課税措置などを講
ずる必要がある。
