第2部 サイバー社会の課題と展望



第3節 サイバー社会に対応した調整のとれた多元的な情報通信政策・法制の必要性

(1) 情報通信の基本理念の提示の必要性について

 サイバー社会は、情報通信の利用の深まり・広まりが進むにつれて、現実の社会の様々な分野を取り込み、かつ現実の社会と不可分一体のものとして拡張していくものである。
 このため、サイバー社会に対応する情報通信政策は、様々な分野の政策にも積極的に関係していくべきであるとともに、高齢化社会の到来等、現実の社会の変化をも幅広く視野に入れたものであるべきである。
 また、サイバー社会の構築は、国境を前提としない新たな社会の創造、すなわち新たな地球社会・国家の創造の一環であることを踏まえつつ進められるべきである。
 以上のような認識に立つと、サイバー社会の円滑な発展のためには、今後どのような社会を実現していくべきかについての基本理念を示し、その実現のための具体的政策を検討する必要がある。


(2) 情報通信の基本理念と政策軸について

 サイバー社会が新たな社会創造であることから、サイバー社会に対応した情報通信の基本理念としては、以下のような内容が盛り込まれるべきであると考えられる。

  誰もが技術進歩の恩恵を享受できる社会の実現
 高齢者・障害者に配慮しつつ、誰でもが自由に使える情報通信を実現し、技術進歩の恩恵を最大限に享受できる社会を実現する。

  自律的参加型社会の実現
 全ての人々が、情報を発信し、発信・蓄積された情報を共有することにより、受動的な立場に甘んじることなく、自律的・能動的に 社会の創造に参加できる参加型社会を実現する。

  豊かな知的社会の実現
 創造性を尊重し、様々な情報、思想、意思が自由かつ円滑に流通する情報通信により豊かな知的社会を実現する。

  活力ある地域社会の形成
 地域社会における創意工夫を活かしつつ、地域社会の自律的成長を促進させる情報通信により、活力ある地域社会を形成し、地域の 独自性を踏まえた国土の均衡ある発展に資する。

  国際化への対応
 情報通信の一層の発展により、各国の独自性を尊重しつつ、一層緊密な国際的連携を強化していく。

  ネットワークを通じて安心がもたらされる社会の実現
 安全性・信頼性の確保された情報通信や、また、災害時や危急時においても能力を遺憾なく発揮しうる情報通信により、ボランティ アのネットワーク化等とともに安心して暮らせる社会を実現する。
 このような基本理念を具体化して政策目標とするため、国家的なビジョンを策定し、広く示していくことが望まれる。そして、このようなビジョン及びそれを実現するべき情報通信政策・法制の検討に際しては、情報通信が全体として調和のとれた発展をするため、様々な観点からの座標軸、すなわち、人材、利用者保護、社会経済の情報化、社会的公平性、地域社会、基盤整備等の「多元的な」政策軸を考慮することが必要である。もっとも、それらの政策軸は相互に調整されるよう配慮されなければならない。
 「多元的な」政策軸の取り方は、柔軟で発展性のあるものとするため、必要に応じて見直していくことが求められるが、現時点においては、例えば以下のようなものが想定される。

<人材の政策軸群>

  教育の政策軸
◆教育の情報化、情報化教育
◆情報社会教育

  労働市場整備の政策軸
◆職業訓練、人材研修
◆コンテント制作者、情報通信研究者、技術者の育成

<情報通信利用ルールの政策軸群>
  利用者の保護の政策軸
◆利用者間の権利・利益の調整ルール策定
◆苦情処理体制の整備

  情報の信頼性の政策軸
◆無権限アクセスの防止
◆暗号政策・認証制度・内容証明

<社会経済の情報化の政策軸群>
  行政分野の情報化の政策軸
◆ワンストップ行政サービス
◆政府・自治体の先導的ユーザ化、電子政府、電子投票

  社会各分野の情報化の政策軸
◆産業、教育、研究、学術、文化、スポーツ、医療、労働分野等アプリケーションの開発・普及(遠隔教育、遠隔医療、テレ ワーク、ITS等)、国際会議への情報通信手段支援
◆電子商取引の普及・発展

  環境の政策軸
◆地球環境計測の充実
◆情報通信活動による生産・活動の効率化

<社会的公平確保の政策軸群>
  高齢者・障害者支援の政策軸
◆情報バリアフリー(無障壁)環境の整備
◆高齢者・障害者等の積極的社会参加支援

  ユニバーサルサービスの政策軸
◆ユニバーサルサービスの範囲の検討
◆ユニバーサルサービスの基準・ルールの実施

<地域社会の政策軸群>
  地域社会の発展の政策軸
◆地域からの情報発信
◆地域産業振興

  地域文化、伝統の政策軸
◆地域文化の振興
◆伝統の保存・継承

<コンテントの政策軸群>
  著作権・知的所有権の処理の政策軸
◆権利管理技術の開発、権利情報の提供体制
◆ネットワーク上での簡便・迅速な権利処理

  コンテント制作の政策軸
◆コンテントデータベースの構築
◆制作資金調達制度の整備

<情報通信基盤の政策軸群>
  ネットワーク整備の政策軸
◆ネットワークの重層的発展
◆光ファイバ網の整備、無線系ネットワークの高度化、放送のデジタル化の促進

  周波数資源の有効利用の政策軸
◆周波数の効率的割当
◆電波監視、不法無線局対策

  ネットワーク共用化の政策軸
◆異業種ネットワークの共用化の促進
◆端末共用化
<情報通信市場の政策軸群>
  公正有効競争の政策軸
◆NTT再編成
◆規制緩和、接続の推進

  新規参入の政策軸
◆新規参入促進策
◆ベンチャー企業振興

<研究開発の政策軸群>
  戦略的研究開発プロジェクトの政策軸
◆先端的・基礎的・学際的研究開発
◆デファクト化を目指した研究開発

  研究開発体制の政策軸
◆研究開発環境の整備
◆国際共同プロジェクトの推進、民間の研究開発支援

<国際の政策軸群>
  情報発信力の政策軸
◆情報通信ハブ化の推進
◆映像国際放送

  国際的な政策調整の政策軸
◆政府間交渉、国際機関での合意形成
◆軌道位置・周波数調整

  国際標準化活動の政策軸
◆ITU等における標準化
◆アジアにおける標準化

  国際協力の政策軸
◆国際的な情報通信基盤整備への貢献
◆人材育成への支援

<危機管理の政策軸群>
  ネットワークの安全・信頼性の確保の政策軸
◆無権限アクセス対応技術の普及
◆ネットワーク被災防止

  災害時・緊急時対策の政策軸
◆防災通信網の構築、重要通信の確保
◆安否情報

  国家安全保障の政策軸
◆サイバー・テロ対策
◆国際的な災害・危機管理対応情報通信システム









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