マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金に関する研究会 報告書
第一部 マルチメディア時代の料金について

第5章 当面の課題

 1 インターネット

 2 パソコン等の情報通信機器の法定耐用年数の適正化






第5章 当面の課題


1 インターネット

(1) 現状

 第1章「ニーズの動向」で述べたように、コンピュータのダウンサイジングや
電子メール、グラフィカルな情報検索等のアプリケーションの普及等に伴い、イ
ンターネットの利用が急増している。インターネットは、元来、米国の政府関係
機関や大学のコンピュータ相互間のネットワークとして発展してきたものである
が、商用ネットワークからの接続の開始等を契機として利用者が急増し、全世界
的に急速に普及してきている。
 我が国でも、平成4年に第二種電気通信事業者がインターネット接続サービス
の提供を開始して以降、WWWサーバへのアクセスを容易にするアプリケーショ
ンソフト(ブラウザ)の普及ともあいまって急速に普及しており、現在、多数の
サービスプロバイダ(以下、「プロバイダ」という。)によって多彩な料金体系、
料金水準の下でサービスが提供されている。

(表4 プロバイダ数の推移)
                 (単位:社)
年度末 平成5年度 平成6年度 平成7年度
事業者数 11 38 506
(郵政省調べ)



(2) 課題

a. 内外価格差

 プロバイダがバックボーン等として利用する回線コスト(専用線)の料金格
差やユーザ数の多寡によるスケールメリットの格差、人件費、賃借料等のその
他のコスト格差等を要因として、インターネットの利用コストについて、米国
との間で大きな価格差が生じている。
 サービス品質が異なるため料金水準の厳密な比較は困難であるが、米国との
比較では、企業利用の場合(専用線アクセス)には概ね4〜6倍、個人利用の場
合(電話網アクセス)には概ね3〜9倍の価格差が生じている状況にあるため、
現状では個人が安心して長時間の利用ができる料金水準とは言い難く、また、
インターネットを利用する日本企業の中には米国にホームページを設置する事
例も出てきている。
 こうしたことから、インターネットの料金やインターネットへのアクセス料
金に関する内外価格差の縮小が大きな課題となっている。

1) 料金の基本的な構成

 一般に、インターネットを利用する場合の料金は、インターネッ
ト接続サービスを提供するプロバイダが設定するサービス料金と、
ユーザ宅から同プロバイダが設置するアクセスポイントまでのアク
セス料金(電話料金等)とに大別される。

(図12 インターネット料金の日米比較)
電話料金(又は専用料金)+ サービス料金  
(NTT等への支払い分)   (プロバイダへの支払い分)





2) 日米比較 ・・・ 電話網を介して月40時間利用する場合


電話料金インターネット サービス料金
定額料金従量料金
日本8,000円(NTT)(A社)2,000円60,000円70,000円
(B社)1,667円-----9,667円
(C社)9,000円5,400円22,400円
米国3,200円(NYNEX)(D社)2,900円 2,000円8,100円




b. 第一種電気通信事業者からの回線提供の遅延

 利用者数の急増や画像系情報の利用増等によりインターネットのトラフィッ
クが急増しているため、プロバイダではアクセスポートやバックボーン及び
ルータ等のネットワーク設備の増設が喫緊の課題となっている。しかし、回線
設備の増設を行う際、第一種電気通信事業者からの高速デジタル専用サービス
や一次群速度インタフェースのISDN等の回線の提供に著しい遅延が発生し
ており、申込みから開通までに1年以上を要する場合もあるなど、プロバイダ
による回線増設やアクセスポイントの増設等に支障を来している状況にある。




(図13 プロバイダのネットワーク構成(例))




c. アクセスポイントの偏在

 現在、インターネットへの接続サービスを提供するプロバイダのアクセスポ
イントは、大都市圏を中心として都市部に集中しており、例えば利用の主流に
なりつつある28.8kbpsや64kbpsのアクセスポイントは、多いプ
ロバイダであっても全国で30箇所程度に止まっている。
 このため、地方の利用者がこれらプロバイダのサービスを利用する場合には
多額のアクセスコスト(NTT等の第一種電気通信事業者に対して支払う通信
料金)を負担せざるを得ないことから、インターネットの利用において地域間
格差が生じている状況にある。




(図14 都道府県別のアクセスポイント数)







(3) 提言

a. 内外価格差の縮小

 インターネットはマルチメディアサービスの中核ともなることが期待され、
その利用の振興を図るためには、料金の内外価格差を縮小し、一層の低廉化を
図る必要がある。
 料金の低廉化は基本的に競争の一層の促進と事業者の合理化努力によって実
現されるものではあるが、プロバイダのコストのうち、第一種電気通信事業事
業者に支払う専用サービス料金等の回線コストはプロバイダ自身の合理化努力
では削減困難な要素であり、プロバイダのコストの大きな部分(事業者によっ
て異なるが、概ね3〜5割)を占めている。また、専用サービスの料金自体大
きな内外価格差があることから、インターネットの利用コストにおける内外価
格差を縮小する上で回線コストの削減、すなわち専用サービス市場の競争条件
の整備を通じた競争の促進が最も重要である。また、第一種電気通信事業者に
おいては、以下のように国内専用及び国際専用サービスの低廉化、多様化等を
図ることが望まれる。


(表5 プロバイダのコスト構造)
項目E社F社G社
人件費25%29%30%
減価償却費(注)9%16%10%
回線費用
   国内専用線等
   国際専用線
23%
14%
9%
31%
11%
18%
40%
18%
-
地代・家賃7%7%6%
その他36%17%14%
100%100%100%
(出典:各社からのヒアリングによる。数値は平成7年度見込み値。)





(図15 専用サービスの内外価格差)





ア   専用サービスにおけるエコノミーサービスの拡大

 従来の専用サービスは、監視機能やバックアップ回線が予め用意された品
質の下で提供されてきたが、専用サービスの品質に対するニーズの多様化や
低廉な料金ヘの要請の高まりの中で、監視機能等を簡素化したエコノミー
サービスが提供されている(注)。
 現在のところ1.5Mbpsについてのみ提供されているが、エコノミー
専用サービス料金の一層の低廉化を図るとともに、ユーザニーズに対応し、
その他の品目における同サービスの提供が望まれる。

(注) 東京〜大阪間の場合(NTT:1.5Mbps)
・ 通常品質 ・・・・・・ 1,502 千円/月
・ エコノミー ・・・・ 1,106 千円/月(-26%)




イ  専用サービスの時間利用

 現在、専用サービスは終日利用が基本となっているが、個人利用が多いプ
ロバイダの場合、インターネットのトラフィックは夜間が多く、また、夜間
は公衆網(電話)の中継回線に余裕があるため、これを夜間に限って専用回
線として活用すれば、現行の専用サービスに比べ低廉な料金設定も可能であ
る。したがって、公衆網(電話網)を活用した夜間専用の専用サービスの提
供が望まれる。





ウ   国際衛星専用サービス

 現在、国際専用回線等の国際回線の多くが海底ケーブルを経由して設定さ
れており、衛星回線は海底ケーブル回線に比べ余裕が生まれている。他方、
衛星回線に不可避であるタイムラグも、リアルタイムのアプリケーションを
除けばインターネット等のデータ伝送サービスでは利用者に許容される面が
あることから、衛星回線の有効利用を図り低廉な国際専用回線を提供するた
め、国際専用回線において衛星専用サービスを提供することが望まれる。
 なお、インターネット事業では、日本・米国間の国際専用回線の費用の全
額を日本側プロバイダが負担している。これは日本発のアクセスが米国発の
アクセスに比べ圧倒的に多いこと等によるものであるが、今後は、我が国の
情報発信機能を高め、情報発信のバランスをとることにより、コスト負担の
是正を図ることが必要である。




エ   事業所のユーザへの開放

 専用サービスの回線コストのうち、加入者回線部分のコストはコストの大
きな部分を占めている(注)。また、第一種電気通信事業者のプロバイダに対
する回線の提供遅延は、主にプロバイダのオフィスまでの加入者回線の設置
に時間を要していることによるものである。
 このため、プロバイダにおけるコスト低減や機動的な回線設定を可能とす
るため、第一種電気通信事業者は、自社の事業所をプロバイダ等のユーザに
開放して、プロバイダがルータ、TDM等が設置できるようにするとともに、
ISDN、高速デジタル専用サービス等を事業所内に終端するサービスの提
供が望まれる。

(注) 例えば、東京・大阪間で専用サービスを利用する場
  合、料金のうち加入者回線をはじめとする地域網(接
  続回線)の料金が約40%を占めている(長距離系N
  CCを利用する場合)。




b. アクセスサービスにおける均一料金の設定

 上記(2)のとおり、現状ではプロバイダのアクセスポイントが主に都市部に偏
在しているため、都市部と地方との間で利用できるプロバイダ数に格差が生じ
ている。このため、インターネットへのアクセスにおける地域間格差を解消す
るため、距離区分のない均一料金によるアクセスサービスの提供が望まれる。
 この点に関し、NTTが提供を計画しているオープンコンピュータネット
ワーク(OCN)や長距離系NCCによる距離区分のない全国均一料金の下で
プロバイダへのアクセスサービスを提供する動き(注)が出てきており、注目さ
れる。
(注) アクセスチャージが都道府県内均一コストであるこ
  とや、基幹回線にフレームリレー網等を活用すること
  で距離対応コストの縮小が可能であること等に着目し
  たもの。




c. 公正有効競争条件の整備

 インターネットの利用が急増する中で、従来、第二種電気通信事業者が提供
してきたインターネット接続サービスを第一種電気通信事業者自らが提供する
動きが現れており、NTTでは平成9年からオープンコンピュータネットワー
ク(OCN)の提供を計画している。
 OCNの提供により、第二種電気通信事業者ではOCNを自社へのアクセス
回線として用いる場合や自社のネットワークの一部として用いる場合が想定さ
れる反面、OCNにより自社のネットワークがバイパスされるなど自社と競合
する場合があるなど、OCNはインターネットサービス市場に大きな影響を及
ぼすものと考えられる。
 また、NTTの地域網に依存せざるを得ないNTT以外の第一種・第二種電
気通信事業者が同様のサービスを提供する上で、OCNの提供形態如何によっ
ては、公正有効競争条件が確保されない可能性もある。即ち、ネットワーク機
能が十分にアンバンドル化され、適切な接続料金によって提供されない場合に
は、他の電気通信事業者との公正有効競争条件が確保されず、サービスの多様
化・高度化が阻害されるおそれもある。こうしたことから、OCNについては、
そのネットワーク機能や設備が十分にアンバンドル化された上、公正な条件で
他の電気通信事業者に提供されることが必要である。
 したがって、今後、行政において、関係者の意見を聴取する等して、上記措
置を含め、公正有効競争条件の整備を図ることが必要である。




d. プロバイダにおける情報開示

 インターネット接続サービス等のデータ伝送サービスは、サービス品質が事
業者によって大きく異なり、料金とサービス品質はいわばトレードオフの関係
に立っている。利用者が多様なサービス・多様な料金を選択できることは望ま
しいことではあるが、その前提として、サービス品質に関し利用者に対する十
分な情報開示が行われることが必要である。
 現状では、必ずしも十分な情報開示が行われず、利用者においてもサービス
品質について十分な認識のないまま契約が行われる事例もみられることから、
プロバイダはサービス提供に際して、加入者数、アクセスポート数やバック
ボーンの容量等のネットワーク情報に関する情報を十分に開示することが必要
である。




e. 技術開発の推進

 インターネットは近年急速に発展しているが、一方において即時性の確保を
容易にする伝送技術や暗号・認証技術といったセキュリティ技術の確立等、今
後、解決すべき課題も多い。これらの技術開発は、多くの利用者がその利益を
享受し、インターネット自体の利便性を高めるものであることから、国が積極
的に支援する中で、その開発を推進することが必要であり、また、これにより
利用者数の拡大を通じて料金の低廉化にも資することが期待される。














2 マルチメディア関連システム及びパソコン等情報通信端末機器
 の法定耐用年数の適正化

(1) 現状

 我が国の法人税における減価償却は、法定耐用年数主義が採られており、資産
の種類等に応じて定められている。具体的には、「減価償却資産の耐用年数等に
関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)において、個々の減価償却資産に
ついて耐用年数が定められている。
 情報通信端末機器関係では、パソコンを含む電子計算機が6年、ファクシミリ
が5年となっている。また、「電話設備その他の通信機器」のうち、デジタル構
内交換設備及びデジタルボタン電話設備が6年となっており、それ以外の機器は
一律10年となっている。これらの耐用年数は、標準的な仕様や状況を前提とし
た耐用年数であるが、実際に法人が有する減価償却資産は多様化しており、その
使用可能年数も社会経済環境により変化するものと考えられる。
  情報通信端末機器関係では、昭和63年度に、デジタル構内交換設備及びデジ
タルボタン電話設備が10年から6年に見直しがされて以降、耐用年数について
見直しが行われていない現状にある。


(2) 提言

 近年、情報通信分野における技術革新が目覚ましく進展しており、情報通信
サービスが多様化・高度化し、情報通信端末機器の開発・高機能化サイクルも短
くなってきている。そのような変化の中で、高度なサービスを利用しようとする
ユーザ側の情報通信システムや情報通信端末機器の陳腐化は著しく、高度情報通
信社会の進展にともない、情報通信の利用が今後ますます重要となっていくこと
から、法定耐用年数より短い期間で、関連機器を更改する事態も生じている。
 特に、情報通信のマルチメディア化が進展している状況においては、新たな
サービスが次々に開発・提供され、ユーザ側では、それを利用するために情報通
信システムやパソコン等の端末機器を更改する頻度が、これまで以上に増大する
ことは避けられず、例えば、インターネットのバックボーンを構成するサーバや
ルータ等の機器では既に1年程度で更改している事例も多く見られるなど、法定
耐用年数と実態との乖離がますます拡大するものと考えられる。
 情報通信の高度化やマルチメディア化が今後ますます進展していく中にあって
は、現行の法定耐用年数では、ユーザのシステムや端末機器を更改しようとする
インセンティブを弱めることとなり、あるいは有税償却が恒常化するおそれがあ
り、ユーザにおける情報通信利用環境の高度化を阻害することにもなりかねない
ことから、最近、急速に普及しているパソコンを中心にマルチメディア関連シス
テムや端末機器の法定耐用年数を実態にあわせて見直すことが必要である。