発表日 : 1998年 9月24日(木)
タイトル : 「接続料の算定に関する研究会」報告書案への意見募集
郵政省では、平成10年3月の電気通信審議会答申「日本電信電話(株)の指定電
気通信設備に係る接続約款の設定の認可について」において同審議会から郵政省に
対する要望として答申に付記された事項について検討を行うため、平成10年4月
から「接続料の算定に関する研究会」(座長:齊藤忠夫 東京大学大学院工学系研
究科教授)を開催してまいりました。
このたび、要望事項に関する検討の結果について報告書案が取りまとめられまし
た。その内容は別紙のとおりです。
この報告書案について、平成10年10月15日(木)まで、書面、電子メール
等により、広く御意見を受け付けることとしますので、下記のあて先まで自由に御
意見をお寄せください。いただいた御意見につきましては、上記研究会における検
討、報告書の作成の参考にさせていただくとともに、その内容について、取りまと
め次第公表させていただきます。
記
電子メール
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setuzoku@mpt.go.jp
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FAX
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郵政省電気通信局電気通信事業部業務課内
「接続料の算定に関する研究会」事務局
03−3595−2008
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郵 送
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〒100−8798
郵政省電気通信局電気通信事業部業務課内
「接続料の算定に関する研究会」事務局
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連絡先:電気通信局電気通信事業部業務課
(担当:藤野課長補佐、中尾係長)
電 話:03−3504−4831
接続料の算定に関する研究会
報告書案
平成10年9月24日
はじめに
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我が国における接続制度については、平成8年12月の電気通信審議会答申「接
続の基本的ルールの在り方について」を踏まえ、接続条件の透明性を確保し、NT
Tの地域電気通信網との接続をはじめ電気通信事業者間の多様な形態での接続を推
進するため、平成9年6月に電気通信事業法が改正され、平成9年11月に施行さ
れた。
これを受け、平成9年12月に接続に、必要不可欠な電気通信設備(指定電気通
信設備)として、NTTの地域電気通信網が指定され、平成10年3月、NTTの
指定電気通信設備に係る接続約款の設定が認可された。
この接続約款の設定の認可に当たっては、電気通信審議会の答申において、郵政
省において次の(1)〜(5)の措置が講じられるよう配慮することが要望されている。
(1) 自己資本利益率の適切な水準の在り方について、次回の接続料の改定時まで
に検討し、結論を得ること。
(2) 新たな接続形態である端末回線伝送機能の利用におけるMDF接続に係る諸
問題について検討し、早急に結論を得ること。
(3) 預かり保守契約に基づく負担額の算定における管路等の費用の算定方法につ
いて、次回の接続料の改定時までに検討し、結論を得ること。
(4) 網改造料に係るソフトウェアの開発費が低廉化する方策について、次回の接
続料の改定時までに検討し、結論を得ること。
(5) 多様な接続料金の導入について検討し、早急に結論を得ること。
上記の審議会の要望を受け、郵政省において措置すべきとされた事項について検
討を行なうために、平成10年4月から本研究会が開催され、それぞれの事項につ
いて適宜関係電気通信事業者からの意見の聴取等を行いつつ検討を行ってきた。本
報告書は、その結果を取りまとめたものである。
目次
検討事項I 自己資本利益率の水準
検討事項II MDF接続
検討事項III 預かり保守契約に基づく負担額の算定における管路等の費用の算定方法
検討事項IV 網改造料に係るソフトウェアの開発費が低廉化する方策
検討事項V 多様な接続料の導入
(参考) 接続料の算定に関する研究会構成員名簿
検討事項I 自己資本利益率の水準
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接続料における自己資本利益率の水準について、平成10年3月20日電気通信
審議会答申により措置が求められた事項は次のとおりであった。
(1) 次年度以降の自己資本利益率について、次回の接続料の改定時までに、他の公
益事業や諸外国の事例等を調査の上、その適切な水準の在り方について検討し、結
論を得ること。
1 現状
NTTの接続約款の設定に際して、接続料における自己資本利益率の算定は、
「NTTと同様の格付会社、電気事業、ガス事業及び鉄道事業の自己資本利益率
の過去5年の平均(各社の有価証券報告書等より。)」と、「電気通信役務に関
する料金の算定に用いている自己資本利益率(日本銀行『主要企業経営分析』に
よる。)」とが勘案され、後者の数値が採用された。
2 他の公益事業や諸外国の事例を参考とした検討
料金等における自己資本利益率の水準の決定に際しては、設備投資に係る調達
コストを適正な範囲で賄えるような水準とすることを基本とするべきである。こ
れについては、電気・ガスといった公益事業の料金や、英国におけるBTの接続
料の決定といった事例を見ると、事業の安定性とリスクとを織り込んだ指標を用
いてその自己資本利益率とされることがある。NTTの接続料の算定についても、
基本的に同様な考え方を勘案することには、一定の合理性が認められる。
具体的には、資本資産評価モデル(CAPM:Capital Asset Pricing Model)におい
て採られている考え方を応用・適用する考え方が存在する。このモデルでは、資
産市場で成立する一般均衡状態において、合理的な期待形成を行う投資家のポー
トフォリオは市場ポートフォリオと無リスク資産との組み合わせになり、その期
待収益率は次の式で示される。
E(Ri) = Rf + β [E(Rm) - Rf]
Rm : 市場ポートフォリオのリターン
Rf : 無リスク資産のリターン
β : 対市場ポートフォリオの感応度
ここで得られる期待収益率を、NTTの接続料の算定における自己資本利益率
の設定にそのまま適用することの是非については、なおその諸要素について吟味
していく必要があるが、接続料における自己資本利益率の設定に際してこれを勘
案材料の一つとすることは適当と認められる。具体的には、次の算定式による算
定結果Eを勘案することとする。
E = (無リスク金融商品の平均金利) + β [(他産業における主要企業の過
去5年間の平均自己資本利益率) - (無リスク金融商品の平均金利)]
なお、この式による算出の際には、次のとおりとする必要がある。
(1) 算定期間
算定期間については、新サービスの利用者向け料金の算定期間が5年間であ
ること等から、直近の5年間とする。原則として各年度について算定の上、そ
の平均値を採ることとする。
(2) β値
β値の設定については、市場全体の株式価格の変化に対するNTT株式の感
応度を元にβ値を求める、という考え方がある(この場合、その値がNTTの
長距離通信部門を含む形で計測されることとなる。)一方で、NTTの地域通
信事業部の実績自己資本利益率を用いてβ値を算出するという考え方もある。
NTTの接続料の算定に際して、現時点でこの両者のうちのどちらか一方を採
るべきであるとするには更に検討が必要であり、次回の再計算においては、こ
の両者双方について期待収益率を算定の上、双方の算定結果を勘案の対象とす
ることが適当である。
3 利用者向け料金における自己資本利益率との関係
利用者向け料金において認可申請時に採られた自己資本利益率を、接続料の算
定に際して、その自己資本利益率の設定に際して勘案すべきである、という主張
がある。これは現行の郵政省令においても採られている考え方であるが、接続料
に係る事業リスクが、利用者向け料金に係るものに比べて一般には低くなると考
えられることから、一定の合理性が認められるところである。
現時点においては、利用者向け料金は、県内・県間別に設定されている訳では
なく、また、実績ベースで算定されるものでもないために、その自己資本利益率
を直ちに接続料の自己資本利益率と比較する対象とすることは、精緻さを欠くき
らいがあるが、接続料における自己資本利益率の設定に際してこれを勘案材料の
一つとすることは適当と認められる。
4 結論
当面は、上記のような事業の安定性とリスクとを織り込んだ指標を勘案すると
ともに、利用者向け料金において認可の申請時に採られた自己資本利益率をも勘
案してその値を決めるものとする。
今後は更に、具体的な数値等の蓄積及び検証を行い、更なる再計算時に際して
見直しを行っていくことが必要である。なお、更なる見直しを行うまでの間、利
用者向け料金に上限規制が導入された後は、利用者向け料金において認可の申請
時に採られた自己資本利益率に代えて、基準料金指数の算出の際に利用者向け料
金の自己資本利益率が勘案されるのであれば、これを勘案の対象として用いるこ
とが考えられる。
検討事項II MDF接続
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いわゆるMDF接続について、平成10年3月20日電気通信審議会答申により
措置が求められた事項は次のとおりであった。
(2) 新たな接続形態である端末回線伝送機能の利用におけるMDF接続に係る技術
面、運用面、制度面の諸問題について、電話接続、ISDN接続等の場合も含め、
現在、実証実験等を行い研究中のxDSL接続の検討と併せて検討し、早急に結論
を得ること。
1 現状
MDF接続については、これを検討している事業者とNTTとの間で、約款化
や協定締結に向けて定められている手続きに則った協議が十分に行われていると
は言い難く、MDF接続の具体的態様や使用法についても明確な姿が示されてい
ないため、必ずしも議論が噛み合わない面がある。したがって、まずこの点を明
らかにすることにより課題の所在を明確化することが必要である。
また、MDF接続には、xDSL接続と共通する課題があると思われるので、
MDF接続の検討を深めていく上では、xDSLの実験結果も踏まえる必要があ
る。
なお、米国ではxDSLの実験・試行やサービス提供も行われているが、例え
ばベル・アトランティックのxDSLについての試行サービスにおいては、イン
ターネットプロバイダに対して帯域貸しが行われているが、これは必ずしもMD
F接続によらない形態で行われており、その実態の把握に努める必要がある。
以上を前提として、ここでは、MDF接続について、当面の課題について、以
下のとおり整理した。
2 技術面、運用面の問題について
MDF接続の検討に当たっては、技術面の問題として、雑音や瞬断等の発生を
回避する電気的・技術的条件について、また、運用面の問題として、接続事業者
在り方、そして、光化等のアクセス網の高度化を阻害することのないようにする
在り方等、経営面も含め、十分な条件整備が行われる必要がある。
現在、平成10年2月20日から同年12月10日までの日程でxDSLの
フィールド実験が実施されているが、これらの問題は、xDSL接続の実現の検
討においても結論を出していく必要がある問題であり、その検討と併せて検討し、
早急に結論を得る必要がある。
3 制度面の問題について
MDF接続について、この接続形態を採るときには、NTTとして保守・運用
を行う設備を一切使用しないため、NTTにおいて提供することとなる設備が
「電気通信設備」に該当せず、制度面の問題があるのではないか、との主張が見
られた。これについては、電気通信事業法第2条における定義に照らし、NTT
において提供することとなる設備が「電気通信設備」に該当しないとは言えない
ので、技術面、運用面の問題について十分な解決が図られれば問題があるとは言
えない、との結論が得られた。
なお、接続事業者の要望によっては、現在未だ実現されていない端末回線接続
についても、適宜その条件について接続当事者間において、手続きに則した十分
な協議が行われるべきである。
検討事項III 預かり保守契約に基づく負担額の算定における管路等の費用の算定方法
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預かり保守契約に基づく負担額における管路等の費用算定について、平成10年
3月20日電気通信審議会答申により措置が求められた事項は次のとおりであった。
(3) 預かり保守契約に基づく負担額の算定における管路等の費用について、次回の
接続料の改定時までに、他の公益事業や諸外国の事例等を更に調査の上、その算定
方法について引き続き検討し、結論を得ること。
1 現状
預かり保守契約に基づく負担額の算定における管路等の費用については、現在
は再取得原価ベースで算定されている。
2 他の公益事業や諸外国の事例等を参考とした検討
他の公益事業について見ると、空き管路の賃貸借一般について、再取得原価を
考慮する事例も存在する。ただし、ボトルネック設備の賃貸借についても、管路
等の一般の賃貸借と同様に考えることで十分であるかには疑問があり、ボトルネ
ック性に着目した、更に別途の配慮が必要と考えられる。
諸外国においては、管路等設備の賃貸借について、ルール化が図られている事
例もあり、その中には、賃貸借料について、米国のように(正味)帳簿価額を採
用する考え方が採られている事例も見られる。
ボトルネックとなる管路等設備の範囲を考えるに当たって、そのボトルネック
性は、当該設備について代替手段がない、若しくは代替手段を採ることが事実上
困難であることをもって判断されるべきである。その範囲を厳密に画定すること
は困難であるが、少なくとも、接続点の置かれているNTTの通信用建物、そこ
から最も近いかそれに準じた地点のマンホールまでの管路又はとう道については
これに該当すると考えられる。ボトルネックとならない管路等設備の賃貸借につ
いては、公益性の観点から現在の在り方について問題が無いか、別途の検討の対
象となると考えられる。
NTTの利用者向け料金は、基本的に、その設定・変更時において、(正味)
帳簿価額をベースとしており、イコールフッティングの観点からは、ボトルネッ
クとなる管路等設備の賃貸借についても、利用者向け料金において採られている
ベースを基本とするべきである。
なお、意見聴取をする中で、管路等の賃貸借料を、網改造料とのバランスにお
いて議論する考え方も提示されたが、これについては、管路等の賃貸借料を網改
造料におけるベースと揃えなければならない、とする説得力のある理由には乏し
いと考えられる。
3 結論
結論として、接続点の置かれているNTTの通信用建物、そこから最も近いか
それに準じた地点のマンホールまでの管路又はとう道については、現行の利用者
向け料金の設定において採られた(正味)帳簿価額をベースとすることを基本と
すべきである。
なお、接続当事者双方の便宜のために、管内平均値を採る等、適宜平均値によ
り賃貸借料の設定を行なう等の配慮がなされることが望ましい。
以上については、NTTの利用者向け料金及び接続料の算定の考え方が変更さ
れる際には、イコールフッティングを確保する観点等から、同様の考え方を継続
すべきかについて、再検討する必要がある。
検討事項IV 網改造料に係るソフトウェアの開発費が低廉化する方策
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網改造料に係るソフトウェア開発費の低廉化について、平成10年3月20日電
気通信審議会答申により措置が求められた事項は次のとおりであった。
(4) 網改造料に係るソフトウェアの開発費については、次回の接続料の改定時まで
に、指定電気通信設備を設置する事業者に費用低減のインセンティブが働くような
スキームや接続事業者が費用決定に関与できるスキームなども含め、実質的にソフ
トウェアの開発費が低廉化する方策について検討し、結論を得ること。
接続当事者間のソフトウェア開発費の適正性に関する協議において、接続事業者
の求めにより、NTTから時宜を失することなく開発規模、ライン単価等の情報の
提供を行う一方、接続事業者においても見積りを作成し、情報の交換を進める中で
ソフトウェア開発費の適正性について検証されていくことが適当と考えられる。
検討事項V 多様な接続料の導入について
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多用な接続料の導入について、平成10年3月20日電気通信審議会答申により
措置が求められた事項は次のとおりであった。
(5) 時間帯により料金格差を設けることや割引料金の設定など多様な接続料金の導
入については、ネットワークの効率的利用及び競争に与える影響等を踏まえて検討
し、早急に結論を得ること。
1 多様な接続料の導入(総論)
現行の接続料においては、一律に実績原価に基づき算定し、事後に精算される
方式が採られているが、このこと自体が競争を阻害するものとは言えないが、接
続料の在り方においては、公正な競争条件が確保されるよう十分な配慮が必要で
ある。
その一方で、現行の接続料においては、ネットワークの効率的利用については
特に留意した工夫が見られる訳ではない。適宜事業者の提案に十分配意し、NT
Tにおいて、多用な接続料の導入について、必要に応じて検討が行われるべきで
ある。
2 時間帯による料金格差設定について
全事業者が適用されるような形での料金格差の設定については、現在において
は事業者間での利益相反が生じ、これを強く希望する事業者も無く、直ちに行う
必要性は認められないが、事業者のニーズを踏まえながら、今後も検討が行われ
る必要がある。
3 割引料金の設定について
現行の接続料においては、実績原価に基づき算定し、事後に精算される方式が
採られており、この方式の採用には各事業者の賛同も多く得られている。ここで
採られている考え方との両立が難しい形での選択型の割引料金の導入については、
これを希望しない事業者も少なからず存在しており、直ちに行う必要性は認めら
れないが、選択型の割引料金の設定についても、事業者のニーズを踏まえながら、
今後も検討が行われる必要がある。
接続料の算定に関する研究会構成員名簿
(敬称略)
氏 名
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主 要 現 職
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(主査)
さいとう ただお
齊 藤 忠 夫
(主査代理)
だいご さとし
醍 醐 聰
(委員)
さかい よしのり
酒 井 善 則
さとう はるまさ
佐 藤 治 正
ふじわら じゅんいちろう
藤 原 淳 一 郎
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東京大学大学院工学系研究科教授
東京大学大学院経済学研究科教授
東京工業大学工学部教授
甲南大学経済学部教授
慶應義塾大学法学部教授
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