株式会社サックル
●モデルの意義・目指そうとしていることや、特徴(特異性、利点)
地域在住の高校生からシニアまで幅広い世代をメンターとして育成できる、地域主体の自走可能なプログラミング教育人材の育成環境構築を目指す。また、定量的・定性的な評価やインストラクショナルデザインを活用したSachool考案のカリキュラムにより、より効率的・効果的なメンター育成およびプログラミング教育方法を追求する。
●なぜそのモデルを設計・採用するに至ったか/成り立ち
弊社は、仙台で子供向けのプログラミングスクールSachoolを開講している。以前より、小学校にてプログラミングのワークショップを行うことがあり、保護者と地域住民の方々を中心とした放課後教室の運営スタッフと連携を取りながら進めてきた。そのスタッフの方々は、他に仕事を持ちながらも、放課後の児童向けに企画を考え、実行に当たっていた。地域主体で小学生のために様々な取り組みを精力的に行う姿勢に刺激をうけ、そういったコミュニティをプログラミング教育の普及にも活かしていきたいということで今回地域主体の実証モデルを考えるに至った。
過去の実証は、学生を中心としたメンターで構成されていたが、今回はそれ以外の世代をメンターにすることも目的とした。これまでワークショップを行う際に連携してきた放課後教室の運営スタッフやNPO法人の仙台シニアネットクラブの協力を得て、今回は、地域在住の高校生からシニアまで幅広い世代をメンターとした実証を行った。なお、メンターに求めた条件は下記の3つである。
1. パソコン操作に興味がある
2. 子どもたちに教えることが好き
3. プログラミング/プログラミング教育に興味がある
●独自の活動で得た強み/特長
弊社は、プログラミングスクールを運営しており、小学生を対象としたプログラミング教育に関する独自のノウハウを有している。実証においては、これらのノウハウやインストラクショナルデザインを活かしたカリキュラム構成となった。また、T-KNIT(後述参照)に協力してもらい、まちあるきプログラミングの要素も取り入れた。
さらに、事務局側からのアンケートの他にもこちらで用意したアンケートを実施し、データを集計/数値化することで「定量的・定性的な評価」も行うことを目的とした。
●プログラミング教育に関する現状に対する課題意識等の観点
以前よりプログラミング教育に関する課題は、下記3点と認識していた。
1) 誰が教えるのか<リソース>
2) 何を教えるのか<カリキュラム・スキル>
3) いつ教えるのか<時間的制約>
そのため3点の課題の解決へつながる取り組みにすべく、下記の点に留意した。
1) その地域に住む幅広い世代でメンターとする
2) 教えるのに平易な内容である(アンプラグド~パソコン)
3) 幅広い世代をメンターとすることで教え手側の時間的制約を乗り越える
またそれに伴い、主に教育課程外で行われる講座として設計した。
事業者名 | 株式会社サックル | |
---|---|---|
実証ブロック/実証校 | 東北地区 | 将監小学校 聖ドミニコ学院小学校 西中田小学校 松川小学校 |
育成メンター(メインメンター) (全日参加できた者のみ) |
メインメンター数:8 | |
メインメンター属性:教職員 | ||
育成メンター(サブメンター) (全日参加できた者のみ) |
サブメンター数:16人 | |
サブメンター属性:保護者・地域住民・大学生・高校生 | ||
研修時間 ※実証エリア・実証校によって 異なる場合は加重平均 |
時間 3時間45分 | |
(うち自宅研修時間) | 時間 0時間0分 | |
使用言語・教材・ツール ※ツールはPC・タブレット以外で |
言語:Scratch | |
教材・ツール:プログラムさがしプリント | ||
使用端末とその帰属 ※実証会場によって 異なる場合は実証校ごとに記載 |
将監小学校:PC23台(初日)5台(2日目) 聖ドミニコ学院小学校:PC20台 西中田小学校:PC 台 松川小学校:PC17台 |
将監小学校:実証校(初日)/事業者持込(2日目) 聖ドミニコ学院小学校:実証校 西中田小学校:事業者持込 松川小学校:実証校 |
講座の受講児童・生徒数と学年 (全日参加できた者のみ) |
受講者数:70名 | |
3年生:12名 4年生:26名 5年生:19名 6年生:13名 |
||
カリキュラム |
将監小学校:6時間 聖ドミニコ学院小学校:3時間 西中田小学校:6時間 松川小学校:4時間30分 |
将監小学校:3時間 × 2日間 聖ドミニコ学院小学校:1時間30分 × 2日間 西中田小学校:3時間 × 2日間 松川小学校:1時間30分 × 3日間 |
使用端末(PC・タブレット)の帰属 | (実証校/事業者持ち込み/その他) |
●実証校
各学校で調整について共通することは、お願いする担当者を決め、主にLINEやメールを用いて調整し、必要があれば電話をし、場合によっては、直接会ってお話をした。電話をする用件としては、「返信がない場合」「お会いするための日程のご相談」であり、直接会う用件としては、「メンター研修/実証内容の日程確認」「それぞれのメンバーの役割」であり、進めるにあたり、基本的な事項の確認と認識合わせをするものであった。
松川小学校
調整方法 | 担当者 |
---|---|
LINEやメール | 情報担当教諭、教務主任 |
ドミニコ学院小学校
調整方法 | 担当者 |
---|---|
メール | 副校長先生 |
将監小学校
調整方法 | 担当者 |
---|---|
LINE |
情報担当教諭 放課後教室運営者 |
西中田小学校
調整方法 | 担当者 |
---|---|
メール | 放課後教室運営者 |
●メンター
●実証モデルの設計
本実証は1プログラミング教育の普及と2地域主体で持続・自走可能な学習モデルの構築、そして3実証・運営の3つを大きなフェーズとし、これを繰り返しながら改善していく。プログラミング教育の地域格差の要因の一つとして、教え手の不足がある。これを解消するために、地域のプログラミング未経験者がメンターとして参加できるような環境を目指した。
1. プログラミング教育の普及
プログラミング教育についての知識がない方もメンターの対象としていたため、プログラミング教育が提言された由来や、必要性についての講義を行った。また、実際に研修を受けることで、メンター自身が「プログラミング教育は必要だ」と実感する事も狙った。
2. 地域主体で持続・自走可能な学習モデルの構築
持続・自走可能なコミュニティを作るには、メンターが取り組む上でのハードルを下げ、かつ、「当事者意識を持って」取り組んでもらうことを狙った。そのため、指導例を見せ、簡単なマニュアル化は行いつつ、なるべくメンターから意見が出やすくなるようなカリキュラムづくりを心がけた。
3. 実証・運営
メンターのPCスキルに差があり、そのまま指導する上でのモチベーションや自信に繋がっていた。そこで特に十分にリソースが確保できた実証においては、PC操作と子どもたちの意見のファシリテートで大きく2つに担当を分けた。また、教職員が参加した実証においては全体のタイムキーパーをお願いした。制作や講義の様子はオンラインで共有し、時間の制約にとらわれず、メンター同士が意見交換できる場所作りを目指した。
実証モデルの設計の際に、茨城県笠間市にある教員支援ネットワークT-KNITが実施している「まちあるきプログラミング」の活動を参考にした。
●教員支援ネットワークT-KNIT:茨城県笠間市にある教員の負担軽減の取り組みを行う団体。
「まちあるきプログラミング」とは、身近な生活の中にある「プログラミングらしきもの」を探して集め、最後には全員で共有し、発表するという取り組みである。日常生活の中に見られる逐次処理、反復処理、条件分岐の様子を紙にまとめるアンプラグドな設計となっており、思考実験のみならず、町の再発見を通じた将来に向けた人材育成も狙いの一つとしている。
このまちあるきプログラミングの特徴を参考に
といった要素を講座の内容に盛り込んだ。地域によってICT環境に差がある現状や現場で実施しやすい難易度設定を踏まえ、コンピュータが無くても実施できるアンプラグドな学習方法は継続していくために必要な要素であり、まちあるきは、生活科で行う「まちたんけん」にも結び付けられ、メンターもイメージしやすいのではないかと考えた。
5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | |
---|---|---|---|---|---|
ドミニコ学院小学校 | メンター研修1 |
メンター研修2 実証1 |
実証2 実証3 |
||
松川小学校 |
メンター研修1 メンター研修2 |
実証1 |
実証2 実証3 |
||
将監小学校 |
メンター研修1 メンター研修2 |
メンター研修1 メンター研修2実証1 実証2 |
|||
西中田小学校 |
メンター研修1 メンター研修2 |
実証1 実証2 |
属性 | なぜその属性なのか | |
---|---|---|
教職員 | 参加する小学生のコントロールが出来るため実証をスムーズに行うことができる。また言うまでもなく今後教育の現場で指導する側のメリットになり得ると考えたため。 | |
地域住民 | シニア | 社会経験豊富であることを活かし、地域社会に自分の経験を還元したいという方が多い。プログラミング教育においてメンターとなる役割は現場では足りないことと高齢化社会の現状から、シニア人材が協力するモデルは、重要な取り組みであると考えたため。 |
放課後教室スタッフ | 放課後教室の活動を通じて普段から小学校に関わりがあるため、教職員や小学生とコミュニケーションが取れている。参加する小学生との関係づくりが問題なくできる人材は実証において重要であるため。 | |
高校生/大学生 | その地域にある学生の参加と関係づくりは、持続可能な取り組みを行ううえで必須と考えたため。また異年齢交流や教える経験は普段経験できない貴重な経験であることから、学生側にもメリットがある。 |
●メンターの属性、なぜその属性なのか
将監けやきっこ放課後教室・・・実証校の放課後教室団体であり、放課後教室のイベントの1つとして今回のプログラミング講座を行った。次年度以降も放課後教室のイベントとしてプログラミング講座を実施していくうえで、ご協力頂きたかったため。
仙台市立仙台商業高等学校・・・実証校とつながりがあり、担当教員も生徒をプログラミング講座のメンターとして異年齢交流・教える側の経験を積ませたいという想いがあったため。
西中田こみこみスクール・・・実証校の放課後教室団体であり、放課後教室のイベントの1つとして今回のプログラミング講座を行った。次年度以降も放課後教室のイベントとしてプログラミング講座を実施していくうえで、ご協力頂きたかったため。
仙台シニアネットクラブ・・・今回シニアの募集にあたり、実証校のエリアにあるシニアの団体を調べていた。プログラミングということで、普段からIT・パソコンを用いた活動を行っている当団体に話をし、協力を得ることができたため。また属性にも記載した内容となるが、プログラミング教育においてメンターとなる役割は現場では足りないことと高齢化社会の現状から、シニア人材が協力するモデルは、重要な取り組みであると考えたため。
山形県立米沢女子短期大学・・・実証校のエリアにある大学であり、今後の持続可能な取り組みを行う上で、関係づくりと先行事例として重要と判断したため。事例があれば、今後プログラミング講座を開催する場合、協力してもらうためのきっかけとなる。
山形大学工学部・・・実証校のエリアにある大学(工学部)であり、普段プログラミングに関連する学習や研究をしている学生に自身の知識を活かしながら協力頂けるため。今後の持続可能な取り組みを行う上で、関係づくりと先行事例として重要と判断したため。山形県立米沢女子短期大学同様に事例があれば、今後プログラミング講座を開催する場合、協力してもらうためのきっかけとなる。
ユーティーパソコンスクール・・・今回はメンター研修のみで、実証には参加できなかったが、米沢市にある松川小学校に近いパソコンスクール。小学生向けのプログラミングスクールも開講しており、普段Scratchを使用していることもありご協力をお願いした。
●育成人数
22名
●チラシ
弊社で実証校それぞれの日程を記載し作成した。また、放課後教室側で作成し配布も行った。
●ブログ
弊社ブログにて告知した。
●東北総合通信局より報道機関向けに資料送付
メンター研修と実証日程の概要を報道機関向けに送付頂いた。
学校 | メディアやツール |
---|---|
ドミニコ学院小学校 |
・東北総合通信局より報道機関向けに資料送付 ・弊社ブログでの告知 ・チラシ |
松川小学校 |
・東北総合通信局より報道機関向けに資料送付 ・弊社ブログでの告知 ・チラシ/大学校内掲示 |
将監小学校 |
・東北総合通信局より報道機関向けに資料送付 ・弊社ブログでの告知 ・チラシ |
西中田小学校 |
・東北総合通信局より報道機関向けに資料送付 ・弊社ブログでの告知 ・チラシ |
●実施形態
・1日目
内容 | ||
1 | 実証の概要についての説明 | 事業の概要説明。 |
2 |
プログラミング的思考について (身の回りから探してみる) |
プログラミング的思考とはどういったものか体験。 |
3 |
プログラミング的思考 (Scratch操作) |
Scratchの使い方について。コーチング・ファシリテートについて。Scratchを用いたグループワークの意義と内容。 |
4 | 児童への接し方/チーム編成 | 過去の指導経験・事例から情報共有。 |
・2日目
内容 | ||
1 | デモ指導(身の回りから探してみる) | 日常生活の中にあるプログラムを再発見する取り組みを実体験。 |
2 | デモ指導(Scratch操作) | コーチング指導の体験。 |
3 | チーム別ディスカッション | チーム内で気づいたことを列挙。 |
4 | 全体でディスカッション | 全体で共有し、1人1人が自分の指導方針を固める。 |
●研修にかけた時間
松川小学校
日数 | 時間 |
---|---|
2日間 | 合計3時間+オンライン |
ドミニコ学院小学校
日数 | 時間 |
---|---|
2日間 | 合計4時間+オンライン |
将監小学校
日数 | 時間 |
---|---|
2日間 | 合計4時間+オンライン |
西中田小学校
日数 | 時間 |
---|---|
2日間 | 合計4時間+オンライン |
●習熟具合をはかる仕組み・工夫(資格の取得のようなレベルは求めなかった)
・使用ブロックの選定
今回のテーマで作ってもらうものは「紙芝居型」のプログラムであることが想定されたため、使用ブロックを選定することで、メンターの学習負荷の軽減を狙った。
のみに絞り、弊社で用意したサンプル作品の共有を行い、メンターにScratchを用いた作品作りを経験させた。
講座内で紹介し、メンターに対しては各自の課題として出したサンプル作品「玄関が込まない」
講座内で紹介し、メンターに対しては各自の課題として出したサンプル作品「寝ろバス」
●メンターとのカリキュラム作りの課題
【工夫した点】
もともとは地域が舞台となる講座をめざすことで、昔からその土地に詳しいシニア人材をはじめ、保護者や地域住民からの積極的なアイデアが出ることを目指した。また、これにより「ただやらされるだけ」でなくなることで、メンターの当事者意識やモチベーションが上がることも期待していた。
【実際のディスカッションの結果】
メインメンターとなる先生方の視点は「とにかく管理しきれるもので、かつ効果も予想可能なものにする」という意見が強かった。リスクを最小限に抑え、極力、成果も予想しうる範囲内で授業を設計しなければ、運営は厳しいということになり、結果、メインメンターの先生方が主体となって学校内のみの取り組みだけとなった。この点は、今後でプログラミング学習を普及させていく上で非常に重要なポイントであると感じた。
特にベテランの教員の方が、結果が予測できない創作活動のカリキュラムのことを「夢がある」と表現していたのが印象的だった。
●オンライン研修環境の設定
【研修の内容】
今回の実証では、講座の合間に一定期間空いてしまう実証校や、メンター研修と実証日程の期間が空いてしまうケースが生まれることがわかっていた。そこで、いつでもクラウド上で授業内容を常に共有できる環境をつくるべく、「Google
Classroom」の導入を試みた。
各実施校別に「教室」をオンライン上に設定し、研修での資料や作品例、作り方。そして先に実施した学校の生徒の作品や取り組みの様子を共有することで、これから授業を受けるメンターの不安を軽減しようと考えた。
【メンターの取り組みの様子】
クラウド上でのやり取りに不慣れなメンターからすると、日常的に触れている技術でない限り、進んで使おうとする様子はなかった。これは、普段から子どもたちの様子を見知っている放課後児童教室の保護者スタッフの方も同様であり、積極的な情報発信の様子は見られなかった。一方で、こちらから発信する情報は読んでもらえていた。オンライン上の即時的な質問こそなかったものの、実証日の朝のミーティング時にはスムーズに日程の共有などができた。
教材 | 工夫した点 | 教育効果 |
---|---|---|
みぢかなものをプログラミング!ワークシート | 実証においてScratchを用いた作品作りを行う前に、作品の設計図を紙に書き、頭の中を整理させるようにした。 | 自分たちのアイディアをScratchでどう表現するか整理されていた。 |
プログラムさがしワークシート | プログラミングのアンプラグドな学びの入り口となるようなわかりやすいワークシートデザインとした。 | 身近なところからプログラムを探してみるという学習において各々の考えを整理するのに役立っていた。 |
メンター研修用スライド | なぜプログラミング教育や今回の実証が行われるのか簡潔にわかりやすくまとめ、参加メンターに今回の実証概要をつかんでもらえる内容とした。 | メンターに今回の実証の概要と目的を理解してもらうのに役立っていた。 |
教材 | 工夫した点 | 教育効果 |
実証授業用スライド例(プログラミングとは?) | 実証の具体的な流れをスライドにし、共有した。Scratchを用いてつくる作品のテーマはメンター側で決めてもらうように、メンターも参加して内容を決めれる余白をつくった。 | 実証内容の具体的な内容と全体の流れを共有するのに役立った。 |
作品例(「そばの出前」) | Scratchのアニメーション関連のブロックを用いて実証でつくる作品例をメンターに示し、Scratchはどういったことに使うのか理解してもらえるよう配慮した。 | 実証内容において、Scratchを使ってどんなことをするのか共有するのに役立った。 |
虎の巻(エントリー編) | 「なぜ今プログラミング教育なのか・今回の実証の概要」までをA4にまとめ、見返せるようにした。(虎の巻としたのは、今回の実証内容に必要な要点をまとめたという意) | 今回の実証全体を俯瞰して把握できる情報として、メンター側に役立っていた。 |
模造紙デザインのコツ | 模造紙を有効活用できるようなレイアウトが伝わるようにした。 | 模造紙でどう、相手に伝わる内容にレイアウトするか工夫している様子が見られた。 |
メンター研修で用いた資料と、実際の授業で用いたワークシート。
メンター研修メインスライド。前半の授業についての狙いや、コーチングについての提案。
●講座の実施日程、会場
会場 | 実証1回目 | 実証2回目 | 実証3回目 |
---|---|---|---|
聖ドミニコ学院小学校 | 7月26日(水) 90分 | 8月8日は台風で中止 | 8月9日(水)90分 |
将監小学校 | 8月23日(水)180分 | 8月24日(木)180分 | |
西中田小学校 | 9月2日(土)180分 | 9月9日(土)180分 | |
松川小学校 | 8月29日(火)90分 | 9月13日(水)90分 | 9月27日(水)90分 |
●講座各回の内容、ねらい
【全3回の場合】(全2回の場合は、3つの取り組みを前半と後半で分けています。)
1回目:身近なところにある「プログラムになっているもの」を見つけ、プログラムが日常生活に存在することに気づく
2回目:スクラッチの基本操作を習得し、ビジュアルプログラミングに親しむ
3回目:プログラムの組み合わせによってテーマに沿って物語を作り、発表する。これをグループワークで行う。
●参加児童の学年、選出または募集方法、人数、講座進行担当者の属性、各回の参加メンター数
会場 | 児童の学年と人数 | 募集方法 |
講座 進行 担当者 |
参加メンター数 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
3年 | 4年 | 5年 | 6年 | 1回目 | 2回目 | 3回目 | |||
聖ドミニコ
学院小学校 |
4名 | 9名 | 5名 | 2名 | 学童クラブにて募集 | 教職員 | 4名 | 4名 | |
将監小学校 | 7名 | 9名 | 3名 | 4名 | 放課後児童教室にて募集 |
教職員 地域住民保護者 |
7名 | 7名 | |
西中田小学校 | 1名 | 3名 | 4名 | 2名 | 放課後児童教室にて募集 |
教職員 地域住民保護者 |
5名 | 6名 | |
松川小学校 | 0名 | 5名 | 7名 | 5名 | 校内で募集 | 教職員 大学生 | 5名 | 3名 | 5名 |
●実証1校目 聖ドミニコ学院小学校
※聖ドミニコ学院小学校は、台風の影響で模造紙制作の時間が中止となった。
●実証2校目 将監小学校
【実証2日目2】シニアメンターと高校生メンターが自分の担当チームのアイデアをまとめに参加している様子。
●実証3校目 西中田小学校
●実証4校目 松川小学校
【研修1日目】なぜプログラミング教育なのか〜Scratchの操作までメンター研修の様子。
【実証3日目1】プログラムさがしのあとに、チームごとに作品を設計。分担してScratchでの作品づくりを行った。
【実証3日目2】自分たちの作品の設計図をもとに最終発表をしている様子。
(※画像割愛)
●「プログラミングは楽しい」
●「自分でゲームを作ってみたい」
●「最初は関心がなかったけれども…」
●「これからもプログラミングを続けたい」
●「プログラミングが楽しいから続けたい」
●「将来のためにプログラミングを続けたい」
●「プログラミングを上手くなりたいから続けたい」
●「楽しかったが、難しいから続けたくない」
●「ゲームやアプリについての考え方が変わった」
●「ゲームやアプリを作ることの大変さが分かった」
まず、2020年の小学校教育におけるプログラミング教育必修化に関して、依然として多くの悩みを抱えている状態であることが伺えた。学習環境(PCやインターネット)、人的資源(ICT支援員、メンター)、教員がプログラミングに習熟するための時間など、様々なものが不足しているという共通認識があり、「満足のいく形ですべてを学校で行うことができない以上、学校外の施設環境で支援するシステムを構築することはできないものだろうか?」といった、外部からの支援の必要性を訴える意見も見られた。他にも、プログラミングをカリキュラムにどう組み込むかといった、カリキュラムデザインに対する不安を訴える意見も見られた。
このような背景があるためか、本実証を「プログラミング教育を進めるにあたって様々なヒントを得るための絶好の機会」と捉えた学校が実証校を引き受けていただけたものと思われる。
実証全体を通じての印象は良かったようで、「プログラミングとは何かについて、子供なりにイメージをもててすすめていたと思う。ものの構成についてもとらえることができていた」「模造紙を通して、見通し立てて調べ、まとめる手法は、とてもよくできていた。他教科との関連が取りやすい活動であると感じた」「内容は高度であったが、年齢に応じた理解はできていた。何かを伝えるために、どんな方法があるかそれぞれ考えを出し合いながらチームで協力することができていた」「発表というまとめは、緊張感をもちながら、一生懸命さが伝わってきてよかった。始めてから間もない中で、よくあそこまで仕上げられたと感心しました」とのことから、プログラミングという観点から世の中を眺めて気づいたことを、チームを組んでScratchと模造紙で表現するという、本実証の核となる内容の有用性は理解していただけたと思われる。
ただ、「スクラッチで自分の思いを表現していくと、どうしてもスクラッチを動かすための技術が必要になってくる。スクラッチの操作の仕方については、習得の時間が必要である」という指摘もあり、この点は今後の検討課題である。
プログラムが動かない場合でも決して放置せず、自分で試行錯誤したり他者の助けを求めるなどして、何とか解決しようとする姿勢がほぼすべての生徒に現れたと考えられる。
●児童・生徒全体についての考察
うまく実施できたことよりも、うまく実施できなかったことのほうが多いとメンターは感じたようだ。
●メンター全体についての考察
今回は課外での取り組みということで、教育委員会や学校への呼びかけを通じ、学童や放課後子ども教室への働きがけができた。また、放課後子ども教室同士のつながりから横展開も期待できる点も成果として挙げられる。
本モデルは「リソースの少ない地域におけるプログラミング教育の普及と自走」がテーマにあったため、まずはプログラミングとは何か、プログラミング教育とは何か、という根本のねらいの説明に重点を置いた。それにより、メンターたちがこちらからお願いした指導に加えて、オリジナルの教材の作成など「わかりやすく伝えるにはどうすればいいか」というアイデアも実行していただけた。
本モデルでは、指導内容と指導方針のみを示したが、主に細かく「マニュアル化」はせず、メンターの能動的な判断を促した。これにより発見できたこととして、児童の進捗のコントロールがスムーズだったことが挙げられる。これは特に保護者がメンターとなった実証に顕著であり、教職員が教えるケースに比べ、子どもを励ます声の掛け方や、気配りが細かく、「並走して作っている雰囲気」が作られていた。これは日常の関係性や取り組みなども影響しているものと考えられる。
実証を完了させるまでの日程調整や実証の準備と実施で予定通り行う必要があるが各学校の教育現場は多忙なため、相互に認識を合わせ密に連携しないと予定通りできないリスクがあった。対策としては、基本的なことだが、まずは密に連絡を取り合い関係を築き上げていくことを心がけた。そのためメインメンターのまとめ役の方とは個別に連絡先を交換させて頂き、リアルタイムでのコミュニケーションを心がけた。
本取り組みの中で最も課題だったのが「メンターに自信を持たせること」だ。
背景やツールの使い方だけではなく、「指導方法そのもの」をよりマニュアル化して伝えた方が、より自信を持って子供たちと接することができたと思う。
●メンターによる指導
実施内容について、なるべくメンターの意見を取り入れて作っていこうと考えていたが、実施することそのものが目的になってしまったため、実施難易度を下げることに注力しすぎた。今後実施するばあいは「なぜ今これをやっているのか」を全員が説明できるよう、細かな動きはマニュアル化すべきだろうと思う。
メンターの当事者意識は、カリキュラムの構築ではなく、伝え方など子どもたちとのコミュニケーションの面で、まずは持ってもらえるようにすべきと感じた。
●カリキュラム
カリキュラム面での課題は下記の3点が挙げられる
今回の実証については、生徒の完成度で評価をすることは考えていなかった。では、メンターや学校の先生はどの視点から子どもたちの取り組みを評価すればいいのか。
例えば、中学の技術家庭科では、「生活や技術への関心・意欲・態度」「生活を工夫し創造する能力」「生活の技能」「生活や技術についての知識・理解」の4つの観点から評価を行われており、これらの観点は子どもたちのプログラミングの取り組みを評価するうえでも有効であると考える。
これらを本実証に当てはめた場合、例えば 『課題発見能力(関心・意欲・態度)』・『設計(課題解決能力)』・『実装・再現(基本的な技術力)』・『チームでの協調性(コミュニケーション能力)』などといった評価項目をもって取り組むことができるかと思われる。この点については今後さらに研究を深めていきたい。
●カリキュラム
今回実証で行ったカリキュラムは、学校に利用できるパソコンさえあれば、プログラミング教育に取り組んだことがある組織なら復習として「Scratchの基本操作」から実施し、様々なテーマを決め作品づくりを行うことが可能であり、プログラミング教育に取り組んだことがない組織なら最初の「身近なところからプログラムを探してみよう」から実施することができる汎用的な内容になっている。
以上の研修が何時間あれば、各組織において自走できるかは、まだはっきり結論付けられないが、本実証内容の理解はオンラインの情報やりとりのみでも可能な難易度になっている。
教職員がメンターリーダーとなった実証が多く、教育現場から見た指導のポイントなどが得られたので、来年度から立ち上げる団体を通じ、今後も発信・共有していく。
また、アンケートの結果より、メンターに求められる条件がいくつか明らかになった。その中から特に重要と思われるものを下記に挙げる。
1プログラミングについてある程度の理解・関心があること
2児童・生徒の扱いに慣れていること
3ファシリテーションスキルを備えていること
今回の実証では、特に「ファシリテートできるか」「適切な指導・助言ができるか」といった、子どもたちとの接し方について不安を抱えたままメンターの多くが実証に臨み、当初の予想よりも苦戦した様子がアンケートの結果からうかがい知れた。現職の小学校教員であれば職業上このようなスキルは習得済みであると思われるが、そうではない人達にとっては普段の生活の中で習得するのは困難なスキルであろう。これらのスキル向上を目的としたカリキュラムを、メンター研修の中に組み込む必要があるだろう。
アンプラグド教材としての、「プログラム探し」は、町探検など、既存の教科との相性もよく、様々な場面で活用できるベースとなるものかと思う。また、算数や国語など、校内や校外での探索活動と遠かった教科にも応用することで、課外における学習活動にしかできない価値を持たせることも可能だと感じた。
プログラミング学習を、言葉だけでなく、内容も伴って普及させるべく、見学だけでなく実際に取り組んでいただけるような学校を募集する。また、今回の実証校は地域のプログラミング学習の拠点とし、まずは継続して取り組めるようサポートを続けていく。
今回実証校となった学校の他に、今後、ワークショップや保護者向け説明会を予定している新たな実証校として現在、以下の団体様と実施に向け調整中を進めており、今後さらに横展開しながら、地域単位で自走できる仕組みを整える。
それにより、プログラミング学習周辺で教員の皆さんや保護者の皆さんにかかるストレスを軽減させるソリューションを提案し続けてゆく。
●先生方やメンターに向けた『学校でのインターネットの使い方』の教本づくり
今回使わせていただいたPCの環境は、特に教材に影響が出なかったため、問題はなかった。しかし、先生方の多くは、実際にアクセスする前から「学校のネット環境からではつかえないのではないか」と、学校のインターネット環境に対して非常にネガティブな印象を持たれていた。そこで、まずはプログラミングを科目学習で使う前に、どういう使い方ができるのかを端的に説明したマニュアルがあると、先生方の取り組みのなかでアイデアがより活発に出るのではないかと感じた。おそらくこの問題はタブレットの導入時でも同様に発生すると予想されるので、学校や教育委員会と連携して環境の整備に協力していきたい。