「プログラミング×防災」モデル

株式会社 Z会

H28年度第2次補正予算にて実証実施

1. モデルの概要

1.1 モデルの全体概要

事業者名 株式会社Z会
実証ブロック/実証校 東海 静岡大学教育学部附属浜松小学校
西伊豆町立賀茂小学校
育成メンター(メインメンター) メインメンター数: 1
メインメンター属性: 浜松:Z会社員
西伊豆:退職教員
育成メンター(サブメンター) サブメンター数: 27
サブメンター属性: 大学生、児童保護者(PTA)、退職教員、地域ボランティア(元SE、僧侶、農業従事等)
研修時間 4.5 時間(※西伊豆町は自主研修あり)
(うち自宅研修時間) 0 時間 
使用言語・教材・ツール 言語: LabView
教材・ツール: Z会作成テキスト、LEGO MINDSTORMS EV3
使用端末とその帰属 タブレット:
(浜松)10台  (西伊豆)5台
帰属:実証校
講座の受講児童・生徒数と学年 受講者数: 浜松:21名
西伊豆:22名
学年: 浜松:(小6)11名 (小5)10名
西伊豆:(小6)14名(小5)8名
カリキュラム 10時間
(指導要領外での実施を意識して設計)
浜松:2時間×5日
西伊豆:1時間×10日
使用端末(PC・タブレット)の帰属 実証校

2020年度より小学校で本格的に「プログラミング教育」が開始されることとなり、「プログラミング教育」は世間の耳目を集めている。指導要領で示される「プログラミング教育」は「コーディング教育ではない」「教科の中で教科の一部として実施されるものである」とされるため、課外授業で扱われる「プログラミング教育」は技術を強調したものが多く見られるのが現状である。
素晴らしい技術、優れた技術であっても、それが必要であることに思いが至らなければ、習得しようというモチベーションを持ち得ない。コーディングには技術が必要であることは言うまでもなく、従って技術を強調した講座が必要である一方、その前段階として「問題発見、課題解決」を強調した講座が必要なのではないか。
そこでZ会では、「プログラミング」を手段として用いて「問題発見、課題解決」を行うための講座を目指した。

本講座の目的は「プログラミング」を手段として「考える」ことであり、「プログラミング」、特にコーディングの技能習得そのものではない。また、「考える」対象となるものは身近な題材であることが望ましく、「プログラミング」を行うことでそうした題材を扱うことができなければならない。こうした諸条件を勘案した結果、「プログラミング」の教材としてレゴ社の教育用ロボット「マインドストーム (R)EV3」を用いることとした。基本的な操作の習得は難しくなく、「見立て」を行うことで様々なシチュエーションに対応することができる。
具体的操作を通じて思考を深めてゆく小学生という発達段階を鑑みたとき、最適なツールとして考えられた。
また、Z会ではマインドストーム(R)EV3を用いた講座を開講しており、その際の教材作成ノウハウや指導経験を生かすことができるためである。
そこで我々はマインドストーム(R)EV3を用いて、日本の未来にとって切実なテーマである「防災」について考えさせることとした。
地震や台風の脅威に常にさらされている我が国にとって「防災」は最重要テーマの一つであり、特に東日本大震災以降、これまで以上に「防災教育」の必要性が叫ばれている。Z会が本社を置く静岡県にとっても、1970年代以降繰り返し論じられている「東海地震」への備えをしてきたことから、「地震防災」は身近なテーマの一つとなっている。
こうしたテーマをこれまでと別の視点から捉え直すことは啓蒙的な意味でも有効であり、別の視点として「プログラミング的思考」を用いることは「プログラミング教育」を教科内で行うための実験としても有効であった。

以上の観点よりメンター育成、教材作成をし、7月には静岡大学教育学部附属浜松小学校にて、10月には西伊豆町立賀茂小学校にて実証実験を行った。

1.2 実施体制

1.2.1 体制図

体制図

1.2.2 実証校、教育委員会、他外部団体との連携について

実証事業の応募にあたり、既に通信教育を小学校でご利用いただいていた西伊豆町教育委員会の前教育長(当時の教育長)に連絡をとり、2016年10月中旬に西伊豆町での実施提案に向けて調整を開始した。
前教育長から、募集要綱の条件であった課外での実施という点で、賀茂小学校での実施が妥当、またメインメンター候補者にも話を通してあるので近日中に詳細な説明をして欲しいとの返事をいただいた。直ちに同校平馬校長先生とメインメンター候補者の土屋氏との面談の場を設け、Z会が考えている講座の説明、マインドストーム(R)EV3の実演などを行い実施概要についてご理解をいただいた。
また、複数校での実施のため、同じく西伊豆町前教育長から西伊豆町と既に関係のある静岡大学にメンターの協力も兼ねて、実証実験への協力要請を依頼。その後、静岡大学教育学部附属浜松小学校から実証実験に協力いただける返事をいただき附属浜松小学校に訪問し講座内容の説明を行った。
各校での実施にあたり、メンターは実施後の自走を考慮し、できる限り実施校周辺で集めるようメンター募集を行った。募集チラシを作成の上、募集を始めたところ、西伊豆町は、教育委員会とメインメンターを勤められる土屋氏と賀茂小学校との連携(口コミとチラシの配布)で地域のメンターが早々に集まった。ところが、附属浜松小ではメンター確保に苦戦を強いられ、静岡大学の情報学部(浜松)と静岡キャンパスで募集を行ったが応募がない状態が続いた。苦戦状況を附属浜松小のこの実証実験を担当される冨永教諭に相談したところ、附属浜松小に隣接する浜松学院大学の先生に打診いただき、教育実習授業を終えた学生でプログラミング教育に関心の高い学生をメンターとして派遣協力すると返事をいただいた。その結果、附属浜松小では、PTAと大学生、Z会で集めた元教員による総勢21名のメンターを確保することができた。
社内における講座検討の打ち合せで、防災をテーマとしたプログラミング講座の設計にあたり、専門家にご意見をいただき教材作成を進める基本方針が決定。附属浜松小の冨永教諭から静岡県における防災の第一人者である静岡大学の小山教授をご紹介いただき、直ちに小山教授に本実証実験のご説明とご協力のお願いに伺った。小山教授は附属浜松小学校の前校長であり、また伊豆ジオパークに関する研究で西伊豆町とも縁つながりということからも講座の監修と講座初回に各地域に根ざした防災をテーマにした講義を引き受けていただけることとなった。

1.3 実施スケジュール

実施スケジュール

2. メンターの育成

2.1 育成メンター概要

本来は「指導」のためには高い専門性が必要であるが、「地域人材」を活用する以上、必ずしも専門性を兼ね備えたメンターばかりを育成できないという現実もある。そのため、メンターには「児童の半歩先の知識を持ち、児童に寄り添い、児童の発想を引き出し、児童に自信を持たせ、児童に成長のきっかけを与える」ことを求めた。
大都市圏であれば大学生、特に教職を志望する学生を多く集めることができるが、地方都市では必ずしもそのような人材を確保できるとは限らない。そのため、以下の属性をターゲットにメンター募集を行い、育成研修を行った。

  • 教職を志望する大学生
  • 児童の保護者
  • 地域で子どもの支援などを行うボランティア経験がある者
  • 教職経験者

「教職志望者」「教職経験者」であれば、児童に対しどのように接するべきか、どのような指導を行うべきなのかをイメージしやすいというアドバンテージを持つ。教職志望者であればメンター経験が今後に生き、教職経験者であれば指導に経験を生かすことができる。一方、今ではまだ誰もが手探りの「プログラミング教育」に対しても従来の「授業」の型をそのまま持ち込むことが懸念された。そこで、児童の実態を知る保護者や、「授業」とは違った形で児童と関わるボランティアが参加することで、メンターの指導の多様性、キャラクターの多様性が担保できるのではないかと考えた。
その結果として浜松では実施校の保護者、近隣大学の学生、担当者の知己でもある退職教員ら21人が、西伊豆では教育委員会より紹介された退職教員、メンターの知己、実施校の保護者ら7人が応募した。これら28名に対し、浜松では6月に、西伊豆では8月に育成研修を行い、全員をメンターとして採用した。

2.2 メンターの募集

静岡大学教育学部附属浜松小学校、西伊豆町立賀茂小学校のそれぞれにメンター募集用のチラシを作成した。
チラシはカラーで両面印刷し、タイトルには総務省のロゴを使用し、実証事業についての重みを付して募集をおこなった。
附属浜松小学校では、PTAメンター募集用チラシの他に大学生のメンター募集のため「静岡大学静岡キャンパス用」「浜松学院大学用」の3パターンを用意。西伊豆町立賀茂小学校ではメンター募集用のチラシを用意し、賀茂小学校、西伊豆町教育委員会経由で配布いただいた。
賀茂小学校用のチラシを下記に掲載する。

メンター募集用チラシ
メンター募集用チラシ

2.3 育成研修

2.3.1 研修プログラム概要

浜松、西伊豆ともに、2日間の研修を行った。それぞれの概要は次の通りである。

【浜松】
実施日:6/23(金)14:00〜16:00 6/30(金)14:00〜16:00
6/23実施内容:マインドストーム(R)EV3の基本的な扱いについてのレクチャーと実習
6/30実施内容:児童への接し方、「防災」についての基本知識、評価についての講義
児童用のテキストに掲載した「練習問題」で提示されたプログラムが作成できるかを習熟の目安とした

【西伊豆】
実施日:8/24(木)13:00〜16:00 8/25(金)13:00〜16:00
8/24実施内容:マインドストーム(R)EV3の基本的な扱いについてのレクチャーと実習
8/25実施内容:児童への接し方の講義とそのロールプレイ、「防災」についての基本知識、評価についての講義、実施内容の検討
児童用テキストで提示したプログラムが作成できるかどうかという技量面に加え、ロールプレイや実施内容の検討を通して「適切な対応ができるか」「議論に参加できるか」といった資質面の観察を行ったほか、西伊豆ではメンターが自主的に勉強会を行った。全員が参加したものではないが、多い人で10時間超、少ない人でも4〜5時間は参加し、実際の講座をイメージしたプログラムの作成、運営方法の確認を行った。

2.3.2 研修教材

育成研修では以下の教材を作成し、使用した。

児童用ワークブック(講座で使用するもの)

ワークブック

メンター用補足資料(ワークブックを補足するもの;本研修のテキスト)

ワークブック補足資料

児童用教材

児童用教材

実際の研修は、研修テキストの内容を要約する形で行った。

浜松での実証実験後、メンターからは「具体的にどのように児童に接すればよいか、研修からではイメージできなかった」という声があった。そのため、西伊豆では浜松での様子を撮影したビデオを用いて講座をイメージさせるとともに、浜松でのあるシチュエーションを切り出し「どのように行動すべきか」のロールプレイを行った。3例程度しか取り扱えなかったが、「このパートがあったために責任感を強く感じることができた」「どのようなことを行うことになるのかのイメージを持つことができた」といった反応が得られた。

  • ロールプレイ研修用資料
  • ロールプレイ研修用資料

3. 実証講座の実施

3.1 講座の概要

児童の学年 募集方法 人数 講座進行担当者の属性
メインメンター
参加サブメンター数 講座回数
附属浜松小学校 5年・6年 チラシ配布
希望者・抽選
21名 Z会社員 1名 全員で21名
常時12名程度
5回
(各120分)
賀茂小学校 5年・6年 チラシ配布
希望者
22名 元教員 1名 全員6名
常時6名
10回
(各50分)

浜松では夏休み前の短縮日課期間を利用して2週間程度で、西伊豆では放課後学習の時間を利用して1ヶ月にわたり講座を実施した。

【浜松】静岡大学教育学部附属浜松小学校
同校でプログラミング教育を担当する冨永浩司教諭を窓口に、参加者の募集、保護者や児童への連絡、学校側との調整を行った。また、冨永教諭には児童への事前・事後指導もお願いした。

7/14(金)
13:30〜15:30
「防災」について考える−静岡大学小山教授の講話
目的 火山・地震を専門とする静岡大学教育学部の小山眞人教授より、「地震」「防災」に関する講話をいただき、静岡県の「地震」「防災」に関する現状を知る。
成果 地域における防災課題を意識することができるようになった。最終日に「地域の防災」を考えさせた際の知識のベースになった。
7/19(木)
13:30〜15:30 
マインドストームを動かそう−プログラミングブロックの学習
目的 協働学習を通じて、マインドストーム(R)EV3の基本的な操作を知る。
成果 プログラミングブロックの使い方について、ジグソー法における「エキスパート活動」「ジグソー活動」を実施。マインドストーム(R)EV3アプリを用いてのプログラミングを行うための、最低限の下地ができた。課題のプログラム作成においては「クロストーク」的要素が入り、学んだ知識の整理をすることにもなった。全体への発表はクロストーク活動にもなっており、発表を通じてさらに学習事項の理解を深めた。
7/20(金)
13:30〜15:30
マインドストームでセンサーを使おう−センサーの学習
目的 マインドストーム(R) EV3でセンサーを用いる方法を学ぶとともに、話し合いを通してグループ内で知識を共有する。話し合いを経て、自身の考えを深める。
成果 センサーの使い方について、ジグソー法における「エキスパート活動」「ジグソー活動」を実施。課題プログラムの作成にはやはり「クロストーク」的要素があり、学んだ知識の定着と思考の整理ができた。また、全体への発表はクロストーク活動にもなっており、理解を深めるのと同時に自身の考えを伝えることで言語活動を行う場ともなった。
7/29(土)
10:00〜15:00
(2回分を実施;
午前2時間、午後2時間)
「防災復旧ロボット」を作ろう / 防災復旧ロボットの発表
目的 与えられたシチュエーションから課題を発見し、その課題解決のために学習した内容を用いる。
成果 これまでに学習した知識をアウトプットする場となった。また、他グループの作品を見てPDCAサイクルを回す、発表原稿を作成することで「思考のアウトプット」を行うといった、論理的思考や言語能力を伸ばすための活動でもあった。

【西伊豆】西伊豆町立賀茂小学校
同校の平馬誠二校長、山本美広教頭を窓口に参加者の募集、保護者や児童への連絡を行った。また、児童への事前・事後指導、会場準備、校内調整も平馬校長、山本教頭が担当された。

10/3(火)15:10〜16:00 「防災」について考える−静岡大学小山教授講話
目的 火山・地震を専門とする静岡大学教育学部の小山眞人教授より、「地震」「防災」に関する講話をいただき、静岡県の「地震」「防災」に関する現状を知る。
成果 地域における防災課題を意識することができるようになった。最終日に「地域の防災」を考えさせた際の知識のベースになった。
10/5(木)15:10〜16:00 EV3を組み立てよう
目的 EV3を組み立てる。他のチームと完成までの時間を競わせることでチームワークを深める。
成果 マインドストーム(R)EV3の組み立てで共同作業を行い、異なる学年・男女間の「心の壁」を取り除くきっかけとなった。ただしこの段階では(少人数校ということもあり)まだ他者に対する「遠慮」が残った。
10/6(金)15:10〜16:00 ブロックの役割を知ろう
目的 協働学習を通し、マインドストーム(R)EV3の基本的な操作を知る。
成果 プログラミングブロックの使い方について、ジグソー法における「エキスパート活動」「ジグソー活動」を実施。マインドストーム(R)EV3アプリを用いてのプログラミングを行うための、最低限の下地ができた。課題のプログラム作成においては「クロストーク」的要素が入り、学んだ知識の整理をすることにもなった。
10/10(火)15:10〜16:00 「ワンワン」プログラム発表、センサーって何?
目的 自グループの成果発表を通し、学習したことや理解したことを言語活動でまとめる。新たな知識を学び、学んだことをグループの他メンバーに伝える活動を通して、自身の理解をさらに深める。
成果 クロストーク活動を通じてさらに学習事項の理解を深めた。センサーの使い方について、ジグソー法における「エキスパート活動」「ジグソー活動」を実施。他の児童とのコミュニケーションを通し、他者の意見を受け入れる、自身の意見を表明するといった、「コミュニケーション」の力も伸ばすことにつながった。
10/12(木)15:10〜16:00 センサーを使って課題プログラムに挑戦
目的 学習したことを用い、グループ内での話し合いを通して課題に取り組む。
成果 課題プログラムの作成にはやはり「クロストーク」的要素があり、学んだ知識の定着と思考の整理ができた。
10/13(金)15:10〜16:00  課題「障害物をさけろ」の発表
目的 自グループの成果発表を通し、学習したことや理解したことをまとめる。
成果 全体への発表はクロストーク活動にもなっており、理解を深めるのと同時に自身の考えを伝えることで言語活動を行う場ともなった。
10/17(火)15:10〜16:00 防災「これまで西伊豆で起きた災害」
目的 地域で発生した過去の災害を学び、地域で今後どのような災害が起こりえるかを考える。また、その復旧のためにはどのような課題があり、どのように解決するのかを話し合う。
成果 児童らも実際に体験した災害がテーマであり、「まとめ」としての災害復旧ロボットの作成を「我がこと」として意識することができるようになった。また、地域についてより詳しく知りたい(歴史などを含め)というモチベーションを伸ばすことができた。
10/19(木)15:10〜16:00  復旧ロボット製作
目的 グループで話し合った課題を解決するためのロボット作成に取り組む。
成果 これまでに学習した内容や考えたこと、感じたことを話し合い、グループ内でのコンセンサスを得る体験となった。話し合いを通して自身の意見をきちんと伝えることが、初期段階に比べてできるようになった児童が増えたように感じた。
10/24(火)15:10〜16:00 復旧ロボット製作と途中経過発表
目的 他グループの発表を聞き、自グループの発表内容を再検討する。
成果 他グループの作品を見てPDCAサイクルを回す、発表原稿を作成することで「思考のアウトプット」を行うといった、論理的思考や言語能力を伸ばすための活動となった。
10/31(火)15:10〜16:00 復旧ロボットの発表
目的 自グループの成果発表を通し、学習したことや理解したことを言語活動でまとめる。
成果 これまでに学習した知識をアウトプットする場となった。また、平馬校長や土屋氏をはじめとする、講座に関わった多くの人への感謝を感じる場となった。

※10/24終了時に完成の目処が立っていないグループを中心に、10/26にも「補習(追加作業)」を行った。

3.2 実施の様子

【浜松について】

  • 附属浜松小学校での講座の様子1
    防災用ロボットについて、他のチームから偵察が!!
    冨永先生から、「おいおい、他のチームのアイデアは盗むなよ」
  • 附属浜松小学校での講座の様子1
    組み立てが完了した防災用ロボットの動きを確認中。
    ドリルの前に瓦礫に見立てたブロックを配置する児童。

4人1グループとし、各グループにメンター2名(1名は大学生、1名は保護者)、全体を統括するメンター1名(メインメンター;Z会社員)、全体を補佐するメンター3名(元教員)を配置した。大学生メンターには技術面を、保護者メンターには児童への効果的な声かけを、全体を補佐するメンターにはメンターの指導と児童への効果的な声かけ並びに児童の評価を期待しての配置だった。しかし結果的には、特に保護者メンターの役割が曖昧となり、一部ただ見ているだけのメンターが出てしまった。

  • 附属浜松小学校での講座の様子2
    ロボットを組立てする児童とプログラムを担当する児童。
    現在、プログラムの修正中。

グループ分けは小学校側に依頼し、経験の有無(マインドストーム (R)EV3経験者と未経験者を別の班にする)、男女の別(できるだけ均等にする)、学年(5年生と6年生をできるだけ均等にする)を考慮した。

同校は教育学部附属の小学校であることから先進的な取り組みが多く、そうした環境にいる児童は初めて触れるものにも抵抗なく取り組んでいた。学校生活でも「話し合い」「グループ学習」「発表」の機会が多いため、学習はスムーズに行われた。

  • 附属浜松小学校での講座の様子3
    さあ、グループごとにプログランミングしたロボットをお披露目です。
    マイクを手に、チームの代表が説明。
  • 附属浜松小学校での講座の様子3
    とても高度な防災ロボットを組立て、動きや機能について熱く語る児童。この児童は今年度のWROのチャンピオンに輝きました!

途中休憩の間にも、児童は課題に取り組んでいた。自主的に熱中して取り組めるものであることを物語っている。

「防災ロボ」の作成場面では、児童の柔軟な発想力が発揮された。多くのメンターを感心させたロボットを作成したのは、マインドストーム(R) EV3の使用経験を持つ児童ではなく、今回の講座で初めて触れた児童らのグループだった。「経験の有無」「知識の有無」ではなく、適切な課題を設定と解決のための方法を探ることができたか否かが重要であることを改めて実感した。

  • 附属浜松小学校での講座の様子4
    うまく動かないのは、配線が間違っているのかなー。
    メンターも一緒になって確認中。

【西伊豆について】
3人1グループとし、各グループに原則としてメンター1名、全体を統括するメンター(メインメンター)1名を配置した。ただし、メンターは計7名であるため、各メンターは主に担当するグループ以外も様子を見て回るという形で講座を行った。

  • 賀茂小学校での講座の様子1
    児童3人1チーム、メンターが1人ついて、まずはロボットの組み立て中。
  • 賀茂小学校での講座の様子1
    広々とした体育館で、ロボットの動きを確認中。
    ロボットが動き出す位置が重要なんです!!

通常の教室ではなく、体育館を会場として行った。基本的には机も椅子も用意せず、体育館の床に座り込んで講座を行った。このことには、自然と車座になってプログラミングや話し合いができた、メインメンターの説明を聞く場所とプログラミングを行う場を明確に分けることができた、他のグループの様子が自然と目に入ってくる、「簡易ジオラマ」を容易に設置できた、多数の見学者がいても威圧感を感じさせなかった、といった複数の利点があった。

  • 賀茂小学校での講座の様子2
    マットは崖の斜面、机は橋、橋に崖から土砂が崩れ落ちた災害を想定。各チームのジオラマはメンターが準備しました。
  • 賀茂小学校での講座の様子2
    こちらは、トンネルの入り口に山から土砂が、この土砂をロボットを使って道路から除去するプログラミングに奮闘中!!

西伊豆でもグループ分けは小学校側に依頼し、学年(5年生と6年生をできるだけ均等にする)を考慮した。児童の中にマインドストーム(R) EV3の経験者は皆無だった。しかし児童の飲み込みは早く、講座の進行に何ら影響を及ぼすことはなかった。
「元気がよく自分で進めたがる男子児童に対し、遠慮から口を挟めない女子児童」という一部の構図も見られたが、回数を重ねるにつれ、女子児童は遠慮がちながらも自身の考えを伝え、男子児童もそれを聞き入れるという姿が見られた。
西伊豆町内、近隣の松崎町や下田市からも多くの学校関係者が見学に訪れた。2週続けて見学に訪れた教員からは「話し合いの様子や取り組む姿勢などが、先週から比べて格段に成長したように感じます」との言葉をいただいた。
メインメンターの土屋氏が用意した「これまでの取り組み」の掲示。講座に参加しなかった児童、実施校の教員、見学者などにも、どのような講座が行われているのかを伝えることができた。

  • 体育館の壁に掲出された講座各回のまとめ
  • 体育館の壁に掲出された講座各回のまとめ

毎回の講座をドキュメント化して掲示しています。講座を休んだ児童もこれを見れば何をやったのか一目瞭然です。当然、見学者も!!

毎回の講座修了後には「メンター反省会」を行った。その内容を土屋氏がまとめ、次回の講座前打ち合わせの場で配布、前回時の反省を確実に生かすことにつながった。またこの反省会によって、各メンターも自身の指導について振り返りを行い、成長することにつながった。

  • 反省会の様子
    講座終了後、メンターが集まって反省会です。
    一人ひとりの児童の様子を皆で共有します。
  • メインメンターがまとめた振り返り資料
    反省会で出た内容を、メインメンターの土屋氏が、毎回まとめてくれました。講座開始の1時間前に集まって、前回の振り返りに欠かせません。

1回あたり1時間程度という時間設定は若干短く感じたが、多少の物足りなさが意欲につながった面もあるのではないかと分析している。ただし、10回(11回)という回数は逆に間延びした感じを与えてしまった懸念もある(後半で取り組みに飽きてしまった児童も見られた)。発達段階を考えた際に、一回あたりは一時間程度で設計し、ただし期間はもう少しコンパクトにまとめる形がベストであると考察する。

3.3 メディア掲載

年月日 新聞社 テレビ
2017年4月

実証実験の採択
決定をうけて
4月1日静岡新聞 西伊豆町教育委員会
2017年7月

附属浜松小学校講座最終日
(7月29日)
7月15日 読売新聞 附属浜松小学校
附属浜松小学校講座1回目
7月14日)
7月30日 読売新聞 附属浜松小学校
画像なし
7月29日 SBS 附属浜松小学校
15時56分、18時50分のニュース番組
2017年8月

賀茂小学校講座 メンター研修2回目(8月25日)
8月26日 静岡新聞 賀茂小学校
8月27日 伊豆新聞 賀茂小学校
2017年10月

賀茂小学校講座 講座1回目
(10月3日)
10月4日 静岡新聞 賀茂小学校
10月4日 伊豆新聞 賀茂小学校
2017年11月

賀茂小学校講座 講座最終日
(10月31日)
11月1日 静岡新聞 賀茂小学校
11月1日 伊豆新聞 賀茂小学校
11月1日 SBS 賀茂小学校
11月1日 テレビ静岡 賀茂小学校
11月1日 静岡第一テレビ 賀茂小学校
番組「マルシェア」のニュース枠で放送
11月1日 静岡第一テレビ 賀茂小学校番組「マルシェア」のニュース枠で放送
映像なし

3.4 参加者の声

3.4.1 児童・生徒の声
  • 講座を受ける前はただ遊ぶだけだったけれど、作るときのことを考えるようになった。
  • ものの見方が変わり、色々なものにプログラミングがあるなと感じた。
  • なぜこうなったかと考えるようになった。
  • このゲームはどのようなプログラムをされて動いているのか、考えるようになった。
  • 変わった。ゲームを遊ぶだけでなく、作ることも考えるようになった。
  • 「このアプリの仕組みはこうなっているのではないか。」と考える事が多くなった。
  • どうやって、ゲームやロボットを工夫して作っているか気になるようになった。
  • 今まで、遠いところだと思っていたアプリやゲーム作りの世界が、身近になった気がする。
  • すべてのゲームやアプリはだれかの手によって作られているということを知って、どのようなしくみになっているか、どうしたらこう動くのかなどを考えるようになった。
1.2.2 メンターの声
  • マインドストーム(R) EV3を組み立てる時は、4人1組で協力することができるが、タブレットを使ってプログラミングを組み立てる時は、4人で1台だと、1度も触らずに終わってしまう子供が出てしまったり、逆の方向からタブレットを見る子がでてしまう。ライセンス上問題がないのであれば、タブレットは2人に1台あるといいと思います。
  • 小学校で画一的に指導していくのは少々困難ではないかと思います。様々なレベル(教材や取り上げる題材)に対応する工夫が必要ではないでしょうか。根気のいる作業・考察でもありますので子供によって集中力のバラつきが大きくなると思います。
1.2.3 実証校の先生・保護者の声
  • 下級生が上級生に対して気を使う場面が多く見られた。iPad等、まずは6年生が触れてから5年生が、という具合。
  • 回を重ねるにつれて、自分なりの考えをグループの生徒や、みんなの前で伝えることができるようになっていった。
  • ロボット、コンピューター、プログラム等の有用性等は、良く理解できたが、同時に予想されるリスクも説明すべき。例:一部のサービス業、製造業がロボット化されて職が無くなる可能性等。
  • 子供が楽しみながらでき、様々なアイデアのロボットが作られて驚きました。マインドストームと防災をうまくコラボできていました。
  • 各グループに1人以上メンターがつくことで、何かつまずいた時に正しい方向へ導くアドバイスができたと思う。前で説明する先生が1人だけでは、なかなかそれが難しかったと思った。
  • 上述のとおりだが、これを必修化とする場合、先生方をどれだけサポートする体制とするか、検討は急務といえる。
  • プログラミング教育に於ける、格差が生まれる心配がある。例えば、一部の富裕層が専門のスクールに通う等。
  • 今回はEV3の組み立てから、最後は防災に関する所まで、考えることで、より身近に自分自身で考えをふくらませることができていた所が良かったと思う。実際、現実の世界で活用できるロボットを考えることで、将来につなげていくきっかけにもなったと思う。ロボットが2人に1台ずつくらいあれば、低学年(5年生)でも、もう少し積極的に自分の意見が言えたと思う。
3.4.4 実証校校長先生・教育委員会の声
  • 与えられた課題を解決した後、自分で新しい課題を持ち、活動している姿があった。
  • 任意の3人グループで活動させたところ、普段教室の中では消極的な子が、自ら発言し、プログラムを組むなど、とても積極的な活動をする姿が見られた。
  • 大学から2人の先生を呼んで、講座の最初に防災やプログラミングについてレクチャーしたのは、子供が講座の目的を把握できて良かった。
  • この学習に取り組んだことで子どもは伸びるし変化していくことは確信している。しかし、これを指導する教師には絶対的に時間が足りず研究が十分にできないことが懸念される。現場に人を増やす等の措置をした上で、実施して欲しい。

4. アンケート結果

4.1 児童・生徒

Q1-8 あなたはこれまで、「プログラミング」という言葉を知っていましたか。またはこれまで「プログラミング」を体験したことがありますか?最も近いものをひとつ選んでください。

児童・生徒向けアンケート(Q1-8)あなたはこれまで、「プログラミング」という言葉を知っていましたか。またはこれまで「プログラミング」を体験したことがありますか?最も近いものをひとつ選んでください。附属浜松小学校、「プログラミング」を経験したことがあった、80%、「プログラミング」を経験したことはないが、意味は知っていた、13%、「プログラミング」という言葉を聞いたことはあるが、中身まではよく知らなかった、7%、「プログラミング」という言葉を聞いたことがなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、「プログラミング」を経験したことがあった、0%、「プログラミング」を経験したことはないが、意味は知っていた、27%、「プログラミング」という言葉を聞いたことはあるが、中身まではよく知らなかった、37%、「プログラミング」という言葉を聞いたことがなかった、36%。

附属浜松小では「プログラミングについて経験有」を選択したのは全児童の8割に対して、賀茂小では、経験有を選んだ回答はなく、「プログラミングを聞いたこともない」と回答した児童が約4割を占めた。この項目については、地域差がはっきり分かれた。

Q2-1 「プログラミング講座」は楽しかったですか。最も近いものをひとつ選んでください。

児童・生徒向けアンケート(Q2-1)「プログラミング講座」は楽しかったですか。最も近いものをひとつ選んでください。附属浜松小学校、プログラミングすることも、講座も楽しかった、88%、プログラミングすることはあまり楽しくなかったが、講座は楽しかった、6%、プログラミングすることは楽しかったが、講座はあまり楽しくなかった、6%、プログラミングすることはあまり楽しくなかったし、講座もあまり楽しくなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、プログラミングすることも、講座も楽しかった、91%、プログラミングすることはあまり楽しくなかったが、講座は楽しかった、0%、プログラミングすることは楽しかったが、講座はあまり楽しくなかった、9%、プログラミングすることはあまり楽しくなかったし、講座もあまり楽しくなかった、0%。

附属浜松小も賀茂小もほぼ9割の児童から、プログラミングも講座も楽しかったと回答を得ることができた。

Q2-4 「プログラミング」の講座で利用した教材は簡単でしたか。最も近いものをひとつ教えてください。

児童・生徒向けアンケート(Q2-4)「プログラミング」の講座で利用した教材は簡単でしたか。最も近いものをひとつ教えてください。附属浜松小学校、簡単すぎた、0%、簡単だった、19%、ちょうどよかった、37%、少し難しかった、38%、とても難しかった、6%、西伊豆町立賀茂小学校、簡単すぎた、0%、簡単だった、9%、ちょうどよかった、50%、少し難しかった、41%、とても難しかった、0%。

「簡単すぎた」と回答した児童はいなかったものの、「簡単だった」、「ちょうどよかった」と回答した児童は、約6割。教材のレベルはほぼ適切だったと思われる。

Q3-1 講座を体験したことによって、以下の内容について達成できたと思いますか。あてはまるものをそれぞれひとつ選んでください。

  • プログラミングを通して、アプリやゲームを理解できるようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート講座を体験したことによって、以下の内容について達成できたと思いますか。あてはまるものをそれぞれひとつ選んでください。(Q3-1@)プログラミングを通して、アプリやゲームがどうやって動くのか理解できるようになった、附属浜松小学校、よくできた、62%、だいたいできた、38%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、59%、だいたいできた、32%、どちらともいえない、4%、あまりできなかった、5%、ほとんどできなかった、0%。
  • 自分なりのアイデアを取入れたり、工夫したりするようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート(Q3-1A)自分なりのアイディアを取入れたり、工夫したりするようになった、附属浜松小学校、よくできた、87%、だいたいできた、13%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、73%、だいたいできた、18%、どちらともいえない、9%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%。
  • 自分なりの作品を作ることができるようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート(Q3-1B)自分なりの作品を作ることができるようになった、附属浜松小学校、よくできた、75%、だいたいできた、25%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、68%、だいたいできた、18%、どちらともいえない、9%、あまりできなかった、5%、ほとんどできなかった、0%。
  • うまくプログラムが動かないときは理由を考えて、解決策を試すようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート(Q3-1C)うまくプログラムが動かないときは理由を考えて、解決策を試すようになった、附属浜松小学校、よくできた、63%、だいたいできた、31%、どちらともいえない、6%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、64%、だいたいできた、36%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%。
  • 自分から積極的に取り組むようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート(Q3-1D)自分から積極的に取り組むようになった、附属浜松小学校、よくできた、69%、だいたいできた、25%、どちらともいえない、6%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、82%、だいたいできた、18%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%。
  • 友達と協力して作業を進められるようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート(Q3-1E)友達と協力して作業を進められるようになった、附属浜松小学校、よくできた、62%、だいたいできた、25%、どちらともいえない、13%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、73%、だいたいできた、23%、どちらともいえない、4%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%。
  • 人前で作品や意見を発表できるようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート(Q3-1F)人前で作品や意見を発表できるようになった、附属浜松小学校、よくできた、62%、だいたいできた、38%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、82%、だいたいできた、18%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%。
  • 難しいところであきらめずに取り組めるようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート(Q3-1G)難しいところであきらめずに取り組めるようになった、附属浜松小学校、よくできた、62%、だいたいできた、38%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、82%、だいたいできた、18%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%。
  • 自分でもの(ゲーム等のプログラムを含む)を作りたいと思うようになりましたか?
    児童・生徒向けアンケート(Q3-1H)自分でもの(ゲーム等のプログラムを含む)を作りたいと思うようになった、附属浜松小学校、よくできた、81%、だいたいできた、19%、どちらともいえない、0%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よくできた、59%、だいたいできた、18%、どちらともいえない、18%、あまりできなかった、0%、ほとんどできなかった、5%。

2校のグラフを比較して
附属浜松小が「よくできていた」「だいたいできた」の割合が高い設問のグラフに青い網掛けをした。
賀茂小が「よくできていた」「だいたいできた」の割合が高い設問のグラフに赤い網掛けをした。

附属浜松小の「よくできていた」「だいたいできた」の割合が高い設問は、プログラミングの理解や活用、応用そして発展的なもので、賀茂小の「よくできていた」「だいたいできた」の割合が高い設問は、チームメイトとの協働や積極性、人前で発表と分かれた。
この理由としては既にプログラミングの経験値の差によるものと思われる。経験値の低い児童に対して、今回の実証実験で取り入れたジグゾー法によるエキスパート活動やチームによる協働学習(協働作業、相手の話をよく聞く、理解する、相手に考えを正しく伝えるなどの狙い)の効果が見られた。

Q3-2 プログラムが思うように動かなかったとき、どうすることが一番多かったですか。最も近いものをひとつ選んでください。

児童・生徒向けアンケート(Q3-2)プログラムが思うように動かなかったとき、どうすることが一番多かったですか。最も近いものをひとつ選んでください。附属浜松小学校、自分でプログラムを見直し、「命令」の組み合わせを直して、やりなおした、50%、すべてのプログラムや「命令」を消して、もう一度初めからやりなおした、0%、少しずつ「命令」や数字を変えてみて、繰り返しやりなおした、44%、メンター(先生)や近くの大人に教えてもらった、0%、進んでいる友達に教えてもらった、6%、どうしたらよいかわからなかったので、そのままにした、0%、その他、0%、西伊豆町立賀茂小学校、自分でプログラムを見直し、「命令」の組み合わせを直して、やりなおした、27%、すべてのプログラムや「命令」を消して、もう一度初めからやりなおした、5%、少しずつ「命令」や数字を変えてみて、繰り返しやりなおした、45%、メンター(先生)や近くの大人に教えてもらった、18%、進んでいる友達に教えてもらった、0%、どうしたらよいかわからなかったので、そのままにした、0%、その他、5%。

プログラミング的思考力について「自分でプログラムを見直し、「命令」の組み合わせを直して、やりなおした」>「全てのプログラムや「命令」を消して、もう一度初めからやりなおした」>「少しずつ「命令」や数字を変えてみて、繰り返しやりなおした」の順で相関関係があると仮定すると、附属浜松小の児童の方が賀茂小の児童に比べてレベルが高い生徒が多い。これも経験値の違いに由来すると思われる。

Q3-4 あなたは今後も「プログラミング」を続けていきたいと思いますか。あてはまるものをひとつ選んでください。 

児童・生徒向けアンケート(Q3-4)あなたは今後も「プログラミング」を続けていきたいと思いますか。あてはまるものをひとつ選んでください。附属浜松小学校、続けたい、100%、わからない、0%、続けたくない、0%、西伊豆町立賀茂小学校、続けたい、95%、わからない、5%、続けたくない、0%。

附属浜松小と賀茂小の児童で大きな違いはない。

4.1 メンター

Q3-3 メンター育成研修を受けて、全体的に内容を理解できましたか。あてはまるものをひとつ選んでください。

育成メンター向けアンケート(Q3-3)メンター育成研修を受けて、全体的に内容を理解できましたか。あてはまるものをひとつ選んでください。附属浜松小学校、よく理解できた、12%、だいたい理解できた、88%、どちらともいえない、0%、あまり理解できなかった、0%、ほとんど理解できなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、よく理解できた、14%、だいたい理解できた、86%、どちらともいえない、0%、あまり理解できなかった、0%、ほとんど理解できなかった、0%。

附属浜松小のメンターと賀茂小のメンターで大きな違いは見られない。

Q3-6 実際にメンターを行うにあたって、不安はありますか。あてはまるものをひとつ選んでください。

育成メンター向けアンケート(Q3-6)実際にメンターを行うにあたって、不安はありますか。あてはまるものをひとつ選んでください。附属浜松小学校、まったく不安はない、0%、あまり不安はない、20%、わからない、33%、やや不安がある、40%、非常に不安がある、7%、西伊豆町立賀茂小学校、まったく不安はない、0%、あまり不安はない、28%、わからない、14%、やや不安がある、29%、非常に不安がある、29%。

附属浜松小のメンターに比較して賀茂小のメンターの判断がより慎重であることが伺える。これは、後術するが附属浜松小で実施したメンター研修と、賀茂小で実施した研修内容の違いにも由来すると思われる。

Q3-7 (3.6で1または2と答えた方)具体的にどういったことに不安がありますか。あてはまるものを全て教えてください。

育成メンター向けアンケート(Q3-7)(3.5で1または2と答えた方)具体的にどういったことに不安がありますか。あてはまるものを全て教えてください。(複数回答)、附属浜松小学校、児童・生徒の気づきやつまずきをうまく拾って、ファシリテートできるか、70%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、実証講座の目的に沿った適切な指導・助言ができるか、70%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、児童・生徒の能力に合わせた適切な助言・指導ができるか、70%、児童・生徒が自分の指導や助言を聞き入れ、従ってくれるか、20%、時間内に予定のプログラムを終了できるか、10%、用意された教材を効果的に使用して指導できるか、10%、その他、0%、西伊豆町立賀茂小学校、児童・生徒の気づきやつまずきをうまく拾って、ファシリテートできるか、50%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、実証講座の目的に沿った適切な指導・助言ができるか、50%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、児童・生徒の能力に合わせた適切な助言・指導ができるか、50%、児童・生徒が自分の指導や助言を聞き入れ、従ってくれるか、17%、時間内に予定のプログラムを終了できるか、17%、用意された教材を効果的に使用して指導できるか、17%、その他、0%。

具体的は不安についての傾向は、附属浜松小のメンターと賀茂小のメンター大きな違いは見られない。

Q5-1 講座は当初予定していた通りに実施できましたか。最も近いものをひとつ教えてください。

育成メンター向けアンケート(Q5-1)講座は当初予定していた通りに実施できましたか。最も近いものをひとつ教えてください。附属浜松小学校、実施できた、28%、だいたい実施できた、33%、どちらともいえない、22%、あまり実施できなかった、17%、まったく実施できなかった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、実施できた、0%、だいたい実施できた、100%、どちらともいえない、0%、あまり実施できなかった、0%、まったく実施できなかった、0%。

賀茂小のメンターの全員が「だいたい実施できた」と回答したが、附属浜松小のメンターでは回答がばらついた。附属浜松小の実証実験を踏まえメンター研修に児童への声かけのOJTなどを取り入れた改訂を行ったことで、メンターとして質(役割の理解)の違いが影響していると思われる。

Q5-2 実施前のイメージと比較して、メンターを実施することは難しかったですか。最も近いものをひとつ教えてください。

育成メンター向けアンケート(Q5-2)実施前のイメージと比較して、メンターを実施することは難しかったですか。最も近いものをひとつ教えてください。附属浜松小学校、非常に難しかった、10%、やや難しかった、60%、どちらともいえない、15%、比較的容易だった、15%、非常に容易だった、0%、西伊豆町立賀茂小学校、非常に難しかった、43%、やや難しかった、43%、どちらともいえない、14%、比較的容易だった、0%、非常に容易だった、0%。

メンター研修にOJTなどを取り入れたものの、実際の児童への接し方については、難しかったと回答するメンターは多い。附属浜松小で「比較的容易だった」と回答するメンターは元教員経験者と大学生の教育学部の4年生の3名。

Q5-3 実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できたと思いますか。あてはまるものを全て教えてください。

育成メンター向けアンケート(Q5-3)実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できたと思いますか。あてはまるものを全て教えてください。附属浜松小学校、児童・生徒の気づきやつまずきをうまく拾って、ファシリテートすること、32%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、実証講座の目的に沿った適切な指導・助言を行うこと、47%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、児童・生徒の能力に合わせた適切な助言・指導を行うこと、37%、児童・生徒に自分の指導や助言を聞いてもらい、集中を切らさずに講座に参加してもらうこと、26%、時間内に予定の講座内容を終了させること、16%、用意された教材を効果的に使用すること、26%、その他、5%、西伊豆町立賀茂小学校、児童・生徒の気づきやつまずきをうまく拾って、ファシリテートすること、57%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、実証講座の目的に沿った適切な指導・助言を行うこと、29%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、児童・生徒の能力に合わせた適切な助言・指導を行うこと、43%、児童・生徒に自分の指導や助言を聞いてもらい、集中を切らさずに講座に参加してもらうこと、29%、時間内に予定の講座内容を終了させること、29%、用意された教材を効果的に使用すること、29%、その他、14%。

うまく実施できた項目で一番割合の高いものは、附属浜松小では「児童・生徒の疑問や悩みに対して、実証講座の目的に沿った適切な指導・助言を行うこと」。賀茂小のメンターは「児童・生徒の気づきやつまずきをうまく拾って、ファシリテートすること」と分かれた。この違いは、メインメンターによるメンターへの指導およびメンター研修の改訂によるものと思われる。

Q5-5 実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できなかったと思いますか。あてはまるものを全て教えてください。

育成メンター向けアンケート(Q5-5)実施前のイメージと比較して、どういった点でメンターをうまく実施できなかったと思いますか。あてはまるものを全て教えてください。附属浜松小学校、児童・生徒の気づきやつまずきをうまく拾って、ファシリテートすること、35%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、実証講座の目的に沿った適切な指導・助言を行うこと、55%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、児童・生徒の能力に合わせた適切な助言・指導を行うこと、50%、児童・生徒に自分の指導や助言を聞いてもらい、集中を切らさずに講座に参加してもらうこと、20%、時間内に予定の講座内容を終了させること、20%、用意された教材を効果的に使用すること、20%、その他、5%、西伊豆町立賀茂小学校、児童・生徒の気づきやつまずきをうまく拾って、ファシリテートすること、14%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、実証講座の目的に沿った適切な指導・助言を行うこと、29%、児童・生徒の疑問や悩みに対して、児童・生徒の能力に合わせた適切な助言・指導を行うこと、29%、児童・生徒に自分の指導や助言を聞いてもらい、集中を切らさずに講座に参加してもらうこと、57%、時間内に予定の講座内容を終了させること、43%、用意された教材を効果的に使用すること、0%、その他、0%。

うまく実施できなかった項目で一番割合の高いものは、附属浜松小では「児童・生徒の疑問や悩みに対して、実証講座の目的に沿った適切な指導・助言を行うこと」と「児童・生徒の疑問や悩みに対して、児童・生徒の能力に合わせた適切な助言・指導を行うこと」。賀茂小のメンターは「児童・生徒に自分の指導や助言を聞いてもらい、集中を切らさずに講座に参加してもらうこと」と分かれた。また児童の講座時間が附属浜松小は2時間/回に対して、賀茂小は1時間/回であったために賀茂小のメンターが時間も気にして指導していたことが伺えられる。

Q8-3 今後のあなた自身のメンターとしての関わり方について、最も近いものをひとつ教えてください。

育成メンター向けアンケート(Q8-3)今後のあなた自身のメンターとしての関わり方について、最も近いものをひとつ教えてください。附属浜松小学校、メインの指導者として、ひとりで、または経験の少ないサブメンターと一緒にプログラミング教育の指導ができると思う、5%、メインの指導者として、経験のあるサブメンターがついてくれれば指導できると思う(ひとりで指導するのは不安だ)、14%、サブメンターとして、経験のあるメイン指導者と一緒にさらに指導経験を積みたい、29%、メンター業務を今後もやるには不安が大きい、9%、今後はメンターをやりたくない、0%、わからない(考えがまとまっていない)、24%、その他、19%、西伊豆町立賀茂小学校、メインの指導者として、ひとりで、または経験の少ないサブメンターと一緒にプログラミング教育の指導ができると思う、0%、メインの指導者として、経験のあるサブメンターがついてくれれば指導できると思う(ひとりで指導するのは不安だ)、17%、サブメンターとして、経験のあるメイン指導者と一緒にさらに指導経験を積みたい、50%、メンター業務を今後もやるには不安が大きい、0%、今後はメンターをやりたくない、0%、わからない(考えがまとまっていない)、33%、その他、0%。

附属浜松小のメンターと賀茂小のメンターで大きな違いは見られない。

5. 発見・成果と課題・改善

5.1 発見・成果

5.1.1 実証校・教育委員会他との連携体制の構築

自治体との連携に於いては、教育委員会のみならず、首長の理解と共感を前提としたトップダウン型の協力体制が必須であると改めて認識した。とくに地方市町村の場合、これは大事な要素となる。
弊社では、検定試験の導入や放課後課外補習などで協力関係のあった西伊豆町において、前教育長とのパイプが存在した。前教育長時代に実証事業の協力について承諾をいただいたあと、今春町長選で新町長になった星野町長と新教育長に就任された清野教育長に、実証事業の意義と我々の取り組みについて説明を行い、全面的な協力を継続的に得られるようプレゼンを行った。
西伊豆町では賀茂小学校の平馬校長の知り合いであった土屋元校長にメインメンターを引き受けていただくことになった。土屋先生はもともと地域に根差した人脈を豊富に持っており、仲間の仲間という形でメンターが揃った。子どもたちのために手助けをしたいという地域の方々の協力と平馬校長と土屋元校長との奇跡的な強い絆によって、本講座は地域・学校・事業主が文字通り三位一体となった最高度の連携を実現できたと分析している。

5.1.2 メンター育成

「マインドストーム」の操作の基本的な考え方は比較的容易に身につくが、「場数」を踏まなければ適切に用いることはできない。浜松の場合は大学生メンターの「若い柔軟性」に支えられたが、これでは普及はできないと考えていたところ、西伊豆ではメインメンターの提案による「自主研修(前述2.3.1)」を行った。実際の講座をイメージしたプログラムの作成、運営方法の確認を4回に分けて行った。参加は任意だが、少ない人で4〜5時間程度、全回参加した人で10時間程度参加した。その結果、巧拙はあれども、全員が一定以上のレベルに達した上で講座に臨むことができた。この「自主研修」の場こそ「メンターがメンターを指導する」体制の実践例であり、こうして自信をつけたメンターがまた、メンターを育てていくことができるのであろうと感じている。

5.1.3 講座内容

「防災」のパートは地域の実情に合わせた取り組みを行うべきと考え、当初の想定ではこの部分をメンターに考えさせることにしていた。浜松では実施校の教諭とともにテーマを考え、西伊豆ではメンター研修の中で「どのようなテーマを考えさせるのか」の討論を行った。浜松、西伊豆とも、児童は「地域のこと」として捉えることができたのではないかと感じている。特に西伊豆では、数年前に身近で起きた土砂災害を意識させたこともあり、自身の体験を通したリアリティを感じていた。
今回は「防災」の専門家として静岡大学の小山教授に監修をいただき、児童に対しては「地震災害」を中心とした基礎知識や現状についての講話をいただいた。そのため教材は「地震災害」を意識したものを作成し、最終的にそのようなテーマを児童にも考えさせた。テレビにも多数出演されているトップクラスの学者から直接講話をいただいたことで、児童にとっても保護者に取っても、実施校の教員にとってもかけがえのない時間になったものと確信している。
ただし、今後「自走」「普及」をさせるにあたり、必ずしもそのような専門家に協力をいただける保証はない。その意味でも、「防災パート」についてはメンターにテーマを考えさせるのは必須であると考えている。この場合、必ずしも「専門家」が議論に参加する必要はなく、例えばその地域で過去に大災害に罹災した人や、自治体の防災担当職員、地域の自主防災組織の関係者などへの協力を仰ぐことで、その地域オリジナルにカスタマイズされた教材・講座となる。5.1.1でも触れた通り、教育委員会のみならず、広く自治体の協力が必要であると感じている。

Z会が行ったアンケートより、講座がもたらしたかった「プログラミング的思考のあらわれ」を評価

事業者の独自評価1児童の講座実施前後の比較

⇒論理的な説明の力が、文章表現において向上するまでには至らなかった。

事業者の独自評価2活動・行動・学習姿勢の児童自己評価

⇒チーム活動を通して、「チームとしての成果」を出すために必要なスキルを上達させることができたことがよくわかる結果となった。ジグソー法を取り入れたこと、本講座における共通の約束として明確にしたことにより、全員が参加する、全員の意見を取り入れる、共通の目標に向かってまとめあげる意識が成果を出した。

事業者の独自評価3児童の「プログラミング」の捉え方について

⇒事前ではプログラミングという言葉すら知らない児童がほとんどであった。講座内で「プログラミング」をはっきり定義しなかったが、事後では自分が知って理解したことをなんとか言葉にしてくれた。

事業者の独自評価4児童の保護者による活動・行動・学習姿勢の評価

⇒児童自身の自己評価はかなり上がったものの、保護者がそう感じるまでには至っていないものも多い結果となった。
防災意識についてはややダウン。講座名に「防災」が入っていることにより、期待感が高くなったのかもしれない。

事業者の独自評価5児童保護者による児童の論理的思考力の評価

⇒「作業をするとき、やり方を工夫したり、作業手順を変更したりする」について、明確に成果が出た。マインドストームを使ったプログラミングを通して、「自分なりにやってみよう」「試してみよう」をいう姿勢を引き出すことができた。仲間の姿勢から学ぶこともできたのだろう。
 なお、全体の傾向として「もともと評価の低かった人」やひとつ上の評価の代わり、「もともと評価が高かった人」は評価が下がる傾向が見られた。

事業者の独自評価6児童保護者による児童の「物事の捉え方の変化」の評価

⇒複数の保護者が、児童が「プログラミング的思考」を日常の中に取り入れてくれる(成長が見られる)ようすを伝えてくれた。また、チームワークという観点で、子どもの成長を感じた保護者も多い。

事業者の独自評価7児童の感想

⇒とにかく「またやりたい」という声が多く、楽しくプログラミングを学べたことは確実である。「プログラミング」を学べたことについての喜びも散見される。防災に言及した感想は、2名。

事業者の独自評価8児童保護者の感想

⇒多くの保護者が「子どもが楽しそうだった」と述べており、児童が家庭でも喜びを語っている様子がうかがえる。好意的な感想のみで、不満点や課題は上がってこなかった。

5.2 課題・改善

5.2.1 実証校・教育委員会他との連携体制の構築

やはりプログラミング教育の普及には、市町村自治体の首長の理解と協力意向を取り付けた上での、教育長および教育委員会の全面的な協力体制が必要となる。今回の実証実験で普及の鍵は、メンターの確保が重要であることが分かった。メンターの経験度合いによりメインメンターへの昇格は当然だが、普及にあたっては、新たなメンターの確保が必須である。そのためには地元や近隣の関係機関を知り尽くしている実施校、教育委員会主導でメンターの募集、リクルートを行う形が一番望ましいのではないかと考える。弊社としては、普及推進する上で、メンターに興味のある方を集めマインドストーム(R)EV3の実演や実証実験の映像等による講座内容の説明などによりメンターの役割をできるだけイメージできるよう協力できる。

また、普及におけるもう一つの鍵は、最終日の「発表会の位置づけ」がある。発表会では近隣の自治体・教育委員会を招待し「児童の生き生きとした姿を」見学いただくことは非常に有効であり、逆に最終日の位置づけを広く実証結果を近隣の自治体に披露する機会として設定すべきではないかと考えている。
弊社では最終日「発表会」を公開日とし、特別な意味を持たせ、静岡県内の各自治体に案内DMを実施した。加えて地域のマスメディアへの露出も非常に重要な要素になる。

5.2.2 メンター育成

メンターは、特にメインメンターはどこまでも「技術的に十分でない」という不安感を持ち続けていた。技術的なトラブルが発生した場合にはどのように対応するべきか、対処すべきか、という不安を解消しきるのは難しい。身近に頼れる人がいればよいが、そうでない場合にはどうすればよいのかを考える必要があるだろう。教材や育成研修である程度はカバーできるのか、経験を積む以外に解決できないのか。この点については、今後の自走を見守りながら検証していきたい。

5.2.3  講座内容

「プログラミング」と「防災」をどのように関連づけるのか。「プログラミングというツールを手に入れたことで、物事を考える幅が広がった」ことを体験させることが狙いだったが、「前半と後半は別物である」という意識で取り組んだ児童もおり、一部メンターにもそのように考えるものがいたことも事実である。そのため、どのようなストーリーで「防災」を考えさせるのかを再検討する必要があるだろう。今後の拡散と普及に向けて、さらなる「防災」と「プログラミング」すなわちテーマと方法論との有機的連携性が担保される必要があるだろうと強く認識している。

6. 実証モデルの普及に向けて

6.1 モデルの横展開の可能性

6.1.1 メンター育成

研修担当講師が教え込む、という形ではない研修であり、比較的気軽に行えるものであると考えている。教員同士の自主研修や、放課後児童クラブのボランティアを対象に同等の研修を行えるのではないか。
メンターに必要なものは「寄り添う」という姿勢であり、メインメンターには「全体をコントロールする」ことが求められる。そのため、「ボランティアでも参加したい」という意思のあるものであればメンターとしては最低限の資質を持っており、社会人経験などを通して「全体をコントロールする」経験があれば、メインメンターとして活躍できると考えている。専門知識はあるに超したことはないが、最低限のものがあれば講座を行うことができる。それ以上に、メンター自ら「学ぼう」とする姿勢が必要である。
こうした条件を考えると、退職教員(教職経験者)にメインメンターを依頼することはひとつのモデルとなるのではないか。児童・生徒の扱い、特に児童・生徒の特性に応じた指導に慣れており、学校の事情も理解できる。さらには、教育的観点から教材を再構築することもできるため、効果的な指導を行うことができるのではないか。本事業に関して言えば、浜松のメインメンターを担当したZ会社員も、西伊豆のメインメンターとなった土屋氏も、どちらも元教員であり、教員目線から構成された講座であった。
一般のメンターについては、学校現場を知りたい(教職志望の)学生、児童の実態を知る保護者、学童などのボランティアを行っている地域住民から募集することでよいのではないかと考えている。そうした属性の方々は、「プログラミング学習」に興味を持ち、児童と関わりたいと考えている人材であると言えよう。

6.1.2 講座の構成、教材

西伊豆で成功したのは、メインメンターの土屋氏の力によるところが大きい。元教員でもある土屋氏は、実際の授業準備のように、資料を読み込み、掲示物や補助教材の作成を行った。このようなことのできる人物をメインメンターに据え、児童の実態を考慮した上で講座を再構成することが必要である。先にも触れたとおり、教職経験者(特に小中学校の経験者)であれば基本スキルとしてそのような活動を行うことができるため、教育委員会との連携の中で退職教員・教職経験者(家庭都合等で定年を待たずに退職した元教員など)にメインメンターを依頼することが、成功要因のひとつになり得るであろう。

6.2 普及のための活動

  • 地域のプログラミング教育コーディネーターとして、静岡県教育委員会と連携し先生方の「働き方改革」や「プログラミングスキルアップ」等の課題を踏まえ、各自治体や学校の状況に合わせたプログラミング導入提案行っていく。
  • 西伊豆町での実証事業の見学に、近隣の三島市教育委員会、南伊豆町教育委員会、下田市教育委員会などの招聘を行い、現在それぞれの教育委員会の次年度予算の予算取りに向けて提案を行っている。
  • また当ビジネスモデルをブラッシュアップした形で、各自治体の予算や要望に合わせて、オーダーメイドできる提案形を用意し、営業時に提案を行っている。
  • 学校にあるICT機器が死蔵されている例もあると聞くが、本事業のように民間と協働で行う際には積極活用することで、学校側に対して「機器をどのように活用するか」という実例を示すことができるのではないかと考えている。
  • 全ての学校にICT機器の管理に明るい教職員が配置されているとは必ずしも言えないため、複数台の端末にアプリをインストールするといった作業が予想以上に手間となることがある(人員的な側面と設備的な側面)。人員的な側面については教育委員会に担当部署を設ける、近隣の数校のICT機器をまとめて管理する担当を設置するといったことが考えられるし、実際にそのような形態を採用している自治体もあるだろう。設備的な側面についてはある程度の投資が必要となるが、導入の際には予算だけではなく、実際の運用を考えた導入をお願いしたい。特にICT教育については民間と協働して行うことも少なくないため、民間でICT機器を導入する際のフローが参考になる。
  • 西伊豆の「午前中5時間日課」は成功の一因と考えているが、このような日課を採用している学校は少数派である。しかし下校時間がもう少し遅ければ、このような日課でなくとも実施することは可能であろう(賀茂小の場合、バスの時間などから4時過ぎには下校させなければならないという事情もあった)。
  • 長期間にわたっての実施では意欲を持続させるのが難しいため、できることであれば1ヶ月以内に講座を完結させたい。そのためには、放課後実施ができなければ、毎週土曜日に2時間実施する、長期休業前の短縮日課や長期休業そのものを利用して実施することなどが考えられる。
  • 今後は当モデルを広くZ会グループ全体で戦略商品として扱い、広く全国の教育委員会あてにDMを送るとともに、反応のあった自治体に対して個別に提案営業を行っていく。
  • また、当実証事業の広報活動については、積極的にマスコミを通じての広報活動に注力をした。

→読売新聞社、静岡新聞社、伊豆日日新聞社、テレビ静岡、静岡第一テレビなどが記事、番組として取扱いをしてくれた。

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賀茂小学校の受講児童、メンター、実証校校長先生他の集合写真

以上

7.参考添付資料

メンター育成で使用した資料・プリント

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