第4回接続の円滑化に関する特別部会公表資料(株式会社タイタス・コミュニケーションズ)
平成8年6月12日
電気通信審議会
接続の円滑化に関する特別部会 御中
株式会社タイタス・コミュニケーションズ
代表取締役社長 木暮 浩明
「接続の基本的ルールの在り方について」
弊社は、東芝、伊藤忠商事、タイムワーナー、USウエストの日米4社による合
弁会社として昨年1月に設立された、ケーブルテレビサービスの大規模・広域事
業運営を行うMSO(マルチプル・システム・オペレーター)であります。
弊社は複数・多数の地域にまたがり、光・同軸ハイブリッドシステムによる広帯
域・大容量のネットワークを構築しつつあり、順次各地においてケーブルテレビ
サービスを開始する一方、このネットワークを活用し、電話サービスを始めとす
る通信事業に参入すべく、鋭意開業準備を進めております。
NTTと競合し、全国どこにでもかけられる電話サービスをユーザーに提供す
るためには、NTTの地域通信網との接続が不可欠であることから、昨年10月
以来約9ヶ月間にわたり、NTTと相互接続のための協議を続けております。
また弊社の株主であるUSウエスト社は、英国においてケーブルテレビ事業と電
話事業の併営を世界に先駆けて実現し、BT(ブリティッシュ・テレコム)他通
信事業者との相互接続、規制当局OFTELとの協議等を経て、地域通信分野に
おける有効な競争を実現した経験を持つものであります。
こうした経験と実績に照らし、NTTとの協議において直面している諸問題を踏
まえ、さらに今後想定される障害等に鑑み、新規参入事業者として、「接続の基
本的ルールの在り方」について、別紙の通り意見を申し述べます。
1.NTTとの接続協議における問題点
1)相互接続の一貫したインターフェース基準の欠如
NTTとの相互接続に用いるインターフェースは、従来NCC各社との接続
(中継交換機レベルでの接続)には「TTC」標準が使用されてきましたが、
市内交換機レベルでの接続には「共通線信号方式NTT No.7」が必要と
なります。この仕様は本年3月に公示されたものの、1997年末まで有効と
ならないため、それまでの間、弊社は公示されていない既存のNTTの網内イ
ンターフェースに準拠しなければならないこととなり、ほとんど一つの機種の
交換機しか選択の余地がないこととなります。
2)NTTとの接続ポイントの制約
NTTによれば、1997年12月までは、直接中継交換機とは接続できず、
市内交換機のみの接続となるとしています。それまでの間、弊社は、弊社加入
者発の呼が、接続する市内交換機以外の市内交換機に着信する場合について、
直接中継交換機経由の場合に比べ、高額の接続料金を支払わざるを得ません。
3)NTT付加サービスへのアクセス(着信)の制約
地域通信分野でNTTと競合する上で最も基本的な要件の一つは、加入者に
対し、従来NTTの加入者にとりアクセス可能であったNTTの付加サービス
(フリーダイヤル、104番号案内等)に引き続きアクセスできることを保証
することです。これが可能とならない限り、弊社はあくまでNTTの補足的な
サービスの提供者となり、加入移行を伴う本格的な競争は見込めません。
NTTによれば、こうした付加サービスへのアクセスを実現するには、技術
的な制約、困難があり、当面基本電話のみの接続しか確約できないとしていま
す。
NTTは1997年12月に、他の事業者との接続を充分機能させるための
本格的な網改造を完了させる予定で、仮にそれ以前に接続すると、同年12月
をもって付加サービスへのアクセスが中断されるとしています。NTTも一応
改善策を検討しているとは言え、こうした対応は、競争相手に著しい不利を与
える独占的な力の濫用であり、反競争的行為と言わざるを得ません。
4)他の通信事業者網へのNTTの中継
利用者には、従来同様どこでも着信できるようにすることが肝要であり、そ
のためにはNTT網経由、移動体系事業者あるいはケーブルテレビ事業者の網
に着信させる必要があります。NTTは基本的にこれに同意しているものの、
従来の発信側−中継−着信側の三事業者間で三本の二者間契約を締結するとの
枠組みを踏襲すれば、今後幾多のバリエーションに応じ、何10件もの契約手
続きを経なければならないこととなり、著しく煩雑な手続きと多大の労力と時
間を要することとなり、その分充分な形のサービスを開始する時期が遅れるか、
不完全なサービスを提供する期間が続くこととなりかねません。
弊社は、英米の事例に基づき、隣接する事業者二者間のみの契約により他の
事業者との条件をカバーする、より簡略化された方法を提案しておりますが、
従来の枠組みを変えることに対し、NTTには抵抗があると見受けられます。
5)NTTの網改造費用の負担
NTTは、接続に要する自身の網改造の費用を新規参入者に負担させるとし
ていますが、そこにどのような費用が実際含まれるのか明らかになっておりま
せん。
弊社は、自身のネットワークをNTTに接続できるようにするために費用を
掛けていることに加えて、さらにこれに要するNTT側の費用を負担すること
は、基本的に納得できないことであります。
6)接続料金
NTTより、同一MA内において、弊社が直接接続する市内交換機に収容さ
れる参入者に着信する場合は4.05円/3分、そしてNTTの中継交換機を
経由し、他の市内交換機に着信する場合は8.25円/3分(但し1997年
12月以降)との提示を受けていますが、英国では上記差額分は25%程度で
す。さらに市内交換機/中継交換機経由、他の市内交換機に着信する場合(1
997年12月までの接続形態)は、一交換機通過の場合の3倍以上である1
4.71円/3分となります。
こうした料金体系は、弊社をして可能な限り多くの市内交換機に直接接続す
べく投資するよう仕向けるものであり、その分、初期投資の増加を強いられる
ことになります。但し、仮に上記料金の差額が次年度以降縮小された場合、弊
社の初期投資は不必要な浪費であったということになってしまう危険性をはら
んでいます。これは、NTTの競合相手を不利にし、また、このように予期で
きない不安定な環境においては、電話サービスのインフラ投資は危険なもの、
賢明でないものとなってしまいます。新規参入者としては、このように提示さ
れた料金を基に、長期的な多額の投資を伴う経営判断をしなければならず、事
業経営に重大な影響を及ぼすものであります。
さらに、番号案内、番号データーベースへの登録、そして長距離(160キ
ロ以内)における接続料金は英国の5〜8倍の水準となっております。NTT
がBTよりも5〜8倍も非効率であるとは思えず、こうした高い水準の料金は、
NTTのコスト算定プロセスにおける任意の配分に何らかの関係があると考え
ざるを得ません(図1参照)。
NTTは日本市場において圧倒的な「着信」の施設を有しているため、その
料金は新規参入者にとりわけ重要なものである一方、NTTはこれを濫用し、
恣意的なコスト配分を行いうる立場にあるといえます。
2.接続のルール化に対する要望事項
NTTが呼を完了させる物理的インフラを圧倒的に保有することにより、他の通
信事業者の能力をコントロールする力を持つ市場構造になっているとの認識に立
ち、以下を要望します。
1)「つなぎ目のない公衆網」が公共の利益であり、「Any to Any」
(誰でもどこにでも電話をかけられ、着信できること)を公共政策として保証し、
全てのネットワーク事業者に、相互接続を義務づけること。
義務づけるべき接続ポイントは、通常「アンバンドリング」という言葉で表わさ
れる銅線、光ファイバー、あるいは管路といった施設ベースのポイントではな
く、事業者が(そこから)サービスを提供できるところの技術的に可能な全ての
ポイント、つまり電気的、論理的なインターフェースが存在するポイントとすべ
きです。サービスに基づかない接続ポイントを全事業者に義務づけることは、実
際の事業の要件に見合わず、逆に対称条件として新規参入者の負担となり、イン
フラ投資への意欲をそぐことなりかねません。
2)NTTには、他の事業者の加入者からNTTの全ての付加サービスにアクセ
スできるよう義務づけること。他の事業者のNTT網への技術的接続条件は、N
TT網内の交換機間の接続と同一のものとすること。さらに、接続するネットワ
ークにおいては、提供するサービスのグレード、ルーティングの選択において、
いかなる差別もなされないこと。
3)NTTには、新規参入者がそのネットワーク、設備を今後のマルチ事業者環
境に適合すべくコストを負担しているとの認識に立ち、同様に接続のための改造
費用を含むNTT側のコストはNTTが負担するよう義務づけること。
4)NTTの接続料金は総括原価主義に基づくものですが、これは相互接続をす
る事業者を単純にもう一つの顧客として扱おうとするものです。高額の人件費、
非効率性というものが従って料金に含まれることになり、コスト配分のプロセス
は任意となり透明なものとは言えません。相互接続において、一方の事業者は、
もう一方の事業者の顧客ではなく、呼を完了させる上での「協力者」であり「共
同提供者」であるとの考え方に立つべきです。従って接続料金については、下記
原則に基づきルールを策定すべきです。
1.接続料金はコストベースであるべき
2.効率性・透明性確保のためコストの算定は長期増分費用にてなされるべき
3.接続の各要素の価格設定の構造と水準は接続する全てのネットワークにと
り同一とする
4.接続のコスト算定と料金設定のプロセスは開かれたものとし、公開すべき
5)電話番号、周波数、そして電話番号データーベース等は国家の資源であるこ
と、さらに第三者の関与も含めてこれをどう管理するか、制度上明確にして頂き
たい。
6)当局には、「共通線信号方式 No. 7」「番号ポータビィリティ」等を
含め、技術基準を確立すべく業界をリードして頂き、マルチ事業者環境のみなら
ず、これを支えるマルチベンダー環境を創出して頂きたい。
3.最後に
「誰でもどこにでもかけられる接続性」というものが、政策の根幹にあるべきと
考えます。利用者は、今後の競争的環境において、どのネットワーク事業者に加
入していようとも、またどのような技術が使用されるにしても、他の利用者への
呼を完了する権利を保持すべきであること、そしてこの点において、政府の政策
は何らの妥協もすべきではないと弊社は信じます。
さらに、国民利用者間の通信の障壁を最小限のものとするため、政府は、呼の着
信への料金を可能な限り低い水準とし、かつ着信のために発生する正当な費用を、
完全にかつ公正に事業者が回収できるよう設定すべきです。長期増分費用による
料金設定こそ、こうした政策目標を達成し、「効率性」と「公正性」の原則を両
立させる、唯一の適正な方法であります。
英国においては、一連の通信分野の改革によって、BTの利益と税金納入額は3
倍となり、160のネットワーク事業者が生まれ、12のケーブルテレビ電話事
業者が存在するに到りました。さらに、BTは従業員数を25万人から14万人
に削減する一方、英国通信業界全体で25万人の新規の雇用が創出されておりま
す。
日本はこうした英国の事例をモデルとし、圧倒的な力を持つ構造(dominant
structure)のみならず、圧倒的な力による行為(dominant
behaviour)に対して、より焦点を当てた政策を採用すべきと考えます。
そのためには長期増分費用について充分ご理解を頂くことが肝要と考えます。弊
社としては英国で経験された一連のプロセス、方法論について、今後も郵政省始
め関係各方面に可能な限り協力させて頂きたい、そして日本の情報通信産業の活
性化と発展の基礎となる、公正で有効、かつ効率的な接続ルールが確立されるこ
とを願うものであります。
以上ご高配の上、ご検討頂きますよう宜しくお願い申し上げます。
別紙
新規参入者を誤った投資に導くコスト配分の歪み
NTT BT (結果として生じる)
日本の投資の方向性
市内交換機経由(一回/分) 1.35円 1.20円 市内交換機接続
における料金格差
→多数の市内交換
機への早急な接続
中継交換機経由(/分) 2.75円 1.55円
長距離(160km迄/分)12.85円 2.41円 自前の長距離
ネットワークの構築
電話番号帳への番号登録 500円 151円
オペレーター扱い 400円 81円 自前のオペレーター
サービスの確立
番号案内 250円 54円 自前のデーター
ベース構築
総括原価主義では、どの費用がどこに配分されるかによって、翌年の投資の方向
性が変えられてしまい、これを予見できない。長期増分費用を使うことにより、
配分ではなく、費用に基づいた、安定した投資の方向性を毎年想定していくこと
ができる。