富山県教育工学研究会
■モデルのねらい
論理的思考力、協働作業能力、コミュニケーション能力等の育成に向けた学習への能動的関わりを促す学習環境を開発し、授業実践を通して、障害の特質や能力に応じた学習効果を明らかにする。
■研究の背景
障害に起因して、能動的かつ持続的学習、コミュニケーションや協働作業が困難な場合も多い。したがって、能動的かつ持続的学習のためには応答する学習環境が有効であると考えられる。また論理的思考力の育成にはPDCAサイクルが効果的である。
■障害種別
知的障害、自閉症・情緒障害、肢体不自由、病弱、難聴 の5障害を対象とする。
■実証校:
富山市立芝園小学校
特別支援学級 5学級
富山市教育委員会は、本事業の意義を理解し、適宜指導主事が参観
■メンターの母集団:
学生メンター:富山大学人間発達科学部で教員を目指す学生
社会人メンター:富山インターネット市民塾における地域人材
■体制図
授業実施日 | 内容 | 備考 | メンター養成研修日 | |
---|---|---|---|---|
1 | 10/25(水) | Code A Pillar1 | ○10/10 | |
2 | 10/31(火) | Code A Pillar2 | ○10/24 | |
3 | 11/14(火) | Ozobot1 | ○11/7 □11/2 □11/8 | |
4 | 11/21(火) | Ozobot2 | 中間公開 | ○11/21 |
5 | 12/12(火) | Viscuit1 | ○12/5 | |
6 | 12/19(火) | Viscuit2 | ○12/19 | |
7 | 1/23(火) | 交流 | 最終公開 |
○公開講座参画による実地研修 □講師による講義研修 ◇その他にオンライン研修
■メンターの属性
学生メンター :富山大学人間発達科学部で教員を目指す学生
社会人メンター:富山インターネット市民塾に参画する地域人材他
■育成人数
学生9名 社会人10名(5名)
*注:社会人メンターにあっては、仕事の事情でe-ラーニングのみでの学習参加者、及び、講義又は
観察参加に一定数参加できなかったものが5名で、これら参加者はアンケート回答を行わなかった。
■募集方法
学生メンター :特別支援教育専攻の学生等学内公募
社会人メンター:富山県教育工学研究会及び富山インターネット市民塾のHPで公募
※富山県教育工学研究会の下記サイトから募集
https://toyamaedu.jimdo.com/program2017
■障害特性に応じた工夫点
特別支援教育の専門家である水内准教授による研修
■使用教材
Code A Pillar、Ozobot、 Viscuit、ほか
■研修の方法・時間
研修は以下の内容の講義(3時間x2日間)及び観察参加を実施した。
講義内容はe-Leaningとしても開発し、学習に供した。
観察参加は、公開講座(6回)と実証授業(7回)で実施した。
e-Learningは、下記のメンター研修参加者専用Webサイトから閲覧。但し、登録者のみ。
http://h29mentor.toyama.shiminjuku.com
学生メンターについては、公開講座と実証授業のための教材研究や教材づくり、メンターとしての実証授業での学習支援活動と上記講義への参加:全15回、全23時間の研修時間
社会人メンターについては、概論講義(2回)と実証授業の内の公開授業(2回)、その他、公開講座への観察参加、e-Learningでの学習へ参加:平均4回、全6時間の研修時間
※その他、Viscuit開発者の原田康徳氏による研修講座を別途開催
■プログラミングツール、補助教材の概要・特長
(1)Code A Pillar(いもむし型ロボット):単純な構造の組み合わせ
+戦略ボード 論理的思考支援ツール
(2)Ozobot と Ozoコード:単純な色の組み合わせ
+作戦ボード 論理的思考支援ツール
(3)Viscuit 単純なツールで動きのある表現活動が可能
+表現ボード 論理的思考と表現支援
■採用理由:
比較的単純な命令で動く
■障害の状態や児童生徒の特性に合わせた配慮・工夫:
応答する環境でPDCAサイクルが分かりやすい
■学校や教育委が採用する場合の利点・課題:
単純なツールで論理的思考力・協働作業能力の育成可能
■講座の実施日程、会場
実施日 | 内容 | 備考 | |
---|---|---|---|
pre | 10月初旬 | 事前アセスメント | |
10/23(月) | 初顔合わせ | ||
1 | 10/25(火) | ピラー1 | |
2 | 10/31(火) | ピラー2 | |
3 | 11/14(火) | Ozobot1 | |
4 | 11/21(火) | Ozobot2 | 中間公開 |
5 | 12/12(火) | Viscuit1 | |
6 | 12/19(火) | Viscuit2 | |
post | 12月終盤 | 事後アセスメント | |
1/11(木) | 2年生への招待プレゼンテーション | ||
(7) | 1/16(火) | プログラミングランド1 | |
(7) | 1/18(木) | プログラミングランド2 | |
7 | 1/23(火) | プログラミングランド3 | 最終公開 |
■授業の基本的なスタイル
【第1回】『いもむしロボット「ピラーちゃん」をうごかしてみよう(1)』
平成29年10月25日(水)第3限:10:45〜11:30
【第2回】『いもむしロボット「ピラーちゃん」をうごかしてみよう(2)』
平成29年10月31日(火)第3限:10:45〜11:30
【第3回】『たこ焼きロボット(オゾボット)を動かしてみよう(1)』
平成29年11月14日(火)第3限:10:45〜11:30
【第4回】『たこ焼きロボット(オゾボット)を動かしてみよう(2)』
平成29年11月21日(火)第3限:10:45〜11:30
※4回目は中間の公開授業(総務省等のほか、同管区の学校、教育委員会へ案内)とした
【第5回】『コンピュータ「ビスケット」をうごかしてみよう(1)』
平成29年12月12日(火)第3限:10:45〜11:30
【第6回】『コンピュータ「ビスケット」をうごかしてみよう(2)』
平成29年12月19日(火)第3限:10:45〜11:30
【第7回】『プログラミングランドを使った通常級(2年生)との交流学習:―プログラミングランドを楽しもう―』
平成30年1月23日(火)第3限:10:45〜11:30
【第1回】『いもむしロボット「ピラーちゃん」をうごかしてみよう(1)』
平成29年10月25日(水)第3限:10:45〜11:30
■授業の展開
導入1:学習指導案にある通り、指導者の水内が、いもむしロボット「ピラーちゃん」を紹介。児童の学習への動機づけとして、「エリック・カール著『はらぺこあおむし』」を大きく写し、いもむしは何が好き、いもむしは大きくなって何になるなど、児童への発問と応答を通して、学習への意欲を高めた。
展開1:その後、児童は2人または3人一組で各グループに分かれて、ピラーちゃんを自由に動かし、その特徴を知る。各学級の教員並びに学生メンターが学習を支援。
展開2:活動ののち、気づいたことを発表。動かし方を確認したのち、本日の課題とルールについて説明。課題は、決められたスタート位置から、いもむし「ピラーちゃん」を動かし、葉っぱを食べさせることができるか?葉っぱが食べられたら、りんごなどの食べ物を追加し、目的行動をより複雑にする課題が与えられた。
まとめ:活動を振り返り、葉っぱを食べさせることができたか、友だちと協力して考えることができたか、活動が楽しかったかなど、意見を出してもらった。最後に、「皆のお陰で、いもむしロボット「ピラーちゃん」もたくさん美味しい葉っぱやりんごを食べることができ、蛹になり、やがて蝶になって飛び立ちました。」とそのプロセスを水内が話し、蝶々が飛び立つさまをドローンで実現した際には、児童全員歓喜の声が上がった。
■授業の課題
障害別、学年を配慮してのグループ編成にあって、いずれも動くロボットに大変興味を示し、活発に課題に挑戦する姿が見られた。特に、肢体不自由児では、話し合いでの問題解決、論理的思考がかなりできていた。しかし、低学年や、情緒障害児童にあっては、課題の把握、話し合いが上手く行かなかった面も見られた。担任からは、活動のふり返りシートでは、どの子も 「楽しかった」「びっくりした」等、書いてあり興味関心の高い授業であったほか、授業の進行が少し早かったので、グループに応じて説明や課題の進行を考えたほうがいいという反省の意見も出された。
【第2回】『いもむしロボット「ピラーちゃん」をうごかしてみよう(2)』
平成29年10月31日(火)第3限:10:45〜11:30
■授業の展開
導入:学習指導案にある通り、前時の振り返りとして、グループに分かれてピラーちゃんを自由に動かす。その後、気づいたことを発表し合い、ピラーちゃんの体の秘密、基本的な動きであるコードと動きについて、パワーポイントのアニメーションで確認。
展開:ピラーちゃんの動かし方を理解したあと、問題解決学習に入る。問題は、ピラーちゃんにたくさん餌を上げること。すなわち、スタート地点から事前に計算された位置に配置された葉っぱやりんごを通過させるという課題に取り組む。ここで論理的思考を促す手立てとして、動かす前に、グループで協同して手順を考える活動(戦略ボード上に、前、右、左などのコードチップの動きを考えながら配置すること)を行わせ、その後、その戦略ボードに従って、ピラーを組み立てる活動を行う。
組み立てたら、スタート地点にピラーちゃんをおいてGo! やったあ!という歓声、あれ?という声。
あれ?の時は、もう一度、よく考えて、戦略ボードを見直し、再度Go! 上手く葉っぱやリンゴに到達できれば、ピラーちゃんの食べ物カードに、グループの名前の入った葉っぱやりんごを貼って達成感を持たせる。このPDCAサイクルをグループで協同して回すことが、協調活動能力や論理的思考力の育成につながる。競争的達成感を持たせることで、問題解決学習への持続的取り組みにつなげた。
まとめ:葉っぱやりんごをたくさん食べさせることができたこと。食べさせるために友だちと協力して考えることができたか。ピラーちゃんの構造と手順を考えることができたか。活動が楽しかったかなど、今日の学習を振り返っての意見を出してもらい、順序立てて考えること。失敗してももう一度考えることが大事なこと、友だちと協力して考えることが大事なことなどのまとめを行った。
最後に、たくさん食べさせることができたので、ピラーちゃんが無事さなぎになれることのお話と本物のさなぎを提示して本時の授業を終了した。
■授業の課題と可能性
以上、新しく加わった戦略ボード、学習の方法に関する分かりやすい説明、学習目標と達成感を持たせるための報奨などが、学習への興味関心の持続や協働学習の促進、論理的思考の育成などに有効であった。学習支援ツールやがすべての子どもにとって大変理解しやすい支援でした。
学習の振り返りノートへのコメントも児童にとって楽しみとなっている。
【第3回】『たこ焼きロボット(オゾボット)を動かしてみよう(1)』
平成29年11月14日(火)第3限:10:45〜11:30
■授業の展開
導入:学習指導案にある通り、最初にOzobotへの興味関心を高める目的で、Ozobotが音楽に合わせて様々な動きのダンスを行う様子を見せた。児童はその動きや色の変化で、すぐさま、たこ焼きロボット(Ozobot)への興味関心を高めた。その後、Ozobotの基本機能を理解するため、あらかじめ描かれた線の上を走らせ、どのような動きをするか観察させ、気づいたことを発表させた。
次に、いくつか白抜きした迷路を与え、白抜き部分に準備した4色のマジックで自由に線を描かせ、その上をOzobotが走るとどうなるか観察させ、気づいたことを発表させた。Ozobotは線の色を見分ける能力があり、その色の変化によって自分がどう動けばいいかを考えることができることを学習した。
Ozobotの基本を学習。あらかじめ黒線で描画されたパターンの上を走らせ、その動きを観察
どんなことに気づいたかな?皆で気づいたことを発表した。次に、白抜きされたパターンに自分で色線を描き、その上をOzobotに走らせどのような変化が起きるか観察。どんなことに気づいたかな?皆で気づいたことをまた発表した。Ozobotは色を見て行動を変化させることに気づくという活動であった。
展開: チャレンジ問題への挑戦。Ozobotは色の組み合わせを見て、右、左、まっすぐなど、どのように動けばいいか理解し行動することができる。この色の組み合わせが、Ozobotに対する動きを指示する命令(コード)になっていることを学習。次は、カラスに食べられないようにして、葉っぱにたどり着くためには、どのような道筋をたどればいいか、チャレンジ問題に挑戦した。右へ曲がるのか、まっすぐかなど考えながら、そのような動きになるようなコードを指示された場所に配置する。簡単な問題から、障害物が増える複雑な問題へとチャレンジをすすめる活動であった。
まとめ:Ozobotをスタート地点から目的の葉っぱの位置まで連れて行くことができたか。Ozobotに動きの道筋を教えてあげることがプログラミングである。間違ったら、Ozobotがカラスに食べられる。右へ曲がるコード、左へ曲がるコードをうまく使い分けて、チャレンジ問題がどこまでできたか、活動の振り返りを行った。
■授業の課題:一人一人がOzobotを手元に置くことができ、じっくり動かすことができたので、とても満足していた。ルールが、簡単で分かりやすく、何回も葉っぱにたどり着くことができたので楽しさが倍増したようだった。コードの提示等、視覚的に分かりやすい教材が準備されていたので、Ozobotをどう動かせばいいか考えることができた。
シールを貼るという操作は、手先や目を使う活動で良い活動だ。児童にとっては、自分たちで道を作っているという気持ちになり、学習意欲の向上に繋がった。
手先が不自由な児童は貼るのに少し時間がかかる。「もっと動かしたかった」という思いがあった。間違えたとき、シールを上から重ねて貼るなど、対応を工夫する必要がある。
一人一人の活動で満足した後にペアの活動があったので、心置きなく二人の活動に気持ちが移ることができ、相談しようという気持ちになれた。
たこやきの入れ物は児童に興味を持たせた。また、2つずつコードのサンプルが貼ってあったので、元に戻すときにも間違えずに戻せた。
Ozobotの方が、児童にとってルールが分かりやすく、エリアも自分の目の前でできるので簡単だった。Ozobotでまっすぐに進んだり曲がったりするイメージを覚えてから、ピラー型ロボットで少しエリアを広げて活動するという展開もある。
【第4回】『たこ焼きロボット(オゾボット)を動かしてみよう(1)』
平成29年11月21日(火)第3限:10:45〜11:30
※4回目は中間の公開授業(総務省等のほか、同管区の学校、教育委員会へ案内)とした
■授業の展開
導入: 前時の復習。チャレンジ問題の進め方について復習し、それぞれのグループで、チャレンジ問題に再度挑戦。葉っぱにたどり着けるよう作戦ボードで命令コードを考えること。考えたらシールを貼って、Ozobotの動きを観察し、考えた通りに動いているか考えること。学習意欲を高めるために、上手くゴールにたどり着けたら、報償として葉っぱをもらい、より多く集められるようにチャレンジした。
展開:チャレンジ問題の次は、大きな迷路上で、様々な動きにチャレンジ。Ozobotは命令によって、様々な動きをすることを学習する。ここで、自分のOzobotという意識を高めるために、ピラー型ロボットの学習で各自が描いたピラーちゃんの絵を、3Dプリンタを用いてマスコットに加工。各自、マスコットを載せたOzobotで遊びながら、さまざまな動きのコードを学習した。
最後に、あみだくじ迷路の上で各自のOzobotを走らせ、上手くゴールにたどり着けるか、皆興味津々。
まとめ:Ozobotにどんな動きをさせたかな。友だちと一緒に考えることができたかな。チャレンジ問題や大きな迷路での遊びをとおして感じたこと、考えたことを発表。プログラムするってどんなことか考えることができた。
■公開授業参加者からの意見:本時は中間の成果発表を兼ね、公開授業として活動内容を公開した。
参加者からの意見を以下に記す。
【第5回】『コンピュータ「ビスケット」をうごかしてみよう(1)』
平成29年12月12日(火)第3限:10:45〜11:30
■授業の展開
導入: これまでの学習は、ピラー型ロボットやOzobotロボット等、ロボットに目的の行動を行わせることにあった。今回からは、iPadを用いて、コンピュータの中で対象物を動かすアニメーションの学習である。対象物を動かすためのコンピュータ言語がビスケットである。ここでは、対象物を動かすための基本であるメガネの仕組みについて学ぶ。まずは、確認ボードで、メガネの仕組みを学習する。メガネの左に対象物を置く。次にメガネの右に対象物を位置をずらしておく。このズレが対象物の動きを制御している。上下、左右、斜め右上、斜め左上などいろいろ置く場所を変えてみて、対象のピラーがどのような動きをするか考える。
次に、ピラーちゃんをいもむしらしく動かす方法を考えてみる。メガネにピラーをどう置けばいいか、伸びたピラー、縮んだピラーをどう置くか、動きを変化させる手順を考え、試行錯誤を繰り返す。
展開:自分で描いた絵を動かす。まずは動かす対象物を描く方法を学ぶ。次に、描いた対象物をキャンバスに置いて、メガネを使っていろいろな動きをさせてみる。メガネをたくさん使うといろいろな動きが実現できることを体験的に学ぶ。
まとめ: ビスケットの特徴の一つに、各自が自分のiPadで描いた対象物を、共通のキャンバスで動かすことができる機能がある。この機能を使って画面を共有。児童は自分たちが描いた対象物が様々に動く画面を見て感動。 最後に、メガネの使い方で気づいた事を発表。皆、アニメーションづくりに興味が持て、自分が描いたものが動いたことが嬉しかったようだ。
■授業の課題:
【第6回】『コンピュータ「ビスケット」をうごかしてみよう(2)』
平成29年12月19日(火)第3限:10:45〜11:30
■授業の展開
導入: 前回の反省から、動きを与えるメガネの働きについて分かりやすく説明した。最初はロケットを動かすプログラム。メガネにロケットをどう置けばどう動くか、スモールステップでの説明が行われた。その後、各自がロケットを動かすプログラムを試みた。たくさんのロケットをキャンバスに配置して動かすなど、メガネによるプログラミングの基礎を思い思いに行った。次に、色の変化をどうプログラムするか、赤いリンゴを青くしたり、また、元の赤いリンゴに戻すプログラムについて説明し、各自が色が変化するプログラムの基礎を学んだ。色の変化は星の色の変化の題材でも試みられた。
展開:ビスケットの基礎、メガネを使った動きのあるアニメーションの作り方を学んだあとは、チームで作品作りに挑戦。作品は、「海の世界」と「おばけの世界」。チームで興味のある世界を選んで、各自が、そこの登場する仲間を描く。「海の世界」を選んだチームには、絵を描く参考に、海のなかまたちを紹介するイラスト集が補助教材として与えられた。児童は画作りに一生懸命取り組んだ。同様に、「おばけの世界」でも様々なおばけが描かれた。
まとめ:ビスケットの機能に、各自がそれぞれのiPadで描いた絵や動きを統合する機能がある。この機能を活用して、グループごとに制作した「海の世界」や「おばけの世界」を全員で鑑賞。児童は写真に示す「じょうず」「すごい」「おもしろい」の評価カードをあげて、友だちの作品に歓声を上げた。
作品の発表会を終えたのち、これまでの6回のプログラミング学習のまとめを、指導者である水内先生が行った。
「大事なことは、プログラミングとは、自分の頭で考えたことを、相手に分かりやすく伝えること。ピラーちゃんやオゾボットにどう動けばいいか、動きを教えてあげたのも皆さん自身だ。今日のビスケットによる、作品作りも、皆が考えて作ったもの。自分の頭でどうすればいいか考える。お友達と話し合って協力して考える。こんなことが大事なんだ。 そして最後の課題を連絡。これまで、皆さんはピラーちゃん、オゾボット、ビスケットについて一生懸命勉強しました。皆、頑張ったので、皆さんを私の弟子、ミニ博士に任命します。最後は、このプログラミングの楽しさを、お友達に教えてほしい。1月23日にそんな楽しい「プログラミングランド」を作りましょう。皆頑張ろうね。」
■授業の課題:
【第7回】 『プログラミングランドを使った通常級(2年生)との交流学習:―プログラミングランドを楽しもう―』
■授業の展開
公開授業の前、1月11日に、2年生全員を相手に「プログラミングランド」で繰り広げられるピラーちゃん、オゾボット、ビスケットの各プレイランドの内容を紹介した。2年生は各クラスで、それぞれが、どのプレイランドで学習するかを事前に決め、当日の活動を行った。
(1)ピラーちゃんゾーン 担当の児童がミニ博士になって、通常級2年生のお友達にピラーちゃんの動かし方、課題解決の方法(目的の葉っぱの位置までピラーちゃんを連れていくプログラムを考える)を教え、通常級のお友達が課題解決に取り組んだ。各グループのミニ博士は、ゴールへ達成したかの判定をし、上手くゴールにたどりつけたら、ご褒美の葉っぱを達成ボードに貼って、各グーループで達成状況を競わせた。葉っぱやりんごなどの果物の配置を、単純なものから複雑なものへと、課題レベルをあげていった。
(2)オゾボットゾーン
担当の児童がミニ博士になって、通常級2年生のお友達にOzobotの動かし方、Ozobotのチャレンジ問題のやり方を教え、通常級のお友達がチャレンジ問題に取り組んだ。各グループのミニ博士は、Ozobotが上手く迷路を通り抜け、ゴールへ達成したかの判定をする。上手くゴールにたどりつけたら、ご褒美のスタンプをあげた。単純なものから複雑な問題へと課題レベルをあげ、報償としてのスタンプ集めが、グループの課題達成の動機づけとなった。
(3)ビスケットゾーン
担当の児童がミニ博士になって、通常級2年生のお友達にViscuitでのプログラミングを指導。まずはお絵かき。次にメガネを使ってどう動かすかをパワーポイントでじょうずに説明。説明後は、各グールでお絵かきと、書いたものを動かすプログラミングに挑戦。最終課題は、グループで楽しい動きのある作品を作ること。グループごとにミニ博士が、親切に教えてあげていた。
■まとめ
ミニ博士が司会役になって、プログラミングランドの感想を聞いた。2年生からは、「ピラーちゃんを最初は上手く動かせなかったけど、友だちと相談して上手く動かすことができて嬉しかった」「オゾボットに右や左と教えるのが大変だったけど、頑張ってゴールにたどり着けたのが嬉しかった。」「ロケットの動かし方で、ミニ博士のルールの説明が分かりやすくて上手くできてとても嬉しかった。」「ピラーちゃんは最初は簡単だったけど、どこを通るかだんだん頭をつかいました。」「ビスケットで動かすのに頭を使って、やってみるとできたのでとっても勉強になりました。」「ビスケットで絵を作って動かすのはとても楽しかった。」等など、うれしい意見が沢山聞けて、ミニ博士たちもとっても満足そうであった。最後に、ミニ博士たちからは、博士と一緒にこんな勉強をもっとしたいという声が聞かれ、プログラミング教育の実証実験授業が無事終了となった。
プログラミングランドでの活動の振り返り
参加した2年生から、ミニ博士たちにとってうれしい意見がたくさん聞けた
(1)児童生徒
1 実証校の校長
2 教育委員会ならびに参観した先生
実証校の富山市立芝園小学校は、知的障害、自閉症・情緒障害、肢体不自由、病弱、難聴の5つの障害に対応した特別支援学級を持つ県内唯一の学校である。富山市教育委員会も、そこでのプログラミング教育の実施に期待を持つと同時に、その成果を、広く富山市内の学校で共有したいとの思いで本実証事業が始まった。中間、最終の公開授業はもとより、折々の授業時に、富山市教育長、教育委員会指導主事、教育センター研修担当者が実際の授業を参観し、プログラミング教育に関する具体の教材や、その指導法を高く評価された。今後は、富山市でのプログラミング教育推進のための研修に活かしていきたいとの意見も聞かれ、本実証事業のカリキュラムや教材の開発を行った、富山大学、富山県教育工学研究会との連携が深まった。
また、メンターの育成に関しては、社会人の学び直しを推進している富山インターネット市民塾と連携し本事業を進めた。富山インターネット市民塾で活動する社会人の中には、今後もこのような活動を行っていきたいと考える方も相当数おられ、本事業がそのような人材発掘と育成に大いに役立った。地域人材の活躍の場の一つとして、今後も連携を取って活動していきたい。
参加したメンターからは、本事業に参加して、プログラミング教育に関する教材やその指導法に関して勉強する機会を得て大変いい勉強になったとの意見が多く聞かれた。本事業では、将来教員になる勉強をしている学生と社会人との両方でメンター育成を行ったが、学生メンターにあっては、児童理解、特に障害ある児童への対応に関する講義を大学で受講していることもあって、授業時の児童への対応や児童の行動を考えた教材づくりなどが大変上手にできた。
以下は、実証事業後のメンターの意見である。
本事業では、障害のある児童にプログラミング学習を行うことで、論理的思考が育つことと同時に、認知面や発達の諸側面においても良い影響があるという仮説を持って実証授業を行った。
今日、障害は、WHOのICF(生活機能分類)という枠組みで考えられる。つまり、障害があるから生きづらいのではなく、その人の生活機能は本人の心身機能や身体構造、活動状態、参加の状態、そしてその人の個人因子やその人をとりまく環境因子などが相互に影響しあって決まるものと考えられている。
この考えのもとに、今回の実証授業を、特別支援の必要な子どもに行うということを考えてみると、今回使用したプログラミングツールで教育に取り組むことは、認知能力、特に実行機能に影響を与える事が考えらる。また本授業を通して自分の思い通りの表現やゲーム製作などができ、他者からも褒められることで自己有能感にも作用することが予想される。このような直接的な影響だけでなくそこから派生して、子どもの支援レベルや社会生活能力などにも少なくない影響を与えることが予想された。
そのようなことから、今回の実証事業で、児童にとって直接的に寄与すると推測される、論理的思考力であるプランニング、そして児童自身の自己有能感(コンピテンス)について、実証授業の前後において評価を実施した。
その結果、障害の種類や程度、学年がバラバラなため一概には言えないものの、以下の可能性が示された。
1 心理面での評価:コンピテンス
本人による自己評価は、運動領域以外は、事前事後変わらず総じて高い。
→プログラミング教育に係る本実証モデルは児童にとって新規であり、知的好奇心を喚起した。
2 論理的思考の評価:プランニング(DN-CASにおける「文字の変換」)
事後の得点が有意に高い。
特に、回答方略で一番効率的な方略「斜めに変換」を使うものが事前は2名のみだったが、事後は7名と増加。
→プログラミング教育に係る本実証モデルはプランニング能力を高めた。
1 事例1 B児(2年生・軽度知的障害)
〈事業前の児童の実態〉
○主訴
・ほとんど個別指導が必要
・集中の持続困難
○支援する上で留意すること
・思いが強く、他者が見えない
○自立活動の目標
・自己の理解と行動の調整
○プログラミング活動における目標
・他児と話し合って問題解決をする
<1回目の様子>
ピラーちゃんの問題に取り組む際は、自分の思いついた方法があるとペアの友達に確認することなく勝手に活動に取り組む姿が見られた。
話を聞くときにも、落ちついて話を聞くことが難しく、早く活動したい!という思いが強かった。
<2回目以降〜現在>
ペアの友達と話し合い、相談してから、問題に取り組むことができるように、作戦ボードや確認ボードを用いた。まずはそのボード上で作戦を考える活動を取り入れたことで、自分の思いをペアの子に伝える手段ができ、しっかりと相談して活動を進める姿が見られた。
問題をクリアした際にも、ペアの子とハイタッチをして喜ぶ姿が見られ、自分1人でなく、友達と協力してクリアしたという気持ちが表れていた。
教師が、相談する際の言葉を視覚的に示すことでペアの友達と「いい?」「いいよ。」というやりとりをする姿が見られた。
話を聞くときも、自分からタブレットを離すなどして、ハカセの方を向いて落ち着いて話を聞く姿が多く見られるようになった。
2 事例2 M児(2年生・難聴)
〈事業前の児童の実態〉
○主訴
・他者とのコミュニケーションが苦手
○支援する上で留意すること
・自分の思いを話すのが苦手
○自立活動の目標
・他者とのコミュニケーション
○プログラミング活動における目標
・他児と話し合って問題解決をする
<1〜5回目の様子>
実践授業が始まった当初は他の児童が活発に発表する中、挙手する姿は見られなかった。
自分の思いがあってもなかなかペアの子にその思いを伝えることができず、満足できないまま授業を終えて泣き出してしまう回もあった。
<6回目以降〜現在>
第6回のViscuitの授業では、1人1台タブレットを使ったこともあり、満足のいくまで活動を行なうことができた。その結果、最後の発表の時間では自ら挙手し、感想を述べる姿が見られた。(初めて!)
「プログラミングランド」(本時)に向けての準備や練習の時間では、自信を持って説明をする姿が見られ、同じグループの友達とも協力して活動に取り組んでいた。
学生メンターに対しても、よく話しかけてくれるようになり、担任の先生だけでなく、自分の思いを伝える場面が増えた。
1 シンプルな応答環境
児童にとって、アクションに対する外界の反応が目に見える形で分かる学習環境が、学びを促進するという「応答する環境」モデルをふまえ、ロボット教材として、ピラー、Ozobot、また、アニメーション教材として、Viscuitを用いた学習活動をデザインした。いずれもシンプルで反応が即時目に見える。児童アンケート「楽しかったことうれしかったこと」で、参加者全員が「ピラー、Ozobot、Viscuitが自分の指示通りに動いたこと」をあげたことで、本学習教材の有効性が示された。
2 コミュニケーションと協働作業能力を育むグループ学習
すべての活動において、障害及び学年を考慮した2または3人からなるグループで課題解決を考える状況を設定した。戦略ボード、作戦ボード、確認ボードを共有し、課題解決方略を相談しながら考えることで、コミュニケーションや協働作業の力が育成されると考えた。T2の教員や学生メンターの「友だちとよく相談して考えてみよう」の言葉がけもあり、上記同様、ほとんどの児童が「友だちと一緒に相談しながら取り組んだこと」が「楽しかったことうれしかったとこと」と回答したことからも、グループ学習の効果が明らかになった。
3 論理的思考力、問題解決能力の育成を意図した戦略ボード等
思考を可視化するツールとして、それぞれの教材に対応して、戦略ボード、作戦ボード、確認ボードを準備した。論理的思考力、問題解決能力の育成には、PDCAサイクルを回すことが重要との考えのもと、P(プラン)で課題解決の方法を考え、D(実行)で考えたプランを実行し、C(チェック)で課題を上手く解決できたかの検証評価し、A(アクト)で改善、再度の計画という手順で学習を進めた。ここで、思考を可視化するツールとして、それぞれの教材に対応して、戦略ボード、作戦ボード、確認ボードを準備した。認知能力検査のプランニング成績で、事前事後で顕著な違いが見られたことは、これらのボードを用いたPDCAサイクルでの学習活動が、論理的思考力、問題解決能力の育成に効果的に働いたと考えられる。
4 自己有用感を育てる他者に教える活動:Teaching is best learning
本実証研究では、児童が博士にプログラミングをいろいろ教えてもらうという状況で学習が進められた。最後の活動では、それらを学習した児童が、今度はミニ博士となって通常級の友だちに教えるという状況を設定した。「Teaching is best learning」と言われるが、ミニ博士となって友だちに教えるという状況設定で、指導者としての児童は、より学習内容をしっかり理解しようとする姿が見られると同時に、通常級の友だちに教えるという活動が自己有用感をもたせる結果につながった。
前述したように、本事業では、大学で将来教員になるための勉強をしている学生メンターとリタイヤ後、新たな生きがいづくりと社会貢献をしたいと学び直しにチャレンジしているシニア世代と家庭にあって学校支援人材として役立ちたいと言う思いのある保護者などからなる社会人メンターの2種類のメンター育成を試みた。学生メンターにあっては、児童の理解や児童の特質に応じた指導法などの基礎知識や技術を大学で学んで、メンターとしての力量に比較的ばらつきが少ない。しかしながら、社会人メンターにあっては、これまでの社会経験の差異が非常に大きい。IT企業に長年勤めてプログラミング技術は専門家レベルであっても、学習への動機づけや児童の質問への対応など、児童の特質に対応した学習指導力という観点では問題も大きい。児童の理解、特に障害に対応した対処法などを中心に、それぞれのキャリアに応じたメンター研修のあり方を考えることが課題である。
以下、メンター経験者が授業での課題としてあげた意見である。
今回は、対象児の実態から、3通りの教材を2回ずつ実施し、その効果や可能性を検証した。ピラー、オゾボット、ビスケットと、どの教材も、障害ある児童にとって効果的な学習教材であったが、それぞれの教材について、よりスモールステップで、基礎から発展と展開できるカリキュラムがあっても良い。特に、オゾボットでは、多様なコードを活用した問題解決能力育成への展開、ビスケットでは、ストーリのある表現活動や、そこでの役割分担による協働作品作りなど、時間をかけて作品作りに取り組むカリキュラムの開発も今後の課題である。
富山県教育工学研究会の会員には、地域の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校及び教育委員会の指導主事などが多い。日頃から、これら会員のための授業づくりや指導法に関するワークショップの開催、地域の児童のための体験型プログラミング教室などを開催してきた。教育委員会等との連携もあり、本実証事業の成果を普及啓発する環境は整っているので、継続実施の可能性は高い。
本事業でメンター育成の連携を取った富山インターネット市民塾は、地域人材の学び直しや地域人材の生きがいづくりのための活動を20年にわたって行ってきた団体である。ここでは、リタイヤ後の生きがいづくりとして地域活動に取り組む多くの高齢者、家庭で子育て中で、時間的制約はあるものの何か地域のために活動したいという思いのある地域人材などもいる。これらの地域人材を中心に、地域でのプログラミング教育の対するメンター活動の普及啓発を行うことで、より多くのメンター育成が図られる。
ピラー、オゾボット、ビスケットの教材からなる指導カリキュラムは、上述したように、シンプルで児童にとって分かりやすい教材である。児童にとって学習をすすめる上で手がかりになる、開発した学習支援教材も誰でもが手軽に利用できるよう、教材、学習指導案とともに、全て、富山県教育工学研究会のホームページで公開するので、興味関心のある学校・地域で継続実施がいつでもできる状況にある。
メンター育成で連携した富山インターネット市民塾は、富山県内の生涯学習団体として、活動を広く県内全般で行ってきている。その活動の目的は地域課題解決のために自らの経験や技術等の能力を活かそうとする地域人材の育成である。学校教育でのプログラミング教育の実施にあたり、それを支援するメンター育成も今後の学び直し課題の一つである。今後メンター育成を図ろうとする他の教育委員会等があれば、富山県教育工学研究会、富山インターネット市民塾の連携のもとに本成果の横展開が十分可能である。
本事業の成果としての、教材、学習指導案、学習支援教材は、全て、富山県教育工学研究会のホームページで公開する。また、これらの教材を活用したプログラミング教育の進め方に関する教育委員会主催の教員研修や学校での校内研修等の希望があれば、可能な限り対応し、成果の横展開を図る。
また、これらの研修を通じて、現場教員の意見を入れながら、今後も、教材とその指導法に関する改善を行っていく計画である。
富山県教育工学研究会は、広く県内の学校教員を対象とし、現代的教育課題に対応した授業づくりなど、教員の指導力向上のための研修、授業づくりに関する情報共有を行っている研究会である。従前同様、今後とも県内教育委員会と連携し、普及啓発のためのワークショップ、シンポジウム等の研修会を定期的に開催する計画である。
本実証事業に用いた教材及び開発人件費等は以下のとおりである。
実施にかかる経費 総額 4,170,000円(数値は概算)
注:活動は一人一台及びグループ学習の両方で行った。一人一台学習時に不足した教材は、富山県教育工学研究会の教材を貸与して活動を行った。
授業:プログラミング学習全6回(うち一回中間公開授業)+通常級との交流学習3回(うち一回最終公開授業)
対象となった障害ある児童:13人
交流授業で参加した通常級の児童:33人
参加児童の延べ人数: 13×9+33×3 = 216人
児童生徒ひとりあたりのコスト:総コスト4,170,000 / 参加児童の延べ人数 216 = 19,300円
(100円未満は切り捨て)