第5章 KDDの在り方

 
  KDDについては、次のような措置を講じることが必要である。
(ア) NTTの再編成に先立ち、早期に、国内通信業務の提供を認める。
(イ) KDD法については、KDD以外の事業者によりKDDにそん色の
 ない対地が安定的に確保された段階で、廃止する方向で検討を行う。
 

1 国際通信市場におけるKDDの役割

  
  (1) 競争の状況
    国際通信市場においては、昭和60年の制度改革以降、NCC2社が参
   入し、KDDを含む3社の競争により大幅な料金の低廉化やサービスの
   多様化が実現するなど、競争導入は一定の成果を挙げてきた。
    しかしながら、現在、多数の国との間で、料金のいわゆる方向別格差
   が存在する等、料金の一層の低廉化が課題となっている。
   
  (2) KDDが果たしてきた役割
    KDDは、国際通信専業の特殊法人として、次のような役割を果たし
   てきた。

   (ア) ユニバーサルサービスの確保
     KDDは、年間数回しか利用がない所も含め、全世界 232の国・地
    域との間で国際電話サービスを提供している。国際系NCCがサービ
    ス提供を行っておらずKDDのみが提供している対地は約 110国・地
    域あり、かつ、これらの国・地域のトラヒックは合計しても全体の1
    %未満である。このように、KDDは、特殊法人として、採算にのら
    ない所に対してもサービスを確保しており、これによって、我が国国
    民に対し、全世界との通信手段を確保するというユニバーサルサービ
    スを提供している。
   
   (イ) 緊急時の対応
     KDDは、緊急時においても国際通信の途絶が発生しないよう各種
    の施策を講じてきており、例えば、湾岸戦争やPKO(国連平和維持
    活動)のような事態が生じた際に、海外在留の邦人からの国際通信の
    確保を図ったり、また国内においても、昨年の阪神・淡路大震災の際
    には、インマルサット可搬型地球局の無償貸与、インテルサット衛星
    を使用した国際専用の無料公衆電話の設置などを行っている。
   
   (ウ) 国際情報通信基盤の整備
     KDDは、国際通信の分野において、高速・大容量、高品質の情報
    通信ニーズに応えるため、例えば、今年中に完全開通する予定の太平
    洋横断光海底ケーブル(TPC−5)など太平洋の主要なケーブルの
    建設・運営主体となっているほか、アジア・太平洋地域やヨーロッパ
    とアジアを結ぶ光海底ケーブルの建設にも参画する等、極東における
    国際情報通信基盤の中心的な整備主体となっている。
     その他、インテルサット・インマルサットにおける我が国の代表と
    して、国際衛星通信網の整備拡充にも貢献してきたところである。
  

2 国際通信市場をめぐる環境変化

    上記1(2)のとおり、KDDは、これまで国際通信市場において重要な
   役割を果たしてきたところであるが、国際通信市場をめぐる環境は大きく
   変化しようとしている。

   (1) 国際通信分野における世界的連携
     近年、多国籍企業の情報通信ニーズの獲得等を目的として、各国の
    国際通信事業者間の提携あるいは合弁企業の設立が活発に行われてい
    る。我が国の事業者も、こうした動向に積極的に対応することが期待
    される。
     前述のとおり、NTTの経営形態を見直した後、長距離NTTが国
    際通信市場に進出すれば、我が国事業者と外国事業者との連携も一層
    多元化するものと考えられるが、そうした中で、KDDは、これまで
    蓄積したサービス提供や技術面のノウハウを活用し、今後、各国企業
    の世界的連携において、中核的な役割を果たすことが期待される。
   
   (2) 国内/国際の相互参入の進展
     前述のように、情報通信分野の活性化を図るためには、異分野間の
    相互参入を促進することが重要な課題である。
     国内/国際間においても、既に、衛星通信分野において、国内衛星
    通信事業者が国際通信サービスの提供を開始しているとともに、低軌
        動周回衛星を利用した国内・国際一体型の移動体通信サービスも計画
        されている。
     現在、KDDは、同じ特殊会社であるNTTとの間で、国内/国際
    を分担する関係にある。KDDは、NTTのようなボトルネック設備
    を有していないことから、KDDの国内通信業務への進出が可能にな
    れば、我が国の情報通信分野全体の競争の促進に寄与するものと考え
    られる。
   
   (3) 国際通信分野の一層の競争の進展
     上記(2)の国内/国際の相互参入は、国際通信分野の競争を一層促進
    させる効果をもたらす。
     この他にも、昨年、非インテルサット衛星を用いた外国資本のNC
    C2社が、新たに我が国の国際通信市場に参入している。
     また、平成9年中に予定されている国際VANサービスにおける基
    本音声サービスの完全自由化が実現すれば、これまでのような第一種
    電気通信事業者間の競争のみならず、第一種電気通信事業者と国際特
    別第二種電気通信事業者が直接競争して国際電話サービスを提供する
    こととなる。
     こうした国際通信分野での競争の進展は、料金の低廉化・サービス
    の多様化の実現に大きく寄与するものと期待される。
   
   (4) 国際系NCCの対地拡大
     従来、NCCが対地拡大を行う場合、相手国との間に直通回線を設
    定することが原則とされてきたが、これらの事業者は既に約 120の対
    地を確保している状況にかんがみ、残りの対地については直通回線に
    よらず第三国中継による弾力的な回線設定を行うことが可能となった
    ところである。
     このため、今後、NCCにおいて第三国中継による対地拡大が行わ
    れ、複数事業者がサービス提供する対地数も増加するものと考えられ
    るが、その状況によっては、国際通信のユニバーサルサービス確保の
    ためのKDDの役割にも変化が生じる可能性がある。
   
   (5) 国際情報通信基盤の整備
     これまで、海底ケーブルの建設・運営はKDDの主導で行われてき
    たが、近年、NPC(北太平洋ケーブル、日米間)や計画中のFLA
    Gケーブル(日英間、11か国経由)のように、NCCが海底ケーブル
    の陸揚げ当事者としての役割を果たす例も出てきている。
     ケーブル建設に関する国際的な事業者連携の進展、技術革新による
    海底ケーブルコストの低廉化等が進むことにより、今後、KDDのみ
    ならず各事業者が競争的にケーブル整備を推進していくことが期待さ
    れる。
     また、国際衛星通信の分野でも、近年、非インテルサット衛星の利
    用が拡大している。KDDが我が国を代表して参加していたインテル
    サットやインマルサット自体が、こうした競争の進展を踏まえ、自ら
    の役割及び業務内容について見直しを検討しているところである。
   

3 KDDの業務範囲、KDD法の在り方

   (ア) 上記2のような環境変化を踏まえれば、これまで、国際通信専業の
    特殊会社として、ユニバーサルサービスの確保等の役割を果たしてい
    たKDDの在り方についても、見直しを行うことが求められる。
   (イ) すなわち、KDDについては、国内・国際の相互参入を促進する観
    点から、また、前述のように、ボトルネック設備を有していないとい
    う事情にかんがみ、NTTの再編成に先立ち、早期に、国内通信業務
    (長距離通信、移動体通信等)の提供を認めるべきである。
   (ウ) さらに、KDD法についても、長距離NTTの国際通信市場への参
    入やNCCの今後の対地拡大の状況を踏まえ、KDD以外の事業者に
    よりKDDにそん色ない対地が安定的に確保された段階で、廃止する
    方向で検討を行うべきである。
   (エ) なお、KDD法の廃止を検討する際には、我が国及び国民の安全の
    確保等についての十分な配慮が必要である。