株式会社LITALICO
発達段階(発達障害も含む)に合わせた異年齢協働プログラミング教育モデル
発達段階および行動特性・障害有無に関わらず、児童ひとりひとりがプログラミングを通した学びに主体的に取り組み、プログラミング学習の場における自己効力感を持つため、下記手段を用いて講座・育成一体型モデルを実証した。
●児童ひとりひとりが成果物でオリジナリティを発揮できるものづくりテーマ
到達度によって他者との比較や優劣を感じやすいミッションクリア型の課題を避け、「ゲーム」「コントローラー」「自動運転車」「駅周辺のしくみ」のものづくりをテーマとしたプログラミング講座を実施した。児童は画一的な成果物ではなく、2人1組ペアでオリジナル成果物を制作する過程において、学年・障害にかかわらず創造力を発揮した。
最終日の「駅周辺のしくみ」のテーマでは「汽車」「踏切」「自動改札」「ホームドア」の4種の内、いずれかひとつを各ペアが選択して制作し、最後に4種を組み合わせて動かすことで個々の作品が「駅」というひとつの成果物を構成するという協働的なものづくりの経験を取り入れた。
●個別の学習スピード・理解度に合わせられる補助教材
パソコンや機器の操作スキルやブロックの組み立てスピードは学年があがればあがるものだとは一概に言えず、家庭でICT機器やものづくりにふれた経験や興味関心によって異なるものといえる。プログラミングの基本的な考え方についても同様に学年ではなく個別の経験や興味関心に合わせた課題の提供ができるようメンターが難易度別の「プログラミングカード」を所持し、児童に合わせて提示した。わからない児童には手順を一部見せながら、物足りない児童には答えを見せないという選択をすることで学年にとらわれず児童自身の理解度に応じた指導を行った。
●児童の主体性を引き出す関わりができる地域メンターの育成
小学校1年生〜6年生および特別支援級の児童ひとりひとりの主体性を引き出し、自己効力感を高めるような指導をするためには「教える力」の代わりに「学年で区別せずに児童個人に着目する力」や「適切な課題設定や問いかけを繰り返す力」が必要になる。座学による研修の他、講座運営前後にメンター同士で振り返り対話のしくみを導入することで地域メンターの指導におけるPDCAサイクルを構築した。
2016年8月23日(水)〜8月31日(木)
連携大学である北海道情報大学・棚橋研究室および実証校の江別市立野幌若葉小学校校長を通してメールで募集要項を配信し、希望者全員を受け入れた。
下記の種別のメンターを募集対象とした。
(1)北海道情報大学の学生、卒業生の選択理由
実証地域の大学であり、実証校でロボット制御の授業実績があった。また、情報技術の専門教育を受けている学生からプログラミング教育へ興味関心、意欲があるメンターを募りやすいと想定した。
(2)実証校の小学校教員、教育実習生の選択理由
2020年度小学校プログラミング教育必修化へ関心のある教員や教育実習生へのノウハウ共有、および小学校現場浸透のための意見交換を目的とした。
連携大学の研究室を通して募集したものの、研究室外へも募集要項の公開を許可したため、学生の口コミによって今回の取り組みに興味関心や意欲をもった層を取り込むことができた。
(1)対面研修
1日間(2016年9月14(水))
(2)OJT研修
4日間(2016年10月1日(土)、15日(土)、11月12日(土)、26日(土))
(1)対面研修
下記の内容を実証校コンピュータ教室での集合研修にて実施した。
(2)OJT研修
実証事業のプログラミング講座4日間全日ともに午前・午後同内容の講座を開催し、午前は弊社主体の運営、午後はメンター主体の運営でOJT研修を実施した。メンター主体の運営では2名を主導者、残りの5〜8名をサポート役として配置し、主導者は4日間でローテーションを組んだ。
OJT研修においてメンターが主体的に運営に取り組めるように下記の工夫を行った。
●講座運営後の振り返り対話の実施
講座午前の部終了後すぐに指導面、運営面における振り返り対話を実施した。午前の部の課題に対する改善策をメンター自ら考え、午後の部に活かすことができた。午後の部終了後の振り返り対話は、次回の講座での行動に意識が向くこととなり、全4日間でメンター自身が指導・運営の改善を継続することができた。
●最終日の授業案の作成課題
全4日間の内、1〜3日目は午前の部・午後の部ともに弊社作成の授業案での講座を実施したが、4日目の作品発表会の授業については有志メンターが授業案を考え、午後の部で実際にメンターら自身が作成した授業案で講座を実施した。
●対面研修+講座OJT研修モデル
児童との関わり方スキルを座学ベースの対面研修のみで身につけることは難しく、モデルとなる指導者の姿を観察し、自ら実践し、振り返る機会が必要になる。午前・午後同内容講座を実施することによって、受け入れ可能児童数を増やし、かつ即時フィードバックによる効果的なOJT研修を実施することが可能になる。
●振り返り対話の観点
講座終了後の短時間で効果的な振り返り対話を行うために必要な下記の観点を他地域でも再現可能である。
2016年8月19日(金)〜8月24日(水)
午前の部、午後の部20名ずつの計40名を定員とし、募集チラシと申込書を配布した。85名の申込があったため実証校にて抽選会を実施して最終的な受講者45名を確定した。
小学校1年生〜6年生(内、特別支援学級在籍児童は3名)
学年や発達障害の有無にとらわれず、ひとりひとりの興味関心や発達段階に合わせたプログラミング教育の学習環境を実証するために全学年および特別支援級を含む対象とした。
家庭にパソコン等のICT機器がなく、プログラミングについても知識もほとんどない地域であることが想定されたため、「ゲームづくり」や「ロボットづくり」など児童の興味関心を引きやすい募集チラシを全校生徒へ配布した。配布・回収については円滑に進められるように実証校の小学校校長および教員に協力依頼した。
50分×2コマ×4日間の計8コマ連続講座で学習した。
※ただし、2日間参加1名、3日間参加1名を受け入れ、単発でも学習できる内容とした。
コマ | 学習目標/ねらい | 内容 |
---|---|---|
1 | パソコン画面上のキャラクターが繰り返しや条件分岐などの命令の組み合わせで動作することを理解する | 1人1台のパソコンを使ってScratchでお手本通りの簡単なゲームを制作する |
2 | 日常生活で身近なゲームやアニメーションをつくることに対して受動的な態度ではなくプログラミングで自ら作品をつくりだす能動的な態度を養う | 1人1台のパソコンを使ってScratchでテーマに沿った作品もしくは自由な作品を制作する |
3 | チルトセンサーの機能を画面上のキャラクターを動かしてみることで児童自らが発見する | ペアで1台のパソコンとレゴ(R) WeDo 2.0を使ってプログラミングでチルトセンサーの機能を確認し、ゲームコントローラーを制作する |
4 | ゲームコントローラーとゲームをつくることによってパソコンの画面上だけでなく身近なところでプログラミングが使われていることを体感する | ペアで1台のパソコンとレゴ(R) WeDo 2.0を使ってオリジナルのゲームコントローラーとゲームを制作する |
5 | モーションセンサーとモーターの機能を児童自ら発見し、自動ブレーキ付きの車の仕組みを理解する | ペアで1台のパソコンとレゴ(R) WeDo 2.0を使ってプログラミングでモーションセンサーとモーターの機能を確認し、自動ブレーキ付きの車を組み立てる |
6 | 自動ブレーキ付きの車を場面に合わせてプログラミングし、条件分岐を使った制御を考えることができるようになる | ペアで1台のパソコンとレゴ(R) WeDo 2.0を使ってプログラミングで自動ブレーキ付きの車の動きを制御する |
7 | センサーやモーターの仕組みを活用し、ペアでテーマを決め、テーマに合わせて工夫したプログラミングができる | ペアで1台のパソコンとレゴ(R) WeDo 2.0を使って駅周辺のしくみ(汽車、踏切、ホームドア、自動改札)から1つ選び、「どんな人でも安心できる駅」をテーマにした作品を制作する |
8 | 3ペア1組でグループにおいて各ペアが制作した作品同士を協力してつなぎ、最後に発表という形で他者へ工夫を伝えることができる | ペアで1台のパソコンとレゴ(R) WeDo 2.0を使って制作した作品をグループでひとつの「駅」としてつなぎ合わせ、他グループに対して発表する |
●身近なものがプログラミングで動いていることの体感
講座の前半では、児童にとって身近な「ゲーム」や「ゲームコントローラー」を制作することでプログラミングが身近なところで使われていることを体感してもらった。また、講座の後半では「自動ブレーキ付きの車」や理想の「駅」など、プログラミングで実現可能な未来への興味関心を引き出せる題材とした。
●異学年ペアプログラミングと共創による達成感
3コマ目以降は2人1台の機器を使ってペアでプログラミングをし、最終日には6人(3ペア)1グループでひとつの駅の周辺の動きを制作する活動を行った。児童同士の対話による学びを最大限に引き出すため、話しやすい隣接学年の児童同士でペアを組み、講座開始時に簡単なアイスブレイクを行った。
●興味関心や理解度に合わせて提示するカード教材
あらかじめ用意したプログラミングにおける学習目標に授業の早い段階で到達した児童や興味を持つことができない児童に対して、応用的な課題や別の視点の課題をメンターが個別に提供できるようにするため、数種類のプログラミングカード教材をメンターが所持した。
●児童ひとりひとりに合わせた指導が可能な教材
一斉講義の時間を減らし、個別の制作スピードで進められる時間を増やすため、レゴ WeDo 2.0の組み立てマニュアルはパソコン画面または紙冊子にて児童に配布した。また、Scratchのプログラミングカードをメンターに配布した。これらは他地域にも展開可能である。
●複数のロボット連携によるグループ開発カリキュラム
7〜8コマ目の「駅周辺のしくみ」のテーマでは、あるペアが制作した汽車が別のペアが制作した踏切の前を通過すると踏切があがる、というようなセンサー制御を活用したロボット同士の連携が必要になる。各ペアが個別で制作した作品を最後につなぐ工程があることによって自然と児童同士の協働やコミュニケーションを促進することができる。ロボット連携を活用したこのようなカリキュラムは他地域でも再現可能である。
(1)背景
弊社が2014年に開設した、ITものづくりの教室「LITALICOワンダー(りたりこわんだー)」では、5歳〜高校生の子どもが学年や障害有無に関わらず同じクラスでプログラミングやロボット、3Dプリンタを使ったものづくりを学んでいる。学校のクラスでは勉強や運動など同級生と比較して劣等感を感じやすい子どもにとっては異学年の混ざった教室では誰と比べることもなく自分のペースで自分の能力を発揮できる。聴覚情報より視覚情報に優れた発達特性のある子どもにとっては一斉講義型の授業より手元のタブレット端末で写真付きのマニュアルを見た方が理解が早い。また、家庭のICT環境によっては学年に関わらず突出したコンピュータリテラシーを持つ子どもも存在し、そのような子どもにとって一斉授業は退屈であるため個別のチャレンジ課題を提供する必要があった。このようにひとりひとりに合わせた個別の学習環境を構築することで子どもの個性を伸ばし、自信や学習意欲を育んできた実績がある。
(2)モデルのねらい
小学校におけるプログラミング教育導入時には児童がプログラミングに苦手意識をもたず学習意欲を持ち、プログラミング学習の場へ自己効力感をもつことが重要な要素のひとつになることが考えられる。そのため、民間のプログラミング教室である弊社の上記のような現状を鑑み、学年や障害有無で区別したクラスで一斉集団授業を行うのではなく、異年齢集団の中で個別の興味関心や理解度に合わせた教材、指導スキル、評価の授業モデルを実証することを目的とする。
併せて、児童集団における到達度・理解度ではなく、児童ひとりひとりの成長を実感することでメンターの主体性や意欲を醸成し、講座の継続実施につながることをねらいとする。
●児童ひとりひとりの理解スピードや創造性が発揮された成果物
●特別支援学級の児童の変化(親御さまインタビューより)
●同内容の講座を受講したときの学年別の満足度
●受講児童の声(アンケートより)
●今後も継続して活動したいメンター数
●4日間の講座終了後のプログラミング教育への価値観の変化
「プログラミング教育を通して子どもたちに学んでほしいこと、身につけてほしいことは何ですか」
「プログラミング講座を受ける子どもたちにとって、どのようなメンターが理想ですか」
(1)実証校小学校校長の反応
(2)教育委員会の反応
(1)実施地域での継続
(2)他地域での普及に向けた提案
●地域の大学や教育委員会、民間企業が小中学校でプログラミング教育を実施するインセンティブ
●プログラミング教育が「子供が楽しく主体的に学ぶ」ことへ貢献するのを先生へ広める活動
●学校向けのプログラミング教育実践事例および協力団体の紹介を総務省クラウドやポータルサイト設置で行う