平成12年10月25日
地方制度調査会
内閣総理大臣 森 喜朗 殿
当調査会は、地方分権時代の住民自治制度のあり方及び地方税財源の充実確保について検討を重ねました結果、別紙のとおり結論を得ましたので、答申します。
第1 自己決定・自己責任の原則を踏まえた地方分権時代の住民自治制度のあり方
地方分権改革の一つの節目とも言える、いわゆる「地方分権一括法」が、本年4月1日から施行され、明治維新、戦後改革に次ぐ「第三の改革」の一環と称される地方分権改革がいよいよ現実のものとなって歩みを始めることとなった。
今回の地方分権改革は、国と地方公共団体の役割分担を明確にし、対等・協力を基本とする国と地方の新しい関係を構築し、地方公共団体の自主性・自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会を実現しようとするものである。このためには、地方公共団体としても、自己決定・自己責任の原則に基づき、地域内の諸課題に積極的に取り組んでいくことが求められている。
また、本格的な地方分権時代において、自己決定・自己責任の原則に基づく地方公共団体の意思決定がなされるためには、住民自治の根幹をなす地方議会の活性化や住民参加の積極的な拡大・多様化が不可欠である。真の地方自治は住民の意思と責任に基づいて主体的に形成されるべきであるという基本認識のもと、住民自治の更なる充実がまさに求められている。
さらに、財政面においても、自主財源である地方税を基本として、国からの財源への依存度合をできる限り縮減し、より自立的に財政運営を行うことができるようにすることを目指すべきである。
当調査会としては、このような認識のもと、「自己決定・自己責任の原則を踏まえた地方分権時代の住民自治制度のあり方」及び「最近の社会経済情勢の変化に即応した地方行財政制度のあり方」について検討を行ってきたところである。その結果、住民自治の更なる充実に資するための方策及び地方税財源の充実確保について、以下の結論を得たのでここに答申する。
第1 自己決定・自己責任の原則を踏まえた地方分権時代の住民自治制度のあり方
(1)住民投票制度
我が国の地方自治制度の根幹は代表民主制であり、住民の意思の反映手段として、住民の直接選挙を通じて選ばれた長や議会が中心的な役割を果たすことを前提としている。しかしながら、複雑化した現代社会において、多様な住民のニーズをより適切に地方公共団体の行政運営に反映させるためには、代表民主制を補完する意味で、直接民主制的な手法を導入することも必要であり、このため様々な住民意思の把握手法が活用されているところである。いくつかの地方公共団体において実施されている住民投票も、こうした観点から行われているものと考えられるが、住民が投票によりその意思を直接表明するという住民投票の制度化の検討は、住民自治の充実を図るという観点から、重要な課題である。
当調査会においては、こうした問題意識のもと、住民投票を代表民主制の補完的な制度として構築できないか検討を行ったところであるが、その制度化に当たっては、住民投票の対象とすべき事項、選挙で選ばれた長や議会の権限との関係、投票結果の拘束力のあり方等、種々の検討すべき論点があり、一般的な住民投票の制度化については、その成案を得るに至らなかった。これらの論点については、今後とも、引き続き検討することが必要である。
ただ、市町村合併については、(1)まさに地方公共団体の存立そのものに関わる重要な問題であること、(2)地域に限定された課題であることから、その地域に住む住民自身の意思を問う住民投票制度の導入を図ることが適当である。その場合、自主的な市町村合併の推進という観点を踏まえ「市町村の合併の特例に関する法律」において位置付けることとし、制度化に当たっては関係団体の意見を十分聴取の上、円滑な運用が図られるものとすることが適当である。
(2)直接請求制度
地方自治法において規定されている直接請求制度は、我が国の地方自治制度の根幹である代表民主制を補完する制度として重要な意義を有している。
現行制度上、直接請求の類型としては、条例の制定改廃、事務監査、議会の解散、議員又は長の解職及び主要公務員の解職の請求があるが、この制度のより実効的な運営を確保し、住民自治の充実を図るためには、次のような制度の改善が必要である。
直接請求のうち、議会の解散、議員又は長の解職及び主要公務員の解職の請求については、現在は「有権者の3分の1以上」の署名収集が必要とされているが、特に人口が多い地方公共団体においては、必要数の署名の収集が事実上困難であり、解散・解職請求が機能していないとの指摘がなされている。そこで、解散・解職の直接請求については、必要署名数に係る要件を人口規模等を勘案して緩和すべきである。
条例の制定改廃の請求の場合、現行制度上、請求を受けた長は条例案を議会に付議するに当たって自らの意見を付することとされているが、請求代表者が条例案を審議する議会に対して直接意見を表明する機会はない。直接請求の趣旨や内容を、請求した住民が議会で自ら説明する機会を設けることにより、議会における審議の充実を図るという観点から、請求代表者に対し議会における意見陳述の機会を保障することが適当である。
(3)住民監査請求制度・住民訴訟制度
「地方分権一括法」の施行により、地方公共団体は、地域住民の意向を反映した自主的かつ主体的な施策の展開が求められるとともに、その責任を自覚した上で自らを厳しく律することが求められている。このためには、地方公共団体は自ら努力することはもちろんのこと、情報公開や行政評価等による住民に対する説明責任の強化、行政の違法な行為に対する事前・事後のチェック機能の充実等、住民による監視機能についても更なる充実を図っていく必要がある。
したがって、住民監視制度において重要な役割を果たしている住民監査請求制度や住民訴訟制度についても、このような要請に応えるため、その機能の充実を図り、地方分権の時代にふさわしい制度として再構築することが求められている。
一方、長や職員が個人として被告となり得る現行住民訴訟制度のもとでは、長や職員がたとえ適法な財務会計行為を行っているとしても、住民が違法であると判断すれば、長や職員個人を被告として訴えることができること、また、長や職員は裁判に伴う各種負担を個人として担わざるを得ないことから、長や職員に政策判断に対する過度の慎重化や事なかれ主義への傾斜による責任回避や士気の低下による公務能率の低下が生じ、地方公共団体が積極的な施策展開を行うことが困難になるなどの事態も指摘されてきている。住民訴訟制度の充実を図るに当たっては、併せて、こうした問題についても配慮することが望まれるところである。
このような状況を踏まえ、住民監査請求制度、職員に対する賠償命令制度及び住民訴訟制度について、次のような改正を行うべきである。
地方公共団体における違法な財務会計行為については、損害賠償等の事後的な措置ではなく、事前の差止めを求める住民監査請求を通じて行政自らの判断により事前に対処することが望ましい。したがって、差止めを求める住民監査請求の実効性を担保するため、住民監査請求の審査段階において、監査委員が一定の要件のもと、監査結果が確定するまで執行の差止めを勧告する制度を創設すべきである。
また、監査委員の審査に対する信頼性を確保するという観点から、審査活動の透明性の向上や審査能力の強化等審査手続の更なる充実を図る必要がある。このため、審査の際、監査委員が必要と認めるときは、請求人及び関係機関又は職員を立ち会わせて陳述の聴取を行うことができることとするとともに、有識者、専門家等の参考人から意見を求めることができることとすべきである。
財務会計職員に対し賠償命令を発することができる期間は現在3年とされているところであるが、地方自治法上の金銭債権の消滅時効期間を勘案して、その期間を5年に延長し、賠償命令制度の充実を図るべきである。
住民訴訟制度は地方公共団体の財務会計上の違法行為の予防又は是正を目的とするものであるが、現在の4号訴訟においては、職員の個人責任を追及するという形をとりながら、財務会計行為の前提となっている地方公共団体の政策判断や意思決定が争われている実情にある。したがって、従来、住民が地方公共団体に代わって個人としての長や職員等を直接訴える4号訴訟の対象となっていた事例については、訴訟類型を地方公共団体が長や職員等に対して有する損害賠償請求権や不当利得の返還請求権について地方公共団体が適切な対応を行っていないと構成することにより、機関としての長等を住民訴訟の被告とし、敗訴した場合には、当該執行機関としての長等が個人としての長や職員等の責任を追及することとすべきである。このような制度改正により、地方公共団体が有する証拠や資料の活用が容易になり、審理の充実や真実の追究にも資するものとなる。さらに、このような審理を通じて地方公共団体として将来に向けて違法な行為を抑止していくための適切な対応策が講じやすくなると考えられる。また、長や職員個人にとっては、裁判で直接被告となることに伴う各種負担を回避できることから、従来の4号訴訟に対して指摘されていた問題の解消にもつながるものである。
なお、住民訴訟においても、損害賠償等の事後的な措置ではなく、事前に違法行為が是正されることが望ましいことから、従来「回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合」に限り認められてきた、違法な財務会計行為の差止めを求める1号訴訟について、この要件を削除するとともに、地方公共団体の行為に対する差止請求という性格上公共の福祉との調整が必要と考えられることから、このことを明確にするための所要の規定を置くことを検討すべきである。
また、訴訟類型を再構成するに際しては、判例・学説に争いのある民事保全法の適用関係についても、住民訴訟の客観訴訟としての性格等を踏まえて、その明確化を図ることを併せて検討すべきである。
従来、原告の弁護士費用の公費負担は4号訴訟のみに認められていたが、原告が勝訴した場合、地方公共団体の違法行為が是正されるという効果が生じ、結果として公益に資することになることから、原告が勝訴した場合の弁護士費用について、公費負担の対象を住民訴訟全体に拡充すべきである。
(4)新しい住民参加のあり方
住民自治の充実を図るためには、制度的な充実を図る一方で、住民の多様な参加を促進する新たな手法の活用も必要である。
このような手法の一つとして政策の立案に当たり、広く住民に対して案を公表し、その多様な意見、情報を考慮して意思決定を行うパブリックコメントという手法がある。地方公共団体においては、住民の行政への参加を促すという観点から、こうした手法を幅広く活用していくことが望まれるところである。
また、地方公共団体において先進的な取組が進められている行政評価は、住民に対する行政の説明責任を果たす上で有効な手法である。行政評価は、それぞれの地方公共団体が地域の実情に応じて積極的に導入していくことが望まれるが、その実施に当たっては、評価結果を住民に対し積極的に公表していくことはもとより、評価手法等についても住民にとってわかりやすいものとすることが重要である。
さらに、地方公共団体においては、人選の公正さを確保しつつ、地域住民の幅広く多様な意見を積極的に行政に反映させるため、審議会等の委員を公募するという取組が見られはじめている。こうした取組も政策の立案や審議過程に住民が主体的に参画する手法として有意義であると考えられる。また、女性の行政の意思決定過程への参加については、近年急速に進んできているところであるが、男性に比べればその数は依然として少数であることから、地方公共団体においても、審議会等の委員への女性の登用に当たって具体的な方法を定めることなどにより、女性の積極的登用を引き続き推進すべきである。
なお、こうした新たな住民参加の手法を活用するに当たっては、行政の有する情報を積極的に公開するとともに行政に対するアクセスを容易にし住民の参加機会を拡大するという観点から、インターネット等のIT(情報通信技術)の活用にも配慮することが重要である。
国においても、こうした住民参加を促進する手法について必要な情報提供や助言を行うなど、地方公共団体の自主的な取組を積極的に支援していくべきである。
また、住民参加については、行政の手法としての側面のみからだけではなく、多様な住民組織との積極的な協働関係を構築するという観点も重要である。
地域毎に住民の意向をきめ細かく反映させながら、多様化するコミュニティレベルの行政需要に的確に対応していくためには、コミュニティ組織や地縁団体の役割がこれまで以上に重要となってくると考えられる。実際にも、地方公共団体とコミュニティ組織や地縁団体がパートナーとなって、地域ごとに個性あふれる創意工夫を凝らした取組が増えてきている。住民の意向を反映させるための取組の先導的な例として、地域住民や自治会の代表者をはじめ、専門家、NPO等が主体的に参加し責任を持ってまちづくり計画をとりまとめることにより、行政主導のまちづくりでは期待できないきめ細やかな事業実施を確保しようとするまちづくり協議会があげられる。コミュニティレベルの行政需要への対応を的確に行うための主体として、コミュニティレベルでの自治組織の重要性が認識されはじめているが、国においても、こういった先導的な取組も踏まえつつ、諸外国における事例等を参考に我が国にとってふさわしいコミュニティレベルでの自治組織のあり方やその法的な位置付け等について、引き続き検討していくべきである。
また、住民参加においては、自治会や町内会等の旧来のコミュニティレベルの自治組織に加えて、様々な目的・機能に応じて形成されるNPOの役割が大きくなってきている。地方公共団体としても、NPOに対する情報提供、拠点となる施設の整備などの支援を行ってきているが、これにとどまらず、これまで行政が専ら担ってきた分野についてもNPOとの適切な役割分担という観点から積極的な業務の見直しを行い、NPOとの連携協力を強化していくべきである。
住民を幅広く代表する地方議会は、当該地方公共団体の施策を策定又は決定する議事機関としての機能及び長その他の執行機関の監視機関としての機能を有している。これらの機能は、いずれも住民自治制度を確立する上で必要不可欠なものであるが、地方公共団体の自己決定権の拡大に伴い、住民の代表である地方議会の果たすべき役割の重要性がこれまで以上に高まっているところである。
地方議会がその役割を十全に果たすためには、地方公共団体の長と議会とが相互にその機能を十分発揮しつつ、地方議会あるいはその構成員である議員が、自らの判断と責任において、自主的かつ自立的に活動できることとする必要があり、また、その際には、議会と地域住民との信頼関係が確立されていることが必須の前提となる。しかしながら、近年、ときとして議会と住民の意思の乖離や上記の議会の機能の形骸化が指摘される場合がある。地方公共団体における議会は、住民自治の根幹をなす機関であるという原則を再認識した上で、制度、運用の両面にわたり、その機能の充実を図っていくことが必要である。
地方議会の活性化のためには、地方議会の議員に幅広い人材を確保し、議会の調査機能や議員研修の充実を図るとともに、議会の運営に際し、その審議の透明性を高め、議会と住民との意思疎通を促進することが極めて重要である。現在も、一部の地方公共団体において、住民の傍聴等の利便を考慮して、夜間、休日に議会を開催するなどの取組が行われているところであるが、このような取組の促進に加え、さらに、公聴会制度や参考人制度の積極的活用を図る必要がある。なお、議会審議の一層の活性化を図るという観点から、学識経験者や地域・職域を代表する者等を審議に直接参加させる仕組みを設けることも今後の検討課題とすべきである。
さらに、地方議会の審議能力を向上させる観点から、議会事務局の補佐機能のより一層の充実を図るべきである。
なお、審議を行った事項のうち、(1)地方議会の意見書の提出先として国会を追加すること、(2)議員の調査研究のために必要な経費の一部として、条例により政務調査費を交付することができることとするとともに透明性を強化すること、(3)地方議会の自治組織権を拡充するため、人口段階別の常任委員会数の制限を廃止することについては、本年5月、地方自治法の一部改正(平成12年法律第89号)により制度改正がなされているところである。
中核市制度は、当調査会の答申を踏まえ、平成6年の地方自治法改正により創設されたものである。中核市の指定に当たっては、現在、人口30万以上、面積100km2以上という要件が法定されているところであるが、権限移譲を積極的に推進するため、要件緩和を行うべきである。具体的には、移譲される事務に関する行政需要のまとまり、これに対応する行財政能力、都道府県の行政サービスの効率性といった観点を踏まえ、人口50万以上の市については面積要件を廃止することが適当である。
(1)分権型社会においては、地方公共団体が地域住民の参画を得て総合的に施策の選択を行い、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現に責任を持って取り組めるようにすることが重要であり、そのため、地方公共団体の財政面における自己決定権と自己責任をより拡充する必要がある。
国と地方の歳出純計に占める地方の歳出の割合は約3分の2であるのに対し、租税総額に占める地方税の割合は約4割であり、歳出規模と地方税収入には大きな乖離がある。地方税については、この乖離をできるだけ縮小するという観点に立って、その充実確保を図らなければならない。
自主財源である地方税を基本としつつ、国庫補助負担金、地方交付税等の国からの財源への依存度合をできるだけ縮減し、より自立的な財政運営を行えるようにすることが目指すべき方向であり、これにより、福祉・教育、社会資本整備など様々な行政サービスによる受益と負担の対応関係のより一層の明確化が図られ、国・地方を通ずる行政改革や財政構造改革の推進にもつながるものと考えられる。
特に、国庫補助負担金については、地方公共団体の自主的な行財政運営を阻害しがちであり、財政資金の非効率な使用を招きやすいことなどから、国庫負担金・国庫補助金の区分に応じて積極的に整理合理化を図るべきである。
地方税財源の充実確保については、現在、地方財政が危機的な状況にあることを踏まえ、速やかに検討し、必要な取組を行うとともに、今後景気の回復状況等を勘案しつつ、前述の歳出規模と地方税収入の乖離をできるだけ縮小する観点から、国と地方の税源配分のあり方についても検討し、必要な見直しを行うべきである。
(2)地方公共団体は、地域の事情が様々に異なる中で、法令等に基づき住民の生活に身近で基礎的な行政サービスを広く担う必要があり、安定的な財政基盤を確立するためには、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えた地方税体系が必要である。しかしながら、地方税の充実確保を図っていく場合でも、地方公共団体間の税源の偏在の問題は解消できるものではなく、地方交付税制度は、税源の偏在による財政力の格差を是正するとともに、地方行政の計画的な運営を保障し、地方公共団体が法令等に基づき実施する一定水準の行政を確保してきたが、今後とも、引き続き重要な意義を有するものと考えられる。
(3)したがって、今後の地方税財源のあり方を考える場合、地方の行財政運営の自立性をより高める観点から、基本的には地方税の拡充に努めつつ、一方でその財源保障に支障が生じないよう地方交付税総額について適正な水準を確保すべきものである。
また、国民の価値観が多様化し地方分権により各地域の個性化が図られている中、地域の実情に応じた行政施策と個性ある地域づくりを展開していくことが、全ての地方公共団体に求められている。地方公共団体が自主的・主体的に地方単独施策を積極的に実施できるよう適切な財源を確保すべきである。
なお、法令による定数等の基準の設定、事務事業の義務づけのあり方については、常に見直し、地方公共団体の行財政運営の自立性を高めることも必要である。
(4)また、地方公共団体の側にも厳しい自己管理が求められることは当然である。財政状況が厳しい中、強い自覚を持って歳出の見直しなど徹底した行政改革に取り組むとともに、自ら行政評価を行い、情報公開を徹底して、説明責任を十分に果たすことも重要である。
(5)市町村合併については、「市町村の合併の特例に関する法律」等により自主的な合併を推進するために必要な措置が講じられているが、更に積極的に取組を支援するため、税財政面において、必要な措置を検討すべきである。
上に述べた基本的な考え方に沿って地方税の充実確保を図る際には、所得・消費・資産等の間における均衡がとれた国・地方を通ずる税体系のあり方等を踏まえつつ、税源の偏在性が少なく税収の安定性を備えた地方税体系の構築が重要であり、その際、都道府県と市町村の役割や現状を踏まえた税源配分のバランスについても考慮すべき課題と言える。また、地方分権や少子高齢化の進展に伴い、福祉、教育等の対人行政サービスが増大することが見込まれ、これを受けた財政需要の拡大が避けられないことから、地方税の充実強化が必要であり、その主なものについては次のとおりである。
(1)法人事業税への外形標準課税の早期導入
都道府県の基幹税目となっている法人事業税への外形標準課税の導入は、地方分権を支える安定的な税源の確保に資するだけでなく、応益課税としての税の性格の明確化、税負担の公平性の確保、経済の活性化・経済構造改革の促進等の重要な意義を有する改革であり、早期に実現すべきである。その際、税負担の急激な変動、中小法人・ベンチャー企業の税負担や雇用への影響に対する配慮といった諸課題に対応する必要がある。
(2)主要な税目の具体的方向
税源の偏在性が少なく税収の安定性を備えた地方税体系の構築のためには、まず、上記(1)の取組を行うとともに、併せて、個人住民税、地方消費税、固定資産税の主要3税目の充実確保等を図る必要がある。
なお、均等割については、過大な負担とならないよう配慮しつつ、その拡充を図るべきである。さらには、生計同一の妻に対する均等割の非課税措置についても男女共同参画及び個人単位課税の観点から、そのあり方の見直しを検討すべきである。
「地方分権一括法」による地方税法改正において、地方公共団体の課税自主権尊重の観点から、法定外普通税の許可制が同意を要する協議制に改められ、協議の範囲が縮減されるとともに、法定外目的税が創設された。多くの地方公共団体において、こうした制度改正の趣旨も踏まえ、課税自主権の活用について積極的な検討が行われているが、財政基盤の強化や自己決定権の拡大という観点からは、望ましいと考えられる。地方公共団体は地域住民の意向を踏まえ、自らの判断と責任において「公平、中立、簡素」の税の原則や納税者負担のあり方に配慮しつつ、地域の実情に即した課税自主権の活用の検討を行うべきであり、その際、国は、各種情報提供等の支援を行うべきである。
地方の自己責任に基づく自主的・効率的な行財政運営を確立するため、国庫負担金・国庫補助金の区分に応じて、真に必要なものに限定するという基本的な方針に沿って積極的に国庫補助負担金の整理合理化を進めることが必要である。
なお、国庫補助負担金の廃止・縮減を行っても引き続き当該事務・事業の実施が必要な場合には、地方税・地方交付税等の必要な地方一般財源を確保していくことが必要である。
また、存続する国庫補助負担金については、地方公共団体の自主的・自立的な行財政運営が損なわれることがないよう、運用・関与の改革を図るとともに、可能な限り地方公共団体の自主的な施行が可能な統合補助金化、交付金化を進めるべきである。
地方公共団体が、自主的かつ安定的な財政運営を確保し得るようにするためには、前述のように、基本的には地方税の拡充に努め、一方で、税源の偏在による財政力の格差を是正するとともに、地方行政の計画的な運営を保障し、地方公共団体が法令等に基づき実施する一定水準の行政を確保するため、地方交付税の所要額を確保することが必要である。
また、近年では、巨額の財源不足の補てんを交付税及び譲与税配付金特別会計における借入金等により賄っているが、現在特別会計の借入金残高は38兆円にも上っている。今後、このことを十分踏まえつつ、財源不足の縮小に努め、適切な地方財政対策を講ずるべきである。
一方、地方交付税の算定については、地方公共団体の意見をより的確に反映するとともに、その過程をより明らかにするために、平成12年度から地方交付税法に基づく意見提出制度が設けられたところであるが、同制度の趣旨の周知徹底に努め、地方公共団体の積極的な活用を促すとともに、その円滑な実施を図るべきである。
さらに、基準財政需要額は、合理的かつ妥当な行政水準の確保のためあるべき標準的な財政需要を測定するものであり、常にその算定のあり方を点検するとともに、地方分権の時代にふさわしい簡素で効率的な行政システムの確立、行財政運営の効率化・合理化の要請を的確に反映させる観点から、算定の一層の合理化を図るべきである。
併せて、地方の固有財源である地方交付税の性格を明確にするため、国の一般会計を通すことなく、国税収納金整理資金から、直接、交付税及び譲与税配付金特別会計に繰り入れるようにすべきである。
新しい財政投融資制度の下においても、地方公共団体が社会資本の整備を着実に推進できるよう引き続き良質な公的資金の確保を図るべきである。
また、地方債の共同発行機関たる性格を有する公営企業金融公庫についても、資金調達に対する政府保証を付することを基本として、長期かつ低利な資金を今後も安定的に供給できる仕組みを構築していくことが必要である。
さらに、地方債の許可制度から協議制度への円滑な移行を進めるとともに、民間資金の安定的な調達を図るため、引き続き地方債の流通性向上に努めることが必要である。