第3回接続の円滑化に関する特別部会公表資料(DDI東京ポケット電話株式会社)
電気通信審議会「接続の円滑化に関する特別部会」
「PHS事業の現状と課題」
平成8年5月24日
DDI東京ポケット電話株式会社
1.PHS事業の概要
●PHSサービスの4つの特長
PHSサービスは「ポケット」マネーで手軽に使え、気軽に「ポケット」に入
る、個人をターゲットにした、非常に利便性の高いサービスであり、大きく分け
て次の4つの特長がある。
1:「家の電話機が外でも使える」
2:「デジタル方式」の無線電話
3:「低廉なサービス」
4:「電話機の携帯性の向上」
●PHSへ参入している事業者
現在はNTTパーソナル、アステル、DDIポケットの3グループが全国各地
でサービスを展開しており、合計28社が参入している。昨年の7月にサービス
を開始してから1年未満であるが、4月末には全事業者合わせ加入台数は200
万台を越えた。
この28社全てにとって、NTT地域通信網と接続することが不可欠であり、
各社共にNTTとの接続ルールの確立が切迫した問題となっている。
2.NTT地域通信網との接続構造
●PHS事業者の網構成の違い
PHS事業者は、NTTとの接続形態によって、「NTT網依存型」と「接続
型」の2つに区分される。「NTT網依存型」といっても、NTTパーソナル、
アステル、DDIポケットではそれぞれNTTへの依存度が異なっている。
例えばDDIポケットは、基地局とセンター設備を自ら建設しており課金デー
タ収集や加入者データベースでの認証等を自社で行っているため、NTTへの依
存度は他事業者に比べ低くなっている。(以下、「NTT網依存型のPHS事業
者」としての意見を述べていく。)
●DDIポケットのネットワーク構成
DDIポケットにおいては、基地局とセンター設備を自社において建設し、そ
こへアクセスする回線は全てNTT回線を利用している。NTTは、DDIポケ
ットと接続するために、「PHS接続装置」、「専用のパケット交換機」、「位
置登録データベース」等を新しく建設しており、それ以外は、全てNTTの既存
のネットワーク設備を利用している。PHS事業者は、NTTが新しく建設した
設備に対して「設備使用料」を支払っており、その費用が大きな負担となってい
る。(「設備使用料」については後述)
●NTT地域通信網との関係
上記のような接続形態であることを踏まえ、認識しておかなければならない重
要なことは、「PHS事業者から発生したトラヒックは、全てNTT網を通って
おり、NTT網の活性化、収入増が実現されている」ということである。
PHSがサービスを開始する前は、NTT地域通信網には、NTT固定電話で
発信もしくは着信する通話しか存在していなかった。しかし、PHSによりNT
T地域通信網にはPHS〜NTT固定電話間の通話、PHS〜PHS間の通話、
PHS〜他の事業者端末間の通話が全く新しく増加している。
例えばセルラーの場合、セルラー端末からセルラー端末への通話は、全てセル
ラー電話会社の網内で完結し、NTTの電話網は通らないが、PHSの場合は、
PHS端末からPHS端末への通話も含め、全てのコールがNTT地域通信網を
通過していることとなる。
つまりPHSが発展し、基地局やトラヒックが増加すればするほど、NTTは
自然と潤っていく構造になっており、PHS自体はNTT地域通信網と競争関係
にはなく、「全く新しい市場」であると言える。
●PHSによって新しい市場が創出されている
DDIポケットグループの平成8年4月末の実績を基に試算してみると、PH
S加入台数が合計で1,000万台になると、NTT網内には新しく約86億コ
ール発生することとなり、同時にNTTには網使用料だけで年間1,728億円
の収入が入ることとなる。これは、通話料収入でみれば、NTTの加入者が48
8万人増加した際の収入と同じことであり、PHSという新しい市場が、NTT
にとって大きな市場であることがわかる。
3.接続上の課題
3−(1)費用負担の問題
●費用負担の概要
PHS事業者は、NTTと接続するために、大きく分けて「網使用料」「設備
使用料」「回線使用料」という3つの費用をNTTへ支払っている。
「回線使用料」は一般加入者の設置一時金(72,800円)と回線の基本料
金に相当し、「網使用料」は一般加入者の通話料に相当し、「網使用料」は現状
ではユーザー料金となっている。(「網使用料」については、今後アクセスチャ
ージの導入を協議予定。)
一般加入者と異なるのは、上の2つの費用に加え、接続のために必要な設備ま
たはソフトウェアの使用料(網改造費含む)として「設備使用料」を別途支払っ
ている点であり、「設備使用料」は、NTTが個別に算定した費用を、PHS事
業者が100%負担している。
昨年度のDDIポケットのNTTに対する費用負担額は、合計170億円であ
った。そのうち「設備使用料」が141億円で全体の82%を占め、最も負担が
大きい費用となっている。この莫大な設備使用料の中でも、「PHS接続装置」
の費用が特に大きく、全体の54%にもなっている。
また、「設備使用料」のうち、算定方式Bを適用している個別算定の費用が、
大きなウェイトを占めている。
●NTT支払額の構成比
昨年度のNTT支払額の構成比を、長距離系事業者(DDI)と、PHS事業
者(DDIポケット)で比較すると、DDIでは個別算定によるNTT設備使用
料が、全体の約4%であるのに対し、DDIポケットは全体の約82%を占めて
いる。
網使用料(アクセスチャージ)は、「NTTのネットワークを利用して発生し
た通話による売上のうちの、NTTの取り分」という見方ができ、基本的にはP
HS事業者側にも手取りの収入が残る。
しかし、設備使用料は、新たに構築した設備のコストであり、売上の有無に関
わらず、NTTに支払う定額費用である。設備使用料は、当初の売上が低いPH
S事業のような新規事業には、大きな負担となっているが、その原因は、現行の
設備使用料の「算出方法」と「負担方法」にあると考えられる。
●設備使用料に「算定方式B」を適用することは不適切
NTTは、PHS事業に限らず他の事業者との接続において、設備使用料を算
出する場合には、原則として「算定方式B」を適用している。
「算定方式B」は、将来の原価を予測して料金を算定するため、現実に発生し
た費用を積み上げた原価とは、当然誤差が発生することとなる。そのため「算定
方式B」は、電話機のレンタル料やプッシュホンの使用料など、言うなれば「軽
微なサービス」適用するよう「電気通信料金算定要領」においては定められてい
るが、事業者間の設備使用料に「算定方式B」を適用するという規定はない。
NTTが数千億円規模の事業者向けの設備使用料に「算定方式B」を用いてい
ることは、コストベースが前提の事業者間料金の算定において、誤差を生じる原
因となっている観点から、極めて不適切であるといえる。
現状では、発生する誤差がPHS事業者にとって割高になっていると認識して
おり、PHS事業者にとって最も大きな問題となっている。そのため,設備使用
料の算定方式等について、昨年12月からNTTとPHS事業者で協議をしてい
るが、年度が変わった現在においても、一向に進展はみられない。
●「算定方式B」を適用する問題点
NTTは「投資した分を回収するためには、算定方式Bで費用を算出すること
が最も合理的である」「相互接続において増加した費用のみを積み上げることが
出来ないため、算定方式Bを適用している。」と主張しているが、以下の通り算
定方式Bを適用することには、問題が多い。
1:コスト低下のインセンティブが働かない
例えば、物品費や工事費が高くても、NTTは設備使用料(年経費)として全
額事業者から回収できる仕組みになっているため、「コスト低下のインセンティ
ブが働かない」構造となっている。
2:実際に発生していない費用も含まれてしまう
例えば、保守運営費比率の算出に用いられている費用には、PHS設備の保守
運用は直接関係のない費用が多く含まれており、その結果、PHS事業者がNT
Tへ支払う費用が非常に高くなっている。
●設備使用料に関する考え方
現行の方法では、NTTへ支払う設備使用料が高いために、NTTの地域通信
網との接続が困難になり、新しい事業が育たず、ひいては国民の不利益となって
いると考えられる。よって設備使用料の算出方法及び負担方法に関し、新しいル
ールを導入して、国民へ利益が還元されるようにすることが必要である。
その際、「相互接続とは、それぞれのネットワークを互いに接続することによ
り、相互に通信量を増加させ、ネットワークの効率的活用を図り、新しい市場を
創出させ、ひいては低廉かつ高度なサービスを国民に提供することである」とい
う基本的な考え方が重要となってくる。つまり「相互接続」とは「相互にトラヒ
ックが増える」ことが最大の目的であり、例えばPHSの接続装置は、「接続の
橋渡しをするブリッジ」であるということができる。
このような「接続の橋渡しをするブリッジ」に対する「設備使用料」について
は、次の4つの点を考慮する必要があると考えられる。
1:新規事業に対する設備使用料については、新規事業の早期立ち上げが可能
な水準となるよう、算定方式Bではない新しいルール化が必要である。
2:接続に必要な設備は単に橋渡しをするだけであるため、純粋に増加したコ
ストのみを算出する。
3:相互接続に必要な設備の費用、又はネットワーク改造費については、NT
Tも含めて接続により利益を受ける事業者で応分に負担する。
4:設備の調達価格、ソフトウェア開発費等は、他事業者が妥当性を検証でき
るように透明化を図る。
●PHS接続装置の費用負担の考え方
上記を考慮し、具体的に弊社で考える費用負担方法は以下の2点である。
方法1:一般加入者と同様の負担(既にNTTに提示済みで、拒否されている)
NTTのISDNサービスは将来の需要増を見込んだ料金設定となっており、
同様の考え方をPHS事業者に対しても適用して良いと考える。設備的には、一
般のISDNユーザーもPHS事業者も同様の網構成であるため、同様の費用を
負担することが妥当である。つまり広い意味では、PHS事業者もNTTのユー
ザーであると考えることができる。
方法2:費用はNTTとPHS事業者で折半(もしくはそれぞれ応分負担)
相互接続により、双方のトラヒックが増加するので、接続に必要となった部分
の費用は、相互に折半することが「相互接続」の基本的概念にあった方法である
と考えられる。接続に必要な設備の費用を、NTTが負担することにより、コス
トダウンのインセンティブが働くことになると考える。
●網使用料をアクセスチャージ化する場合の課題
設備使用料の負担方法に続いて、第2の問題点として、「網使用料」の負担が
あげられる。
現在、PHSにおける網使用料は、いわゆる「K課金」と呼ばれる一般のユー
ザーと同じ料金体系となっているが、今後、長距離系事業者と同様にアクセスチ
ャージの導入が必要となる。そのために、NTTと協議していく上で以下の3つ
が重要なポイントになると考えている。
1:妥当なコストによってアクセスチャージが設定されるよう明確な会計基準
を定めること。
2:アクセスチャージの短時間課金の導入(PHSデータ通信のマーケット拡
大・利用促進に短時間課金が必須)
3:NTT網のどの階梯でも接続を可能とするため、アンバンドルされたアク
セスチャージの料金体系の導入が必要。
以上が、「費用負担の問題」である。
3−(2)技術インタフェースの問題
現在は、NTTがPHS事業者に開示しているインタフェースは、「I’イン
タフェース」及び「加入者インタフェース」に限定されている。このため、PH
S事業者の網構成は、NTT網を大幅に利用する(依存型)か、全く利用しない
(接続型)かに限定され、「ある網機能・装置はNTTを利用し、また別の機能
・装置は他社、或いは自社のものを利用することにより低廉かつ便利な網を構築
する」ということが不可能な状況にある。
例えば、現在位置登録管理はNTTの網内で行っているが、NTTの交換機と
データベース間のインタフェースが開示されていない為、DDIポケットが位置
情報管理を行うことができなくなっている。
このように、PHS事業者の網構成は、自由度がほとんどない。これは、NT
Tが公開しているインタフェースが限定されていることに起因しており、NTT
網のインタフェースの開示の義務化が必要であると考える。
3−(3)コロケーションの推進
DDIポケットでは、公衆電話ボックスや電柱など、基地局を設置するための
インフラを所有している関係会社がないために、迅速かつ低廉なネットワーク構
築が難しくなっている。NTTから、NTT施設への基地局設置に関してはある
程度ルールが提示されているが、実運用上問題が多いというのが現状である。
そのため、ルール化に対しては、まず「コロケーションの義務化」が必要であ
ると考える。更に「コロケーション情報のオープン化」を図り、施設の空き状況
の開示、技術的基準の明確化、申込に対する早期回答などをルール化する必要が
あると思われる。
また、コロケーションの際に発生する費用についても、極力低廉化を図ること
が望まれ、「タリフ化」することが必要であると考える。
以上が、NTT地域通信網との接続においてPHS事業者が現在抱えている大
きな課題である。
4.まとめ
最後に「規制緩和推進計画」の項目に沿って、以下の通り要望をまとめる。
1:接続の義務化
NTT地域通信網に対する接続の義務化は原則必要であると考える。
2:接続条件の料金表・約款化
NTTの費用負担については、現在のような個別交渉だけに拠ると、公正かつ
円滑な接続の妨げとなる可能性があるため、全てを料金表或いは約款化すること
が必要である。
3:接続に関する会計方法・基準
会計基準を定める際には負担するコストが明確になるよう直接賦課を基本とす
ることが必要である。
4:接続の技術的条件
NTT網内のインターフェイス条件を全て開示すべきと考える。
5:局舎・電柱・管路などの使用
NTT局舎、電柱、管路などの借用は、各事業者の低廉なネットワーク構成に
必須であり、その義務化を実現すべきと考える。
6:番号ポータビリティ
現状ではNTT地域通信網との間に、番号ポータビリティの問題は発生してい
ない。
7:その他
(イ)3社以上が接続する場合のルール化
今後、NTT地域通信網を介した3社以上の接続が増加していくことが確実と
なっている(移動体・地域系NCC・CATV等)。このような場合の接続協定
の締結の形態・内容やユーザ料金の設定事業者、料金精算、損害賠償責任の明確
化等について、NTTも含めた全事業者間に一定のルールを策定することが必要
と考える。
(ロ)新しいルールへ移行するまでの期間の措置
PHS事業者とNTTとの間の設備使用料等の交渉は、昨年12月から5ヶ月
間ほとんど進展の無いまま現在に至っている。一方、新しいルールへ移行するた
めには、経理システムの変更などが必要となることから、その適用には相当の期
間が必要となる。
このため、今回の検討の結果として新しいルールが決定された場合には、PH
S事業が新規事業であることも鑑み、例えばモデルケースとして暫定的に新ルー
ルを早期適用するなどの措置を検討することが必要と考える。