マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金に関する研究会 報告書
第一部 マルチメディア時代の料金について

第4章 接続料金の在り方

 1 接続料金の在り方

 2 接続料金の原則

 3 接続料金の算定方法の検討

 4 具体的方策






第4章 接続料金の在り方



1 接続料金の在り方


 料金の低廉化とサービスの多様化は、多元的な競争主体によるダイナミズムのあ
る競争を通じて実現されるものであるが、これはマルチメディアのネットワークに
ついても同様である。
 我が国では、NTTが地域通信網を事実上独占する構造の中で、NCCは競争相
手であるNTTと接続しなければサービスを提供できないという特異な市場構造に
なっており、接続の条件を適正なものとすることが、事業者間の公正有効競争を確
保する上で極めて重要である。
 また、接続料金は、ユーザ料金における原価の主要な要素であり、接続料金の体
系・水準はユーザ料金にも大きな影響を与えるものである。
 さらに、マルチキャリア化が一層進展すれば、他の事業者との多様な接続を通じ
てサービスが提供されるようになることから、接続料金の重要性は、今後ますます
高まるものと考えられる。

(表3 長距離系NCCのNTTへの接続費用(電話:平成6年度))

電話収入(*1) NTTへの支払費(*2)
長距離系NCC3社
第二電電(株)
日本テレコム(株)
日本高速通信(株)
6,284 億円 3,103 億円
(3社の電話収入に占
めるNTT支払費の
割合→ 49.4%)
*1:相互接続通話料を含む。
*2:相互接続通話料、IGS(相互接続用関門交換機)使用料、LS
 (加入者交換機)・TS(中継交換機)改造費、ID(利用者識別信
 号)工事費の合計。













2 接続料金の原則


 公正かつ有効な競争を確保するため、接続料金は以下の原則に基づいて定められ
ることが必要である。

a. 効率的な運営の下におけるコストに基づくものであること(低廉な接続料金)
  接続料金は、効率的な運営の下における接続に要するコストを適切に反映する
 ものであること

b. 客観性
  接続料金は、その算定の根拠も含め、客観的に外部から評価可能なものである
 こと

c. 無差別性
  全ての利用者に対して、同じ条件で接続を認めること

d. 多様な接続を可能にするものであること(アンバンドル化された接続料金)
  ネットワークの機能を細分化し、これら細分化された機能を接続しようとする
 事業者が自由に選  択し、組み合わせて利用できるように、設備の構成要素や機能
 ごとに細分化(アンバンドル化)された料金であること














3 接続料金の算定方法の検討

 

(1) 現在の算定方法

 NTTの地域通信網への接続に関する接続料金は、現在、毎年の決算値に基づ
き減価償却費、営業費等の費用を配賦することにより算定されている。
 この方法の下では、被接続事業者にとっては発生したコストの確実な回収が可
能であるが、一方、被接続事業者による恣意的な費用の配賦が防ぎにくいほか、
有効な競争の存在しない場合、当該事業者の非効率性を排除することが困難であ
るとの指摘もなされている(注)。
 このため、接続料金の算定方法に関し、近年、諸外国において検討されている
増分費用に基づく算定方式の適用の可能性について検討することが必要である。
(注) 例えば、長距離系NCCとNTTとの間の接続料金については、費
  用の範囲に関し、多くの費用項目について両者間の協議が行われてい
  る。
 

(2) 増分費用算定方式

 増分費用算定方式は、接続によるトラフィック増に伴う設備費や営業費等の増
加分に基づいて、接続料金を算定する方式である(注1)。
 増分費用は事業者に対し、効率的な参入のメルクマールを提供する(新規事業
者がサービスを提供するに当たり、自ら必要な設備を設置する場合のコストと、
 他事業者に接続する場合に追加的に必要となるコストとを比較し、より低廉なも
のが選択される結果、市場全体としてみても、よりコストの少ない、効率的な参
入が実現される)ものである。また、十分な競争が存在する市場においては、長
期的にみれば、接続料金は増分コストに収れんする(増分収入(接続料金)が増
分費用に近づく)ものと考えられる(注2)。
 しかしながら、増分費用算定方式には、増分費用を具体的にどう算定するか、
また、増分費用に基づき接続料金を算定する場合、共通費が賄えない等の問題点
が存在することから、これらの問題について、今後さらに検討することが必要で
ある。

(注1) 増分費用の定義について一致した見解はないが、例えば過去の
   FCC決定においては、「追加的なサービスを提供するために必
   要となる投資及び経費の増分の総額」をいうものとされている。
(注2) OECDレポート(1995年5月)
   「理論的には、極めて競争的な市場において、多様な相互接続
   が行われれば、相互接続料金は、事業者の競争の中で増分コスト
   に近づくものと考えられるので、相互接続料金は相互接続を提供
   するために必要な増分コストに基づいて定められるべきであ
   る。」













4 具体的方策

 

(1) 接続料金の算定方式の検討

 現在、NTTは地域通信網を事実上独占しており、競争原理が十分働いていな
いことから、その効率化を図り、低廉かつ公正な接続料金とすることが重要な課
題となっている。このため、増分費用に基づく料金算定の検討が必要であると考
えられる。
 この際、前述したように、増分費用算定方式を導入するにあたって以下のよう
な検討課題が存在することから、これらについて十分検討する必要がある。

 a. 共通費の負担

   増分費用算定方式による場合、共通費が賄えないという問題点がある。こ
  のため、共通費の負担に関し、費用項目を詳細に分析した上での一定のマー
  クアップ(費用配分)の検討が必要である。


 b. 増分費用の具体的な算定
  増分費用の具体的な算定については、現在、英国のOFTEL(Office of
  Telecommunications:電気通信庁)において以下のような検討が行われて
  いるところである。

   すなわち、費用算定の基礎となる原価については、実際発生原価(Historical
  Cost)ではなく、将来見込原価(Forward Looking Cost)を用いて算定すること
  とされており、また、将来見込原価に基づく費用算定の方法として、トップダウ
  ンモデルとボトムアップモデルの2つのアプローチが検討されている(注)。
   将来見込原価に基づく費用算定は、接続サービスを提供するために発生する
  コストをよりよく反映するものであり、また、ボトムアップモデルによる算定
  は被接続事業者における現在の非効率性を排除する上で有効と考えられるが、
  一方、こうしたモデルの構築には相当の時間と労力を要するものと考えられる。
   我が国において増分費用算定方式について検討を行う場合には、こうしたO
  FTELでの検討も参考にしつつ行われることが望ましい。

   (注)
    ・ 実際発生原価(Historical Cost)
      事業者の過去の実績値の積み上げに基づいて算定(資産評価の基準は取
     得時の費用)
    ・ 将来見込原価(Forward looking Cost)
      時価(資産評価の基準は資産の再取得価格)に基づき将来の見込原価を
     予測
    ・ トップダウンモデル
      被接続事業者が実績値に基づき、将来の増分費用を算定するもの
    ・ ボトムアップモデル
      効率的なネットワークモデルを被接続事業者、接続事業者、行政機関等
     の関与の下で客観的に設定し、その下で将来の増分費用を算定するもの
 

(2) 接続料金のアンバンドリング及びタリフ化

 マルチキャリア下においては、NTT地域通信網のようなネットワークへの接
続が不可欠な設備を有する事業者による恣意的な共通費の割り当てによるコスト
と大幅に乖離した料金の設定を防ぐとともに、多様な形態での接続を確保するこ
とが重要であることから、アンバンドルされたネットワークの機能別に適切なコ
ストベースで接続料金を設定することが、接続料金の透明性、客観性を向上させ
るとともに、不合理なコスト配賦を避ける上で重要である。
 また、迅速な接続の実現及び透明かつ無差別な接続条件を確保するため、接続
条件の料金表・約款化が必要である。
 

(3) 接続に関する会計基準

 現在、NTTでは、ユーザ料金の算定に用いる電気通信役務別の費用配賦基準
を準用して接続料金を算出しているが、上記のとおり、費用配賦にあたっては接
続事業者との公正な競争条件の確保が不可欠であり、例えば、ユーザ料金の配賦
基準による場合、接続に無関係なコストまで接続料金に含まれうることは公正有
効競争上の大きな課題となっている。
 このため、接続費用の適正な配賦を確保するとともに、費用配賦の適正さを接
続事業者が容易に判断できるようにするため、接続に関する会計基準を国が定め、
接続に関する会計の開示を義務づける必要がある。
 

(4) 事業者間精算方法の簡素化

 現在、接続料金は利用者に対して料金を設定する事業者とその他の接続事業者
との間で個別に設定されているが、その精算には多様な方法がとられており、精
算に要する事務が煩瑣なものとなっている。こうしたことから、迅速な接続の実
現を図り、効率的な精算を行う観点から、精算方法の簡素化について検討する必
要がある。