第V章 上限価格方式の運用の在り方

第3節 特定電気通信役務の種別
    (バスケット、サブバスケット)

  1. 概要

    (1) 法の趣旨
     新しい料金制度においては、上限価格方式として、基準料金指数を特定電気通信役務の種別ごとに定めることとしているが、これは、利用者層や競争の進展状況が異なるサービスの間で、一方のサービスの利用者の負担によって他のサービスの料金を不当に値下げすることにより特定の利用者を優遇したり、競争事業者を排除することを防止するためである。
     特定電気通信役務の種別は、電気通信役務の種類や態様に応じて定められ、それぞれの種別ごとに適正な原価や物価等を考慮し、適切な料金水準である基準料金指数が定められることとなる。

    ※ 電気通信事業法
    第31条第3項
     郵政省令で定める特定電気通信役務の種別(第9条第2項第2号に規定する郵政省令で定める区分を更に細分した区分による電気通信役務の種類及び態様の別をいう。以下この項において同じ。)ごとに、通常実現することができると認められる水準の料金…を料金指数により定め…
    第9条第2項第2号に規定する電気通信事業法施行規則で定める区分
    音声役務 概ね4キロヘルツ帯域の音声その他の音響を伝送交換する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であつてデータ伝送役務以外のもの
    データ伝送役務 専ら符号又は影像を伝送交換するための電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
    専用役務 特定の者に電気通信設備を専用させる電気通信役務
    (2) 基本的な考え方
     特定電気通信役務の種別を設定する趣旨は、上記のとおり利用者間の公平性の確保や競争制限的な内部相互補助を防止することにあるので、実際の種別の設定を考える場合には、現実の利用者層、競争の進展状況等を勘案して、検討する必要がある。
     ただし、種別を必要以上に細分化すれば、事業者が価格弾力性等に応じた戦略的な料金設定を行うことを制約することとなり、事業者の積極的な事業展開や料金の多様化といった上限価格方式導入の利点を損なうことにもなりかねないので、この点に留意する必要がある。
     なお、一つの役務を対象とした種別(バスケット)の中でも、料金体系や競争状況の違いを踏まえ、必要に応じてより細分化した種別(サブバスケット)を設けることが適当であると考えられる。
     また、特定電気通信役務の範囲と同様、種別の設定についても、現実の市場における競争の進展状況やサービスの普及状況に応じて柔軟に見直していく必要がある。

  2. バスケットの在り方

    (1) 電話サービスとISDNサービス
     電話サービスとISDNサービスについては、現時点では完全に相互に代替的なサービスとまではいえず、ISDNの利用者数は電話の利用者数の約4%であること等から、電話サービスとISDNサービスは別のバスケットとすべきとも考えられる。
     しかしながら、ISDNサービスは今後電話サービスに代わり基本的なサービスとなることが期待されるサービスであり、利用者層もほぼ同様であることを考えると同一のバスケットとすることが適当であると考えられる。このことは、参入許可において役務区分の簡素化の観点から電話サービスとISDNサービスをともに音声役務とした趣旨とも合致するとも考えられる。
     なお、将来的にISDNサービスが電話サービスに匹敵するサービスに成長したあかつきには、利用者層や競争状態の相違等を踏まえ、別のバスケットとすることにつき検討することが求められる。

    (2) 専用サービス
     専用サービスについては、電話・ISDNサービスと比較し、利用者層が企業ユーザー中心であるとともに、地域通信市場における競争事業者が主に専用サービスの提供を中心に事業展開を行っていることから、企業・大口ユーザーの優遇防止や公正競争条件を確保するため、電話・ISDNサービスとは別のバスケットとすることとする。

  3. サブバスケットの在り方

    (1) 加入者回線設備(端末系伝送路設備)を用いて提供されるサービス
     電話・ISDNサービスのうち加入者回線設備を用いて提供されるサービスについては、NTT以外の事業者が加入者回線を設置することは容易でなく、市内通信や県内市外通信に比べ、独占的に提供されていることから、加入者回線設備を用いて提供されるサービスを独立した種別とし、その料金である基本料や施設設置負担金に対して基準料金指数を設けることが適当であると考えられる。
     他方、これに対しては、加入者回線設備を用いて提供されるサービスにサブバスケットを設けることは、事業者の料金設定の自由を現行制度以上に制約するため望ましくないとの反論が予想される。
     これについては、認可制は個々の料金額そのものの適正性を行政が審査するのに対し、上限価格方式はある種別全体の料金水準が上限価格を超えていない限り料金設定が自由となるため現在より料金体系の自由度は高まること、また、市内通信サービスや県内市外通信サービスの分野では、競争が出てきているところもあるため、むしろ加入者回線設備を用いて提供されるサービスと市内通信サービスや県内市外通信サービスとの間の内部相互補助を防止する必要性が高まっていることから、加入者回線を用いて提供されるサービスについてサブバスケットを設けることが必要であると考えられる。
     また、市内通信サービスについても、サブバスケットを設けて不当に高額な料金設定を防止すべきとの意見もあるが、これについては、一部の地域においては、市内交換機接続により一定の競争が出てきつつあることから値上げの可能性は低いこと、また、料金設定の多様化を促進することが望ましいことから、現時点においては、サブバスケットを設ける必要はないと考えられる。

    (2) 近距離専用サービス
     県内専用サービスの中でも中長距離のサービスは中継系事業者等により一定の競争の進展が見られるのに対し、第二種電気通信事業者や中継系事業者の足回りとなる近距離専用サービスは競争が不十分であり、近年では値上げも行われているため、県間サービスも含めた専用サービス全体の料金低廉化を促すには上記(1)と同様、近距離専用サービスを対象とするサブバスケットを設けるべきとの指摘がある。
     しかしながら、今後、接続ルールの運用の中で、中継系事業者が足回りとして利用する近距離専用サービスについても、接続料金により調達することが可能となること、また、企業・大口ユーザー向けの近距離専用サービスの提供については、NCCも積極的に事業展開を行っており、電話・ISDNの加入者回線設備を用いて提供されるサービスと比べて競争がある程度進展してきていると思われることから、当面サブバスケットを設ける必要はないと考えられる。

    ※ 近距離専用サービス契約回線数シェア(30Kmまで、平成9年度末)
    一般専用 NTT:NCC = 99.9 : 0.1
    64kbps  NTT:NCC = 97.1 : 2.9
    1.5Mbps  NTT:NCC = 63.8 : 26.2
    (3) 一般専用サービス
     一般専用サービスについては、高速デジタル専用サービスに比べて競争が進展していないため、一般専用サービスを対象とするサブバスケットを設けることが適当であるとも考えられる。
     しかしながら、一般専用サービスと高速デジタル専用サービスとの間には代替性があるとともに、現在一般専用サービスは赤字であるため内部相互補助による高速デジタル専用サービスの料金の不当な料金値下げの可能性は高くないと考えられることから、必ずしもサブバスケットを設ける必要はないと考えられる。
    ※ 一般専用サービス契約回線数シェア(県内、平成9年度末)
    NTT:NCC = 99.8 : 0.2
    (4) 番号案内サービス
     番号案内サービスについては、第2節2(2)で述べたように値上げが行われていることから、サブバスケットを設ける必要があるとの意見がある。
     しかしながら、番号案内サービスについては、値上げによって収支相償が図られること、将来的には競争の進展が見込まれることから、今後の料金の推移を見守ることとし、当面サブバスケットを設けないことが適当であると考えられる。
     ただし、月々一定回数以内の番号案内サービスの利用についてはユニバーサルサービスに該当するという考えもあり、今後の利用実態を踏まえ、将来的に見直しの検討を行うことが必要であると考えられる。
    ※ 英国ではBTの番号案内サービスは基本料、通話料と同じバスケットに入っていた。
    (注) ただし、番号案内料を含む個別料金の年間値上幅をRPI+2%以下とするサブキャップをかけていた時期がある。(1993.8〜1997.7)
  4. 特定電気通信役務の種別に関する具体案

     以上の検討を踏まえると、基準料金指数の設定対象区分である特定電気通信役務の種別は以下のとおりとすることが適当と考えられる。




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